1172 本来の目的地へ
「フハハハハッ! もうこれで決まりだっ、さすがにこの数を相手にしては、貴様等のような卑劣で低能なクズ共でもどうにもなるまいっ、ド底辺同士仲良く潰し合うことだなっ!」
「クソッ、確かにこの数じゃ相当に骨が折れるぞ、神が……結構な数居るもんな」
「……しかも確実にこの似非エリートよりも強いわね、最初に来たあのおなかの調子が悪い神ほどではないけど、そこそこ戦えそうなのが見受けられるわ……どうする?」
「そうだな……マリエル! ひとまずそいつから離れるんじゃないっ、きっとそいつに近付けるのはお前だけだっ、他の敵共は基本的に低学歴っぽいからな」
「わかりましたっ! 余裕を持って嬲り殺しにしようと思っていましたが、どうやら状況が変わってしまったようですね、さて、あなたは絶対に逃がしませんよっ」
「ひぃぃぃっ! しつこい下等生物めがっ! 誰かっ、これの仲間を成敗しろっ! とっとと殺れぇぇぇっ!」
「……エリート神様、我々はその……戦いに来たわけではなくてですね、あなたに命じられて片付けに来たのです、それ以外の業務となると、また別途指揮命令を文書でですね……おわかりでしょうか?」
「・・・・・・・・・・」
すぐに攻撃を仕掛けてくると思っていた神と天使の軍団であったが、どうやら戦いの意思を持たずにやって来たものであったらしい。
まぁ、元々はこの虚飾塗れの似非エリート神が、自分が勝利した後にこの町を片付ける、そしてババァ神に報告するなどといった雑務を任せるために呼んであったものだ。
当然戦う準備などしていなかったであろうし、良く見れば神も天使も、一様に武器ではなくシャベルやつるはしなどを持っているではないか。
そして今この場で、いきなり戦うことを命じられたところで、その命令がきちんとしたものでないと動けないような連中だということもまたラッキーであった。
もしここで口頭で受けた命令に従い、万が一それで余計なことをするとどうなるのか、きっとその件につき似非エリート神が負うべき全責任を丸ごと転嫁され、自分達の首が飛ぶことになるのは百も承知なのであろう。
似非エリート神もそれで黙ってしまったということは、きっとそのようにして自分は責任を逃れ、絶対に出世コースから外れることのないような結末を迎えようとしていたに違いない。
一歩間違えば、いや間違えようが間違えまいがこのままいけばマリエルの手でブチ殺される状況にあるというのに、まだ自分の出世や権力のことが気になって仕方ないようだ……
「……まぁ、ここは私達が出るわよぉ~っ、さすがに神々の数が多いしぃ~っ、交渉は任せて、そのエリートなんかじゃなかった何かを逃がさないようにしてちょうだぁ~い」
「わかった、というかマリエル、頼んだぞっ」
「えぇ、確実に逃げられないようにし手います……まだ殺してしまわない方が良いですよね?」
「そうよぉ~っ、ちょっとその神、もうひとつ『疑義』が生じているからぁ~っ、それをハッキリさせてからじゃないとぉ~っ、殺したり出来ないわよねぇ~っ」
「ぎっ、疑義とは何だっ? エリートの中のエリートである我のエリート性を疑うというのかホモだらけの仁平よっ、それは許されることではないぞっ! そこを追求するなど常識的に考えてアウトだっ!」
「だからぁ~っ、そうやって追求することさえ許されないような風潮、それがおかしいと思うのよぉ~っ、ほら、疑問に思ったことは徹底的に調べないと、誰かがおかしいと思って調べても、どこかでストップが入ってなぁなぁになるとかそもそも謎の死を遂げるとかぁ~っ、その方がおかしいのよぉ^っ、常識的に考えてぇ~っ」
「ぐぬぬぬっ! 貴様許さぬぞっ! もし本当に、本当に我がエリートの中のエリートであることが確定したらっ! 貴様はもう神であることを辞めて死ねいっ!」
突如としてそのエリート性までも問われ始めた似非エリート神であったが、まさか経歴を詐称するなどして、本来は雑魚キャラであるところをエリートとして振舞っているとでもいうのか。
もしそうだとしたら根本的な部分、おそらく神の系統としてどの程度のランクに位置しているのか、本当に高学歴であったのかなどの調査が必要になるのだが、その辺りはもう仁平に任せてしまおう。
で、そんな主張をした仁平はというと、ひとまず似非エリート神のことは放置して、その部下の集団である『片付け部隊』へと目を向けている。
攻撃を受けるのではないかとビビり、手に持っていたスコップだのつるはしだのを申し訳程度に構える雑魚の底辺神々とカスみたいな天使達。
だが仁平は攻撃をするつもりがあるわけではなく、あくまで交渉をして穏便にこの場を収めたいと思っているということを、直接その連中に告げたのであった……
「……つまり、あなた方は我々の上役であるエリート神様を潰すことが出来ればそれで良いと……しかし、これより前に訪れたはずの、あのいつも便所に引き篭もっている神は殺しました、それについてはどう説明なさるおつもりですか?」
「あれはぁ~、向こうから攻撃してきたからよぉ~っ、まぁ、あのクラスの強者はここには居ないみたいだけどぉ~っ」
「あの神が強いですと? いや、彼は非エリートの代表格で、その何というか、あなたの後ろで無駄に相槌だけ打っている変な女神と大差ないカスであったはずで……」
「それ、誰がそんなこと言ったのかしらぁ~っ? まぁランク的には底辺だったのは確かだけどぉ~っ、その実力まで底辺だったわけじゃないのよぉ~っ……それはあなたの知能も、その後ろに居る雑魚神ちゃんのマネジメント能力についても同じじゃないかしら?」
「……いいえ、それはその、エリート神様のお力によって支えられておりまして、決して我々の力が動向というわけではないのでして、その……いえ、まぁ、何というかえぇ」
「わかってはいるようねぇ~っ、口に出しては言えないだけで、もしかしたらあの似非エリートはゴミクズで、その下にある『底辺ばかりで構成された組織』が、全ての力を合わせたときに有能であるということをぉ~っ……もっとも、やっていることは有能とは言い難いけど」
「……ではどうするのです? 我々を排除して、エリート神様もオーバーバー神様もその手に掛けて、神界に新しい秩序を構築しようとでもいうのですか?」
「んまぁ~っ、そこはアレよぉ~っ、ほら、わざわざどこかの異世界からこの神界まで攻め込んで来たぁ~っ、勇者パーティーがどうしたいのかってところもあるわよねぇ~っ」
「まさかそんな連中にっ? さすがに賛同致しかねますぞっ! 確かにエリート神様のやっていることは、オーバーバー神様のやっていることは異常ですっ、ですがその……」
「おい貴様ぁぁぁっ! 聞こえてんだよここからでもぉぉぉっ! 何だ貴様! 底辺の癖に我が悪口を言って自分だけ助かろうとっ」
「あなたは少し黙っていて下さいっ! このド無能の外道がっ!」
「なんとっ……」
遂に仁平と交渉していた底辺神のリーダーがキレた、もちろん口を挟むかたちでわけのわからないことを主張した似非エリート神に対してだ。
これまでも従ってはいたものの、やはり近くに居ただけあって、内心では奴がとんでもない無能のゴミクズで、戦闘力も極めて低いということをわかっていたのであろう。
だが立場上それを言わず、いうことが出来ずにここまできてしまって……で、最初に殺したあの下痢野朗はあのようにストレスを溜めていたというのか。
とにかく、今のひと言によって完全にこの底辺軍団の気持ちが似非エリート神から切り離されたようにも思える。
もしかするとこのまま仁平のチームに引き入れて、そこでこちら側の駒として試用することが可能になるかも知れない……まぁ、そこまで上手くいくとも限らないが。
しかしこれでこの連中とガッツリ戦闘になる可能性はどうにか回避することが出来て、あとはもう、仁平がGOサインを出したところで似非エリート神を殺してしまうだけとなった。
だが先程の件がまだ片付いていない状況にあるため、ここはひとまず殺害することを保留とせざるを得ないような状況だ……
「……マリエルは引き続きそいつを頼んだ……で、仁平との話に割って入って悪いが、ちょっと俺から質問良いか?」
「質問だと? そういう場合にはもっとちゃんと土下座して、地面に頭を擦り付けながら申し訳なさそうに言葉を述べるものだぞ、だいいちあの女も、カス野朗とはいえエリート神様に槍を向けた状態で見下ろしているし、貴様等は本当に下界の人間であって、我々のような神々や天使達と比べると圧倒的に劣ったミジンコのような存在であるということを理解しておらぬのか?」
「いやお前殺すぞマジで、良いから質問を聞いてそれに答えろ、この場で死にたくなかったらなっ」
「あっ、ちょっ、我が貸与された町の瓦礫除去に使うつるはしをどうするというのだっ?」
「どうするって、最悪の場合にはお前を殺すから、そのときに使うために収用したのさ、ほらっ、質問に答えやがれっ!」
「はっ? あっ……ギャァァァッ! 足の甲につるはしがぁぁぁっ! あぁぁぁっ!」
「叫んでんじゃねぇよやかましい、おいそこの女天使、ちょっとこっち来い、お前だよお前、その可愛らしいケツにこの汚ったねぇつるはしをブチ込まれたくなかったら、コイツの代わりに質問に答えて貰わないとなんだ、良いな?」
「ひぃぃぃっ! はっ、はいわかりましたぁぁぁっ!」
「よろしい、じゃあ……官公庁オークションについては何か知っているか? ちょっと欲しいものがあってな」
「オークションですか、それならば私達の所からもそこそこ出品していて……もちろん私は雑用にすぎませんけど」
「それで良い、誰かあの鏡の強化素材のデータを……女神、お前が出せよボーっとしてねぇで」
「……あっ、あぁはいっ、ちょっと立ったまま寝ていました、鏡の強化素材の出品についてですね、すぐにすぐにっ……出ましたこれですっ!」
俺達が求めていたもうひとつのもの、それはこちらで所持している鏡、真実を映し出し、今はその映し出した真実を大量印刷してバラ撒くことが可能なだけの鏡を、さらに強化するための素材である。
それがオークションに出されるということで、元々やるべきことであった税庁のエリート神……ではないことが発覚したばかりだが、それを処理するのと同時進行的に進める予定であったのだ。
そして今、女神がその必要としているアイテムの詳細を、代表で交渉させている天使に提示したことで、それがどこあるのか、いつ出品されるのかということが判明したのであった。
なんと、本来であれば今日中に行われるはずであったオークションで、会場にて現物が競り売りに懸けられるとのことなのだが……ひとまずそれは中止しなくてはならない。
見たところそれが何なのかわからず、もちろん用途も定かではないようなアイテムであるが、もしかしたらそういうモノにつき『芸術的センスが高い』と勝手に感じてしまう馬鹿が現れて、落札してどこかへ持ち去ってしまうかも知れないのだ。
後々担ってからその落札者を探し出して交渉し、交渉が決裂したら脅し、脅してもダメであればブチ殺してブツを奪うなど面倒臭すぎる。
今のうちに、それが公の管理下にある間に、どうにかして俺達の手許まで取り寄せなくてはならない……
「うむ、じゃあそうだな……この似非エリートの経歴詐称とかの追及をするグループと、こっちのブツを確保しにいくグループに分かれよう」
「そうね、どうせオークションの会場? に乗り込んで、軽く暴れてこれだけ……とは言わずもうちょっと金目のモノも奪って来るだけだし、少数精鋭に案内係を付けて行くのが良いかもね」
「3人……いや5人で行けば良いぐらいか? で、この天使さんに案内をさせると」
「あの、一体何をするつもりなのですか? 犯罪行為の相談をしているような……」
「犯罪じゃねぇよ馬鹿、まぁ俺達以外がやったらそりゃもう重罪だがな、俺達がやることは何であっても正義なんだ、だからセーフッ!」
「……どこがどうなってそうなるのかまるで理解することが出来ません、そのような企みには……わかりました、協力致しますのでつるはしを構えて後ろに立つのはやめて下さい」
「フンッ、最初からそう言っておけば怖い思いをしなくて済んだんだよ……だが今のムカつきを発散する先、つるはしの振り下ろし先がないな……ということでさっきのお前だっ!」
「ギョェェェッ! あっ、頭が割れる……割れたっ!」
「ケッ、神の癖に汚ったねぇ脳漿ブチ撒けやがって、自分で掃除しておけよなその臭そうなお前の中身を」
「なんと酷いことを……」
ひとまず、先程足をブチ抜いてやった底辺神の頭をカチ割って、俺達に従わない者がどうなるのかということを示しておく。
こうなりたくなければ、あのような腐ったババァ神派などではなく俺達の側に付くようにと、半ば強制するかたちではあるが誘導してやったのを感謝して欲しい。
で、ビビリながらもこちらのブツを抑える作戦に協力してくれるという女性の天使が、近くの神に頼んでそのオークション会場への移動のためのゲートを開いて貰っている。
だがまずこちらから出すべき人材を選別しなくてはならないではないか、似非エリート神に武器を突き付けているマリエルを除いたメンバーから、5人程度を選抜するのだ。
まず、俺と精霊様は確定として動いてしまって構わないであろう、自分で現場を見て判断したい部分もあるし、精霊様は何かあったときに大暴れしてその辺の連中を虐殺するのに有用である。
それから、魔法系として1人セラを、さらにオークションでまともに落札出来なかったり、その後ブツを強奪しようとして戦闘になった際に動けるキャラとして、カレンと連れて行くこととしよう。
これで4人なのだが……まぁ、案内の天使を入れれば5人と同じになるのか、あまり目立ちたくはないし、この人数だけでどうにかなってくれれば良いのであるが……
「ちなみにだけど、そのオークション会場の警備なんかはどんな感じなんだ? やっぱり厳戒態勢でやっているのか?」
「そうですね……今回は違法極まりないクリーチャーとか騙して借金漬けにした神界人間とか、あと下界から誘拐して来た人間を含む生物の出品がないと思いますので、そこまでは厳しくないんじゃないかと……」
「おいおい、何か公的なオークションなのにとんでもねぇもん出品してんな」
「オーバーバー神様のなさることですから、それはもう仕方のないことかと」
「奴を止めない限りはそれが続くってことだな……まぁ、その犠牲者のためにどうこうするってわけじゃないが……」
なかなかに真っ黒な様相を呈しているらしい『公的な』オークションだが、警備が手薄になっているというのであればそれに越したことはない。
また、貴重な品が出品されないのがその警備の薄い理由であるということは、当然客の方もそれなりにやる気のない奴ばかりというか、流していく、または暇潰しに見ているだけの者も多いであろう。
これはそこそこのチャンスだ、少なくとも侵入して気付かれないようにブツをどうこうだとか、最初からそういう大怪盗的なことをしなくても良い。
まずはオークションに参加するなどして、途中でいけそうなのかダメそうなのか、その辺りを判断して次の動きを考えていくこととしよう。
最終的には皆殺しの可能性もあるが、目立たないようにしなくてはならないこと、あくまで一般客を装うべきということも考えて、最初は控え目な言動でいくべきであろうな……
「よしっ、じゃあ俺達は行って来るから、こっちはこっちで色々と頼んだぞ、特にそのボケた似非エリートだ、俺達が帰る前に面白いことに使ったりしないでくれよ」
「大丈夫よぉ~っ、今ちょっと調べているけど、コレが色々と経歴なんかを盛っているっていう証拠に辿り着くまでには相当の時間が掛かりそうなのぉ~っ」
「それと勇者よ、その神による経歴詐称の件も含めてですね、念のため真実を映し出す鏡と伝説の鏡をこちらに取り寄せておきますので、帰りはどこへも寄らずにここへ戻って頂いて結構ですよ」
「あ、なるほど、このクズを真実を映し出す鏡の前に立たせて、色々と何が本当なのかを見極める作業もあるってことか、わかった、じゃあ素材アイテムを手に入れたら直帰するよ」
「お願いします、それまではこちらもあまり動かないように、鏡を取り寄せるだけにしておきますから」
「敵の類が追加で来たりしないと良いんだがな……」
ともあれ、鏡の強化素材となるアイテムを確保しておかないとならないことだけは事実であるから、すぐに選ばれたメンバー、つまり俺とセラ、カレンと精霊様に、案内役の天使を加えたチームで、どこぞの神が出してくれた転移ゲートを潜る。
転移した先はさすがにオークション会場というわけではなく、そのオークションが執り行われる、そして本来の目的地であった税庁のある町の入口付近。
まだ時間的に余裕があるとはいえ、せめて会場の目の前などに転移させてほしかったところでもあるが……まぁ、しばらくりにまともな営業をしている店を見たような気もするし、何か食べながら徒歩移動するのも悪くはなさそうだ。
ということで町へ、もちろん天使が一緒に居るため、その権限をもって門番のゴミ神界人間共などには何も言わせずに入り込むことが出来た。
ひとまずオークションが行われる会場に向かうような感じで、ゆっくり歩いて町の様子を見ながら進んで行く。
この町はこれまでと違い、特に重税が課されているとか、それ以外の方法でババァ神によって苦しめられているということはないようだな、一体やられている町とそうでない町、そこにどのような違いがあると言うのか……




