20 駄王廃位計画
まだ戦いません
「おい、駄王!お前ちょっと顔色悪くね?」
「おぉ、ゆうしゃよ、ちょっと先週ぐらいから色々とキておってな。昨日も便所でキバっておったら…(お伝え出来ない内容です)…なのじゃよ!」
「王よ、一度シャーマン辺りに見ていただいたほうが良いのでは?呪いの類をかけられているやも知れませぬぞ!」
何だシャーマンって、医者に見せろ医者に!
どうせ飲みすぎか何かだろう、しばらく酒断ちしておけば元に戻るんじゃないかとも思うが、万が一もある。この扱い易い王を今失うのはちょっと痛い。次の王には索敵に反応するあの王女様がなる可能性が高いからな。
「ところで駄王、今いくつなの?歳。」
「わしか、わしは45歳であるぞ!」
「45歳!?嘘だろ?何でそんな真っ白なんだよ?シワシワだし、70歳ぐらいにしか見えないのだが?」
「おぉ、ゆうしゃよ、髭とかは脱色しておるのじゃよ。この方が王っぽいであろう。でっぷり腹のおっさん暗君タイプと迷ったのじゃが、わしはこちらのタイプの王になることを選択したのじゃよ。」
別に国王の容姿の類型とかどうでも良いんですが…
なるほど白髪に白髭、そして酒の飲みすぎと葉巻の吸いすぎであのような見た目になってしまったということか。
しかしどう考えても45歳には見えないわ。酒の影響はデカそうだな、俺も気をつけよう。
「で、今日俺をここに呼んだのは何の用があったんだ?」
「うむ、ん~…何じゃったかの?最近物忘れが激しくての。済まぬ、今日は特に何でもないということにしておいてくれぬか?」
「だから45歳じゃなかったのかよ!」
※※※
「ただいま~」
「あ、お帰りなさい勇者様、シルビアさんが来ていますよ。」
「シルビアさんが?どうしたんだろう。」
屋敷に入るとシルビアさんが立っていた。またマーサが全裸土下座をしている。
足元に転がっていたのはボロ雑巾かと思ったらルビアであった。
「どうもシルビアさん、今日は如何されました?」
「あら勇者様、ええ、ちょっとね、この間の魔将と戦ったときにこの2人がエッチな本を読んでサボっていたと聞いたものだから。」
「なるほど、そういうことでしたか。それでしたらついでに落とし穴を掘って遊んでいたのが2人、それから練習中におもらししていたのが1人居ます。そっちもお願いします。」
走って逃げた3人があっさり捕まり、連行されていく。カレンより素早く、リリィよりも力が強い。セラの魔法など全く効かない、強い。というか人間ではない。
その間に回復魔法で復活していたルビアに聞く。
「なぁ、シルビアさんて何であんなに強いんだ?」
「あれ?ご主人様知らなかったのですか?お母さんはゴリラスレイヤーなんですよ。」
「また意味のわからない…何それ?完全に密猟者か何かだろ?」
「いえいえ、ゴリラといってもゴリラ型の魔物です、学名はゴリラ・ゴリラ・ゴリラ=ゴリラゴリラ、非常に強力な魔物です。それを素手で倒した者のみが、ゴリラスレイヤーの称号を獲得します。」
普通のゴリラよりもゴリラが2つ増えている、相当強いゴリラなのであろう。それを素手で倒したのであればあの強さも納得いく。あの強さはおそらくリリィのドラゴン形態と戦ってもかなり健闘するであろう。
ボッコボコになった3人を引き摺って戻ってくるシルビアさん、そうだ駄王のこともちょっと相談してみよう。何かわかるかも知れない。
「…ということなんです。」
「へぇ、あの国王が体調不良ね…昔はかなりブイブイ言わせていたのに、やっぱり年には勝てないのかしら?」
「シルビアさんは昔の駄王をご存知なんですか?」
「ええ、一応同い年なのよ。」
同い年、まさかの同い年!外見に差がありすぎる、嘘みたいな話だ…
「昔の国王はかなりヤンチャでね、私も一時期所属していた最大勢力の馬車族があったんだけど、そこのヘッドだったわ。」
「馬車族?」
「ええ、改造した荷馬車で夜中に走り回るの、蛇行しながら。」
暴走族じゃねえか!どうして次期国王が暴走族のヘッドなんかやってんだよ!
全く、どうなってんだこの国は。
しかもシルビアさんもそんなことやっていたとは…
「そうそう、それならこの薬を使うと良いわ。かなり強力だから気をつけて使うように言ってあげてね。」
そう言って白い粉薬を手渡してくるシルビアさん。万能薬らしいが、今の話を聞いている限りだと合法なものかどうか怪しくなってくる。
コソコソ隠しながら王宮に持っていくこととしよう。
用を済ませたシルビアさんは帰っていった。危険なゴリラスレイヤーのご機嫌を損ねないよう、注意して生活したい。さもなくばそこに転がっている3人のようにされてしまうであろう。
「で、勇者様、王様は何の用だったのかしら?」
いつの間にか復活したセラが聞いてくる。
「それがさ、忘れたとか言い出しやがって!結局そのまま帰ってきたんだ。」
「それってあんたがいつも殴ったり蹴ったりしているからダメになっちゃったんじゃないの?」
「勇者様のせいね、きっとそうに違いないわ。」
「ご主人様、さすがに今回は私も擁護できませんよ…」
マーサ、セラ、そしてルビアまでもが俺のせいにしてくる、酷い連中だ。特に何だマーサは?ペットの分際でその口の利き方は?
「3人共、ちょっと来てくれ。」
半自動お尻叩機のハンドルを回しながら考える。もしかすると本当に俺のせいなのか?
いや、違う。何かもっとこう、大きな陰謀が隠れているはずだ。
やはり以前言っていた第一王女のクーデター計画と関係があるかも知れない。
明日、王宮にシルビアさんから貰った薬を届けるついでに、そのことについてもちょっと聞いてみよう。
王宮の方は何か新しい情報を掴んでいるかも知れない。
一応、心配になったので他の3人にも聞いてみる。
「なあ、駄王の物忘れが激しいのって…」
「ご主人様のせいです、絶対に。」
「私もそう思いますよ、ご主人様がいつも殴ってるの、テラスから見ていました。」
「あの…勇者様、ここは一度謝っておいた方が…」
「よし、セラ、ルビア、マーサはもう降りて良いぞ!次の3人と交代だ!」
…久々にミラがおもらしした。
※※※
「駄王、この薬を使ってみろ。良くなるかも知れない。」
「おぉ、ゆうしゃよ、では早速…」
いや待て、何故紙を丸めて鼻から吸い込もうとするのだ?そういう『クスリ』ではない、普通に水を使って口から飲むんだよ、ほら誰か手伝ってあげないのか?
結局、王をリスペクトしてパンツ一丁で生活している財務大臣が手伝って薬を飲ませた。
王は、心なしかシャキッとしたように感じる。即効性の薬のようだ。とても合法とは思えないのだが…
「おぉ、ゆうしゃよ、思い出したぞ!昨日のことなんじゃが、やはり第一王女が…」
聞こうと思っていたら向こうから話し出した。昨日の件は第一王女のクーデターに関する話だったようだ。もちろん本人は今ここには居ない。
どうも、第一王女は兵を挙げた大クーデターではなく、卑劣な手段で国王を廃位に追い込み、自分が王座に就こうと計画している、というところまでわかってきたそうである。
第一王女のの計画は、やる可能性がある、というレベルのものではなく、確実に近いうちに仕掛けてくるであろう、というラインまで来ているそうだ。
その証拠に、第一王女宛に正体不明の荷物が届くことが多くなってきたらしい。
送り状には『薬品』と書いてあるのが大半だそうだ。
いや、というかそれもう仕掛けてきてないか?どうして誰も国王の体調が悪いのとこの件とを繋げようと思わないのだ?ちょっと調べればわかりそうなものなんだが?
どうも、この世界の調査能力は酷く低レベルであるようだ。
やはり異世界忍者を召喚して床下や天井裏から調べてもらった方が良い気がするのだが…
「うん、とにかくわかった。良いか?駄王の体調不良とこのクーデターの件は繋がる可能性が高いと俺は見ている。その辺りを関連付けていちど良く調べ直してみてくれ。ただし、その情報に囚われすぎて失敗するなよ。」
「なんと、さすがは異世界勇者殿といったところか!このような仮説を立てることができるとは!」
総務大臣が露骨に驚く、ヤバイだろお前ら、どうやってここまで国を運営してきたというのだ?それともこの世界の人間は大体このレベルなのか?
ん?…ウチのパーティーメンバーがあんななのもこの世界の知識水準によるものなのかも知れない。
済まないな、みんな、馬鹿馬鹿言って本当に済まない。
「ああ、とにかく頼むぞ、俺もパーティーメンバーにいつでも動くことができるように伝えておくから。じゃ、またな。」
「あと駄王、しばらくは酒はナシにしろよ!」
※※※
「いいか?今から説明することはこのパーティーメンバーだけの内緒話だ。わかるな?、絶対に誰にも言ってはいけない。もちろん、知り合いにもだ!」
「ご主人様、もし誰かに言ってしまったらどうなるんですか?」
カレンが不思議そうに聞いてくる。リリィも首をかしげている。おそらくこの子達は内緒話を他人に漏らすとどのような目に遭うか、知らないのであろう。
無言でお尻叩機を指差す、すると抱き合って震え上がる2人。
よし、これで一番危険度の高い狼と竜を無力化することができた。
「他の皆もわかっているな!これから話すことは絶対に秘密だ!」
念を押し捲ったうえで、先程のことを話す。第一王女の姿を見たことがあるのは俺と、たまに王の間まで一緒に来るセラだけ。他のメンバーには誰のことだかわからないようだ。
だがそれはこれまでも同じ、魔将がどんな奴なのか、戦ってみるまでほとんどわかっていなかった。
今回の敵に関しても、最後の最後、戦闘になった際にはしっかりと対応することが出来るであろう。
「わかりました!ではその第一王女という人を見つけてやっつければ良いんですね!」
カレンがシュッシュッとシャドウボクシングのような動きを始める。何この可愛い生き物!
だが違う、そうではない!今回はもっと頭を使わなくてはならない。ここが、このメンバーにとって難しいところだ。
「カレン、今回はまだ戦わない。もうちょっと準備をしなくてはならないんだ。もし見つけても、飛び掛ったりしてはダメだからな!」
「え?そうなんですか?いつ戦えるんですか?早くしたいです!」
もう一度、無言でお尻叩機を指差す。
お尻を押さえて飛び上がるカレンも可愛い。
「いいか、皆絶対に手を出すなよ。俺が言うまで大人しくしていろよ!」
「なによぉ、つまんないの~っ!」
「セラ、マーサが調子に乗っているようだ、アレをやってくれ!」
「わかったわ!」
セラのおっぱい背負い投げが炸裂した、おっぱいを掴んで投げ飛ばす大技だ。おっぱいが大きい相手ほど技に掛かり易い。
貧乳セラの恨みがこもった超必殺技である。
「ぎゅぅぅぅ…」
目を回すマーサ、悪は滅びた。
「よし、マーサなんか放っておいて、まずは敵の情報を共有しよう。」
ここで俺が伝えた第一王女の情報は以下である。
・名前はマリエル
・可愛い
・槍を使って多少は戦うことができる
・やはり頭は良くない
・悪いことしようとしている
「何か質問がある者は挙手!…はい、セラメンバー、どうぞ。」
「勇者様的には第一王女と私、どっちが可愛い?」
「ミラ、やれ!」
「冗談よじょうだ…いたぁぁーっ!」
「他には?…はい、ルビアメンバー。」
「あの…ちょっと他の妄想をしていて全然聞いていませんでした。」
「貴様ぁぁっ!」
もう…ダメかもねこの人たち…
続きは俺、ミラ、カレン、リリィの4人で話す。
三馬鹿は庭で精霊様の水責めを受けている。精霊様が楽しそうでなによりである。
「どうだ、大体良いか?」
「ご主人様、もう飽きてきました!」
「私も早く遊びたいです!」
水責めが5人に増え、俺とミラだけが取り残される。
「勇者様、その方の容疑が固まり、実際に動き始めるのはどのぐらい後になりそうですか?」
「そうだな、さっきヒントを与えておいたのだが、なにせ低脳な調査班みたいだ。1週間以上かかるかもしれない。そこから準備して、となるとさらにかもな。」
「そうなると皆が暴走しないようにするのが大変そうですね…」
「ああ、俺達2人でしっかり見張っておく必要がありそうだ。もちろん、ミラも大丈夫だよな?」
「私は…どうでしょうか?何とも言えませんね。」
そう言って笑いかけてくるミラ、大丈夫だろう、少なくともこのメンバーの中では一番常識がある。たまに天然でセラを怒らせていたりするが、安心して良いはずだ。
「よし、じゃあこの辺で切上げて、水責め組みが風邪を引く前に風呂にしよう。今日の夕飯は適当に買ってきたもので済ませようか。」
「わかりました、準備したら一旦ここに戻ってきますね。」
「了解待っとくよ。」
「お~い!精霊様!そろそろそいつら良いにしてあげて~!」
「え~っ!じゃああと30分ね!」
長いわ!まぁあいつら最初から素っ裸なわけだし、既に十分洗ってあるのだから俺とミラだけ先に入っていれば良いか。
あ、ミラが戻ってきた。
タオル無し、全裸の中の全裸である。
「み…ミラ、精霊様が後30分って言ってるんだが…どうする?」
「そうですね、先に入ってしまうのも悪いですから、少しここで待たせてもらえますか?」
「しかしお前パンツ履いてないだろうが…」
「ん?パンツならさっきから履いていませんよ。昨日2枚使ってしまったので、乾いているのが無くて。最近お天気悪いですから…」
どういうことだ、貧乏なのはわかっていたがそれは昔の話では?
今は勇者パーティーなんだから、せめてしっかりした格好をして頂きたいのだが…
まぁ、博物館に飾られるかもしれないと聞いたうえでワゴンセールの剣を買おうとする奴だ。
貧乏性というのはそう簡単に抜けるものじゃないんだろう。
「ミラ、今度買い物に行ったときには追加の下着も必ず買え、わかったな!あと、今はこれで隠せ。」
「わかりました、買いましょう。あ、タオルありがとうございます…あれ、おかしいな?」
「どうした?」
「このタオル、お姉ちゃんが使っていたときには全部隠れていたんですが…私が使うとほら、見て下さい。」
お尻がはみ出していた。これはヤバイ、普通に全裸よりも扇情的である。
あ、そうだ…
「ミラ、後でセラにそのことを教えてあげなさい。何か解決策が見つかるかも知れない。」
「わかりました、そうしてみます。」
何の疑いも持たないのか…完全にキレられるやつである。
この後、ミラの生おっぱいは風呂で大変なことになった。
眼福である。
※※※
翌日から、槍を使うという第一王女との戦闘に備えた訓練を始める。
カレンとマーサは槍を避けて潜り込む、ミラは盾で受け止める。セラが魔法で攻撃する、といった具合だ。今はマーサが第一王女役で長い棒を振り回し、他のメンバーが攻撃を繰り返している。
長い棒はもちろん聖棒ではない。魔族であるマーサがアレを持つと大変なことになる。
何やら電撃のようなものが走り、大ダメージを受けるのだ。
リリィと俺は万が一のサポート役。といっても実際にサポートするのはリリィである。
俺はその上に乗って偉そうに指示を出す簡単なお仕事である。
とにかく今は2人ともやることがないので見学。
また、訓練では回復の必要が無いのでルビアもやることがない。
今は俺の椅子になっている。
「おいこらセラ、サボるな!」
「ちょっと、何もやってないくせに何よその態度は!」
「黙れ、外周一周走らすぞコラ!」
俺は時折、椅子になっているルビアの尻をバシバシ叩きながら檄を飛ばしている。
ちなみにこの屋敷の外周一周は大したことない。
「リリィ、そろそろ王宮に行こうか。今日の情報収集をしておこう。」
「は~い!」
リリィに乗って王宮に向かう。駄王は今日も調子が悪そうだ。
心配そうなのが2割、残りの8割は早く死ねオーラを出していた。
支持率20%である。辞任ですよ辞任。
今日は特に進展がないらしい。無駄足だったので、腹いせに駄王を殴ろうと思ったが、今殴ると本当にこれでさようならになってしまうのでやめておいた。誠に慈悲深い措置である。
「リリィ、帰りにお買い物をして帰ろう。ミラも大変だから、しばらくは出来合いのもので我慢するぞ。」
「じゃあ、適当なところに降りますね。」
人間形態に戻ったリリィと一緒に町を歩く。
王都は結構人が多いな…人ごみは好きではない、早く買い物を済ませて帰りたい。
途中、井戸の周りに酔っ払いが集合してなにやら騒いでいた。
まだ昼間なんだが…
ちょっと会話の内容を聞くと、井戸水が全て酒に変わったと言っている。徐々に薄くなっているので早い者勝ちだと、必死に飲んでいるところらしい。
何を馬鹿なことを言っているのだろうか?
「いいかリリィ、ああいう大人にだけはなってはいけないよ。」
「いえ、間違いなく大丈夫です。」
ですよね。さすがにあそこまではね…
さっさと買い物をしよう。まずはリリィがゴールドパスを持っている串焼き肉チェーンに寄る。
その後はお惣菜系を中心に買いあさる。マーサ用の野菜天ぷらも忘れない。
最後にパンツが足りないミラのために女性用下着の店に行く、もちろん俺は中に入らず、リリィに買ってきて貰った。
こういう店で男がどのような行動をすべきなのかは永遠の謎である。
「ただいま、飯を買ってきた。あとほら、ミラのパンツも。」
「あら勇者様!ミラにパンツをプレゼントするなんて、いやらしいわね~。」
「ああ、ミラにパンツをプレゼントする代わりにお前のパンツを奪いに来たのだ。」
黙って脱いで渡してきやがった!
驚愕する俺に対し、勝ち誇った表情のセラ、今回は敗北のようだ。
パンツは受け取っておいた、ありがとう。
しかし、今日の酔っ払い共は馬鹿だったな、まさか井戸から酒が出るなんて、妄想も良いとこだ…
次ぐらい、そろそろ戦うかもです




