148 戦いの後は色々と
「……つまり1週間ぶっ通しで祭をやろうってことか?」
「おぉ、ゆうしゃよ、その通りであるぞ」
「相変わらず考えることがやべぇな、この国は」
「たまにはええのじゃよ」
王都で行われる祭は1週間、その中に戦勝記念祭、それから捕虜にした魔族やカッパハゲの処刑、そしてメルシーの戴冠式も含まれている。
最終日、祭のクライマックスでは、中央広場から神輿に載せたメルシーを西門まで運ぶイベントがある。
そのまま王都から見えなくなる所まで神輿で運び、そこからは馬車に乗り換えて聖都に移動し、その次はそこで聖国復活祭が開催されるという。
新たな聖国も信心深い者の中から居住者を募り、かなりの応募があるという。
まともな奴を選考すればもう聖都がスラム街になってしまうようなことも無いはずだ。
この件に関しては準備が進められている……
「ところでババァ、魔将軍から救出された人質の中にインフリーという男は居なかったか?」
「ふむ、まだちょっと名簿を作成している段階なのじゃが、その名前は前にも聞いたしの、もし居たらすぐに報告が上がるじゃろうて」
「つまり今のところは居ないってことか……」
「そういうことになるの」
本当にどこへ行きやがったんだインフリーの奴。
これだけ俺達に迷惑を掛けておきながら、一度も姿を現さないとは何事か。
恐ろしく狡猾な奴なのだろう、きっと。
「それじゃあ俺は帰るから、その人質の中に居るかも知れない敵のこと、よろしく頼むぞ」
「うむ、では何かわかったことがあったら報告するゆえ、あまり屋敷から離れんようにな」
「了解し……」
王の間の扉が開き兵士が入って来た。
何か報告があるパターンだ。
「報告します、目撃証言から魔族に協力していた人族の男が1名、人質に紛れて逃走したことがわかりました」
「やはりか、で、行方はわかっておるのか?」
「いえ、人間の壁を構成していた人質の中に居たということだけしかわかっておりません」
「戦闘の混乱に乗じて逃げたか、あれが負け戦になることは承知していたんだろうな」
「そうじゃの、それであの魔将を切って、次はまた違うのと組んで何かをするつもりじゃろう」
本当に厄介な奴だ、インフリーに関しては今後、王宮の調査部隊が本腰を入れて追いかけてくれるという。
見つかった後が俺達討伐部隊の出番だな……
さてそういうことで俺は帰ろう、と思ったところでもう1人、兵士が入って来た。
こちらは少し焦ったような表情である。
「報告します! 王宮宝物庫より黒い煙のようなものが出ているとのことです!」
「何じゃろうな? 宝物庫に火事を起こすようなものは無いはずじゃが」
「放火じゃね? それか不正蓄財に対する女神の怒りとかかもな」
「あの……確認したところ火が出ている様子は無いそうですが……」
「それならば幽霊でも出たのじゃろう、気にせんことじゃな」
「良いのかよそんな適当で、まぁ俺には関係無さそうだし、もう帰るわ」
「うむ、ではまたの」
黒い煙のようなものに関しては無視し、王宮を出る。
帰りの馬車で広場の横を通ると、何やら大騒ぎになっていた。
どうしたのであろうか? 今日は王都民が大好きな公開処刑もやっていないはずだが……
まぁ、これも俺には関係無い、余計なことに首を突っ込むのはトラブルを招く、見なかったことにしてしまおう。
御者のおっちゃんは大層気になっていたようだが、そのまま屋敷へ向かって頂いた。
※※※
「ただいま、どうした? ここも大騒ぎじゃないか」
「あ、おかえりなさい勇者様、実はマーサちゃんとか、ユリナちゃんとか、とにかく魔族の子達から変な黒い煙が……」
「屁がダークモードになったんじゃないのか?」
「いえ、おならとかじゃなくてなんかこう、全身から噴出すような感じで出ていましたよ」
「それはきっと毛穴から屁をこいているんだ、奴等ならやりかねん」
「・・・・・・・・・・・」
とはいえちょっと心配だ、黒い屁が出るなんて魔族特有の病気に集団罹患している可能性も考えられる。
一応本人達に話を聞いておこう。
「おうマーサ、お前大丈夫か? 変なものでも食べたんじゃなかろうな?」
「ええ、なんだか知らないけど瘴気が抜けただけよ」
「瘴気?」
どうやら魔将に認定されたときに込められた瘴気が、そっくりそのまま体から抜け出たらしい。
つまり王宮の宝物庫で出ていた黒い煙っていうのは……シオヤネンとゾゾビンか。
屋敷で瘴気を出したのは元々魔将であった子達だけだそうな。
王宮前広場の騒ぎもきっとあそこに飾られているウワバミから正気が出たことによるものなのであろう。
今は他の魔将も瘴気を出して騒ぎになっているのかも知れないな……
「ところでマーサ、その瘴気を出し切った魔将はどうなるんだ? まさか弱くなったりはしないよな」
「そこは大丈夫そうよ、弱くならないし、寿命が縮んだ感覚もないわ」
寿命が縮んだ感覚というのがどういうのかはわからないが、とにかくこれにより戦闘能力が下がったりとかそういうことはないらしい、一安心だ。
「じゃあ他の奴も安心して良いんだな、起こったことは瘴気が抜けただけと」
「ええ、そうよ、何も弱くならないし、ただ魔将としての権限を失っただけだわ」
屋敷の中を見るとレーコも平気そうにしているのが見える。
これなら特に心配する必要はなさそうだな。
「でもね、これからどうするかが決まっていないのが心配なのよ……」
「どうするかって、何がだ?」
「私達、というか私とユリナとサリナは良いわよね、これからも従わせて貰うんだし」
「うんうん、出来ればそうして頂けると助かるわ」
「でもさ、レーコ以降にここに来た子達はそうはいかないわよね」
「う~む、そうだったな」
確かに、マーサとユリナ、サリナはもう俺のものだ。
よくわからんがペットとして登録されている。
だが、レーコから先に捕まえた魔族は別だ。
勇者パーティーでもないし、そもそも魔将との戦いが終わったあとは解放しようと考えていた。
これはちょっと話し合いをする必要がありそうだ……
全員を2階の大部屋に集め、会議を行う。
「勇者さん、私はここに居たいと思っていますよ、他に行く所もありませんし」
「そうよね、ここを追い出されたら路頭に迷うわ」
「ん、出て行きたくない……」
「そうか、とはいえ今更地下牢に入れるわけにはいかんしな、全員で協力してちょっと生活費を稼いでくれないか?」
何人も居る非勇者パーティーの魔族達、彼女らの生計を立てるには居酒屋の営業程度では足りない。
その他の収入源をてにしないとダメなのだ。
「あのぉ~、私は生活費を稼がなくても大丈夫なんですか?」
「ん、アイリスはここの奴隷だしな、そこはさすがに俺達が工面するぞ」
「はぁ、でも時間があるときには何かここの家事とはとは別のお仕事を……」
「あらアイリスちゃん、だったら私のお店でバイトする?」
「あ、鞭でぶたれるお仕事ですか? ちょっと怖いのですが……」
シルビアさんの店について誤解しているようだ、本来は普通の乗馬用品を扱う店なんだがな。
どうも奴隷とした元聖国人の6人が鞭打たれているのだけを見ているようだ。
「じゃあちょっと試しに打ってみましょ、アイリスちゃん、お尻出しなさい」
「え? あ、はい……」
当たり前のようにお尻丸出しになるアイリス、シルビアさんがそこに愛用の鞭を叩き付ける。
「あいたっ、あ、でもこれなら大丈夫です、もっとお願いします」
ビシバシ打たれているものの、平気、というかちょっと嬉しそうだ。
お前までもドMであったのか……
「ドMアイリスはもう良いとして、他の子はどうするんだ?」
「そうね、デフラちゃんたちと同じように収容所をもう1つ作って、そこで働きながら住むってのはどうかしら?」
「おう、じゃあ早速畑の拡張と建物の建設だな、明日筋肉団を呼ぼうか」
これでパーティーメンバー以外の魔族は処遇が決まった。
出来ることならもっと稼げる仕事もして欲しいものだが。
※※※
「おう勇者殿、今日は収容施設と畑の増築ということだな」
「ああ、頼むよゴンザレス、なるべく早く終わらせてくれ」
「既に終わっているのだよ」
「今来たばかりじゃないか!?」
「今日は10人も居るからな、あの程度であれば13秒で終えることが出来るのだよ」
「・・・・・・・・・・」
現場の様子を見ると、確かに収容所も畑も2倍の大きさになっていた。
とんでもなく仕事が早い連中だ。
「とりあえずありがとう、費用はまた王宮の方が持ってくれるはずだ、ハイこれ、お土産の野菜な」
「おうっ! 野菜を食うと筋肉が素晴らしいパフォーマンスを魅せるからな、有り難く貰っておくよ!」
ゴンザレス達は帰って行った、さて、屋敷に居る魔族達をこちらへ移送しよう。
「ちょっと、どうして縛るんですか? 痛いっ、痛いです! 下手クソっ!」
「雰囲気作りだ、囚人の護送みたいな感じの、縛るのが下手なのはすんまそん」
レーコをはじめとした魔族達を無駄に縄で縛り上げ、デフラ達が居る畑の収容所へ移送する。
屋敷とは地下で繋がっているし、特に行動制限が掛けられるわけではないが、これで『魔族を捕らえている』という体裁だけは保てるはずだ。
そして、これで俺達勇者パーティーがどこかへ行っている際もこの魔族達の心配をしなくて良くなる。
面倒はシルビアさんが見てくれるだろうし、居酒屋もしっかり営業出来るはずだ。
「じゃあこれでレーコたちの件は終わり、帰って他の事を相談しようか」
「主殿、私の剣が折れたままなのだが……」
「おう、そうだったな、じゃあ新たな装備に関してを最優先の議題と致します」
屋敷へ戻り、パーティー会議の続きをする。
今装備の更新が必要なのは剣が折れたジェシカと、盾がボコボコになってしまったミラの2人だ。
「とにかく私は伝説の剣が欲しい、店で探して買おうではないか」
「そんなもんが店売りしているわけないだろう、現実を見なさい」
「そうだな、では主殿が買ってくれたものであれば何でも良いぞ、ヒキタの剣は正直キモいから使いたくはないかもだ」
「そうか、では明日選びに……何か伝令兵が来ているぞ」
マリエルが外に出て伝令兵と話す。
特に焦ったような様子はないものの、何やら首を傾げているようだ。
「マリエル、何の話だったんだ?」
「ええ、敵が陣を張っていたウラギールの城で不思議な箱が見つかったとのことです」
「不思議な箱?」
どうやら金属製の箱で、意味不明なボタンがいくつも付いているという。
どうやっても開かないため、俺達にも協力を依頼しようとしたらしい。
すぐに、謎の箱を持った兵士が屋敷の庭に入って来た。
かなり大きいじゃないか、一体何が入っているというのか?
「何だこれは? コントローラーみたいなのが付属しているじゃないか?」
「コントローラー? このボタンが付いた変なのですか?」
「おいルビア、下手に触るんじゃない! 爆発とかしたらどうするんだ」
「確かにそうですね、これは爆破小包的なやつでは?」
コントローラーは十字キーとA、それからBのボタンが付いた家庭用ゲーム機みたいなのだ。
なぜ異世界にそのようなものがあるのか、ということについては触れないでおこう。
「待てよ、これはインフリーの持ち物かも知れない、ちょっとデフラを呼んで来るんだ」
畑で労働していたデフラが連行されて来る。
早速正体不明の箱を見せ、インフリーのものかを確認して貰った。
「う~ん、これは確かに昔兄が持っていたものと似ていますね、かなり前のことなので記憶が曖昧ですが」
「そうか、でもあの城にあったのなら可能性は高いな、ちょっと開封してみよう」
「ですがどうやって? 空かないんですよね……」
「そこで、以前発見されたこのメモが役に立つのだよ」
この間、デフラが小屋にあった家具の中で見つけたメモだ。
『上上B下上AB右』と書いてある。
「じゃあこれを……上上B、下上、A、B、右っと……あれ、これじゃなかったか?」
「主殿、もう少し素早く押さなくてはならないのでは?」
「おぉっ、その可能性もあるな、じゃあ上上B下上AB右、これでどうだっ!」
箱の扉部分にサッと光が走る。
どうやら解錠したようだ、早速中を見てみよう。
「何だこれは、油紙に包まれているな」
「ご主人様、お手紙が入っていますよ」
「本当だ、読んでみようぜ……」
『この箱の解錠に成功した後世の偉人よ、そなたらに内容物を託す……古の最強剣士』
伝説の片手剣セット、そして伝説の両手剣だ!
油紙の下には片手剣、盾、両手剣の3つが入っていた。
剣はどちらも光の刃を纏うタイプのものである。
「やったぞっ! なんて都合が良い異世界なんだ、ここで買おうと思っていた武器が手に入るなんてな!」
「勇者様、貰った気になっているようですが、一応王宮に報告しないとダメですよ」
そういえば今回はこの箱を持って来た兵士もその場に居る。
目撃者アリ、ということはネコババも出来ないし、当然この目撃者を消すわけにもいかない。
仕方が無い、一旦は拾得物として王宮に届けよう。
「マリエル、念のため言っておくが、今この伝説武器を最も必要としているのは俺達だからな」
「ええ、確実にこちらへ回るよう手配しておきます」
ミラとジェシカが後ろでウンウンと頷いている。
武器が欲しいのはこの2人も一緒だ。
マリエルが王宮へ報告に行くというので、鼻息の荒くなったジェシカが馬車を出す。
……大丈夫かこの状態で? 実に不安だ。
「箱の中にはもう何も入っていないようね、インフリーは何かサービスしてくれなかったのかしら?」
「おそらくパスワードを解読しただけだろうよ、で、逃げるに際してその箱が邪魔だから泣く泣く置いて出たんだ」
パスワードはデフラが使っていた山小屋に隠してあったのだ。
つまり解読したのはかなり前のこと、奴も一度はこの箱を開けたのかも知れないな。
内容物が無くなり、空になった箱を閉じる。
もう一度鍵が掛かったようだ、またパスワードを入力しないと空けることが出来ない。
「しかしこの箱は使えそうだな、カレンとかリリィ、あとサリナであれば十分収納出来るぞ、悪戯をしたらここに閉じ込めるからな」
「ご主人様、つまみ食いは悪戯に含まれますか?」
「リリィ、それは自分で考えるんだ、とにかく閉じ込められたくなかったらいい子にしていることだな」
「うぅっ、もう悪戯はしません……」
結局何だかんだ言っておきながら悪さはするのであろう。
カレンなんか3歩かそこら歩けば忘れてしまうはずだからな。
「ともかく庭ではアレだ、この箱を倉庫に運んでおこうぜ」
「ねぇ勇者様、この箱はまだ使い途がありそうよ」
「どうするというのだ?」
「そこら辺に投棄してインフリーとやらをおびき出すの、空け方がわかっているのなら回収しに来るんじゃないかしら」
「確かにセラの言う通りだな、この箱を使った作戦も考えておこうか」
空っぽのわりに重たい箱を倉庫へ運び、2階の大部屋に戻る。
魔族達が居なくなった部屋は寂しく、そしてより広く感じた。
アイリスの入れてくれた茶を飲み、マリエル達の帰りを待つ……
1時間以上待ったところで、ようやく馬車が現れる、御者がジェシカではないぞ。
「ただいま勇者様、伝説武器はそのままこちらに引き渡されました、あと、スピード狂の身柄も」
「すまん主殿、また捕まってしまったぞ」
マリエルが持つ縄の先には、手枷を嵌められたジェシカの姿があった。
相当なスピード違反をしたらしい、本来なら禁固刑だとのこと。
「やってくれたな、また免停と罰金か、で、罰金はいくらだ?」
「……金貨2枚」
「しばらくタダ働きしろよ、マリエル、手枷を外してやれ」
「主殿、仕置きしてくれ」
自由になった手でズボンだけでなくパンツまで下ろし、尻を突き出してくるジェシカ。
ルビアが俺に鞭を手渡してくれた。
「じゃあこれで200回叩いてやる、金貨1枚につき100回だ、覚悟しろ!」
「お願いします……きゃっ! あいたっ! きっくぅぅっ!」
規定の回数叩き終え、尻から煙を出しているジェシカを立たせる。
余計なイベントを挟んでしまったものの、伝説武器の確認もしなくてはならない。
「じゃあ2人共それぞれの武器を持つんだ、ミラは盾も装備しろ」
装備し、力をこめると現れる光の刃、片手剣よりも両手剣の方がふた周りほど大きい。
そして、全く重さを感じないらしい、これで2人の手数が増えるな。
「マリエル、盾だけなら町中で装備していても構わないよな?」
「ええ、杖や刃物でなければ大丈夫だと思いますよ」
「では2人共、今日からはどこへ行くときもそれを身に付けておくんだ、カレンみたいにな」
「ええ、わかりました」
「承知した」
これでいざというときに戦えるメンバーが増えた。
突然襲撃してくるような奴もびっくりであろう。
ちなみに片手剣はカレンの爪と同程度、そして両手剣は聖棒に匹敵する程の強さである。
ミラに渡した盾の防御力も凄まじいものだ。
勇者パーティー、ここにきて更なる飛躍である、しかも無料で。
「それじゃあ今日はこの辺りで終わりにして、後はゆっくりしようか、来週は祭だしな」
「ご主人様、お祭は1週間連続なんですよね、特別なお小遣いを下さい」
「ダメに決まっているだろうが、ルビアにあげたら他の子にもやらんといかんだろうが」
「じゃあお母さん、お小遣いちょうだい」
「ルビア、イバラの鞭で叩くわよ」
「誰かお小遣いを……」
浪費癖のあるルビアだけが困り果てている。
だが自業自得だ、祭りの前半でバイトでもするんだな。
魔将も倒したし、伝説の武器も手に入ったし、あとは祭の開幕を待つだけだ……




