表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
1278/1360

1177 化けの皮が

「それじゃあこれで……いったみたいだな、鏡は……おぉっ、なかなかデカいサイズになったぞ、壁に張り付いているようなアレだ」


「これなら誰かの全身を映し出すことが出来そうね、もちろんあの神も」


「機能的にはどうなのでしょうか? 一度テストしてみなければなりませんね」


「確かにな、どれ、俺の姿を映して……何も変わらない俺だな、今の俺が真実であるから映される姿も変わらないのか」


「でも勇者様、この下に付いているツマミみたいなのを右に……あまり変わらないわね、でもちょっとだけ貧相な見た目になったというか老けたというか」


「どういうことだろうか……なんだこの表示? 1年後? つまり今映っているのは1年後の俺の姿で……」


「全く成長しないどころかちょっとショボくなっているじゃないの、残念なことね」


「クソッ、叩き割ってやりたいところだぜ」



 鏡に映し出されるのは今の真実の姿であるが、下の方に付いている小さなツマミで調整すると、なんと1年後の真実の姿まで確認することが可能になった。


 何とも言えない謎機能なのであるが、これをどうにかしてあの似非エリート神の討伐に役立てていかなくてはならないところで……いや、どうしろというのだ一体。


 だがまぁ、とにかくこうなってしまったものはもう仕方ないとして、やれるだけのことはやっておくべきである。


 よってすぐに近くの女共に命じて鏡の運搬をさせることとしたのだが、これがまたなかなか重たいらしく、かなりの人数を必要としてしまう。


 仕方ないので一旦上階まで運ばせ、今度はそこに居る野郎のゴミ共を使って、地上までの長い道程を移動することとした。


 野郎共は先程自分達のリーダーが一撃で延されて、そして戻って来ないということは殺されたのであろうということを理解しているため、特に反抗的な態度で臨んでくるようなことはなかったのだが……むさ苦しいのでこの仕事が終わったら死んで欲しい。


 で、そんな感じでどうにか鏡をシェルターから運び出した俺達は……やはり膠着状態のままの広場へと到着したのであった……



「あらっ、鏡の何とかは成功したのね、見せて見せてっ……大きくなっただけじゃないの、1年後? そんなの変わるわけないじゃん」


「マーサはさすがに変わらないだろうけどよ、見ろよ俺とかほら、ちょっとだけ老けてさ……ジェシカ、逃げていないでこっちに来たらどうだ?」


「やめてくれっ、その凶悪なアイテムをしまうんだ今すぐにっ、というかそんなことよりもマリエル殿をっ」


「おっとそうだったそうだった、お~いっ、鏡が進化したぞ~っ、何に使うかはわからんがな~っ」


「勇者様、それはあの固定砲台と併せて使うのではなかったんですか? そのまま使っても……ちょっと、軽いノリで1年後の私を映さないで下さい」


「すまんな、ちょっとやってみたくなったんだよ……で、そういえば固定砲台なんてものもあったんだな……またあそこまでコレを運ばなくちゃならないのか……」


「それに関しては問題ないわよぉ~っ、だってほら、あの窓からレールが伸びて、兵器の方ををこっちに持って来られるようにしたのぉ~っ」


「いつの間にか列車砲になってんじゃねぇかっ」



 そちらを見たところで何かの装置が作動し、普通に以前居た世界で使われていたようなレールが、固定砲台のある部屋からグイグイと伸び始めた。


 しばらくするとそれが広場の、俺達のすぐ後ろまで伸長し、次いで窓から現れたのはあの兵器、バラバラにされてしまった残雪DXが組み込まれ、そしてエリナが閉じ込められたままの兵器だ。


 ダァーッと、本当にトロッコか何かのようにやって来たその砲台には、どう考えても予め鏡をセットする場所が用意されている。


 パラボラアンテナのような発射装置が目立ちすぎて気付かなかったのであるが、とにかくそこに、そのアンテナの裏側の良くわからない所に鏡をセットする仕組みらしい……



「え~っと、この盃みたいなのがあって、これが横になっているから……その裏側に鏡の表面が密着するように差し込みます……っと、わかりにくいわねこの取説……」


「適当に弄り回して作った兵器に取説があること自体おかしいと思った方が良いがな、で、そんな裏側に鏡をセットしてどうするんだ?」


「この盃の先端のここ、良く見ると穴が空いていますの、ここに集中した魔力とか何とかが、裏側にある鏡に伝わって何か反応するみたいな? どうですのエリナ?」


『コクピットからは鏡に映った景色が見えていて、それから……良くわかんないわよこんなの……』


「まぁ、そうなりますわよね……ひとまず試してみるのが良いですの、サリナ、コレの射線を開けて貰って来て」


「は~い、マリエルちゃん、ちょっと良いですか? そこ、そこ危ないかもです、移動して……あ、そこなら大丈夫です」



 マリエルには少し横に避けて貰い、先程飛来した例の何かによって回復され、復活して粋がっている状態の似非エリート神にパラボラアンテナのようなものを向けた。


 それがどういうものなのかは理解していないのであろう、また新たな攻撃がどうのこうので、だがそんなモノで自分を消し去ることなど出来ないなどと宣っている。


 そして動くことなく、まるで回避する様子もなく真正面に捉えられた似非エリート神は、おそらく現在の姿が射手のエリナの手前にあるモニター? に写し込まれているのであろう。


 その様子を聞くべく、コクピットに近付いて無理矢理に窓のようなものをこじ開け、どうだと声を掛けてみると……中のエリナはかなり困ったような顔をしていた……



「ちょっとこれ、最初は良かったんです、あの神様がちゃんと映っていたんですよ」


「映っていた……ってことは今はもう映っていないのか?」


「えぇ、顔はそのままだったんですけど、何だかみずぼらしい格好というかボロを纏っているだけというか……とにかく色々見えてキモかったんです」


「なるほど、ボロッボロのポンコツなのがあの似非エリートの真実の姿で……それがどうして映らないことになったんだよ?」


「えぇ、ちょっとそこ、横から見て下さい、ほら、このツマミを右にやったら消えちゃって……戻してみても良いものなのかどうなのか」


「戻しても大丈夫なんじゃね? 一旦左に……そうだ、何か一気に元に戻ったな」


「ホントだ、さっきのボロボロ状態がこれです」


「じゃあそれをゆっくり右へ……うむ、ちょっと動かしただけで痩せこけて……あっ!」


「えっ? 何かブチュッと潰れたぞ……死んだのか?」


「というか、処刑されたみたいな感じでしたね、もうちょっと右に……一旦墓が建てられたようです、罪人用みたいなめっちゃショボいのが、『裏切り者ここに眠る(大便禁止!)』って書かれていますね」


「さらに右へ動かしてみろ……墓が何者かによって悪戯されて……結局ウ○コされてんのか、で、最後は粉々に粉砕されたぞ」


「もうこれ以上は右へ行きませんね、土がこんもりしているだけです」


「てことはだな……かなり左へ、ストップ、そこだ、そのギリギリ処刑される前の状態に戻してくれ……見ろ、全身に『経歴詐称馬鹿』とか『よくも騙したなこのゴミ野郎』とか『死刑確定乙』とか書かれているぞ、これはエリートじゃないのがバレた後のコイツの姿だっ」



 現在の機能が色々とわかってきた、そしてその機能を使用した結果がどうなるのかなども比較的見えてきたように思える。


 おそらくこのツマミを動かし、例えば最後の、1年後の似非エリート神の姿である『土に還った』状態でこの兵器を使えば、攻撃を受けたその似非エリート神はその状態になると、おそらくそういう感じだ。


 だがここで殺してしまうのはあまり芳しいとは言えないし、そうなるとババァ神を不利にするための証言を得ることも出来なくなってしまう。


 それゆえここは生かして捕らえる、そして本体をボロボロというか時間が進行した、既にエリートの化けの皮が剥がれた状態にするのがベストである。


 その設定が完了した状態で改めて狙いを定めても、それによって死ぬことなどないという絶対的な自信を持っているらしい似非エリート神は身じろぎさえしない。


 その代わりに両手を広げて、撃ちたければ撃てなどとデカい声で挑発をしてきて……ということであればお望み通り撃ってやることとしよう……



「やれエリナ、確実に成功するように、1発で仕留められるように、可能な限りの魔力をこの兵器にくれてやるんだ」


「わかりました、いきますよぉ~っ!」


「ねぇ勇者様、そこに頭突っ込んでいると勇者様も……」


「ん? 俺がどうしたって? 今大事なところなんだからちょっと静かに……あっ、えっ? しょぇぇぇっ!」


「あ~あ、灰になってしまいましたのご主人様」


「その辺の雑魚敵よりも頻繁に死んでいるような気がするわね最近は……で、発射準備完了じゃない、撃ちなさいエリナちゃん!」


「はいっ! じゃあもう絶対当たるのでとにかく発射!」


「フハハハッ! 何をしようとも真のエリートである我を殺すことなど出来は……出来……力が、神たる我の力がどこかに……時空の狭間に消え去っているのかぁぁぁっ⁉ 何なのだコレは? こんなことがあってたまるかっ!」


「効いて……いるようですっ、何かもういきなりエリートのオーラがなくなりましたっ! 今までのイケイケ感が全部ウソだったみたいに剥がれてっ!」



 余裕綽々で鏡を、そして残雪DXを取り込んだ兵器による攻撃を受けた似非エリート神は、すぐにそのことを後悔するフェーズに移行したようだ。


 何度かブッチュブチュに潰されて、その度に再生を繰り返してボロボロになっていたとはいえ、それでも気品溢れる態度、頭の良さそうなオーラなどは失っていなかった。


 だがそれも、攻撃の光に包まれると同時にシワシワと、まるで水分を失ってミイラになっていくかのように、似非エリート神から抜き去られていったのである。


 最後、残ったのは圧倒的な底辺感の漂う知らないおっさん、全身に落書きされ、所々に殴られたような痣があって……そういう部分にまで『未来の真実』が反映されることになるのか。


 で、そんな似非エリートの姿を見ているのは俺達だけではない、最初に、まだ本当に勝つつもりであった頃にコイツ自身が呼び出し、戦闘現場の片付けをさせようとしていた神や天使の連中も、同様にそれを眺めていたのだ。


 まさかの事態に驚いて……というほどでもないようだな、確かに俺達が、反ババァ神連合としておくが、それが使用した兵器の威力には驚愕している。


 しかし似非エリート神の化けの皮が剥がれ、特にこれといった理由やキッカケもなかったのにいきなりエリート感を失っているという現象に関して、特に何かを思っている者は居ないらしい……



『……やっぱり、エリート神様は本当のエリートじゃなかったんだ』

『だろうと思っていたよ、だってすっごく無能だし』

『経歴詐称テクだけでのし上がって、それで他者を扱き使っていたということか』

『最低、かねてより最低だと思っていたけどやっぱマジ最低』

『もうさ、何か知らんけどリンチして殺そうぜコイツ』


「あっ、はぁ~い待ちなさぁ~い、ハイハイちょっと待ってハイハイ」


『その声はホモだらけの仁平神様、どうしたのでしょうか? 我々はこの卑怯者を神として認めませんし、おそらく学歴フィルターも不正に気付いて消滅したことかと、なのになぜその処分を止めようとなさるのか?』


「それはアレよぉ~っ、もっと糾弾したいからよぉ~っ、ほら、この私が半日ぐらい必死になって集めた、今のこの神の状況を裏付ける資料がここにあるのぉ~っ、コレを使えばリンチとかじゃなくて、公的にこの神を抹消することが出来るわよぉ~っ、どう?」


『おぉっ、確かにそれは素晴らしいっ、では……うむ、ド底辺でこの5,000年の間に2万回の派遣切りに遭った現在無職の神である我も、あの忌々しき学歴フィルターの影響を受けることなくエリート神様……様は要らぬか、とにかく接近することが出来たぞ』


「すげぇな、四半期毎の更新で確実にお断りされてんのかコイツは……」



 ド底辺神の悲しい経歴はともかくとして、もうあの学歴フィルターは完全に似非エリート神の前から消え去り、誰もがそれに近付いて、罵詈雑言を浴びせたり殴る蹴るの暴行を加えたりということが出来るようになっていた。


 早速近付いて行って、これまでの恨みとばかりに似非エリート神を『糾弾(物理)』し始める神々や下っ端の天使共。


 町の片付けのためとはいえ、この連中にスコップだのツルハシだのを持たせておいたのは、似非エリート神が自らの首を絞める結果となった重大な判断ミスであったな。


 で、その周りを取り囲み始めた神々や天使らとは逆に、フラフラとした足取りでこちらに戻って来たのは、およそ30時間も1人で奴と対峙していたマリエル。


 さすがに疲れ切っているようだが、ルビアがバッグから出した謎の粉を火で炙って鼻から吸引すると、たちどころに元気を取り戻してむしろ少しハイになってしまったようだ……



「はぁっ……うん良い感じです、あの上空から回復魔法を投げてくる謎の飛翔体も、来るはずのタイミングで来ませんし、完全にこちらの勝ちでしょう」


「結局アレ、何だったんですかね? クリーチャーのようには見えなかったですし、幻術でバグらせて撃墜しようと網を張っていたんですが、普通にスルーされてしまってちょっとショックでした」


「わからんが、俺達は数回しか見ていないからな、ちょっと乗り物っぽい気がしなくもなかったが、詳細は……あの野郎が一番良く知っているだろうよ」


「あらぁ~っ、でももうボッコボコにされているわねぇ~っ、せっかくこの悪魔の子にお願いしてぇ~、あの神の学歴がないことを証明して貰ったのにぃ~っ、必要なかったかしらぁ~っ?」


「何だユリナ、仁平の調査を手伝ったのか?」


「資料をもとに証明しただけですの、本当にあの似非エリートの学歴が詐称で、言っていたような凄い学院を卒業していないということを」


「なるほど悪魔の証明か……今度そういうのがあったら俺も頼むかも知れないわ、で、それによって詰んだあの馬鹿の方なんだが……これからどう処理する?」


「勇者よ、ひとまず私達の拠点に運びましょう、隣町ではなくて、元々の本拠地へ色々と移動させるのです」


「それと、隣町の方も一応ケアしておかないとならないわね、あのままだと本当に滅びるわよ」


「それもそうだな、じゃあ一旦隣町に立ち寄って、それから本拠地へ戻ることとしよう」


『うぇ~いっ』



 似非エリート神の支配を免れた神々や天使の連中を一旦制止して、すぐにボロボロの雑巾のようになったその何かを、先程まではエリート感全開であった単なる馬鹿を移送する準備を済ませた。


 それから女神をこの町の住民が避難している地下のシェルターへと派遣し、そこに居る連中を圧倒的上位者という立場で従わせて外へと連れ出させる。


 抵抗を受けるようなことはなかったが、やはりこのままだと人生が終わるということを確信している町の神界人間にとって、これは終わりへと向かう移動だという事実が突き刺さっているらしい。


 代表者である市長の娘や仮免天使、それからその他大勢が青い顔をして、悲壮感を漂わせながら広場へと出て来た。


 もちろんその中には一部、利用価値を根拠として生かされているのではなく、隣町を攻めたことの責任者として処刑されるべき連中も……それは別口で移送しているのか。


 とにかく全てを、全員を一旦隣町へ連行することとしよう、そして一部、こちらで選抜した者を俺達の拠点へ、そして残りは隣町の復興、さらにこの町の再興のために使用することとしよう。


 そしてそのための作業は……俺達がやるのはさすがに面倒だな、せっかくなので神々と天使、似非エリート神の配下であった、そして今はフリーとなった連中に任せてしまうべきか。


 それを俺が命じても従ってくれるはずはないため、ひとまず仁平の口から通達させて駆り出しておく……



「では我々はこのクズ共の移送をしておく、ただ、直接連れて行きたい者が居るようであればそれだけは引き渡しておくが」


「あ、じゃあ市長の娘と仮免天使はこっちへ、この2人はそこそこ協力してくれたからな、特別に俺達の方で直接使用してやることとしよう」


「よかろう、ではギチギチに縛ってそちらへ引き渡す」



 ということで市長の娘と仮免天使を受け取り、どちらもこの後俺達の拠点で雑用係などして貰うことを通告し、それで納得したという返答も得た。


 帰りは女神のゲートを使ってまず隣町に立ち寄り、そこで次なる作戦を立てつつ移送されてくる連中を待つ。


 その処理というか配分というか、それが終わったら本拠地へ戻り、準備をした後にそこで決まった次の作戦を実行に移すこととしよう。


 ここではもう特に警戒することもないし、神専用の転移ゲートを乱用していることについては、さすがに個々に居る他の神々も目を瞑ってくれるであろうと予想し、その場から転移することを決定した……



「では行きますよ、まずは隣の神界人間の町へ、奪った庁舎の中へ転移します」


「……と、ちょっと待って、エリナちゃんとあの兵器はどうするの?」


「確かに、ゲートで転移したとしても、アレを丸ごと置いておくだけのスペースがないぞ」


「というか、あのボロボロの建物にこんなの入れたら床が抜けると思うのよね……」


「さてどうしようかといったところだが……一度バラして、残雪DXも鏡も取り出して運搬しようか……」



 結局すぐには転移することが出来ず、その作業を終えてからの移動となってしまった俺達であった。

 次はどのような作戦でババァ神を追い詰めるべきか、それもハッキリしていないままではあるが、ひとまずは戻って事後処理などをしていかなくてはならない……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ