1247 使い走りに
「え~っと、じゃあその『中』の『5番』の神界人間はもう仲間にしたということなんですね、やはり優秀なお仲間が居るようで」
「おう、それでさ、お前の力でどうにかアレだ、その子も今日から俺達と一緒に行動することが可能なように取り計らってくれ」
「今日中……となるとどうかはわかりませんが、遅くとも明日にはそうなるようにしておきますので、もし却下されたら文書を偽造してでもそうしますのでご安心を」
「なかなか危ない橋を渡ろうとしてんな……だがまぁ、とにかく発見した『印付き』の神界人間は全員、俺のところ、というか金髪天使のところに集めて管理出来るようにしておいた方が良いからな、だからそれともう1人、ちょっと探して欲しくてな、俺が発見したんだがその場にはあの銀髪が居たからな、声を掛けられなかったんだよ」
「承知しました、ではそちらも捜し出して……えっと、サイズと番号は?」
「サイズは『小』で番号は『1番』……だったような気がするな、もう忘れたけど」
「そのように重要な点を忘れてしまうとは、どうしてここまで能力の低い生物の存在が許されているというのですか、この神界以外の場所においては……」
「・・・・・・・・・・」
ナチュラルに、悪意なくディスッてくるこの金髪天使には対抗することが出来ないと感じ、俺は最近身に着けたハゲのおっさんクリーチャーモードで心を殺してその場を耐え凌ぐ。
このモードは余計なことを考えることなく、そして不自然にならないようハゲのおっさんクリーチャーに徹することを繰り返した結果習得し、常に使うことが出来る技として開放されたものだ。
モードを発動してしまえば、俺は見た目通りのハゲとして規定された言葉以外は特に何も喋らず、何も考えず何も感じない、本当にクリーチャーと同等の存在としてそこに佇むこととなる。
その状態であれば、たとえ今のようにメチャクチャな批判をされたとしても生き延びることが出来るし、ディスられた際に受けたショックを引き摺ることもなく、すぐにいつもの大勇者様モードに戻って粋がることが可能ということになった。
もちろん今の姿、臭くて気持ち悪い、生きている価値を微塵も感じないハゲのおっさんクリーチャーに化けた状態でしか使えないモードではあるが、少なくともこのマゾ狩り収監施設に居る間はどうにかなるということ。
まぁ、こんなモードを発動しなくても良いぐらい、普段から皆が俺のことを伝説の賢い大勇者様として崇め奉ってくれさえすれば良いのだが、まだまだ俺の教育が足りないせいか、それを出来るまでに至った者が居ないというのが現状である。
と、そのことはさておき、金髪天使には俺が昨夜発見した、おっぱいに『印』が入った実に貧乳な収容者の特徴、主にベタベタと触れたお陰で判明した身体的特徴を伝え、こちらに関しては可及的速やかに見つけ出しておくようにと命じておく。
そして朝食の時間になったと同時に……やはりというか何というか、タタタッと駆け足の音が聞こえ、今日も銀髪天使がやって来たのであった……
「おはようございますっ! いやはや今日も良い天気ですねこのマゾ狩り収監施設内はっ、あっ、そうそう、今日は午後に『雨の時間』があるようなので気を付けて下さい、収容者を水濡れにしてスケスケにさせるためのイベントですけど、神様方にそのようなことをするのはちょっと申し訳ないので……されたい、というのであればそれでも良いですけどねっ!」
「そうでしたか、今日は雨を降らせるタイミングがあるんですね、午後ということであればここの神様方は基本的に無関係ですが、私は気を付けて動かなくてはなりませんね」
「そうっ、だから忠告してあげたんです、それで、今日もあの部屋に移動して作業をさせるんでしょう? 良いモノを用意したんですよ私! おいハゲ共、とっとと持って来んかいこのハゲッ……チッ、ノロノロしやがって使えねぇハゲだな……あっ、来ました来ましたっ、この部屋の神様方にはこちらをどうぞっ」
「これは……やけに長いお仕置き用三角木馬に、車輪がセットされて移動出来るようになっているのですね、これを何に使うというのですか銀髪なる天使よ」
「えぇ、いくらドMの収容者とはいえ、神様方に毎日、あのような遠い場所への往復で自らお歩き頂くのはどうかと思っていまして、移動手段にこれをと」
「あの、そもそも元はあの時間、お散歩だとか運動の時間とかで……歩くのが普通なんだと思っていたのですが……違うのですか?」
「知りません、ただ何となくこっちの方が良いかなって思ってしまったもので、ですがせっかく用意したので、せめて今日ぐらいはお使い頂けると幸い、というか無理矢理にでも騎乗させますので早くこちらへいらして下さい」
「あっ、ちょっと、あのっ、ひぃぃぃっ! どうして神である私がこのようなっ、クッ……まさかこれで移動するというのですかっ?」
「その通りです、可能な限りガタガタと揺れるようにして差し上げますのでそのつもりで、さぁ、他の神様方もどうぞ、この三角木馬、4乗になっておりますから」
「先輩、先輩は私と参りましょう、神様方はこのような辛く苦しくそして恥ずかしい神輿にお乗りになるとのことですので」
「え、えぇ、まぁ、では金髪天使にドM調教付き連行をお願いして……あまりにもおかしなことはしないと約束して欲しいのですが……」
「大丈夫ですっ、はぁっはぁっ……」
「あまり大丈夫なようには見えないのですが……まぁ良いでしょう」
「では出発します、神様方はご覚悟を、はいGO!」
『ひっぎぃぃぃっ! 食い込むぅぅぅっ! 揺れるぅぅぅっ! あぁぁぁぁぁっ!』
「・・・・・・・・・・」
俺が黙って突っ立っている中で、無理矢理に叩き起こされたルビアも含め、俺達の世界の女神、ロボテック女神、看破の女神、そしてルビアの順で車輪付き三角木馬に騎乗させられ、そのままガタガタと銀髪天使によって引っ張られていく。
この馬鹿はいつまでこうやって本来は金髪天使の仕事であるこの神々の管理を手伝う、というかむしろ主導するようなかたちで関与してくるというのだ。
タイミング的にはそろそろ飽きてきて……などということも考えたのであるが、どうもそのような様子はなく、シンプルに鬱陶しい関与はこの先もしばらく続きそうである。
俺達はそんな中で、おそらくかなりの人数となるであろう『印付き』の神界人間収容者を全部集めて、その中からそのときに応じた、カギとして利用出来る社を抽出して、まだ見ぬこの施設のラスボス的な者の前まで行かなくてはならない。
そのためにはむしろ逆に、この銀髪天使を利用してやるという方法もないことはないかと、せっかく黙っているので歩きながら考えてみる。
コイツは金髪天使のためを思ってこのように鬱陶しいことを、むしろ邪魔にしかなっていないようなことをしているのだから、そこを上手く誘導してやればプラスの作用をしてくれるに違いない。
何か上手い方法はないものかと、考えながら歩いて行くのだが……前をガラガラと進む三角木馬、そこに乗せられた神々とルビアの悲鳴が気になって集中出来ないではないか。
しかも俺達の世界の女神だけは先頭で少しばかり恥ずかしそうにしているものの、基本的には大喜びで、このまま帰りもこれで帰ろうなどと、特にルビア辺りが言い出しそうな予感である。
そうするとこの三角木馬の移動手段としての使用を提案した銀髪天使に、ある種の『実績』のようなものを与えてしまうこととなるのは明らかなこと。
つまり安全確実かつ円満に排除すべき者に対し、さらにモチベーションを上げるような要素を提供してしまうということであって、それは非常によろしくないと言わざるを得ないことだ。
とにかく余計なことをしない、言わないように、後でこの連中には釘を刺しておくべきであって、ついでに罰としてカンチョーでもブッ刺しておく必要がありそうでなさそうでといたっところか……
「あひぃぃぃっ! あっひぃぃぃっ……っと、もう到着してしまったようですね、やはり帰りもこの三角木馬で、ってひぎぃぃぃっ! い、いきなりハゲが鞭を……お仕置きありがとうございますっ!」
「あら、どうしてしまったのでしょうこのハゲは? 急にお仕置きのスイッチが入ってしまったようですが」
「さぁ? バグってしまったのではないですか? それよりも作業を開始させないと、早くこの装置をグレードアップさせて、このマゾ狩り収監施設の結界を強化するのです」
「というかですね、そもそもこの結界増幅装置のグレードアップ、もうとっくに終わっている頃合だと思ったのですが……もしかして遊んでばかりいてまるで作業をしていないとかってことは……まぁさすがにないですよね金髪天使に限って」
「そそっ、そうですよ、全てはこのロボテック神様がっ! もっと行動してっ! 真面目にやれば良い話なのですっ!」
「ひぎぃぃぃっ! あぁぁぁっ! 痛いっ、ごめんなさいもっとぶって下さいぃぃぃっ!」
余計なことをしようとした俺達の世界の女神を制止することは出来たが、そこから話が繋がって、どういうわけか金髪天使がロボテック女神を厳しく罰することになってしまった。
鞭で打ち据えられ、着せられていた衣服がビリビリと破れて背中を露出するロボテック女神は、それはもうドMらしい表情でそのお仕置きを頂戴している。
そしてその光景を見た銀髪天使は、なるほどこのようなことをしているから作業が進まないのかと妙に納得しているような感じだ。
怪我の功名というか、怪我をしているのはロボテック女神ぐらいのものなのだが、とにかくおかしな方向に話が進んだおかげで、ひとつこれから疑いの眼差しを向けられそうな懸念ポイントが勝手に解消してくれたということである。
で、その話はさておきとして、銀髪天使の目を盗んで金髪天使にコンタクトを取らなくてはならないのだが……ここで金髪天使が銀髪天使に話し掛けた、どうやらチャンスを作ってくれるようだ……
「銀髪天使よ、せっかく手伝ってくれるのだからお願いしますが、ちょっとあの、神界人間のフロアで例の4人を、それから新しく管轄に加えたいと申請してあって、通ったかどうかはわからないけど一応こっちで勝手に通ったことにしておきたい神界人間を迎えに行ってくれませんか?」
「えぇ良いでしょう、ではこの私が全身全霊、全速力で行って参りますのでっ!」
「……凄い勢いで走って行ってしまいましたね、それで、先程からその気持ち悪い顔で私の方をチラチラと、まるで変質者が良い女をチラ見するときのように窺っていたようですが……何か提案でもありましたでしょうか?」
「提案はあったが、というかあるんだがその言い方は看過出来ないな、いくら俺のビジュアルがハゲとはいえ、中身は大勇者様なんだぞ、その辺りを弁えてだな……」
「ご主人様、あまりそういうどうでも良い話に時間を掛けない方が良いですよ、あの天使の方、絶対にすぐ戻ってしまいますから」
「……確かにな、で、ちょっと提案があるというのはもう話したな、えっと、この先俺達は『印付き』の神界人間を探していくことになるんだが、そのアクションをあの銀髪天使にさせたらどうだ?」
「というと? どのようにしてそんなことをするよう仕向けるのですか?」
「それはアレだよ、ほらもう流れってかさ、まぁ良い感じにアレしてバーンッと、わかるだろう?」
「要領を得ない話というのはこのようなもののことを言うのですね、というかどれだけ頭が悪いというのですか、もうちょっとこう、わかり易いように説明して頂かないと」
「……自分で考えて良い感じにお願いします、以上! っと、もう戻って来るようだな、結構遠いはずなのに、アイツ光より速く走っていないか?」
セラ達4人の所へ行く、セラ達4人を連れ出す、そしてここへ戻って来るという動作を、どういうわけか2分程度で全て済ませてしまった銀髪天使。
もしかするとコイツは有能なのかと、そう思ってしまうところでもあるが、もし本当に有能なのであればこんなことはしていないし、もっと自分に仕事が振られているはずだ。
よって馬鹿は馬鹿でどうしようもない馬鹿であるという事実は変わらず、単に馬鹿が素早く行動しただけということになるのだが……なんと、昨夜の尻に『印』がある神界人間も連れて来たではないか。
もちろん高速移動に耐え得る4人とは違って、ここまでの道中に気を失い、泡を吹いて危険な状態にあるのだが、まぁそのうちに回復してくれることであろう。
そしてここにこの子がやって来たということは、記念すべき『印付き』収容者の第1号が、早速俺達の所にやって来たということを意味している。
ここからだ、ここからどんどんこれと同じ神界人間を集めて、さらにはこの施設へ連れて来られる途中に攫われてしまったのだという者も助け出して取り込み、俺様の『印付き収容者ハーレム』を形成していくのだ。
最後には俺様がここの王として、ハーレムの大ご主人様として君臨して……という話ではなかったような気がするな。
おそらく本当はもっと別の目的があって、俺達はそのために行動しているのだが……そうか、とにかくこの装置の6カ所にある『祭壇』に、適合者というかカギとなる者をフィットさせて、新たな扉を開かなくてはならないのであった。
そのことにつき、先程俺が提案してやった作戦を実行に移すべく、金髪天使が動き出したようだ……
「なるほど、この神界人間には番号が付されていますね、団体の上層部が何かに使うためにそうしたのでしょうが、本当に気になるところです、そう思いませんか銀髪天使も?」
「あ、ホントですね……でもあまり詮索すると良いことがないというか、余計なことをするなと怒られたりしませんかね?」
「それをあなたが言いますか……いえ何でもありません、しかしこの印、私達の立身出世に繋がるキーになっているような気がしなくもないんですよ、ほら、この神界人間だけではなく、他にも印付きをチラッと見たことがありませんか?」
「そういえば昨夜、目に付いたという理由だけで絡んで、その辺をウロウロしていたハゲにお仕置きさせた神界人間が……いやいや、だからあまり余計なことは、というかどうしてこの印付き神界人間が私達の立身出世に関わってくるんですか? 全然繋がりがありませんよそんなの」
「いえあるんです、私があると言えば不思議なパワーであることになるのです、ほら、銀髪天使もそんな気がしてきたでしょう? やっぱり私達、この印付き神界人間を探して旅を……するほどのことはないと思いますが、少なくともシリーズ全種をコンプリートする必要があると」
「う~ん、言われてみればそんな気も……あっ、ダメダメ、そんなこと考えたら今度こそ窓際からさらに押し退けられて、窓枠を乗り越えて投身……というか追い出されてしまいます、昨日だって燃えるゴミと燃えないゴミを間違えたせいで、またデスクが1㎜ほど窓に近付いて……」
「強情ですね、もしこの印付きシリーズをコンプリートしたとしたらどうですか? どうなると思います?」
「だから怒られて窓から突き落とされて除籍されて……」
「違います、私達はきっと褒められると思います、知らんけど、というかこのシリーズがあることに気付いてそれをコンプリートした天使が、次の課長とかになって一番奥の、逆に窓を背にする位置にデスクを移動されるのではないかと思います、知らんけどな」
「おぉっ! それならもう探すしかないですね、リスクを冒してでも、最後に手に入るものがそこまで大きいものであればっ!」
「そうでしょうそうでしょう、そうに違いありません、マジで知らんけど……ということで早速ですね、昨夜銀髪天使が見たというその神界人間を探してここへ連れて来るのです、良いですね?」
「わかりましたっ! 私と金髪天使が揃って出世出来るよう精一杯努力しますっ、ではっ!」
「……本当にチョロいというか、異常なほどに頭が悪い女でしたね銀髪天使は」
「行動力ばかりあってあんな勝手なことばかりしているうえに意思は薄弱、これはもしかしたら逸材かもだな、使って使って使い倒して、ラストはもうアレだ使い捨てのトカゲの尻尾要員として無様に……まぁそこまではかわいそうか」
「えぇ、ここが滅んだ際にはせめて私と同じ程度の罰で許してあげて欲しくて……それで、こんな感じでどうでしたか? 昼はあの銀髪天使が、夜は暇なので私達が一緒になって探しても良いですし、ハゲの格好であれば単独で動いて頂いても」
「うむ、ナイスな感じに収まったな、これで良いだろうよきっと、じゃあ今日の夜の捜索は……というかセラ達の報告をまだ聞いていなかったな」
「あの後はもう寝たわよさすがに、初日で疲れていたし、暗いから探してもわからなかっただろうし」
「まぁ、それもそうだな、じゃあまた今夜、今日は金髪天使と一緒に行くから」
「わかったわ、じゃあまた前の方でそれらしく待っておくわね」
「頼んだぞ、よしじゃあ今日も頑張って作業している感を出していこうっ」
『うぇ~いっ』
こうして銀髪天使を一時的にではあるが排除し、しかも使い走りに仕立て上げることに成功した俺達であった。
あんな鬱陶しい存在でも、上手く使えばこうなるという前例にもなりそうで良いことだ。
奴が必死になって再発見した昨日の神界人間を連れて来る頃には、そろそろ昼時になっている頃合であろうから、しばらくは安心してここで会話したり、その他のことをしていられるであろう。
で、予想の通り銀髪天使が帰還したのは昼の少し前程度であった、かなり探し回ったのであろう、無駄に息が切れた状態で戻って来た。
肩に抱えたのは確かに昨日俺が発見し、ベタベタ触って『印』を確認した神界人間である……




