1222 余計なモノ
「……さてと、これからこのゴーレムを良い感じにリビルドしていくわけだが……まずは何から手を付けていったら良いのか、その辺りを指示してくれないか」
「そうですね……最初は一旦頭とか腕とかをバラバラにして、動力炉も取り出して下さい、それぞれのパーツごと確認した方が効率が良いかと思いますから」
「うむ、じゃあマーサ……はやめろ、何かめっちゃ壊しそうだ、ミラとジェシカで協力してやってくれ、俺は座って見ている、めっちゃ壊しそうだからな」
「勇者様はそうやってサボる口実を作っているだけですね、困ります」
「黙れっ! 誰のせいでこんな作業が必要になっているのか、どうして自分がそんなにダメでMなのか、その点について深く考え、反省しながら作業を進めろ」
「作業中に余計なことを考えていたら危ないんですが……ほら、勇者様の頭にちょっと手が滑って飛んで行った工具がヒットしますよ」
「何をそんなヒヤリハットみたいなこと……へぶぽっ!」
「ぷぷぷぷっ、なかなか良い表情でした、もうひとつ、今度はもっと大きな工具を……」
「ミラ! 結局お前もふざけてんじゃねぇかっ!」
「だって勇者様が挑発するから、悔しかったら捕まえてみて……足がっ! キャァァァッ! あでっ!」
「落下事故とか、早速にして重大インシデントだろお前それ」
「本当に、作業を停止して原因を究明しなくてはならないレベルだぞ、ほらミラ殿、大丈夫か?」
「あの~っ……もしかしてこれ、私だけで作業した方が遥かに早く終了するのではないかと……違いますかね?」
『・・・・・・・・・・』
ロボテック女神の指摘は至極もっともであり、これは完全に、100%ふざけていた、そして足を滑らせて落下したミラが悪い。
ということでミラは正座にて反省させ、そのままセラからの屈辱的なお仕置きを受けるということで全員の合意を得る、というか俺の力で合意させる。
で、作業の方はジェシカと、それから拘束を解いてやったロボテック女神に任せることとしたのだが、むしろジェシカが足手纏いなぐらい、ロボテック女神の動きが良い。
あっという間にパーツ後とバラバラにされたゴーレムの地面に降ろされた頭部は、やはり自慢のCHING-CHINGを失ったのことで悲しそうに見えなくもないのだが、それが気のせいであることは確認済みだ。
で、そのパーツごとのチェックを始めるロボテック女神は、何やらブツブツと専門的なことを呟いていて、もはや俺達に理解出来る領域を超えてしまったように思える。
「何か俺達、やることなくなったような気がしないか?」
「そうですね、でももしかしたら何かちょっと手伝って欲しいとか……なさそうですね、あの集中ぶりだと」
「むしろここに居る分だけ邪魔という説もあるし、マジでどうしようか? 応援でもする?」
「余計に邪魔だぞ主殿、それよりもほら、敵襲のタイミングを調査している班の様子を見に行ったらどうだ?」
「俺が行くのかよ……てか自分達はどうするつもりだ?」
「そうだな、私達は……こんなことをしなくてはならなくなった元凶で、しかもそのための作業にも役に立たないカスとして、この辺りで静かに正座して反省しておこう」
「わかった、じゃあ全員そこに並べっ! 壁に向かって正座だっ! ほら早くしろこの雌豚共!」
『ひぃぃぃっ! ありがとうございますっ!』
何やらこの件でほんの少しだけ皆のMが発散されたような気がしたのだが、継続して正座させてあったとしても、そのうちに慣れてまた新たな責め苦を求めるようになってしまうことであろう。
ゆえにこの正座の罰はあまり意味を成さないことになるのだが……まぁ、何もしないままここでボーっとしていろというよりかはマシなはずだ。
それに俺が出掛けている間に正座を解除したり、ダランとなって反省の色を消失させたりしていたことが発覚した場合、より厳しい罰を与える口実にもなってくる。
どうせそのようなことになるのだとは思う、しかしここでそれを指摘するのは野暮ということで、黙って出ていった後、スッと気配を消して戻って来て、皆が真面目にやっていない現場を摘発することとしよう。
で、生意気なことに唯一、『自分は神だから』という理由で正座をしようとしなかった女神には強烈な尻ビンタを喰らわせ、強制的に皆に合流させておく。
そこまで確認してから、俺は儀式場を出て仁平達が……というかもう夜中なので起きているのは仁平だけであろうか、とにかく外部協力者である神々と連絡を取っている部屋へと戻った……
「よぉっ、どんな感じの進捗具合だ? というかこんな時間に他の神々とは連絡が取れたのか?」
「もちろんバリバリ進捗中よぉ~っ、皆ほとんど寝ていたみたいだけどぉ~っ、念話を使って耳元で囁いてあげたら喜びの絶叫を上げながら飛び起きてぇ~っ、すぐに動き出したわよぉ~っ」
「そうなのか、それはご愁傷様だな、まさか寝床でそんな、地獄の底から響き渡る気色の悪い声を……で、その飛び起きた神々の様子は?」
「今関係各方面に接触してぇ~っ、それでババァの仲間の……何だったかしらぁ~っ?」
「マゾ狩りハンター神とかいう奴だ」
「そうそうっ、それの動向を探っているんだけどぉ~っ、どうも拠点に動きが出ているらしいのよねぇ~っ」
「拠点に動き? ということはもうこっちへ向かうための準備をしているってことか?」
「それがぁ~っ、何かちょっと怪しい『グッズ』とか、そういうのを大量に準備しているみたいなのぉ~っ、あ、もちろん成人向けアイテムのだけどぉ~っ」
「なるほど、マゾ狩りで狩った俺の仲間をそんなモノで蹂躙するつもりだったのか、どうしようもねぇ神だな、とっとと殺っちまわないと、で、いつ来そうなんだ?」
「まっ、その辺りに関してはまた動きがあったら連絡があると思うわぁ~っ、協力者が天使を何体か貼り付かせてあるって言っていたからぁ~っ」
「そうか……まぁじゃあ引き続き任せたわ、それと、カレンにリリィは……しっかり寝てやがんな、精霊様も」
「そっちも朝になったら起こしてあげるから大丈夫よぉ~っ、それに今回の件に関してはぁ~っ、確定で戦力として扱える大事な仲間でしょぉ~っ、ゆっくり休ませておくべきなのよぉ~っ」
「言われてみればそうか……うむ、そしたら俺は儀式場に戻る、一応仲間にも敵に動きがあったということだけは伝達しておかないとだからな」
「はいはぁ~いっ」
仁平とマンツーマンで、しかも密室で話をするのはなかなか気持ちの悪いことであるが、俺は現在その旗の下にあるため文句は言えない。
で、儀式場では案の定、正座しておけと命じてあった仲間達がダラダラと、正座こそしている奴も居たがお喋りをして暇を潰しているではないか。
そのまま気配を消して近付いたうえで、装備していた伝説のハリセンを用いて一気にあたまをスパァーンッとやっていく。
なぜか武器の状態の残雪DXには不思議な力で防御されてしまったのであるが、きっと気配を消しても、別の要因から敵を察知するための機能に引っ掛かってしまうのであろう。
で、ハリセンの一撃を喰らった仲間達は、そのままシャキッと正座の位置に戻った……のだがもう遅い、全員に100叩きの刑を宣告してやった……
「オラお前等! とっとと四つん這いになって尻をこっちに向けろっ! 俺様のハリセンが炸裂すんぞっ!」
「良いわねそのアイテム、どこでゲットしたの?」
「ん? この伝説のハリセンか、さっき廊下に落ちていたから拾ったんだ、攻撃力は低いが叩いたときの音がデカいからな、こうやって振り下ろすとっ!」
「ひゃいぃぃぃんっ……と、あまり痛くないわね」
「そうだろうそうだろう、だから非殺傷のツッコミ武器としても使えるんだ」
「ふ~ん、まぁ勇者様、そんなのはどうでも良いとしてよ、向こうの様子はどうだったの? 敵は動いていたの?」
「そうですよ、私達だけダラダラしていた罰を受けて、結局勇者様もただお散歩に行っただけみたいな……ひぎぃぃぃっ! っと、あれ? ホントに痛くありませんね」
「そうだろうそうだろう、だから黙っておけこの雌豚王女がっ!」
「あぁぁぁっ……それで、どうだったというのですか?」
「うむ、敵にも動きはあったらしい、だがまだおかしな『グッズ』とかを用意している段階であって、本格的に動き出したら見張りをしている協力神所属の天使がまた連絡をくれるそうだ」
「なるほど……ちなみにこちらは先程から何かトラブルがあって、それの解決を模索しているようです」
「トラブルだと?」
そう言われて振り返ると、ロボテック女神が何やら地面に向かってウンウンと唸っている……地面ではなくゴーレムの動力炉を見ているのか。
何が起こったのかと質問をしてみたいところでもあるが、かなり集中しているようすにつき、あまり気を散らすようなことはしない方が良いのかも知れないとも思う。
しかし気になることは気になるわけだし、聞いておかないと色々と支障が出たり、逆に聞いておくことで解決に繋がる何かを発見したりということがないとは限らない。
もし邪魔をしてしまったとしたら非常に申し訳ないのであるが、ここはひとまず何が起こって困っているのかということだけでも聞いておくこととしよう。
そう考えてロボテック女神に近付き、背後から声を掛けながら肩に手を置くと、ビクッと反応した後にこちらを振り向いたのであった……
「はぁっ、ビックリしました、何か御用でしょうか?」
「いやな、お前が何かに困っているらしいってのを仲間達から聞いたんだが、トラブルでも生じたのか?」
「えぇ、トラブルというか何というか、動力炉の中がちょっとですね」
「動力炉? 中に何か不具合でも?」
「いえ、機能自体には問題などないです、しかしほら、この黒いのが見えますか? 配管にビッシリと付着した」
「……見えるけど……何か蠢いてね?」
「コレ、全部生贄に捧げられた神界人間とかの怨霊です」
「何でそんなもんがこびり付いてんだよ油汚れみたいに……」
可視化された怨霊、霊感ゼロの俺にも見えるということは、実体を持っているのかそれとも何かで着色されているのかといったところだが、煤のような色をしている辺り後者である可能性が高い。
生贄に捧げられた馬鹿共の魂? は、一旦この動力炉で処理されて、エネルギーのみを抽出してゴーレム全体に回すこととなるのだが、その転換効率は100%にはならないとのこと。
どうしても生贄の怨嗟の気持ち、苦痛に喘いだ絶望の記憶などが『不純物』として残り、それが混ざり合ったり、動力炉の中で発生した神界の特殊な金属のカスなどと混じり合って……ということか。
もちろんこれを除去してしまえば動力炉は再び綺麗になり、ゴーレムも不具合を起こす可能性なく稼働させることが出来る状態となる。
だが放置したまま再起動し、それでどんどん生贄を捧げて動かしていけば、いずれは動力炉が完全にこの黒い蠢く何かで閉塞してしまい、エネルギーがその中で暴走して……もちろん今居る町は蒸発するに違いない。
そしてその現象が発生するのは次に起動してすぐなのか、それともかなり時間が経ってからなのか、まるで予想出来ないのだという。
運が悪ければ開始一発でゴーレムが爆発、俺達の作戦は失敗し、仁平派の拠点であり、せっかくそれを既成事実としつつあったこの神界人間の町も、住民ごと消え去ってしまうこととなるのだ……
「ということなので、どうにかしてコレを除去しておかないとならないのですが……」
「普通に塩素系のパイプ掃除するアレとか、そういう薬剤でどうにかならないのか?」
「さすがに普通の汚れではありませんから、それで消し去るということは難しいでしょうね」
「じゃあひとまずゴシゴシ擦って取り出して、水で流して排水溝から消えて貰えばどうだ?」
「取り出すことは容易かと思います、ですがその後ですね、普通に水に流すというのは……無理ですね確実に、動力炉から剥がされると同時に拡散して、そのひとつひとつが悪霊としてこの部屋の中で暴れ始めることでしょう」
「悪霊かよ……ここのところそういう奴への対処が続くな……いや何でもない、こっちの話だから気にしないでくれ、それで、やっぱり敵として悪霊を倒してってことになるんだなその場合には?」
「えぇ、倒すことが可能であれば、ということにはなりますが……きっとかなり強力なモノですよ、このゴーレムによるエネルギーへの変換を免れた意志の強い怨嗟の気持ちが……ということですから」
「なるほど強いのか……しかもこっちには……」
儀式場の隅で正座させたままのミラ、ルビア、ジェシカの方を見ると、自分達がどうしたのだという顔でこちらを見返してくる。
3人には悪いのだが、おそらくここからまた悪霊の類と戦闘になるということが確定してしまう。
このことに関してはしばらく黙って……いや、隣で耳の良いマーサがこちらの会話内容を伝えてしまったらしい。
すぐに飛び上がってしまう3人、先程俺が集中しているロボテック女神に対し、背後から声を掛けた際とはまるで異なるような大きな動きでビックリ仰天した3人は、そのまま床に落ちてペタンッと、半ば意識を失ったような状態でへたり込んでしまった。
もうみているだけでかわいそうであって、可能であればそんな戦闘に参加させたくはない……などとは思わないのが俺だ。
当然のことながら、この怖がりの3人を一番先頭に立たせて、後ろから鞭で脅しながら悪霊と戦わせてやる、というのがMを発散させるお仕置きの一環になる……とは思えないな。
3人は普通に嫌がっているのであって、この状態からムチャクチャな要求をすれば、それはもうマゾ狩りをして狩ったMにムチャクチャなことをしているのと同じこと。
つまりここで余計なことはせず、悪霊に関してはそんなモノを恐れない仲間達だけでどうにかしておくべきところ。
まぁ、もしその過程で隅っこの方に避難していた3人がおもらしでもしたとしたら、その件に関して後からお仕置きしてやるといういつものムーブで構わないであろう。
ということでロボテック女神に対し、悪霊とは俺達が戦うので、サッサとそのこびり付いた気持ちの悪い怨念をゴーレムの動力炉からこそげ落してしまえと伝えた……
「あの、えっと……それでもですね、その……ホントに強大な敵だと思いますよ、大丈夫なんですかね?」
「大丈夫だろう知らんけど、ユリナ、サリナ、ひとまずお前等でどうにかしてくれ、悪霊退治なら余裕だろう?」
「まぁ、楽勝だとは思いますの、ただ正座で足が痺れて、少しばかり霊力が低下してしまいましたの、魔力だけは健在ですが」
「正座すると霊力が落ちるのか……法事のときとかやべぇんじゃねぇのか」
「あの、そしたら私もバックアップに回りますね、実弾でない何かで悪霊なら撃ってしまえばどうにかなると思うので」
「うむ、残雪DXの力も借りることとしよう、じゃあロボテック女神、もうその汚れを排除して構わないぞ、ほら早くしろっ」
「ほ……ホントにやるのですか……では、その……えいやっ!」
「おうおうっ、簡単に落ちるじゃねぇかとんでもねぇ汚れが……っと、見えなくなったけど、そのまま浄化されたのか?」
「そんなことありませんっ! 気を付けて下さいっ! てかどうして見えていないんですかっ⁉」
「え? はぁ? どういうこと?」
「……強大な力を持った悪霊が数十体、ご主人様の周りを取り囲んでいますのよ」
「もうまるで姿が見えないぐらいに濃厚でこってりした悪霊ですね、コレが見えないというのはどういうことなのでしょうか……」
「あっそ、そんなこと言ってないで早く始末して……とっ、あれっ? 体が勝手に……捩じれて……ギョェェェッ! なんじゃこりゃぁぁぁっ!」
「あーあ、とんでもなく雑魚ですのご主人様」
「幽霊に対しては凄く無力ですね、ほら、このままじゃ攻撃できないんでとにかく脱出して下さい」
「む、無茶を言うな……このままじゃ雑巾みたいに……」
「本当に仕方ありませんことね、しかしこの強さと数では……マーサ、お願いがありますのっ!」
「ん? 精霊様でも呼んで来る? でもさ、ここに女神様も居るのよ、ねぇ女神様?」
「申し訳ありませんが私はパスで、正座が辛すぎてもはや残存霊力がゼロです」
「だから正座で霊力奪われてんじゃねぇぇぇっ!」
神が何を言っているのだと、神であるなら霊力などではなくその神の力で悪霊をどうにかしろと、そう指摘しようとした女神はまるで立ち上がれない様子。
どうも霊力がどうこうというだけでなく、普通に足が痺れてまともに動くことなど出来ない状態なのであろう……だとすれば最初からそういえば良いのに、どうして無駄な見栄を張ったというのだこの馬鹿は。
で、同じく足が痺れているものの、どうにか耐えて走り出したマーサが、出入口の方向を間違えたりしつつも儀式場の外へ、精霊様を呼ぶために向かって行った。
精霊様はきっとまだ、というかこの時間であれば普通に寝ていて、起こすと悪霊よりも面倒なことになる気がしなくもないが……今はそのようなことを言っている暇でもないな。
出現したという悪霊の力はどういうわけか凄まじく、霊力が全くない俺程度であれば、本当にこのまま捻り潰されてしまうのではないかという状況に持ち込んでいるのだ。
まさかこんな所でこんな強敵に遭遇するとは思わなかったし、それの討伐を命じられた悪魔達も、まさかここまでのものとは思っていなかったらしく手が出せないでいる。
これは本当に精霊様がやって来るまで、というか目を覚まして普通に機嫌を直して、それでも起こされたことに怒りを覚えてマーサをいじめた後で、ようやくその気になってここへやって来るのを待つしかないというのか……なかなかハードではないか……




