1210 御珍体への道
「……うむ、じゃああの町まで徒歩で移動ってことが確定したわけだが……女神なんかはともかく仁平とかは大丈夫なのか? 目立ってしまわないかが心配だぞ、神界の強神なわけだからな」
「私なんかとは、本当に失礼な勇者ですね、そしてホモだらけの仁平よ、一応気配を消して下さい、多少は聖なる力が漏れ出してしまうかもですが……私のようにほら、こんな感じで」
「難しいわねぇ~っ、でもまぁ、周囲の邪悪なる者が弾け飛んでしまうかも知れないぐらいまでは抑えられるわよ今でもぉ~っ、至極簡単にぃ~っ」
「いえ、そこもうちょっとお願いします、邪悪なる者ばっかりなんでその町」
「う~ん、そうなるとちょっと気合が必要ねぇ~っ、キバりすぎるとケツから中身がモリモリ出ちゃうのよねぇ~っ、臭っさいガスとかもぉ~っ」
「頼むから殺人的な激臭の屁をこいたり、ウ○コを漏らすのだけはやめてくれ、俺達でさえ死んでしまいかねないぞ臭すぎて」
「約束は出来ないわよぉ~っ、でもまぁ、ちょっとだけ耐えておくわぁ~っ」
「もう破局的な事態を巻き起こす超兵器を抱えているようなもんじゃねぇか俺達……あ、残雪DXのことを言っているわけじゃないから安心して良いぞ、お前は馬鹿だが仁平よりはマシだからな」
『は、はぁ……』
せっかく故郷である魔界へと帰還した残雪DXもドン引きしてしまうほどの汚らしさを誇る仁平の態度とその行動。
通常であればここで行動を共にすることをやめるのであるが、強力な力を持った信頼出来る神であるわけだし、何しろ俺達の組織のトップであるのだから、コレを捨ててしまうのはとんでもない。
ひとまず本当に慎んだ行動を取って頂くよう、厳重に、切にお願いしつつ祖の小さな山を出て、『御珍体』が安置されているという魔界の村を目指した。
途中、わけのわからないバケモノというかクリーチャーというか、そういうのに何度か襲われることとなったのだが、もはやそのようなモノは雑魚以下の存在。
俺達の前に立ち塞がるにはもはや実力が不足している魔界の雑魚敵などは、可能な限り無視しつつ、あまりにしつこいようであれば一撃で葬り去って先へ進むという対応で良さそうだな。
そんな感じで徒歩移動し、魔界の村のゲートの前へと到達して……確かにリリィの言った通り、『御珍体』という言葉が使われた看板で……とんでもないモノを読ませてしまって申し訳ないとは思っている……
「着いた着いた、そんで、やっぱり見張りキャラがいるみたいだな、単なる魔界人間のようだが、ブチ殺してしまうか?」
「ダメだぞ主殿、せっかくあの警備を何事もなくスルーしてきたのだ、ここで騒ぎを起こして、余計な敵が駆けつけるような事態を招くのは芳しくないぞ」
「まぁ、そりゃそうだな……じゃあ普通に対応して貰うか、お~いっ、村へ入れて下さ~い」
「はぁっ? 何だテメェオラこのボケカス、サルが喋ってんじゃねぇよハゲ、とっとと立ち去れ、ここはお前のような野生のゴミが来るところじゃねぇんだよ、あり難い御珍体が祀られた格式高い村なんだよ……あ、そっちのお嬢さん方は入って良いぜ、参拝だろう?」
「あらぁ~っ、そうなのねぇ~っ、私達は入っても良いのねぇ~っ!」
「おいバケモノ! お前はダメに決まってんだろこのクリーチャーがっ! てかお前アレだろうっ、最近耳にした大曉虫クリーチャーって奴だろう知らんけどっ! おいお嬢さん方! 後ろにおかしなバケモノが居るぞっ! 早くこっちに逃げてっ!」
「……喰い殺されたいのかしらこの魔界人間? まぁ良いわぁ~っ、頂いちゃいましょっ」
「あっ、ギョェェェッ!」
「あぁぁぁっ! 村の見張りAがバケモノに喰われたぁぁぁっ!」
「そこの女性達! 早く村の中へっ、大丈夫、この村は御珍体の力で守られているんだっ、そのバケモノは入って来られないっ!」
「俺達は応援を呼びに行くぞっ! 逃げるんじゃないからなっ!」
『・・・・・・・・・・』
仁平が調子に乗っていた見張りの馬鹿を喰い殺してしまったのであるが、どういうわけかそのことに関して謎の勘違いをした魔界人間共。
俺と仁平を除く他の仲間達、つまり一般的な外見の女性キャラ達が、バケモノでクリーチャーである仁平に襲われてここまで逃げ延びてきたものだと思ったらしい。
それが先程の俺との平和的な会話とどう繋がってくるのか、そのバケモノが真後ろ、どころか仲間の内部に居る状態で、あそこまで悠長に話していたのがおかしなことだとは思わないのであろうか。
色々と不思議、というか馬鹿馬鹿しい対応なのだが、魔界人間の村人など緒戦その程度の知能ということなのだ。
ここはラッキーであったと思って、誰も居なくなった、というか適当な理由を付して見張りが逃げ出してしまった村のゲートを潜らせて貰うこととしよう……
「結局騒ぎになっちゃったわね、でもまぁ、村の中には入れたから良いにしましょう」
「というか、きっとさっきの奴等は普通に逃げただけだからな、応援を呼んで戻って来るなんてことはしないで、家にでも帰って便所でガタガタ震えてんだろうよ、よって何もなかったのと同じだ」
「それで、こんな感じで村に入ることが出来たわけですけど、これからどうするんですか? 宿でも確保します?」
「そうだなぁ……いや、一気に目的物を奪取して魔界を抜けようぜ」
「どうしてですか? 何か食べていかないんですか?」
「いやだってよ、神界だとほら、神々と行動を共にしているからそれなりの待遇を受けることが出来るわけだろう? しかし魔界だとどうだ、ここは俺達の拠点でも死神の奴の拠点でもないからな、一般的なその辺の雑魚と同等の扱いだ、耐えられないだろうよそんなものっ」
「確かに、神界で贅沢をした分魔界だと……みたいなところはありますわよね、こちらでも早く超偉い感じになってしまわないとなりませんわ」
「まっ、そういうことならとっととするのもアリね、私、さっきからどうも無性に威張りたい気分なのよね、何というか、雑魚共を足蹴にしてその上に君臨したいというか」
「精霊様、完全にドM堕ちから復帰してしまったようですね、仲間が減ってしまって悲しいような……」
「大丈夫よルビアちゃん、その分後ろからいじめてあげるから」
「ひゃんっ、やっぱり嬉しいですっ、いつもの精霊様が戻って来てくれて嬉しいですっ!」
「町中で騒いでんじゃねぇよ、目立つだろうが……で、御神体……じゃなくて御珍体とやらはどっちだ?」
「あそこに看板が出ているわよ、何か読めないけどアレじゃないのかしら? ほら、すっごく目立つ感じだしっ」
「そうね、偉いわマーサちゃん、参拝者用の案内看板だわ、えっと……本殿へ続く過酷な参道はこちら……そんなに過酷なのかしら?」
「どうせ言っているだけだろうよそんなもん、出来た当初は本当に過酷だったのかも知れないけどさ、時代の経過と共にソフト化されてさ、今ではもうその雰囲気だけ味わうとかそういう感じのアレだろうよ」
「まぁ、きっとそうよね、いちいち面倒なことにはならないでしょうから、とっとと行きましょ」
『うぇ~いっ』
かつては過酷な参道であっても、今はきっと安全かつ雰囲気だけ残すことに成功した立派な観光地である。
俺達は基本的な観光地の現状から、ここもそのような状況にあるものだと確信して先へ進んだ。
いくつかあった案内看板に従い、町というか村の中心部を目指して進んで行くと……何やら徐々に雰囲気が変わっているような気がしなくもないな。
どういうわけか楽し気な、完全な観光客気分で食べ歩きをしつつ、参拝の話をしながらキャッキャと歩き回る観光客らしい女性の魔界人間。
それと比較して傷だらけ、ボロボロの状態でフラフラと歩き、時折その場で倒れ付して死亡し、村の役人によって普通に片付けられている野朗の観光客……というよりも冒険者の類か。
その差が何なのか、どうして同じ観光客、村の魔界人間以外でここまで違いがあるというのか、そのことについて疑問に思う。
まぁ、楽しげな連中はここまで観光にやって来ることが気軽に出来てしまう、クリーチャーだの何だのが跋扈する魔界の人里以外を、当たり前のように越えてここへ来るだけの力を、もちろん護衛としてその力を持った何かを雇用するだけの金銭的な面での力を有しているはず。
それと比較すると、もしかしたらこのボロボロの連中は雇われてここまでそんな連中の護衛をして来て、力尽きてこの町で果てようとしているかわいそうな奴等なのではないかとも思ってしまう。
これ以外、今予想した内容の他に原因があるのだとしたら……それはきっとこの町に安置されている御珍体、それが何か関わっているに違いない……
「ねぇ、普通に考えてちょっとおかしくないかしらさっきから? どうしてむさ苦しい野朗キャラの人達はあんなボロボロで……観光地に居て良いようなお客さんじゃないわよねアレ?」
「俺もそう思ったんだが、ちなみに俺の予想はあれこれこういう感じで……どうだ理に適っているだろう?」
「そうかも知れませんが、勇者がそういうのであればおそらく間違いですね、あなたが正解を導き出したことはほぼありませんから」
「この女神、よほど罰を受けたいらしいな……と、じゃあお前の見解を述べてみろよな、くだらない予想だったらお前アレだぞ、すんげぇぞ後から」
「そうですね……やはり安置物へ至る参道ですか、そこの過酷さが関与しているのではないかと思われます」
「だからそれはさ、きっと観光用のアピールでさ」
「いいえ勇者様、女神様が言っていることはその通りに思えますよ、ほら、アレを見てみて下さい」
「アレって……何か禍々しい感じの茨の道だな、純粋に茨で覆われていて……地獄行きの道なのかな?」
「すじゃないですよ勇者様、女神様が仰っているのはあの茨の道が、私達の目指している過酷な参道で……」
「そこを通る観光客と、それを守護するための護衛として雇われるその辺から集まって来た傭兵のような……てことなのかこれは?」
「それ以外に考えられませんね、きっと恐ろしく過酷なのでしょう、そして本来は死者が出るようなレベルの敵やトラップがあるということなのですよあの茨の道には」
「……まぁ、そう言ってもたいしたものじゃないだろうよ、とりあえずササッと攻略して、御珍体を奪ってしまおうぜ」
「何事もないと良いのですが……」
確かに女神の言う通りであれば『過酷な参道』ということになるのであって、それを否定することは出来ないであろうビジュアルだ。
だが良く考えればそれは、これといった戦闘力を持っていないその辺の魔界人間にとってのものであって、俺達に同じものを適用したところでたいしたことはないはず。
その辺で死に晒したり、ボロボロになって動けなくなっている護衛というか傭兵というか、そのようなビジュアルの連中は、どう考えても普通のモブキャラであることからもその考えに至る。
ここで何かを恐れて、わけのわからない対策を考えているのは時間の無駄であるから、普通にアタックして、普通にクリアしてしまえばそれで良い。
そうすれば最終的なゴールである、ルビアにドM雌豚尻の神を融合させ、その力を付与するというところまであと一歩になるではないか……
※※※
「到着したようだな……で、結構並んでんな、観光客が複数に、護衛っぽい野郎共が3,4匹引っ付いているみたいな感じだな」
「どうしますか? 私達も並ぶか、面倒なので蹴散らして先頭に立つのかですが」
「まずは普通に並ぼう、どういうノリで参道入りするのかをキッチリ見て、その通り、同じ所作で俺達もいかないと怪しまれそうだからな」
「わかりました、では整理券を受け取って……と、めっちゃ見られているようですね、どうしたんでしょうか?」
「わからんが……おい係員、俺達に何か用か?」
「あの、えっとその……もしかしてその、それだけの参拝者に対して護衛の方が1名だけなのですか? いえ、後ろのバケモノが参拝者なのか護衛なのかはちょっとわかりかねますが……それと、参拝者は武器とかダメなんです、なのでGUNとか杖とか、剣とかももちょっと……」
「なるほどそういうことか、おいエリナ、残雪DXをどこかに捨てて……じゃなくて人間形態にさせておけ」
「わかりました、そういうことらしいので少しだけ我慢して下さいね、少しだけですから」
『まーた下等生物の姿にならないとダメなんですか、まぁ、致し方ありませんね……』
残雪DXが人間のような姿になったことについては特にツッコミを貰うことがなかった、というか係員の弱そうな役人は、やはり参拝者? である女性陣に対して、俺のみが唯一の護衛というような状況に驚いているようだ。
というか、普通に考えれば武器を携帯している全員が護衛キャラであって、むしろ何も持っていないユリナやサリナ、精霊様にドM雌豚尻の神、あとはパッと見で武器がないように見えるカレンやマーサなどが参拝者に見えるのではなかろうか。
そう思って詳しく話を聞いてみると……どうやら参拝者は女性に限られるらしく、どうしても薄汚い野朗キャラがこの参道へ入りたい場合には、護衛としての同行が認められているとのこと。
そして元々はこの参道における武器の使用が禁止されていて、参拝者である女性キャラは自力で、己の拳のみでここを切り抜けなくてはならないという古のハードなルールに則り、武器所持での参拝および女性キャラの護衛としての同行は禁止されているらしい。
つまり、女性キャラである以上は非武装の参拝客、薄汚い野朗である限りは武装した護衛であるというのが、この参道と御珍体が安置されている本殿を含めた境内地における原則であるということだ……
「なるほどな、そういうことなら仕方ないさ、皆武器を封印した状態で行くしかないってことだな」
「ひとまず剣を抜くことが出来ないようにして……杖は布で包んでおけば良いわね」
「あ、それでしたらこちらの封印をお使い下さい、オシャレ用の宝剣なんかが規定に引っ掛からないように、こちらで用意するあり難い封印を有料で施すことによって、所持が認められる武器とみなされない何かに変化しますので」
「有料なのかよケチ臭いな……」
とはいえここでタダにしろと騒ぎ立て、役人を殺害するなどして面倒事を起こしてしまうわけにもいかないから、ここは素直に金銭を支払うしかないのであった。
それらしき見た目の武器のみではあるが、全員分の封印が終わって、残雪DXも嫌々ながら人間の姿を取って、それでようやく入場が認められる運びとなる。
とはいえ、護衛キャラが俺1人のみであって、しかも装備しているのがまるで強そうに見えない聖棒、つまり物干し竿のみということから、許可を出してくれる役人の苦笑いは止まらない。
この連中は確実に帰って来ないなと、そう確信して送り出してくれるその役人は、おそらく戻って来た俺達の姿を見て驚き呆れ……いや、その頃にはもう御珍体が強奪されるという大事件が生じているのか。
とまぁ、色々と問題はあるようだが、参道に入るための列に並んで順番を待ち、どうやら先頭がスタートと同時にダッシュを掛けているようだという情報も得て、自分達の番が来るまでにその所作を学んでおいた。
そしてようやくやって来た俺達の番、やる気満々のカレンとリリィには、あまり目立った動きをするなと、それからそこら中に生えている茨に服を引っ掛けるようなことがないようにせよなどと忠告しつつ、係員である役人の合図を待つ……
「え~、次の方々……はっ? 護衛1人とかすげぇ根性だな、死ぬぞあんた等……まぁ良いや、では参道の前に立って下さい……はいGO!」
「ウォォォッ! って勢い良く入ったけど何すりゃ良いんだぁぁぁっ?」
「勇者様、やっぱり茨が凄いから斬り払って! ホントに引っ掛かっちゃうわこれじゃあっ!」
「ウォォォッ! ちょっ、何か知らんがタフだぞこの茨! ストップストップ! ペース落とせっ、ぬわぁぁぁっ! 殺到するなぁぁぁっ!」
なかなか斬り払うことが出来ない参道の茨、邪悪なる魔界の存在であるというのに、どうしてこの聖棒をもってしてもイマイチ効果が得られないというのだ。
というかむしろ、俺達の前を進んでいるその辺のわけがわからないキャッキャ系観光客とその護衛の連中が、俺達とほとんど同じペースで進行しているのがまずおかしいではないか。
少なくとも実力の差は数兆倍から数十兆倍、俺が本気の殺意を持った視線を送れば、あの集団の護衛連中などその刹那に跡形もなく消え去ってしまうような次元の違いを有しているというのにだ。
これは何かがおかしい、、いやおかしいどころの騒ぎではないぞと、止まり切れず後ろにギュウギュウと詰まってしまった仲間達にそう告げる。
そして不自然にならぬよう、地味に、前の連中と同しペースで進みながら、一体何が怒っているのかということに関して予想を立てるのだが……ここで精霊様が気付いたようだ……
「この茨の硬さ……私の力でも簡単に破壊することは無理ね、というか誰がやっても同じみたい、どれだけ強さの差があってもね」
「じゃアレか? 強さに関係なく強度が、みたいな感じなのか?」
「逆、強さに関係ないというよりも、その相手の強さに呼応してこの茨も強くなるって感じ」
「なるほどそれで……いやじゃあさ、そうなるとこの茨以外の、例えばクリーチャーとかも」
「……たぶんね、まぁそれはほら、横から飛び出してきたそれと戦ってみればわかることよ、頑張って!」
そんな話をしている最中、まだ詳細がキッチリ理解出来ていない俺の前に、何やら非常に弱そうな、そしてごく小さな小動物のようなクリーチャーが出現したのであった……とりあえずコイツとたたかってみることとしよう……




