1252 煽り
「……うむ、雑魚天使用の残飯のようなものとはいえ、やはり天使に提供するだけはあって良い食材だったぞ、で、腕の方はもうくっついたのか?」
「あぁ、どうにか今回も腕だの何だの失わずに済んだようだ、この間首を吹き飛ばされたときは死ぬかと思ったが、今回は嫌がらせの中でもまだマシな方だ」
「丈夫だなしかし天使ってのも……それでお前さ、このままで良いのか? こんなに屈辱的な目に遭っていて、しかも顔面もキモくて馬鹿にされていて、果たしてそれで良いのか本当に?」
「いやいや、俺はこの顔面上塗りテクでイケメンに変身する技能を有しているからな、神界人間の子達にモテモテで、それによって満足を得ているのだ、この団体を抜けようとか、そういうことは一切思わないな」
「抜けるとか抜けないとかじゃなくてだ、もっとこう、ステップアップして同等の存在であるはずの天使や、それとか神々から認められたいとは思わないのか? そんな素顔をしているから卑屈になって、向上心ってものをどこかに置き忘れてきたのか?」
「……言われてみればそんな気が……もしこんな俺でも、普通に活躍して何かを成し遂げて、ついでに金もそこそこ貯めて半永久的にまともな顔面になるような整形をして……と考えなくもない、だがそれは難しい、もうめっちゃ追い詰められているしここからどうこうなんて出来やしないさ」
「あーあ、だからダメなんだよお前は、その性格が、考え方が全ての元凶だな、足が臭いのも口が臭いのも、顔面がキモいのだってお前のその今の感じが影響してそうなったものだ、そんなんじゃなくて、やはりもっとこう、団体内で活躍する自分ってのを実現してこそだな」
「無理なものは無理だ、所詮クリーチャーでしかない貴様には俺がどんなに苦労しているのかなどわからんだろう、飯を食ったならとっとと出て行ってくれ」
「はぁ? お前命を助けられておいて何だその言い草は? というか、俺のような機密のアレに触れることが出来たのを誇りに思っていた、そんな優越感に浸っていたような態度だったじゃねぇかさっきまで、それが何でいきなり拗ねてんだよ、馬鹿なんじゃねぇのか普通に? そもそもこっち見んな、気持ち悪いんだよお前の顔」
「・・・・・・・・・・」
イマイチの極みとも言えるこの表見イケメン天使に対しての説得を試みる俺であったが、そもそもコイツはこの状態のまま、素顔のままだと全く自信を持てないタイプらしい。
しかしこのペースで『良い感じ』に調整していくことが出来れば、この後いつになるのかはわからないものの、こちらから何かアクションを起こすことなく、勝手に収容者の前でその素顔を、自信満々で晒して……という方向に持って行くことが可能になるかも知れないと、そう思っているところだ。
もしそれが上手くいったのであれば、当然この馬鹿野郎は神界人間である収容者からの支持を失い、それに伴って何もかもを失うこととなる。
そうなればもう、こんな野朗には用がないし、気持ちの悪いゴミの分際で調子に乗っていたカスであり、無能の極みであるウ○コとして、この結界から追い出されるのを指差して笑ってやるのみ。
きっとその瞬間には非常に清々しい気持ちになることであろうな、それによってこちらの作戦が何か進展するわけではないのだが、障害となる何かが排除されることにつき、マイナスになるようなことはないので問題はない。
そしてそのときの、俺がこれから適当なことを吹き込んで、それによって勝手に得た『自らの素顔に係る自信』というのが吹き飛ばされる瞬間というのはコイツにとって凄まじい絶望だ。
もしかすると放逐されるまでもなく、その場で自決して無様に果てる……などということになるのかも知れないが、それはさすがに止めてやらなくてはならないであろう。
むしろこの馬鹿がマゾ狩り団体を除名などされる際に、足掻くことなく素直に結界から立ち去ってしまうようなこともあり得るのだから、そういったことにならないようにもしなくては。
このクズ野郎に関しては少なくとも、キモ顔の分際で自分を偽ってモテていたことに対する贖いを、その命を持ってして貰わなくてはならないのだから。
で、その破局に向けてもう一歩、こちらから後押ししてやるべく説得を続けるのであった……
「だからお前さ、もうちょっと自分に、本来の自分自身に何かこう、あるだろう? プライドとか何とかさ、というか最初はあったんだろう? それでこの団体に入ったんだろう? きっと活躍出来るものとして、自信満々でだよ」
「そう……だったのかも知れないな俺は、だがやはり能力の方がイマイチであることが、俺にその自信さえも失わせたんだ、それだけは間違いないことである」
「イマイチどころかゼロ以下だよお前の能力……いや何でもない、だがな、こうしてこの団体の最高機密クリーチャーである俺と話をしたこと、もちろん他の連中にはないものを得られたことでだな、ちょっと自信というモノを取り戻してくれよな、じゃないと俺がかわいそうだぜ、最高機密クリーチャーなのによ」
「しかし、自信を取り戻すとしてもどうやってそんな……」
「簡単なことだ、ありのままの自分を周囲に受け入れさせるんだよ、お前は今偽りの自分でのみ、そうである場合にのみ自信というモノを持っていると思う、知らんけどな」
「確かにそんな気がしなくもないが……ダメだわからぬ、もっと俺にもわかるよう具体的に説明してくれ」
「どんだけ無能なんだよこのカスが、だからさ、その素顔で、めっちゃ気持ち悪い顔で、『本当の自分はこれでした、今度からこれでいくんでよろしく!』ぐらいのノリで収容者の前に姿を現すんだ」
「し、しかしそんなことをしたらっ!」
「そう、嫌われてしまうだろうな皆に、これまでお前のことをイケメン天使だと思い込んでいた哀れな神界人間に……だがそれは所詮一時のことだ」
「どういうことだ? 嫌われてしまったらもう、元の信頼を取り戻すことなど出来ようはずもないというのに」
「その考えがもう甘いんだよお前、だからダメなんだ、だからいつまで経ってもその道端で繰り返し踏みつけられた犬のウ○コみたいな顔のままなんだよ、わかってんのかオラ」
「そんな言い草がっ!」
「黙れカス、しかしカスか……お前、この組織の中のカス天使の中じゃかなりマシな方だと思うぜ実際」
「……? どういうことなんだ? こんな片隅に追いやられてしまった俺でさえマシな方であるというのは、果たしてどのような考えからそう思ったのだ?」
「いやだってよ、お前はまだ自分の顔面がソレだってことに気付いて、必死で加工するなどしていたわけじゃねぇか? だとしたらほら、偉そうにその辺をウロチョロしている『少しばかり認められている方』の野朗天使共、自信満々だよな……アレよりはマシなんじゃねぇのかってことだ?」
「なるほど……本来はそこまで能力がないにも拘らず、世渡りの力だけで最底辺の構成員の中でもまだ最底辺の『天使』として扱われているような、そんな奴等よりも俺の方が……」
少しばかり思うところがあるのか、それともそんなことはないと、自分の方が遥かにゴミであるという事実を知りながらも、心のどこかではそうであって欲しくないと思っていてこのような反応をするのかはわからない。
だが本当にもうひと押し、あともう少しだけコイツを、この馬鹿でアホで生き甲斐のない表見イケメン天使の馬鹿をプッシュしてやることによって、自ら破滅の断崖へと足を進めるように仕向けることが出来るはず。
いやそれだけではない、もしやこのペースでコイツを調子付けさせれば、他の団体構成員も巻き込んで一気に全てを失わせることが出来るのではなかろうか。
もちろん『終わる』のはコイツと、それからコイツと同等か少し上程度のカスキャラばかりではあるが、それでも邪魔者が減るというのはナイスなことだ。
しかも完全に終わってしまうことはなくとも、少なく見積もって数日の間はこの腐ったマゾ狩り団体の施設を混乱に落とし入れることが出来るはず。
こんなキモ顔の天使が信じていたイケメン天使の素顔であって、さらにそんな顔をしながら『自分の方が他の野朗天使よりマシだ』などと宣言する。
これで収容者である神界人間、のみならず神や天使の混乱を招かないはずがないのだ、全ての天使がコレと同じように表見イケメン……まぁイケメンなのかどうかは別として、何かを偽って今の姿で居るのではないかと疑わせることが可能になるのだから。
ということでこのままこの馬鹿を押して押して押しまくって、明日の昼ぐらいには破滅への一歩を、多くの収容者の前で踏み出して欲しいと思っているのだが……少しばかり時間の方がないな。
俺はひとまず皆の所、もちろんまずは神々のフロアへと戻って状況の報告と、それから神界人間のフロアへも移動して同じ報告をしつつ、銀髪天使が新たに発見したという『印』を持つ収容者の情報も得ておかなくてはならないのだ。
とんだイレギュラーで今はこのどうしようもない馬鹿と、その馬鹿の部屋にて話をすることになってしまったのだが、そもそもこのこと自体予定にはない行動であって、可能な限り早くカタを着けて元の動きに戻らなくてはならないことであろう。
ならば少し急ぎ目に、多少のゴリ押し……はもうやっているのであったな、とにかく強引にでもコイツに一歩を踏み出す勇気を与えてやらなくては……
「う~む、やはり俺は今のままで、このまま顔面だけ加工してイケメンを偽って……」
「何言ってんだこの野朗、俺が、この団体の最高機密クリーチャーである伝説のハゲが助力してやったんだ、ここで引き返すというわけにはいかないぞ、必ずやるんだ、明日、外のグラウンドのステージで本来の姿を、他のゴミ野朗共よりも遥かにマシなその顔面を晒しつつ、俺は俺でしかないと宣言するんだっ!」
「む……無理だと言ったら?」
「この場でお前を殺す、それだけだ」
「・・・・・・・・・・」
「やるのか殺られるのかハッキリしやがれ」
「……やります、いややってやるとも、この俺が、この団体の最底辺で燻っているのは今日までだ、本当の自分と、その自分の中の自信を取り戻して、必ずや素顔の自分に対する支持を得るのだっ!」
「そうだ、最初はキモがられるのかも知れない、だがな、その状態で本当の力を、あるべき実力を見せ付けることによって次第に評価が得られるんだっ! それだけはこの俺が、最高機密クリーチャーである俺様が保証してやるっ! 知らんけどな実際」
「あぁわかった、俺はやる、この絶望的な日常を覆すためにやるんだ、絶対にやるんだっ!」
「その意気だ、その強い決心がお前をひとつ上の天使にしてくれるんだっ! その熱意、その強い心、ゆめゆめ忘れることなきよう、今日はもうとっとと寝ろっ!」
「おうっ! 何だか知らんがやる気に満ち溢れているぞっ、今日はもう寝ない、これから明日の朝、結構のときまでランニングで汗を流しておくつもりだっ!」
「フッ、それで疲れ切るんじゃねぇぞ、じゃあな本当の漢よ、俺はもうお役御免のようだから、元のゴミ置場に戻ることとしよう、お前の雄姿、きっと見られないだろうな燃えるゴミだし俺」
「しっ……師匠! そんなっ、師匠が……いや、もう何も言うまい、師匠は俺が決心するために、神々があえて僅かながらエネルギーを残した状態で廃棄して……きっとそうに違いない、ありがとう師匠、俺、本気出すよ明日っ!」
「あぁ、それは本当に嬉しいことだ……達者でな」
「師匠ぉぉぉぉっ!」
いつ俺がこんなゴミ野朗の師匠になったのか、承諾した覚えもなければそもそも打診された覚えもないのであるが、それはもうどうでも良いことであろう。
とにかくこれでこの馬鹿へ向けた作戦は終わり、皆の下へ、普通に可愛らしいビジュアルの仲間の下へと戻ることが出来そうだ。
まともな食事としてのチャーハンをご馳走になったのは感謝するが、その程度のことでこの馬鹿の罪が消えたはずもない。
明日、本当に多くの収容者が見守る中でこの馬鹿は全てを曝け出し、嫌われ、二度と名誉が回復することもなく、絶望に打ちひしがれ、そして所属団体も潰された後に正体を表したこの俺によって『死刑』を宣告されるという……なかなかハードな未来になるな。
とにかくまぁ、このことによって少しはこちらの作戦が上手くいってくれるようにと祈りながら、ボロボロの住宅らしい何かを出た俺は元の場所へ、神々のフロアへと戻ったのであった……
※※※
「……みたいなことがあったんだよ、マジで散々だったけどさ、それでも俺の機転によって成果だけは得られ立ってやつ? まぁ皆感謝しろ横の俺に」
「何を調子に乗っているのですか勇者よ、そもそもあなたが銀髪天使の前であのような行動を取らなければですね」
「うるせぇこのおっぱい女神がっ! 俺の言うことが聞けないダメな雌豚はこうだっ!」
「ひぎぃぃぃっ! 取れるっ、おっぱい取れるっ!」
「で、あの後銀髪天使はどこへ行ったんだ? 金髪天使も居ないようだが?」
「どちらも神界人間フロアの皆の所へ行っていると思いますよ、金髪天使さん、一応私達の仲間の所に『印』がある人を集めてくれるそうです」
「うむわかった、で、こっちはもう食事済みと……俺が大変な目に遭っているってわかっていたはずなのに食事なんぞ……こうしてくれるわっ!」
「あひぃぃぃっ! もっとぶって下さいご主人様ぁぁぁっ!」
ということで神々のフロアにおける報告を終えた俺は、今度は疑われるような行動を取らないように、つまりハゲのおっさんクリーチャー然とした行動を取るように注意しつつ、廊下に出て下のフロアを目指した。
すぐに仲間達が、セラとミラ、マリエルとジェシカが放り込まれている牢屋の前まで到達した俺は、そこで金髪天使と擦れ違いながら、超高速で情報を交換しておく、
どうやら新たにゲットした『印』を持つ神界人間の収容者を全て、仲間達の元へ集めることに成功したらしく、多少オマケのような者も居るものの、それは可能な限り少なくしてある、本当に必要最小限であるとのこと。
また、さらなる『印』を捜すために、明日開催されるイベント? がもってこいであるということであったのだが……それに関してはもう擦れ違いざまには伝え切ることが出来なかったようで、後程説明するとの話に留まった。
鉄格子の前で待っていた仲間達と合流しつつ、4人ではなくその周りに居る『印』があったりたまにはなかったりという神界人間がどこまで俺達のことを知っているのかを確認するべきか、いや今は違う。
ひとまずどこか別の場所へ、かなり大所帯になってしまった仲間達を隔離して、外に情報が漏れないようにすることが可能な部屋へ移動するのが先決だ。
となるとやはり、あの表見イケメン天使が使っていた拷問部屋のような場所を使用するのがベストなのであろう。
前回はイベント直後で神界人間の行き来も多く、そんな中でハゲのおっさんクリーチャーや天使などに目を付けられた収容者の行列が出来ていた場所だ。
だが今はもう夜、そのときとは状況が違っているはずだし、最悪でも少し待機すれば中へ入ることが出来るはず。
ということでセラに合図を出し、ジェシカだけは場所を知っているその部屋へむかうことを告げて良い感じに、不自然のないように動き出した。
その部屋へ向かう道中、人気がなくなったところでセラが堂々と話し掛けてきたことを鑑みるに、どうやら付いて来ている全員が事情を知っているらしいということも判明してくる……
「それで勇者様、かなり遅かったのと、金髪天使さんからトラブルがあったって情報を貰っているけど、何があったわけ結局?」
「あぁ、かくかくしかじかでアレでコレで、そんでもってチ○チ○びろ~んみたいな感じでだな、結構大変だったんだよこれが」
「そうなのね、でもそれじゃあ明日にはその、表見イケメン天使? ってのがひと悶着起こして……みたいな感じになるのよね?」
「そうだ、それから明日はもうひとつ、『印』を持つ収容者を捜すのにうってつけのイベントがあるらしいが……そのことに関してもう何か聞いているのか?」
「そういえば金髪天使殿が何か言っていたな、詳細は後でとのことだったが、それよりも……後ろの神界人間達がかなりザワザワしてしまっているぞ、きっと例のイケメン天使の話でだ」
「……そういえばその話をいきなり、何の脈略もなくするのはアウトだったかも知れないな……仕方ない、しばらく静かにしてくれ、事情の方はキッチリ説明するから」
「まぁ、ここで本当にハゲのおっさんクリーチャー^がまともに会話しているということ自体が、ここの方々にとってはかなりの衝撃なんじゃないかとは思いますが……」
「うむ、それに関してもまぁアレだ、ちゃんとイチから説明してやる必要がありそうだな、金髪天使の奴、マジで手抜きやがってこの肝心な部分に関して」
「まぁまぁ、あの銀髪天使さんが居る中で良く頑張っていると思いますよあの方は……勇者様と違って」
「おいそこのダメ王女、覚悟は出来ているんだろうな?」
「ひぃぃぃっ! どうかお許しをぉぉぉっ!」
「静かにっ、2人共ここで騒ぐとまた厄介なことになるぞ、とにかく隔絶された部屋まで移動しよう」
『うぃ~っ』
話をすべきことはまだ色々とあるわけだし、新たに仲間に引き込んだ連中にも詳しい事情説明をしなくてはならないのであるが、ひとまずここで騒ぐのだけはやめておこう。
せっかくイレギュラーな事態もプラスの方向に持って行くことが出来た今日という日の成果を、こんなくだらないことで水泡に帰させてしまってはもったいないのだから……ひとまず、明日の『事件』までは大人しくしておくべきであろうな……




