1227 だんだんと力を
『ギョェェェッ! 殺られたぁぁぁっ!』
「初弾ヒットしました! 続いて次弾装填……発射!」
『ギョェェェッ! 殺られたぁぁぁっ!』
「同一の反応を確認! 攻撃を受けたのは判子で打ったようなモブキャラの天使であると判断!」
「チッ、神本体はもっと後ろってことか、だがエリナ! ガンガン撃って余計な敵を排除するんだ、集られても厄介だからな!」
「はいっ、ガンガンいきますっ!」
『ギョェェェッ! 殺られたぁぁぁっ!』
『ギョェェェッ……(以下略)……』
「どんだけ居るってのよモブキャラ天使が……でも神の気配はちゃんとあるわね、ドMではないこの私でさえも不安になるような、不快極まりない神の気配がそこに……ってまだまだすっごく後ろじゃないのっ!」
「手前にモブキャラ天使が居る、というよりも随時召喚されているみたいな感じだな、これじゃ埒が明かないぞ、エリナ、最大出力で全て吹き飛ばしてみてくれ、エネルギーの方は気にしなくて良いからな」
「わかりましたっ! 最大出力チャージ……発射!」
遂に訪れたマゾ狩りハンター神との戦いのとき、であったはずなのだが、前座のモブキャラである天使らしき何かの層が分厚く、残雪DXによる強力な通常攻撃でもそれを打ち破ることが出来ない。
仕方ないので出力を上げ、本来は強雑魚を始末するために搭載されているのであろう強攻撃モードにて、そのノミやダニのような存在であるモブの雑魚キャラを始末しに掛かる。
ひときわ大きな、というよりも多くの声が合わさった断末魔が響き渡り、直後にその後ろに控えていた神の気配が前に移動し始めた。
相変わらずモブキャラの天使が数を増やし続けているのだが、それは次から次へと始末され、むしろ後ろからゆっくりとこちらへ向かいつつある神のオーラに中てられて消し飛んでしまっているような者も多いようだ。
吹き飛んだ天使の肉片や、舞い上がったその燃えカスなどが視界を遮り、その神が立っているのであろう場所は目視することは出来ない。
だが着実に、少しずつこちらに向かって接近して来ているのは確かであって、そのシルエットが間もなく……見えた、影だけでわかる明らかなハゲだ……
「まーたハゲじゃねぇか、ハゲばっかりだなこの神界ってところは」
「魔界も、それから私達の世界もそう変わらなかったように思うけど? というか敵が不快なビジュアルになるのは当然のことなんじゃないの? ほら、ハゲなのにそれを活かそうともせず、横をメチャクチャに伸ばしてそれを角みたいに立てて」
「ホントだ、角かと思ったら髪の毛かよアレ、まぁ神のコメカミに魔の者みたいな角が生えている方がおかしいんだが、とにかく異常だな、ウケるとかオイシイとか思ってんのかあの髪型?」
「さぁ? とにかくまともじゃないわね、しかも笑っているその笑顔が気持ち悪いわ」
「フハハハハッ、何を言っているのだね君達……には用がないな、その後ろ、既に拘束されて立たされているロボテック女神をこちらに引き渡したまえ」
「おい、俺達には用がないって、仁平一派を潰すのが目的なんじゃないのか?」
「わかんないけど、どっちかっていうと『マゾ狩り』の方をメインにしているみたいね、あのババァが期待しているのはそれじゃないと思うんだけど」
「うるさいハエだね、ドMでもない、そして神でもない矮小な存在は黙っていて欲しいのだが……む? 良く見れば貴君達、反逆者の一味として挙げられている……そうかっ、そういうことであったかっ」
「今更その事実に気付いたのねこの馬鹿……」
ようやく姿を見せたマゾ狩りハンター神、ハゲでしかも残った部分がおかしな髪型で、明らかな移譲者の様相を呈している。
そんな神がツカツカとこちらに歩み寄り、どこからどう見ても自分の対戦相手であり、最も目立っているゴーレムをスルーして精霊様の前までやって来て、覗き込むようにしてその顔を凝視しているから気持ち悪い。
何やら顔を確認しているようだが、そのあまりのキモさに、思わずグーパンを顔面に喰らわせようとした精霊様の行動を読んで、それを空振りさせるかたちで後ろに飛ぶマゾ狩りハンター神。
同時にフンッと、あざ笑うような声を出して精霊様を……アレは蔑視している目だな、自分よりも低位の存在であると確信し、それが即ちゴミであるというような態度を取っているのだ。
それにはさすがの精霊様もブチギレ、という流れになると思ったのだが、どうやらここで動くことはまだしないらしい。
ゴーレムに戦わせて、弱ったところを追加で蹂躙した方が、肉体的にも精神的にもより大きなダメージを与えられると判断したのか、それともまた別の理由があるのか……
「全く、私も舐められたものだよ、オーバーバー神から言われて来てみれば、マゾ狩りの対象であって裏切り者であるロボテック女神だけでなく、仁平一派の主要キャラまで存在していたとはね」
「当たり前よぉ~っ、ここ私達の拠点として使っている町なんだからぁ~っ」
「えっ、そうなのっ? というか……ホモだらけの仁平ではないか、まさか主要キャラどころか反乱の首魁までこんな場所に……」
「何で町の中を調べて、しかも予め刺客の天使さんまで送り込んでおいてその重要なことに気付いていないかったんだよコイツは……」
「いやいや、それは部下の天使が、マゾ狩りムーブメントに賛同している者が全て手配してくれたのでな、今日は来ていないが、非常に優秀でドSな奴だよ彼は」
「出た、部下任せにして何も把握していないゴミ上司、使えない奴め」
「使えないかどうかはきみが判断することではないね、それよりも……先程から佇んでいるこの巨大なブツは何なのかね? どうやらこれからもかなりMの香りがしているのだが……」
ようやくゴーレムに目をやったマゾ狩りハンター神、これまで気づいていなかったわけではないと思うが、こんな巨大な存在にまるで言及せずに、ここまで会話を続けるというのはなかなか異常だ。
きっとあまり周囲に目を遣らない、自分が目的としているもの、つまりこの場においては捕らえ、マゾ狩り団体の収監施設に送るべきロボテック女神以外見ていないということなのであろう。
だからと言ってこの行動が通常のものであると評価するわけにはいかないのであるが……ひとまずマゾ狩りハンター神の特性はわかったように思える。
で、もちろんコイツの頭の中がマゾ狩りで一杯であるということは、ロボテック女神と一緒に壁沿いに並んでいる俺の仲間も、確実にターゲットとしてこの場で攻撃を受けるということでもあるのだ。
既に目がキョロキョロと、主にルビアの方を見て何やら興奮しているようにも思えるが……その前にもうひとつ、見て反応しておくべきものがあるとは思わないのか。
本当は被害者であるところを協力者としてこの町へ送り込み、俺達の食事に毒を漏らせる危険極まりない役目に就かせた天使さんについて、先に言及しておくべきなのだ。
だがこの神、その天使さんがこちらによって拘束され、そして顔などもキッチリ見えている状況にあるというのに、それに関して一言も発することなくただただ俺の仲間、『M数値』が大きなキャラばかりを見ているではないか。
もしかしてコイツ、自分が放った仕込みキャラのことを部下任せにしていて知らないというだけではなく、そもそもの仕込みキャラ自体の顔や名前、属性などを知らないでいるということなのではなかろうな。
通常、部下というか配下が勝手にやっているとはいっても、資料に目を通して決裁して、判子を打ってぐらいのことはやると思うのであるが……この場かに関しては決してそうではないらしい。
自分がそんな感じであるということには気付かず、そして特に興味も持たず、マゾ狩りハンター神は常に、マゾ狩りのことだけを考えて行動しているのだ……
「……ふむふむ、今日は大収穫のようですな、全員連れて……おや、そういえば天使の数がかなり少なくなりましたね、帰ってしまったのでしょうか?」
「いいえ神様! 殺されまくっていて正直ヤバいですっ、あのゴーレムのようなものから発せられる……ビームのようなものがっ!」
「そうでしたか、しかしその程度の攻撃もどうにかすることが出来ない部下など必要ありません、死になさい」
「まさかそんなっ!? 我々はあなたのために、理想のマゾ狩りのために……聞いておられますかっ?」
「しかし、あのドM女は異常ですね、どこかの世界の人族にしか見えないというのに、あの力は本当に素晴らしい、あなた、もう死んだのですから、あの女に向かって突撃して下さい」
「へへーっ! では参るっ!」
「……ご主人様、何かハゲ散らかした天使の方がこっちに来るんですが?」
「黙って立っていれば良いさ、あの程度の強さで、それがルビアに向かって突っ込んで来るんだ、当然……」
「ウォォォッ! マゾ狩りだぁぁぁっ! とぉぉ……おげろばっ!」
「こうなるってことだ」
「……ほう、戦闘面に関してはかなりのものですな、しかしM属性に完全耐性があるこの私にとっては……という話ですが」
マゾ狩りハンター神に命じられ、半ば決死攻撃の如くルビアに向かって突撃した気持ち悪いビジュアルのお付き天使であったが、その圧倒的な力の差の前に成す術もなく、単に近付いたというだけでブチュブチュに潰れ、中身を撒き散らして無様に死んだ。
その光景を見ても、なるほどなという顔しかしないマゾ狩りハンター神は、やはりこちら側に多く存在しているドMに対して、かなりの力を発揮することが出来るらしい。
余裕の表情で、しかもまたゴーレムをガン無視してさらにこちらへと歩み寄ろうとしたところに……全く気にされていなかった2人、カレンとリリィが背後から飛び掛る。
だが攻撃がヒットする直前、最初に殺しまくっていた雑魚キャラ天使の残りがスッと、その2人と神の間に割って入った、というか瞬間的に移動したようにも見えなくはない。
こんな雑魚共にそのような動きが出来るわけないと、そうも思ったのだっが事実は事実、カレンとリリィの攻撃もそれらを貫通せず、マゾ狩りハンター神へダメージが通ることはなかった……
「強いっ! てか死んじゃったけど、今のでまだ形が残って……」
「もう一撃いきますっ、とりゃぁぁぁっ! あっ……またですっ」
「何をしているのだね君達は? その天使にはね、私が力を与えているのだからね、そう簡単には突破することが出来ないし、何度殺してもストックがなくなることはないからね、無駄だよ無駄……っと、そっちの……精霊なのかな? その攻撃も無駄! ホモだらけの仁平も動くだけ無駄です! それから……」
「いけっ! ゴーレムの力で粉砕してやれっ!」
「これも無駄で……はなかったようですね、強力な攻撃です、まさかMだけの力でここまで……グッ、潰れた天使から出た汚い汁が袖に……」
「勇者様! 私達のパワーをもっとゴーレムにっ」
「そうですのっ、出力を挙げてっ、あっ、あひぃぃぃっ!」
「……なるほどそういうことでしたか、それでこんな力のゴーレムが……ぐぐっ、さらにパワーアップしたということですかそうですか」
「そのまま押し潰してっ! 頑張ってゴーレムの人! そこだいけっ! フィニッシュだっ!」
「マーサ、あの神が生理的にすっごくアレなのはわかるけどな、ゴーレムを単に応援しても強くはならないぞ、それよりかはほらっ、これでも喰らえっ」
「きゃんっ! あ~ん、鞭痛いっ、でももっと!」
「オラオラッ、どうだこの馬鹿ウサギめがっ!」
「ひぃぃぃんっ! 何か知らないけどごめんなさぁぁぁいっ!」
「ぐわぁぁぁっ! すっ、凄まじい力がぁぁぁっ! なんということだっ? どうしてMの力でこのようなっ、ぐぎぎぎぎっ」
余裕綽々で俺達を倒そうと近付いて来て、その余裕そのままにカレン、リリィ、精霊様、さらに仁平までもをアッサリと退けてしまったマゾ狩りハンター神、もちろん天使の肉壁を用いてだが。
しかし、その天使の肉壁さえも圧倒し、うえから振り下ろした巨大な右の拳を神に届かせた、初めて神自らに防御行動を取らせた攻撃がお仕置き強化版、覚醒トランスフォーム済みゴーレムの実質的な初撃であった。
腕を使ってそのゴーレムの拳を、潰れた天使の肉片が大量に付着した薄汚いそれを受け止めたマゾ狩りハンター神は、その予想だにしない力の前に、徐々に押し潰されていく。
もう少し、このまま足が地面に沈み、そして膝の力がなくなればこちらのものになるであろう。
神はグシャッと潰れ、それはこの神界、神界に存在するドM全てに対しての祝福ともなるのだ。
マーサを鞭でシバキ倒しつつ、その後ろで羨ましそうにしていたマリエルを掴んで隣に放り投げ、ダブルで鞭打ちを加えていくと、ゴーレムの力はさらに強化されていく。
マゾ狩りハンター神はゴーレムのそのパワーアップに応じて敗北感を強め、次第に押し潰されて……というよりもこれは地面に沈んでいるだけ、その現象のみなのかも知れない。
潰れている、このまま完全にペチャンコに出来ると思っていたのだが、そのようなことなど一切なく、単に釘を打ったように地面に打ち込まれてしまうだけ。
その状態からの脱出は、神の力をもってすれば決して難しいことなどではないはずだから、この攻撃が俺達の勝利に繋がるとは思えない。
だが今ゴーレムが拳で神を押さえ付けるのをやめてしまったとしたらどうなるか、おそらく神はその自分が沈みつつある穴から飛び出し、早速ミラ、ユリナ、サリナを磔にした『装置』を破壊しに回ることであろう。
もしそれを成し遂げられてしまえば、ゴーレムに対する安定した力の供給が、許容オーバーにならないようなチャージが出来なくなってしまうのだ。
どうしてあの装置自体をどこかに隠すことをしなかったのかと後悔してしまうところでもあるが、そもそものところ、この頭の悪い神がここまで『発見力』に乏しい、キッカケがなくてはこの儀式場の場所さえも看破しかねるような奴であったなど、誰が想像しようものか。
と、それよりもまずは今のこの現状を、どうにかこちらが有利になるような状態で動かすことを考えていくべきだ。
まずはゴーレムの攻撃、ゴーレムのターンを継続したまま、この圧し付け攻撃から別の動きに移行するべきなのだが……どうするべきなのであろうか、ゴーレムの歪んだAIも困り果てているようだな……
「困ったわねこの状況、勇者様、もうちょっとゴーレムにパワーを、ねぇっ」
「ゴーレムにパワーか……じゃあセラ、お前ちょっとこっち来い、そこに仰向けに寝てみろ」
「こう……かしら? 何するの……ってひぃぃぃっ! キャハハハハッ! ひぃっ、ひぃぃぃっ!」
「おうおう、ここがくすぐったいのか? それともここか? んっ? 笑っていないで答えてくれよ」
「ひゃぁぁぁっ! あひっ……」
「……気絶したか、俺の本気のくすぐり攻撃に対しては、セラもまた無力であったということだな」
「勇者よっ、ちょっとやりすぎな気がしますよっ、ゴーレムがまたそのっ、何か凄いことにっ!」
「あっ、もしかしてこれはもう一段階いくってことじゃ……違うのか?」
「そう……なのかも知れませんね、しかし姿形が大きく変わるわけではなくて、むしろそのまま、パワーとスピードだけが大幅に……アップしましたっ!」
「ふぎょぉぉぉっ! またしても力がっ、このっ、どうにか脱出せねばこの私がっ、潰れっ!? ギャァァァッ!」
「おぉっ、反対の手で跳ね上げてキャッチしたぞ、そこに乗ったエリナが目を回しているってことは相当なスピードだったってことだな」
「というか、あれだけの勢いで動かされてなおズタズタになっていないのが凄いことかと……」
今度はセラの力を、もちろん『M』の力をゴーレムに注入したのであるが、どうも調子に乗ってやりすぎてしまった感があった。
だがゴーレムは壊れることなく、むしろその力をさらに一段階アップさせ、押さえ付けていただけのマゾ狩りハンター神を、まるで握り潰すつもりであるかのようにガシッと掴んで、そのままギリギリと締め上げている。
響き渡る悲鳴は凄まじく、これでもまだグシャッと潰れないのは神であるからかと、そうも考えられる状況。
だが力の差は圧倒的であって、この後マゾ狩りハンター神が大逆転を成し遂げ、ゴーレムを倒してしまうようなことはもうないのであろうといったところ。
さらに、その掴まれていながらもはみ出している頭に、先程は失敗したカレン達の攻撃が……ダメか、またしても天使の肉壁に阻まれてしまった。
こうなればもう、唯一攻撃がその壁を貫通しているゴーレムの力で、一気に攻め立ててフィニッシュまで持っていくしかないようだ……
「ぐぉぉぉっ! つっ、潰されてなるものかぁぁぁっ!」
「まだまだこの程度ではダメなようだな、精霊様、私の力も使って欲しいっ」
「ご主人様、ついでに私の力も、少しだけゴーレムに分けてあげて下さい」
「……どうする精霊様? ルビアとジェシカの『M』の力だが」
「まぁ、使ってみても良いんじゃないかしら? さっきの暴走しかねないチャージでどうにかなったんだもの」
「わかった、じゃあルビア、ちょっと立てこの雌豚がっ」
「ジェシカちゃんも立ちなさい、この雌豚がっ!」
『はっ、はいぃぃぃっ!』
俺と精霊様が椅子にしていたルビアとジェシカ、仲間達の中でもかなり『M数値』が高い、というよりも全ての生物の中でトップクラスのドMである。
そんな2人を立ち上がらせ、今度はやりすぎにならないよう、慎重にやっていくべきであるとの確認を精霊様と済ませ、ひとまずチャージに移行することとした。
目の前ではゴーレムが、その凄まじい力をもってマゾ狩りハンター神を潰さんとしているのだが……少しばかり、神の抵抗力の方が優勢になってきたような気がしなくもない、急がねば……




