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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1238 地下の地下には

「う~ん、どうしましょうか……先輩や神様方に従えば、私はこの団体を裏切ったことになるし、かといってこのことを報告すれば先輩が……困りましたね、どうしようもない状況ですよこれはちょっと」


「何だよ? 困ることなんかないだろう別に、だってここで俺達の味方に着く以外の選択肢を取ったらだな……まぁ、わかるとは思うが……」


「えっ? ちょっとわかりかねるのですが、ここでこちら側に所属して、団体を裏切る以外の選択肢を取るとどうなってしまうというのですか?」


「それはもう、酷いことになりますね、もしこちら側に所属しないのであれば、このまま敵対して団体側にこちらの動きを通報するということになりますから、こちらが勝利を収めた後にはもうアレです」


「少なくともこの外、目立つ場所に吊るして半ば処刑のような状態で1万年ほど……というのは確定ですね、その後どう処理するのかはまぁ、1万年経過してから考えれば良いでしょうが、その後10万年ほどは許されることがないでしょうね」


「ひえぇっ、じゃ、じゃあその……先輩や先輩の所属する側の神様方に味方します……味方しますので、マゾ狩り団体が壊滅した後もどうか、あまり酷い罰は与えないで頂きたく……」


「その辺りはその、私も同じ立場になるわけですから……とにかく味方して頂けるというのであればですね、早速団体に所属したままの諜報活動をお願いします」


「へへーっ、何なりとお申し付け下さいませっ」



 こうして半ば脅迫するようなかたちで仲間に引き込んだ金髪天使は、なるべく正体がバレてしまわないよう慎重に使用していくべき存在だ。


 諜報活動をさせるのは良いが、おそらくヘマをして敵に捕まった際に、拷問されればまたコロッと、今度はこちらの情報を吐く側に回ってしまうに違いない。


 それはここでの態度などからも容易に想像できたことであるから、敵が、もしこの金髪天使をスパイとして捕縛した敵がその前に立った場合であっても、すぐに気付いてそこを突くことになるのは明らか。


 それゆえこちら側のみ肩になっていることが極力露見しないよう、マゾ狩り団体におけるこの金髪天使の行動可能範囲内においてのみ諜報をさせるつもりであるが……果たしてコイツはどこまで中枢に近付くことを許されているのであろうかといったところ。


 まず、看破の女神お付きの『先輩天使』がそこまでの情報を持っていなかった、この団体の幹部であるという『謎の女神』からの指示が音声のみによるものであったということを考えると、やはりこちらの金髪天使もその程度であると考えて良さそうだ。


 だが、先輩天使と金髪天使で違いがあるのは、やはり何といっても『ドM堕ちかつマゾ狩り団体からの離脱』の有無である。


 完全に収監される側、ドMとして団体から責められる側に回ってしまった先輩天使とは異なり、金髪天使はまだその職権を維持したままなのだから、それを利用してもう少し情報を、可能であれば団体幹部クラスである謎の女神の情報を、といった感じか……



「……で、早速だがお前に指令を出す、良いな?」


「良いですけど、あなたのようなハゲクリーチャーモドキに命令されたくはありません、その臭い口を二度と開かないで下さい、神界にとっての損失になります」


「・・・・・・・・・・」


「ご主人様、ディスられたくなかったら少し静かにして、ここは本当の神様に指示を出すとかそういうことは任せた方が……ご主人様?」


「・・・・・・・・・・」


「ダメです、いきなり暴言を吐かれたのが相当にショックだったようで、完全にハゲのおっさんクリーチャーに戻ってしまいました、もう二度と元に戻らないかもしれませんね」


「その場合には一度リセットして、セーブした所からやり直せば良いのですよ、勇者には必ずそういう機能があると言いますから……ちなみに、もちろん私を崇め奉る教会にはちょくちょく足を運んで……いましたよね?」


「あの女神様、ご主人様はきっと王都にそのような施設があったことさえも知らないんじゃないかと」


「困りましたね、これはどうにかして元に戻って頂かないとなりません」


「あの、そちらの神様よろしいでしょうか? そこで本当の物言わぬゴミになったゴミのことよりも、私に対する指示の方をお願い出来ますでしょうか?」


「あっ、そうでしたね、ではどうしましょうか……ひとまずですね、私達が少し破壊してしまったあの装置、その下に居るという神の存在について、さりげなく上司に確認するなどして解明して来て下さい」


「いきなり難しいことを仰いますね、ドMの分際で……というのは失礼でしたね申し訳ございません神様、そういうことであればすぐに調査を開始致しますので、今しばらくここでお待ち願います」


「……行きましたね、本当に大丈夫でしょうかあの天使?」


「もし大丈夫でなかった場合には、私が彼女の先輩としてその罪の半分を背負いましょう、というか背負わせて下さいお願いします、それから……大勇者様はいつまで呆けているのでしょうか?」


「まだ元に戻らないようですね、まぁ、この後また食事の時間がありますから、しばらくはそのまま、ハゲのおっさんクリーチャー状態で過ごして頂いても良いでしょう」


「・・・・・・・・・・」



 結局生意気な金髪天使が去った後も、誰も俺を助けてくれずに時間ばかりが過ぎ、そして時刻は夕方、夕食が運ばれて来る時間となった。


 そこであまりの良い匂いに意識を取り戻した俺は、しばらく辺りの様子を確認して、配膳に来ていた天使が立ち去ったのを確認した後、本来あるべき姿へと戻る。


 しかしどうやらおっさんクリーチャー変身用のハゲメガネズラを取り忘れてしまったようで、ルビアから何をしているのかと、真顔で問われてしまったではないか。


 もしかするとここでの生活のせいで、俺の中にハゲのおっさんクリーチャーとしての人格のようなものが形成されつつあるのではとも思ってしまうような現象。


 そしてそのハゲのおっさんである第二の俺が、自信に満ち溢れた大勇者様である俺を侵食して……ということになってしまえばもうひとたまりもない。


 そうなる前に、そのような事態に陥ってしまう前に、とっととここを壊滅させて脱出し、ハゲの姿を完全に捨て去らなくてはならないであろう。


 などとルビアの食事からパンのみを拝借し、それを齧りながら考えていたところ、ちょうど派遣していた金髪天使が、あたかも巡回に訪れた見張りの天使であるかのような雰囲気で帰還した……



「ただ今戻りました、ちなみに便宜上鞭を持っていて、先輩や神様方を打ち据える予定ですが、それで構いませんか? もちろん後で仕返しして頂いて構いません、私、やっぱり本当はドSなどではなかったもので」


「そうですね後輩よ、正直になるのは良いことです、しかし……この場であなたにそのようなことをされたくはありませんね?」


「どうしてでしょうか? 先輩も含めて、ここの方々はそのハゲモドキを除いて全員が、あのキモいクリーチャー如きに責められて喜んでしまうようなどうしようもないM、略してドMだと聞いているのですが?」


「ドMってそういう省略の果ての言葉だったのか……いや違うだろう、てか金髪天使お前、調子乗ってんじゃねぇぞコラ」


「何なのですかあなたはっ! いくらクリーチャーじゃなかったからといって、その、何というか下等な存在であることが雰囲気から丸わかりの状態で、天使たる私に対し言葉を、しかもそのような失礼な言葉を吐き掛けるとはっ! 許し難いことですよこれはっ! 死になさいっ!」


「……ですから後輩よ、私達はそのハゲ……ではなく大勇者様にお仕置きされて喜んでいるのです、そして本当のハゲなどには何をされても嬉しくない、むしろ不快極まりないと、ここの収容者がそう思っていることを思い知らされてもいます」


「どういうことですか先輩? まさか先輩、こんなハゲモドキの術式でおかしく……いえ、コレからは魔力の類は感じませんね、では一体どうして?」


「それはあなたもそのハゲ……ではなく私が管理する世界の勇者によって責められればわかることです、さぁっ」


「ちょっ、何をするのですか神様、あなたドMなのに、マゾ狩り団体に所属する者を無理矢理に押さえ付けるなど、倫理違反以外の何物でもなくてっ……ひぃぃぃっ! ハゲモドキが近付いて来たぁぁぁっ! やめてぇぇぇっ!」


「やかましい奴だな、そういう近所迷惑な金髪天使には……こうだっ!」


「ひぎぃぃぃっ! お尻いったぁぁぁっ!」


「まだまだ、100叩きするまで終わらないからな、この俺様をディスッたこと、地獄で後悔するが良いっ! オラァァァッ!」


「きっくぅぅぅぅっ! おっ、お許しを、どうかお許しを……ひゃぁぁぁっ、あっ、でももっとお願いします」


「やっぱりお前もドMなんじゃねぇかぁぁぁっ!」


「あっひぃぃぃんっ! ごめんなさいでしたぁぁぁっ!」


「ようやく理解してくれたようですね、これであなたも真の仲間です、これからよろしくお願いします」


「へへーっ!」


「・・・・・・・・・・」



 何がどうしてそうなったのか、そしてだから何なのか、本当にツッコミ以外何も入れられないような展開であったのだが、先程俺のことを散々ディスってきた金髪天使が、目の前でひぃひぃ言っているのは見ていて楽しい。


 もっとも、この程度のことでこれまでの罪が、マゾ狩り団体などというゴミ組織に所属してきたことだけでなく、なんといってもこの俺様に失礼な態度を取り続けた罪が許されることはないのだ。


 以降、マゾ狩り団体崩壊後もこの金髪天使は責め続け、最終的には俺の前で全裸になって、毎秒2,000回は土下座し、罰を与えてくれたことに対する感謝の気持ちを表現し続ける状態にしてやりたい。


 などと考えながら、もう取り押さえていなくとも大人しくなった金髪天使の尻をビシバシと引っ叩いて……と、こんなことをしていても何も話が進まないな。


 今はただ、コイツがマゾ狩り団体の構成員として掻き集めてきた情報を俺達に提供させることを考えなくてはならないのだ……



「おいっ、このっ、ちょっとこのままさっきの質問に答えろっ、変態天使めがっ」


「あうっ、ごめんなさいっ、えっと……集めて来た情報のことでしょうか?」


「それ以外に何があるんだよ? お前、それさえも察することが出来ない無能雌豚だったのか? マゾ狩り団体が聞いて呆れるぜ、先輩のストーカーばかりしている奴はやはり頭の出来も違うみたいだな」


「もっ、申し訳ございませんっ! しかし集めて来た情報は確かなもので、しかも有益であることだけは自信を持って言えます」


「天使よ、あなたまだまだドMとしてイマイチですね、雌豚はそのように自分の手柄を自分で誇張するようなことはしません、どれだけ活躍しても、自信なさ気に『役立たずのゴミで申し訳ございません』と言いながら成果物を提出するものですよ」


「いやそこまでしろとは言っていないんだが……それで、どんな情報をゲットして来たのか、早く教えろこの雌豚がっ!」


「ひいぃぃぃっ! はい、実はその、部署のかなり偉い天使に聞いたのですが……」


「部署? マゾ狩り団体も通常の企業のように組織化されているってのか?」


「えぇもちろん、私が所属していたのはこのマゾ狩り収監施設全体の維持管理をする所で、だからあの装置がおかしくなったこと、それが先輩達の仕業であることをすぐに知って……」


「現在に至るということカ、それで、そこの上司からはどのような内容の話を?」


「えぇ、何というかその……装置のある部屋からさらに地下深くに収監された、ドMでもあってマゾ狩り団体幹部でもある女神様の話を伺うことが出来ました、かなりのトップシークレットなのだそうで」


「……それ、マジの情報なのか? トップシークレットなのに、おそらく中堅の天使であろうお前にそう易々と教えてしまって良いのか? おかしいだろう色々と?」


「そこはかなり頑張ったので、というよりも完全に餌で釣ったというか……後程あの装置の件でやらかした収容者、つまり先輩や神様方に対する罰が予定されていて、その執行に関して、本来は私に権限があったんですがそれを……」


「それを、もしかしてそのエロそうな上司に委譲してしまったと、その代わりとして、以前から気になっていたなどの理由であの装置のさらに下の亜空間や、声だけの出演となっている謎の幹部について聞いてみたと……そういうことか?」


「えぇ、鼻の下を伸ばしてヘラヘラと答えてくれました、ナイショだと言いながら、金庫の中の資料まで持ち出して詳細を……あ、これがパクッてきたその資料の1枚です、当該女神様のプロフィールが入っているようですね」


「……いやちょっと待て、その情報はあり難いんだがな、だがお前、ここの連中をその上司に売ってしまって……どうなるんだよこれ?」


「そうですね、本来はあのハゲ上司、まぁ私がハゲを蔑む原因になったような存在なのですが、アレはここの神様方や先輩を自分の執務室に閉じ込めて、数日掛けてジックリと鞭打ちを……などといやらしいことを考えていたようです、先程までは」


「先程までは? というとアレか、考えを改めて真面目にでもなったってのかいきなり?」


「いいえ、私がマゾ狩り団体のプレミアムな機密の漏洩に関して、もっと上の、それこそ神様の構成員に通報しておいたので、今頃は団体を除名されるなり何なりして、結界の外に追い出されていることでしょうね」


「そういうことなのか……というかその場合、追放じゃなくて処刑だろうが普通は、どうして殺さないんだよそんなクズ?」


「勇者よ、神界では犯罪者に対する処分がかなり甘かったこと、忘れていませんか? 勇者パーティーが元の世界と同じようにムチャクチャをしているのと、ホモだらけの仁平がムチャクチャなので忘れがちになるかも知れませんが……」


「……そういえばそうだったな、しかしそんな感じで潜在的にこの後の憂いとなりそうなキャラを生かしておいて良いものなのかと、そういうのはやはり皆殺しにしないとならないんじゃないかと、俺はそう思うんだがな」


「わかりました、では今後このようなことがあれば、その際の敵は確実に滅びる、または死亡させることが可能なように取り計らいます……それで、こちらの情報源をお納め下さい」


「うむ、では預かっておこう、どれどれ……」



 金髪天使が持ち帰ったあの地下の謎の神の情報、それが女神であって、しかも声だけの出演でマゾ狩り団体の上層部に君臨していた者であることがわかったのは大きい。


 しかもその声だけの謎女神が、まさかドMでありながらマゾ狩り団体の幹部でもあるという、かなり特殊な存在であるということなど、普通にしていれば絶対に知ることがなかった情報であろうな。


 そして、この情報ソースを見る限りではその女神はあの装置の地下深く、そこからさらに接続された別の亜空間に『収監』された状態で、かつ団体の構成員に指示までしているという状態にあることがわかる。


 残念ながら肖像画などの類は掲載されておらず、持ち出しに失敗したらしい別の資料の中にあったのだというが、金髪天使曰く、本当に美しい女神であったとのこと。


 つまりとっ捕まえて罰を与えるにはちょうど良い存在だな、縛り上げて収容者の前に引き出し、『お仕置き』してやることによって、この施設の崩壊をより強く印象付けることが出来るのだ……



「……で、早速コイツを捕まえに行くか? それとももうちょっと準備を重ねるべきなのか?」


「今すぐに、というわけにはいかないでしょうね、取巻きの神々も多いでしょうし、その幹部ドM神様? の強さもまるでわからないような状態では、きっとどこかで攻めあぐねてしまうでしょうから」


「なるほど、じゃあもうちょっと情報収集をして、それからその地下施設に……どうやって侵入するんだ?」


「そこも問題ですね、やはりマゾ狩り団体の上位の神々でなくては、そこへ入ってどうこうするわけにもいかないと思いますので、侵入するにしても困難が付き纏うでしょう」



 リーチではあるがその先のツモ牌が見えてこない、なかなか引き当てることが出来ないような雰囲気になる予感。


 もちろんキッカケさえ掴んで、その先も安全であるということがわかれば一気に……という感じになるのだが、なかなかそうもいかないであろうといったところ。


 まずはこの先の障害になりそうなものをまとめてみて、ひとつひとつクリアするための方法を探していくしかない状況なのであろう。


 そこまで話したところで、どうやら消灯の時間になってしまったようなので、ひとまず全員を搔き集めたベッドに詰め込んで、金髪天使は帰らせることとした。


 ベッドの中で横になりつつ、傍らに立っている俺に話し掛けてくる神々やルビア……は速攻で寝てしまったのか、あとは天使なのだが、いくら話をしても解決の糸口が見つかるようなことはないであろう。



「……まぁ、ひとまずはもう寝ようぜ、話は明日になってからだ」


「そうですね、それから、どうせ私は明日もあの装置のバージョンアップをさせられるんだと思いますから、またそこで何か仕掛けるのも良いかもです」


「あぁ、今度こそおかしいと思った下の神が乗り出して来て……と、そもそもその神自体が収監されている感じなのか……困ったなこりゃ」


「しかし勇者よ、どうしようもない状況ではないように思えますよ、少なくともその何者かの正体がわかっただけでも進歩です、さぁ、早く寝ましょうか」



 そういって眠りに就く女神と天使であったが、俺だけはどうしても怪しまれないよう、ウロウロしている天使やおっさんの気配が消えるまで、ずっと立っていなくてはならないことに配慮して欲しかったとは思う……まぁ、コイツには無理か……

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