132 闇組織のアジト
「あれが例の廃城だよ、ちょっと遠いが見えるかね」
「ええ、俺はあまり良く見えませんが、おそらくリリィが……」
「見えますよ、しかも結構人が居ますね、弱そうな魔族も何体か」
こうなると十中八九あの廃城が敵である新生大聖国の関連だろうな。
そして、どうせ中に居るのは敵だ、リリィには具体的に何人ぐらい居そうか数えさせよう。
「……8……9……あれ? あのハゲはさっきも、いやこっちのハゲはまだ?」
「どうした?」
「似たようなハゲばっかりで数えられません、イライラします」
「それはそのハゲが悪いな、まぁ今ので十分殺す理由になったと思うぞ」
リリィはドラゴン形態に変身しようとするも、それはやめさせた。
どうせ殺すとはいえ、ここで一気に全員殺すのは悪手といえよう。
何人かはきっちり捕らえて拷問し、知っていることを全て吐かせてから処刑するべきだ。
「さて、どうしようか?」
「このままゆっくり近付きましょう」
「うむ、では見つかったら戦うということで」
廃城に接近して行く。
山の尾根にあるその城は、軍を使って攻めるのは大変そうな立地だ。
だがこうやって少人数で向かう分には何ら問題が無い。
城から一番近くにある大岩の後ろに隠れ、改めてその様子を覗う……
「かなりの人数だな、全員ハゲで見分けが……いや、あれは指定の髪型なのか?」
「勇者様、あんなダサい髪型を指定にすることはないと思いますよ、普通にハゲなんでしょう」
いやいや、何十人も居て全員同じハゲ方だぞ、頭の上だけカッパの皿みたいに髪が無いのだ。
もし自然にそうなったとすると、もはや奴等の間では謎の病が流行しているに違いない。
「それより勇者様、あっちの看板の方が問題ですよ……」
「何だミラ、どの看板が問題なんだ? エッチなワードが入っていたとかならサリナがモザイク処理するから大丈夫だ」
「いえ、それどころじゃありません、とりあえず入り口上の看板を見て下さい」
そう言われて入り口、つまり城内へ繋がる門の上に掲げられた看板を見る……
『新生大聖国 第19支部』
と書かれていた……特に変わったところは無いはずだが?
「ミラ、確かにあの看板からはここが敵のアジトだということがわかる、書いてあるしな」
「それだけじゃないはずです、本当に察しの悪い異世界人ですね」
「他に何か……う~ん、わからん」
「主殿は凄まじく頭が回らないのだな、よく見ろ、第19支部だ、最低でも他に18の支部があるということだ」
「おおっ! なるほどな、そいつぁてぇへんだっ!」
「何なんですかその喋り方は、遂に人語を解さなくなりましたか?」
どうも先程から凄くディスられている気がしてならない。
とりあえずミラとジェシカの頬っぺたを抓っておいた。
「で、どうする勇者様? このまま行ってみるべきだとは思うけど」
「そうだな、強い敵も居なそうだし、他にも敵のアジトはありそうなんだ、正面から突撃してしまおう」
取り逃がすと警戒されてしまうため、1人残らず殺すか捕らえるかしなくてはならない。
急に攻め込んでパニックになると困るからな、最初は普通な感じで行こう。
「では作戦開始だ」
岩陰から出る、そして廃城のメイン建造物に近付いて行く……
「あの~、すみませんが、こちらは新生大聖国の支部でよろしかったでしょうか?」
「何だ貴様等は、特にそこの男、その髪型ではここに入ることは出来んぞ、帰るか死ぬかどっちかにしろ」
「新生大聖国では髪型に決まりがあるのですか?」
「当たり前だ、貴様はそんなことも知らないのか? これだから世俗の落ちぶれた大馬鹿者と話をするのはイヤなんだよ、頭も悪そうだし、顔もだらしない、連れている仲間も全員武装しているでは……おっとなかなか可愛い子が居るじゃないか、と、それはさておき貴様のようなクズで甲斐性無しの……」
「おい、話が長いぞ」
「ん? そうか貴様は馬鹿のようだからな、あまり長い話には頭が付いて来なかったようだな、すまんな大馬鹿者よ」
「おう、何でも良いがとりあえず中に入らせて貰うぞ、あとお前は死ね」
鬱陶しいハゲを殺すと、建物の外に居た人間は一斉にこちらを敵視し出した。
だが襲っては来ない、カレンを含めて狼獣人が4人も居る集団だからであろう。
ここの奴等はその強さを知っているのだ。
索敵で逃げていく奴が居ないことをしっかりと確認しつつ、建物の中へと入って行く……
「城っていうより山砦という感じだな、そんなに広くはないようだ」
「ああ、そんな感じさ、だが我らの里の者が色々と持ち出し切ったはずなのに、また何か運び込まれているな」
城の建屋内には大量の武器や防具、それから使い古された剃刀がかなりの数置いてあった。
きっとアレであのような髪型にしていたのであろうな。
「おいっ! 貴様等は何者だ? ここは新生大聖国の所有物件だぞ!」
「だってよマリエル、権利的にはどうなんだ?」
「余裕の不法占拠ですね、この連中の権利が登記されていたのなら探すのに苦労するはずがありませんから」
「とのことだ、王女様がそう言っているのですぐに退去しろ」
「何を言うか、我々には王女など居ない、トップは新聖女様、そして信ずべき女神様が最高の存在なのだ!」
「新聖女ってメルシーのことか? それなら俺達が保護しているぞ、お前らのようなハゲが利用出来ないようにな」
その言葉を聞くと、聖職者風ハゲはいきり立って襲って来る。
顔真っ赤である、だがミラが首を刎ねるとすぐに真っ白になった。
「あ、今の騒ぎで私達の存在に気付いたようですね、戦闘開始の号令が掛かっていますよ」
「というか外で1人殺したときに気付けよな……」
次々と俺達のところへ集まって来るハゲ共。
だが攻撃はしてこない、ビビッているようだ。
それと、どうやら敵の一部が1つの部屋に集まり出した。
きっとその連中がこの支部を仕切っているのであろう。
「すまないがせっかく来たんだ、奴等は俺達が修行代わりに殺しても構わないかね?」
「ええ、それならここは任せてしまって良いですよね、ちょっと様子を見たいところがあるんです」
「うむ、敵の数は50程か……これなら若手に人殺し体験をさせるのに十分な数だ」
なるほど、そのためにここへ来たという面もあるんだろうなきっと。
あんな山奥の里で、しかも狼獣人ともなると攻めて来る奴は居ないはずだ。
するとなかなか実際に人を殺すチャンスに恵まれない者も出てくるであろう。
ゆえにここで経験させておくということに違いない。
その場は既に殺戮を開始しているカレンパパたちに任せ、敵の上層部が集まっていると思しき部屋へと向かった。
途中、出会った中級魔族3体を殺しておいたのだが、どうもまだ魔族が大量に居るというわけではないようだ。
「というかこんな所に魔族が居るのに、ここの連中は何も不思議に思わないのが変だよな」
「それはサリナちゃんみたいな幻術を使っているんじゃないかしら?」
「いいえ、ここにはそのような気配がありませんね、普通に仲良くしているだけだと思いますよ」
おかしな話だ、女神を信仰しているのに、その女神が敵と位置づけている魔族と仲良しなんて。
そもそも魔族は単に協力しているだけで、女神を信じている訳ではないはずだ。
それに全く気付かずに改心した魔族だとでも思っているんだろうな、ここの連中は。
きっと髪の毛と一緒にまともな考えすらも頭から剃り落としてしまったのであろう。
「お、そんなこと言ってる間に着いたぞ、この扉の向こうに敵が7人居る……2体は魔族だな」
「ご主人様、ドアを蹴っ飛ばしますか?」
「待つんだ、中に重要キャラが居るかも知れない、そいつに死なれたら拙いから普通に入ろう」
鍵が掛かっていたのでさすがにそれは破壊し、部屋の中へ入る……
「失礼しま~す、異世界勇者はいりま~すっ!」
「来たな侵入者め! お前のような馬鹿そうな輩が異世界勇者なわけないであろう、先生方、奴を殺して頂けませぬか?」
『おうよ、任せておけ、あんな弱そうな奴は手も足も使わずに殺してやるぜ、へへへっ』
『おめぇよぉっ! 調子乗ってっとアレだかんな』
ガラの悪いチンピラ風中級魔族2体が立ち上がる。
女神だの聖女だのと言っておきながらこんな連中とつるんでいるとは、実に滑稽だ。
『ヒャッハーッ! 死ねぇぇいっ!』
手も足も使わないと言っていた魔族、両手に武器を持って仕掛けてきた。
油断させようとしたのではない、馬鹿すぎて自分が先程した決意表明すら忘れているのだ。
まぁ、鶏冠みたいな赤いモヒカンが頭に乗っかっているしな、トリ頭なのであろう。
飛び掛ってきたチンピラ魔族に対し、聖棒で両手足を突く攻撃を喰らわせておく。
『あぎゃぇぃゃぁぁぁっ!』
「これで手も足も使わずに戦うことが出来そうだな、さて、お前は後で殺してやる、もう1体が先だ」
『ひぃぃっ! あんたらが強いのはわかった、頼むから見逃してくれぇ~っ』
「うん、良いよ」
『本当か!? 恩にきるぜぇ~、げへへっ、じゃあ俺はこの辺で、あばよっ!』
「じゃあなぁ~っ、あとそっちに行くと危ないぞ」
『へっ? あがぁっ!』
雑魚共を片付け終えたカレンパパ達がすぐそこまで来ていたのである。
当然、この3人は魔族を見逃す約束などしていない、直ちに惨殺していた。
「向こうはどうでした? 少しは骨のある奴が居ましたか?」
「いや、本当に雑魚ばかりだったな、まぁ奴等のおかげで若い衆にいい経験をさせることが出来た、命に感謝するよ」
若い2人はニコニコである。
狼獣人の里では、敵の人族や魔族を殺したことがある男は『キルメン』と呼ばれ、ちょっとだけ女の子にモテるようになるらしい。
なんと野蛮な連中なのだ……
「さて鶏冠魔族、次はお前の番だな、おい、ハゲ共は逃げるんじゃねぇぞ!」
『ぎぃえぇぇっ! 勘弁してくれ勘弁してくれぇぇっ!』
「静かにしろ、誰が喋って良いといったんだ?」
手足を全損させ、地面に転がした鶏冠魔族の顔面を踏みつけておく。
おっと、靴の裏が汚れてしまったようだ。
「とりあえずさ、お前魔王軍だよね? 喋って良いから答えろ」
『そうだ』
「誰が喋って良いと言った!?」
『だぁぁぁっ! お前だ、オマッオエェェ~ッ!』
「正解です」
今度は腹を踏んでやった、ゲロを吐く魔族。
おっと靴の裏が……
「今度はハゲ共に聞いてみよう、お前らはコイツが魔族で、魔王軍の関係者だと知っていたんだろう? 喋って良いから答えろ」
「そ……そうだ、新生大聖国は悪辣な王国ではなく、魔王軍に付くこととなったのだ」
「誰が喋って良いと言った?」
「はがぁっ! お……お……おまっ、えっ」
「正解だ、当たりを引いたからもう一発蹴りをやろう」
「ぐぼぉぇっ!」
人族のハゲ①~⑤のうち、①が早くも息を引き取ったようだ。
他を脅すために死体を損壊しておこう。
次はハゲ②に対する質問タイムである……
「で、どうして魔王軍なんかと協力する運びになったんだ? 普通に考えてそっちの方が敵っぽいだろ」
「黙れっ、わしらはあの旧聖女に良いように使われていただけなのに、軍で攻めて来て多くを処刑していった王国の方が許せぬわいっ!」
「おいレーコ、ハゲが何か言ってるぞ」
「旧聖女とは失礼な、しかもこんなハゲ聖都では見たことがありません」
「げぇぇっ! お前は旧聖女じゃないかっ! おのれわしらをあんな目に遭わせおってっ!」
「おいおい、もう大人なんだから人のせいにするなよ」
ハゲ②だけでなく、③~⑤も怒り心頭のようだ。
こいつらは憑依されていたのか、それとも洗脳された振りでもしてやり過ごしたのであろうか?
まぁそんなことはどうでも良い、今現在、魔王軍と協力しているわけだからな。
そして俺達の住む王国を敵とみなしているんだ、普通に処分対象である。
「勇者様、このハゲ4人は連れ帰って拷問しましょう、今はその魔族から情報を」
「そうだな、早くしないとコイツが死……もう死んでる……クソッ、吐瀉物が喉に詰まったのか」
この魔族にはまだ聞きたいこと、やってやりたいことが沢山あったというのに。
誠に惜しい奴を亡くしてしまった……
「まぁ鶏冠魔族は仕方ない、そういう運命だったんだ、今はこの4人と、あとは資料でも漁っていこうぜ」
失ってしまった命は戻らない。
気持ちを切り替えて作業を続行しよう。
ハゲ共をギリギリ死なない程度に痛めつけ、新生大聖国に関する資料、それから持ち込んでいたであろう食料のありかを聞き出す。
とりあえず食料班はカレンとリリィ、それから野菜目当てのマーサが担当することとなった。
残りのパーティーメンバーと、あと狼獣人の3人……はノリノリで食糧の方に行ったようだ、蛮族だから仕方が無い。
「あ、勇者様これっ! 協力者の住所リストみたいよ」
「でかしたセラ、なになに……おぉっ! これは凄い発見だ!」
セラが見つけてきた新生大聖国の協力者リスト。
そこには住所だけでなく、本人の特徴やこれまでに納入したお布施の金額、所属支部名、それから上位者に限っては肖像画が添付されている。
「この一番上に載っているカミナシってのがメルシーの言っていた白ハゲだろうな」
「それでコイツはさっき居たハゲ③みたい、聖都で殺した聖職者①~⑤は絵が載っていないわね」
「聖都のはきっと下っ端か、そもそも深く関与していない奴だったかだろうよ、ここのことも知らなかったみたいだしな」
とにかくこの資料からはかなりの情報を引き出すことが出来そうだ。
さらには生け捕りにしているハゲ③がまぁまぁ偉いということもわかったからな、こいつにも期待しておこう。
「ご主人様っ! お肉が一杯見つかりましたよ!」
「野菜もたんまりだったわ、高級品もちょっとだけあったし」
城の外に出てみると、入り口付近には山のような戦利品それから投降したと思しき捕虜。
それを見張っていたカレンパパが近付いて来る……
「おう、そちらも終わったようだね、ところでそっちの4人は良いとして、他の捕虜はどうする? 使わないなら貰っても良いかな?」
「ええ、どうぞどうぞ、こちらは雑魚に使い道がありませんから」
「わかった、で、今狼煙を上げているから、そのうちヘルプが来るはずだ、戦利品が多すぎて俺達だけじゃ運べないからね」
里からの運搬部隊が到着するのを待ち、廃城探検は無事終了となった。
まず食糧や調査に使う資料は根こそぎ持って帰る。
そして俺達が使うハゲ②~⑤の4人は檻に入れておき、里からの帰りにリリィがそれごと持って飛ぶこととした。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……雑魚捕虜はざっと50人ってとこか」
「ちなみにこいつら何に使うんですか?」
「うむ、里に居る10歳以下の子どもと模擬戦をさせて殺させるんだ、強い子に育つようにな」
「・・・・・・・・・・」
野蛮すぎて付いていけないぞ……
「よぉし! 帰るぞぉ~っ! 今日はこの戦利品で宴だっ!」
その日から3日間、カレンの実家がある狼獣人の里でゆっくりさせて貰った。
だがそろそろ帰らないとだ、こんなことをしている間にも敵が勢力を伸ばしかねないからな。
「カレン、明日ここを発とうと思うんだが大丈夫か?」
「はい、実家にも帰ったし、ご先祖様のお墓も行ったし、族長様にも挨拶したし、もうやることは残っていませんよ」
「よし、じゃあまたしばらくはここに戻れないぞ、というか来るのが以上に大変だからな」
「え? それなら大丈夫ですよ」
「何が? 試練が無くても登山だけで大変だぞ」
「一度村に入れた旅人は裏のロープウェーを使えるんです」
「……意味がわからんぞ」
カレンに案内され、里の奥へと向かって行く。
本当にロープウェーがあったではないか。
だが明らかに危険度高めだし、何よりも自分でロープを引いて操作するタイプだ。
「カレン、これ、事故が起こったことは無いのか?」
「というか里の人は使いませんから、1,000年前に作って未稼働だそうです」
マジで大丈夫なのであろうか? ここに来て一番の危機を迎えているような気がするのだが。
翌朝、里の皆に挨拶を済ませ、いよいよ心許ないロープウェーを実際に使うときがきた。
「待て待て、なんだそのゴンドラの紐は、引っ張ったら切れそうじゃないか!」
「ご主人様、この紐はその昔伝説の釣り師が近くの川の主を吊り上げたのと同じものです、だから大丈夫ですよ」
「ちなみにその主のサイズは?」
「70cmぐらいだったそうです」
「ふざけるなっ! 人間様の体重を舐めるなよ! もういい、ユリナ、レーコ、ちょっとじゃんけんしろ」
「どうしろというんですの?」
「お前らなら失敗しても死なないからな、負けた方を実験台にする」
「それならサリナちゃんも……」
「サリナはなんか幼児虐待みたいだから外す、いいから早くしろ!」
じゃんけんに負けたのはレーコである。
やたらと抵抗するので縛り上げ、無理矢理ゴンドラに押し込んだ。
そのまま一気にスタートさせる……
おぉっ! ちゃんと進んでいくじゃないか、下りはオートで行って、上るときだけロープを引っ張るんだな。
レーコを乗せたゴンドラは支柱で曲げられたロープウェーに沿ってカーブを描きながら、麓に見える案内所へ向かって行く。
「到着したようだな、で、あれはどうやって止めるんだ?」
「さぁ、使ったことがないのでわかりません」
勢いに乗ったゴンドラ、麓の終点まで到達すると、ロープの終端で思い切り跳ね上がる。
中に居たレーコはどこかへ飛ばされてしまったようだ。
「レーコちゃんはあそこです、100mぐらい離れたところの地面に刺さっていますよ」
「これは危険だな……普通に帰ろう、リリィ、精霊様、捕虜入りの檻とか荷物を頼むぞ」
「は~い」
「運賃は銅貨2枚ね」
こうして俺達は狼獣人の里を後にした。
王都に帰ったら捕虜の拷問と奪ってきた資料の精査をする。
しかし今回追いかけている新生大聖国、魔族も取り込んでかなりの勢力になってきそうだな。
本当に厄介な敵となる前に始末しておきたいところだ……




