1232 探索開始
「……あの、痛そうにしているところ申し訳ありませんが……少しお話よろしいでしょうか?」
「……えぇ、実はそこまで痛くはありません、というかハエでも止まったかのような物足りない鞭ですねこれは、まるでお仕置きになりませんよこれでぶたれたところで」
「もっとハードなモノを所望している……ということなのでしょうか? それでしたらその、なぜかクリーチャーの格好をして、そのような、何というか激クサなオーラまで放っている従者の方にお願いした方が……」
『・・・・・・・・・・』
「あっ、ごめんなさいね、このことはきっと私以外の何ものにも看破されていないかと存じますので、何か隠していることがあるというのであればそのままで構いませんよ、誰にも言いませんし、それから……」
「もし私達が何かの計画でここに来ているのだとしたら……協力してくれますか?」
「その内容にもよりますが、おそらく、いえ確実に悪いことは考えていないということぐらい私にもわかってしまうことなので、微力ながらご協力差し上げたいと思います……そちらの従者の方もそれでよろしいでしょうか?」
「……まさか俺の正体がバレバレだったとはな、お前のようなやべぇ神が敵でなくて良かったぜ、ちなみに俺様は従者などではない、むしろこの雌豚がっ!」
「ひゃいぃぃぃぃんっ!」
「この俺様の従者で奴隷で所有物なんだっ! オラァァァッ!」
「ひぎぃぃぃぃぃっ!」
「そ、そういうことなのですね、さすがの私もそこまでは看破出来ずに……いえ、中途半端な神の力で申し訳ありませんが、もしよろしければ詳しいお話など伺えないでしょうか?」
戦う力などは一切持ち合わせていないものの、凄い洞察力、というか特殊能力で俺達のことを見抜いてしまった看破の女神。
コイツが本当に味方なのかどうなのかはともかく、隠し事をしているだけ無駄であって、話すべきところまでは話さなくてはならないというのは確定であろう。
ということで一旦ルビアを鞭打つのをやめて、2人で独房の壁際に移動してその女神にこちらの情報を、ザックリな感じで伝えていく。
まずはルビアが純粋な神ではなく、元々はどこかの世界のしょうもない人族であって、神々を取り込んでこのような神聖なるオーラを放っているということを告げると、それにはさすがに看破の女神も驚きを隠せない様子であった。
また、俺達はつい最近ここに連れて来られてしまった俺達の世界の女神と、それから一時は敵として捕縛したものの、マゾ狩りハンター神との戦いに置いて活躍したロボテック女神を取り戻すために潜入したことも伝えておく。
もちろん俺がおっさんクリーチャーなどではなく、本当はもっと大勇者様然としたビジュアルの者であるということも教えておくのを忘れない。
今の俺は大変に残念な見た目であって、傍から見ればキモくてハゲで腹の出ている中年のおっさんであって、傍から嗅げば激クサの、悪臭漂う汚物であるということを知っているため、それだけでも否定しておく必要があったのだ……
「なるほど、つまり仲間内、いえ最近よく話を聞くホモだらけの仁平一派の中で選ばれた究極のドMと、それから最もハゲのおっさんクリーチャーに似ているそこの者……勇者が代表してここへ……」
「いやハゲのおっさんクリーチャーに最も似ているってのは余計だ、純粋な野郎キャラが俺しか居なかっただけで、なぁルビア」
「はいハゲのおっさんクリーチャー様、最も似ているなんてそんな、そんな……ぷぷぷっ」
「……せっかくだからお尻ペンペンしてやる、こっちへ来いっ!」
「ひぃぃぃっ! もっと、もっとぉぉぉっ!」
「全くしょうがない雌豚だな……で、俺達はこんな感じなんだが、あの天使がここを離れるのはこういう時間と、それから夜中ってことで良いのか?」
「えぇはい、きっとお仕置き係に天使が選ばれている場合には、夜になればしかるべき場所に引っ込むものだと思います、ですが一般的にはハゲのおっさんクリーチャーが付いているのが普通ですから、その場合には24時間体制で責められまくることになるでしょうね」
「なるほど、そして今の俺はその24時間稼働のバケモノであるってことか……何らかの理由でそのバケモノが夜中にこのフロアをウロウロすることがあっても、それはそれでおかしいことではないよな?」
「おかしくはないと思います、先程から感じ取っている限りでは、クリーチャーが一度誰かの独房を出て、どこかで特殊なお仕置きアイテムを持って戻って来るようなことが……あ、きっと倉庫のような所へ行っていますね、このフロアの向こう側の奥です」
「ふむ、それならそれで良いな、夜中を待って、何かを取りに行くような感じで行動開始だ……っと、食事係がやって来たようだな、俺はしばらく黙ってルビアの尻を引っ叩いておこう」
「あうぅぅぅっ! もっとお願いしますぅぅぅっ!」
この段階ではかなり上手くいきそうであって、夜中になれば俺が一時的にここを離れ、独自の調査を開始することも出来そうな感じだ。
食事は女性の天使らが台車に乗せて持って来て、それぞれの独房の前で『本日のお料理』に関する説明をしつつサーブしているようだが、収監されているとはいえ神に対する礼儀は尽くしているらしい。
ルビアの前に運ばれてきたのも大変に豪華な料理であって、そのワンプレートごとが高級、前菜のサラダだけでも産地に拘り、おそらくおは俺達の世界の王国の、国家予算をもっても半分程度しか用意出来ないようなひと皿である。
そんなモノを毎日食すことになるルビアが堕落してしまわないか、もう作戦などどうでも良くなって、ここでずっと暮らそうなどと思ってしまわないかが恐ろしいこと。
そしてもうひとつの恐ろしいことは、食事など与えられず、その限界まで稼働し続けた後に廃棄されるのであろう俺のようなクリーチャーには、何ら食事のようなものが用意されないということでもある。
ルビアはアホなので、提供された料理を1人で全て平らげようと考えているらしく、まずはスープに手を付けながらご満悦の様子。
幸いにも給仕係の天使……おそらく天使のフロアに収監されているドMなのであろうが、それは給仕を終えるとともにどこかへ行ってしまったのだが……ルビアをどうにかしない限り、俺の食事はまったくないままである……
「おいルビア、ちょっと、そこのパン(おかわり自由)をひとつ俺に寄越せ、後でまた天使が回って来たときに注文すれば良いはずだから」
「仕方ありませんね、ご主人様、食べ物を恵んで貰うからには、これから感謝の気持ちを持って……あっ、ウソですウソッ! 食事中にそんなはしたないっ! あぁぁぁっ!」
「……思ったより楽しんでいるご様子ですが……余裕なんですねこんな状況にあっても」
「えぇ、ウチのご主人様はいつもふざけていますので、私達はもう3年以上もとある世界の勇者パーティーとして冒険していますが、その間のシリアス展開はまったくのゼロです、情けない限りですよ」
「それはそれは……っと、また天使が回って来ましたね、ひとまず怪しまれないように静かにしておきましょう、彼女らにも様子を報告する義務が課せられていないとも限りませんから」
「えぇ、そうしましょう……」
結局俺の分のパンもおかわりしてくれたルビアであったが、おかずの類は完全に1人で食べてしまったため、俺の方の栄養バランスは極めて偏ったものになってしまった。
こんな食事内容がずっと続くのであれば、間違いなくこの場所に長居することなど不可能に近いな。
最悪ルビアから奪い取ってでも……というのはあまりにもかわいそうなので、我慢出来るうちに作戦を完遂せざるを得ない。
食べて満足して、そのまま布団に入るつもりでいるらしいルビアを叩き起こして、なぜか独房内に設置されている豪華なシャワールームに押し込みつつ、天使が戻っても構わないようにおっさんクリーチャーの雰囲気を醸し出すことを再開した。
しばらくすると報告だの何だの、マゾ狩り団体の上層部に位置する神々に対してのそういったことを終えたらしいドS天使が帰還する。
隣に収監された看破の女神の前で停止し、それとシャワーから出て来たばかりで、ほぼほぼ素っ裸のルビアを見比べているのだが……何かを疑っているわけではあるまいな……
「……神様、もしかして隣の神様と無駄話を、厳禁とされている私語をしませんでしたか?」
「あ、え~っと、その……どうしてそう思うのですか? 理由を述べて下さい」
「まずですね、隣の神様は確実にあの後も何らかのお仕置きをされている状態、肌の様子を見れば叩かれていたことがわかります、つまり何らかの粗相があったということですね」
「は、はぁ……それから?」
「それから神様、目が泳いでいるどころか回遊してどこかへ行ってしまいましたよ、ウソを付くのがヘタクソであるらしいとは思っていましたが、まさかここまでとは思いもしませんでした」
「あぁ、すみません、他者のことを看破してばかりいたら、自分の誤魔化しなども見透かされているのではないかと強く思うようになって、それでこういった状況にあってはこのような落ち着きのなさを……」
「なるほどそういうことでしたか……と、だから何だというのですか? 神様が隣の神様と共に禁止行為に及んだことは確定いたしました、それによって隣の神様は……どうなりましたか?」
「お尻をペンペンされました、いえして頂きましたし今からもまたして頂くということになっているのではないかと思いますよ」
「なるほど、では神様も同じようにしますので、覚悟したうえでこちらに来て下さい、消灯の時間になるまでミッチリとお仕置きして差し上げますので」
「へへーっ、お願い致します」
「いきますよっ! それっ1」
「ひゃいぃぃぃぃっ! きっくぅぅぅっ! もっと、もっとお願い致しますっ!」
ドMらしい反応をする看破の女神を眺めつつ、ついでにルビアも無言で引き寄せて追加のお仕置きをしていく……これは単にルビアの希望に応えたというだけでなく、怪しまれないためでもなるのだ。
もちろんいつものように声を掛けたり、おかしなことを言ったりなどは出来ないのであって、もし喋るとしても『この雌豚が!』など、あまり意味を成さない発言しか出来ないのであって、あえてそれをする必要もない。
で、しばらくそのままルビアに対してビシバシと罰を与えつつ隣の様子を見ていたのだが……ここで何やら感じたことのあるオーラが、このフロア内に入って来たのを確認した。
これは間違いない、ロボテック女神のオーラであって、それがどんどんとこちらへと近付いて来るのだ。
その近付いて来たオーラが隣を通過する際には、腹這いになりながらも顔が廊下の方を向いていたルビアと、ハゲに連行されている、確かにロボテック女神である女性と目を合わせて……どうやらお互いにその存在を認識していたらしい。
俺だけは他のハゲ共と同等のオーラしか放っていないような状態であるが、ルビアはルビアのまま、実情を知っている者にとってはすぐにわかるようなオーラのままである。
通り過ぎざまに、ロボテック女神は何かを発言しようとして、そしてそれがあまり芳しいことではないということに気付いて言葉を飲み込む。
そして向かった、というか連れ込まれた先は、俺達が居る独房からふたつ先の『空室』、つまり看破の女神のひとつ先の場所であった。
また、そこにロボテック女神が放り込まれた後、連行して来たハゲのおっさんクリーチャーはその背中を2発3発と鞭打ち、それが終わると何事もなかったかのように退室してしまったではないか。
つまりこのハゲはロボテック女神の担当でない、コイツが一晩中ここに残って、こちらが余計な動きをすることが出来なくなるようなこともないということである。
いくら何でもクリーチャーが近くに居る状態での会話は良くないからな、そこの独房は本来空いているべきであったのだが、入れられているのがロボテック女神であって、ハゲも常駐しないというのであれば問題ない。
確かに俺達の世界の女神とロボテック女神は、マゾ狩りハンター神の振り絞った最後の力によってここへ送り込まれたのだ。
だから俺のようなハゲがここへ『自分の手柄』として連れて来たルビアとは違い、無関係のハゲが担当者というか専属というか、そのようなかたちで常駐しないということなのかと、そう勝手に予想を立てておく……
「それっ、それっ! 反省しなさいっ!」
「あっひぃぃぃっ! ごめんなさいっ、もっとっ、もっとぉぉぉっ!」
「全く仕方のないドMですね、明日は鞭を使って同じぐらい叩いて差し上げますから……さて、そろそろ今日の活動もお終いです、どうやら結界維持の力もひと晩分ぐらいは蓄積されているようですし」
「あら? もうお終いということなのでしょうか?」
「えぇ、では神様また明日、それから、どうしてもまだ終わって欲しくないということであれば、隣の神様の専属ハゲを借りてでも……と、それはさすがにイヤですかね、本来はああいうハゲに責められまくるのがこの施設の醍醐味なのですが」
「……えぇ、さすがにハゲの方はちょっと……また明日お願い致しますね」
などとは言うものの、俺の正体を知っている看破の女神はこちらの様子を気にしつつ、怒らせないように慎重な言葉選びを……まぁ、それが出来ているとは思えない発言であるが。
そして遂に天使が出て行って、角を曲がって見えなくなったうえにそのオーラも感じなくなったということで、いよいよメインの作戦に打って出ようと思う。
だがその前に、今しがた連行されて来たロボテック女神がふたつ向こうの独房の鉄格子のようなものに顔を押し付け、必死になってこちらにアピールしているではないか。
もちろんそのアピールはハゲのおっさんクリーチャーにしか見えない俺に対してではなく、収監されている体のルビアに対してである。
あまり大声を出すことは出来ないと思っているのか、身振り手振りが凄まじく、その動きでさらに向こうの独房に残っているハゲに怪しまれてしまいそうな気がしなくもない。
まぁ、確かにこの距離で普通に会話をしていくわけにはいかないし、もし俺が参加しなかったとしても色々と怪しまれる原因になりそうだな。
ここは何か手立てを……と思っていたところ、ロボテック女神が最初に動いたようで、どうやら独房の中にあるものだけで何らかのアイテム、いやデバイスを作成しているようだ。
ちなみにそのデバイスのようなものはあっという間に完成したらしく、すぐにとなりの独房を伝って俺達の所へやって来る。
それをルビアではなく俺が受け取った際には少しヤバいような顔をしたロボテック女神であったが、デバイスが筆談用の何かであるということを確認した俺が文書を送信してやると、どうやら状況に関して納得してくれたらしい……
「なるほど、これに何かを書いてここに魔力を送ると、向こうにその文字が浮かび上がって……凄いじゃないですか、でも魔力を使うと色々な問題が……」
「かも知れないな、しかし……っと、何か浮かび上がってきた、『この程度であれば大丈夫です』だってよ、そっちにも同じ文章がいっているのか?」
「えぇ、お隣の神様から私にも同じ文章が来ていますが……このデバイス、どうやって作ったのでしょうか?」
『牢屋の素材をベースにして、あとは空気中のハウスダストなどを掻き集めて浄化して……みたいな感じですね』
「その情報は要らなかったな、浄化したとはいえ汚ったねぇぞ……というかちょっと質問だ、えっと……『ロボテック女神の所には天使とか、そういう担当者的な奴が居ないのか?』っと、どうだ?」
「あっ、すぐに返って来ましたね」
「ふむふむなるほど、特にそういうのが決まっていなくて、今日は1日中、別室で作業をさせられながら知らないハゲにお仕置きされて屈辱だったのか、かわいそうなことだな」
「ところで何の作業をさせられていたんですかね? 聞いてみますか?」
「うむ……っと、そこまでしなくても向こうから追伸的に来たぞ、えっと、牢屋に入ったMなどから抽出した『M』の力を、より効率良く結界の維持に使うための装置をってことなのか、しかも完成間近な状態と……益々状況が悪くなりそうだなこのままだと……」
「早めに対処しなくてはならないようですね、どうしますかご主人様?」
「そうだな、とはいえまずはこのフロアを色々と見て回らないとだ、その、さっき看破の女神が言っていた倉庫みたいな所へ行く感じを醸し出して、中の様子をチラチラ見てくるから、ルビアはそこで待っているんだ、というかちょっと寝ていても良いぞ」
「もうっ、言われなくてもそのつもりですってば~、ということでおやすみなさ~い」
「後で叩き起こしてやる、覚悟しやがれってんだマジで」
そのような捨て台詞を吐きつつ、ルビアの独房を出て廊下を進む、もちろん先程のデバイスを隠し持って、常にルート等の支持を得つつの探索だ。
廊下では時折はげのおっさんクリーチャーや残業しているらしいマゾ狩り団体所属の天使などを見かけたが、収監されている者以外の神々に出会うことはなかった。
しばらく廊下を歩いていると、倉庫だとされた場所に辿り着く前にひとつ、こちらも知っているオーラを強く感じる場所が……俺達の世界の女神がすぐ近くに居るということだ。
注意して辺りを見回していると、少し先の独房から知っている声、というか悲鳴が聞こえてきて、そこに女神が放り込まれているということが判明する。
どうやらハゲのおっさんに責められて、それがイヤで悲鳴を上げるものだかr、より一層厳しく罰せられるという悪循環に陥っているようだ。
すぐに助けてやりたいところであるが、今はまだ、その存在を目視にて確認しておくに留めよう……




