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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1215 魅了洗脳暗示

「早く行って下さいっ! 私達は私達でどうにかしますからっ!」


「すまないっ、出来るだけ早く助けに来るから耐えていてくれっ! おかしくなっている参拝客を傷付けないようになっ!」


「わかったぞ主殿! 私達はここで……一時白旗を挙げるしかあるまいな……とにかく何人でも良い、脱出してくれっ!」


「出られる子はこっちへ! 天井を伝って逃げるわよっ! 勇者様も早くっ!」


「クソッ、マジでどうなってんだこの参拝客共は、どう考えてもおかしいだろ……目が完全にイッてんのもな」



 結局その状況、倒したと思ったオッサァァァンッの神に捕まったり、茨の力を使ってくる、本来は通常の魔界人間であるはずの参拝客の群れから逃げ出すことに成功したのは半数以下。


 俺と仁平と、それから仲間ではミラにカレンにリリィ、ユリナとサリナであった……ルール違反の罰として最初から茨に巻かれていた仲間や、場所が悪かった精霊様に残雪DX、女神とドM雌豚尻の神はアウトであったか。


 ひとまず天井を伝って本当に忍者のように脱出し、本殿から出ることに成功した俺達であったが、先程まで居たその場所からは、取り残された仲間達に殺到する狂った参拝客の声が響いている。


 連中に捕まってしまうとどうなるのか、どのような目に遭わされるのかということはまだ予想する段階にないが、間違いなく酷い目に遭うのはわかっていること。


 それがこの後先頭に復帰することが出来る程度なのか、それともかなりのダメージを被ったり、疲れ果ててギブアップしてしまうようなものなのか、そこは気になるところであるが……



「……よしっ、ここまで来れば大丈夫なはずだ、おかしくなっているのは本殿の中に居た参拝客だけみたいだからな」


「でもここの人達もほら、騒ぎを見ておかしいとは思っている様子ですわよ、もしかしてこのまま入って行ったら、中の人達と同じように何か……幻術? ですの?」


「その類の可能性は大いにありますね、ですけど、魔法じゃなくてもっと特殊な力だと思うので、私が看破したり打ち破ったりするのはちょっと……難しいかも知れませんね……」


「だがどうにかしないとだ、そして向こうは向こうで何とかして貰わないと」


「それでぇ~っ、ひとまずどうするのぉ~っ? この場に居るとこの悪魔の子が言っているようにぃ~っ、また危険なことになりかねないけどぉ~っ」


「うむ確かにそうだな……向こうに『お帰りの際はこちら』みたいな出口があるだろう? 一旦そこの辺りまで移動しよう、そうすれば逃げるべきときにはサッと逃げられるはずだ」



 裏側の参道というか、帰り専用の通路の側に向かってとりあえず危険そうなエリアを脱出してみる。

 騒ぎに気付かずに帰っている参拝客も多いようだが、これも何かキッカケがあれば襲い掛かってくる類の者であろう。


 本殿の大騒ぎは徐々に拡大し、先程俺達が退避していた場所、最初に衣装を購入した場所などもだんだんと狂気に包まれていく。


 参拝客がおかしくなってしまう現象はまるで強烈な伝染病のように広がり続けるらしく、隣の者がそうなってしまえば、しばらくしてその者も、そしてそのまた隣の……という広がり具合だ。


 もうこの境内地全体がそうなってしまうのは時間の問題であり、俺達もこんな場所に居れば、いずれ巻き込まれて傷付けるわけにはいかない魔界人間の参拝客に囲まれ、殺到されてしまうことであろう。


 やはりそもそもこの御珍体の祀られる山から脱出するか、ジェシカや精霊様、女神などが向こうで捕まってしまっている以上、それを判断するのは仁平にミラ、ユリナやサリナなどの比較的知能が高い仲間。


 どうするべきかと相談するまでもなく考えてはいるようだが……ここで仁平が『完全に逃げ出すできである』という意見を提示し、他もそれに賛同する。


 俺と仁平はまともに戦うことが出来ない、茨の道だけでなく、おそらくこの境内地全体で力が制約、というか敵キャラが俺達に準じて強くなる方式になっているはずだ。


 というかそもそもメインの『敵兵』である参拝客に何かをするわけにはいかないのだから、そこはもう、戦いを避けることのみに注力して、効率的な作戦を立ててから再度チャレンジするべきなのであろう……



「行きますわよっ! とにかくここから出て、町の方で隠れられる場所を探しておくんですわっ!」


「あぁ、じゃあ急ぐぞ、この状況でさらに誰かが欠けたら一気に戦力が落ちてしまうからな……ってそうこうしている間に見つかったっ!」


『居たぞぉぉぉっ! 神を襲った反逆者だぁぁぁっ!』

『御珍体を小馬鹿にした罪を償えぇぇぇっ!』

『貴様等の仲間は既に捉えたぞぉぉぉっ!』


「もう完全にまともじゃなくなっていますね、走るのは速くないみたいですけど、魔界人間の肉体の限界は優に超えていそうですよ」


「あのままにしておくとヤバいな、こっちから何かしなくても普通に体がズタボロになってしまう気がするぞ……ひとまずとっとと退散しようぜ」



 遂に襲い掛かってきた狂った参拝客の群れ、それが外に居たそれ以外の参拝客を狂気に巻き込みながら、出口付近の俺達を目掛けて走って来たのである。


 普通に考えると相当に恐怖を感じてしまうような光景であって、まるで怒り狂った民衆の一揆を受ける貴族や領主のような気持ちになるのだが、そんなことを考えているよりも今は逃げた方が良い。


 すぐに『お帰りはこちら』のゲートを潜ってそこから脱出し、何事かと驚きまくる一般の、もう参拝を終えた普通の観光客を掻き分けて、どうにか山を降りて俗世へと戻る。


 どうやらここまでは追って来られないようだな、帰り道の一般的であった参拝客も狂気に包まれて、その集団の数はかなり増加しているように思えるのだが、それが御珍体の山とこの村の居住区、それを隔てるラインに集合して大変なことになっているではないか。


 そして如何にも信心深そうな村のジジィやババァ魔界人間が、その光景を見て恐れ戦き、御珍体の祟りだの何だのと騒いでいるのが実に印象深いことだ。


 きっと過去にも、もちろんこのジジババが生きているような時代ではなく遠い過去だとは思うが、かつて同じようなことが起こり、参拝に訪れていた観光客が今のような狂気集団へと変貌してしまったことがあるに違いない。


 となれば、村の中で村の魔界人間から情報を得れば、これが一体どうしてこのようなことになったのか、解消の方法はあるのかなど、詳細を知ることが出来るかも知れないな……



「……外の観光客の方々は別にどうということはないみたいですね、あの狂った集団の狂気も、山のエリア外には届いていないということでしょうか?」


「そうだと良いがな、まぁその辺をブラブラしている連中はこの期に及んで大丈夫なんだ、そうであることを祈っておこう」


「それで、ここからどうしますの? ひとまず村で宿を取って、そこで作戦会議でもしますの?」


「うむ、敵がどう出るのかも見極めたいし、しばらく時間が経ってからじゃないと何も出来ないだろうからな、まずは……御珍体の山の近く、というかそれが窓から見える場所に部屋を借りることとしようか」


「ならばあそこの……アレはエッチな宿でしたの、こっちのちょっとボロいけど場所は良い宿に何部屋化借りますわよ」


「あぁ、神である仁平には悪いがな、あんなボロい宿でもこの状況じゃ仕方がない」


「あらぁ~っ、最悪神の力で瞬間改装するから平気よぉ~っ、あとは亜空間を使って拡張したりぃ~っ」


「目立つような行動は厳に謹んで欲しいんだが……」



 仁平はともかく、他の仲間達は全員同じ部屋に宿泊しても構わないということで、ひとまずその宿の空いている部屋をふたつ……というか観光地にも拘らず、まるで客が入っていないのが気掛かりな宿だ。


 部屋には何かを封印したような札が、ベッドの横や不自然に掛けられた絵の裏など、とにかく目立たない部分に大量に貼り付けられているではないか。


 幸いにもそれを発見したのは俺とカレンであって、幽霊が恐くて仕方のないミラには見つからなかったんどえあるが、これでは『実物』を見てしまうのも時間の問題である。


 そうなってしまうとまた話がややこしくなるため、サッサと作戦会議を済ませて、すぐに敵の動向を調べて、なるべく早いうちにここを発つことが出来るようにしなくてはならない。


 ということで一度広い方を使っている仁平の部屋に移動して、そこで話をしてみることとした……



「捕まってしまった皆は今頃どうなっているんでしょうね? お姉ちゃん……というか向こうに残ったのはほとんどドMキャラばかりなので、ある程度のことはされても大丈夫だとは思いますが」


「しかしなミラ、殺したはずのあのオッサァァァンッみたいな神、アレに何かこう、拷問めいたことをされるのはヤバいと思うぞ、気持ち悪さが桁違いだからな」


「確かに、いくらドMだからといってそれは……早く救出してあげないとですね、それで、あの参拝客達の様子はどういうことなんでしょうか?」


「おそらくですけど、幻術とかそういう一時的なものじゃなくて、何度も何度もそうなるように擦り込まれていて、洗脳……とか暗示とか、そういう状態になっているんだと思います」


「ふむ、何かやべぇクスリを使われている可能性は?」


「それもありますし、何か別の力で暗示を掛けたとかそういうのもあると思います、それで、一度その狂気化するトリガーが引かれると……一気にあんな状態に、しかも次から次へと伝播してなってしまうということですね」


「そうなるとやっぱりあの御珍体? とやらと、それからオッサァァァンッみたいな神様が怪しいですわね」


「ゴーレムのCHING-CHINGは神界のものだしぃ~っ、やっぱりあっちのおっさん神の方が怪しい、というか何かしていると考えるべきじゃないかしらぁ~っ?」


「うむ、その線でいくのが妥当な気がするが……あとは何をしているのかってことと、それからあの狂気集団をどうやって止めるのかってことだな……と、誰か来たな」


『失礼しまーす、お食事に関してお話がありまーす』


「宿のスタッフのようですね、どうぞーっ」



 話し合いの途中に訪れた客は、俺達の部屋に誰も居なかったことでこちらにやって来た魔界人間で、宿のスタッフをしている女性らしい。


 態度からして適当な感じの女なのだが、繁盛していない潰れそうな宿のスタッフとしては上出来だし、まともに会話することが出来そうなのも高評価だ。


 すぐに招き入れると、夕食はどのぐらいの時間が良いのかということと、それからこの村の観光産業の一環としてやっている、その辺のジジィやババァによる村の昔語りはどうだという話を……これは申し込んでおくしかないな。


 村のジジィババァはおそらく、御珍体についての伝説に関する話をしてくれるのであろうから、それを聞きつつ食事をして、ついでに根掘り葉掘り、あのオッサァァァンッのような神についても聞いておくこととしよう。


 しかしそうなるとこの宿に宿泊することになってしまって、色々と『この宿自体の問題』が生じそうなところでもあるが……それに関してはもう仕方ないかも知れない。


 だいいち、窓から見えている御珍体の山の方でまだ目立った動きがないこと、捕まった仲間達が何かをされていたりする様子も見受けられないことなどから、そちらの方の見極めにも時間を要するのではないかといったところなのだ。


 幽霊が出現したらミラが大変なことになるとは思うが、向こうで捕まってしまうのとどちらが良いかといえばまだこちらの方が、幽霊に怯えてしまう程度の方がマシであろうし、少し我慢して頂くこととしよう。


 で、そんな感じで話し合いを続け、おそらく敵は捕まえた仲間達を人質に、こちらに対して降参するようにとの勧告をしてくるであろうという結論に達した。


 実際にそうなるのかどうかに関しては、御珍体の山の方で具体的にどういう動きがあるのかを見てからしか判断することが出来ないが、それでもまぁ、可能性として最も高いのはそれだという判断だ。


 そして、捕まっている仲間は捕まっている仲間で、どうにか脱出したり、敵を撃破して帰還する方法を考えたりしていることであろうとの予想もして、場合によっては連携で敵を始末するという方針も決定したのであった……



「……というわけでそんな感じだな、俺と仁平は戦えないと考えておいた方が良さそうだから、前衛はミラとカレンに加えてリリィが、後ろはすまないがユリナとサリナでどうにかしてくれ」


『わかりましたー』


「それで、そろそろ夕食の時間だから、昔語りをしに来る年寄にはアレだぞ、思ったこと、気付いたことをどんどん質問していってくれ、その方がヒントを得られる機会が多いからな」


『うぇ~いっ!』



 そのまま少しばかり休憩していると、夕食を運んでいると思しき台車の音が聞こえ始める……というか宿泊客は俺達だけなので、間違いなくそれは俺達に提供されるものだ。


 その音を聞いただけでパブロフの犬的な反射を起こし、既にテーブルに向かっているカレンとリリィは放っておいて、先程のスタッフがやって来るのを出迎えた。


 もちろんスタッフだけでなく、申し込んでおいた昔語りのジジィとババァが数名、それと一緒に部屋に入って来たのだが……なかなか博識そうな連中だな、これには期待出来そうな予感だ。


 で、俺達と向かい合うようにして席に着いたジジィババァには、それなりに柔らかそうな食事が提供され、同時に俺達にはカロリーの高そうな、肉を主体とした夕食が回される……野菜は、と思ったのだが、いつもはそれを言うはずのマーサが今ここに居ない。


 捕まってしまった仲間達はちゃんとした食事を与えられているのであろうかと、少し不安になってしまうところでもあるが、それの救出のためにも、ここでガッツリ栄養を取って、そして情報も獲得しなくてはならないのだ……



「え~、うをっふぉんっ……ではこの村の、御珍体の村についての昔話をしていきますじゃ、まずは御珍体がこの魔界に姿を現した件、ご存知ですかな?」


「それは聞き及んでおります、地面の穴から突如として現われた御珍体が、この村に運ばれてあの山に……という感じでしょう?」


「良く勉強なさっていて何よりですじゃ、そして御珍体は今、あの山においてオッサァァァンッの神が管理を任されておるのですじゃ」


「近年では参拝客もかなり増えてのう、御珍体をひと目見た者は、その美しさに魅了され、何度も何度もリピートしておるからのう、まるで何かに憑依されたかのようにのう」


「憑依……というのはやはり、御珍体の力なのでしょうか?」


「それもありますじゃ、しかしオッサァァァンッの神が、御珍体を信奉する者を獲得するため、そして一度獲得した信奉者は離さないため、何か術式のようなものを用いているという伝説もありましたじゃ、本当かどうか定かではありませんがの」


「へぇ~っ、ちなみにその術式、どんな感じで使われているとかってあるんで?」


「そうじゃのう……そういえばかつてあった調査で、御珍体を装備した状態の神によって魅了され、その神が害されることがあれば狂気状態になるという研究結果を発表した魔界の学者が居ってのう……次の日に他殺死体で発見されたがのう」


「核心に近付きすぎたんですね、ちなみに、参拝客のリピーターがその魅了状態を脱して、この村に観光に来なくなったという事例とかありますか? あったとしたら村の観光業にダメージが生じる重大なことだと思うのですが」


「それは何度もありましたじゃ、いえ今もちょくちょく起こっておりますじゃ、一時は御珍体の魅力に憑り依かれ、この村への移住も検討したというとある女性が、突然詐欺だの洗脳だのと怒り出してこの村に二度と来なくなったとか……そのような事例は挙げたらキリがありませんのじゃ」


「なるほど、伝説上だけでなく、今でもそういったことが起こっているということなんですね」


「そうじゃのう、困ったことじゃが、かつて、御珍体の魅了が弱かった頃においては、ほんの少しのキッカケでそうなってしまったりということがあったと、そうわしのひいじいさんから聞いておるでのう、今は幾分かマシな方じゃと思うがのう」


「ねるほど、神の力……いや、御珍体を操っている神がそれを用いた力を増強させて……でも効果が切れてしまうようなこともあるんですね、そのキッカケってどんなものなのかわかりますか?」


「それはイマイチわかっておりませんじゃ、もしわかるのであればすぐに対策して、この村から離れてしまうリピーターを減らして……」


「ということになるのじゃよ、今のところ観測されているのはのう……確かそうじゃった、神の本当の姿を見てしまったと、そう言って一気に魅了が解けた女性の集団が居りましてのう」


「その集団が泊まっていた宿は確かここだったと思いますじゃ、しかも隣の部屋で……それ以降、彼女等がどこへ行ってしまったのか知る者は居りませんじゃ、何せ30年も前の話じゃし」


「30年前にそのようなことが……しかし神の『本当の姿』か……うん、勉強になったと思います、ありがとうございました」


「そうじゃろうそうじゃろう、しかし飛んでくる質問がいつもの観光客とはちと違ったのう……まぁ、sろえだけ勉強しているということかのう」


「この村の発展のためにも、ぜひ御珍体を拝んでいって下さいじゃ」


『わかりましたーっ』



 などと言ったは良いものの、俺達はこれから捕まっている仲間を救出して神をブチ殺したうえで、御珍体を強奪して立ち去ろうとしているのだ。


 そのことについては当然触れないで話を終えたのだが、御珍体を装備したあのオッサァァァンッの神の本当の姿か……もう少し詳しく調べてみる必要がありそうだなこれは……

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