1199 別所にて発見した
「ふぅ~っ、結構食べました、まだまだお腹一杯じゃないけど、全然食べられるけど食べたには食べましたっ、まだ食べられるから色々持って行きたいけど食べるには食べました」
「リリィ、そんなヘタクソな感じで遠回しに言わなくても良いぞ、ほら、ありったけ持って行くが良い」
「やった! じゃあ他の荷物は全部出して、缶詰とおやつジャーキーと、それから生ハムの原木も持って行きましょう」
「リリィちゃん、こっちのお肉も入れておいて下さい、私の方はもう入らないんで、あとで分けましょう」
「あんた達、遠足じゃないんだからおやつはそのぐらいに……別に良いけど……」
夕食後、これから第三のダンジョンへゴーレムの動力炉をゲットしに向かうための準備を始めた俺達であった。
荷物はほとんど食べ物ばかりのカレンやリリィ、まぁ栄養があるものばかりな分、無駄に菓子ばかり用意しているルビアよりはマシといえよう。
で、万が一敵が、第三のダンジョンおよび目的物を管理している神である変なデブのハゲがその場でボスとして待ち構えていたときのため、それなりの準備もしておこうということになる。
まずはそれに直接触れないため、治安が良い……わけではないが、殺戮や理不尽な暴行などが推奨されていないという神界においては珍しい、バールのようなものやつるはしのようなものなどを確保しておく。
また、これは下界でも珍しいアイテムなのだが、時折その辺に落ちているバスターソードのようなもの(使い捨て)もいくつか用意しておくべきであろう。
この程度のもので神を物理的に殴って、それで討伐が完了するようなことはないかと思うが、それでも自分の武器で、きっと脂ギッていることであろうデブを突いたり斬ったり、殴ったりするのは絶対にイヤだ。
また、もしブチ殺した際に変な汁が飛び散り、その飛沫が掛からないまでも近くに来てしまったときのことを考え、除菌スプレーなどもかなりの数を用意しておいた。
ここまでしておけば安全に、おっさん固有の謎の菌に感染することなどなくその神を始末することが出来るはず。
もしそいつが居なかったとしたら、用意したアイテムでその神の配下である天使やその他クリーチャーなどを始末するのに使えば良いのだから、きっと無駄にはならないであろう……
「じゃあほら精霊様、しっかり持って行けよ、ポケットに全部入れるんだ」
「はいはい、ちょっと長いわねこのバスターソードのようなものは、ポケットがパンパンになって……」
「精霊よ、どうしてあなたポケットにそんな入るのですか、そちらの、人族の王女も、どうして常に2万枚の金貨がポケットに……無限収納の類は禁止しているはずですが?」
「それはその……まぁ、ちょっと大き目なポケットなのよ、そういうこともあるわ」
「・・・・・・・・・・」
俺達の世界では、この女神によって無限に収納することが可能な空間の使用が制限されている。
それは馬車運送ギルドなどからの要請でそういった神託をしたとのことだが、現在の俺達にとっては邪魔なルールでしかない。
むしろ馬車や船、魔導技術をふんだんに用いた巨大航空機など、あらゆるものを『無限収納』に突っ込んで持ち歩きたいところなのである。
もちろん精霊様やマリエルが常にあり得ない量の荷物を持っているということは、コッソリとその類のモノを使用しているということなのだが……あまり言及すべきところではないな。
とにかくそんな感じで食料とその他の準備物を荷物の中に詰め込み、ドM雌豚尻の神が作成したゲートを用いて移動をする。
目的地であるダンジョンの近く、むしろダンジョンの入り口がそこにあるという神界人間の町へと移動し、まずはそこで1泊することとなった。
ルビアにドM雌豚尻の神を吸収させる儀式に適した夜までにはまだ時間がある……随分長い時間を掛けているように思えるが、内容が薄い話をダラダラと続けているだけで、実はまだ行動開始から2日目の夜なのだ。
それで、さすがは神が管理するダンジョンの入り口を擁する町だけあって、神界人間だけでなく天使の数もかなり多いように思えるその町で、空いている『高級な』宿を探してその辺をぶらついたのであった……
「やべぇな、かなり埋まってしまっているぞ、やはり夕飯前に移動して来るべきであったかな?」
「かも知れませんね、ですがこちらには神様が居られますので、その辺の高級宿に泊まっているイキッた金持ちの神界人間を殺害するなどして排除すれば、きっと寝る場所は確保可能かと思いますよ」
「イヤだな誰か惨殺した部屋で寝るのとか……まぁ、外にでも連れ出して、自分が死んだことさえ認識出来ないぐらいのスピードで始末すれば良いか、誘い出しから警戒しないようにさせることを考えるとかなり骨が折れる作業だがな」
「勇者よ、どうしてあなたはその自分のためにすることに傾ける労力をもっと正当な勇者業務のために……いえ、何を言っても無駄だということはこの数年でバッチリ把握していますが」
「だったら余計なこと言ってんじゃねぇよ、ほら、とっととよさげな宿を探せ、さもないとお前だけ野宿にさせんぞ、神なのに神界で野宿だぞ? わかってんのかオラ」
「と言われましてもね……あ、あそこがダンジョンの入り口のようですね、しかし周りの宿はそこにアタックする神界人間の冒険者のためのもので、神々が泊まるようなものではありませんね」
「俺達だけならそこでも……そこの最上級の部屋でも良いんだがな、さすがに仁平とかはアレだぞ、ババァ神一派への反抗勢力のトップがそんなしょぼくれた所にってわけにはいかないぞ」
「まぁっ、私はどこでも良いしぃ~っ、最悪ダンジョンの天井からぶら下がって、朝入って来る神界人間を脅かしたり殺したりするってのも良いけどぉ~っ」
「やべぇコウモリクリーチャーじゃないんだからさ……と、あそこの宿なんてどうだ? ダンジョンからはちょっと離れているみたいだが、そこそこ高級そうだぞ」
ダンジョンの入り口付近、今は夜なのでそこには門番をしている天使ぐらいしか居ないのだが、その横をチラチラ見つつ通過していたところ、そこそこのランクらしい宿というかホテルが見えた。
神々が宿泊することにつき申し分のないランクで、もちろん俺達のような実質神の付き人と見られるような存在も、下の方の階であれば宿泊することが可能なもの。
明日の朝の面倒な移動を考えたらもうそこしかないと、そう判断して向かって行ったのだが……やはり満室である。
フロントで交渉してみたのだが、特に神々のためのスウィートはフルに埋まってしまっていて、もはや女神とドM雌豚尻の神が同室で、仁平だけが別室というかたちでも入ることは叶わないとのこと。
そこをどうにかしてくれと、むしろ今から増築してでも部屋を用意しろと、フロント係であった神界人間のおっさんの胸ぐらを掴んで要請するも、もはや上には掛け合って貰えないような状況。
仕方ないので交渉は諦めて、現時点で宿泊している神を排除し、その流れで付き添いのため宿泊している天使や神界人間をも追い出し、俺達の部屋を開ける作戦に出ることとしよう。
まずは辛うじて空きがあった、俺達が宿泊すべき大部屋を確保しておいて、そこで女神達を待たせたうえで『直接交渉』のために階段を上がる。
途中でスタッフらしき神界人間が現れて、『神々でない者を上階に行かせるわけにはいかない』などとつまらないことを宣ったため、実力行使の準備があることを主張すると、青い顔をして快く引き下がってくれたのであった。
ついでに現在宿泊している神々の名簿を、なぜか肖像画付きの状態で用意させたというかその場で強奪したのだが……なるほど神々へのもてなしのため、失礼のないよう顔と名前を一致させる必要があったのか……
「良いモノをゲットしたな、おいお前、もう行っても良いぞ、仕事しろ仕事」
「へ、へい、ですがそちら機密書類ですのでちょっと、その……」
「よっぽど殺されたいらしいな」
「いえっ、何でもございませんっ!」
「全くしょうもねぇ野郎だぜ……で、どうするよ、20匹ほど宿泊しているらしいが、この中からどの神を追い出す又は殺すことにする?」
「さすがにわかりませんね、可能であればランクが低くて、もちろん私達と敵対する派閥に所属している神様をアレしてしまうべきなのでしょうが……」
「主殿、さすがにこの感じで適当は良くないぞ、場合によっては協力的な態度を示すことになるであろう神を失ってしまうことになるのだからな、ひとまずここは下へ戻って、待っておられる神々に相談するのが得策だと思う」
「だな、面倒だが一度戻るか、そうしないとジェシカが言った通りのことになる……可能性が高いよな流れ的にも」
20ほどの神がこの宿で、上階のスウィートを利用していることがわかったところで、その中から低ランク、かつ敵であるババァ神寄りの態度を示している神の選定作業を依頼するため、一度女神達が待っている部屋へと戻った。
そこで事情を説明し、資料の方を投げてやると……どういうわけか仁平がいきなりひとつを手に取ったではないか。
そしてこちらにそれを見せてくるのだが、そこに描かれている肖像画は、せっかく絵なのだからもう少し盛ってやれよと思うほどに不細工でデブでハゲのおっさんである。
しかもどこかで見たことがあるようなないような……いや、つい先程この肖像画を見てしまったではないか。
なんとその神はデブでハゲのわけがわからない、何を司るのかさえ定かではない神であって、そしてこの町のダンジョンと、そこに安置された目的物を管理している神であったのだ……
※※※
「どうするよコイツ? ここでブチ殺してしまった方が良いのか?」
「そうねぇ~っ、どうせこのままダンジョンに突入してもぉ~っ、私達が入り込んでいることに気付いたら攻撃してくると思うしぃ~っ、せっかくなら今夜のうちに、みたいなぁ~っ?」
「じゃあそれで決まりだな、え~っと、最上階のスウィートに宿泊してんのか、ハゲの癖に調子に乗りやがって、すぐに訪問してその場で……いや部屋が汚れて宿の迷惑になるな、どっかに連れ出して殺そうぜ」
『うぇ~いっ!』
ちょうど良いところにちょうど良いターゲット、コイツさえ始末してしまえば、明日の作戦にもたれ掛かっていた憂いも消失し、かつ宿泊のための部屋がゲット出来るという一石二鳥である。
神殺しのためのアイテムを取り出し、それぞれ装備してもう一度階段を上がって行く。
今度はこちらの神々も一緒だから、余計なことを言ってくるようなホテルスタッフも居らず快適だ。
最上階に到達すると、まずはいくつもある豪華な扉の中から当該神が宿泊しているという部屋のものを見つけ出し……蹴破ろうとしたマーサには拳骨をくれてやり、普通にノックしてみた……
「もしもーっし、居られますかーっ? もしもーっし……」
『何だね? 我は今500神界通貨で見放題になるアレを鑑賞している最中であるぞ、大した用でないのであれば後にせい』
「そういうわけには参りません神様、緊急の用件でして……実は神様が管理なされているダンジョンの件です」
『それは明日様子を見に行くのだ、本当に今良いところだから後にせよと言っておろうが』
「面倒臭せぇ野郎だな、エッチなアレなんぞ見ている暇があったら対応しろやハゲ!」
『貴様! スタッフなのかその他来訪者なのかは知らぬが不敬であるぞっ! この神界における居場所を失いたいのかっ?』
「そうなるのはお前の方だクソデブが、とっとと出て来やがれ、さもねぇとアレだぞ、お前のダンジョン爆破すんぞ今から」
『えぇいっ! 鬱陶しい輩に絡まれてしまったな! 少しそこで待っておれっ!』
そう言われてからおよそ3分、何の音沙汰もなく待機させられたのであった……途中で繰り返したノックも梨の礫であったし、おそらくはこちら側からの音声を何らかの方法でカットしてしまったのであろう。
もちろん神だからそのようなことも出来るわけだし、その他の技も使ってこちらを苦しめようとしてくるはずだが、この感じは間違いなく使えないデブであって、そこまでの実力を有する神ではないはず。
そしてさらに2分ほど、ようやく豪華な扉の前に神のオーラを感じたと思ったら、直後にそれが動いて……まるで怒り狂った雄牛のように、凄まじい勢いでその向こうからデブが飛び出して来たではないか……
「おいっ! 貴様等覚悟は出来て……げぇっ、ホモだらけの仁平と……何か知らない神が居るではないかっ⁉」
「あらぁ~っ、私の名前はご存じだったのねぇ~っ、じゃあ、早速だけど表出てくれるぅ~っ? 殺すから、殺して喰らうからぁ~っ」
「ひっ、ひぃぃぃっ! 寄るなバケモノ! 貴様のような奴とする話などないっ! 帰ってくれすぐにっ! 配下の者もすぐに退けっ!」
「そうはいかねぇぜ、俺達はこの部屋に泊まりたいんだ、あとどうせ明日になったらお前のダンジョン? あそこ襲撃して中にあるゴーレムの動力炉を頂くからよ、そしたらお前、責任取って自害とかだろう?」
「なら今ブチ殺されて死んでも構わないですよね? ささっ、殺して差し上げますのでこちらへどうぞ」
「あと部屋もクリーニングさせないとだな、エリナ、ちょっと下行ってフロントで頼んで来てくれ」
「わかりました、じゃあ終わったら外に行って、その神界の神様を断罪する作業に参加しますね」
「なぁぁぁっ!? なぜこの神界に悪魔など……しかも3匹も居るというのだっ? ホモだらけの仁平! 貴様オーバーバー神様に対して反抗的であるとの情報があったが、よもやそこまで悪に堕ちていたとはっ!」
「悪に堕ちているのはそっちよぉ~っ、とにかくほら、早くこっち来てちょうだいっ!」
「ひっ、ひぃぃぃっ! やめろっ、殺さないでくれぇぇぇっ!」
往生際が悪いデブのハゲ、やはりたいした戦闘力は持ち合わせていないようで、仁平が腕を掴んで引っ張るとグイグイと、簡単に引き寄せられてしまっている。
そのまま階段から放り投げられ、何やら強く抗議しながら転がり落ちていったデブのハゲは、まるでボールのように踊り場の壁で跳ね返り、さらに下の階へと落下して行った。
止まったところに追い付いた俺が蹴飛ばすと、バインッと弾んでさらに下へ……このまま蹴りながら外へ連れ出すこととしよう、靴は汚れてしまうが、手を触れることなくコイツを移動させることが出来る最善の策だ。
「ギェェェェッ! やめっ、やめるのだ貴様! 神に対して何という不敬をっ!」
「うるせぇカス、オラもう外だぞ、ちゃんとこの世にお別れを言っておけ」
「ぐぬぬぬっ、貴様こそ覚悟は出来ているのであろうな? 神であるこの我を蹴飛ばし、階段落ちさせて外まで連れ出すとは……フンッ、ここで貴様等を返り討ちにして、ホモだらけの仁平の首をオーバーバー神に捧げてくれるわ、掛かって参れっ!」
「……だってよ、どうする? 誰が代表してコイツを殺す?」
「勇者様が殺って下さいよ、ほら、もう靴が汚れているんですから」
「そうですね、ご主人様に任せます、この敵の神様、そんなに強くなさそうなので戦いたくないです」
「チッ、こういう汚いうえに殺しても活躍したと認められないゴミばかり押し付けやがって、だがまぁしょうがねぇ、おいっ、俺様が代表者として貴様と戦ってやる、本気でやらないとすぐに終わるからな、マジで頑張れよっ」
「……よかろう、ではこの技を喰らうが良いっ! ヘヴィーウエイトハイキィィィック!」
「足が上がってねぇぇぇぇっ! 何がハイキックだよ? 腹の肉邪魔すぎんだろお前っ!」
初手で蹴りを入れようとしてきたデブのハゲだが、ハイキックと言いつつも中段攻撃であって、しかも距離的にまるで届いていない。
何を勘違いしたのかと皆が笑っていると、今度は接近して来て、握り締めた拳で右ストレートを……腕の肉がブルンッとなっただけで、特に変わったところのない、至って普通のパンチ攻撃だ。
危険なポイントといえば、特に暑くもないのにダクダクになっている汗が飛び散っているということで、それがブッカケされると非常に不快な気分になるであろうということぐらいか。
それ以外には何も、本当にその辺の神界人間……ほどではないと思うが、雑魚天使と同等かそれ以下の戦闘力なのではないかと思える程度の雑魚さ。
これで他に何も隠していない、まだ実力を出し切っていないなどの要素が全くないとしたら、コイツを神として認めている神界のシステムそのもの自体に疑義が生じる。
念のため実力を出し切らせようと、こちらからは特にこれといった攻撃をせずに罵声のみを投げ掛ける挑発をしてみたのだが……もしかすると本当に本気で戦ってこれなのかも知れない。
だとしたらもうこんな馬鹿に用はないのであって、このまま遊んでいてもどうしようもないので、手に持ったバスターソード、いやバールのようなもので良いか、そちらに持ち替えて思い切り殴ってやるべきだ……
「もう死ねやこのクソ雑魚がぁぁぁっ!」
「ブッチュゥゥゥッ!」
「ケッ、粉々に砕け散りやがったか、そんでもって光って……元に戻ったじゃねぇか、もう一度死ねやこのクソがっ!」
「ブッチュゥゥゥッ!」
「全く手間を掛けさせ……また元に戻った⁉ どうなってんだよコイツはっ?」
「勇者様、それ、無限に再生するタイプの神かも知れないわよ、もちろん周囲からエネルギーとか集めることなしに」
「・・・・・・・・・・」
そうこうしている間にも、またまた元の状態、無傷の姿に戻ってしまうデブでハゲのクソ神、もう一度殺しても結果は同じであった。
これはつまり不死の神であって、結局のところ殺してしまうことが出来ないという、至ってシンプルに厄介な神であるということなのだが……どう処理しろというのかこれを……




