1182 豚集め
「……ということなんだ、お前等にはもちろん協力して貰うことになるんだが、それ以外にも100匹程度の雌豚を収集したい……もちろんギリギリ死んだりはしない程度に留めておくように頼むから安心しろ」
「いえ普通にイヤなんですけど私達……強制ですか? もし人数とか凄く集めて来たら免除とか……ないんですかそうですか、恐ろしいですね……」
「まぁそいうことで頼んだぞ、センスのある奴を片っ端からピックアップしてここに連れて来るんだ、100匹ほど集まったらそれで募集を停止するから」
「ちなみにいつまでとかの期限はあるんですか?」
「……どうしようか……1時間以内だな、それ以上の時間を要するようであれば、お前等は無能キャラとして酷い刑罰の対象とする」
「……わ、わかりました」
「うむ、じゃあカレンとリリィでここを監視しておいてくれ、もし逃げ出したり、ダラダラしているようならすぐに通報するんだぞ」
『はーいっ』
「そんな無邪気な感じの方々に見張りをさせるのはその……いえ、何でもありません」
敵の豚野郎使いに対するアピールのための人員、というか雌豚員、それを掻き集めるのは簡単なことではないと思うが、自分で作業をするわけではないので問題はない。
見張りの2人を残して、ついでにその2人のためのおやつなどを見繕って届けたりもしてから、俺は精霊様が『エース級雌豚』を『調教』している場所へと戻った。
ボロボロの庁舎の地下から、いつも王都の屋敷でそうしているような音がビシバシと聞こえていることからも、精霊様達がそこに居ることはもう疑う余地がない。
ちなみに女神はとばっちりを受けないために、仁平は普通に本拠地の管理をするために、この町を去ってゴッド裁判所がある町へと戻ったとのこと。
俺達もそのうちに、もちろんここで選抜した雌豚軍団を伴ってそこへ戻らなくてはならないな。
敵を迎え撃つのはやはり本拠地が良いし、せっかく復興し始めたこの町をもう一度破壊するのもまたアレだ。
で、そんなことを考えつつ地下の一室へと向かうと……やはり精霊様が選抜した5人、つまりセラにルビア、マーサにマリエルにジェシカという、いつものドM達が調教されていた……
「ほらぁぁぁっ! 腕立て伏せあと50回! ルビアちゃん! へばっていると蹴飛ばすわよっ!」
『ひぃぃぃっ!』
「何で腕立てやってんだよこの連中は……面白いのか?」
『おっ、面白いですっ!』
「そこっ! 腰が落ちているダメ王女には鞭よっ!」
「ひぎゃぁぁぁっ! ごっ、ご指導ありがとうございますっ! もっとぶって下さいっ!」
「・・・・・・・・・・」
てっきりもっとエッチな感じで調教しているのかと思いきや、5人が5人共腕立て伏せをさせられて、へばりそうになったときには精霊様の鞭が飛ぶというようなスタイルであった。
こんなところで体力を付けて何になるというのか、ちなみに普通の腕立て伏せではなく、全員にはその元々のパワーに応じた『重石』が、魔力を使う形で乗せられているようだ。
そんな中で最も体力のない、そして根性もないルビアはボロボロで……もはや衣服が完全に裂け、背中と尻が丸出しになった状態でヒーヒー言わされているではないか。
で、こんなことをさせていても時間の無駄であるということ、それから今は別の部屋で夕飯の私宅でもしているのであろうミラが、皆の服が破けたことに関して怒りそうであることを精霊様に告げてその『トレーニング』を中断させる。
ここからはまともに『調教』をすべきだということで、まずは5人全員に正座させて……いや、そもそも何をしたら良いのかまるでわからないではないか。
敵が用意した、敵の精鋭である雌豚軍団と戦うにしても、その雌豚がどんな攻撃でこちらの雌豚を攻めてくる、いや責めてくるのかがわからない。
しかも強さ的にこちらを上回るようなことはないのだから、むしろこの5人が、相手の雌豚に怪我を負わせたりしてしまわないように注意すべきではないのかといったところだ。
であれば、腕立て伏せをして戦闘能力? を鍛えるよりも、むしろ受ける方を鍛えて、こちらがノーダメージで敵の責めを切り抜けること、そして攻撃に関しては、弱く優しく安全な方法で無力化してやることを追求していくべきであろう……
「……ということでだ、お前等この雌豚共、ここからは『やられる方』の練習をさせるぞ、準備をしろっ」
「勇者様、準備とは具体的に何をすれば良いのですか?」
「そうよっ、ちゃんと教えてくれないとわからないんだからっ」
「じゃあそこのウサギと王女、生意気な態度を取るお前等はお仕置きだ、こっちに来て尻を突き出せっ」
「へへーっ! 仰せのままにーっ……ほらマーサちゃんも」
「あっ、へへーっ、わかりましたーっ……みたいな?」
「お前等ちょっとアレだな、まだ雌豚感が足りていないな、ほらっ、いつもみたいに尻を叩かれて喜べっ」
「あいたっ、だって豚じゃなくてウサギだもの私……ひゃんっ、ちょっと痛すぎっ、いでっ、ひぃぃぃっ! ごめんなさいっ!」
「許して欲しくば豚であることを認めるんだな、この雌豚がっ!」
「ひゃぁぁぁっ! ぶっ、ブヒ……って感じで良いのかしら?」
「声が小さいっ!」
「ブヒィィィッ!」
などと遊んでいたところ、外で雌豚集めの監視をしていたカレンとリリィが走ってやって来た。
あれからまだ30分程度しか経過していないのであるが、どうやら100程度の雌豚が集まってしまったらしい。
これはよほどあの仮免天使と市長の娘が優秀であったか、或いは立候補者、つまり自他共に認めてしまいそうな相当なドM雌豚が多かったかのどちらかだ。
まぁ、おそらくは後者なのであろうが、とにかく集まっているということであればそれで問題ない、すぐにそれを伴ってここへ来るよう命じてくれということで、カレンとリリィには再度現地へ向かって貰った。
しばらくするとぞろぞろと、本当に100程度の足音がこちらに近付いて来る音が聞こえる……整然と歩いているようだな、しっかりと指示に従う、有能な雌豚ばかりなのかも知れない。
そう思いながらそちらを見てみると、何やら開会式における選手団の入場のような、仮免天使と市長の娘を先頭にして、キッチリ二列縦隊で並んだ女共の姿を認める。
なるほどどいつもドMの才能がありそうな顔をしているな、ところどころに見えるのは、これから調教して貰えると知ってかなり興奮したようすの雌豚。
これであれば精霊様の力を十二分に発揮して、すぐに伝説の雌豚使いとしてこの神界に名を轟かせる事が出来そうな感じだ……
「ぜんたぁ~いっ、止まれっ……気を付けっ! あの、連れて来ました、人数はこのぐらいで良かったでしょうか?」
「あぁ、にしても早かったな、立候補者がそんなに沢山居たのか?」
「えぇ、そんなはずはないと思ったのですが、まさかの大人気ですぐに枠が埋まってしまって、少しばかり100をオーバーしているような気もしますが……何でこんなに集まったんでしょうか?」
「それはこっちが聞きたいぞ、これから恐ろしい精霊様に鞭でシバき倒されるってのに……あ、やっぱりドMばかりみたいだな……」
「報酬に釣られてやって来たとかそういう感じじゃないみたいね、そもそも報酬なんか提示してないか……で、あんた達! すぐにこっちへ来て……そうね、番号札を首から提げなさいっ!」
『はい喜んでーっ!』
「うわっ、変態ドM雌豚共の波に飲まれるぞこのままじゃ……精霊様、俺達は上で待っているから、この100オーバーの雌豚を、何か目立つショーが出来るようになるまで鍛えておいてくれ」
「わかったわ、何の恥じらいもなく素っ裸で組体操をする哀れな豚ぐらいにはしておくから、3時間程待ってちょうだい」
「たった3時間でそこまで人間じゃなくなるのかよ……」
何やら恐ろしい計画が進行しそうな予感ではあるが、それは精霊様のやることなので特に文句は言わないし、言ったところで何かが改善されるようなこともないであろう。
ひとまず『エース』の5人、いや5雌豚を連れて建物の上の階、比較的綺麗で宿泊も十分に可能な広い部屋へと移動した。
今日からはしばらくここを使うこととしよう、そうすれば他の仲間も一緒に滞在して、訓練をするこの雌豚共にダメ出しをしたりすることも出来るのだ。
それから、ちょうど窓があって外の様子を、特に広場に集まったままの隣町連中の様子を見ておくことが出来る場所だというのもまた良い条件である。
早速その窓から外を眺めてみると……うむ、命令の伝達のために出て行ったきり戻って来なかったカレンとリリィが何かしているようだな……一緒にユリナとサリナとエリナ、悪魔3人娘も居て、どうも上を見上げているようだ。
一体上に何があるというのか、そう疑問に思って俺も窓から見上げてみたところ、太陽を覆い隠していた巨大な雲が、良く見ればどうにも不自然な気がしなくもないということを感じたのであった……
「なぁセラ、ちょっとこっち来て、あの雲を見てくれないか? ほら、真上のでっかいのだ」
「雲がどうかしたの? 確かに今日は神界にしては珍しく曇っているみたいだけど、この真上の……本当におかしな雲ね……でもこのままだと流れてどこかへ行ってしまうわよ、ほら、空の上は風が強いみたいで……あら?」
「どうした? 何か追加的におかしなところでも発見したのか?」
「えぇ、もしかしてほら、あの雲の隅っこに見えるのって……」
「う~む、俺には何も見えなんだが、目が悪いからなちょっと、何があるかザックリで良いから教えてくれ」
「豚野郎よ、きっとあのビジュアルは豚野郎だわ、雲の端っこから豚野郎が下を覗いているのよ」
「あぁ、本当に豚野郎ねアレは、間違いないわ……っと、引っ込んで行ったわよ」
「代わりに誰か出て来ましたね……今度は雌豚の人みたいです、どうして雲の上に豚野郎とか雌豚の人が居るんでしょうか?」
「雲上の豚野郎か……もしかしてあの雲、その何だ? この町の労働者を連れ去ったっていう豚野郎使いの女神が乗っていて……みたいなことってないか?」
「多いにあると思うぞ、というかその可能性が極めて高い、問題は今ああやって地上を覗いて、何を企んでいるのかがわからないということだがな、ちなみに私の予想だが、新たに隣町の労働可能なキャラが連れて来られたのを知って、それをまた連れ去ろうとして……と思うのだがな」
「なるほど、あの雲に乗った豚野郎とか雌豚に様子を見させて、それで使えそうな奴が多いようならまたこの町に神がやって来るってことだな」
「ちょうど良いわね、もしもう一度その神様がこの町へ来るなら、そこで精霊様の雌豚使い感をアピールして挑発するのは簡単よ」
「あぁ、そのチャンスがどうやら巡ってきそうだな、お前等もまともに『ゲーム』が出来るようにしておいてくれよな、まぁ、何をすることになるのかはわからんが」
『うぇ~いっ』
そのまま巨大な雲は飛び去ってしまい、神界の町はいつものように穏やかな日差しを浴びて輝き出したのであった。
きっと今回の偵察では、連れて来られた労働者共がどの程度まともに働いているのかなどを確認し、豚野郎使いの神の報告しているのだと思う。
もちろん隣町の連中はこれまで似非エリート神から優遇されていた分、栄養状態も非常に良くて、あとしばらくはこのまま飲まず食わずでも生存しそうなぐらいの屈強さである。
だがそんな者でもしばらくすれば弱り、すぐに土に還っていくこととなってしまうため、もし豚野郎使いがそれを豚野郎にすべく回収したいというのであれば、可能な限り早いうちに行動しなくてはならない。
豚野郎使いがそのことをわかっていないような馬鹿であることは考えにくいから、おそらく数日中、いや明日ぐらいには行動を起こしてくるのではないかといったところだ。
そこでこちらの準備が間に合っていれば、精霊様があのモブ雌豚軍団に立候補した女共を上手く扱い、平気で全裸組体操をするような大馬鹿者に進化させていれば、神とてその実力を認めなくてはならないであろう。
そして豚野郎使いの神としてのプライドと、精霊様のいい加減でどうしようもない意地の張り合いの中で、上手く相手をこちらの用意した勝負に誘い込むことが出来れば……あとはもう、ここに居る5人の頑張り次第である……
※※※
「……ということなんだ、俺達が窓から見ていたときに、雲上の豚野郎が地上を偵察していたんだよ」
「何で1匹ぐらい撃ち落しておかなかったのよ? そうすれば情報が手に入ったかも知れないのに」
「まぁ、雌豚は撃ち落して怪我でもさせてしまえば大事だし、豚野郎をわざわざ回収して、それを拷問して情報を……なんてしたくはないだろう? むしろ喜んで気持ち悪いだけだぞ」
「まぁ、そうかも知れないけど……で、そうなるとその雲の上の連中、しばらくすればここに来るってことよね?」
「そうだ、その可能性が極めて高いから、それまでにこの連中を仕上げておくんだ、というかもう何か凄く仕上がっている感じには見えるけどな」
精霊様の前に並んでいたのは、市長の娘と仮免天使をリーダーとしたほぼほぼ素っ裸で、しかもエッチな縛り方をされた雌豚の集団であった。
しかも何やら紅白のチームに分かれているらしく、市長の娘が赤チームを、仮免天使が白チームを率いているような雰囲気だ。
こんな状態で運動会でもしようというのか、それともまた別の意図があってやっているのかなど、気になる部分はいくつもあるが、それを今聞いても教えてくれるようなことはなさそうでもある。
で、この状態の雌豚軍団を、さらにブラッシュアップしてどうのこうのと言っている精霊様に、とにかくあの雲が、雲上の豚野郎を擁する敵のマシンと思しき何かが再来した場合には、すぐに出て対処して欲しいとだけ伝えておく。
それまでにはどうにかすると、何をどうするのかわからないし全く根拠のない自信あり気な態度を見せ付ける精霊様と雌豚軍団であるが、面倒なのでもう適当に合わせておくこととしよう……
「じゃあ頼んだぞ、俺達は引き続き上でまた雲が掛かるのを待っているから、まぁ、そんなにすぐに来るとは思えないがな」
「えぇわかったわ、じゃあ皆! もう一度通しでやっていくわよっ! 整列!」
『へへーっ!』
「・・・・・・・・・・」
「行きましょうご主人様、何かここに居ると熱気に飲み込まれそうです」
「だな、俺達はうえでまったりして、夕食の支度が終わるのを待って……と、皆戻って来たのか、お~いっ」
地下から地上へ上がった際、ちょうど建物の中へと戻って来た外の仲間達、カレンとリリィと、それから3人の悪魔である。
この5人は外であの雲の様子を眺めていて、当然俺達よりは距離があったのだが、目が良いリリィは俺達よりも遥かに多くの情報を得ていたに違いない。
問題はそのせっかく得た情報を伝えるための知能を有していないということなのだが、まぁ、何も聞かないよりは良いと思うのでその話題を振っておくこととしよう……
「なぁ、さっきの見ていただろう? どうだったんだ実際? あの雲の上に居た連中はどんな動きをしていたんだ?」
「えっと、最初のキモいおっさんがこっち見ていて、それで何かに気付いたみたいに戻って行って、そしたら代わりに女の人が来ました、で、めっちゃこっち見てました」
「ふむ、その女はアレか、最初のキモい豚野郎に呼ばれてやって来た感じだったのか?」
「だと思います、同じような格好だったけどちょっと何か偉いっぽい雰囲気の人でしたから」
「なるほど……つまり豚野郎は下っ端で、その後に出て来た雌豚は上司ということか……」
「その、豚の中にも上下関係があるんでしょうか? もしかしたら雌豚の方は雌豚じゃなくてもっと偉い幹部だったとか?」
「まぁそういうこともないとは言えないな、クソッ、このタイミングで仁平とか女神とかが居ればまたわかることも増えるんだろうがな」
「仕方ないですよ、今回は私達だけでどうにかするしかありません、いざとなったら女神様も事態を嗅ぎ付けて下さるとは信じていますが」
「だと良いんだがな、とにかく上へ行って……と、その前に食事の準備を手伝おう、どうせミラは監督しているだけだと思うがな」
すぐ近くの厨房から途轍もなく良い匂いが漏れ出しているということ派、別に鼻が良いわけでもない俺にもすぐにわかることであった。
様子を見に行くと、ミラが偉そうに椅子に座って監督をし、適当に掻き集めて来たらしい女共があくせくと働いて俺達の夕飯を作っている。
もちろん何か悪意をもった行いをされても困るので、完全に目を離してしまうわけにはいかないのであるが、それでも監視は1人で十分と、むしろ抓み食いをしそうな仲間は邪魔であるとの見解を示すミラ。
まぁ、もう完成間近であるから、あとは配膳して俺達が食して、余った野菜クズや皿に残ったソースなどを、町の人間や隣町の連中のうち女性キャラにのみくれてやるといった感じの流れで良いであろう。
精霊様はまだ集めた豚の調教を頑張っているようだが、こちらは敵が来ない限り通常の生活をしてしまっても問題はないはず。
どうせこの流れだとすぐに、またあの雲が上空に出現するなどして騒ぎになるだから……
「よっしゃ、今日はもう寝るからな、精霊様は……まぁそのうち戻って来るか、はいおやすみ」
「私も何だか疲れたから寝よっと、ミラ、お布団敷くわよ」
「は~い、ちょっと待って~っ」
などと平和な感じで床に就いたのであったが、翌朝目が覚めると窓の外はどんよりとした曇りの、明らかに昨日のそれを同じ空が広がっていた。
これはもう『来ている』ということで良かろうか、まだ寝ている仲間も居る中で、何人かが窓の外を見て……上ではなく地上の様子を眺めているようだ……




