1258 合流しようとキャンプ地まで
「……ということになったんだ、なかなかの混乱ぶりでやって良かったと思わせるような光景を目の当たりにしてきたぞ」
「羨ましいですね、私も参加したかったです、というかずっとここに居るのに飽きてきたというか何というか……そろそろ脱出しません?」
「うむ、じゃあルビアも外での捜索に参加……というわけにはいかないだろうなたぶん、どうなんだ金髪天使?」
「それはちょっとどうかと……ただでさえこの施設全体が混乱しているというのに、神々の収容者とされている方を、しかもその中でもトップクラスに力の強い方を外に出すなんて、難しいと思いますよ」
「だってさ、まぁルビアは諦めてここで大人しくしているんだな、活躍すべきときがきたらちゃんと使ってやるからさ」
「……つまらないですね、あ、でもそしたらアレですよね? 私が『外で活躍すべき』ってことならどうにかなるってことですよね?」
「まぁ、それはそうだと思うが……どうなんだろうな実際?」
あまりにも暇で暇で、何か面白く刺激的なことがないものかと求めて止まないルビアであったが、状況が状況だけに何かをさせるのにはかなりのリスクが伴う。
だがそれを理解する様子はないし、ワガママを取り下げるなどもってのほかといった態度であるから、ここはもしかしたらご希望に沿うような何かを次の作戦に組み込まなくてはならないのかもといったところ。
仕方ないので看破の女神や先輩天使、ロボテック女神などと相談して……もちろん俺達の世界の女神はアホなので意見を聞く必要は内し、そもそも眠りこけていて話しかける術もない。
で、作戦会議の結果として浮上したのが、ルビアについて『他のドMを引き寄せる力がある』というようなでっち上げの能力が付与されているように偽って、それでこの施設へ向かう道中に攫われ、失われた収容者となるべき者の捜索に利用しようということで、施設の外に出すための申請をしてはどうかという案。
もちろんムチャクチャな理由付けであるし、もし俺がこのマゾ狩り団体の幹部やそれに準ずる、ある程度の決定権を保持している立場であるとしたら、そのような申請はその場で直ちに却下することであろう、審議の必要もないのだ。
しかしここの連中、即ちマゾ狩り団体の構成員である神々や天使は普通に馬鹿で、いや大馬鹿なのである。
そうでなければこのような団体を創ったり、神界中のドMを拉致してきてこんな施設に……などということは絶対にしないはずであるから……
「……う~む、まぁ、やってみるだけやってみるとかそういう感じでいこうか、ちなみにルビア、もし作戦に失敗したらよくわからん罰を受けるのはお前になるからな」
「わかっています、というか楽しみです、ぜひ失敗して欲しいですねこの作戦は」
「お前、外に出たいのか新しいスタイルのお仕置きをされたいのかどっちなんだ?」
「……両方、ですかね? 出来ればこの変な施設の外で、森の中で全裸吊るし上げにされて道往く人々から鞭でビシバシ、ぐらいがベストです」
「・・・・・・・・・・」
「ちなみにですけど、もう出発するための準備はしてありますから、ご主人様も早く荷物をまとめて下い、遅いですよ本当に」
「・・・・・・・・・・」
もうこのルビアには何を言っても無駄であると、そう確信したのは俺とその場に居る神々や天使達全員であろう。
とにかくこんな狭苦しい牢屋の中でダラダラと過ごすのが退屈になってしまったゆえ、何か刺激的な冒険をすることでその溜まったストレスを解消しようという魂胆らしい。
まぁ、そういうことであればもう俺の方も準備をして、手続きを済ませてここを発つべきということに違いないな。
そもそもせっかくあの表見イケメン天使のお陰で施設の内部が、マゾ狩り団体の実質的な運営主体である下っ端の雑魚天使共が混乱しているのだ。
この機に乗じてというわけではないのだが、今何か行動を起こしても特に目立ってしまったり、後でそのことに関して掘り起こされて追及されるようなこととなる可能性も少しばかり低いはず。
ならばということで俺もすぐに準備を始め……というか、所詮はハゲのおっさんクリーチャーである俺に準備しておくべきものなどないのだが。
で、しばらくしてやって来た金髪天使、もちろん今日の大混乱のせいでこちらに構っていられるような状態ではなさそうなのだが、それにひと通りの事情を説明しておく。
施設の外に、しかも神界盗賊のような連中に囚われるかたちで『印』を持つ神界人間が存在しているはずだという情報は共有していたから話は早かったのだが、それについて何か協力してくれるとか、新たに有力な情報をゲットして来てくれるとかそういうことはないらしい。
今はとにかく、マゾ狩り団体の運営側は非常に忙しい状態であって、ここで俺達が余計な動きをすることのサポートなどをしているわけにはいかない、それどころではないというのが金髪天使の主張であった……
「とにかくです、あの下っ端のゴミが相当なやらかしをしてしまったことで団体の収容者管理能力は地に堕ちました……というかまぁ、誰のせいでこうなったのかということが……いえ、何でもありませんよ」
「何か俺がやりすぎたみたいな感じのことをいおうとしていたように思えるのだが……そんなことはないはずだよな? 一応は必要最低限のことをさせて、奴をこれから無様な最後に導いてやるための布石というか何というか、そういう感じのことしかしていないからな」
「……えっと、そう思っているのならそういうことで良いですが、とにかくしばらくは私達上級の天使が、使えないうえに収容者からの信頼も失ったゴミ天使の代わりに動かなくてはならないことが多いですから、ちょっとこっちの件については離れることになってしまいそうです、私も、もちろん銀髪天使も引き剥がしておきますが」
「うむ、そっちはさすがにちゃんとやってくれよ、奴が単独でこっちに絡んでくると非常に面倒なことになるからな、で、そんな状態ってことはやっぱり出入口の警備の方も……手薄だったりするのか?」
「えぇ、まぁおそらくは手薄……というか現状だと見張りが全く居ない状態ですね、いずれ優秀な天使に交代する予定ですが、ゴミをその場から外しただけでそのままになっています……最悪のトラブルですねしかしこれは……」
「なるほどそういうことか……ルビア、もう準備は良いんだったな?」
「はい、もちろん荷物もお弁当も、それからおやつもしっかりと持っています」
「じゃあすぐに出発しよう、そういうことでこの場は看破の女神とロボテック女神に頼んだ、何かあったら後で報告書をまとめて簡潔に説明してくれ」
『うぇ~いっ』
どういうわけか外界に繋がる唯一の出入口の状況について詳細に教えてくれた金髪天使、まぁ、きっとそういうことなのであろう。
もちろんそのとんでもない、見張りがまるで居ないような状態というのはこの金髪天使が引き起こしたことであって、俺達はその状況をキッチリ利用して外に出なくてはならないし、それが解消してしまう前には戻らなくてはならない。
何やら頑張ってくれと、それからここまで協力してやった自分に対して、この後マゾ狩り団体が崩壊した際に科される刑罰を少しでも軽くしてくれと、そういう意図を持った金髪天使の視線に見送られながら、俺とルビアは牢屋を、そして神々の収容フロアを抜けて建物の下層へ。
念のためセラ達にも報告をしておくべきであろうな、ついでに神界人間の収容フロアにおける現状の混乱がどの程度のものなのか、俺自身が目で見て確認しておくことも重要だ。
ルビアにもそのことを伝え、付き従わせる感じで神界人間のフロアに降りると……何やら元々の騒ぎとはまた別の事象によって、収容者達が大騒ぎをしている様子であった。
もちろんその騒いでいる中には俺の仲間やその他、この施設内で仲間にしたというか引き込んだというかの『印』を持つ者が含まれているのだが、果たして何をしているのであろうか。
近付いてその様子を見て見ると、何やら全員立たされた状態で苦しんでいるように見えなくもないのだが、その足元には何か『器具』のようなものが見えて……前の世界では良く温泉施設などにあったアレだ、足つぼを刺激するデタラメに痛い石敷きの何かのようだ……
「……何やってんだこいつ等? いくらドMだからってこの責めはどうかと思うぞ実際」
「見て下さい、あっちに皆が居ますよ、同じように立たされて」
「うむ、全員律義に足つぼ刺激のアレを踏みしめているようだが……見張りは居ないようだな、お~い、何やってんだお前等?」
「あ、勇者様、ちょっとこれ、騒いだことに対するお仕置きなんですけど、なかなか効きすぎてかなりその、あうっ!」
「主殿、この足つぼ刺激のアレは本当に痛いぞ、主殿もやってみると良い、体の悪い所がどこなのかわかるかも知れないからな」
「そんなこと言ったって俺なんか……ちょっとつま先だけ乗せて……何か光ったな?」
「えっと、この位置が光るというのは何なんでしょうか? え~っと、早見表によると……勇者様は頭と性格が悪いようですね、あと人相も少し悪いです、運勢は最悪だとのことで早々に死ぬらしいです、残念でしたね」
「ふざけんじゃねぇよ、足つぼでそんなことがわかってたまるかってんだ、きっとテキトーな何かなんだろうな、えっと、そういうマリエルは……早見表によると頭が極端に悪いらしいな、ドンマイ」
「それで勇者様は何をしに来たの? こんな所にルビアちゃんを連れて来て、リスクとか……」
「おっとすまんすまん、一応の報告と、このフロアの混乱ぶりを見に来たんだが、全員足つぼ刺激刑でそれどころではないらしいな」
「そうなのよコレ、で、報告って何?」
「あぁ、俺とルビアでこれから施設の外に出て『拉致された印付きドMの捜索』をしてくるから、ついでに仲間達とも一時合流するけど、何か欲しいものとかあるか? 目立たない小さいものなら持って来られそうだぞ」
「そうねぇ……今は特に決められない、というか足つぼ刺激が痛すぎてどうしようもないから考えられないけど、必要そうなものを見繕って持って来てちょうだい、勇者様のセンスが問われるわよ」
「うむ、じゃあえっと……まぁ、エッチな本でも差し入れしてやろうか、行くぞルビア」
「はいご主人様、じゃあ行って来ますね~っ」
「まるで遊びに行くノリじゃないかルビア殿は、まぁ主殿もだが……」
ということで足つぼ刺激でお仕置きされている仲間と神界人間の収容者は放置して、俺とルビアは施設の結界の外へ出るべく、最下層である神界人間の収容フロアを後にした……
※※※
「え~っと、この辺りが結界の出入り口で……本当に見張りが居ないようだな、てか開いてんのか結界のゲートは?」
「開いているみたいですよ、ほら、もう知らない間に通過してしまって、結界の壁が向こう側になっていますから」
「見えんのかよルビアには結界の壁が……俺にはサッパリだぞ」
「たぶん神様の力とか何とかです、普通の人間とか普通のご主人様には見えないでしょうねきっと」
「俺と人間を別々にして言及したことについてはツッコミを入れないでおくか……で、人間と言えばもうアレだな、ハゲのおっさんクリーチャーの状態を解除しても良さそうだなここなら」
「元に戻ることができますか? もし失敗して、ずっとハゲのおっさんクリーチャーのままだったらもうご主人様じゃないですからね」
「……大丈夫なようだ、というかギリギリセーフぐらいの感じだったな、本当にハゲに染まってしまうところだったぞ」
危うく永遠いハゲのおっさんクリーチャーの姿を取ることになってしまいそうであったが、この先も施設内ではあの姿を取らなくてはならないということを考えると、こうやって定期的に状態解除、もちろん見た目も含めて元の姿に戻る必要がありそうだ。
とはいえそうそう何度も施設の外に出て活動を、というわけにはいかないであろうから、次は完全に施設の、マゾ狩り団体の崩壊をもって元の姿に戻ることを考えなくてはならない。
で、そのためにはもちろん、全ての『印』を持つ神界人間の収容者をゲットして仲間に引き入れ、祭壇から先に進んで、そこに居るマゾ狩り収容施設のトップなのか何なのかであって、しかも自らがドMであるという女神をひっ捕らえる必要がある。
まぁ、もう収容者の中に存在している『印』を持つ者はそこそこ集まったので、あとはこの収容施設に送られる途中に拉致されてしまったという者だけどうにかすれば、作戦はほぼほぼ開始することができる状態になるのであろう。
問題はその者についての情報があまりにも少なく、頼りにしていた金髪天使なども例の事件、表見イケメン天使の正体バレ事件によって一時的に情報収集を中断してしまったことで、特に進展がないまま取り急ぎ外に出て来てしまったことなのだが……
「ご主人様、とりあえず皆の所へ行かないですか? そこでちょっと休憩してご飯とかおやつとかにしましょう」
「あぁそうだな、どうせ外の仲間も暇だからダラダラしているだろうし、もしかすると神界山賊? みたいな奴等の撲滅作業を始めているかもだからな」
「実はもうターゲットの『印』の人ですか? 助け出しちゃってとかだと早いんですけど……そしたらどうします?」
「そんなラッキーはまずないと思うが、もしそうだったなら時間だけ潰して、それからカラッポになった敵のアジトの捜索だけした感じにして、やった感全開で戻ることにしようぜ」
「わかりました……っと、誰かのオーラを感じますね、この巨大な力はマーサちゃんです」
「マーサか、どこに……すっ飛んで来たのがそうかな、このままだとぶつかって……あっ、ギョェェェェッ!」
「はいはいおかえりおかえりっ! ってかあれ? 他の皆は?」
「ま……まだ施設の中で活動していて……とにかく降りろ、他人様の上に乗るなこの馬鹿ウサギがっ!」
「あっ、ごめんごめん、何か知っている足音がしてたからつい突っ込んじゃって、大丈夫? 腕とか取れたりしていない?」
「ギリッギリで大丈夫だ、首は皮一枚で繋がっているし、脳挫滅もしていないようだからな」
「脳挫滅って、ご主人様脳味噌あったんですか……ひぎぃぃぃっ! ごめんなさいっ!」
ということでマーサと合流しつつ、余計なことを言ったルビアには罰も与えつつ、ひとまず他の仲間達がキャンプをしている場所へと移動することとした。
キャンプの場所は少し移動したらしく、もっと小川というか渓流というかの水量が多い場所を選んでいるとのこと。
まぁ、勝手に移動して合流が困難になったらどうするのだと文句も言いたいところであるが、今回の作戦は予想以上に長い時間を要しているということからも、長期滞在に備えた動きというものがあるのも仕方のないことかと考えておく。
マーサに先導されてその新しいキャンプ地へと向かった俺達は……そこに近付くと同時に、何も言われなくともその場所がそうなのだということを知った。
俺もルビアも驚いてしまうほどの巨大な木造建造物、草ぶきで古代の社だとか神殿のような雰囲気を醸し出しているそれは、川沿いに建てられた精霊様のための礼拝堂であるようだ……
「……ちょっと待てマーサ、アレは何だ? どうせ精霊様の仕業なんだろうが、どうしてこの隠密性が要請される状況においてあのような馬鹿みたいな建造物が存在しているんだ?」
「あ、ちょっとちょっと、ダメよ気軽に『精霊様』何て呼んだら、今は『大いなる大精霊様(特大)』って呼ばなくちゃならないの、わかった?」
「わかりたくもねぇよそんなもんっ! どんだけデカいことを主張したいんだよその呼称は?」
「私に言われても知らないもん、あ、ほらこの変なゲートみたいなのを潜るときにはちゃんとお辞儀して、真ん中とか歩いちゃダメらしいわよ」
「巨大な鳥居みたいなのまで造りやがって……ルビアも順応してんじゃねぇよ!」
「え? だって大いなる大精霊様(特大)に怒られてしまったら困りますから、それにほら、ご主人様の上、自動で天罰みたいなのが発動していますよ」
「ホントだ巨大なタライが頭上からっ、もう避けられ……ギョェェェェッ!」
精霊様が設置したらしい鳥居のようなものを無視して、どころか支柱の片方を蹴飛ばしながら潜ったところ、上空から俺の頭を目掛けてピンポイントにタライが落下してきたではないか。
しかもタングステンまたは劣化ウラン製と思しき非常に質量の高いそれは、明らかに宇宙から投下したとしか思えない速度で降り注いだのである。
まさか俺が少し居なくなっている間にここまでのことをしているとは、というか、今のタライ攻撃をまともに利用すれば、敵の神の1匹や2匹は容易に始末することが可能であって……とまぁ、どうせそこまでは頭が回っていないことであろうな。
こんなことをする悪い精霊には罰を与えなくてはならないと、鼻息を荒くしつつ奥に見えている巨大な社のような建物を目指すと……何やら知らない奴が門番のように突っ立っているではないか。
顔面には殴られたような蹴られたような形跡があり、満足な食事も与えられていないのかフラフラと倒れそうになりながらも、きっとそこで倒れてしまった場合には処分されることとなるのであろうその……キモくて臭そうなおっさんであるのだが、とにかく必死で立っているのがわかる。
その奥の建物からは明らかに精霊様の、そしてここに残っている他の仲間達の気配も感じるのだが、一体全体これはどういうことなのだ?
とにかくその倒れそうなボロボロの門番をスルーして、今居る3人の中で唯一事情を知っているマーサに話を聞きつつアホの精霊様の所へ歩いて行くこととしよう……




