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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1214 予想外の展開

「だんだんと近付いてきたわね、何だかマリエルちゃんが辛そうにしているけど、人混みにでも酔ったのかしら?」


「いいえ、さっき受け取ったハイレグTバックレオタードを服の中に装備したら、ちょっと締め付けがアレで……本当に呪われていたのですね」


「何で装備してんだよそんなもん……」


「まぁ、もしかしたら後で役に立つんじゃないかしら? どうせ呪われていて脱げないんでしょうし、そのまま装備していても良いと思うわよ」


「どこが良いんだよそんなもん……」



 などと余計なことをする馬鹿が出現するのはいつものことなのだが、とにかく今は参拝客が成している列の流れを乱さないよう、徐々に流れて本殿の奥へと入って行くべきところだ。


 ここで何かあって一度外に出るということは出来そうもないし、無理矢理にそうしたところで目立ってしまい、作戦に支障が出る可能性が高い。


 自ら馬鹿な行為に出たマリエルに関してはもう放っておいて、しばらく我慢させたうえで呪いのレオタードは後から解除してやることとしよう。


 で、そんな感じで流れに乗っていると……かなり先の方で継続して歓声が聞こえてくる場所があるということがわかった。


 同じ参拝客が歓声を上げ続けているのではなく、流れに乗ってそこへ辿り着いた者が、一様に、全く同じ場所で騒いでいるのだということがわかる。


 そしてそれはその場所に目的物が、御珍体として安置されているゴーレムのCHING-CHINGが存在していることを指し示す重要なことだ。


 そこに俺達が辿り着くまでにはまだまだ時間が掛かりそうだが、他の並んでいる連中もそうしているように、その場所の様子を確認するようにして注視しておくべきであろう。


 何か特殊な結界などで参拝客が御珍体に近付かないようにしているのか、それとも物理的な障壁等があって、興奮した参拝客の乱入を防止するようになっているのかなど、色々と知っておく必要があるのだから……



「よいしょっと、どうだ、見えるかカレン?」


「う~ん、騒いでいる人が居る場所は見えるんですけど、壁があるせいで奥に何があるのかとか、その人達が見ているのは何だとか、そういうのはわからないし見えないです」


「直視はしない方が良いブツだと思うがな、しかしさすがにアレか、遠くからでも見えてしまうと実際に順番が回ってきて『お目見え』したときの感動が薄れてしまう可能性があるからな、そうならないようにここからじゃ御珍体が見えたりしないようになっているんだろうよ」


「他の客も背伸びしたりして必死よね、というか、そんな御珍体なんか必死で見て何が面白いのかしら? 自分のものになるわけでもないのに」


「まぁ、そういうあり難いモノを目で見て感動して、御利益がどうのこうのとかそういうことを考えているんだろうよ、魔界にも神が居て、それに準ずる信仰の対象があるわけだし……いや、もしかしたらお目見えの瞬間にはここの神も……みたいな感じなのかな?」


「わかんないけど……そうね、ちょっと後ろで静かに、祈りを捧げながら待っている参拝客のグループに聞いてみましょ、すみませ~んっ」



 俺達だけで、何も知らない状態から目視のみで状況を把握するのは非常に困難なことであると踏んで、ひとまず周りの並んでいる魔界人間に色々と聞いてみることとした。


 ちょうど後ろに居るグループはここの参拝が初めてではない様子で、何やら『今度こそ自分が』などということを祈りつつ順番を待っているのだ。


 この連中に聞けば何かが、主にここで何が見られるのか、その瞬間の作法などはあるのかということなどがわかるのではなかろうかといったところ。


 もし何か特別な所作があるとして、それを知らずに順番を迎えてしまった場合には、作戦決行のその瞬間を迎える直前に、何やら不自然な動きをして目立ってしまうことになるのだ。


 むしろこういったことはもっと早く、列に並ぶ前に、いやそもそもいばらの道に入る前にリサーチしておくべきところであったが……まぁ、俺達にそれを求められても無駄なことである。


 ということでセラが後ろのグループに話し掛けると、やはりリピーターの参拝客であったようで、快く初心者であるこちらの質問に答えてくれたのであった……



「え~っと、あなた方は本当に初めてなのですか?」


「そうよ、でもどうして初めてじゃないと思うの?」


「だってそちらの苦しんでいる方、明らかに参拝ガチ勢じゃないですか、その、例の装備を……」


「の……呪いのハイレグTバックレオタードのことでしょうか、ちょっと出来心で装備してしまって……こ、これが何か?」


「あら、本当に知らなかったのですね……実はですね、ここの御珍体……についてはさすがにご存じでしょうが、時折それに『指される』ことがあるんですね、一定の確率で、1日に1名程度が」


「指される? というのはどういうことなのかしら?」


「指し示されるんです、そのブツ、というよりもブツを装備した神が、御自ら参拝客の1人をブツの先端で指し示して、その者が『当たり』であることを告げて下さるのですよ」


「……何が当たりなのかしら……それで、そのことがマリエルちゃんが装備してしまったレオタード、それと何の関係があるの?」


「えぇ、一説によるとですね、指し示される当たりの参拝客は毎日1名程度ということですが、その指し示された参拝客、どういうわけか外の屋台で呪いのハイレグTバックレオタードを購入して装備していた者ばかりであると……そんな噂が流れています、真実なのかどうかは定かでありませんが、あの強烈な呪いに耐え得る力を持った者がやはり……」


「なるほどね、それから、『当たり』になると何か良いことがあるわけ?」


「はい、通常の参拝客は物理と魔法、それから魔界の神の力で厳重に分け隔てられた場所を乗り越えて御珍体に近付くことは出来ません、しかし指し示された者は……なんとその中に呼び寄せられて、直接御珍体に触れることが出来て、神とも直接話すことが出来て、御珍体とチェキ、御珍体記念ステッカー贈呈、100分の1サイズ御珍体キーホルダー授与など、羨ましすぎる様々な特典が受けられるのですっ!」


「・・・・・・・・・・」



 もはやセラでさえも呆れてしまうようなどうでも良い特典の数々であったが、今の俺達にとってその一部がチャンスである、非常に欲しい特典であるということもまた事実。


 物理と魔法、さらには魔界の神の力による障壁を乗り越えてその先に行くには、こちらの力をフルで発揮したとしてもそこそこに時間が掛かってしまうことだ。


 そのうえ今は俺や仁平の力はあまり振るうことも出来ず、仲間達も制限は受けていないものの、武器を使用したりすればあっという間に『ルール違反』の判定を受け、何らかのかたちで排除されてしまうのは必至。


 このような状態にありながら、もし御珍体、というかそれを装備? した魔界の神に指し示され、『当たり』となった者が出た場合には、その目的物の接近という重要な要素を丸ごとクリアすることが叶うのだ。


 当然、噂を信じるのであれば選ばれるのはマリエルであって、つい出来心で着用してしまったハイレグTバックレオタードが、早速にして役に立つときがきてしまったということである。


 まぁ、問題はそんなに上手くマリエルが御珍体に選ばれるのか、『当たり』の判定を受けることが出来るのかといったところなのだが……これに関してはもう、上手くいくことを期待して待っているしかなさそうだ……



「……こんなことになるなら勇者様もハイレグTバックレオタードを装備しておけば良かったわね」


「だからもっこりするだろうがそんなもん着用したら、しかも呪いの装備だぞ、本当に外れなくなってしまったらどうするんだ? この先変態ハイレグTバックレオタード勇者として活躍するのか? 後世に語り継がれる勇者の彫像とかがその装備になったらどうするんだよ? 地獄だぞマジで」


「そこまで外れないものじゃないから大丈夫よきっと、というかたぶん勇者様は語り継がれたり……ひぎぃぃぃっ! くっ、食い込ませないでこんな所でっ!」


「馬鹿なことを言う奴は食い込みTバックの刑だ、レオタードじゃないが、少しぐらいは効果があるだろうよ」


「その前に私、ルール違反者として茨で縛られちゃっているから、そんなのが『当たり』に選ばれるわけないじゃないのっ」


「……確かにそんな気がしなくもないな、だがまぁ良い、調子に乗った発言をした罰としてしばらく食い込ませておけ」


「へへーっ、畏まりましたーっ」



 とまぁ、セラとのいい加減なやり取りは周囲の参拝客への迷惑になってしまいかねないため、適当なところで切り上げて静かに並ぶこととした。


 ひとまず呪いのハイレグTバックレオタードを装備しているマリエルを、メンバーの中の最も目立つ場所に配置し、そのまま俺達の順番がやってくる瞬間を待つ……



 ※※※



「そろそろ順番よ、何があっても対処出来るように全員準備しておいて」


「あぁ、リリィ、ちょっとお前頑張れよ、一番沢山茨ボールを持っているわけだからな」


「……もう眠いです、疲れました」


「だから言ったんだよあれほど……」


「それよりも勇者様、いざとなったらパパッと全員で行動した方が良いわよ、もし上手くいかないような気がしたらその瞬間に」


「そうだな、そういう場合には形振り構っていられないぞ、ルール違反どころか事件を起こすつもりで来ているんだからな俺達は……っと、遂にお目見えだぞ、魔界の神と、それから目的物の姿が……ってげぇぇぇっ! 気持ち悪りぃぃぃっ!」


「静かにっ、目立ってどうするんですかこのタイミングで……ってうぇぇぇっ、なんと気持ちの悪いっ!」



 遂にやって来た俺達の順番、ここまで衝立のようなものに阻まれてまるで見えてこなかった御珍体と、それを装備しているという神の姿が目に入る。


 神は魔界の神であって、それなりに最悪なビジュアルのものを予想していたのであるが……まさかのとんでもないバケモノであった。


 その姿は茨の道で幾度となく戦わされたオッサァァァンッのようであって、しかも通常の人間の倍程度の体躯であって、腹はでっぷりと、そして頭は薄らハゲて脂で光っているような、そんな状態のおっさんが……ブリーフ一丁で『それ』を装備しているではないか。


 とてもではないが直視出来るシロモノではない……というかリリィが疲れ果てていて良かったと思うほどに教育に悪い、トンデモ野郎がそこに存在していたのだ。


 しかもしそれが、かなりのサイズを誇る御珍体、つまりゴーレムのパーツであるCHING-CHINGをブランブランと揺らしながら、笑顔で踊っているのだからひとたまりもない。


 こんなわけのわからないモノを見て喜んでいる魔界人間の人間性を疑ってしまうところでもあり、本当にこの何が良いのかわからないといった印象である。


 そして、そのブランブラン踊りを見せ付けるオッサァァァンッの神が、ピタッとその動きを止めて一点を注視したのだが……その視線の先にあったのはどう考えてもマリエルだ……



「……クッ、何やらこちらを見ています、やはり呪いのハイレグTバックレオタードに反応しているということなのでしょうか?」


「……どうやらそのようだな、そのまま自然に、何となく耐えている感じで御珍体を見続けるんだ」


「まだ動いちゃダメよ、正面に来るまで待って、そこで何も起こらなければ作戦を……いえ、そんなことはなさそうね……」


『……そこの者、よくぞ呪いの装備に耐えておる、褒美に貴様を指し示し、本日の当たり参拝客であるということを認めよう』


『キャァァァッ!』

『こんな近くで当たりの方が出たわっ!』

『何と羨ましいことでしょうっ!』


『静粛にっ! ここは邪悪なる神の居所であるぞっ! 静粛に……そして本日の当たりとなったそこな女よ、こちらに参るが良いっ! 褒美としてまず御珍体タッチの権利を与えようっ!』


「……あ、あり難き幸せ、すぐに御許へ参ります……クッ、ハイレグが食い込んでっ」


『辛いであろう、ゆっくりとこちらへ来るが良い、その呪いの装備はこれまで見てきたものの中でも特に強力なモノ、それに耐える者が現れるとは思わなかったのである……係の者、早く全ての結界を取り払うが良い』


「……まだだぞ、マリエル、ちゃんと不自然にならないように移動しろよ」


「わかっています……ですがどうしてもあの柵だけは足を上げて跨がないと……くぅぅぅっ、食い込みがっ」



 呪いのハイレグTバックレオタードによる食い込みに苦しみながら、マリエルは目の前の柵を乗り越えて気持ちの悪い魔界の神の近くへと移動する。


 この一件によってこれまで順調に流れていた行列はピタッと静止し、その事が起こっている周囲の参拝客は皆、あまりにも悲惨な目に遭っているようにしか見えないマリエルに賞賛の拍手を送っているのであった。


 この時点でなかなか異常な光景なのだが、この後俺達が一気にその魔界の神の側に雪崩れ込んで、目的物であってこの村の御珍体でもあるブツを強奪するのだから、きっととんでもない大事件になることであろう。


 その際にこの周囲の参拝客はどのような反応を見せるのであろうか、あまりの出来事に呆然とし、動きを完全に止めてしまうのであろうか、或いは犯行を阻止しようと動くのであろうか。


 もしこの場の全員によって襲撃されるようであれば、多少の怪我人が出てしまうことはやむなし……もちろん女性客ばかりであるため、死者が出るような事態は絶対に避けなくてはならないのであるが。


 で、柵を乗り越えて向こう側に移動したマリエルは、まず御珍体にタッチすることを許され、それが目的物であることを考えると、実にチャンスフルな状況になったのだが……俺達のポジションが地味に悪いな。


 ここから一気に、全員が向こう側に移動するためには、それこそ周囲の参拝客を乗り越えて行動を起こさなくてはならない。


 それが周囲全体を巻き込む大混乱に繋がるのは明らかなことだし、それだけでもう、けが人が出てしまう可能性さえある行動だ。


 となると遠くから最初の一撃を喰らわせ、まずは御珍体を装備しているオッサァァァンッのような魔界の神を始末して……と、当初からそのつもりであったらしいマリエルがここで動いた。


 触ることを許された御珍体を、嫌々ながらにグッと押さえ付け、それによって装備者である魔界の神の行動をある程度制限したのだ。


 いきなり押さえ付けられたことに驚いた表情を見せるオッサァァァンッのような神、そこへすかさず精霊様が自前の茨ボールを投げ付けて……半分寝ていたものの、その行動を目にしてハッとなったリリィもそれに続く……



『何だっ? モノを投げ入れるのはご法度……ギャァァァッ! またっ、ギョェェェッ!』


「一撃じゃ死なないみたいだぞっ! どんどん投げ込んでやれっ!」


『イヤァァァッ! テロよっ! 神様に何かを投げ付けたわっ!』

『茨の道の茨みたいっ! 許し難い悪戯!』

『誰よこんなことするのはっ? そこの女と子どもよっ!』

『捕まえてっ! 誰かそいつ等を捕まえてっ!』


「クッ、リリィちゃんちょっとストップ! この参拝客が巻き込まれるわっ!」


「思ったより行動が……早すぎやしないかっ? ジェシカ! さっきゲットしたポン刀のようなものを出せっ!」


「しかしっ、この状況でどうやってあそこまでっ?」


「俺の手を踏み台にしろっ! 忍者っぽくバッと飛ぶんだっ!」


「わかった! うぉぉぉっ!」


『何だぁぁぁっ! 今度は何だぁぁぁっ⁉ あっ、ギョェェェッ!』


「邪悪なるオッサァァァンッの神! 討ち取ったりっ!」


『キャァァァッ! 神様がぁぁぁっ!』

『何ということを……当たりの女もグルよっ!』

『殺すべし殺すべし殺すべし殺すべし!』


「ちょっ、明らかに様子がおかしいんだけど……キャッ、さっきのグループが攻撃して……茨を出してきたわっ!」


「何かおかしいよな……ジェシカ! マリエルも! 目的物を持ってすぐにそこを離れるんだっ! ちょっとここの連中、普通じゃないぞさっきからっ!」


「わかりまし……なっ、どうしてっ?」


「マジかよ……完全に討ち取ったはずだろうがジェシカが……」



 群衆、つまりは参拝客の様子が明らかに通常ではないし、これまでのルール違反で仲間達が受けていたお仕置きの際、茨の道が使ってきた茨による攻撃をその一般的な魔界人間の連中が使い始めたのである。


 どうやっているのかは知らないが手から茨を出し、それを茨ボール攻撃を放ったリリィや精霊様に絡み付かせようとしたり、飛び込んで戦ったジェシカと、その仲間であることが発覚してしまったマリエルに対し、茨の鞭で襲い掛かっているのだ。


 しかも離脱しようとしたマリエルとジェシカの足首を、完全に斬り伏せられ、死んでその場で消滅し始めていたはずの魔界の神がガシッと、残っていた手だけの状態で掴んでいるではないか。


 そしてそれを振り払おうにも凄まじい力で掴まれて身動きが取れず、どうにか目的物だけでも奪取しようと掴んだそれは、まるで地面に根でも張っているかのように持ち上がらない様子。


 こんなことをしている間にも、『敵である』と認識された俺達の所へは参拝客が殺到し、このままでは全員が茨に絡み付かれて捕まってしまう。


 かといって無理に脱出すればそれはそれで、周囲の最も近い参拝客連中を傷つけることになってしまうし……いや、一部の仲間だけであればどうにか脱出することが可能な感じか。


 ここはひとまず可能な限り多くの仲間が離脱して、体勢を立て直したうえでもう一度アタックするというう方法を取るしかなさそうだ。


 足を掴まれている2人もそうするべきだと考えているようで、身振り手振りのみで一旦退けと合図を出している……仕方ない、ここは一時的に逃げ出すという選択肢を取るしかあるまい……

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