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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1174 ブツは

「はいはいっ、ちょっと待って下さい、そこの天使様と、それから……異界の精霊様でしょうか? ちょっと、ちょっとこちらへ、あぁやっぱり」


「何なの急に呼び止めて、私達にどこかおかしい所でもあるわけ? ないなら行くわよもう、楽しみにしていた神界のオークション始まっちゃうじゃないのっ」


「いやそんなこと言われましてもね、ほらそこの人間奴隷の女、そう、執事っぽいサルがリード持っている奴、何かめっちゃ憑り付かれてんじゃないですか、困りますよこんなの連れ込まれちゃ」


「良いのよ、ほら、この子はちょっと粗相があったから、エッチな悪霊に憑り付かせてお仕置きしているだけなんだから」


「しかしですね、そんなモノが会場に入るなど前代未聞ですよ、最低でも上の許可がないと……」


「あの、私達はエリート神様配下の者でして、かの神の依頼でこちら異界の精霊一行をご案内していてですね……言っていることがわかりますか?」


「そっ、それは失礼致しましたっ! 申し訳ありませんっ、どうぞそのままお通り下さいっ!」


「フンッ、以後気を付けることだな、もう少し長生きしたいのであれば」


「……え? 何でこの執事のサルがいきなり出しゃばって偉そうにして……まぁ良いか」



 なぜ何の証拠を提示することもなく、案内係の天使のハッタリを信じてしまったのであろうかと不思議に思うのだが、それはこの入口の警備員が無能だからに他ならない。


 通常であれば、いくら高級な格好をした天使がそう主張したからといってすぐに信じてしまうものでもないし、最低でも身分証の提示等を求めるはずだ。


 まぁ、それがなかったということだけ見ても、今日のオークションは本当にどうでも良い出品ばかりで、そしてどうでも良い来客しかないようなしょぼくれたものになるのであろうということが推測出来る。


 ならば目的のブツをとっとと落札して、正体がバレて騒ぎにならないうちにこの町からとんずらしてしまうこととしよう。


 ということで会場に入った俺達5人は……と思ったのだが、案内係の天使と精霊様と、それから執事キャラになっている俺のために3つだけしか、座る場所が用意されなかったのである。


 とはいえ椅子の前はそこそこに広いし、他の客を見ていると魔物なのかクリーチャーなのか、それとももっと別の怪物なのか、とにかくそういったバケモノを連れて来ていて、自分が座る椅子の前に座らせているようだ。


 中には明らかな人間の女を、鎖で繋いで足元に転がしている豚のような野朗も見受けられるな……セラは今その転がされている人間のポジションということか……



「とりあえず座りましょう、えっと、不自然にならないよう、そこの2人は地べたにお願いしますが、構いませんか?」


「大丈夫だ、セラは自分からこうしたいと言ってきたんだし、カレンは……もう売り子のお姉さんしか見てねぇよ」


「わうっ、皮とぼんぢり、どっちも塩でお願いします」


「……ホントにそんなのが……まぁ、俺もちょっとは何か食べておくか」



 オークション会場へ入ってすぐにその場の空気に馴染み出したカレンと、高級な連中が集まる高級なホールで、明らかに球場売り子が居酒屋のようなツマミと酒を売っている光景に戸惑っている俺。


 気にしていても仕方がないのであるが、だからといって気にならないわけではないから、ひとまず注文したビールを一気に飲み干して忘れ易くすることとした。


 とはいえ、あまりガツガツ飲んで食ってをしている余裕もないか、目的物がどのタイミングで出品されるのかという情報はないが、さすがにそこまで後半とか、本日の目玉商品になっているというようなことはないはず。


 それまで待って、ついでに言うとそれまでの間にこのオークションの雰囲気を掴んでおいて……と、どうやら最初の賞品が運ばれて来るようだ……



『え~っ、お待たせ致しました、本日も張り切って官公庁オークションを始めて参りましょうっ、え~っ、初めての方も居られると思いますので説明しておきますと、当オークションは公のものです、神界の存在に相応しい、節度を持った参加を心掛けて下さい、他の参加者と揉める際には外で、勝利しても遺体はその辺に棄てず、キチンと処理してから何食わぬ顔でお戻り下さい』


「なぁ、普通にライバルの殺害を推奨しているような気がしなくもないんだが……気のせいじゃないよな?」


「えぇ、それぐらいは普通に起こり得ることでしょう、今回はともかく、普段は一点モノの素晴らしいものが出品されていたりしますからね、もちろん殺し合いなどするのは卑劣で薄汚い神界人間共だけですが」


「そこはそうだろうな、神や天使がこんなことで殺し合いなんて恥ずかしすぎるぞ……で、早速最初の賞品が……何だアレ?」


「わからないわね、モザイクが掛かっていて上手く認識出来ないけど、たぶん卑猥なものね、見たくもないわ」


「だがこれで周りがどう動くのかを観察しないとだからな……ちなみに金額の書かれた札を上げたりとかしなくて良いのか?」


「そもそも金額の単位ってどうなるわけ? そこからよね」


「あ、説明がまだでしたね、えぇ、金額は『1神界通貨単位』からその単位で刻んでいきます、ちなみに1神界通貨単位は多くの異世界で採用されている金貨1枚程度の価値ですね」


「凄いな、それだと俺が転移する前に居た世界の通貨単位で10万だぞ、それを基礎にするなんて」


「あぁ、どこかの神様が不換紙幣を使っているどこかの世界のどこかの国から多くの転移者を拾っているという話は聞きますね、資本主義の豚が支配していてその分だけ落伍者が多いので拾い易いと」


「概ね正解だが俺が落伍者の類であることをバラすんじゃないここで」


「失礼しました、で、その通貨単位でやっていくんですが、札とかはなくて……見ていた方が早いと思いますよ」


「うむ、じゃあそうしようか……」



 最初の賞品は謎の物体、掛けられていた黒い布は早々に排除されていたのであるが、その中にはさらにモザイクがあって、そのブツが何なのかはまるで判別することが出来ない。


 だが、俺達以外のほとんどの参加者は、それが何であるのかということを十分に把握したうえでここに来て居るらしく、むしろそれを狙って今日のオークションに……というような奴も多いようだ。


 もっとも、チラホラ見える神や天使はあまりそれに反応しておらず、どこぞの球場に集るおっさんのようにビールを飲みながら、早くまともな賞品を出せと野次を飛ばし始めている。


 これを見ているのは神界人間の金持ち野朗のみということか、果たして何なのかという点においては……まぁ、ろくでもない卑猥なものだという精霊様の予想は正解であろう。


 とはいえオークションのやり方を学ぶうえでは、そのブツが競られるところをつぶさに見つめていかなくてはならないのであって、それが何であろうと目を背けるわけにはいかない……



『はいはいっ、コレには興味がないと仰っている神々、天使様も多いようですので急ぎますっ、でっ! こちら本日最初の商品ですがっ! 皆さんご存知、取替え用ジャンボCHING-CHINGになりますっ! なんと新品未使用! 今日から使えますっ!』


『ウォォォッ! 最高だぜぇぇぇっ!』

『モザイク越しでもわかるあの立派さ!』

『今日はこのCHING-CHINGをゲットしに来たんだっ!』


「……やっぱり、本気でそんなもん出品してんのか、どうするつもりだよ一体?」


「というか、これは税庁の出品になりますから、つまり……税を滞納してそれを差し押さえられた神界人間が居るということです」


「・・・・・・・・・・」



 案内係の天使が恐ろしいことを口にしたのであるが、これはもう聞かなかったということで良いにしてしまいたいところ。


 まさかあの町で行われていたように、他の場所でも税金の滞納で『宝』を奪われ、その一部がこんな場所で競売に付されているとは。


 そのとんでもない、とても口に出しては言えないモノにつき、最小の通貨単位からスタートするという旨が司会者によって宣言される。


 次の瞬間には立ち上がり、何やらおかしな動きを始めた参加者の一部……これはこれで意味がわからないではないか。


 お互いを牽制し合うような動きも見せつつ、さらには近くのおかしな動きをしている者同士がいきなり接近して、無駄に腰をカクカクさせながらぶつかり合って……負けた方がリタイアしてその場に座っている……


『ウォォォッ! 俺だ俺だぁぁぁっ! この金額は誰も出せまいっ!』


『おぉーっと! いきなり高額の入札だぁぁぁっ……あっ、奥の方の神界人間の方! さらにその倍をいく男気入札ダンスを見せたぁぁぁっ!』



「……何やってんだあいつ等? 呪いの踊りで敵を倒そうとしているのか?」


「違いますよ、あの踊りは……5,000通貨単位の踊りですね、あっちの神界人間はなんといきなり10,000通貨単位の踊りを見せ付けています」


「全然違わないじゃないのどれも、カクカクして気持ち悪いし、なんであんなに腰振っているわけ?」


「というか、もしオークションに参加するのであればあの踊りを完璧にやってのけないとならないんですけど……もしや出来ないなんてことはないでしょうね?」


「……もう初球から殺っていくしかなさそうねこれは」


「あぁ、あんなクネクネダンスをしていられるかってんだ、しかもどう踊ったらどう表示されるのかわからんからな、最初から『武力入札』した方が早そうだ」


「あの、あまり目立つような暴れ方は……いえ、何でもないです」



 結局最初の商品である謎のCHING-CHINGなるブツは物凄い金額まで釣り上がり、最終的に目を血走らせた神界人間の金持ちがどうにか落札したしたらしい。


 というか、そんなモノに全財産を叩いた、それに加えて莫大な借金までしてそれをゲットしたようなのだが……きっとまたあのCHING-CHINGはこの場で競売に掛けられることであろう。


 で、次から次へとわけのわからない、特に役立つこともないようなゴミが出品されて、その都度神界人間の金持ちが必死になって、神々や天使諸君はそれを見て、まるで動物園のサルが粋がっているのをみているかのような、明らかに嘲笑するような笑いを送っていた。


 もしかするとこれはそういうイベントなのではなかろうか、神々や天使は本当に欲しいモノ、おそらくペットにしたい人間やバケモノが出品されたときにのみ参加して、あとは神界人間が中心になるもの。


 そしてもちろん神々も天使も、単にここへ来て座っているというだけではなく、醜く争う下等生物を見て、その『ショー』を見て酒を飲むイベントに参加しているということだ。


 神界人間の金持ち共はそうやって馬鹿にされていることにも気付かず、ひたすらにヒートアップして財産を浪費し、最後には全てを、本当に人生の全てをくだらないゴミ商品に費やしてしまうこととなる。


 で、その神界人間が人生を壊してまで手に入れた商品はというと、そいつが落ちぶれた後に、また借金のカタや滞納処分などで回収されてここへ戻り、次の馬鹿者を破綻に導いてしまうということ。


 先程のCHING-CHINGもそうであるが、こうやって循環しているモノには凄まじい怨念が籠っていそうな気がするな。


 まるで呪いの何とやらのように、神界人間から神界人間へ、公的なオークションを通じて宿主を滅ぼしながら世を巡る恐ろしいアイテムがここにあるのだ……



『さぁぁぁっ! お次はこちらっ! どんな鍵も、全ての鍵をっ! ちゃんとした技術さえ有していれば簡単に開けることが出来るっ! 本当に全てをこじ開ける最強かつ究極、またとない力を宿した伝説の鍵5本セットですっ!』


『ウォォォォォッ! 欲しいぞぉぉぉぉっ!』


「あぁっ、またゴミみたいなのが出てきたぞ、さすがにこれだと誰も……何かさっきまでよりもさらにアツくなっている奴が多いんだが?」


「ホントね、『全てをこじ開ける最強の鍵』って、普通にゼムクリップ曲げただけじゃないのあんなの、しかも5本セットとかの時点で何かおかしいと思わないのかしら?」


「まぁ、おかしいのはこの神界人間共だよな、どうしてこんなに熱狂してんだ? 何かやべぇクスリでも盛られたんじゃないのか?」


「だとしたらどこで……私達は何ともないわよね?」


「そうだな、セラは……何も口にしていないのかここじゃ、カレンは寝てしまったからな……あ、でもちょっと顔赤くないかコイツ?」


「……あらっ、カレンちゃん、起きてカレンちゃん、お熱あるんじゃないのかしらっ?」


「……んっ、んんんっ? わうっ、うぅぅぅぅっ! 何ですか? ちょっとフラフラして……眠いです」


「おいおい、ぜってぇあの焼き鳥だろこれっ! 俺も精霊様も食ったよなっ?」


「私のには何も入っていなかったわよっ、えっと、モモと皮と、それから……いえ、どれも清浄だったはず」


「じゃあこれは? カレンが食ってた皮の串だ」


「これは……あっ、何かヤバいクスリの残留物がっ!」


「そういうことだったか……まぁ、カレンがああならなくて良かったな、きっとチビだから効きすぎて逆に寝てしまったんだ」


「お酒を飲まなかったのも幸いしていそうね、とにかくカレンちゃんは寝かせておきましょ」



 一服盛られたせいでどんどん熱狂していく会場の神界人間共、神も天使もそれを見て笑っているのだが、注文して食べているものはどう考えても同じものである。


 そしておそらく客の神々は、そして天使もそれが『実は別のもの』であるということを知らない。

 知っているのはこの会場を運営している一部の天使と神界人間だけで、ゲストにそのことは知らされていないのだ。


 そんな中で、明らかにおかしくなった神界人間が馬鹿をするのを見て笑っている神々は、本当に面白いショーを見ることが出来たとして満足していることであろう。


 やべぇクスリでハイになっている神界人間も幸せ、オークションが盛り上がる運営も幸せ、そして観客である神々や天使も幸せなこの状況。


 まさにWIN-WIN-WINの素晴らしい関係と言えそうではある、言えそうではあるのだが……あまり芳しいとは言えないのが現実でもある。


 そもそもこんなことをして得をしているのは誰か、もちろんババァ神であって、その一派の神々や、ババァ神から色々と貰っている神界上層部のゴミ、ではなく神の連中だ。


 これは間違いなく止める必要がある、このオークション会場を大破させてでも、そして俺達がブツを持ち帰ったということが即バレしたとしても、ババァ神とその仲間に得をさせるようなこの流れは断ち切らなくてはならない……



「……で、どうするの勇者様、このまま例の商品が出てくるのを待つか、それとも今すぐに攻撃してやっつけちゃう?」


「どうしようか……いや、本来すべき動きから修正しまくるのはアレかもだし、このまま鏡の今日か素材が出るのを待とう、目玉商品じゃないし、きっとそろそろ出てくるだろうよ」


「わかったわ、まぁ、結局のところカレンちゃんが目を覚まさないと色々面倒なんだけど」


「大丈夫、この感じなら継続して摂取しなければすぐに抜けていくわよ、あと30分もすれば目を覚ますはず」


「そうか、それならちょうど良い時間に良い感じの終わり方が出来るかもな、そしたら見えない場所から会場を攻撃して、丸ごと滅ぼしてトンズラだ」


「恐ろしいことになりませんように、恐ろしいことになりませんように、恐ろしいことに……」



 改めて作戦を決定する俺達であったが、やはり乗り気ではない案内係の天使が、もう下を向いて念仏のように願望を唱え始めている。


 最終的にどうなるのかはわからないものの、それはお目当てのブツが会場に姿を表せばそれで終わり。

 変なタコ踊りをする気はあまりないため、ササッと回収してスッと離脱して、会場を破壊して逃げ出してしまえば良いのだ。


 そう思ってしばらく待っていると、次の商品、そのまた次の商品と、会場の盛り上がりはどんどんとおかしな方向へ進んで行き、次第に煽るのが上手い詐欺師の羽毛布団即売会のようになってきた。


 しかも出てくる商品は本当にガラクタの極みというか、その辺で拾ったとしてもそのままゴミ箱に捨てるような正真正銘のゴミばかり。


 今競られている『剥がしたテープをグチャグチャに丸めた何か』など、どうしてそれに50万通貨単位も出そうという者が居るのか不思議なぐらいなのだが、きっともう何が何だかわかっていないような状況なのであろう。


 こう見ると最初のCHING-CHINGがどれだけまともなモノであったか、モザイクが必須であったとはいえ、実用的かそうでないかと言われれば、排泄が可能なだけ相当に有用なアイテムだ。


 で、肝心の鏡強化素材であるが……どうしてまだ出てこないというのだ、あんなガラクタをこんな終盤まで温存しておく必要があるというのか……と、遂にそれらしき何かが……



『はいはいはいはいっ! 次に移りますっ! 次はですねなんとっ、鏡? でしょうか? それを壁にベタっと貼り付ける際に使うらしい変なパーツですっ! こちら本日の目玉商品になりますっ!』


『ウォォォォォォッ! なんと凄いアイテムなんだぁぁぁっ!』

『これは俺のものだっ! 見よっ、500万通貨単位の腰つきをっ!』

『なら我は1,000万通貨単位だっ! フンフンフンフンッ!』


「……これ……だよな目的にしていたのは?」


「1,000万だって、金貨1,000万枚ってことよねこの値段?」


「うむ、もう馬鹿馬鹿しいからこのまま奪って帰ろう、カレン、もう歩くことが出来そうか?」


「おんぶして下さい……」


「わかった、じゃあ回収は……精霊様に任せた、俺達は外で攻撃の準備でもしておくよ」


「はいは~い」


「頼んだぞ~っ」



 そう精霊様に告げて、バラバラの方向に向かうべく立ち上がったところで、何やら黒服の集団に囲まれたことに気付いた俺達であった……

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