⑮圧倒的塩対応
今日は拷問とお仕置きしかしません
「いたっ!いたぃっ!きゃ!いった~いっ全部話します、全部話しますからっ!一旦止めてください!」
祭りの翌日、俺達はシルビアさんを家に招き、マーサとマトンの2人を拷問していた。
新たな敵である、物質魔将とやらの情報を聞き出すためだ。
そんなことをされるとは知らずに(言ったのに)昨晩から遊びに来ていたマトンが先に音を上げた。
まだ始めて間もないというのに、大変根性の無い奴である。
「はいマトンちゃん、全部話すならそこから降ろしてあげるわ。嘘を言ったり、誤魔化したりしたらわかっているわね。」
大掛かりな装置からマトンを降ろす。怖かったのだろう、しがみついて離れようとしない。
ちなみに今使っているのは、シルビアさん特製の半自動お尻叩機である。
ハンドルを回すと中の歯車も回り、最終的に木の板がビヨンビヨンなって受刑者のお尻をペンペンする謎の機械だ。
3人一組で処刑できるようになっている。
さっきまで無かったはずだが、どこから持ってきたのだろう?
しかもそのままここに置いて帰るという。
この部屋は応接間のつもりなんだが、来客があったときアレについてどう説明して良いものだろうか?
よし、粗大ゴミの日に出してしまおう。
「ねぇ~、早く再開してよ~!」
「ご主人様、ハンドルを持って回してください。そうすれば動きますから。」
マトンを降ろしている間、残り2つの台座に居た2人が文句を言っている。
マーサと、なぜか拷問される側として参加しているルビアである。
そして2人共常識を超えた変態だ、この程度の拷問ではビクともしない。
「待ちなさい、2人共。この機械は受刑者が3人揃わないと稼動しないの。マトンちゃんの尋問が終わるまでそこでそうしてなさい!終わったら3人で再開よ。」
どういう機械だ?そしてどこから持ってきたのだろう?
マトンの『え?』みたいな顔が可愛い。やっと解放されたと思ったら続きがあるというのだ。徐々に泣きそうになってくる。
「はいじゃあマトンちゃん、敵の情報を話してくれるかな?」
「ハ、ハイぃぃい!全部話しますからもう許してください!許してくださいぃぃっ!」
シルビアさんがマトンから洗いざらい聞いている間、俺達は遊んでいた。
「おい、ミラ、ちょっとこれ乗ってみろよ!」
「イヤですよこんなの、気持ち悪い。大体どこから持ってきたんですか?」
「リリィはどうだ?」
「痛そうだしつまらなそうなのでやめておきます。でもこれどこから持ってきたんでしょうか?」
「カレンは…もう逃げたのか。」
さすが獣人、危機察知能力が高いのであった。
「勇者様?私には聞かないのね?」
「何だ?セラはやってみたいのか?」
「……ちょとだけ。」
「大丈夫よ、セラちゃん!マトンは大騒ぎしていたけどそこまで痛くないわよ。」
セラが興味本位で台座に乗っていると、シルビアさんが寄ってきた。
「ごめん勇者様、忘れてたわ。ハイこれ、ブースター。これで最大出力になるわ。強力だから気をつけてね。」
ブースター?よくわからんが取り付ける。
ハンドルを回すと木の板が強烈にしなり、3人の尻に打ちつけられる。
一人だけシートベルトをしていなかったセラが飛んで行った。
※※※
「ええ、物質魔将はルイジンエンだと、自分で言っているのを聞いたことがあります。」
「類人猿?サルなのか?」
「いえ、なんか大体塩で出来ています。」
ああ、『類人塩』ね…
「それから、魔王軍の皆さんには嫌われていた…というか避けられていたような感じでした。」
「いやな奴だったのか?」
「まぁ…その…いやな奴というかなんというか…」
「うん、はっきりしないな…誤魔化していると判断しよう。シルビアさん、アレを!」
「待ってくださいっ!表現しにくいだけですから。あの方は誰かが話しかけても『別に』とか『あっそ』とかぐらいしか言わないんです。それでみんなに避けられて。」
なるほど、『塩対応』ね…
「で、ソイツの名前は?住所は?本籍は?身長は?体重は?好きな食べ物は?弱点は?あと、どんな子がタイプ?」
「な、名前はシオヤネンだったはずです。それ以外はわかりません。すみませんすみません!もう叩かないでっ!」
「とにかく、コアがあってそれが本体です。外皮の塩はその辺から集めてきたもののようです。壊れてもすぐに集め直していました!」
ふ~ん、コアが本体か。で、周りを塩で固めていると…
「で、ソイツは強いの?」
「攻撃力とかは私ほどではありませんが、かなり弱いです。ただ、倒しても倒しても、近くに塩がある限り再生します。コアを破壊しない限りは…」
「うん、わかった。では午後からマーサを拷問しながらそいつへの対策を立てよう。まずは昼にしよう。マトンは野菜だけ派だよな?」
「ええ、サラダオンリーです。火は通ってても大丈夫ですが。」
壁にめり込んでいたセラを回収し、昼食にする。マーサとマトンは野菜のみ、逆にカレンとリリィが肉のみである。リリィが食べる量がかなり多いので、若干肉方面に偏りがちな食事となった。
「マトンは午後の拷問から外してやる。そもそもゲストのはずだったからな。ゆっくりして行くと良い。」
「ありがとうございます。そうさせていただきます!」
「あら、マトンちゃん。私からのお仕置きがまだよぉ~。まぁ、それは夕食後ね。それまではゆっくりしなさい。」
「うぅ…シルビアさん。それでは後でお願いします…」
物質魔将シオヤネンか…塩だよな…水に溶かすか?いや、その水の中からすぐに集まってしまうか?
「なぁマーサ?そのシオヤネンて、水で…」
「ちょっと待って?元敵将にそんなこと質問するわけ?あんたそれでも勇者?悔しかったら後で拷問して聞きなさいよ!」
あの…勇者は敵とはいえ女の子拷問して情報を聞き出したりはしないはずなんですが?RPGでそういうイベントってありました?エロゲーとかじゃなくて青少年がやるやつで!
というかそもそも勇者はこんなところで敵と一緒に和やかに食事したりとかしませんからね、普通。
「すまんな、マーサは後でちゃんと酷い目に遭わせてやるからちょっと待っとけ。でもひとつだけ今答えて欲しい、その物質魔将は男なんだよな?」
「ええ、そうよ。気持ちの悪い、陰気臭い男よ。見た目もなんか最悪よ!」
じゃあ要らない、殺そう。
異世界勇者は漫画みたいに『明らかに仲間にしてはいけないビジュアル』の敵を引き込むほど人材に困ってはいない。たとえ強くて賢くてカッコ良くて面倒見が良くて実は凄く良い奴だったとしても、肌が緑色の何か変な触覚のついた異星人とかは論外である。腕とかが再生するのも良くない。
あ、飯がこぼれた、ごはぁぁぁん!
「じゃあ、ちょっと休憩しようか。1時間ぐらいかな?」
「私はその間に午後の拷問の準備をするわ。ルビア、手伝ってちょうだい。」
午後はマトンを赦免するため、2人で受けられるセットを準備するらしい。マーサとルビアが受刑者だ。
ちなみにルビアに拷問して問いたい事は特に無い。拷問ではなく『拷』である。
本人が喜んでいるので良しとしよう。
休憩中…
「勇者様?さっきのは酷くない?私飛ばされたんだけど、お尻叩かれて!壁にめり込んで痛かったのに助けてくれるのが遅いじゃない!」
「あそう…だから?」
圧倒的塩対応である。
「ご主人様!庭に鳥が!捕まえましょう、食べましょう!」
「好きにすれば…」
圧倒的塩対応である。
俺は今、塩対応の人の気持ちを理解するため、必死に塩対応をしている。
さっきのも、セラはともかく、リリィには抱きしめて『鳥さんがかわいそうだからダメだよっ』って言ってあげたかった。
だがここは我慢である。自分が塩対応を続けることで、何か見えてくることがあるかも知れない。
「ちょっと、勇者様どうちゃったのよ?まるで私達が馬鹿で、軽くあしらわれているみたいじゃない!」
それは事実、その通りである。塩対応とか関係ない。
「落ち着いて、お姉ちゃん。勇者様はきっと、さっき言ってた態度の悪い魔将の真似をして、その気持ちを理解しようとしているんだわ。」
「なるほど、そういうことなのね…」
察しの良いミラが全てを公にしてしまった。そして俺の苦労は無駄になった。
可愛いリリィに冷たくしたあの瞬間を返して欲しい。
※※※
「じゃあ、午後の拷問を始めようか。」
拷問台に居るのはマーサ、そして全く無関係のルビアである。
さっきお尻を叩かれただけで泣き叫び、全てを白状したマトンは赦免された。
今はVIP席でパリパリキャベツを堪能している。
「ふふんっ!望むところよ!さぁ、早く始めなさ痛ぁぁぁ!」
今度の拷問台は、これまたハンドルを回すと歯車がたくさん回転し、万力みたいな何かに挟まれたおっぱいが抓られてどうにかなってしまうものである。もちろん、シルビアさん特製である。
今度は2人用だ。
この大規模な器具により、応接間は完全に改装されて拷問の間へと変貌した。
もう元に戻すことは叶わないであろう。
「どう?マーサちゃん、何か喋る気にはなったかしら?」
「いえ、そもそも何も知らないわ。でももう一回お願痛ぁぁぁ!」
見るに耐えないのでカレンと手をつないでお散歩に行った。その後のことは知らない。
近所を一周して帰ってくると、マーサはルビアの回復魔法を受けていた。
「どうだった?何か白状する?」
「ええ、白状するわよ。あの後失神して、何百年もずっと、毎日10回乳首がもげ続ける夢を見ていたわ。」
貴様の乳首はいくつあるのだ?
物質魔将シオヤネンは、確かに水には溶けやすいそうだ。だが、やはり塩分さえ存在すれば、水中だろうと地中だろうと、ところ構わず塩を吸収してその体を形成出来るとのこと。
是非塩害対策用に欲しい逸品だ。
そして重要なのが、塩分が濃くても薄くても、その外皮の大きさは変わらない、およそ人間程度だということであろう。
もちろん塩分が濃ければその分強く、防御力も高い。逆に薄いと凄い雑魚だそうだ。
つまり、塩分さえ無ければコア一直線、ということである。
大量の水で、しかも流水で攻めよう。うん、Mランク冒険者、ゴンザレスに念話しよう。
『留守番念話サービスセンターに接続します、ピー…ゴンザレスだ。今はちょっと取り込んでいる。後程かけ直してくれよな!(録音)』
念話の魔法が込められた一枚で鉄貨5枚もするカードは、留守番念話でも燃え尽きる。後で実費を請求しよう。
「ゴンザレスは後だ。その魔族と戦うときには皆バケツで水を入れ続けて貰うことになるかも知れない。頼むぞ!」
「ちょっと待って。バケツに水を入れるのよね?それは私達には辛いかもしれないわよ、重さ的に。」
「セラ、お前は週2,3回はバケツ持って廊下に立ってるだろう?今更何を言ってるんだ?」
「あぁ、あれ?実は水入れてないの。毎回空っぽで持ってたのよ。」
セラには後で王都焼却汚物隊の入団試験を受けさせよう。隊規定の髪型はモヒカンらしい。
ちなみに後のことだが、火魔法が使えないセラは不合格となった。
「よし、じゃあ全員水攻めについて考えておくこと。今日はマトンちゃんも来てるからこの後は休みとしよう。」
※※※
マトンはマーサと出かけたいと言い出した。ただ、2人共囚人なのにその辺をうろうろしているのはマズい。ルビアがついて行くと言ったが、お前も普通に奴隷だ。
結局シルビアさんもついて行くことになった。マトンの教育に悪そうなメンバーだ。
ミラとカレンは武器屋へ、リリィはこの間の褒賞で永久顔パスとなった串焼きの店へと飛んだ。
「私達、取り残されたわね…」
「あぁ、昨日の続き、する?」
「ふん、勇者様は私が何時までも待っているとは思わないことよ!」
「昨日は全裸で待ってたのに!」
「あれはただ着るものが無かっただけよ。別に深い意味は無いわ。」
昨日は、帰宅するとセラが玄関で全裸で待っていた。適当にあしらったら一子相伝のアレを喰らったわけだが、その前の話と繋がっているのは間違いないであろう。
「そうだよな、セラは奴隷じゃないもんな!」
「…いや…その話は別で…別なのよ。私が何をして欲しいかは考えてって言ったはずよ。」
「奴隷ごっこだろ?」
「まぁ、大枠では当たりね。凄いわ勇者さ…今だけご主人様って言っても良いかしら?」
「良いけど、ひとつ教えてくれ、俺がいつも奴隷の子、つまりカレンやルビアにしていることのうちで、どれをして欲しい?」
「ルビアちゃんにしている…アレ…」
「どれ?残念ながらルビアには色んなコトしてるぞ。」
その瞬間、ドアが開く。武器屋が休みだったミラとカレンが帰ってきていたのであった。
しかも今帰ってきたわけではない。ちょっと前からカレンが異常を察知し、2人で聞き耳を立てていたのである。
つまり、今の会話は全てバレバレである。
「ふっふっふっ!お姉ちゃん、私は今のを聞いたわ。お姉ちゃんは奴隷ごっこがしたいのね。これは脅しのネタとして使えそうね。皆にバレたくなかったら私の逆奴隷になるべきだわ。」
「えへへ、セラさんの恥ずかしい秘密を知ってしまいました。これから毎食お肉一品の献上で黙っておいて挙げます。」
悪の2人組の参上である。いつもは冷静で知的なミラが、ここぞとばかりに調子に乗っている。
2人はセラに秘密を秘密にするための厳しい条件を提示してきた。
だが、今は俺が居る。こんなことをしてタダで済まされると思っているのだろうか?
「セラ、ごめんな、どうも索敵を使っていなくてな、ドアの外に居る『敵』の反応が得られなかったようだ。『凶悪な敵』のな!」
「くうぅぅっ、ぐすっ…何で聞いてるのよ…」
「あ…ミラちゃん、これは私達、相当悪い奴なのでは?」
「カレンちゃん、私はお姉ちゃん、カレンちゃんは勇者様のところに駆けつけましょう。お尻を出して…」
「セラ、辛いだろうが今は我慢してくれ、まずはこの2人に死よりも辛い罰を与えよう。」
「カレン、早く来なさい。」
「ミラ、いつもいつもあなたは…」
※※※
「いたっ!いたぃ、いたい!やっ尻尾がはぃった~ぃ!」
「うっ、あっ!いだっ!あぁ~!お姉ちゃん、あふっほんどうにごべんなざい、あぁ~…」
先程の半自動お尻叩機が唸る。今の受刑者はミラとカレンのみであるが、残りのひとつには座布団を詰め込んで代用している。
ルビアかマーサが帰ってきたら代わってもらおう。座布団と…
「ねぇ勇者様…」
「おう、ご主人様と呼んでも良いのであるぞ!」
「ふざけないでっ!でもいつかさっきの話の続きをしましょう!」
「ああ、わかったよ。お前がこの機械で尻を叩かれている最中に話をしようか?」
「まぁ、それも吝かでは無いわね。ふふっ!」
「なあセラ、お前もかなりのドMだろ!ルビアほどではないがな!」
「まぁっいやだ!バレちゃったようね。ルビアちゃんやマーサちゃんには到底勝てそうにはないけど、私なりに頑張るわ、」
「とりあえず今はこの2人を始末した方が良いわ。全部聞かれていたみたいだし!」
一度手を止めてしまった。カレンに聞くと、もう許して欲しいがまだ死にはしない、とのことであったので、気にせず続けた。
ミラはとっくに失神していた。だから室内でおもらしはやめて欲しいと何度も…
まぁ、何だかよくわからないブースターとやらが付いてるから仕方ないか…
半自動お尻叩機の後ろでは、いつの間にかルビアとマーサが順番待ちをしていた。
とりあえずルビアを先に座布団と交換した。マーサには少し待っていて貰おう。
ちなみにセラはシルビアさんとなにやらコソコソ話している。
シルビアさんの笑顔感からしてろくでもないことであろう。
ゲストのマトンを皆気にしていない。後ろで真剣に野菜炒め食ってるのもあるが、俺が以前見つけてきた『マクロ経済学Ⅱ』の本にも興味を持ったようで、一人黙々と読んでいるからだ。
食べるか読むかどちらかにして欲しい。明日、帰りに叱っておこう。
※※※
「ミラ、おいミラっ!起きろ、そろそろ夕飯の準備をする時間だ。」
「無理そうなら俺がやるけど、毒劇物が生成されても俺のせいじゃないからな!」
ミラを叩き起こして夕飯を作ってもらった。
味付けは体が覚えているのであろう。いつもと同じものであった。
だが、盛り付けが凄かった。盛った、というよりも置いた、という感じである。
俺のナイフとフォークはステーキの下に完全に埋まっていた。
「はぁぁ~、お姉ちゃんには悪いことをしてしまったわ、後でどうやって謝ろうかしら…」
ミラは久しぶりのお仕置き、しかも残酷なものだったのがかなり堪えたようで、よく反省していた。
一方カレンは…
「ご主人様!あまりお尻を叩くと、尻尾をもふもふさせませんからねっ!」
脅してきやがった。
「わかった。明日にはカレンがアホの子で、自分の主人に尻尾をもふもふさせない、ということを書いた苦情の手紙を、カレンのご両親にお送りすることにしよう。どれだけ叱られるか楽しみだな!」
「ご主人様、今のは嘘でした。ご主人様はいつでも、私の尻尾を好きなようにしてください!」
「そうか嘘か…狼獣人は本当につまらない嘘をつくんだな?困ったな、これはカレンのご両親に相談してみないとな。」
「ご主人様、今のは嘘ではなく間違いでした。間違えた罰としてお尻を叩かれても良いです!どうぞ!もちろん尻尾もどうにでもしてください。」
可愛いお尻をぺろんと出すカレン。うむ、これはさすがに許してやろう。
1回だけお尻をぺちっと叩き、その後は尻尾をもふる。
さて、今日は色々とあったな…
物質魔将シオヤネン?何だその名前は?しかも厄介そうな敵だし…とりあえず水攻めだな。対策を立てておこう。
セラがドM?いいよ、後で適当にお仕置きしておこう。封印されたおっぱいを見つけ出してからになると思うが…
とにかく、全ては水にかかってきそうだ…
次回、ちょっと戦います。




