1259 敵アジト前作戦会議
「……クッ、貴様等侵入者なのか? ここを通すわけにはいかなくて……なんとっ、大いなる大精霊様(特大)のお仲間の方でしたかっ! これは失礼致しましたぁぁぁっ!」
「……なぁマーサ、何なのこいつ等? こんな臭そうなおっさんを精霊様が雇い入れた……なんてことはないよな?」
「知らないけど、殺そうと思ったけどもっと苦しめたいからここで給料とかご飯とかもあげずに、死ぬまで門番みたいなことさせるんだって」
「門番って、たぶん誰も来ないですよねここ?」
「いや、その前にこいつ等の属性は何なんだ? 神界人間の類なのはわかるが、どうしてこんな奴等がこんな所に出現してんだよ? しかも精霊様に殺されたり死ぬまで扱き使われたりとか、もはや意味不明だぞ」
「う~ん、私もぜ~んぜんわかんない、てか知っていたかもだけど忘れちゃったみたいなのよね、残念でした」
「相変わらず適当な魔族だなマーサは……」
実際にそこに居て、この謎な状況を作出した元凶である精霊様と行動を共にしていたはずのマーサであるが、頭が悪すぎて今自分がどのような状況に置かれているのかということを正確に把握していないらしい。
となると、もちろん同じように馬鹿であるカレンやリリィに関しても、何も考えずに流れに身を任せ、しっかりとした食事が提供されているのであればそれでOKという、極めていい加減な態度を取っていることは明らかである。
残りのユリナ、サリナ、エリナおよび残雪DXに関しては比較的賢さも高いわけだし、どういう状況なのかということぐらいわかっているのであろうが……まぁ、それでもアホの精霊様の言いなりにはなっていることであろうといったところ。
このようなことになるのがわかっていたのであれば、そもそもの精霊様をドM堕ちでもさせたうえで、背中に天使の羽根を接着剤で貼り付けてマゾ狩り団体の収容施設に送り込んでおくべきであった。
精霊様の『精霊』という身分であれば、間違いなく『天使』と同等のランクに位置する生物であると評価され、実際に天使を装っていたとしてもバレてしまうようなことはないのであろうから……
「それでマーサ、精霊様は……あの高級そうな社の中に居るんだな?」
「そうよ、大いなる大精霊様(特大)のために私達が建てたスーパー巨大社なの、まぁ、私達は資材を運んだだけで、実際に建てたのは何か知らないおっさんとかだけど」
「知らないおっさん連れ込みすぎだろこの秘匿キャンプに……まぁ良いや、おーい精霊様! 大勇者様のご帰還だぞっ、土下座してお出迎えするのが筋だろうがこのボケッ!」
『・・・・・・・・・・』
「ご主人様、ガン無視されてしまっていますよ、どうしますか?」
「どうするもこうするもアレだ、無理矢理突入してやろうじゃないかっ、オラこのクソ扉! とっととご開帳して……涼しい……空調すげぇなおい……」
「……ちょっとそこのダメ異世界人、扉を開けたらすぐに締めなさい! 涼しい空気が台無しになっちゃうじゃないの! さもないとあんたを〆るわよっ!」
「出たな大いなる何とやら、てかその玉座何? 純金製なの? いくらしたんだぞれ?」
「知らないわよそんなの、でも変な盗賊団みたいなののアジトから奪って来たものだから実質タダなのよ」
「変な盗賊団って、もしかしてさ、その盗賊団のアジトに……ドMっぽい女のことか捕まっていなかったか?」
「わかんないわよそんなの、でも……カレンちゃんちょっと、この間殺しまくった盗賊団のアジトに何か女の子とか居たかしら? 神界人間の」
「わうぅ……たぶん居なかったです、弱くて臭そうなおじさんばっかりでした」
「なるほど居なかったか……それで、何やってんだお前等マジで? ユリナとかサリナとか、悪魔娘達はどうしたんだ?」
「今は食料調達に行かせているわ、そのうちに戻って来るんじゃないかしら?」
「食料調達って、それならカレンとかリリィとかに行かせた方が良いんじゃないのか? 釣りとか狩りならそうだし、採集ならマーサだって」
「いえそういうのじゃないの、ついこの間近くで山賊? 盗賊? 何だか知らないけどそういう奴等のアジトを見つけたのよね、だからそいつ等は生かさず殺さず、ちょっとずつ痛め付けて蓄えている食料なんかを貰おうって話になってんのよ」
「山賊だか盗賊から搾取して生活してんのかこの組織は……」
多少はデタラメをするのではないかという思いがあったことは否定できないのだが、いくら精霊様とはいえここまでのことをしているとは予想しなかった。
こんな集団、普通にその辺の犯罪者の集まりと何ら変わらないどころか、それをさらに上回る悪辣な何かであって……まぁ、それでも一応善良な神界人間から何かを奪っているわけではないので良いとしておくか。
しかしこうやって精霊様達がこの場所で、俺とルビアが目的としている『印』を持つ神界人間を確保するカギになりそうな犯罪者共に関与しているというのは少しばかりラッキーなことであると考えても良いであろうな。
ターゲットを拉致してしまったその犯罪集団がどこのどいつなのかはわからないし、この付近にはそれと類似した性格を有する組織が腐るほど居るというのはこれまでの経験と、それからここでの会話の中ですでに判明しているのだが、それでもそう遠くない未来に『本命』に巡り合うことが出来るはずだという気持ちになることが可能だ。
で、しばらくするとユリナとサリナ、それから残雪DXを装備したエリナが帰還して……ハムやソーセージ、その他干し肉や干し野菜、さらには米や麦などといった食料を大量に所持しているではないか。
特に返り血を浴びたとか、謎の怨霊が纏わり付いていて離れないとかそういった様子ではないことから、3人はむしろ強盗したというよりも窃盗した、予めマークしてあった犯罪組織のアジトの留守を突いてこの大量の食料を持ち去ったのであろうということがわかる……
「え~っと、何やら人が増えている……と思ったらご主人様とルビアちゃんですの、もう何だか良くわからない団体の偵察は良いんですこと?」
「いやいや、そうじゃなくて一時帰還と外でのミッションなんだよ、実はかくかくしかじかでアレでコレで、だからお前等にもちょっと協力して欲しいって感じでここに立ち寄ったところ……この状況だよ、何やってんだマジでお前等?」
「それは精霊様……大いなる大精霊様(特大)に言ってあげて下さいよ、私達は従わないとぶたれたり縛られて吊るされたり、パンツを没収されたりして大変なんですから」
「・・・・・・・・・・」
「まぁ、ご主人様、ひとまずそのことは置いておいて、せっかくここまで来たんですからちょっとご休憩でもしましょうよ、ほら、甘いものとかも沢山持って来てくれたみたいですから」
「うむ、じゃあひとまず食事にしつつこちらの情報とそちらの情報をお互いに共有……」
「ちょっとあんた、何で仕切ってんのよ底辺勇者の分際で、この地の神であるこの私に仕切らせなさいっ」
「いつから神に昇格したんだこの女は……まぁ良いや、じゃあ精霊様に任せた、ひとまずそっちの情報、といっても盗賊団? 山賊団? とにかくそういう奴等の情報をメインでくれよな」
「仕方ないわねぇ、じゃあえっとリリィちゃん、向こうの倉庫から私達で編纂した『神界犯罪組織生息マップ』を持って来てちょうだい」
「わかりましたっ! 行って来ます!」
「倉庫まであるんですねこんな森の奥深くに……しかもしまっているのはそのマップだけとかですか?」
「甘いわねルビアちゃん、そんなモンスター、じゃなかった馬鹿者の生息マップとかじゃなくて、そういう連中から奪った良くわからない神界の兵器とかもしまってあるのよ、特別に後で見せてあげる、欲しいのがあったら持って行っていいわよ」
「まぁ嬉しい、可愛らしくて殺傷力の高い兵器があると面白いんですけどね」
「ルビア、お前そんなもんどこで使うつもりだ?」
「ご主人様が寝ている間に布団の中で使用してみようかと……あ、はいお尻ペンペンですね、お願いします……ひぎぃぃぃっ! あぁぁぁっ!」
などと遊んでいる間にリリィが戻って来たため、精霊様達が独自に編纂したというヘタクソなマップ……という点を指摘するとまたややこしくなってしまいそうであるため、ここはひとまずそんなものを作成していることにつき褒め称えておくこととしよう。
で、そのヘタクソマップでどうにかわかる自分達の位置と、それから俺とルビアが、さらには4人の仲間達が滞在しているマゾ狩り団体の収容施設の位置を確認し、そこからこの付近一帯の状況を推し量ることとした。
まず、何やら漫画にでも出て来そうな鬼か悪魔か何かのマークで黒く塗られているものが、どうやら山賊だの盗賊だののアジトとなっている場所らしい。
山奥で木々が生い茂った地域であるという性質上、犯罪者共はその中で主に自然の洞窟などを発見し、そこを不法に占有するかたちでアジトとしているとのことだ。
そしてそんな『犯罪者集団マーク』のうち、『×』印がしてあったり黒く塗り潰してあったりするものについては『消滅済み』であるということも伝えられる。
良く見れば近場のマークに関してはほとんどが塗り潰されたり何だりと、新しく発見したもの以外についてはもうまるで残っていない様子。
精霊様のことだ、きっと最初は面白がって無計画に殺戮し、せっかく資源をゲットするために活用出来る、しかも殺しても心が痛まないようなゴミ野郎共を『浪費』してしまっていたのであろう。
だがここ最近、というかまぁ、そこまで時間は経っていないのであるが、一応は反省してそれなりのやり方を始めているという点に関しては評価してやらざるを得ないな。
だからといって連れ去って来た信用ならないゴミ野郎を、見張りだの何だのの任に就かせるのはどうかと思うが……
「……なるほどな、で、さっきユリナ達がその食料を奪って来たのはどこの犯罪集団なんだ?」
「えっと、このマップがヘタク……ちょっと私向きではないのでわからない部分もありますけど、え~っと……たぶんここの敵ですわよ」
「何だか主要メンバーが人間狩り? とか何とかで不在だと見張りの連中が話していましたので、ちょうど良いと思って」
「で、それだけブチ殺して死体を消し去って、あたかも見張りキャラが大事な食料を奪って逃げたみたいな感じで持って来たんです」
「悪いことするなぁお前等、まぁ悪魔だから仕方ないのだとは思うが……で、ちょっと今の話の中でひとつ気になったんだが、良いか?」
「ご主人様、マップのことに関してあまり言うとアレですよ、大いなる大精霊様(特大)の怒りを買ってしまいますよ、良いんですか?」
「いやそこじゃなくてだな、そのちょっと後のアレだ」
「殺した見張りの変な神界人間が仲間に披露していた踊りが非常にダサいという件についてですか?」
「その話はそもそもしてねぇだろ、違う、俺が聞きたいのはそのアレだ、ちょっと触れていた『人間狩り』についてなんだ、ルビアもそのワードには反応したんじゃないかと思うぞきっと」
「……すみません、お菓子食べてて聞いていませんでした」
「そうかすまんかったな、で、人間狩りの詳細についてはどうなんだ?」
「さぁ? 知りませんことよそんなもの」
「そもそも私達、見張りのその連中の言葉をしっかり聞いていたわけじゃないですから、すぐに殺してしまいましたし」
「う~む、となると……現地調査しかないってことだなこれは……どう思う精霊様……じゃなかった何だっけ? 大馬鹿の何とやら(並)だったか?」
「大いなる大精霊様(特大)よ、私の名前を忘れるなんて失礼な下等生物ねホントに、で、現地調査の件はまぁ良いんじゃないかしら? どうせその『人間狩り』とやらをしに行っている集団の主要メンバー? そのうち帰って来て食料がなくなっていて、それで慌てて……みたいなことになっているんじゃないかと思うし」
「その慌てているのを遠くから眺めて、ラストはこっちから姿を現して小馬鹿にして、悔しがっているところをさらにどうこうして最後は……みたいな感じにしたら面白そうだな、よしっ、全員出発の準備だ!」
『うぇ~いっ!』
「ちょっと! 私が仕切るのっ!」
やかましい精霊様はもう放っておくこととして、俺はしばらくの間マゾ狩り団体の馬鹿気た施設の中で虐げられるハゲのおっさんクリーチャーとして生活してきた分の恨みを、何の罪もないとは到底言えそうもないゴミ野郎共で晴らすという意味も含めて、同時にその馬鹿共がやっている『人間狩り』とやらの調査に出ることに決めたのであった。
そういえばあの施設内ではあまり、というかハゲのおっさんクリーチャーぐらいしか殺害していないような気もするし、この辺りでひとつ人殺しの方の感覚を取り戻しておかなくてはならないな。
あまり腕が訛ると殺すべきところで殺し切れなかったり、本来は殺すべきでないところでうっかり殺してしまったりというミスが出ることは必至。
そうなると仲間からは非難され、だからアホで馬鹿な何とやらはアレだなどと、無関係の一般人にも言われてしまいかねないのである。
まぁ、それはともかくとして、やはり重要なのは溜まっているストレスを馬鹿を虐殺することによって発散するということなのだが……どうやら周りの仲間達の考えはそうではないらしい。
俺以外の全員、リリィとカレンとマーサ、あとルビアは何も考えていないし常に頭がカラッポのようなのだが、それ以外のメンバーは違うのだ。
既に神界人間の盗賊だの山賊だの、そういった類の本来はすぐにでも排除すべきカスについて、自分達の食料を確保するための一種の資源として捉えているように思えてならないのである。
そんなこと、これまでの勇者パーティーであれば考えるまでもなかったし、そもそも食料などそこらで略奪……ではなく徴発などすれば簡単に手に入ったものだ。
やはり俺達が元々居た世界と違って、この神界では何もかもが上手くいって、俺達に都合の良いように事が運ぶわけではないらしいな。
もっとも、この程度の方針の転換で何とかなっているのであれば、それはそれでそこそこに都合の良い展開であると言わざるを得ないが……ということを考えている間に、どうやら目的地であるターゲットのアジト付近に到着したらしい……
「……居る居る、ウジャウジャと居やがるぜ畜生共が、何だか騒がしくはあるようだが……まぁ、そりゃそうだよな、見張りにしていた下っ端が食料持って逃げたとかアレだぞ」
「上手く偽装が出来ていたようで何よりですわ、それで、これからどうしますの? 突撃するとかなりの数、どころかほとんど殺してしまうことになりますの」
「いや、本来ならそうしたいところなんだがな、精霊様がほら……」
「大いなる大精霊様(特大)と呼びなさい、というか普通にダメよあの連中を皆殺しにするなんて、さっきの食料見たでしょ? どう思ったかしら……はいカレンちゃん」
「わうっ、ホントにセンスが良くておいしいものをたくさん集めていたんだなと思いました」
「ほらね、リリィちゃんは?」
「お肉、すっごく高そうなのとかちゃんとしてて、それでえっと、何かもう色々と凄かったです」
「……ということなの、つまりあの連中は私達のための食料調達人として、本人達にはもちろんそんな使われ方をしていることなんか教えてあげないけど、とにかく『大切に使用』したいわけ、わかる?」
「えっと、じゃあ『人間狩り』だか何だかの証拠をゲットしたり、あともし俺とルビアがターゲットにしている『印』を有する神界人間があのアジトみたいな洞窟の中に居た場合の救出はどうするんだ?」
「そうねぇ……う~ん……」
そこから先は何も考えておらず、ただただ自分のやりたいようにやらないといけないという主張だけをしていたらしい精霊様。
とはいえここでその方針に従わなかった場合、間違いなく俺は虐殺されてしまうことであろうから、余計なことは言わずにこちらの目的を達成する方法を考えていくこととしよう。
で、あまりにも頭が働かない数名は放っておいて、俺と精霊様と3人の悪魔で話し合った結果として、やはり気付かれないように侵入するのが得策なのではないかという結論に至った。
そしてそれと同時にもうひとつの作戦が案として浮上したのだが……なんと、俺があの盗賊団だか山賊団だかの下っ端であり見習いであり、雑用係の召使いであるゴミのような雑魚キャラであることを装って中に入り込むべきだというのだ。
もちろんそれが上手くいく根拠として、居なくなった、まぁ実際にはユリナ達が殺害して遺体を隠してしまったのだが、その下っ端連中がどんな顔をしていたのか、どのような感じの奴であったのかということについて、連中はアジトの前でキレながら議論しているようなのである。
つまり、あの連中は仲間の顔も覚えていないような馬鹿であって、かつその仲間とはいえ下っ端共になど興味がないというタイプの犯罪者ということ。
そういうことであれば簡単に騙して、スッとあの中へ侵入しつつ最初から居ました感を醸し出すことも可能なのではないかと、そういうことでこの案が浮上したのだ。
幸いにも俺はこれまで、薄汚いハゲのおっさんクリーチャーとして過ごすことでそこそこの正体誤魔化し力を培ってきたのである。
そしてこの場にはもちろん幻術使い系のキャラであるサリナも居て、ある程度まではその幻術でどうにかすることも可能ということも、この案の推奨に繋がることなのだ。
だがまぁ、とにかくメインは『気付かれないように潜入する』という作戦の方として、俺の方はバックアップという扱いになってくるのだが、果たしていずれか、或いは両方の作戦がどこまで上手くいくのであろうか……




