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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1231 施設内の様子

「あの~っ、こんにちは~っ、あのっ、もしも~っし」


「……あら? えっ? 何でしょうか、今後ろから声がしました、誰か居るのではないですか?」

「申し訳ありませんがまっすぐ歩いて下さい、余計な動きはせずに……確かに背後から声がしましたが……おや?」


「あの~っ、私です喋ったのは、あの、その、そちらの女神様……女神もマゾ狩りに遭って……」


「そうなのです、目隠しをされていてわかりませんが、あなたの神の力は……とんでもない力ではないですかっ? どうしてそれがその、クリーチャーなどに……」


「えっと、色々とありまして、それより女が……あなたも捕まって?」


「はい、後ろで私を連れ歩いている天使なのですが、最近配下として取り立てて、それでそこそこ優秀だと思っていたのですが、まさか裏の顔があるとは」


「寝込みを襲ってしまったのは申し訳ないことだと思っています神様、ですが私も団体の理念に従って行動したまでであって、神様にもこのマゾ狩り収監施設で、そのひん曲がった根性を叩き直しつつ、神界の役にも立って頂きたいと思っております、つまり神様のためなのですよこの捕縛は」


「……などと申しておりますが、いつか目が醒めるときがくるでしょう、そのときはもう一度、今度は裏の顔を持たない優秀な配下として私に、あいてっ、ぶたれてしまいました、痛いです」


「神様、マゾ狩り以前の話ですが、叩いて貰ったときには何と言うべきなのでしたか?」


「お、お仕置きありがとうございます、もっとお願いします」


「よろしい、これからは神の仕事などしなくてよろしいですし、私が専属の監視役として、毎日、いつ何時でもお傍に居ますのでそのつもりで」


「お、お願いします……」



 出会ったのはどうも神と天使の立ち位置が逆転している感じの連中、もちろん神の方は縛られ、マゾ狩り団体の一員であるらしい女性の天使によって連行されている状態。


 この神と天使は元々このような間柄であった、つまり神の方がドMで、天使の方がドSで、マゾ狩りに関係なく叩かれたり罵られたりということをしていたようだ。


 で、そんな状況下にありながら、実はその天使の方がマゾ狩り団体の一員であるということを打ち明け、そのままとっ捕まえて現在に至ると、そういうことらしいのだが……なかなかに異常なことであろう。


 なお、この神というか女神というかからはまともな戦闘力を感じ取ることが出来ないため、マゾ狩り収監施設に送られるのがイヤで暴れたとしても、おそらくこの天使には腕力で敵わないような存在であろうということもわかる。


 それでひとまず、その神と並ぶようにして歩き始めたルビアは、捕まえている側の天使も交えて、施設に到着するまでの間はそれとない会話をして情報を集めようとしているらしい……



「あの、私達はこれからどうなってしまうのでしょうか? 色々とあってこの変なハゲに捕まってしまって、とりあえず大人しくしているのですが」


「逃げられるのであれば逃げた方が良いかと、あの施設に送られたら、未来永劫『M』の力を利用されて……あでっ」


「余計なことを仰らないように、神よ、あなたにはもう発言の権利などないのですよ、その辺りを弁えて下さい」


「は、はい……」


「叩かれたらどうするんでしたかっ?」


「おっ、お仕置きありがとうございます、もっとお願いしますっ!」


「よろしい、それからそちらの神様、あなたは非常に残念ですね、そのようなハゲのクリーチャーに捕まってしまって、結局それがあなたの専属になって、そんな気色の悪いブツに日夜責められることになるのですから」


「そうなんですね、それはなんと恐ろしいことで」


「……あまり恐れていない様子ですね……ですがそんな余裕もいつまで続くのでしょうか? 私はマゾ狩り団体の一員として、あなたのように余裕を持って収監された女神が、しばらくするともう許してくれと、あまりにもキモいハゲのおっさんばかりでもうイヤだと、そう泣き叫ぶのを何度も見ておりますので」


「まぁ恐ろしい、そのような目に遭ってしまうのですね……ところで天使のあなた、そちらの神様と私、施設内で交流したりとかは……出来ませんかね?」


「不可能ではありませんよ、収監されている者の私語は厳禁なので、見つけ次第どちらにも非常に厳しいお仕置きが科されますが、おそらくこのまま到着すれば、独房は隣同士になることでしょうし」


「となると、天使のあなたともお話が?」


「えぇ、話し掛けてきたらその場で鞭を与えますが、それでもそうしながら答えることぐらいは致します、いくら囚われのドMと監視者のドSという関係にあるとはいえ、神と天使の関係でもあるのですから」


「わかりました、ぜひお話し致しましょう、それからこっちの……」


「あぁ、そのクリーチャーには何を言っても無駄ですよ、簡単で日常会話に使用するドS用語だけを収録した、単なる召喚物にすぎませんので」


「そうですか、それは残念なことですね、会話の相手が増えるかと思って期待したのですが」



 ルビアにしてはなかなか上手く会話し、有益な情報を引き出すことが出来たように思えるのだが、今の俺がそれを褒めてやるわけにはいかない。


 だがひとつ、この先ハゲのおっさんクリーチャーに化けていて、ルビアを捕まえて連行している俺が、その専属としてこれからも傍に居てやることが出来るというのはなかなかナイスなことだ。


 もしこれで連行だけさせられ、その後はまた別のハゲが……ということになっていれば、どうにかそれを排除してルビアの近くに収まるための作戦を追加的に敢行しなくてはならなかったところ。


 それをしないで良いというのは、この作戦の遂行において重要な一部が丸々カットされたということを意味しており、完遂までの時間は最大の予想よりもかなり短縮されたということになる。


 あとはそのポジションを守りつつ、目的である収監施設の壊滅と、俺達の世界の女神とロボテック女神の救出、およびその他の収監されている者の完全な脱走補助を目指さなくてはならないのだが……果たしてどうなるのやら。


 と、ここで遂に結界の入口、というか目には見えないのだが、見張りの天使が立っていることでそれだとわかる場所が見えてきた。


 向こうもこちらに気付いたようで、スッと動いて確認だけするような仕草を見せたのだが、その前にまだひと組、俺達と同じような捕まった者とハゲのおっさんクリーチャーが先んじて待機している状態であったため、そちらに意識を戻したようだ。


 その所作をしっかり見ておこうと、怪しい動きにならないよう注意しつつそちらをガン見しておくと……どうやらおっさんクリーチャーは特に喋ることがないらしい、捕獲して来た者の確認だけがされ、そのまま中に通されているではないか。


 まぁ、捕まっていたのは神界人間であったようなので、あまりキッチリしたチェックをすることなく通してしまっても問題などなかったのかも知れないが、こちらは一応、ルビアを神として連れて来ているのだ……ここは少し、ドS女天使とそれに捕まったかわいそうな神の方を先に行かせ、その様子を確認することとしよう……



「……あ、では私が先に、神の格としてはどちらが上なのか、私のような天使にはわかりませんが、少なくともそこのクリーチャーよりも私の方が上ですので」


「どうぞどうぞ、私は待たされても構いませんので、とにかく続いて行って、お隣さんになって頂ければそれで構いませんので」


「では私達はお先に……あいてっ、お仕置きありがとうございますっ、もっとお願いしますぅぅぅっ!」



 などというやり取りをしているうちに、結界の入り口を見張っているらしい、だが見かけ上は何もない道に立っている2体の天使の前に辿り着く。


 先に行くことになった神と天使がその2体に挟まれるようにして立ち、神の方は縛られたままベタベタと触られ、少し不快そうな表情をしている。


 すぐに検査が終わったようで、捕まえている女性天使の方には何やら鍵のようなものが手渡され、そして見張りの天使が何やら通信を……結界の『ドア』をそれで開けさせるというのか。


 何が起こったのかわからないが、見張りの天使が『行け』というジェスチャーをしたところで、その先に進むべく歩き出した神と天使、そこには実際に何もないようで、ぶつかったり弾き返されたりすることなくスッと通過して行った。


 そして俺とルビアの番、天使共は今度もルビアを挟み込んで、ベタベタと手を触れて確認しようとしているのだが……さすがにこれには抵抗の意思表示を見せるルビア。


 身を捩ってそれを回避し、最悪蹴り殺してしまおうというような動きも見せて見張りの天使をビビらせ、触ることを諦めさせる……というかこのチェックはこの連中が勝手にやっているだけで、本来は必要ないもののようだ、後で殺してしまおう。


 で、そんな不要なボディチェックを回避したところで、かなりムカついたような顔をしている見張りの天使から、俺に対して鍵のようなものが手渡される。


 そこに書かれている番号は、先程女性天使に手渡されたもののすぐ後ろ、鍵の形は同じだし、確実に『お隣さん』であるということがわかるものだ。


 しかし行き先についてはまるでわからない状態であるから、前を歩く神と天使を見失わぬよう、そしてうっかりでおかしな行動を取って疑われることのないよう、少し急ぎ気味で進んでそれに追い付いてやった。


 そこからはこれまでと同じ道を通り、しばらく歩くと巨大な灰色の建物が、その巨大で分厚い入口の扉が姿を現しす……



 ※※※



「到着です、すぐに門が開きますので、神様方は覚悟しておいて下さい、ここを潜ればもう、あなた方は二度と外の世界に戻ることなど出来ませんので」


「わかりました、出来るだけ早く目隠しを外して頂きたいので、従うしかありませんね」


「私もそれで良いですよ、まぁ、何というかその……いててててっ」



 ルビアが余計なことを言おうとしたので、後ろから思い切り尻を抓り上げて黙らせておいた。

 建物の入口、分厚い扉が開くと、その向こうは運動場のような広い場所になっている。


 そしてどうやら神界人間のマゾ狩り被害者が、そこで何らかの作業をさせられているらしく、ハゲのおっさんクリーチャーが鞭を持ってそれを監視し、時折目に付いた者をシバき倒しているではないか。


 マゾ狩りにやられるということは間違いなくMの方々なのであろうが、鞭を入れる役目を帯びているのがキモいおっさんであるということから、皆一様に不満そうにしているのが印象的であった。


 最終的にはこの連中も救出しなくてはならないのであるが、それは最後の最後、女神やら何やらを完全に安全な場所に退避させ、この施設そのものを滅ぼした際になることであろう。


 それまではしばらく、どうしようもないハゲによる鞭打ちに堪えて貰わなくてはならないのだが、幸いにも殺されてしまうような威力の鞭ではないようなので、しばらくの間は大丈夫であろうといったところ。


 むしろこちらによる大規模攻撃の際、チャンスと見たこの被害者達が暴動を起こしたりしてしまった場合の方が厄介だな。


 間違いなく邪魔になるし、その際に負傷してしまったりしてかわいそうなことになる可能性は高いため、本当に事が済むまで、この神界人間、それから天使の被害者には現状を知らせないようにした方が良い。


 気が付いたら救出されていた、突然もう自由であるから帰っても良いと告げられてしまった、その程度の感覚になるように、慎重に事を進めなくてはならないのだ……



「こちらです、このまま階段を上って、神様を収監しておくためのフロアに向かいます、躓いたりしないよう気を付けて下さいね、ほらそこ、階段ですよ」


「ありがとうございます、実は優しいですねあなたは……それがどうしてこのような劣悪な団体に……」


「余計なことを言わないっ!」


「ひゃんっ! お仕置きありがとうございます! もっとお願いします!」


「よろしい、これからはもっと、毎日いつ何時でもこのようにして差し上げますから、期待しておいて、ついでに覚悟しておいて下さいね」


「わかりました、ぜひよろしくお願い致します」



 何だかんだと言ってドMであることには変わりない神と、それからルビアを連れてその天使に付き従った俺達は、やがて少しばかり装飾が豪華な、しかし鉄格子のようなものが至る所に張り巡らされたフロアへと到達した。


 この時点で既にかなりの数の『神のオーラ』を感じ取ったのであるが、それが収監されている者のものなのか、それとも見張りとして張り込んでいる神のものなのかはわからない。


 やがて独房のような、全ての面を鉄格子……ではなく神界の特殊金属で造られた格子なのであろうが、そんな小部屋が並んでいる場所へと到達した俺達。


 どうせ喋ることはないので意識を集中していると、まずはひとつ、俺達の世界の女神の力を感じ取った。

 だがもうひとつ、ロボテック女神はこのフロアには居ないらしく、探してみても結局その力を感じることなく、目的場所へと到達してしまう。


 並んだ鉄格子、その奥の方にはどこかの知らない女神が放り込まれていて、正座させられているのが見えたのだが……どうもそこからひとつ空けて、次の牢屋とその次の牢屋に、それぞれ連れて来た神とルビアを放り込むらしい……



「ではどうぞ神様、目隠しを取って差し上げますので、暴れないでちゃんと座っていて下さいね」


「ようやくですか、ようやく全てを見通すことが出来て……あら? あなたはもしかして……」


「……? どうしましたか? 私の顔に何か付いていたりしますか?」


「……いえ、何でもございません、それよりもそちらのクリーチャーが……いえ、きっと特注品なのでしょう、あなたのような神というか、神どころの騒ぎではない存在を簡単に捕縛してしまうようなものなのですから」


「あ、えっと、その……もしかして色々と見通すことが出来るタイプの……」


「そうなのです、私は全てを見通す看破の女神、ですが力及ばず、配下に加えたこの有能な天使がマゾ狩り団体の構成員であることを見抜くことが出来ず、このような……あっ」


「私語は厳禁だと申し上げましたよね? 早速ですが厳しいお仕置きを致しますので、向こうを向いてそこに正座して下さい」


「はい、お願いしますっ!」


「……あの~っ、私は……あはいっ、お願いしますっ」



 どうやら鞭でシバかれるらしい看破の女神、こちらも不自然にならぬよう、黙ったまま、無表情のままルビアの腕を引っ張り、同じように壁を向かせて正座させる。


 さらに最初から壁に掛けられていた鞭を手に取り、それが隣の天使と同じものであることをチラッと確認したうえで、それと同じ動作で俺はルビアの背中を打ち据えた。


 ビシッと凄まじい音がするのだが、服さえも破れないあたりかなり威力の低いものなのであろう、だがその鞭を振るえば振るうほどに、ルビアから前回の戦いで見たのと同じ『M』の力が発散されているではないか。


 何のアイテムも使用していないのにそのようなことがあるのか、もしやこの鞭が何か特殊なものなのかと思って確かめるがそうではない。


 では何なのだと、鞭打ちを継続しながら力の流れを追っていくと……どうやらこの牢屋というか独房というか、そこで使われている金属自体が『M』の力を吸収していくものらしいということが判明する。


 つまりここで、この独房内で俺がルビアに鞭を入れれば入れただけ、そして隣で看破の女神が天使から鞭うたれただけ、そこで発散された『M』の力がこの施設の結界の維持に利用されてしまうということ。


 これは現時点では仕方のないことであるが、やはり敵を利する結果になってしまうことには変わりないので、どうにかして改善していかなくてはならないポイントだ。


 また、せっかく『話の分かる』神が隣に来ているものの、その付き添いというか監視というかの天使が常にそこに居るということもネックとなり得る。


 俺が自由に動いて女神やロボテック女神を見つけ出し、ひとまず安心させてやるということが困難になったのだから……まぁ、この天使は『常に滞在』というわけではないか、夜になったらいなくなるに違いない……



「このっ、反省して下さいっ! わかっているんdねすか自分の置かれた状況をっ!」


「ひぎっ、ひぃぃぃっ! ありがとうございますっ、ありがとうございますっ、もっとお仕置きして下さいっ!」


「全く……と、そろそろ夕方の時間になってしまいますね、お食事が運ばれて来ますので、それを受け取って早めに食べて下さい、そちらの神様も同様です」


「はひxち、あぁぁぁっ! きっくぅぅぅっ!」


「……では私はこれまでのことの報告をしに行きますので、その間はキチンと正座をして、反省の気持ちを忘れないようにしていて下さい」


「へへーっ!」



 特に悪事を働いたわけでもないのにこんな所に放り込まれ、一体何を反省しろというのか疑問であるが、隣の看破の女神はそれを行うようだ。


 そこでようやく天使が、一時的にその場を離れることがわかったため、こちら側から、もちろんルビアからであるが、情報収集のために動くことが可能になるはず。


 ルビアのことだから、俺が何かしていても動くことぐらいは出来る程度に『お仕置き慣れ』していることであろうから、俺は俺でハゲのおっさんクリーチャーを演じ続けることとしよう。


 そうも思ったのであるが、どうやら少し話が代わってきそうな予感であって、こちらから見てそうであるように看破の女神の態度が変わった……天使が離脱した直後のことだ。


 そしてもうその姿が見えないことを牢の中から確認し、すぐにこちらの独房の際まで駆け寄って、ルビアに話し掛けようと試みているようだが……一体何を看破してというのであろうか……

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