1239 装置の秘密
「おはようございます、おはようございます勇者よ、早く起きないと誰かやって来て正体バレしてしまうことになりますよ、ほらっ」
「……ん? 何だ女神かよ鬱陶しい、俺だってたまにはゆっくり寝ておきたいんだよこのほら、ルビアみたいに」
「そんなことを言っていないで早く起きて下さい、遅くまで立っていなくてはならなかったのは理解していますが、それでも……ひっ、いてててっ、頬っぺたを抓るのはやめなさい、ひぃぃぃっ」
「……まぁ、しょうがないから起きてやるとしようか、で、今日はどうするんだ? さすがにまたあの装置の所に全員で行くのはアレだと思うが」
「その辺りに関してはご安心下さい、私が監視役として同行するということで上の了解は取ってありますから」
「金髪天使、お前いつの間に来ていたんだよ? てか上の了解? だったらもう一度アレを破壊して、今度こそ再起不能にしても良いってことなのか?」
「そこまではしないで下さい、そういうことがないようにするための監視役として派遣されるのが私ですから、むしろ絶対におかしなことをしないように願います」
「じゃあどうしろってんだよ? 真面目にあの装置を改修して、この施設自体の防御を強化しろってのか? 冗談じゃねぇぜ、計画の完遂が遠のくだけだ」
「勇者よ、それはもう仕方のないことなのではないですか? そもそも最終目標はそれよりもさらに地下深く、ドM収容者兼マゾ狩り団体の幹部である女神を叩いて、結界を大元から破綻させることになるわけですから、増幅装置だの『M』の力収集装置だのがどうなろうと……」
「まぁ、それもそうか、壊さないようにはするけど、それこそそこら中調べ回って何かその地下深くから繋がっている亜空間への突破口を……みたいな感じかな?」
「えぇ、今日はそうして頂くつもりですし、私もわかっていないような何かがそこにないものかと、色々見ておくつもりでもあります」
「そうかわかった、じゃあとっとと行くか……じゃなくて時間通りの朝食だったんだなここは……」
その後朝食が運ばれてくるまでの間、まだまだ寝ている最中のルビアに悪戯をしたり、鬱陶しい発言をする女神に拳骨を喰らわせたりして過ごす。
知らない天使によって朝食が運ばれてきたときには、もう十分、1日分は余裕でお仕置きされたのではないかというほどにまで痛め付けられた女神と、顔中落書きだらけで眠るルビアが床に転がっていた。
それを見て信頼感というか、朝早くから俺達の所へやって来ていた金髪天使が、昨日ぐらいから少しおかしいながらも真っ当に職務を遂行しているのだと勝手に勘違いし、無駄に頷きながら去って行く。
本当はそのようなことなどないというのに、まぁ普通に考えて敵の連中であって、しかも今朝やって来た天使は野朗なのだから、どうせこのマゾ狩り収監施設が陥落するまでのあと僅かな命なので気にしない。
むしろ『敵を騙すことが出来た』ということを誇りに思って、これからもこのような感じでハゲのクリーチャーとしての俺や、本当はこちら側に付いたにも拘らず、まだマゾ狩り団体の構成員をしている状態である金髪天使の活躍を捏造していくこととしよう。
で、相変わらず高級で、1食のごく一部だけで俺達の世界の国家予算を超越するような内容の朝食に釣られ、落書きだらけのルビアも目を覚ましたようだ。
見ているだけで笑ってしまうような、そんな残念な顔なのだが、ここはひとつ、今日1日をこの顔で過ごさせることにして朝寝坊の罰に代えてしまおう……
「さてと、俺の分のパンのストックはこのベッドの下の私物トレーに隠してっと、おい誰かもうちょっとおかわりをしてくれ、これじゃあまるで足りないぞ」
「勇者よ、そんなことをしたら私達がどれだけデブなのだと、この体型でそんなに大喰らいなのはおかしいと疑われてしまいますよ」
「良いだろう別にそのぐらい、特にルビアと女神、お前らはその胸にぶら下げた脂肪の塊を維持するために相当なエネルギーを必要としているはずだからな、あとその魅惑のケツもだっ!」
「ひぃっ! ちょっとご主人様、食事中にお尻を叩くのはマナー違反ですよっ」
「ほらみろ、ルビアなんぞに怒られてしまったじゃねぇか女神のせいで」
「それ、私のせいじゃないような気が……いえ何でもありません、パンをもうひとつ……5個ですか、持って来るようにお願いすれば良いんですね……いや5個ってクソデブの域に達して……」
「ゴチャゴチャうっせぇんだよ、とっととしやがれこの雌豚がっ!」
「はっ、はいぃぃぃっ!」
ここでパンをストックしておいて、どうにかそこから真っ当な栄養を……などとひもじいことを考えなくてはならないのはもう、あと数日ぐらいにしておいて貰いたい。
というか、この世界ではどうしていつも俺だけが『パンのみ食』を強要されるケースが多いのであろうかと、そんな根本的な疑問もどうにか解消しておかなくてはならないと常々思っているところだ。
で、運ばれて来たパンを俺達の世界の女神が、さぞデブがピザのサーブを受けたときのように大喜びしつつ受け取って、あたかもそれを全部食べてしまう馬鹿を演出する。
たまたまやって来た配膳係の女性天使はそこそこドン引きしていたようだが、女神の豊かなおっぱいとその受け取られたパンを見比べて……コイツはもしかするとすぐに超デブになってしまうかも知れないな。
おそらくはパンを大量に摂取すれば、この女神のようなボディを手に入れることが出来るなどということはないのであって、パンばかり食べていれば栄養バランスが片寄って……今の俺に言えたことではないのだが……
「よしよし、残りは隠してっと、これでしばらくは自然に食い繋ぐことが出来るな」
「勇者よ、パンばかりではなくたまにはライスも食しなさい、バランスが悪いですよ食事の」
「いやいや意味がわからんぞ、干してカッチカチになったのを食えってのか? まぁそういう保存方法もあるんだとは思うが、とにかくパンの方が保存が利くだろうよ」
「そこに隠して食べること前提なんですかあなたは……と、歯磨きをして来ますね、そしたらすぐに出発しましょう」
「おう、俺も行くから順番に使おうぜ……まぁ洗面台はいくつもあるんだがな……」
ということで爽やかな朝の時間を終えた俺達は、今日もあの装置がある部屋へ、ロボテック女神に科せられている刑務作業のようなものに便乗するかたちで移動することとした。
先程までの日常的な感じはどこへ行ってしまったのか、すぐに首輪だの鎖だので繋がれたルビアや女神、そして天使を這い蹲らせ、後ろから鞭で尻を叩きつつ『行軍』するイベントがスタートする。
傍から見れば尋常ではない光景なのであろうが、このマゾ狩り収容施設においては普通に良く見るようなもの。
既にそこら中で同じような感じの女神が、嫌々ながらホンモノのハゲに引き摺られてどこかへ移動させられている最中なのだ。
それと比べると、今目の前で一所懸命に這い蹲りながら尻を振って、出来ればもっと鞭で打って欲しいとアピールしているこの連中は幸せな方である。
だからといって足蹴にしてやろうとか、そのようなことは思わないのであるが、可能な限り痛め付けてひぃひぃ言わせてくれようとは思うのであった……
「オラッ! とっとと進めこの雌豚がっ!」
「ひぃぃぃっ! お仕置きありがとうございますっ!」
「ご主人様! こっちもぶって下さいっ、ほらっ」
「このっ! このっ! あとこういう誰にどこから見られているのかわからない場では『ご主人様』と呼ぶな雌豚がっ!」
「あっひぃぃぃっ! ごめんなさいでしたぁぁぁっ!」
「……あの、失礼ながらこの生意気な豚天使にも鞭をお願い出来ますか? 先程からずっと痛い目に遭わされるのを待っているのですが」
「それはお前、せっかくだから後輩の金髪天使に罰して貰え、ほら、先輩の尻をブッ叩けるチャンスだぞ」
「えぇ、まぁ、そういうことであれば……反省して下さいっ! 全部あなたのせいですからっ!」
「あぁぁぁぁぁっ! もっと、もっとぉぉぉっ!」
「……というか、こんな亀の歩みでは時間の無駄なような気もしますね、このような遊びに興じていないで、早く目的の場所へ、装置のある空間へと移動した方が良いのではないでしょうか?」
「馬鹿を言うな、お前も後でお仕置きだぞコラ、だいたいな、俺達は怪しまれるようなことを一切してはいけないんだ、わかるか?」
「わからないでもありませんが……うん、確かにここでシャキシャキ移動していたらヘンに思われるかもですね、他の神々や天使の収容者も、のんびり鞭を受けながら『お散歩』をしているわけですし」
「だろう? だから俺達も同じようにするんだ、あとアレだ、俺がゆっくり進みながら見ているのはこの連中の尻だけじゃない、ほぼほぼ全裸でお仕置きされながら、グラウンドのようなこの場所で農作業みたいなことをさせられている一般の、神界人間の収容者の姿もクッキリと目に焼き付けているんだよ」
「それは何を目的としているのですか? もしやそこにこのマゾ狩り収容施設攻略のためのヒントがあるとかでしょうか?」
「いや、単純に俺の趣味だ、基本的にいい女、ここに集められているような女がああいう目に遭っているのは面白いからな、種族、人間であるか神であるか、天使であるかを問わずだ……出来ればおれがあの気持ち悪いハゲのおっさんクリーチャーとポジションを代わってやりたいところでもあるがな」
「そんな、ご主人様は私達のお仕置きをあのハゲに任せて、可愛らしい神界人間の子を相手にしたいと言うんですか?」
「だからご主人様とか呼ぶなって言ってんだろこのボケッ! そうじゃないよ、ルビアも俺達の世界の女神も、もちろんそっちの神々や天使も俺のものにしたまま、新たにターゲットを加えたいってことだ、そういう欲望なんだよ」
「でしたら……ここを制圧した後は収容者を全部残して、私とかドSとして有能な精霊様が管理する『ドMアドベンチャーワールド』として観光地化するのはどうですか? もちろんお仕置きされ放題の」
「ドMアドベンチャーワールドか、なかなか良いアイデアのような気がしなくもないな、候補に入れておいて、後で突入して来た仲間達と話し合うことにしよう、どうせ代表者というか代表取締役というかは仁平に任せないとならないんだからな」
「勇者よ、あなた神界のリソースをそんな勝手に……ひぃっ! ごめんなさい調子に乗りましたっ!」
などという話をしつつ、調子に乗りすぎた女神はもう四つん這いで自力歩行させるのすらやめさせて、肩に担いで枚歩ごとに尻を引っ叩きながら先へ進んだ。
そしてようやく到着した装置、このマゾ狩り収監施設に収容されている者から集めた『M』の力を、そことは別の空間で結界を形成しているドMであってマゾ狩り団体の幹部であるという女神の力に追加する謎の装置がある部屋へと辿り着いた。
暗がりの中でロボテック女神が明かりを点け、今日も今日とてそれを強化し、より効率良く堅固な結界を作成してしまうような装置に作り変える作業を始める。
元々俺達の力でも、仁平のとんでもないパワーでさえも打ち破ることが出来ない結界……ひとまず『超Mスタイル結界』とでも呼んでおこう、それをさらに強化するというのはもう、どうかしている奴の考えにしか思えないのであるが……
「え~っと、今日の行程は……試しに、テストとして『M』の力を注入してみることですね、これで結界が強化されればおおよその完成と、もし失敗したら……公開で鞭打ちの刑に処されるそうです、なんとしてでも失敗したいところですね」
「ロボテック女神お前、それは俺達の計画の妨げにならないように失敗して欲しいのか、それとも公開で鞭打ちされたいからそうなのか、ちょっとハッキリして欲しいところだぞ」
「そんなの後者に決まっているじゃないですか、外のグラウンドのようなあの場所で、全収容者を集めた状態で懲罰を喰らうと……しかも自ら歩いて壇上に進んで、そこでお尻をペロンッと出して鞭打ちのお願いを……などということになればよりナイスですね、興奮します」
「このクソドMが、だからお前のような奴は……作業開始の前にここで同じことをしてやる、こっちに来てパンツを降ろして、尻だけペロンと出してみろ」
「はっ、恥ずかしいですこんなこと、でもそうせざるを得ないのであれば……あの、どうぞ鞭をお願い致します……あぁっ、痛いっ、もっとぉぉぉっ!」
「・・・・・・・・・・」
人語を解さないハゲのおっさんクリーチャーではないが、思わず閉口し、結果としてそのような振る舞いをしてしまうような光景。
あとどれだけの間こんな変態共の相手をしなくてはならないのかと思う俺の目の前に、というか罰を受けるロボテック女神の後ろに、ペロンッと丸出しにされた尻が順番待ちをしているのがもうアレな状況だ。
そして今はそんなことをして遊んでいるほど暇ではないことぐらい、アホすぎてヤバいルビア以外の全員がわかっていることなのだと思うが……まぁ、わかっていてもそういう行動を取らないのがこのドM達なのであろう。
仕方ないので全員を順番にシバき倒してやって、満足したのであろうというところで改めて『作業』の指示を出すこととした。
見つけて欲しいのはこの装置のおかしなところや、この装置の下に接続されているという亜空間への移動のためのヒントの類だ。
それをひとつでも見つければ、俺からのご褒美として直々に、手で尻を100回ほど引っ叩いてやると告げたところ、全員、いや俺達の世界の女神だけは少し恥ずかしそうな顔をして戸惑ったのだが、とにかく一気に作業を開始したのであった……
最初に何かを見つけてきたのはルビア、この装置自体に詳しいロボテック女神がトップに躍り出るはずだと期待していたのだが、研ぎ澄まされたMの嗅覚というのはそれを凌駕するほどに凄まじいモノなのであろう。
で、そんなルビアに手を曳かれ『ここに何かある』との首長に耳を傾けつつ向かった先は巨大すぎる、しかし巨大といってもその使用目的にしては小さい装置の裏側。
その裏側に、不自然にツギハギをされたような場所があって、そこの表面の金属部分を無理矢理に剥がすと、中から何やら祭壇のようなものが出現したのであった……
「ほらご主人様、これはかなり激アツだと思いますよ、というかもうほぼ確定なので、今すぐにお尻を叩いて下さい」
「まぁ落ち着け、そこで尻を出して四つん這いになっていて……いやその尻を貸せ、どうやらこの謎の祭壇に関係があるようだ」
「お尻がですか? どうぞどうぞ……って何に使うんでしょうか?」
「いやそれがほら、この祭壇の文字を見ろ、俺達にも読める文字で書かれているんだが、生贄……じゃなくて生尻を捧げよって、それのことだろう今そこで丸出しになっている」
「この生尻じゃなくて生尻なんですかね? まぁ、ここの確かにお尻のようなくぼみにべタッと……どうですか?」
「……いやすまなかった、赤く光って『この生尻ではありません、カンチョーします』と書かれているぞ上に」
「あら、そうでしたか、それは残念なこと……はうっ!」
間違った生尻をその祭壇に捧げてしまったことで、その生尻の主がカンチョーされるという、どうしようもなく馬鹿馬鹿しい結末に至った。
まぁ、有益な情報ではあるようなので、ルビアにはご褒美として、その場でそのカンチョーされたばかりの生尻を平手でビシバシと……これを受けてもう大喜びのドMである。
で、同じようなものがないかと他の連中にも捜索をさせると、その生尻を捧げるための祭壇がさらにふたつ、ロボテック女神と俺達の世界の女神の手によって発見されたのであった。
それとほぼ同時に、その祭壇があった場所と少しズレた位置の、しかも高さ的にもかなり上になるポジションに、今度は『生贄』と『生尻』などの捻りもまるでない、『生おっぱい』を捧げよと記載された祭壇が、それぞれ看破の女神とそのお付きの先輩天使、金髪天使の手によって発見されたのだ。
これはもうこの場所から移動するために必要となるカギ、何らかのヒントであると考えて良さそうだし、物語上そうでなかったとしたら詐欺である。
というわけで早速、それが何であるのかをロボテック女神に調べさせて……その前にお仕置き、ではなくご褒美が欲しいようだなこのドM達は……
「オラッ、ご褒美を貰ったらすぐに作業に戻れっ、このどうしようもない生尻共がっ!」
「ひぃぃぃんっ! あのっ、今日帰ったらもっとお尻を叩いて下さいっ、私? マゾ狩り関係者とかもう辞めても良いですからっ!」
「何言ってんだお前はっ! このっ、もうちょっとぐらい我慢してそのままの立場にあり続けるんだっ! 雌豚がっぁぁぁっ!」
「あひぃぃぃっ!」
「……で、結局これは何なんだよ? ロボテック女神、お前ならわかるんじゃないのか?」
「えぇ、おそらくはすぐに判明することかと思いますが……あまり余計なことをすると警報が作動してしまいそうですね、さっきのテスト、1回目だったのでまだセーフでしたが、2回目となると本格的に通報されますよきっと」
「セーフというか、ルビアがカンチョーされてんだが……まぁドM界隈ではそれがセーフのうちに入るのか、うむ、単にカンチョーされただけだからな、それだけなんだ……異常だろお前等……」
「とにかく調べてみますので、今は手を出さずにおいて下さい、せっかく発見した解決の糸口を台無しにしてしまう可能性がなくもありませんからね」
「わぁ、じゃあ頼んだ、皆、しばらくここで見ておこうぜ」
3ヵ所ずつ、合計6ヵ所あることが判明した謎の祭壇、それが一体何であるのか、それはロボテック女神による分析ですぐに判明することであろう……




