1196 ガチクズでかつ
「勇者様、勇者様……起きましたか? どうやら外で昨日のガチクズ天使の皆さんが動き出しているようです、ということはそろそろ……」
「そろそろガチクズ小町がやって来て、それを出迎えるタイミングになるってことだな、よし全員を起こせ、おいルビア、お前早く起きないと悪戯するぞ、おいっ」
「ん? あぁ、もう朝ですか、敵の神様はもう来ていますか?」
「まだだけどさ、来る前に起きようぜ、ほらっ」
「も~うっ、来てから起こして下さいよ~っ」
「もはや堕落し切っているわねこの雌豚は……」
なかなか起きようとしないルビアを皆で突き回し、どうにか目を覚まさせることに成功したのだが、今度はマーサが二度寝を始めたらしい。
余りにも狭い空間に詰まって寝ていたこともあるが、昨日は色々とやることが多かったため、その疲れが抜けていない者も多いのであろう。
だがそんなことを言っている間にも敵は、ガチクズ小町なる神は動いていて、1日をサボり通すためにこの場所へやって来るのだ。
それを待ち構え、一気に討伐してしまわない限り、俺達がしっかりと足を伸ばして休むことなど出来ないのである。
指摘された通り、ガチクズ天使達が慌ただしく動いているのを確認した後、少しだけ開けた回転扉をスッと閉めてまた壁の中へと戻った……
『あの、すみません聞こえていますか? 聞こえていないのならもう良いんですけどとりあえず言っておきますね、ガチクズ小町神様があともう少しでここに来られますので、では』
「……だってよ、皆シャキッとしろよ、それで寝たところを襲うのを忘れないようにな、完全に寝るのを待つんだ」
「見えないと厳しそうですね、いびきでもかいてくれれば良いんですが、そういうわけにもいかないでしょう」
「だな、もしアレなら壁に小さな穴でも空けておくか?」
「勇者よ、それをやるとさすがにこちらの存在がバレます、結界で防ぎ切れなくなりますからね」
「ショボくれた結界だな、だがまぁ仕方ない、諦めてノールック判断に頼ることとしよう」
その後もしばらく話をし、敵の神、ガチクズ小町は可能な限り傷付けずに捕らえる方向でいくこととした。
顔面がキモかったり、小町といいつつもクソババァであったりした場合には、捕まえた後で処刑してしまえば良いのだ。
攻撃の方法を皆で示し合わせ、それが確定したところで静かにして敵の到来を待ったのだが……どうやらそのときがきたらしい。
外でガチクズ天使達がにわかにバタバタとし出し、大声で挨拶をしたような感じになっているのだが、これは神の来訪に間違いないであろう。
だがまっすぐここに来るわけではなく、まずはあの大浴場と、そこに安置されたこのダンジョンの宝、ゴーレムの頭部を確認しに行くらしい。
俺達が風呂に入った際にはどこにあるかわからなかったゴーレムの頭部、それは神であるガチクズ小町にしか手の届かない、しかし風呂の湿気は届いてしまう位置に存在しているのだ。
その具体的な場所はガチクズ小町を倒した後で、直接聞き出してやれば問題はないであろう。
もちろん、湿気でダメになっていた場合にはそのやらかしに対する罰も受けて貰うことになるが……
「……まだしばらく掛かりそうだな、きっと長風呂だぞそういう奴は」
「1時間ぐらいお風呂に浸かっているタイプでしょうか? そのままふやけて溶けてしまえば良いのに」
「まぁそう言うなって、ちゃんとこっちで討伐して、ゴーレムの頭部をどんな方法で隠蔽したのか聞き出さないとなんだよ」
「というか昨日は遊んでいてろくに捜索しなかったですの、ちゃんと探せば本当はすぐに……」
「ユリナ、後で尻尾の先端にクリップを挟んでやるから覚悟しておけよ」
「ひぃっ、そのお仕置きは久しぶりすぎて耐性がなくなっていますのっ」
「ふんっ、地獄の痛みに悶え苦しむが良い」
「ひぇぇぇ……」
などとユリナに脅しを掛けたり、その他仲間達とのやり取りをしていると、どうやら敵であるガチクズ小町が風呂から上がり、この寝室へやって来るらしい。
バタバタと天使に囲まれて歩いているようで、その中央で偉そうに何やら喋っているらしいのだが、その会話はイマイチ聞こえてこないのであった。
念のためカレンに確認してみると、とりあえず何か文句を言って、それに対して天使が謝っているらしいとのことで、きっとそういう性格なのであろうということは想像出来る。
近付いて来たその集団からは、明らかに神のオーラを感じるのだが、同時にキンキンとやかましい声というか、実に鬱陶しい奴のワガママな叫びを感じ取ることが出来た。
コイツは間違いなくクズだ、自分中心で周りのことを何も考えない、そして自分の思い通りにならないともう大騒ぎの鬱陶しい奴。
そんなのが神として君臨しているこの神界では、おそらく天使のストレスも半端ではないことであろうと思料する。
だがここの天使は神同様にガチクズで、あわよくばその主であるガチクズの神を利用して自分が儲けてやろうと考え散るような存在。
もちろんそのような連中ばかりがガチクズ小町に付いていることには理由があって、元々居たまともな感性の天使は耐え切れず、全て辞めてしまった結果こうなったのであろうということが推測出来る。
それで、そんな感じの神と天使であるが……どうやら部屋の中へと入って来たようだ……
『ちょっとあんた達、ベッドのシーツがミクロ単位で汚れているわよ、新しいのに取り替えなさいっ!』
『ははーっ、失礼致しました、ではこっちの純白未使用ベッドシーツに取り替えます』
『全く、毎回新品を下ろせって言っているのに、どうしてそれがわからないのかしら? あんた達の頭って鶏以下なわけ? すっごく馬鹿なわけ? ねぇ?』
『その通りにございます、コケコケコー』
『フンッ、卵を産むだけ鶏の方がマシね、あんた達はシーツを取り替えたらもうどっか行きなさい、臭くて敵わないから』
『へへーっ!』
かなり高圧的な態度でガチクズ天使達に臨むガチクズ小町なる神、かなり綺麗であったシーツがさらに取り替えられたベッドの上にドスンッと座ったのが確認出来た。
そのまま命令通りに立ち去っていく天使達、ようやく眠りに就くのかと思ったのだが、どうやらそう簡単に寝てしまうわけではないらしい。
しばらくベッドに座ったまま、動かずに何かしていたように思えるのだが、しばらくして動き出し、自分の命令で帰らせた天使達をまた呼び出した。
どうやら腹が減ってしまったらしいな、だが食ったら食ったで血糖値が上がり、すぐに寝入ることになるのではないかと考えておこう……
『ほらノロマ共、どうして言ったらすぐに料理が出てこないわけ? お腹空いたって言ってんでしょさっきから? 5秒で用意しなさいよ、むしろ私がそう思ったのを予想して先に出しなさいよ料理ぐらい、わかっているのかしら? ねぇ聞いてる? 聞こえていても言葉が理解出来ないの? 最低ねあんた達』
『少々お待ち下さい、今準備をしておりますので』
『だからそれが遅いって言ってんの、どう埋め合わせするわけ? 私、神なのにお腹空いてお腹空いて、てかさっきまでいい匂いしてたんじゃん? それどうしたわけ?』
『はい、ガチクズ小町神様が来られた際に、食事は不要だから、腹が満たされているから棄てろと仰ったので全部につき廃棄処分致しました』
『馬鹿なのっ? どうしてそこで気を利かせて取っておかないのよ? 本当に馬鹿なのねあんた達! もう良いわ、せっかく何か食べようと思ったのに、あんた達が馬鹿なせいで全然食欲とかなくなっちゃった』
『では準備している料理の方はいかが致しましょう?』
『全部棄てなさいっ! 残さず、絶対に欠片も残すことなく棄てなさいっ! ムカつくんだからもう……あ、さっきも言ったけど、この私が棄てろと言ったモノをほんの少しでも残しておいたら神罰だから、自分達で食べるのもダメよ、せいぜい高級料理を涙ながらに廃棄しなさい』
『畏まりました、ご命令通り全廃棄致します、では』
『とっとと出て行きなさいこの愚図! そもそも神の寝室に入り込んでいることさえも間違いなんだからっ! 塩撒いとこっと』
とんでもないガチクズムーブを披露してくれたガチクズ小町、姿は見えなくともわかる、そのワガママ女子感がイメージとなって伝わってくるのだ。
そんなガチクズ小町は今度こそ就寝……するわけではないらしいな、またしても天使を呼び出し、やはり腹が減ったから何かを出せと要求し始める。
もはやわざとそうしているのではないかと思えるような気の変わりっぷりに、自らもガチクズであるとはいえ天使連中もうんざりしているのではないか。
だが取り乱すことなくそれに従った天使は、今度は間を空けずに、あっという間に良い匂いのする料理を運んで来た。
というか先程廃棄処分にしろと言われたものをそのまま持って来ているだけではないか? 匂いも同じだし、これは棄てなかったのがバレて怒られてしまうパターンなのでは……
『うんっ、これ美味しいわね、どこの高級食材を使ったわけ?』
『ありがとうございます、こちら雑巾の……象キングを絞って抽出した液体を煮詰めまして、それから何やかんやで創り上げた自慢の逸品にございます』
『良くわからないわね、象キングなんて生物が神界に居たかしら? でもまぁ美味しいから良いわ、とっとと出て行きなさい』
『畏まりました、ではおやすみなさい』
先程の料理であることに気付かず、しかも雑巾の絞り汁を添加されていることにも気付かず、幸せそうなオーラを放ちつつ食事をするガチクズ小町。
しばらくして食べ終わったのか、もう一度天使を呼び出して片付けをさせた後、歯磨きまでやらせてまた天使を追い出した。
その際、手際が悪いだとか何だとか言ってまた怒り出していたのであったが、そんなことを言うぐらいなら自分でやれば……というのはどうも通用しないらしいな。
本当にクズでクズでどうしようもない神だが、その不名誉なイメージも今日でお終いとなる。
可愛ければ再教育を施し、キモければその場で処刑する、そうすることをもう俺達が決めているのだから。
そしてその前の最後の就寝に入ったガチクズ小町、何も知らず、俺達がここに居ることさえ看破することが出来ず、普通にベッドの中へと潜り込んだ、ちなみに今は正真正銘の朝だ。
ここから本当に寝入るまでどのぐらいの時間を要するのかと思ったのだが……どうやらすぐに寝息を立て始めたようだな。
悪い奴ほど良く眠るというが、まさにその通り、何のストレスも感じていないからすぐに、どこでも寝ることが出来るのではないかと、そう思ってしまうほどである……
「……完全に寝ちゃったわね、もうそうそう起きるものじゃないと思うわよこの感じだと」
「そうか、じゃあそろそろ行くか……と、寝言を言っているみたいだな、張り倒す前にちょっと聞いてやろうぜ」
『……もっと、もっとちょうだいよ、もっとってば! もっとちょうだい……ZZZZZZZZ』
「結局食べ物の夢でも見ているみたいですね、何も面白くないですこれじゃあ」
「だな、ということで作戦決行だ、すぐに全員で取り押さえて、ルビアはその神捕縛用の縄で上手く縛り上げてみたいな感じだ、わかっているな?」
「あの、私も縛られたいんですけどどうしたら?」
「後にしろそんなもん、行くぞっ!」
『うぇ~いっ』
回転扉をバーンッと開けると、その真下には布団に入って寝息を立てている女……ツインテール美少女の姿があった。
これが神なのか、単なるワガママお嬢様ではないのかと思ってしまったのだが、その寝ている姿からでも発せられる神のオーラはビンビン。
その上にドサドサと覆い被さる仲間達と、布団ごと縄で巻き取ってで持ち上げようとするルビアの動きを受けて、眠ったばかりのガチクズ小町が目を覚ます。
ハッとその美しい青色の目を見開いた後、何が起こったのかという表情でキョロキョロし出したのだが、このタイミングではもう遅い。
ガッチリと足を、そして頭を押さえられたうえで、掛け布団を上半身に巻きつけられたような状態で縄が掛けられているのだ。
しかも神捕縛用の強力な縄で、これで縛られてしまえばもう力を発揮することなど出来はしないという、大変に都合の良いシロモノである。
その状態で俺達の存在を認めたガチクズ小町だが、もはややることはひとつ、その場で声を上げて助けを呼ぶしかない状況……
「イヤァァァッ! 助けてっ! 誰か助けなさいってばぁぁぁっ! どうして誰も来ないのぉぉぉっ! 誰なのこいつ等ぁぁぁっ!」
「やかましい奴だな、もう助けなんぞ絶対に来ないから諦めるんだな、天使連中は買収済みだし、もうお前は神の力も使えない」
「うるさいわねあんたっ! 何者なの……ってどうして他の神がここに居るわけっ? あっ、もしかしてあのババァ! 私が不要になったから処分しようと……どうするつもりなの?」
「残念ながら俺達はそのババァ神の手先ではなくて、むしろそれと敵対している側の存在とその仲間達だ」
「えっと、じゃあその、ここには姿が見えないみたいだけど……」
『上よぉ~っ、上に居るわよぉ~っ』
「ひぃぃぃっ! 天井にちょっと穴空いて目がっ! あんた仁平って神ね? 何なのよ一体? 出て来て説明なさい……いや、ちょっと天井バッキバキにするのやめてっ、私の寝室がぁぁぁっ!」
「やかましい奴だな、静かにしろって言ってんだよこのクズがっ!」
「いでっ、どうして叩く……いえ何でもないです……」
自分のおかれている状況を完全に把握したらしく、ガチクズ小町は大人しくその場に座り、天井を破壊する仁平にも文句を言わなくなった。
もはや諦めたのか、それとも逆転のチャンスを狙っていて、こちらを刺激しないようにと大人しくなったのかは不明である。
だが現時点で抵抗する意思がないのは明らかであるため、そのままどこかへ運んで尋問、いや拷問を始めることとしよう。
こちら側に付いているガチクズ天使を呼び出し、ダンジョン内部に拷問部屋のようなものがないかと、ダメ元でそんなことを聞いてみた。
すると当たり前のようにあるとの答えが返ってきて、そこまで案内してくれるというから驚いたものだ。
しかも裏切り者のガチクズ天使に対して、ガチクズ小町がまるで文句を言わないのにもまた驚いてしまった……
「こちらです、ここがガチクズ小町神様がいつも使われている拷問部屋です、どうぞ」
「おいお前、こんな所で何を拷問していたんだ? この天使達か? ガチもんのクズだなお前は」
「・・・・・・・・・・」
「何とか言ったらどうだ? お前がいつも使っていた拷問部屋で、これからおまえ自身が拷問されることに関してな、しかも散々いじめていた天使にやらせるからな、どうだ、良い気分だろう?」
「……あの、あなたは何か勘違いをしているようですね、いくら心の広い天使でも、その恥ずかしすぎる勘違いに基づく粋がりを感化することは出来ません」
「何だよ? もしかしてお前も拷問して欲しいのか? ガチクズ小町にされたみたいにして欲しい、ここの雌豚同様のドMなのか? んっ?」
「いえですから、拷問されていたのは私達ではなくてですね……」
「……私よ、この部屋で拷問されていたのは神であるこの私よ」
「……いや、それはどういうことだ?」
「ガチクズ小町神様がそういう趣向の持ち主であったというだけです、普段からキツいこと、理不尽なことを私達に言いまくって、その裏では……という感じの変質者なのです」
「とんでもねぇ奴だったんだなお前は……まぁ、これがお望みということだったら話は早い、中へ入ってすぐに……拷問器具が満席じゃねぇかっ!」
部屋の中にはいくつもの拷問セットが置かれていたのであるが、三角木馬にはセラが、X字の磔台にはジェシカが、全自動尻叩機にはマーサとマリエルが重なって乗り込んでいる。
ドM堕ち中の精霊様は天井から吊るされているし、ルビアとドM雌豚尻の神はありがちな水車でグルグル回る器具で水に浸かったり上がったりと……すぐにやめさせないと収拾が付かなくなるな。
いや、別に拷問セットを使用しなくとも、この馬鹿から話を聞くことは可能であるから、器具を占有してしまっている馬鹿達にはしばらくそこで遊んでいて貰うこととしよう。
ひとまず布団ごとグルグル巻きにしてあったガチクズ小町の縄を解いてやると、その下からはピンクのパジャマに『金儲け』といくつも書かれたセンスの悪い衣装が出てきた。
だがなかなかに高級な素材らしく、破れてしまったりするのはもったいないと天使達が主張し始めたため、一旦素っ裸にしてしまう流れになる。
すぐにパジャマを没収されたガチクズ小町は、何だか嬉しそうな顔をしてこちらを見ているため、こちらの命令には何でも従うものだと判断した……
「よし、まずは何をして欲しい? 関節技でもキメるか?」
「そうねぇ、全裸で関節技をキメられるのも悪くはないわね、そうしなさい」
「態度がなってねぇな、ミラ、ギンッギンに締め上げてやれ」
「わかりましたっ、苦痛に塗れておもらしでもしなさいっ!」
「ひぎぃぃぃっ! お仕置きありがとうございますっ、もっと、もっと締めあ上げて下さいっ!」
「さっきの寝言、もっともっとは食べ物じゃなくてこの『もっと』だった可能性がありますわね、というかおそらくそうですのこれは」
「ガチクズでガチ変態とか、もう神としてどうなんだコイツは……っと、うっかり仁平とドM雌豚尻の神の方を見てしまったぜ、俺達の世界のこの使えない女神はまだマシな方だったんだな存在として……」
などということを考えながら、素っ裸のままミラに締め上げられて大喜びしているガチクズ小町を眺める。
しばらくするとジタバタとしていた手足も動かなくなり、遂におもらししてしまったではないか……そろそろ話をしていかないと、このままダメになってしまいそうだ……




