1203 一時同行
「一気に女性キャラばかりになりましたねこのダンジョンは……仲間を失って帰っていく方も多いようですが」
「あぁ、エッチな女戦士はともかく、前衛のマッチョが倒れた状態で巨乳女僧侶とか貧乳女魔法使いがダンジョンの先へ進むのは危ないからな、帰った方が賢明だと思うぜ」
「というか、僧侶は巨乳で魔法使いは貧乳じゃないといけないルールでもあるわけ?」
「いや何となくだ、俺達勇者パーティーの現状を鑑みて、他のパーティーもそうであると判断しただきょげらっ! ぶべぽっ!」
「壁にでも刺さっていなさいっ!」
貧乳魔法使いのセラに物理をもって攻撃され、壁に突き刺さった俺であったが、すぐに抜け出してダンジョンの奥へと向かう行動に復帰する。
精霊様が管理権者となってしまっているため、もはや『攻略』とは呼べないのであるが、それでも先へ進み、最深部で目的物を確保しなくてはならないのは同じだ。
だがまぁ、途中でおかしなバケモノに襲われたり、道に迷ってしまったり、さらにはつい今排除したように、他の無関係な連中の妨害等を受けることがないということだけで、相当に有利な状況であるとはいえよう。
で、そんなダンジョンの1階層を奥へと進み……これが100階層もあるというのか、内部は亜空間になっていてかなり広く、とてもその入口から想像出来るようなものではなかった。
2階層へ続く階段まで、おそらく少しばかり時間を要する……案内看板に徒歩5分と出ているな、徒歩1分が80mとして、道程にしておよそ400mも歩かなくてはならないとは……なかなかに面倒なことである。
とはいえダンジョン内部に時短のためのトロッコが設置されていたり、ワープゲートが存在したりということもない、というかあっても下層でのことだ。
つまり現時点、この誰でも気軽に入ることが出来て、比較的安全安心な上層においては、見た目でそういったものが何もない限り、発見されていないだけということはあり得ない……
「あーあ、せめて動く床でもあれば楽ちんなのにね、シュシュシュシュッて先へ進んだりして」
「マーサちゃん、それうっかり変な所を踏むと元の場所に戻されたりして、逆に前に進むのが遅くなるやつですよ、特にウチのパーティーには勇者様が居ますから、絶対にやらかしておかしなことに……」
「おいマリエル、俺がどうしたってんだ?」
「いいえ、何でもないのですがその……あいだっ! 拳骨はやめて下さいよ、ほら、衝撃でよろけて足元の変なスイッチを……踏んでしまいましたね」
「あ、ちなみに俺も踏んでんぞ、『2番』って書いてあるがな」
「私のは『1番』ですね、そして光り出しました……精霊様、コレは一体どういうことなのでしょうか?」
「これはえっと、まだ私も全部は把握していなくて……わかった、センサーとかスイッチに2回触れるとトラップが起動するとかそういうハエトリグサみたいなシステムね、『2番』のスイッチに触れた者は死ぬ」
「死ぬって俺が……あっ、ギョェェェェッ!」
「凄いミンチになった! 私も気を付けないと」
『良いから早く元に戻してくれ……だいたいマリエルが余計なことするからこうなるんだぞ、お前、次はお前が2番を踏めよな、絶対だぞ! それからアレだ、こういう危険な場所はユリナとかサリナとかエリナとか、絶対に死なない奴が先陣を切るべきだぞ、俺みたいにこんなほら、簡単にミンチになるキャラがリスクを取るのはどう考えてもおかしくてだな、わかるかそういうの? なぁユリナ? なぁ?』
「……良く喋るミンチですわね」
ひとまずルビアの回復魔法で元に戻して貰い、そして精霊様が管理していることになっているダンジョンだからといって、絶対にトラップの類が発動したり、バケモノに襲われたりしないわけではないということを確認した。
もちろん回避はし易くなっているし、予め情報を得てから進んでおけば、これよりももっともっと凶悪な下層のトラップについても、数回死亡するぐらいで搔い潜ることが出来るはずだ。
というかむしろ、俺が率先してミンチになったことによって、野郎キャラを失ってもまだ先へ進む血気盛んな女性ばかりのパーティーが、このトラップの危険性を知ることが出来て良かったとも思う。
エッチな女戦士キャラを含むダンジョン探索続行パーティーはまだまだ存在しているが、むさ苦しくはないし、特に邪魔ということもないのでスルーしているのだが……まぁ、バランスが崩れてしまっている以上、そこまで奥には行けないはず。
俺達の目指す100階層など夢のまた夢で、このままだと10階層へ辿り着くようなパーティーは俺達だけであろうという状況であるから、それより奥に関しては静かに、周りを気にすることなく力を振るったり、破壊活動をしたりということが可能になる。
もちろん最後の最後でやらされるのであろうボス戦も……と、そういえばここのダンジョンのボスはどのような奴なのであろうか。
神が直接ボスを務めているわけでないことは、昨夜消し去ったあのハゲの弱さを見ればわかることだし……まぁ、考えても仕方ないので精霊様に聞いてみよう……
「ちなみに精霊様、このダンジョンのボスについてなんだが……あ、中ボスとかは全部どうでも良いから、ひとまずラスボスのことな、どうだ?」
「ラスボス? ちょっと待ってね、え~っと……あった、マジ草恐竜クリーチャーのダイナ草ってやつね、強さはその辺の神と同じぐらいよ」
「またわけのわからんバケモノか……どんな攻撃をしてくるとかあるのか? 戦闘は回避した方が良い? それともブチ殺した方が早いか?」
「そうねぇ、たいした敵じゃないし、一撃で葬り去ってしまうのが最も早いと思うわよ、きっと」
「神様と同じぐらいの強さなら私、1人で戦ってみたいです、草だから敵ですし」
「そうか、じゃあカレンに戦わせてやることとしよう、で、もちろん100階層に居るんだよなそいつは?」
「そうね、最後の最後で戦って、負けると食べられてENDみたいな感じだと思う、戦績は……まだ誰も挑戦していないからゼロね」
「餌が来なくて枯れてんじゃねぇのかそいつ? まぁ良いや、それまでは地道に進んで行くしかないってことだな、ひとまず2階層へ続く階段もすぐそこだし」
「別のパーティーが階段を降りようとしていますわよ、3人……てことは1人だけ居た野郎キャラが脱落したってことですわね」
「だな、えっちな女戦士は居るから、ムッキムキの野郎武闘家でも一緒に居たんだろうよ、変な奴に宝を剥奪されて死んだんだろうが」
「でもそんな状況にしては楽しそうですね、仲間として行動しているからなかなか切れなかった無能が、今回の件で完全に再起不能になったから冒険が楽になったということでしょうか?」
「だろうな、まぁ奴等もどうせ弱いんだし、どこかで動けなくなっていたら助けてやろうぜ、もちろんエッチな見返りを求めつつな」
「ついでにお金も要求しましょう、まぁ、動けなくなっているところを発見したうえで、こちらが苦労せず救出可能な状況であればの話ですが」
まだまだ1階層から2階層へ移行する段階のダンジョン内部、俺達が回避し続けている敵はそこまで強いわけではないらしく、神界人間の冒険者チームもそこそこ活動していたりする。
蚊一段を降りると、景色こそこれまでとは変わらない、単なる坑道のようなしょぼくれたものであるが、多少周囲から感じる不気味なオーラが強化されて……少しずつ敵が強くなっていくということか。
だが俺達にはそのようなことも関係なく、普通に先へ進むことが可能であるから、無視してマップを眺めつつ、まっずぐ次の階層を目指して先へ進んでいた。
途中、何度か気色悪いバケモノと戦っている女性ばかりのパーティーを目撃したのであるが……ひとつ、2人だけでピンチに陥っているもを見かけてしまったではないか。
エッチな女戦士と貧乳魔法使いの2人パーティーで、おそらく野郎2人が宝を失って脱落してしまったのであろうと予測出来るパーティー。
それがヌメヌメとしたナメクジのバケモノに襲われて……なるほど、エッチな女戦士がナメクジの粘液でビキニアーマーを溶かされているところに、背後から来た別のナメクジによって貧乳魔法使いが襲われたという状態か。
女戦士のビキニアーマーだけでなく、貧乳魔法使いのローブも良い感じに溶かされ、ミニスカどころかパンツが見えそうなぐらいに裾を失ってしまっている。
しかもナメクジの粘液に杖を奪われ、魔法使いとしては完全に戦闘不能な状況に陥ってしまって……このままだとパンツも溶かされるであろうな……
「どうする? あのナメクジは女キャラの服だけ溶かして満足するタイプだろうから、このまま放っておいても素っ裸にされてしまうだけだと思うが……見返りを求めて助けるか?」
「そうですね、さすがに素っ裸で帰るというのは、戻った上の階層で何かに襲われればアウトになる可能性もありますから……助けてあげた方が良いんじゃないでしょうか?」
「わかった、他の皆もそれで良いな? 少し時間を使ってしまうことになるが、ここで俺達があの女神界人間2人を助けて、ついでに仁平一派が正義系であるということをだな……と、もう誰も聞いていないのか」
「ご主人様、私と神様方は聞いていますよ」
「ルビア、お前はいつものんびりだな……まぁ、俺も他人のことは言えないか」
あっという間に神界人間2人の救助に向かっていた仲間達と、取り残された俺とルビア、そしてそもそも動くつもりのない女神と仁平とドM雌豚尻の神。
ナメクジのバケモノは一瞬で、もちろんその汚らしい粘液の1敵も残さずに討伐され尽くし、その場に残ったのは服を溶かされ、装備を失った女戦士と女魔法使いのみであった。
2人は身体的ダメージこそ全くのゼロだが、このままだとボロボロになった僅かなアーマーやローブが崩れ落ち、それこそ『装備ナシ』の状態になってしまうことであろう。
ひとまず武器としては俺達が大量保有しているバールのようなものやつるはしのようなもの、バスターソードのようなもの、鋭利な刃物のようなものを渡しておけば良いのだが……防具の方が困ってしまうな。
こちらには貸すような装備があるわけではないし、かといって下界の最下層の存在である奴隷用のボロを着せてやるわけにもいかないし、そもそもルビアのものでは貧乳女魔法使いに装備することが出来ない、サイズが違いすぎるのだ。
となると、このままドロップアイテムとして防具をゲットするか、宝箱の中からそれなりのものを発見するまで、俺達が同行してやる方法しかないのであるが……それで下層に行き過ぎてしまったらまた危険である。
どうしようかと思い悩んでいたところ、半裸状態でへたり込んでいた2人のうち女戦士の方が、持ち前の体力を気力に回して立ち上がった……
「あのお助け頂きありがとうございます、神様とその配下の方々がこのダンジョンに居られて、ピンチに陥った際にそんなパーティーと出会うことが出来たのは至極幸いというか、そちらの女神様方の思し召しかと存じます」
「うむ、気にするでない、女神もそう思っているはずだ」
「あ、失礼しました、神様方が直接喋るのではなく、どう見てもパーティーのお荷物にしか見えないそちらの下等生物がお気持ちを代弁するシステムなのですね」
「いやそうじゃねぇんだけどよ……まぁ良いか、それでお前等はどうしたいんだ?」
「えぇ、私などは元々エッチなビキニアーマーでその辺を闊歩していたぐらいですから、多少素っ裸になったところでどうということはありませんし、公然猥褻で逮捕されない限りは宿まで帰還することが可能なのですが、仲間が……」
「そっちの女魔法使いさんはちょっと恥ずかしくて無理ってことね、ちなみに残りのメンバーは……」
「さっき突然出現したバケモノに殺害……いえちょっと生きていたみたいでしたけど、もうダメそうなんで放っておきました、別に雑魚なんで要らなかったし、男の冒険者など私のビキニアーマー姿を見せればすぐに補充することが可能ですから」
「……なかなか酷い奴だな、しかしその状態か……貧……女魔法使いは歩くことぐらいは出来そうなのか? 俺達はこれから100階層に向かわなくちゃならないから、ご一緒するにしてもシャキシャキ進んで、服とか防具を手に入れたら自力で帰ることが出来てくれないと困るんだが」
「100階層へですか? 前人未踏とされる……いえ、神々の力を持ってすればそのようなことも可能なのですね、しかし私達はこの状態だと5階層が限界でして……もしよろしければそこまでご一緒願えないでしょうか?」
「それまでに何も見つからなかったら、そのときはどうするつもりなんですの?」
「そこまで行って、もしそれなりの防具がなければ諦めて……そうですね、ちょくちょくやって来るであろう冒険者と合流させて貰って、素っ裸のまま帰還しようと思います」
「そうねぇ、それならまぁ良いんじゃないかしら?」
ということで神界人間の女2人、かなりエッチな格好のまま同行させることとなったのだが、5階層までということでかなり短期間のことだ。
もちろん戦闘面ではまるで役に立たないし、恥ずかしがりの貧乳魔法使いに関しては、内股で歩くのがやっとの様子。
どうにかして5階層までにアイテムを、宝箱でもドロップアイテムでも良いから何かを確保したいのであるが……ここでダンジョンの管理権者になった精霊様から提案があった。
どうやら5階層の最深部には敵が、中ボスとなるキャラが存在しているようで、そいつさえ倒せば魔導仕様のローブが、確定ドロップで手に入る仕組みになっているらしい。
そいつをここに呼んでブチ殺してしまえば楽勝なのだが、そうなるとこの2人に色々と事情を探られかねないな。
ならば普通に5階層まで一緒に行って、そこで少なくともこの貧乳魔法使いの装備だけでも確保してやることとしよう……
「よし、じゃあそこまで行って、魔導士のローブをこの女に着せよう、お前もそれで良いな?」
「えぇ、ですがそれまでがちょっと恥ずかしすぎて……」
「困ったな、さすがにその気持ちを俺にわかれというのは無理だから……セラ、ユリナ、お前等似たような攻撃魔法タイプのキャラだろうに、この女魔法使いが素っ裸に近い状態で歩いているんだ、配慮してケツぐらい出して歩け」
「しょうがないわね、ほら、これでどうかしら?」
「なかなか恥ずかしいことですの、でもそうしろというのであれば我慢しますわよ」
「よろしい、ほら仲間が増えたぞ、ついでにセラの方はこうだっ」
「ひぃぃぃっ! そんなっ、こんな場所でお尻を抓り上げるなんてっ!」
「どうだ参ったか、そして女魔法使い、こんな恥ずかしい格好で恥ずかしい目に遭っている奴が居るんだ、自分の方がまだマシだと思って、今は先へ進むことだけを考えるんだ」
「わ、わかりました……というか良くもまぁそんなことをしますね仲間に……」
「コイツは普通にMだからな、何をしても喜ぶだけなんだよ」
「変態じゃないですか普通に……」
などとドン引きされてしまったのであるが、とにかくそれで貧乳女魔法使いもまともに歩くようになったため、俺の前を歩かせてそのムフフな光景を目の当たりにしつつ……と、セラの貧尻が間に割って入って来た。
エッチな姿の貧乳魔法使いではなく自分の方を見ろということなのであろうが、いつも見ている貧尻よりも、今日今この場でしか見ることの出来ない方を優先するのは大勇者様として当然のこと。
そんなこともわからない貧乳貧尻魔法使いのセラには、その丸出しのままの尻を思い切り引っ叩いてやるという罰を与え、飛び上がって痛がる反応を楽しんでおいた。
そして3階層、4階層と進んで行って、迎えた5階層……ここまでに手に入れたのはどうしようもないカスアイテムの杖と、それから女戦士が使うビキニアーマーのなぜか上だけ。
エッチな女戦士はそれに装備を換装したため、下は丸出しで上だけビキニというあられもない格好になってしまったのだが……その状態で堂々と歩いているのが逆に凄い。
しかしそんな姿をガン見していると、やはりセラだのユリナだのが前に割って入って来るため、あまり意識しないように進まざるを得ない状況である。
とまぁ、そんな状態のままボス部屋らしき場所に辿り着いたのであるが……本来はここで鍵などを使ってそこの扉を開けるのが通常であるが、もちろん精霊様の管理者権限で簡単に開いてしまうのであった……
「凄いですね、神々の力を持ってすれば、ボス部屋の扉を何も使わずに開扉してしまうことが出来るとは……畏れ入りました」
「……まぁ、そんなところよ……それで、ここに居るボスはっと……『オヤコドン』とかいう鳥と恐竜の中間みたいなバケモノね」
「何だよそれ、卵でとじてんのか?」
「わかんないけど、とにかく見てみれば……普通に鶏みたいね、何の変哲もない巨大鶏だわ」
「このサイズで『何の変哲もない』というのには無理があるが……とりあえず戦ってドロップアイテムをゲットしようぜ、どうせ雑魚だしな」
ボス部屋に現れたのはオヤコドン……とは言いつつも完全に『オヤ』の方だけのバケモノであった。
どこで『コ』の要素が出て、さらにどうすれば『ドン』になるのかは不明であるが、ひとまずそこまで強くはない様子。
だがそんな雑魚キャラを相手にしても、エッチな女戦士はかなりビビッてしまっているようだし、貧乳女魔法使いは完全に腰を抜かしている。
仕方ないのでこのボスモンスターは俺達が討伐して、もし『コ』の要素がどこかで出たのだとしたら、それこそ親子丼にして食ってしまおうといったところ。
まぁ、向こうから仕掛けてくるようなので、こちらは黙ってカウンターでも放っておくこととしよう……




