201 地下施設強襲
「ご主人様、あそこにおじさん達が寝かされています、もうルビアちゃんが治療したみたいですよ」
「リリィ、全員大丈夫そうな感じか?」
「何か喋ってるんでたぶん大丈夫です」
「なら良かった、アイリスは? コリンや他の3人は?」
「その後ろに座ってますね、怪我はしてないみたい」
とりあえず全員無事なようだ、人的被害は無かった、いやあったものの回復魔法でどうにかなったというところか。
そうなると問題は店舗の……跡形もなくなっていますね……
というか移設したプレハブ小屋まで粉砕されているじゃないか、あれは一応王国貴族様である俺の城なんだぞ、なんて不敬なことをしやがる犯人だ!
まずはおっさん達のところへ辿り着き、全員の無事を確認する。
攻撃を受けたのはここに居る5人だけで、後ろに立っているコリン以下の4人はすぐに逃がしたという。
「いやぁ~、手も足も出ませんでしたよ、というか手がないんですがね」
「あまり無理はしないで下さい、あと義足が落ちていたんですが、誰のですか?」
「あ、それは俺のッス、足のサイズが27.5なんで」
ここに居る5人の兵士は俺の領軍ということになっている。
だがもう戦えなくなった兵士を王国側が再雇用として送って寄越しただけであり、全員手だの脚だのどこかしらやられているのが現状である。
襲撃者が何人居たかは知らないが、どう足掻いても勝てる見込みはないであろう。
そもそもリーダーのおっさんがスライムに負けて左腕を失う程度の弱さだからな……
おっさん兵達にはしばらく休んで貰うことにし、ここからは被害を免れたコリン達から話を聞くこととした。
ちなみにアイリスはボーっとしていたため良くわからないそうだ。
「で、犯人は複数か? それとも1人か?」
「1人だったわ、私の顔より大きなハンマーを持った男ね、なぜか上半身裸だったわ」
またハンマー男か、今朝方氷屋を襲撃したのと同じタイプ奴じゃないか。
クローン技術でハンマー男を量産していたりしないよな……
まぁ、いまその最悪の事態を考えるのはよそう、無限ハンマー男との戦いなど鬱にしかならない。
「それで、そのハンマー男はどっちへ逃げたんだ?」
「消えたの、突然スッて居なくなって……」
ここも転移装置か、思ったよりも厄介だな。
それを使ってしまえば戦闘をこなせる者が居ないタイミングを狙って攻撃を仕掛けることが出来る、逆に迎撃する俺達には心休まる暇などなくなってしまうではないか。
まぁ、現時点で店もプレハブ城(上階部分)も滅茶苦茶なのだ、これ以上何かをしてくる可能性は低いのであるが、それでも今度は従業員を襲うなんてことも考えられる。
どうしようか、しばらく休業にして様子を見るべきなのか?
敵にやられたからこちらが休まなくてはならないというのは実に癪なのだが、そもそも店舗自体滅茶苦茶に破壊され今すぐに事業を再開出来ないのである。
ここはやはりしばらくの休業だな、残念だが……
コリン達にそのことを伝え、明日からしばらくは屋敷でゆっくりして良いこととする。
4人共喜んで良いのか悪いのか、複雑な表情をしていた。
ちなみにおっさん達にも1週間程度は家で休んでおいてくれと頼んでおく。
どうせやることも無く酒を飲んでいる訳だが、大事を取って休んでおいた方が無難との判断である。
「とにかく全員無事で良かった、今日はもう引き上げることとしよう」
「そうね、捕まえて来た氷店②の店長も拷問しないとだし」
おっさん達が各々の家に帰っていくのを見届け、馬を連れているシルビアさん以外の残った全員を馬車に押し込んで屋敷へと帰った……
※※※
「さて、この女はまだ目を覚まさないのか? ミラ、ちょっと強く叩きすぎだろ」
「仕方が無いですよ、切る以外はあまりやらないんですから」
「ちがいねぇ、ルビア、ちょっと治療してやってくれ、このままだと死ぬかも知れん」
「わかりました、では2階に運んでからにしましょう」
馬車の床に転がしてあった氷店②の店長を運び出し、2階のテラスに寝かせる。
ずっと土足エリアに置いてあったためまだ屋敷の中に入れるのは憚られる、ちょっと洗ってからにしよう。
ルビアの回復魔法によって傷は全て完治したものの、気が付くのはまだまだ先になりそうだ。
先に夕飯にしてしまおう、ついでに風呂へも入っておこう。
いつも通りミラとアイリスが食事の準備をし、コリン達も含めた全員で夕食を取る。
その後風呂に入ってしばらく待つと、ようやくテラスに寝かせてあった女が目を覚ます……
「うぅん……えっと、ここは? 確か女の子に剣で殴られて……それからどうしたんだっけ?」
「おはよう店長さん、ここは勇者ハウス、今からお前を拷問するから」
「え? え? どうしてですか?」
「お前が俺達の敵だからだよ、ちなみに二度と社会復帰できると思うなよ、給料が良いってだけであんな店で働いていたことを後悔するんだな!」
「うぅ……ごめんなさい……」
とりあえず風呂で洗って綺麗にしよう、ルビアとジェシカに頼んで服を脱がさせて下に連れて行き、そのまま風呂から汲んだ湯で全身を洗い流す。
風邪を引くと困るからちょっとだけ湯船にも浸からせてやった、慈悲深い措置に感謝して欲しいところだ。
「勇者様、あの子に着せるのはこのボロで良いですよね、どうせ鞭で打ったら裂けるんだし」
「おいミラ、それにしてもボロすぎじゃないか?」
「ええ、一度雑巾にしたのを解体して服に戻しましたから」
「いや、それは風呂に入らせた意味がなくなるだろ、別のにしてやってくれ……」
渋々奴隷用の服(新品)を出して持って来るミラ、タダ同然のものなんだからもっと惜しみなく使って頂きたい。
そうこうしているうちに風呂での洗浄が終わったようだ。
素っ裸のまま連れられて来る店長の女、恐怖でガタガタ震えているようだが、それは自業自得というやつである。
「じゃあこの服を着て、そしたら床にうつ伏せになるんだ」
「……あの、知っていることは全てお話しますから、どうか拷問だけはご勘弁を」
「ダメだな、勇者ハウスルールでは先に引っ叩いてから質問するんだ、あきらめろ」
「ひぃぃぃ……」
諦めたのか、それともここで抵抗するとさらに酷い目に遭うということを察したのか、素直に服を着て床に伏せる女店長、鞭を持った精霊様がその横に立つ。
「いくわよ、覚悟しなさいっ!」
「いったぁぁぁぃ! がぎゃっ! あうっ! どうかお許しを……」
きっちり100回叩いたところで精霊様の手が止まる、ここからは質問タイムだ。
「まずさ、あの店にあった氷はどこからどうやって持って来たんだ?」
「北の雪山から、協賛してくれる会社の所有する変な装置で持って来たそうです」
「その装置は見たことがあるのか?」
「いいえ、でも本体は王都にあるその会社の施設だって話は耳にしました」
なんと、その転移装置とそれを所有する会社、つまりフェイクティップス社の施設が王都内にあるのか。
これは耳寄りな情報だ……
「で、その会社の施設はどこにあるんだ?」
「詳しく走りませんが、店に居た2人が編集している雑誌の裏に書いてある住所みたいです」
「どこでそんな話を聞いたんだ?」
「あの2人が話しているのを聞きました、直接質問したわけではないんですが、地下がどうとか、あと5号機だって話してましたよ」
雑誌の裏にある住所とはこの間マフィアのオジキ達と遭遇したあの編集部のことを言っているに違いない。
オジキはその編集部の住所がコロコロ変わると言っていたが、王都の中というのはあそこ以外に考えられないからな。
しかし編集部は3階だけであったはず、まさか地下にそのような施設を隠し持っているとは……しかも5号機って、1号機はたぶん共和国のどこかに隠してあるに違いない。
しかし関係者を拷問しても何も聞き出せなかった転移装置やアジトの情報だが、うっかり事情を知らずに雇われていた人間の前で話したのが運の尽きだったようだな。
これで王都を拠点にしているフェイクティップス社の連中は芋づる式に一網打尽、年貢の納め時だ。
「勇者様、明日早速その場所に襲撃を掛けてみない?」
「そうだな、その前にあの雑誌記者や紅茶店のオーナーを公開拷問処刑にするのを中止させないと」
もしあの2人に自白剤が投与され、それによって何か情報を吐くことがあったとしたら、そのことを知った関係者は直ちに王都を脱出するであろう。
転移装置を押さえることが出来たとしても、中に居るクズ共を捉えることが出来なくては意味がない。
明日朝一番で王宮へ行ってこのことを伝えるのだ、公開拷問処刑は俺達がその施設に突入した後やれば良い。
「あのぉ~、質問に答えたんで、そろそろ終わりにして頂けませんか?」
「うむ、この質問に関してはお終いだ、次に移る前にもう一度鞭を入れてやろう」
「さぁ、歯を食い縛りなさいっ!」
「いぎぃぃぃっ! あぎゃっ!」
さらに100回鞭を振り下ろす精霊様、一旦手を止め、次の質問に移行する。
「で、あの店の目的は何だ? どうしてパクりの店なんか作ったのか知っているか?」
「それも雇われていただけなのでわかりませんが、今はずっと赤字でも良いみたいな話を耳にしたことがあります」
またその感じか、紅茶店で捕らえた3人と全く同じ供述である。
ここだけはいくら考えても答えが見つかりそうにないな……
「よし、他に何か質問がある者は……アイリス、何かあるのか?」
「えっと、今日お土産で貰ったジャムみたいなのなんですが、それの作り方を聞きたいな~と」
「え? あれもどこかから送られて来たものなんで知りませんが……」
「ちなみにアイリス、それだけなのか?」
「はぁ、知らないということでしたら残念でした、ちょっと自分で頑張ってみようかな」
「まぁ良いや、ルビア、その女を治療してやれ、縛って地下牢にでも放り込んでおくんだ、それとアイリス、ちょっと来なさい」
最後の最後でくだらない質問をしたアイリスにはお仕置きである。
裸エプロンにして脅し用に持って来てあった拷問器具の片付けをさせた。
何かを持ち上げようとしゃがむ度に尻がぴょこぴょこして可愛らしい。
「さて、明日は朝から王宮、その後は今聞いた地下施設を襲撃だ、さっさと寝るぞ!」
今度こそ連中の尻尾を掴んだはずだ、明日、フェイクティップス社の主要な構成員を捕まえることが出来ると良いのだが……
※※※
翌日の早朝、王の間に向かうと既に総務大臣はそこに居た……年寄りだから朝が早いのだ、もちろん駄王は居ない。
「つまり勇者よ、一度行ってスカだと思っていた建物の地下が怪しいということなのじゃな?」
「そうだ、というか間違いない、鉄貨1枚賭けても良い」
「えらく安いベットじゃが……とにかく今日の公開拷問処刑は少し先延ばしにしようぞ」
「うむ、午後からやってくれれば構わないさ、それと、襲撃に際して兵士を何人か、いや何十人か貸してくれないか?」
「そういうことであれば筋肉団と一緒に行くが良い、ゴンザレス達も午前中に王宮へ来る予定じゃったからの」
そのまま1時間待機したところでやって来るゴンザレス。
状況を説明すると、すぐに口笛を吹く……天井、床下、さらには壁に穴を開けて十数名の筋肉団員が登場した。
この連中は何だ? 壁の中に塗り込められていたとしか思えない奴も居るのだが……
「おう勇者殿、早速行こうではないか!」
「ああ、外で仲間が待っている、ターゲットはすぐ近くだから歩いて行くぞ」
王宮を出て目的地まで歩く、前回は気が付かなかったが、建物に入ってすぐのところに地下へ降りる階段があった。
これは意図的に探さないと見つからない位置だ。
益々何かがある可能性が高くなってきたな。
「見て下さい勇者様、この扉……」
階段を降りた先にあったかなり大きな扉、その上に『フェイクティップス社王都は移送センター』と書かれているのをマリエルが見つけた。
ここが当たりだ、全員武器を抜き、扉破壊部隊のカレンとマーサが先頭、その後ろにバックアップ用のゴンザレスが控える。
「2人共、1、2の3で突っ込むのだよ、良いか、1……2の……」
「うりゃぁぁぁっ!」
「おう、まだ2だったんだが、まぁ良い、突撃だ!」
いつものことではあるが、こういう緊迫した状況下でカレンに3カウント待てというのは非常に難しい。
ちなみに尻尾の毛の逆立ち具合を見ると待てそうかどうかは用意に判断出来る。
ただ最近は『2』まで待てるようになってきたな、あと少し成長すればいつでも皆と一緒に突撃することが可能になるに違いない。
「おう勇者殿、構成員らしき者が11人、用心棒か警備員か知らんが、戦闘員は20人のようだ」
「わかった、証拠がダメになると困るからな、あまり武器を振り回したり、魔法で攻撃したりはNGだぞ!」
扉の向こうはかなり広く、薄暗い部屋であった。
部屋の真ん中には正体不明の巨大な光る石、おそらくアレが転移装置の本体であろう。
そしてその周囲には構成員らしき人物、さらに武装した連中が扉の近くを守っている様子であった。
武装した用心棒は俺達の突入に一瞬フリーズしたものの、すぐに武器を抜いて飛び掛って来る。
最初に対応したのは俺とマリエル、ここは最も正確に、ターゲット以外への被害を最小限に押さえることが出来る2人で戦い抜くのがベストであろう。
剣を前に出し、突きの姿勢で突撃する用心棒の1人をあの世に送ってやったところで、初めてマリエルの新しい槍が人間の体に触れる……
バンッという凄まじい音を伴い、マリエルに攻撃を仕掛けた用心棒のおっさんが消えた。
いや、消えたのではなく砕け散ったのだ、良く見ると赤い霧がその周囲に漂っている。
あの霧はつい今の今まで用心棒だった何かだ……
「勇者様、これは凄まじい武器ですよ、ほら見て下さい!」
「おいやめろっ! こっちに穂先を向けるんじゃない! 本当に危なっかしい奴だな……」
「お……おい、そこの女! 何だその武器は!?」
「そこの女って、ほらマリエル、お前のことだぞ、というか王女の顔も知らないんじゃ王国、というか負うとの人間じゃなさそうだな」
「王女? どうして王女がこんな所に……」
「あなた達、とりあえずもう降参しなさい、フェイクティップス社の人間ですよね? さもないとっ!」
手近な所に居た用心棒の1人を槍で突き、この世から消滅させるマリエル。
その様子を見た他の用心棒は悉く手を挙げて降参、逃げ出そうとした他の連中も全て筋肉団が取り押さえた。
散々姿を隠してきた連中であったが、いざ突入したらあっという間であった。
捕らえた中で一番えらいと思しきハゲが、どこから情報が漏れたのかなどと喚き散らしている。
だがこれからはこの連中が情報を漏らす番だ、超強力自白剤を投与され、全て喋った後に破裂死するが良い。
「ご主人様、あの光ってる石とか近くの機械を触ってみても良いですか?」
「リリィはダメだ、絶対に余計なことをするからな」
「え~っ、でもちょっとだけ、このボタンにしよっと」
「あっ!」
調子に乗ったリリィが変なボタンを押してしまった、何だか知らんが『取り寄せ』と書かれている……光る石が一際強い輝きを放つ、目の前が真っ白になり、何も見えなくなってしまった。
しばらく待つと光が止む、どうも大魔将の城でエリナが使っている転移アイテムと同じ仕組みのようだ。
で、取り寄せられたものは何だろう?
「ご主人様、お肉です、お肉が出てきましたよ! あとパンと不味そうな草」
「カレンちゃん、レタスは美味しいのよ!」
そう言って転移して来たレタスを口にするマーサ。
どうしてこの状況で出現したものをへいきで食べることが出来るのだ……
「あっ! 見てくれ主殿、この食材が乗っている台、私達が店で使っていた商品受け渡し台と瓜二つだ!」
パンと肉、そしてレタス、あとトマトも送られて来ている。
ということはつまり、これは俺達の店のコピー店一式だ。
すぐに先程文句を垂れていたハゲの胸ぐらを掴み、この件を問い質す。
「おい貴様、この場で死にたくなかったらこれについて簡潔に説明しろ」
「こ……これは我がフェイクティップス社が考案した馬車用ドライブスルー専門店のスターターキットだ、お前らには関係ないっ!」
「ざけんじゃねぇコラ! 俺達の店をパクるつもりだったな?」
「知らん、俺はそんなこと全く知らないんだ! これは本社の意向でほばへっ!」
顔面を死なない程度に殴り、ハゲの気を失わせる。
これ以上喋られると本当にこの場で殺してしまいそうだ。
「勇者様、ちょうど良いからこの一式、全部貰っておきましょ、そうすれば営業を再開出来るわよ」
「だな、じゃあここの連中に装置を使わせて外に転移させようか」
筋肉団員達に取り押さえられていたうちの1人を脅し、転移装置で俺達の店があった場所へスターターキットを転移させる。
これで明日にでも営業再開だ、タイミングが良かったな。
「おう勇者殿、俺達はここに居る連中を全員王宮へ連れて行くが、そっちはどうする?」
「そうだな、捜索は憲兵に任せれば良いし、俺達は一旦屋敷へ帰るよ」
「おう、では何かわかったことがあれば連絡が行くはずだ、それと、午後の公開拷問処刑も見に来るだろう?」
「一応行くよ、ただ食欲がなくなりそうだから昼食を取った後にだがな」
ではまた後で、ということで筋肉団と別れ、王宮に停めてあった馬車で屋敷へ帰る。
地下牢に居るコリン達にも事情を説明し、明日からは通常営業であることを伝えておいた。
昼食の準備中、暇であったため領地の店舗があった場所へ行ってみる。
確かに先程転移させたスターターキットが届いていたが、食材は今日限りしか使えないであろう。
今夜の祝勝会にでも使ってしまおうかな……でも本当に食べても大丈夫なのかはマーサが腹を壊すかどうかで判断しよう……
「勇者様、ミラが手を振っているわよ、昼食の準備が出来たんじゃないかしら?」
「ぽいな、じゃあそろそろ行こうか」
これで新しく営業を開始し、早速危機に陥ったドライブスルー専門店の苦難は去ったはずである。
あとやるべきはフェイクティップス社本体の殲滅だ……




