1217 近付くことが
「お~い、何だ何だ? 外で何か催し物でもやって……ほう、女が何人か磔の刑に処されているのか、しかもあの顔は俺達の世界の女神とかセラとかルビアとかじゃねぇかぁぁぁっ!」
「急に叫ばないで下さい勇者様、ほら、次はマリエルちゃんとジェシカちゃんがもっと高い磔台に……というか、ジェシカちゃんは着替えをさせられていますね……ハイレグTバックレオタードに……」
「良く見るともう磔にされている仲間もそうですの、全員、というか最初から装備していたマリエルちゃんも、また別のハイレグTバックレオタードに換装させられていますわ」
「本当だな、良く見れば全員……クソッ、遠すぎて良く見えねぇ、というかジェシカは一旦着替えかけたハイレグTバックレオタードを脱いで別のを……サイズが合うのを選別してんのか……」
「従順にそんなことをさせられているのがおかしいですわね、もしかすると皆ももう……」
「いいや、単に馬鹿なだけだろう、精霊様とかほら、ちょっと抵抗気味なムーブをしているじゃないか」
「その可能性もありますわね、というかどうしますのこれから?」
「それは……と、仁平が来たようだ、ようやく例の品、じゃなかった霊の品が完成したってことかな」
俺達がどんどん磔にされていく仲間達の様子を眺めていると、部屋の戸がノックされて仁平が入って来たのであった。
だがその後ろに誰かを伴っている様子はなく、仁平単体での入室……ではなく、後ろから足跡のみが響いているではないか。
そこに居た誰もがその何者かの姿を認識出来ていないということは、それが霊感のある者には見える何かではなく、本当にスケルトンのボディーを獲得した、幽霊とは呼べない何かであるということ。
ミラも怯えている様子はないし、そもそも誰もが足音以外を感じていないこの状況というのはかなり奇妙なのだが、一応、それを創り出した仁平だけは、彼女らの存在を認識しているらしい。
それで、そんな状態の幽霊、いや元幽霊はバックアップ要因として確保しておき、基本的には俺達があのオッサァァァンッの神を、それが装備した御珍体をOFFすることとなる。
目的物でもあって、それをOFFすることが今回の戦いの勝利条件でもあるわけだから、何としてでも御珍体を、ゴーレムのCHING-CHINGを奪取しなければならない状況だ……
「どうかしらぁ~っ? この子達ならきっと、あのオッサァァァンッの神にバレないようにすぐ近くまで行くことが出来るわよぉ~っ、もちろんモノにも触れられるしぃ~っ、ちょっと見えないけど優秀なのよぉ~っ」
「うむ、配置さえ間違えなければかなり使えそうだな、戦う力はなくても、あの神とか御珍体に対する恨みは深そうだ」
『・・・・・・・・・・』
「あと喋ることもまだ出来ないようですわね」
「そうなのよぉ~っ、ホントは可能なはずなんだけどぉ~っ、もう長いこと実体を持っていなかったから、発声の仕方を思い出せないみたいでぇ~っ」
「地味にかわいそうな奴等だな、だがまぁ、この作戦が上手くいった暁には生き返って、残りの魔界人間としての人生をまともに過ごすことが出来るんだ、ちょっとマジで頑張って貰おう」
「それでですね勇者様、私達はその、どうやってあの磔台に近付くんですか? 顔バレしているどころの騒ぎじゃなくて、普通にお尋ね者だと思うんですよ」
「そりゃそうだな、あのオッサァァァンッの神だって俺達をおびき出すためにこんなことをしているんだから、普通に接近したら普通にバレて、普通に囲まれてお終いだろうよ、だが……」
「だが……何ですか?」
「あの御珍体の山に居たとき、俺は本殿の中に入るためにわざわざ女装していただろう?」
「えぇ、なかなかキモかったですね」
「お前は後でお仕置きだ、で、その姿の俺しか見られていないってことは、この通常でかつカッコイイ最強勇者様に戻った今の俺、ちなみにどう思う?」
「えぇ、なかなかキモいと思います、特に自画自賛している辺りが」
「ちょっと尻出せっ!」
「やっ、冗談ですってば! あいたっ! ひぃぃぃっ! ひゃぁぁぁっ!」
「……でだ、俺だけは唯一顔バレ……素顔バレしていないわけだからな、その俺が接近しても、敵はターゲットがやって来たとは思わないはずだ」
「でもご主人様、いくら何でも普通に近付いたり、ほら、ちょっとステージみたいに高くなっている場所に登ったりしたら目立ちますよ、どうするんですか?」
「うむ、アホのカレンにしては良く気付いたな、そこでだ……お前等は騒ぎを起こしてくれ、捕まったりしたら後で助けるから、とにかく注目を集めて俺に意識が向かわないようにするんだ、特に仁平は目立つからな」
「あらぁ~っ、じゃあ後ろのちょっと高い建物でポールダンスでもしようかしらぁ~っ」
「そういうのはやめてくれ、目撃した人々の目が腐ってしまうからな」
かなり余計なことをしようとしている仁平を制止し、それから町に放火してどうのこうのと悪い相談をしているユリナとサリナの尻尾を重ねて駒結びにして罰し、とにかく『安全に』騒ぎを起こして欲しいと忠告しておく。
この連中にそれが出来るのかどうかという点に関してはかなり疑問であるが、それでも俺が目立たないようにするためにはその方法がベストなのである。
それで、あのオッサァァァンッの神やその他狂気状態のリピーター参拝者達、それから一般の魔界人間らが騒ぎに注目している間に、俺が中心となってオッサァァァンッの神に接近するのだ。
もちろんバックアップとなる元幽霊達にも付いて来て貰わなくてはならないのだが、見えないし感じ取ることも出来ないのでどこに居るのかの確認は取ることが叶わない。
だが意思を持って動いていることだけは確かなので、おそらく俺の後に続けと言えばその通り、多少遅れることはあったとしても付いて来てくれることであろう。
あとは最後の最後、神に接近した際の行動に注意が必要なのは言うまでもないな……というか敵の強さが俺と同程度になってしまうわけであるから、周りを囲まれるのだけは非常にヤバい。
少なくともオッサァァァンッの神が単独で居る状態でしか攻撃を開始することが出来ないのであって、気付いた配下の連中や狂気状態のリピーター参拝客が寄って来たらもうそこでお終いなのだ。
これは一瞬が勝負を分けそうだなといったところ、もちろんバックアップ要因の活躍にも期待したいが、奴等も戦闘力があるわけではないので過信は禁物である……
「……ご主人様、全員ベタッと磔にされちゃいましたよ、それと、奥の方からあのオッサァァァンッの神様が出て来ました、何か喋るみたいです」
「ホントだな、メガホンみたいなの持ちやがって、神ならもっとこう、特殊な力とかで周囲に呼び掛けろってんだ」
「まぁ、聞こえるなら良いじゃないですの、ほら喋りますわよ何か」
『え~っ、テステス……うむ、良好であるな、皆の者、良く聞けいっ! 昨日のことっ! 我が御珍体を狙う不届き者の一団が本殿に侵入し、我を殺害せんと襲い掛かった! そして今もなお、その一団の半数が逃亡中であるっ! よって、その連中が今日この場で、今すぐに投降しないというのであればっ! ここに磔にしている一味を酷く罰することとした!』
『ウォォォッ! 御珍体万歳! オッサァァァンッの神様万歳!』
『それでだっ! まずはこの者共に対し! 罰として強力無比な呪いを乗せたハイレグTバックレオタードを装備させたのであるが……まだまだその呪いは100分の1も発動しておらぬっ! その呪いを少しでも、ほんの少しだけでも開放してやれば……まずは貴様だこの襲撃犯めがっ!』
『あぐっ……ぐぅぅぅっ、くっ、食い込んでしまって、あぁぁぁっ!』
『この者は最初からハイレグTバックレオタードを装備していた、殊勝な心掛けの信者を装って我に近付いた凶悪犯であるっ! その他の連中も同様に我を狙いっ! あろうことか御珍体を奪い去ろうとしたのであるっ! 呪いを受けよっ!』
『あぁぁぁぁぁぁっ! きっくぅぅぅぅぅぅっ!』
『どうだハイレグTバックレオタードの着心地は? それでだっ! 今もどこかでこの光景を見ているのであろうこの者共の仲間よっ! 今すぐに投降してこの者共と同じ罰を受けるというのであればっ! 今回ばかりはハイレグTバックレオタード装備5年間、そして鞭打ち1万回で良いにしてやろうっ! もちろん処罰は公開で、晒し者として村の魔界人間に、観光客に見せ付けるがなっ! サッサと出て来るのだっ!』
「フンッ、殺したりしねぇとは慈悲深いハゲだな、まぁ、あんなことされたらもう普通は人として殺されているも同然だが」
「社会的な死を迎えそうですね、いくら村人と観光客だけの前とはいえ、あんな格好をさせられて、しかも5年間なんて」
「でもでも、ルビアちゃんとか凄く喜んでいますよ、ほら見て下さい、笑っているじゃないですか……楽しいのかな?」
「それはアイツが変態なだけだ、あと他もたいがい変態だがな、リリィはマネするんじゃねぇぞ」
「もちろんしませんよ、超恥ずかしいですからたぶん」
「よろしい、で、そろそろ作戦開始とするわけだが……まずはどうやって目立つべきか、考えたのかお前等?」
「そうですわね、やっぱり町に火を……或いは聴衆のど真ん中に爆発物を投げ込んで……」
「物騒すぎるぞユリナお前、もっとこう、安全にと言っただろうがさっき」
「じゃあ安全に放火を……ひぃっ、尻尾はやめて下さいですのっ! わかりましたわ、何か考えて……やっぱり屋根の上で宣言とか……」
「この仮面を使いましょう、そうすればまだ顔を知られていない、私達が敵だと知らない魔界人間に顔バレすることがありませんから」
「良いわねぇ~っ、あら、私顔デカすぎてちょっと収まり切らないみたぁ~い」
「すげぇビジュアルになってんな、完全に敵キャラだぞ仁平は」
「仕方ないですね、仮面は他にありませんし……というか都合良く仮面なんか持っていたことが奇跡ですから」
「まぁ、それもそうだな、諦めてこのまま騒いで貰うこととしよう、で、元幽霊の諸君、俺達は先に行くぞっ!」
『・・・・・・・・・・』
「うぇ~いっ! って言っているわよぉ~っ」
「反応がないってのもなかなか寂しいことだな、まぁ、とりあえず先に行っているから、上手くやってくれよ」
『うぇ~いっ!』
ということで俺は先に宿から出て……と、もちろん単独で正面玄関から出るのはおかしいと思われかねないので、窓から飛び降りてしばらく、おそらく元幽霊の連中が普通に出て来るであろう時間まで待機した。
宿から見えた御珍体の山の入り口前、ちょっとした広場のような感じになった場所では、かなりの数の村人と観光客が集まり、磔にされている俺の仲間達の様子を見ている。
山の入り口、つまり茨の道になる参道から何かレッドカーペットのようなものが伸びているのだが……それは神が降りて来たからなのであろうか、それとも別の理由か。
とにかくそのまま徒歩で、あまり不自然な動きをしないよう配慮しながら集まった魔界人間の中へと割って入る……ここまでは特に問題ないな、今のうちに可能な限り前に出て、オッサァァァンッの神に接近しておくこととしよう。
そのオッサァァァンッの神は特に部下などを横に侍らすことなく、しかしステージの下には狂信者らしい女性をかなりの数配置して警備をさせている。
騒ぎが起こればこの連中はそちらの方に注目し、また仲間達を捕らえようと動くはずであるから、その隙に乗じて俺は行動すれば良いということだ……
「……元幽霊の諸君、聞いているか? 居るなら何か動かして返事でもしてくれ……と、石ころが7個浮いたか、全員居るな」
『・・・・・・・・・・』
「俺はまだここから動くわけにはいかないから、全員そのまま群衆の中を前に抜けて、あのステージの後ろから上がってみてくれ」
『・・・・・・・・・・』
「わかってくれたようだな、頼むぞっ」
『・・・・・・・・・・』
もう行ったのかまだそこに居るのかさえわからない元幽霊の7人であるが、どうやら俺の指示は理解してくれたらしいので安心しておく。
捕まってしまった仲間が磔にされているステージのすぐ近くに来たところで、ハイレグTバックレオタード姿の女神と目が合ってしまったのだが、ひとまずお互いに見ないように目を逸らせる。
だがそんな状況でも、こちらがまともに救出作戦を開始していることは伝わったであろうから、まずは女神だけ、安心させることに成功したところだ。
あとは陽動の仲間達が上手くやってくれさえすれば、誰も居なくなった、そして誰も見ていないステージ上で事を起こすことが可能になる。
そしてそこからおよそ3分後、遂に陽動班の仲間達が、俺達が宿泊している宿の屋根の上に現れたのであった……
※※※
「あっはっはっは! どうやら私達のことを探しているようですわねっ! 投降する? そんなわけありませんことよっ!」
『出現したぞぉぉぉっ!』
『アレが神の敵、御珍体の敵の残りだぁぁぁっ!』
『捕まえろっ! 誰か屋根に上ってでも捕まえるんだっ!』
『良く聞け者共よっ! あの敵をひっ捕らえた者にはっ! 褒美としてこのハイレグTバックレオタード着用の女を1匹、好きな者をくれてやるっ!』
『ウォォォッ! ハイレグTバックレオタードの女が手に入るぞぉぉぉっ!』
『褒美は俺のものだっ!』
『いや俺だぁぁぁっ!』
屋根の上に姿を現した仮面姿の仲間達、服装はこれまでと同じであるが、どうせ一般キャラは全員馬鹿ばかりなので気が付かないし、仮面を取った際には普通に対応してくれることであろう。
で、大騒ぎするユリナを筆頭に、その後ろには他の仲間達も居るのだが、そこへ向かってゾロゾロと、何とかして捕まえてやろうという勢いの魔界人間が集まっていく。
まるで砂糖でも発見したアリのように、まずは野郎共からそこへ向かって……当然のように狂気に満ち溢れたリピーター参拝客達も動き出したではないか。
こうなるともうオッサァァァンッの神の前はガラ空きとなって、残っているのはもう、屋根の上まで仲間達を捕まえに行く気力のない年寄などばかり。
その状況下で同じように残っている俺はやはり目立ってしまいそうだから、ここは早めに動いておかないとならなさそうだ。
すぐに群集とは反対の方向を向いて、まずはステージの上に……と、ここで御珍体を装備したままであるオッサァァァンッの神がこちらを見てきた……
『貴様! そこで何をしているというのだ? 敵キャラはこちらではなく向こう、あの屋根の上に居るのだぞっ!』
「しかし神様! 先程よりかなり邪悪な気配が後ろからしておりましてっ! 間違いなく別働隊が居るものかとっ!」
『そういえば……あの敵の残りの連中、確かに人数が不足しているような……貴様! ここに来て我を守れっ!』
「へい喜んでっ!」
本当に馬鹿な奴だと思ってしまったのは俺だけではなく、磔にされている仲間達もであろう……というか、その敵の別働隊が俺であることになぜ気が付かないのだ。
とはいえまぁ、これでようやく目的物であってターゲットでもあるそれに近づくことが出来たのだからそれで良い。
そしてさらに、オッサァァァンッの神のすぐ後ろで同時多発的にポルターが椅子と現象が発生し、バックアップ班がそこに居るということを俺に伝えてくれたのであった。
配置は完璧だ。あとはもう行動を開始するだけであるが……そのチャンスはそう遠くないタイミングで訪れることであろう。
別働隊の存在に警戒し、辺りをキョロキョロと見渡していたオッサァァァンッの神が、そこに何も居ないであろう、敵はや根ノ上がメインであろうと悟り、視線を上に向けたのだ。
その瞬間を逃していてはこの先に進むことなど出来ない、そう考えた俺はスッと動き、まるでターゲットの横を通過して後ろへと移動するような動きを見せた……
『何だっ? どうしたというのだっ? まさか敵の姿が、別働隊が見えたというのかっ?』
「あぁ見えましたよ、まぁ、別働隊ってのはこの俺のことなんですけどね、喰らえっ!」
『なぁぁぁっ!? 貴様我の御珍体をっ、クッ、セーフッ!』
「クソッ、外し切れなかったかっ!」
『フハハハハッ、何のつもりかは知らんが貴様もこれで終わりよっ! 我の御珍体は守られ……はぁっ?』
俺の攻撃が失敗してしまったかに見えた、というか事実失敗してしまったのであるが、それを含めてもこちらの勝ちであったことは言うまでもない。
別働隊の別働隊、つい昨日まで幽霊としてこの村を呪っていた女性元参拝客達が、仁平によって与えられたそのスケルトンのボディーで、全くの無である気配をもって、背後からオッサァァァンッの神に襲い掛かったのである。
当然それを殺してしまうことなど出来ない、だが俺が外しかけた装備を、御珍体の残りの装着部分をOFFしてしまうことぐらいは容易であったのだ。
ボロンッと落下した御珍体の下からは、全開のチャックと共に、幽霊からも粗珍体と揶揄された大変に粗末なそれが現れ……磔にされたままの精霊様がそれを目にし、思わず爆笑してしまったではないか……
「アハハハハッ! そんなのって! そんなのってないわよっ! 立派な御珍体の下はそんなのって!」
『何だ何だ? 向こうの方がやけに騒がしいぞ』
『あらっ? 神様のお姿が……えっ? もしかしてアレが神様なのっ?』
『良く見ると御珍体が地面に落ちて……一体どういうことっ?』
「お~いっ、皆見たか~っ? これが神の、オッサァァァンッの神の本当の姿、本当に粗末なブツだぞぉ~っ!」
『そっ、そんな馬鹿なぁぁぁっ!』
「いや馬鹿はお前等……と、とにかくしっかり見てやれっ! この情けない神の姿をなっ!」
茫然自失の神と、その本当の姿を目の当たりにしてショックを受ける村人、そして魅了された参拝客であった……




