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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1255 そろそろ決断のときが

「……むっ、アレは、あの神界人間の胸元に見えているのは確かに『印』のようだな……セラ殿、どうやらもう発見したようだぞ、まだ未発見であった1人に違いない」


「ひぃぃぃっ! それどころじゃないって、ちょっと、もうっ、あぁぁぁっ! 誰か助けてちょうだいっ、あっひぃぃぃっ!」


「うむ、少し我慢していてくれ、私はどうにかこの体勢から抜け出して、あの神界人間の所へっ、クソッ、彼女も吊るし上げられてしまったではないか、しかもかなり遠くだ」


「もう諦めましょそんなのっ、ひぃぃぃっ!」


「た、確かに私も……あっひぃぃぃっ!」



 せっかく発見することに成功した『印』を持つ神界人間の収容者であったが、セラもジェシカも自分のことで精一杯につきそれどころではない。


 神の見えざる縄で吊し上げられ、さらに神の見えざる刷毛のようなものによって全身をくすぐられ、任務の遂行に割く余裕はもうないのである。


 そして発見した神界人間が同じように吊し上げられている位置はかなり遠く、他の一般的な収容者、もちろん同じように責められまくっている連中に紛れてその姿を見失ってしまった2人。


 このまま失敗して皆の下へ帰れば確実に怒られてしまう、というかそもそも交代の時間であるおよそ1時間後に、仲間の所へ帰還することが出来る保証などまったくない状況。


 このままではヤバいと、少しばかり抵抗の意思を見せたジェシカに対しては、新たな神の見えざる何とやらによる罰が、一種の神罰が下る……



「このっ、クッ、凄い力で押さえ付けられて……あいったぁぁぁっ!」


「ちょっ、どうしたのジェシカちゃん? 何かされて……」


「ひぎぃぃぃっ! いでっ、いったぁぁぁっ! かっ、神の見えざる棒切れで打ち据えられているようだ、これがなかなか……あひぃぃぃっ!」


「結構ハードそうねそれ、というかジェシカちゃんの防御力で耐えられないとなると私じゃきっと……これは大人しくしているのが正解みたいね」


「うむ、あたっ、ひぃっ……仕方ないので発見したターゲットの居る方だけガン見し続けることにしよう、あうっ、あてっ……もし同じぐらいのタイミングでここに入っていたとしたら、解放されるのも同じタイミングになるかも知れないからな……あっ、もっと尻の方を、肉が厚い方を叩いて欲しいんだが?」


「そうね、それからえっと……あ、何だか知らないけど私、地面に降ろされるみたい、解放されるのかしら?」


「そのようだな、もしかして大人しくしていればある程度のところで許して貰えて、私のように強い抵抗をするとより悲惨な目に遭う仕組みなのかも知れないな」


「だとしたらチャンスよ、ほら、私もう完全に捕まっていないし、このままテントの中を自由に動き回ってさっきの子を探すわ」


「そうしてくれ、私はえっと……さっきから希望通り尻ばかり叩いてくれるようになったからな、しばらくここで罰でも受けておくこととしよう」


「……もう楽しみ出したわねこのアトラクションを」



 抵抗したせいで神の見えざる何とやらによる罰の延長を受けることになってしまったジェシカであるが、それはそれで良いと、ドMとして認められたその才能をフルに発揮して状況を楽しみ出した。


 一方、最初に『神の見えざる刷毛』によるくすぐり攻撃を受けたものの、単に助けを求めたのみであって、しかもそれが本心ではなく単に喜んでいただけだと判断されたセラはあっという間に開放されたのである。


 そこで得た自由を活かして、セラはかなり広い、いや外から見るのと比較して広すぎるゆえ、おそらくは亜空間になっているのであろうその内部を歩き回ってみることとした。


 大半の神界人間はまだ吊し上げられた状態で罰を受けていて、ほとんどがジェシカと同じ第二段階、つまり神の見えざる棒切れで打ち据えられているような状態であることが徐々にわかってきた。


 中には抵抗を続けたわけではなく、少しでも長い時間ここに居たいということで更に苛烈な何かを自ら求めている者も見受けられるが……このアトラクションの『ルール』を察したセラのように、早々に解放されたにも拘らずその場に留まり、勝手に休憩している少しばかり賢い者も少なからず居るようだ。


 もちろん何をされるにしても、外でハゲのおっさんクリーチャーに何かをされてしまうよりはここで苛烈な神罰を受けていた方がマシなのは確かだから、どのような方法でもここに居座り続けるのは正解であろう。


 そして、その居座ることを目的としてここに居る連中の中で、先程の『印』を持つ神界人間の収容者を探して歩きまわったセラであったが……どうやらすぐにターゲットを発見したらしい。


 その神界人間はセラと同じように既に神の見えざる手による拘束を逃れてはいたものの、そこに至るまでにかなりランクの高い罰を受けたらしく、床というか地面に蹲って、腫れ上がった尻を擦っている状態であったのだ。


 その擦られている尻には確かに『印』が、少しばかり薄暗いので種類と番号についてはわからないのであるが、それでもそれが求めているものであって、この者が求めている者であることは明らかな状態。


 早速その神界人間に接近したセラは、ひとまずフレンドリーに話し掛けてみることとした……



「はいどうもどうも、大丈夫? かなり痛め付けられたみたいだけど?」


「え~っと、あなたは?」


「私? 私は最近ここに放り込まれたんだけど、友達というか先輩収容者というか、とにかくイベントのことを知っている子にここが良いって教わってね、それで仲間と来たんだけど……何か私ばっかり解放されちゃって暇なのよね」


「なるほどそういうことでしたか、それで話し相手を……でもどうして私なんでしょうか?」


「だってそのお尻のそれ、自分でも番号が入っているのがわかっていると思うけど……私達、実はその『印』が入った収容者の子を集めているのよね」


「は、はぁ、確かに私だけ何か変な番号が入れられていますけど……そういえば他にも同じような感じの方が居ましたね、これ、何なんでしょうか結局?」


「それはね、実はああでこうでこんな感じで、それによってこんなに凄いアレが……」


「そのようなことがっ? っと、申し訳ありません、ちょっと声が大きかったですね、反省したいので私のお尻を100回叩いて下さい」


「まだ叩かれたいのそんなになってんのにもう……」



 明らかなドMであることはもうこの時点でわかってしまったのであるが、この神界人間も容易に仲間に引き込むことが出来そうだとセラは察していた。


 少なくともこちらを裏切ってマゾ狩り団体の運営に何かを通報するようなタイプではないし、もし何らかの方法で自白を強要されたとしても、そこで受ける拷問に関しては余裕で耐え抜いてしまうことであろうといった感じの者である。


 というかそもそも、ここに収容されている者は神も天使も神界人間も問わず常にドMなのであるから、拷問などしても逆効果であって、むしろ喜ばせるだけという、コッソリと何かをするにはうってつけの長所を持ち合わせているのだ。


 もちろん拷問官がハゲのおっさんクリーチャーで固められ、それによってとんでもないことをされてしまえばさすがにイヤすぎて……ということもあるに違いないが、会話さえままならないあの低俗なクリーチャー共が拷問で何かを聞き出すということ、それ自体がもう不可能に近いことであろう。


 とまぁ、その件に関してはそれで良いとして、セラがその神界人間と話をしている最中、同じようにこのアトラクション体験を終え、サボって歩き回っている者の方を彼女が指差したではないか。


 その指差された神界人間をセラが見ると、なんと鞭で打たれ過ぎたかのように大きく敗れた胸元に、明らかな『印』が見えていたのである。


 1人でやることがなさそうに、ごく暇そうにウロウロしているだけのその収容者を見失わないよう、そして声を掛けるべく立ち上がったセラとな反対方向から、ちょうど良いタイミングでジェシカがやって来る……



「おっと失礼、あなたもここでこのイベントをやり過ごすつもりの方かな? 実は私もそうなんだ、それからそっちに見えるのも私の友人でな」


「あらそう、私、ここに放り込まれて長いからさ、もうこのイベントはこうっ、みたいな感じでさ、あの薄気味悪いハゲ共に悪戯されないような行動パターンを常に取って色々と超回避しているのよね」


「なるほど、いや、実は私達はかなりの初心者でな、ぜひそちらでその超回避行動パターンについてご教授願いたい、ささっ、そこに座って話でもしようではないか」


「良いわね、ホントに暇だったの今回は、ここで出来た友達とかちょっと見つからなくて……あ、ちなみに私の友達、というか私もそうなんだけど、なぜかこの胸のところとかあとお尻とかにこの『印』が入っているのよね、全員よ全員、そういうキャラで集まってさ、もしかしたらこれ何かあるんじゃね? みたいな感じで……」


「その話についてもちょっと詳しくっ!」


「あっ、えっ? めっちゃ喰い付いてきたけどお姉さん大丈夫? この『印』に親でも殺されたとかそういうのじゃないわよね?」


「大丈夫だ両親も兄も健在だし普通にアホだ、私達、実はその『印』を持つ収容者に興味があってな、ほらほらそこへ、どうぞどうぞ」


「は、はぁ……」



 かなり強引にその発見した『印』を持つ収容者の神界人間を連れて行ったジェシカ、この短時間でもう2人の『印』を発見したのだから、ここでの活動は大成果であると言って良いであろう。


 そしてセラと2人、新たに発見したその収容者であって、しかも回りに同じ『印』を持つ者が何人も居るのだという彼女を、半ば接待するようなかたちで話を進めていった2人であった……



 ※※※



 一歩の外チーム、ハゲのおっさんクリーチャーにしか見えない俺は、ミラとマリエルと共に屋台の前で時間を潰していた。


 というかほとんどの収容者が何かに警戒しているようで、この『尻的』の屋台の前を通ろうとしないのである。


 その警戒の原因はおそらく、普段はそこまで命中率が高くないと思しき『尻的』の屋台のハゲが、なぜか2人の収容者をヒットしてキープしている状態にあるのが見えているからなのであろうと推測する。


 ということでターゲットどころではなく、遠くで、もちろん収容者の神界人間には見えないような場所で他の天使から叱責されている表見イケメン天使を眺めているぐらいしかやることがないのであるが……もはや暇でしかない……



「……なぁマリエル、ちょっとだけ解放してやるからさ、その辺で客引きとかして来てくれよ」


「無理ですよそんなの、同じ収容者同士でここに、かなり危険と思しき場所に誘導するなんて、もう怪しいとかそういう次元ではないと思いますよ、敵です敵、嫌われてしまいます」


「まぁ、そうなるよな結局、でもそうなるとあっちのチームの方が大きく活躍してだな、俺のメンツってものがだな……わかる?」


「勇者様、まだメンツとか何とか言っていたんですか? もう地に堕ちましたよ勇者様の名声、今はもうタダのハゲで……あっ、ちょっとまっ、ひぎぃぃぃっ! まっ、真ん中にクリーンヒットしました……」


「ミラはすぐに調子に乗るからな、そんなんだから勇者パーティー全体の名声がだな、って違うか、まぁ良いや、しょうがないから2人が戻って来るまでここで待とうぜ」


「それでも良いんですが……あの勇者様、先程まであそこで同僚らしき天使さんから怒鳴られていたあの仮面でも被ったかのような顔をした天使さんが……」


「……あっ、あの野郎居なくなったじゃねぇか、どこへ行ったんだ?」


「何だかわかりませんが、最後に小突かれた後泣きながらどこかに走って行ったような気がしますね」


「野郎、自暴自棄になって事を起こすのが早まったりとかしないと良いんだが……ちと2人共、目視で構わないから奴を探すんだ、早めに見つけないとやべぇかもだぞアイツ」


「仕方ありませんね、あの内より沸き立つ気持ち悪さを見てしまうと目が腐ったりするかも知れませんが……あっ、早速見つけました、何か屋台に油のようなものをブッカケして……」


「どこだ……アレか何やってんだアイツ……放火だよな完全にもう……」



 ほんの少し目を離した隙に姿が見えなくなっていた表見イケメン天使であったが、あまりにも怒られすぎてどうにかなってしまったのであろう。


 何の屋台なのかわからないがとにかくハゲのおっさんクリーチャーに運営させている、しかもかなり収容者が多く居る辺りの屋台に接近していて、それの裏から油のようなものをブッカケしたところをマリエルが発見したのだ。


 この後何をするつもりなのかということに関してはもう一目瞭然、何やらポケットをまさぐり、とても技術の発展した神界とは思えないような、原始的な火打石的なものを取り出して……湿気ていて上手く着火しないらしい。


 それならひとまずは安全かということで、軽蔑の視線を織り交ぜてその表見イケメン天使がすることを眺めておく。


 徐々にイライラし出したのか、ムキになって火打石をカチャカチャと、しかしただの屍のように反応しない、全く火花を散らすことがないそれは、そこから更に手汗で湿ってしまったのであろうか、耳を澄ませば聞こえてきたそれらしき音もしなくなってしまったではないか。


 というかむしろ、本当にそれは元々火打石として有効なものであったのか、その辺りから疑っていかなくてはならないような状況である。


 もうそんなモノを購入する際にさえ誰かに騙され、全く着火することの叶わない紛い物を売り付けられたのではないかといったところだ。


 で、元々こんなテロを起こそうとするほどであったイライラはより一層大きくなり、表見イケメン天使は怒りに満ちた表情……というか、顔面に厚塗りした何かの加工が剥がれ落ち始めている感じだな。


 バキバキと音を立てているのかは知らないが、とにかくかなりキレ気味である様子は俺達の所へも伝わってきている。


 そして遂にチクショウと叫び声を上げ、それと同時に顔面の加工セット、まるで能面のように分厚いそれに大きなヒビが入り、ボロッと崩れ落ちた。


 大きな声に気付いた天使が駆け寄って来ると、手足をバタバタさせて、まるで子どものように駄々をこねている表見イケメン天使を発見して……そのまま乱暴に蹴飛ばし、罵詈雑言を浴びせ始めたようだ。


 もちろんこの馬鹿にはそうされるだけの理由があるのだが、とにもかくにも放火が未遂で終わって良かったと、要らぬ騒ぎが起こらなくて良かったと思う。


 表見イケメン天使が複数の天使に殴られ蹴られ、その他諸々の暴行を受けた後にどこかへ引き摺られていくのを確認したところで、どうやら約束の1時間が経過したのであろう感じとなった。


 その証拠として、遠くからセラとジェシカと……それから複数の神界人間の気配が、明らかにこちらを目指しているように近付いていることが挙げられる。


 こちらはあの馬鹿、表見イケメン天使の狼藉せいでそれどころではなかった(と、言い訳しておく)のだが、どうやらもうひとつのチームに関してはかなり真面目に任務をこなしてきたらしいということが、ここで単なるハゲとしてオモチャのGUNを構えているだけの無為な存在である俺にもわかった……



「ふぅっ、やれやれやっと交代の時間みたい、それで、こっちは何の成果もナシなわけ?」


「それがさぁ、あの馬鹿野郎がさぁ、自暴自棄になって屋台とかに放火しようとして……ここで突っ立っていた理由? うんそれだけ、他にはないぞ」


「主殿は真面目にやらないと思っていたのだが、まさかミラ殿とマリエル殿が付いていてもなおこれとは……」


「ごめんなさいね、どうもここにはあまり神界人間の方が寄り付かないらしくて」


「確かに、無駄に空いているわねこの辺り……で、せっかく仲間にした後ろの2人がキョトンとしているから、ちょっと中で詳しいことを説明した方が良いわね」


「え、いやあの~っ、どうしてそこのハゲが薄汚い顔面を晒しながら臭い口を開いて喋っているのかということと、あと主殿? ちょっと意味不明なんだけどリアルに」


「まぁ、通常はこういう反応だろうな、まぁとにかくアレだ、こっちで事情を説明をするから交代要員はそのまま外回りに行ってくれ」


『うぇ~いっ』



 ということで外回りをする班と待機班を交代して、戻って来たセラとジェシカ、それに『印』を持つ収容者である神界人間の2人を屋台の中に迎え入れる。


 もちろん迎え入れ方としては、普通に通り掛かった感を出して歩いている4人の尻を、手に持ったオモチャのGUNで狙って……かなり驚かせることに成功したではないか。


 これまでに何度あったかは知らないが、相手の強さというか防御力というか、それに合わせて防御をキッチリと貫通するタイプの攻撃を油断していた尻に貰ってセラもジェシカもその場でしゃがみ込んで悶絶している。


 実に良い気分だということでこの情景を目に焼き付けておきたいのだが、そのすぐ隣で同じ攻撃を受けた『印』を持つ2人の方は反応がイマイチ。


 むしろ攻撃を受ける前の身構え方がアレであった、普通に危険な目に遭うことがわかっていたかのような感じであったなと、今になってそう思う。


 まぁ、2人共このイベントに慣れているのかも知れないし、俺達が初心者すぎるという面があるのかも知れないな。


 で、そんな神界人間の2人に俺達の事情を説明しつつ、さらにあの表見イケメン天使に関する暴露を先にしてやると……どうやら俺がハゲのおっさんクリーチャーでないことの方に強く驚いたらしい2人。


 そして表見イケメン天使に関する暴露に関しては、もう今朝から流れている風の噂でそこそこ知っているとのことで……これはそろそろ奴の『デビュー』の時間かも知れないな……

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