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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1184 敵の中に

「……みたいな感じだからさ、ちゃんとあのステージというかスタジアムというか、コロシアムというかが完成してからじゃないと仕掛けを施せないんだよ」


「なるほど、つまり相手には正々堂々戦うものだと思わせておいて、実は裏でとんでもなく卑劣な仕掛けをして……といういつものパターンなのですね?」


「そうだ、まぁ今回はアレだ、相手だけじゃなくてこっちのキャラである精霊様も、もしかしたらアツくて男気溢れるバトルを繰り広げるつもりでいるのかもだけどな、そんなもん知ったこっちゃねぇぜ」


「相変わらず最低ですね、それで、具体的にはどのような仕掛けをするつもりなのですか?」


「それはまだ全然考えていないから、むしろほら、建設工事が終わってから考えるつもりでいたからさ」


「それ、間に合わないような気がしてならないのですが……見たところまだ基礎工事も終わっていないようですし……」


「マジかっ? とんでもなくノロマな連中を連れて来てしまったな、もしひとつでも思い付いた罠が仕掛けられない状況になってみろ、あいつ等全部火炙りにしてバケモノの餌にすんぞっ」


「理不尽すぎるのも相変わらずですね……」



 女神とそんな話をしつつ、まだまだ食べるということで別の店に行ったカレンとリリィには明日の宣伝を、広場に帰ると言っていたミラと悪魔達には建設現場の監督を任せ、俺達はダラダラと過ごすことが出来る店に残った。


 もちろん女神、雑魚とはいえ神が訪れているのだから、このテーブルの端に裏返して置いてある伝票も、そこに記載されている商品名や金額も、なかったものとして取り扱われるものだと期待している。


 で、その一緒に居るしょうもない女神が言うように、このままのペースで会場を設営していたら、到底明日のバトルまでに罠を設置し切ることは出来ないであろう。


 少し方向の修正をしなくてはならないか、かといって本当に正々堂々などということをしたいとは思えないし、他に考えるとしたら何があるか。


 観客を操作するなどして敵の攻撃や防御の妨害をするか、いや、それだとこちらが何かを仕掛けているということが見え見えになってしまう。


 では外部協力者の神々に頼んで、こちらが何も教唆していない第三者を装った妨害を……それもなかなかに大変そうだな……



「う~む、なかなか良いアイデアがないな……女神、お前何か考えておけよ今のうちに、上手いこと精霊様の勝利を確定させる、或いは負けても一撃で挽回させることが可能な策をな」


「そう言われましても……ちなみに今回のゲーム、敗北した方にはどんなペナルティが待っているのですか?」


「ん? あぁ、負けた方の豚野郎/雌豚使いにはしばらくの間『ドM堕ち』して貰うことになっている」


「……それにはどういった効果が?」


「特に意味はないがな、まぁこっちが勝てば敵を支配し易いし、負けても精霊様が痛い目に遭って、しかもコケにし易くなるという、どちらに転んでも俺は得しかしない究極の勝負だ」


「最低じゃないですかもう考えていることが……」


「おうよっ、精霊様が勝って敵をドM堕ちさせて、それであの仮面を剥いで素顔を晒してやるってのも良いし、逆に負けて精霊様がドM堕ちして、嫌々ながらお仕置きのおねだりをしてくるってシチュエーションも最高だろう?」


「・・・・・・・・・・」



 女神はあまり理解していない様子であるが、とにかく勝っても負けても俺にはメリットしかないのだ。

 敵を倒すのはもちろん重要なことだが、万が一があってもノーダメージ、どころか精霊様に対して日頃の復讐が可能になる。


 しかしそんな激アツイベントであって、もちろん勝利には向かっていかなくてはならないものについて、これからどうしたら良いのかわからないというのは問題ではないか。


 ひとまず女神と店を出て、既にミラ達が向かっているはずの建設現場へと足を運んだのであるが……なるほど、確かにまだ基礎工事を始めたばかりの段階のようだ。


 というかむしろ、この基礎が明日までにどうにかなるとは思えないし、ここへさらに上物を、観客席も含めて設置するというのはかなりの時間を要する作業である。


 仕方ない、ここはこの町の神界人間、税庁に程近い場所と違って重税など課されておらず、普通の体力を有している連中の中から『有償で働く』者を募集するしかあるまい。


 すぐに募集のためのチラシをユリナ達に作成させ、それを戻って来ていたカレンとリリィに渡して配布させる。


 工事に参加する者の賃金は、現金だとアレなのでということで現物支給に、それには崩壊した『第二拠点の隣町』で押収した食料品を充ててしまおうという作戦だ……



「おうおう、あっという間にかなりの人数が集まったみたいだな、どんだけ配ってんだよあの2人?」


「というか、その数のチラシを量産した私達も褒めて欲しいところですの」


「うむ偉い偉い……で、この人数だとさすがにアレだな、どこから運ぶにしても支給する食料が不足しそうだな……」


「そんなもの、最後の最後で事故とかが起こって、それで死んでしまった方には渡さないとかで良いんじゃないですか? そうすればほら、全滅させてしまえば無料で使い放題です」


「サリナお前悪魔かっ? いや悪魔か……しかしそっちの方向も考えておかなくてはならないな」


「勇者よ、女神であるこの私の前でそういう悪い話をするのはやめなさい、この者共に下賜する食糧は私の方で用意しますから」


「さすがだっ、じゃあ安っすいので良いからさ、包装だけそれっぽくして凄く価値があるように見せかけておいてくれ」


「それを渡せば大満足でしょうねきっと、次も同じ感じで働いてくれそうです」


「で、最後の最後は大事故でドカンッと……保険も掛けておくとなお良さそうだな」


「あ、それならもうバッチリです、誰かが死んだら結構な量の神界通過が勇者パーティーに入ります、さっき労働契約するときに黙ってサインさせましたから」


「ナイスだミラ、じゃあもうそのままブチ殺してしまっても構わんな、どれちょっと……」


「やめなさい勇者よ、というか常識のあるキャラは……そうですか、ここには居ないということですか、それは仕方のないことですね……私が見ている他ないようです」


「チッ、鬱陶しい女神だな、まぁ良い、とっとと作業をさせようぜ、マジで早くしないとアレだからな」



 ということでかなり増強された人員のもと、凄まじいペースで明日のバトル会場の建設が進んでいく。

 それはもう町の神界人間全員が参加しているのではないかと思えるぐらい、活気に溢れまくった現場であった。


 そしてその現場の横で俺達は、明日もし精霊様がアレであった、というか精霊様だけでなく参加者の5人が敗北を喫しそうな雰囲気を醸し出し始めた場合の策を練る。


 俺と女神で考えてもどうしようもなかった、悪魔のような考えが次から次へと出てくるのは、きっとメンツがこういうことにマッチしているからだ。


 敵の親玉である豚野郎使いを座らせた玉座が大爆発を起こす、しかもその後、爆風に煽られたそれが落下して来る場所で受け止めるのは三角木馬にしてしまうことが決まった。


 また、直前まで滞在させる控え室にも、かなり遅効性の毒を仕込んだ菓子類を置いておいて、バトルの終盤になったら突然効いてくるようなタイミングにしようということにもなる。


 その他ほぼほぼ悪戯レベルの仕掛けも合わせて、数え切れないほどの『こちらが有利になるシステム』を開発し、あとはそれを設置するのみとなった。


 工事の完了はまだまだ先であるが、要所要所で大掛かりな仕掛けについてそこの工員に指示し、最初から組み込んでいくスタイルでどうにかしていけば早いであろう……



「え~っと、あとは……もうこんな感じで良いかしら? 勇者様、とにかくこの設計図ですね、敵側の色々な部分がアレになるようなアレを設計した書類ですから、作業している方に渡しておいて下さい」


「面倒臭せぇなぁ、だがまぁ、これだけで終わるというのであれば万々歳といったところか……」


「あとは造る方がちゃんとしてくれればそれで大丈夫だと思います、期待しておくこととしましょう」



 そこまで期待しているとそれを裏切られたときのショックが大きくなってしまうのでアレなのだが、ひとまず設計図をその辺のおっさんに渡し、俺達はもう現場を離れることとした。


 募集した人員がメインになって仕事をしている以上、そこまでハードな監視をする必要もないし、あとは定期的に建物の窓などから進捗を眺めていればそれで良い。


 そう考えた俺達は、少ないメンバーの中で十分に堪能出来そうな食料を買い込んで。本拠地にしている建物の俺達の部屋として使っている場所へと向かい、そのままその日を終えたのであった……



 ※※※



「……そろそろ精霊様達も動き出している頃だろうな、おい女神、転移ゲートを用意しておけ、相手も女神だがそれにそんなものを使わせるのは『失礼』に値することだからな」


「罠に嵌めようとしながら何を言っているのですかこの勇者は……ですが承知しました、すぐに転移することが可能なよう取り計らっておきましょう」


「頼んだぞ、で、会場の方は……だいぶハリボテ感があるがまぁまぁ仕上がっているようだな、そのうちに崩れそうでもあるが」


「良いんじゃないですか? そもそもこんな巨大な箱モノが、ずっとこの場所にあったら凄く邪魔ですから」


「まぁ、それもそうだな、それでえっと……向こう側が罠を仕掛けたサイドか、気を付けて間違えないようにしないとだな」


「少し前にも似たようなことがあって……今度は私が加害者になってしまいそうですね……」



 などという話をミラとしつつ、会場の視察とそれから出店する屋台の確認、あとは会場に集まり始めている客の動向などを見るために周囲を回ってみる。


 確かに観客席などは急拵えのようで、もし満員の観客が暴動でも起こしたりしたら……とまぁ、それは暴れる方が悪いということで決着しそうだな。


 肝心なのはバトル会場の方であって、そこが崩壊したりその他おかしなことにならなければそれで良いのだ。


 そちらも念のため確認してみたのだが、まぁ、素人目で判断して大丈夫であろうといったところで……もちろん建造したのも搔き集められた素人なのであるが、とにかくタイル張りの平らな場所が形成されているのでOKである。


 あとは両サイドの『女王様』であって『雌豚使い』である敵と精霊様が座るべき玉座だ。

 ここには様々な仕掛けがあるゆえ、それが見え見えの罠になっていなければ大丈夫。


 パッと見そのようなことはないようだし、しかkりと規定通りの位置に、何となく長い鞭を振ればバトルステージに届きそうなぐらいの距離に設置されているようだ……



「これならバトルへの介入も可能ってことだな、どういうバトルが繰り広げられるのか見当も付かないが」


「というか、自分側のキャラを鞭打ちしそうですね両者共に、特に精霊様はそういう感じですし普段から」


「まぁ、それはそれで良いとしようぜ……っと、何やら動きがあったみたいだな、変な力を感じたし、ユリナ達が向こうへ走って行ったぞ」


「いよいよ来たみたいですね、私達も一旦そっちへ行って、『お出迎え』なんかしておいた方が良いでしょう」


「あぁ、じゃあしょうがないから行ってやるとするか……」



 滞在していた町からこちらへ移動して来たらしい精霊様と敵のチーム、もちろんこちらは盛り上げ役の雌豚およそ100匹を伴っているのだが、向こうは代表の5雌豚のみらしい。


 すぐにこちらの盛り上げ役の姿が集まっていた一般客の目に留まり、エッチなショーだと聞いて見に来ていた酔っ払い共が盛り上がり始める。


 そこを制止するため、市長の娘や仮免天使を始めとしたいくらかの雌豚に、『試合前に騒いだら神の名の下に殺す』という内容の看板を持たせて巡回させておく。


 これで少しは大人しくなるであろうが、それでも騒ぐ奴が居るはずだから、もし実際にそれが動き出した際にはこちらもしかるべき措置を取ろう……



『……それで、私達はどこで待機すれば良いというのだ? もちろん神をもてなす最低限の設備は用意してあると思うが、早く案内せい』


「へへーっ、ささっ、どうぞこちらにっ、茶菓子なんかすっごく用意してありませんで、へい」


『むっ? どうしてこの豚野郎以下の生物の案内を得なくてはならないのだ? もう少し真っ当な、最低でも一般的に人間と認められるべき者に取り換えよ』


「……そ、そう仰らずに……ブチ殺すコイツ……いえいえ、あなた様にぶっちぎりで恋してしまったという内容の独り言でして」


『ほう、その風体で独り言を吐くだけの知能を有しているとは、生命の神秘であるな……よかろう、では案内するが良い』


「へーいっ、じゃあこちらへどうぞ~っ」



 この場でブチ殺してやろうかと思ったのを何とか堪え、後ろで『ご主人様我慢し得て偉いっ!』などと褒めてくれるリリィには挙手の礼をし、敵を罠だらけの控室へとご案内する。


 本来であればここで一撃喰らわせて、卑怯だ何だと言い張るところを暴力で黙らせて……というところであるが、今回はそうするわけにもいかない。


 キチンとこちらの正当性を保つために、勝負をして勝った負けたでいうことを聞く聞かないの話に持ち込まないと、どう考えてもこちらが悪役になってしまうためだ。


 もちろんこちらで仕掛けた控室やバトルに際して座って頂く玉座の仕掛けはバレていないし、何か指摘を受けたとしても、それは設計ミスだとかそういう仕様だとかで誤魔化してしまえば良い。


 よって後はもう精霊様と5人の選抜雌豚の実力次第になるのだが……その前に敵の雌豚の様子を確認しておきたいところでもあるな……



「ミラ、すまないがちょっと付き合ってくれ、敵の『選手』について良く見ておきたいんだ」


「わかりました、更衣室を覗くというのであれば、その勇者様の姿を後ろから観測して犯罪の証拠にします」


「人聞きが悪いっ!」


「あいたっ、拳骨はダメですってば……でもまぁ、とにかく行きましょう、あの敵の神様とは別の部屋を用意してそこに押し込んでおきましたから」


「うむ、バトルエリアのすぐ横だな、反対側の同じ構造の場所にはセラ達が入っているんだ、精霊様は……もう玉座に就いて準備してんのか、そうかそうか」



 このまま放っておいてもすぐに登場するのであろうが、それでも敵の雌豚は1匹ずつ繰り出されるのみというルールとなっている。


 それゆえ全部を確認するにはこの開始前の時間を使って、先に偵察を済ませておかなくてはならない。


 ミラと2人ですぐに敵陣側へ移動して、選手控室というか完全に牢屋状態のその部屋を覗き込もうとしたところで……どういうわけか先程案内した敵の神が、その部屋から立ち去って行くのが見えた。


 最後の打合せでもしたのであろうか、だがそれにしては控室の盛り上がりがなかったというか、叱咤激励したような雰囲気もなかったように思える。


 そもそも敵の豚野郎使い、いや今回に関しては雌豚使いとなるのか、それが神であるというのに、最初から一貫してそれらしいオーラを感じないのは不自然なことだ。


 もしかすると敵には何か秘密があって、そしてその秘密に関して、わざわざ神が薄汚い雌豚の控室などにやって来て話をしていたのかも知れない。


 だがそんなことは俺達にとって関係のないことであって、今はただ、ひたすらに敵の様子を確認するのみで……と、少し離れた場所から鉄格子の隙間を通して中の様子が見えそうだな……



「よしっ、ひとまずここから見ることとしようか……ちゃんと5人、というか5雌豚存在しているな?」


「えぇ確かに、まずは……ちょっと待って下さい、かなり強い力を感じませんか? 抑えているというのに抑え切れていないというか……」


「うむ、本来ならこの力があの雌豚使いの神の残滓になるんだろうが……奴が残して行ったとは到底思えない感じだな」


「間違いなくあの5雌豚のどれかから発せられていますよこの力は、それと、あの雌豚正座しているとそっちの壁にもたれかかっている雌豚、それは違うみたいですね、明らかに別の強い力を放っています」


「となると残りの3雌豚のどれかだってことか……このまま近付いて行って話し掛けてもきっと答えたりはしてくれないだろうからな、判別は諦めるか」


「そうですね、そんな無謀なことをするよりかは、すぐに戻って精霊様にこのことを伝えた方が良いと思います」


「だな、もしかしたらとんでもなく強いのが……ってまぁ、そういう感じのバトルをするわけじゃないと思うんだが、それでも念のため伝えておいた方が良いな……」



 敵の中に紛れ込んでいたとんでもない力の持ち主、しかもかなりカバーされているというか隠蔽されているというかで、それがどの雌豚から放たれているのかを知ることが出来なかった。


 直ちに戻った俺達はそのことを精霊様にも、それから控室で無駄に遊んでいたこちら側の選手にも伝達しておく。


 おそらくその敵が繰り出されるのは最後になるであろうと、しかし勝ち抜きした場合にはこちらの選手が変わらないことから、誰もがそれと戦わされる可能性があるということ。


 また、こちら側の『雌豚大将』であるルビアが逸れに敗北するようなことがあれば、即ちこちらの負けであるということを良く言い聞かせたのだが……誰も緊張感を持ってくれない。


 余裕があるつもりなのか、それともイマイチ勝つつもりがないのか、どちらかはわからないが本当に用心して欲しいところ。


 特にルビアにはそう言い聞かせていたところで、遂に選手団入場の合図が鳴り響いたのであった……



「じゃあ行って来るわね」


「おう、マジでちゃんとやってくれよな、マジでだぞ」


「わかっているわよ~っ」



 本当に大丈夫なのかと疑いたくなるような軽い雰囲気の中、代表者達は控室を出て外のバトル会場へと向かった……

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