1193 矮小化
「どりゃぁぁぁっ! この飛び散った瓦礫でも喰らいやがれぇぇぇっ!」
『なっ⁉ ギョェェェェッ! なんということをしてくれるのだぁぁぁっ! 貴様わかっているのか? 我がそれが破裂することなどあれば、この付近どころかそれこそ神界中に影響を及ぼす大規模な爆発になるのだぞっ!』
「どんな兵器なんだよお前のCHING-CHINGは? てか皆用心しろよ、瓦礫が一部吹き飛んだから、この土煙が消えたときにその向こうに現れるのが真の恐怖だぞ」
「わかっています、前を見ているのは勇者様だけなんで、ちょっとその、視界の状況とかを生々しくない言葉で伝えて下さい」
「あぁ、そうしないとならないよな、まさか巨大すぎるそれなんてお前等には……と、なかなか見えてこないな、普通ならこの時点でもう『ジャーンッ!』みたいな感じで……」
『ブワハハハハッ! 見えはせずとももはや貴様の前にそれはあるっ! 心して土煙の収まりを待つが良いっ!』
「だから声デカいって、何なんだよマジでお前……というか何の神でどういう目的があってここに居たのかも聞いていないよなまだ……」
立ち上がった神のそのCHING-CHINGに、さすがにダイレクトとまではいかないが先制攻撃を加えることに成功した。
だがそれによってそのブツと俺達を隔てていた瓦礫の山がなくなり、視界の方はこの後すぐ、ダイレクトにそれを捉えてしまうことが確定したのである。
状況が状況だけに、大量に舞い上がった土煙はなかなか晴れない、上空が外に通じたため明かりの方は問題ないのだが、それでも……いや、少しずつ見通しが良くなってきたようだ。
薄っすらと茶色い煙の向こうから、まるでラスボスでも姿を現すかのようにゆっくりとそのシルエットが現れ始める。
仲間達にはとても見せられない、恐怖と支配の権化とも呼ぶべきその巨大なCHING-CHINGは……おかしいではないか。
サイズ感、先程この神本体が立ち上がった際に感じたサイズ感と、目の前に出現しつつあるブツのサイズ感がまるで合致しないのである。
前者はおそらく人間の50倍から60倍程度、そして後者は……人間の20倍から30倍程度のものであったのだ……
「どうですか勇者様? 何か見えましたか?」
「見えた……けどホントにコレがそうなのか? おいっ、ニセモノだろうこれ? どう考えても2分の1から3分の1スケールの作り物だろう! じゃねぇとこんな、こんな……もしかしてコレがそれでアレで……そんなはずはないっ!」
『ブワハハハハッ! どうやら我がブツの巨大さに驚いたようだなっ! 驚き呆れたようだなっ!』
「いいえ、逆の感覚で驚き呆れております……お前さ、図体のわりには粗末じゃねぇかコレ?」
『……そのようなことを言う下等生物は貴様で2万と607匹目だ、何を勘違いしている?』
「いやもうそこまでいったら妥当な感覚なんじゃねぇのか? お前アレだよ、粗末なモノを持つ粗末な神だよ」
『黙れっ! そういう感覚の持ち主は2万607匹目だと言ったが、それは通算での話だっ! 今そう思っているのはもはや貴様1匹のみ、そして再びここでゼロになる! 死ねぇぇぇぃっ!』
「なぁぁぁっ⁉ 暴れんじゃねぇぇぇぇっ! ダンジョンが完全に崩壊したらどうすんだっ? ここにはアレだほら、大切なゴーレムのボディーが安置されてんだぞっ!」
『それなら心配要らぬっ! なぜならば我がここに持っているのでなっ! ブワハハハハッ!』
「あ、本当だな、間違いなく何かのボディーの……組み立て前で箱に入っているのか……」
右腕を振り下ろし、遅すぎて当たりもしない攻撃を仕掛けて俺を、そのCHING-CHINGが粗末なモノであるということを知り、そして指摘した俺を亡き者にしようと試みる巨大で粗末な神。
ダンジョン内部の崩壊はさらに進み、今度は外だけでなく最深部までもが床の穴から接続されてしまったような状態。
楽しそうにそこを覗き込もうとするリリィを抱えて止め、あまり変な方を見るととんでもないモノを目の当たりにしてしまうであろうことを指摘し、怯えさせておく。
それで、俺が次に見るのは目の前の巨大であって、しかし本体と比較すれば極めて粗末な何かではなく、神が手に持った遥か上空の箱である。
その中にこのダンジョンでの目的物、組み立て式ゴーレムのボディーが入っているということだ。
それを獲得し、頭部や動力炉、そしてCHING-CHINGと組み合わせて塗装までして、使用可能な状態にしてやらなくてはならない。
もちろん落とされて壊されては敵わないから、この巨大な神を殺すにしても慎重に、あまり派手でない方法を選択してそうする必要が出てきた。
攻撃を加え、効率的に殺害するのに適した部位は……もちろん目の前のそれであろうな……
『ブワハハハハッ! 攻撃など当たらずとも、このまま地面を打っていけば我の勝ちよっ! 貴様等の足場は崩壊し、奈落の底へ真っ逆さまであろう! それで死に晒すが良いわっ!』
「そのぐらいじゃ死なねぇっての、馬鹿なんじゃねぇのか? それよりもお前が死ねやこのクソボケがっ! 勇者斬撃波を喰らえぇぇぇっ!」
『ギャァァァッ! 我のブツがぁぁぁっ! 貴様! 本当に知らんぞっ、これが破裂しても知らんぞっ! わかってんのかこの下等生物がっ!』
「勇者様、本当にその、それが破裂するのはヤバいわよ、凄まじい魔力とかその他諸々の力が渦巻いているもの、本当に大惨事になるわ」
「……そうなのか、でも他に攻撃するべきところが……パンチがくるぞっ!」
『ウォォォッ! 落ちろっ! 奈落の底へ落ちろぉぉぉっ!』
「埒が明きませんねこれじゃ、エリナちゃん、残雪DXでどうにかならないかしらっ?」
「う~ん、どうですか? 何かこう、完全に消滅させて爆発させないとか、エネルギーを吸い取ってシオシオにさせるとか」
『そんなこと出来ませんよどう考えても、エネルギーを吸い取ることは可能ですが、したくありませんてあんなの、現物を見ていないからそういうことが言えるだけであって、いくら魔界最強の武器とはいえあんなのを……いえ、アレは虚勢を張っているだけですね、力は大きいですが、本当はもっともっと矮小で情けない存在のはずです……』
「というと、どういうことだ残雪DX?」
『ですから、あぁ、そんなことも理解出来ないような残念な知能しか有していないのでしたね、だからあんな巨体、ハリボテにすぎないんですよ実際には、だから本当の、本来の姿に戻してやることだって出来るはずです』
「……そういうことかっ! 女神、真実を映し出す鏡はちゃんと持って来たんだろうな?」
「えぇ、ですがいくらこの鏡といえども、この神の全身を映し出すことなど出来ようもありません」
「大丈夫だ、そして残雪DX、お前ビーム系の攻撃は出せるよな?」
『当たり前です、何だと思っているんですか? 魔界最強で伝説にもなっているGUNなんですよ私は』
「うるせぇボケ、とにかく準備だ、女神……はさすがにかわいそうだから、仁平、すまないがあの奴のブツを鏡で大写しにしてくれ」
「まぁっ、不快なことねぇ~っ、でもしょうがないわ、ここは私のような強者の出番だものぉ~っ、はいじゃあ鏡、借りるわよぉ~っ」
女神から真実を映し出す鏡を受け取った仁平、ツマミを調整すれば、それが1年後にどのような姿になっているのかということを映すことも出来るのだが、今はその機能を使ったりしない。
早速敵の神のブツがちょうど鏡全体に映し込まれるよう、仁平が場所を調整して……やはりそうか、鏡に大写しになったりはしない。
その代わりとして、目の前の巨大なそれやボディーのその他の部分には似つかわしくない、まるで縮小したかのような何かが、鏡のど真ん中に映し出されているではないか。
一見すると遠くに映ってしまった普通の全裸のおっさん、つまり通常の人間と同等のサイズで、しかもブツが通常の人間の半分サイズという、とても情けない何かが映し出されているのだ。
しかし目の前の現物は相変わらず巨大で、しかも強大な力がその内部に封じ込められているような状態にある。
いくら本当は矮小だからといって、今の状態で攻撃してしまえば大爆発および大惨事は免れ得ない。
そこで作戦なのだが……これが上手くいけば全てを回避しつつ、敵のブツを破壊することが可能になるのだが……
「仁平、残雪DX、今から上手く角度を調整して、残雪DXが放ったビーム攻撃を鏡で奴のブツに反射することが可能なようにして貰う」
「あらぁ~っ、直接じゃなくて鏡経由で攻撃するってことねぇ~っ、でもどうして……あら、そういうことねぇ~っ」
『そういうことですか、真実を映し出す鏡に映し出された真実のブツに攻撃を加えて……』
「うむ、そこに映し込まれた真実、つまり真実のブツに照射された強力なレーザー攻撃は真実の攻撃、もちろんそこから反射して実際に見えているブツに向かう攻撃も、これまた真実の攻撃であって真実の効果を得るということだ、知らんけど」
「やってみる価値はあるわねぇ~、じゃあ角度を決めて……こんな感じかしら?」
「え~っと、私はこの辺りに立って……この角度で構えたら良いですかね? どうでしょう?」
『良いですよ、あとは有能で最強な私が調整しますから、そこに立ってキバッていて下さい、いきますっ!』
「いけぇぇぇっ!」
仁平も残雪DXもそしてエリナも、そこまで俺のことを知っているわけではないが、すぐに作戦の内容を理解してくれたようだ。
準備は敵の神が高い位置でさらに高笑いしている、つまりラスボスにありがちな無駄行動でターンを消費している間に行われ、そして完了した。
最後には残雪DXが慎重に角度を調節し、鏡に映し出された小さなそれに照射されたビーム攻撃が、しっかりキッチリ敵の重要な部分へと向かうための準備も整う。
これが上手くいきさえすれば、真実の攻撃によって破壊された敵の真実のブツが破裂しても、その中にある力の爆発などが起こることはない……と予想している。
まぁ、万が一のことがあれば、鏡を持っている仁平がすぐに動き、現物を直視しないようにしている仲間達も次いで反応し、俺達だけでもどうにか助かることは可能だ。
周囲、というか付近一帯に存在している神界の何かがどうなるのかは知ったことではないし、もしそれで使者が出たとしても、弱い方が悪いということでカタが着く。
一度ピタッと止まり、エリナに何やら指示を出しているらしい残雪DX……もはやどちらが装備者で、どちらが使われているアイテムなのかわからないな。
しかし装備主導のその関係でも、しばらく一緒に行動している以上その関係は安定していて、連携の方はバッチリな様子。
最後の確認後、そのGUNというかライフルらしい見た目の残雪DXが、先端の銃口部分に力を集中させ、そしてどうしてそこからそれが出るのかと疑問に思うほどの強烈なビームを放った……
『これでも喰らえぇぇぇっ!』
「ぐぅっ……なかなかに強力な攻撃ねぇぇ~っ! これが跳ね返って……直撃よっ」
『……何だっ? 我の壮大なるブツにそのような小さなビームなど……こっ、これはぁぁぁっ⁉ 力が、力がどこか違う空間に抜けて消えっ……ギョェェェェッ! 我のCHING-CHINGがぁぁぁっ!』
「中で渦巻いていた強大な力は亜空間に消えたようですね、このままなら……いえ、もうこれでお終いです」
『のぉぉぉっ! こんなっ、こんなことがあってたまるか、我のCHING-CHINGがやたらに萎んで……完全にデストロイされているではないかっ、我のCHING-CHINGがっ、CHING-CHINGがぁぁぁっ!』
「デカい声でそんなこと言わないでちょうだいっ! 見えてはいなくても聞こえているんだからっ! それよりもあんた……そのままだと奈落の底に沈んでいくのはあんたになるわよ、良いの?」
『……こっ、これは、これはどういうことだ? 我の巨大で荘厳なボディーが、ボディーそのものが萎んで……手に持ったゴーレムのパーツが重いではないかぁぁぁっ!』
「落ちて来たぞっ、壊さないようにちゃんと受け止めてくれっ!」
「はいはぁ~いっ、あそれっ! ナイスキャッチよぉ~っ、ちょっと脇汗付いちゃったけどぉ~っ」
「くっさぁ! 勘弁してくれよな、その箱はもうダメみたいだから中身を出した方が良い、それよりも……どうすんだ矮小野郎? どんどん萎んでいってんぞ」
『ぐぬぬぬぬっ、どうにかして貴様等を殺してくれるわっ! そしてサイズが元に戻ってしまった以上、我は元々の業務であるマゾ狩りに戻るのだっ! ふんぬっ!』
「マゾ狩り……ですか? もしかしてあなたは……いえ、顔など覚えていませんね、かなり目立たない、どうしようもない神であったのでしょう」
徐々に徐々に小さく、シワッシワになりながらサイズを落としていくハリボテの神であったが、その最後の発言の詳細を聞かなくてはならないため、ここでどこかへ行ってしまうのを許すわけにはいかない。
自身の方もそのつもりらしく、背が低くなっていく中でどうにか、先程まで自分の口があった、そしてダンジョンのかなり下へと続いている穴の縁に手を掛けることに成功した。
そのまますぐに上がって来る……ということはさすがに出来ないようだ、自分で地面を穴ぼこだらけにしてしまったため、縮小中ではあるといっても現在のサイズのまま下手なことは出来ない。
自業自得というやつだが、もしその自業自得が発動してしまった場合には、一緒に落下せざるを得なくなる俺達の方がダメージが大きいため、それだけは避けて頂きたいところ。
しばらく穴の縁にしがみついていた神の手が徐々に小さくなっていき、やがて普通にどこにでも居るような巨人程度に、さらには雑魚の中でも少し強い、そしてデカい強雑魚のように、最後には人間らしいサイズに……と、まだ縮小するというのか……
「……もうちょっと小さくなるみたいね、もう子どもかヨボヨボのおじいさんぐらいになるんじゃないかしら?」
「ベースがそんなんなのに、どうしてあんなに巨大化して……まぁ、見栄を張りまくった結果そうなったということか、あっちの方は完全には誇張し切れていなかったようだがな」
「全くです、まさかこんな神によって私は狩られそうになっていたとは……確かにドM雌豚奴隷の自覚はありますが、さすがにこのような者がマゾ狩りなどと称して狩りをしていたとは……正直少しショックですね実際」
「あぁ、まさかこんな、こんな雑魚キャラが神としてこの神界に存在していたってこともショックだがな……おいお前、どう考えても神界人間より雑魚だろう? 生きていて恥ずかしくないのか?」
「黙れっ! 我がCHING-CHINGさえ健在であれば、そこに内包された力のみで貴様等など、貴様等など敵ではなかったというのにっ! このような姿になってしまったのは貴様等のせいだっ!」
「だから、それが元々の姿なんでしょ? だったらもうどうしようもないじゃない、誇張した強さを自慢していても、実際には強くなったりしないのよ、わかる?」
「何だこのクソがっ! お前神界の存在じゃないだろう? どこかの世界の人族だろう? ちょっとぐらいその胸を誇張してみたらどうだっ! ブワハハハハッ……はっ? あれまたちょっと小さくなって……え?」
「膝から下は消させて貰ったわ、余計なことを言うからそうなるのよ」
「あっ、あぁぁっあぁぁぁぁっ! そんなっ、我の体に生えているものは全て消滅させられるというのかっ⁉ こんな神界の存在でもないカスにっ? いや待て、今アイツは何もしていなかった、じゃあ後ろの……貴様はホモだらけの仁平かっ!」
「そうよぉ~っ、でも私、今なにもしなかったわよぉ~っ、それと……あの程度の動きも見切れないとは、ハエ以下の知能しか持ち合わせていないようねぇ~っ」
「何だとっ? というか我の足をどこへやったのだっ? 膝から下がそう簡単に消えるなどということはないはず、今ならどこかの神の力を借りればくっつくかもだから返すのだっ!」
「どこかの神の力って、足ぐらい自分でくっつけましょうよそんなの……でももう消滅しちゃったから無理だとは思いますけど」
「てか神の癖に足ぐらい生えてこないの? 私が育てている野菜だって、葉っぱをちょん切ったらそこからまた生えてくるわよ」
「野菜と一緒にするんじゃねぇぇぇっ! 何なんだ? 何なんだよホントにお前等! あぁぁぁぁぁぁっ!」
「小さくなってもやかましい奴だな、それこそお前が何なんだよって、マジで……」
完全に敗北し、もはや勝ち目がない状況にあるということは理解し始めている様子の矮小神。
それを認めたくないゆえか、やたらに絶叫して誤魔化しているのだが、それさえも単にうるさいだけである。
既に足を失い、その前にはCHING-CHINGを失い、そしてそれらが復活するようなこともないということであるから、コイツはもうお終いといえばお終いだ。
だがまだ喋ることぐらいは出来るし、喋って貰わなくては困ることがいくつもあるから、しばらくそのまま、これ以上のダメージを与えないようにしておきたい。
で、まずこの馬鹿に聞きたいことといえば……どうしてこのような場所に、なぜ巨大な状態のまま埋まっていたのかということだ……
「おいお前、ちょっと静まれよコラ、仁平の夕飯にすんぞボケ、おいっ」
「ひっ、ひぃぃぃっ! なんと恐ろしい……いや、我の方がデカくて恐ろしいのだっ!」
「あら、じゃあ試してみるぅ~っ?」
「ひぃぃぃっ! すいませんっしたぁぁぁっ!」
「それで、あんた何なわけ? どうしてこんな所に?」
「いや知らねっす、マジで起きたらここに、夢の中で聞いたのは……オーバーバー神! そう、奴が何かしたっすマジでっ! だから……あげっぽっ」
またアイツか、そう誰もが思ったところで、馬鹿の頭が思い切り弾け飛んだのであった……




