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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1173 会場へ

「え~っと、そこの串焼き肉とそっちの味が違う串焼き肉と、それから……ベーコンの塊も食べたいですっ」


「うむ、じゃあ俺は……セラに任せた、もう適当に人数分注文しておいてくれ、そしてこの天使が全て支払をするってことで」


「わっ、私ですかっ? えっとその、そういうことになるとちょっと……」


「金がないのか? じゃあ仁平か女神に……いやいや違うな、良く考えろ……ババァ神の組織のツケにしてしまおうか、俺達が行動する分の金を、敵である自分達が払わなくちゃならないなんて知ったらあのババァ、マジで発狂すんぞ」


「……お客さんっ、お客さん! おいっ! 聞いてんのかっ?」


「はぁ? 何だハゲコラ、注文ならしただろうが、とっとと商品を出せこのドクズがっ」


「いやそりゃ出来ねぇぜ、だってお前等、今オーバーバー神様の悪口を言っていただろう? つまり、最近現われた『正義への挑戦者』とかいう連中の下っ端ってことだ、違うか?」


「そうだったらどうするんだよ?」


「そういう連中には一切何も提供出来ねぇよ、あのお方を侮辱して、神界をメチャクチャにしようとしている連中にはな、いくらテメェ等が単なる下っ端のゴミだったとしてもだ、わかったら金だけ払ってとっとと帰れっ!」


「……チッ、面倒な町に来てしまったようだなまた」



 最初のうちはニッコニコで接客していた串焼き肉屋台の店主が、ババァ神の名前を出して敵だと口にした瞬間、本当にそれを耳に入れたとほぼ同時に笑顔を消した。


 どうやらこの町でババァ神の悪口を言うことはタブーになっているらしいな、しかも強制されてどうのこうのという雰囲気でもないように見える。


 つまりこの町ではあの陰険なババァが、まるで神の如く崇められているということに……まぁ、実際に神ではあるのだが、だからといって信仰の対象になるような者ではないし、そもそもビジュアルからしてアレなのだ。


 で、そのままこのクズ店主をブチ殺してやりたいとも思うし、精霊様などは既にその態勢に入っているのだが、さすがにこんな場所で目立つわけにはいかない。


 串焼き肉は近くの別の屋台で買うこととして、セラがスッとそのおっさんの下に魔力の塊のようなものを差し込んだところまで確認し、普通に諦めた体でその場を離れる。


 屋台のおっさんは何やら罵倒しながら、こちらに向かって塩を撒いているようなのだが……次の瞬間、セラが仕込んだ風魔法の欠片というか何というか、とにかく仕掛けが発動し、屋台は丸ごと小さな竜巻に包まれた。


 もちろん炭火で肉だのなんだのを焼いていた屋台の、その下から風魔法が巻き起こされたのだ。

 屋台はおっさん巻き込みながら粉々になり、それに引火して燃えながら、まるでごく小さな火災旋風のように舞い上がった……



『おいっ、屋台が爆発したぞっ』

『事故だっ、あの野朗、風魔法の取り扱いを誤ったんだ』

『巻き込まれなくて良かったぜ』

『あら、黒焦げになって死んでいるわね、自業自得よ』


「……さてと、悪人の成敗も完了したし、どこか別の場所で買い物でもするか、今度は言動に気を付けつつな」


「なかなか面倒な所に来ちゃったわね、あのおばあさんの神様を崇め奉っているなんて、水に変なクスリでも入れられているのかしらこの町は?」


「そういう感じでもないわね、どうも心底、普通にあのババァを信仰しているみたいよ」


「というかお腹が空きました、早く行きましょう」



 結局どうしてあんなクソババァが信仰の対象になっているのかなど、詳しい事を聞くことなく屋台のおっさんを処分してしまった。


 何か理由があるのは確実、というか無条件であのビジュアルの神、いや神と妖怪であれば妖怪の方が近いのではないかと思えるような存在を崇めることなど考えられない。


 精霊様が言うように、水にやべぇクスリが混ぜ込まれているなどということがないとなると……そういった明確な不正行為以外で、何か特別な方法を使っているのかといったところ。


 まぁ、俺達がそれにやられてしまう可能性はないであろうから、その点に関してそこまで警戒しておく必要はないのかも知れないが、念のため、どういうことなのかハッキリさせておいた方が良いであろう。


 で、結局近くにあった別の屋台で、ライバル店で爆発事故が起こって店主が無様に焼け死んだという噂を聞いて、『今日は人生で最高の日だ』などと舞い上がっていたそこの店主に上手く取り込んでサービスさせ、空腹は十分に解消することが出来た。


 あとはオークションが始まる時間まで、その会場の近くで時間を潰すことになるのだが……案内係の天使が、外でフラフラしながら待っているのはあまりにも不自然であるという意見が出たのである……



「えっと、普通はですね、神様とか天使とかやっぱりちょっと悪いことしててリッチな神界人間とかがオークションに来るんですけど……どう考えても宿とかに泊まって、部屋を確保した状態で来ますよね? オークション自体夜に開催されるわけですし」


「なるほど、そうじゃないグループは怪しいってか、じゃあそうだな……会場が見えるほど近くに宿でも取るか」


「それと、このメンバーもちょっとまた怪しいんじゃないかと……」


「どこがだ?」


「えっとですね、まず下界の存在がどうして神界に来ているのかということと、あからさまに貧乏臭いその下界の人間がオークションに参加しようとしていることと、それからどうしてその中でも一番雑魚そうなのが威張っているのかなど、挙げたらキリがありませんよ」


「最後のはめっちゃ失礼だなお前……まぁ良い、ひとまず高級な宿を取ってからその辺りの設定を詰めていこうか」


「わかりました、ではそうですね……この町で、しかもオークション会場の近くで最も空いていそうな宿にご案内致します……皆さん、事故物件とかは大丈夫なタイプでしょうか?」


「あぁ、仲間内にはそういう奴も居るが、ここのメンバーはちょっとぐらい出ても平気だ、むしろ精霊様なんか悪霊を取り込んでしまうぞ」


「フンッ、こんな場所の不味そうな悪霊なんて要らないわよ、まぁ、居るんなら居るで邪魔になれば退治はするけど」


「そういうことなら安心です、こちらへどうぞ」



 そう言って案内係の天使が向かったのは、そのまま町の中心部に向かった先の……極めて怪しい裏路地であった。


 神界とはいえそこに暮らす人間の中にもはみ出し者は居るようで、神々の怒りに触れ、存在さえなかったこととされているような連中が、裏路地ではもう生きているのか死んでいるのか、微妙な状態で無数に転がっている。


 そんな臭そうなゴミ共を眺めつつ、トラブルになると目立ってしまうということで踏み付けたり、罵倒したりすることなくスルーして、案内係に続くかたちでその路地を抜けた。


 で、到着したのは異様に古臭い看板と、『空室あり』としか表示出来ないと思しき謎の案内がある宿……まぁ、きっと満室になるようなことはないのであろう。


 中へ入るとこれまた古臭く、カウンターにはコイツが幽霊なのではないかというババァの手が見えて、それ以外はもう板に仕切られて見えないようになっている。


 奥には無駄に濃いクリーム色に塗られた壁と、なぜかワインレッドのような色に統一された階段が見えていて、その色合いからも古臭いホテルを連想させられるところだ。


 で、案内係の天使がやたらと交渉し、どうにかオークション会場の入口が窓からバッチリ見えるという部屋を確保してくれた。


 部屋の名前が『首吊りの間』である辺りが少し気になったのだが、どうせそういう感じの自殺者が連発しているとか、入ったら最後、確実に首吊り死体で見つかるとかその程度のことなのであろう。


 よって特に気にすることもなくその部屋へと向かったのであるが……まず、前の宿泊者が逝ったと思しきロープが、普通に天井からぶら下がったままになっているではないか……



「おいおい、こりゃクレームだな、ちゃんと片付けをしろよって話で……どうしたカレン?」


「あそこで知らないおじさんがこっち睨んでます、精霊様、ちょっと気持ち悪いから片付けて下さい」


「待って待って、お風呂の方に沸いている心霊の方を先に追い出すわ、この部屋、本当に何千単位で神界人間が死んでいるわね……何があってこうなったのかしら?」


「わからないけど、ちょっと何か薄気味悪いわよね……勇者様、まだベッドに転がらない方が良いわよ」


「どうしてだ? 疲れたんだよ俺は」


「だってご主人様、そこ、死んで腐ってグッチャグチャになったおじさんとピッタリ重なっていますよ、その中からご主人様が透けて見えています」


「げぇぇぇっ!? クソッ、見えないってのも便利なようで難儀なものだな、おーい精霊様! 早くこっちも頼むぞっ!」


「もうっ、そのぐらい自分でやりなさいよっ」



 俺には何も見えない、本当にただ古臭いだけの安宿のように思えるのだが、実は元々高級な宿で、自殺者が連発して凄いことになっているため格安で、そして悪霊だらけであるとのこと。


 迂闊に動くとまたえらいことに、知らないおっさんの霊と重なり合ってしまうことになってもおかしくないから、しばらくは安全な場所に座って静かにしておこう。


 壁に飾られた絵の裏にどれだけのお札が貼ってあるのかなど凄く気になるし、剥がして中に封じられたバケモノなどを解放してみたいところでもあるが……まぁ、余計なことはするものではないな。


 しばらくすると悪霊はほとんど退散したようで、最後に精霊様が見えない何かを掴んで窓から放り投げ、それに見えない力の波動を当てて消滅させたようである、そこで微妙に室内の雰囲気が変わったように思えなくもない。


 全く霊感がないとはいえ、やはり何らかのかたちで心霊現象などの影響は受けているということなのであろうか。

 まぁ、どうかは知らないが、一応片付いたとのことなので、ひとまず皆で座って休憩しつつの話し合いとする……



「……まず身分関係がちょっとアレみたいだよな、どうする?」


「そうねぇ、じゃあこうしましょ、この案内係の天使ととある異世界の精霊である私は仲が良くて、誘われた私が神界の観光に来ているみたいな」


「俺達はどうするんだ?」


「え~っと、全部私の召使いで良いんじゃないかしら?」


「何で3人も連れて来るんだよ召使いを、もうちょっと設定をしっかりしろ」


「う~ん……じゃあカレンちゃんが召使いで、あんたは執事か何かってことで良いじゃない、適当なものなら衣装もあるわよ、それから……」


「あ、それなら私はアレね、精霊様と勇者様が共有しているストレス発散用の奴隷で、今回はオークション会場で暇になったときとか、欲しい商品が手に入らなかったりしてムカついたときに足蹴にするために連れて来た、まともな食事を与えられていないのに全く不満を抱いていないドMってのはどうかしら?」


「逆に設定練りすぎだしセラの願望が9割じゃねぇか……まぁ、自分がそれで良いなら構わないけどよ」


「じゃあこれで決まりね、早速それっぽい衣装に着替えましょ、それからなるべく顔も隠れるように」


「そづえすね、あなた方も、そして一応あのカス……エリート神様の下で働いていた私ですから、もしかしたら顔が割れているかも知れませんし……一応、メインのオークション参加者は仮面とか装備することが許されますが」


「なるほど、変なモノとか人間とかを落札することもあるわけだし、誰だかわからないようにして参加することも出来るってことね……まぁ、天使だったり精霊だったりってのは誤魔化しようがないと思うけど」



 ということで念のため、精霊様と案内係の天使はそこそこに高級な格好をして、マスクのようなもので目を隠して会場入りすることとした。


 カレンはいつも通りの服装でも、戦えるスタイルの衣服でも良さそうであるが……まぁ、念のため召使然とした、薄いグレーベースで目立たない、特に装飾のない服に着替えさせておこう。


 本人は寝間着のようでイヤだと言っていたが、干し肉を少し齧らせてやっただけで十分に満足したらしく、それ以降は文句を言わなくなった。


 そして俺は謎の燕尾服に、精霊様が用意したものであるが、どう考えてもあの似非エリート神の服装を参考にして勝手に作ったものだ。


 いつこのようなモノを作成したのかはわからないが、ひとまずそこまで不自然ではないということで、そのまま装備してオークションの開始を待つこととした、そして……



「私はこの奴隷用のボロ布で良いわね、あとは手枷と首輪と……鞭で叩かれながら歩くしかないわね」


「おいセラ、逆に目立つんじゃないのかそれは?」


「いいえ、元々神界の存在である私が見ている限りではそのような感じで大丈夫だと思います、そもそも卑劣で矮小なはずなのに金持ちになってイキッている神界人間など、ほとんどがそうやってボロボロの奴隷を引き摺って加虐しながら参加していますから」


「またろくでもねぇ連中だな……じゃあしょうがない、セラは残念ながらそのやられ役ということで……先に鞭で打って見た目だけでもボロボロにしておくか、それっ」


「ひゃいぃぃぃんっ! せっかくのボロ布がもう裂けてっ」


「おっと、それで全裸になったらさすがにアウトだな、なら露出している部位を打ち据えてやるっ!」


「あの、ご主人様……」


「どうしたカレン、やってみたいなら鞭を貸してやるぞ」


「そうじゃないです、今日はルビアちゃんが居ないから、あまりやりすぎるとダメージが凄いです」


「あっ……そう言われてみればそうだな……立てセラ、そういうことで『ボロボロ感の演出』はリアルでは出来なくなったぞ」


「……残念ねぇ」



 仕方ないのでセラには汚れている感だけを出させる感じで肌に加工を施し、奴隷用のボロも一度脱がせて、それだけを鞭でビシバシとやってボロボロにしておいた。


 もう一度着せたところで、ボロに穴が空いて背中だのパンツだのが見えてしまっていることがわかったため、念のためパンツの上から見えても恥ずかしくないパンツを穿かせておく。


 だがこれではまだ悲壮感が足りないな……そうか、隣の部屋や廊下などにはまだ悪霊が跋扈しているに違いない、オークション会場へ行く際に、それをセラに憑り付かせるなどしてさらにアレな感じを出すこととしよう。


 それからもし目的のブツを競り落とすことが出来た際に支払う金なのだが……まぁ、適当にニセモノの小切手でも切って渡させることとしよう。


 神界の小切手がどのようなモノなのかは知らないが、オークションの主催者がその不正に気付いてしまえば殺す、もし気付かなければ、まんまと欲しいアイテムを手にして堂々と帰ることが出来るということだ。


 可能であれば騒ぎになりたくないし、俺達が鏡の強化素材を強奪したなどという話がババァ神の耳に入らないように気を付けたい。


 きっとあのババァ神も、一度その鏡によって真実すっぴんを映され、さらには大量印刷して町中にバラ撒かれた際のことを覚えていて、鏡の存在にはかなり警戒しているはずだ。


 まぁ、もし騙し取ることに成功したとしてもだ、いずれは俺達が不正をしていて、しっかり調べたら普通に敵の構成員であったということが判明してしまう。


 結局はそこでババァ神に情報が伝わることとなってしまうのであるから、オークション会場にて上手くやることによって得られる効果は、単にこちら側に発生するデメリットの先送りでしかないのではあるが……



「よし、え~っと、オークション会場は……館内も飲食禁止じゃないようだな」


「それどころか普通にビールの売り子が歩いていますよ、焼き鳥も買えます」


「どこの球場だよ、じゃあ夕飯はまったりオークションをしながらと……っと、おい、もうその建物で何かしているようだぞ」


「開場したみたいですね、先に入って併設のレストランで飲食するような神々も居られるのでしょう、もちろんいくらお金持ちでも、天使や神界人間にそのようなことは許されたりしませんが」


「そうなのか、でもまぁアレだろ、場所をキープして着席して待つことぐらいは出来るだろう?」


「大丈夫だと思いますよ、神々が隣を通る度に起立して、深々とお辞儀しなくてはなりませんが」


「それはさすがに面倒臭いわね……」



 よって、会場には時間ギリギリに入って空いている場所に着席することとなったのであるが、どうせ『人間の出品』がないのだから十分に座る場所があるはず。


 しばらく時間を空け、その間にはずっと会場入口の様子を眺めていたのであるが、入って行く客も疎らでスタッフもやる気がない感じ。


 警備も聞いていた通り手薄であるから、もしブツを強奪しなくてはならないような状況になったとしても、そこまで多くの戦闘をすることなく逃げ切ることが可能であろう。


 そして時刻は夕方になり、空がだんだんと赤く染まり始めたところで、いよいよ俺達も宿の部屋を出発して……と、廊下に出た瞬間にまた悪霊の攻勢らしい。


 精霊様とカレンと、それから案内係の天使はキッチリそれを振り払っているが、何も見えていない俺と、それから見えているにはいるようだが、演技のために縛り上げていて、手枷などを破壊するわけにはいかないセラはもう憑かれ放題である。


 そういえば何だか気分が優れないような……と、後ろから精霊様がパッパと、何らかの力を振るってジョ礼してくれたようだ……



「ひぃぃぃっ! 何か後ろにピタッと……」


「あらあら、エッチな霊がお尻を触って……このままにしておきましょ」


「ちょっと精霊様! さすがにこれはキモくてっ」


「黙れセラ、一応今はゴミ奴隷なんだから我慢しろっ」


「ひぃぃっ、そんなこと言ったって」



 セラは何かに憑り付かれてしまったようだが、これも作戦のうちなのでそのままにしておくこととした。

 あとはオークション会場に入って、各々役割を演じつつ例のブツが出品されるのを待つのみだ……

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