1169 ポケットの石
「オラオラオラオラァァァッ! ガンガンいけっ、そして色んな攻撃を試してみるんだっ、何が効くのかわかんねぇからなぁぁぁっ!」
「ギョェェェッ! ちょっ、また腹が痛くなって……ふぬぅぅぅっ、そのような無駄な行動は慎むのだっ、我はウ○コがしたいのだぁぁぁっ! このぉぉぉっ!」
「おっと、攻撃は後ろにはいかせないぞ、そちらこそ無駄な攻撃行動はやめて滅して欲しいっ! 今すぐに、その汚らしいブツと共にっ!」
「黙るのだっ! 我は目的を達成しなくてはならんのだからな、さもないとまた皆の前で詰められて、胃に穴が空いて腹の調子が悪くなって……ぬぉぉぉっ、考えたらまた調子がっ……」
「クソッ、こんなに弱り切った奴にダメージが通らないなんてっ」
攻撃を加えれば仰け反り、その都度悲鳴を上げたり腹を抱えてしゃがみ込んだりといった行動を取るものの、それでダメージが入っているのかといえば否である。
敵の神は反応が良好なだけであって、実際には涼しい顔をして何事もなかったかのように自らの行動を続ける、その程度の感覚しか得ていないはず。
この攻撃を喰らった際の動きは、おそらく『何か嫌なことをされた』ということに対するリアクションであって、いつもそういう目に遭う中で自然とこのようなことをするようになってしまったのであろう。
それは単にストレスに起因する反応であって、肉体的にはまるで何も起こっていない、もちろん最初から体調が優れないのだが、それ以上悪くはなっていないのだ。
それはつまりこちらの攻撃など何でもない、本当に効果のないものだということを意味していて……これ以上続けるのが無駄に思えて仕方がない。
突破口を探るにも、皆の攻撃方法はそろそろ一巡して、どれもこれもどんな手も、一律効果ナシであるということが判明しつつあって、もはやどうしようもないのではないかと思える状態なのだが……
「はぁぁぁっ! 強攻撃を受けなさいっ! ノンキャリアスラァァァッシュ!」
「私に任せろっ、おっぱい白刃取りっ……なっ、ひゃぁぁぁっ!」
「どうしたっ? 大丈夫かジェシカ?」
「クッ、思っていたよりも遥かに鋭いスラッシュだった、鎧の胸当ては元々外していたのだが、服が裂けてこう、色々とポロリしてしまったぞ」
「なん……ということだ、おっぱい丸出しじゃねぇかっ! 下がれっ、その状態だと見られまくるぞアイツにっ!」
「すまないっ、ちょっと後ろで着替えをして来るっ」
「くぁぁぁぁっ……い、良いモノを見せて貰った、これは少しばかり体調も回復したように思えるな、いやはや、およそ3,000年ぶりに仕事でラッキーなことが起こったとは、こんな場所で、この地獄のような仕事で、二度とこのような瞬間は訪れないであろうっ」
「きめぇ野朗だな、その仕事も今日で終わりにしてやりたいんだがな……はてさてどうやって処理すべきか……」
「ご主人様、そろそろ私達も疲れてきましたよ、早く何か見つけてキメてしまって下さい」
「そう言われてもな、まぁ、うん何かあるだろうよそのうちに、ほらっ、そっち攻撃来てんぞっ、マリエルの所だ」
「あっと、低めですねっ、お尻で受けますっ! はぁぁぁっ! キャァァァッ!」
「また強攻撃かっ、マリエル! スカート裂けてんぞっ、後ろで着替えて来いっ!」
「いたたたっ、本当ですね、パンツも若干ブレイクしてしまいました」
「なぇ、さっきまでより強くなっているわよこの攻撃、これじゃあいくら柔らかい部分で受けたり、挟んで止めたりしてもちょっと痛いかも」
「ジェシカのおっぱいが見えて、その分調子が良くなったんだな、コイツ、ストレスが全くない状態だったとしたらどんだけ強かったんだよマジで」
「……我はね、その昔は本当に凄かったんだよ、わかるかね君達?」
「何か語り始めましたっ! 気持ち悪いので猛攻撃して下さいっ!」
「待てルビア、ちょうど良い、このまま語らせて遅延しよう……で、その凄い神が何だって?」
「だから我はね、神として誕生した後、神とは何か、何をすべきかを学ぶ間は凄く優秀で、将来はこの神界の事務次官クラスにまで登り詰めるのではないかと目されていた存在なのだよ」
「あらあら、それがどうしてこんな場所でストレス溜めてハゲ散らかしているのかしら?」
「系統が、系統が良くなかったのだ、それゆえ上位の組織にお呼ばれすることもなく、ひたすら這いずり回って手にした任務がコレなのだ、あのエリート面の馬鹿共や、慈愛に満ち溢れたような顔して明らかに悪事を生業としているババァの組織の下っ端にっ、この我はそんな存在に落ちぶれてしまったのだっ! わかるかっ! あんな連中に搾取され続け、そのまま悠久の時を存在し続けた我の気持ちがぁぁぁっ!」
「いや私達にキレてんじゃないですのそんなことで、イヤでしたら自分で、直接その連中に文句を言えば良いんですわよ、ほら、今から帰ってその力を、矛先をその連中に向けたら良いんじゃないですこと?」
「黙りなさいそこの悪魔! どうして悪魔が神界に紛れ込んでいるのだっ? しかも2匹ですか、全く、先に始末しておくべきだったか、余計なことを口走る前にっ! 死ねぇぇぇぃっ!」
「おっと、そうはさせないぞこの私がっ!」
「じぇ、ジェシカお前……着替えは?」
「……なんと……丸出しではないか君はぁぁぁっ!」
悪魔であるという理由だけで攻撃の矛先が向いてしまい、これは喰らってしまうものだと覚悟していたようすのユリナとサリナ。
だがその前にスッと体を入れたのは、先程アーマーブレイクして後ろにて着替えていたはずのジェシカであった。
しかも着替えどころかより一層その衣服の胸部分がブレイクしてしまっているではないか……これはポロリどころの騒ぎではないな。
そしてその巨大なモロおっぱいが、2人の悪魔に向かっていた圧縮した空気のような衝撃波をボインッと、打たれたボールのように形を変えながら弾いてどこかへやってしまったではないか。
もはや何を見られても良いと、完全に吹っ切れた状態で前に出る決意をしたのであろう、この状態であれば全てを、敵のあらゆる攻撃を用意に切り抜けることが可能な最強の状態である。
しかもこの状態のジェシカを見てしまった敵の神は……体調不良が回復したどころか、血行が良くなりすぎて鼻時を出し、逆に追い詰められているような状態となった。
この敵が流した鼻血が、それこそ最初のダメージであって最初の流血であって、ここで初めて、意図していないとはいえ攻撃が通ったかたちである……
「……私はもう一度前に出る、それと主殿、後ろを、女神様方が居られる場所を見てくれ……何かこちらに伝えたいことがありそうな感じなのだ」
「……そのようだな、ちょっと精霊様、今のうちに御用聞きでもして来てくれ、もしかしたらあの固定砲台的なのの話かもだからな」
「というか、どうやらそのことのようね、あの置いてあった杯みたいなのがセットされているもの、すぐに話を聞きに行くわ」
向こうから来て話をすれば良いのに、そうも思ったのであるが、ここで女神や仁平が姿を現すのは得策でないようにも思える。
これ以上敵を刺激するのも良くないからだ、もし女神などの姿を見て、さらにおかしな感じで暴れだしてしまったらと思うと恐ろしい。
それゆえ、精霊様も文句を言うことなく向こうの、残雪DXを組み込ん固定砲台の様子について確認するためにそこへ向かったのであるが……窓際で浮かんだまま話をして、それですぐに戻って来てしまった。
精霊様が帰還した直後、窓の奥からズイッと現われたのはパラボラアンテナのような、皆が杯だのジンギスカン鍋だのと言う兵器の先端部分。
どうやら調整の方が終わったようだな、いや、終わっていないのかも知れないが、ここでこれを使うべきであると、今がそのタイミングだと判断して出してきたという可能性もある。
戻った精霊様から受けた説明は、もうあの兵器を使うことが辛うじて出来るということ、使えばしばらくは再使用出来ないという内容であった。
だが、その威力は試すまでもない次元のものであって、間違いなくあの神の防御を貫通して大ダメージを与えることが可能であるということも同時に伝えられている。
ならばもう撃つしかない、このままこちらだけが徐々に疲労していって、最後の最後で総崩れになるのを黙って待っているわけにもいかないのだ。
敵がジェシカのおっぱいを見て鼻血を出し、ついでに腹痛の方も復活してきたらしくその場にしゃがみこんでしまっている間に、新しい強力な兵器で一撃を加えてやるしかない……
「皆! ちょっと下がれっ! ホントに一瞬だけで良いから射線を開けろっ! このコースだっ!」
「えっ? あっ、カレンちゃんこっち、リリィちゃんも下がって下がって」
「ルビアも横に動けっ! 巻き込まれたらさすがにちょっと痛いぞっ!」
「何をするつもりなんですか……あぁ、なるほど……」
「君達! 今度は何を企んでいるというのだね? ぬっ、ぬぉぉぉっ、腹が痛い……少し待ちたまえ、やはりまたウ○コが出る……」
「そのウ○コがお前の最後のウ○コだっ! 女神! やれぇぇぇっ!」
「何だっ? こっ、これはビーム兵器で……ぬわぁぁぁっ!」
光ったパラボラアンテナのような兵器、そこから放たれたのは強烈な光線であって、それが直撃したのは今まさにウ○コをしようとしていた敵の下痢野朗。
カッと、一直線にそのビームのような白い光線が照射され、まるで強力なスポットライトを当てられたかのような感じになった次の瞬間には、凄まじい熱と共にその光景さえも光の中に消えた。
2秒、3秒程度経過したところで視界が戻ってくる、広場の石畳は一部だけが溶けてその後ガラス化し、直撃があった場所に関してはまだ赤熱状態で、むしろボコボコと沸騰したマグマのようなビジュアルとなっている。
そのマグマ様の地面の中で……まだ動いているではないか、ほとんど溶けたような、いや溶けた石畳を全身に浴びてそう見えるだけなのかも知れないが、所々から火を吹きつつゆっくりと立ち上がる影。
今のを喰らって生きているというのか、さすがに神とはいえそれは異常なことであって、通常であればその存在ごと消え去ってしまってもおかしくはないほどのエネルギーにさらされたというのに、まだ立ち上がる力があるというのか……
『……や……やってくれたな……これでは報告書を認めることも出来ないでは……ないか』
「……攻撃よっ! 攻撃を入れてっ!」
『無駄だ、このような状態になってしまったとて、君達の攻撃が通用するものではないからな、特に魔法攻撃、そんなものには100%の耐性を持っているのだよ我は』
「クソッ、誰か物理の飛び道具をっ! 近付いたら何されるかわからんからなっ、衝撃波でも何でも良いから喰らわせてやれっ!」
「ダメですっ、何も効かないですよっ、もっとこう、直接物理で当てられる何かがないとっ!」
「しょうがねぇっ、俺が危険を冒してでもダイレクトアタックを……あっ、そういえばコレ……」
「ご主人様、それまだ持っていたんですか? ちゃんと使わないとダメじゃないですか最初にっ」
「いやすまんかった、だが……この石ころが救世主になったかも知れないなっ! 悪いがリリィ、今使わせて貰うぞこの最終兵器をっ! うぉぉぉっ!」
『無駄なことを……なっ!? 投石だとっ、ぐあぁぁぁっ! は……腹に大穴が……内臓が焼けて……ぶふぉっ……』
「中身が出たぞっ! 皆一気に畳んじまえっ!」
『うぇ~いっ!』
『ギョェェェェッ! そ、そんなことが……あってたまるか……』
「あったんだよ、神にこんなこと言うのもアレかもだが、もう諦めて成仏しておけ、生まれ変わったりするんじゃねぇぞ気持ち悪りぃから……っと、もう死んでいたか」
「どうにかなったみたいですね、しかし強敵でした、こんなのが非エリートだなんて、これじゃあ……」
「あぁ、もう少し考えないとならないようだな、税庁のエリート神との戦いは」
どうにかこうにか打ち滅ぼすことが出来た下痢野朗の神、異常なほどに強く、実質仁平の第二形態と同程度の敵を討ったのと同じことだといえよう。
もちろんあのパラボラアンテナのような固定砲台、それに組み込まれた残雪DXと、限界まで調整を続けていた神共の力があってこそではあるが。
ひとまず、ここは片付いたということで一旦女神達の所へ戻り、今回の戦いについての仁平の講評でも聞いてやるべきところか……
※※※
「うぅ~んっ、これは予想外だったわねぇ~っ、まさかノーマークの非エリート神がここまでやるなんてぇ~っ、しかもあのビジュアルでしょ~っ? どう考えても弱くあるべきところよねぇ~っ」
「全くだぜ、それとジェシカはムチャクチャしやがって、このっ、お尻ペンペンだお前はっ」
「痛いっ、痛っ……頑張ったのだから少しは褒めてくれても良いような気がするぞっ、ひぎぃぃぃっ!」
「で、あの固定砲台はどんな感じだったの? さっきからエリナちゃんの姿が見えないんだけど」
『ここです、まだここに閉じ込められています、あと魔力吸われすぎて灰になってますから』
「……うわっ、マジで遺灰みたいになってんじゃねぇかっ! 早く取り出して元に戻してやれっ!」
敵を討つことが出来たには出来た、だがその代償としてエリナが酷いことになっているほか、勝てたのも『どうにか』といった感じであることもまた事実。
このまま次の敵に攻め込まれたら、ボロボロ状態の俺達に勝ち目などないような、そんな気がしているのはもう全員が同じことであるはず。
もちろんそんなことよりも食欲の方が優先し、戻って来て早々にガツガツと食事をしている仲間達も居ることは居るのだが、それも次の戦いに備えるためという意味を持っているのかも知れない。
ひとまずもう夜になり、今日のところはさすがに大丈夫であろうと判断出来ていることからも、あとは風呂にでも入って汚れを落とし、布団に入って疲れを癒すだけであるといえよう。
だが問題は明日以降だ、部下であるあの下痢野朗がブチ殺されてしまったことを考えると、今度こそ税庁のエリート神が直接やって来る可能性は高い。
そうなったときにまたあの固定砲台で戦うことが出来るのか、それまでに再調整が終わり、今度こそ連発することが可能になるのか、少し、というかかなり微妙なところである……
「まぁ、ひとまずは終わったんだし、ここで次のことを考えても無駄といえば無駄だな」
「それで、やっぱりこっちから敵の所へ攻めて行くんじゃなくて、ここで待ち構える感じでいくわけ?」
「それしかないんじゃないかしらやっぱり、入れ違いになったらたぶんこっちが損だと思うの、待っているのが得策よ」
「うむ、やっぱりそういうことになるか……ひとまず今日は寝ようぜ、明日、もしかしたら早い時間に敵が来るかもだが、そしたらもうどうにかするしかないぞ」
『うぇ~い』
ということで話し合うのは諦めて、そのまま施設内の風呂を使ってあの薄汚い敵との戦いで負った汚れなどを完全に洗い流して、シェルターから引っ張り出した『労働者』にメイキングさせたベッドに潜り込む。
女神も同じように寝てしまったらしいが、仁平はまだ起きて何かを考えているらしく、俺達が泊まっている部屋から見える神専用の高級ルームに明かりが灯っている。
今日のあの下痢野郎は一体何であったのか、どうしてあそこまでの力を持ちながら底辺に甘んじていたのか、そのことに関してまだ調べものをしているのかも知れないな。
もっとも、それは俺達が考えても何にもならないことであって、神々のパワーバランスだとか、そういった点を全てわかっている者にしか判断が付かないようなことだ。
などと考えつつそのまま目を閉じて朝を待った俺であったが、目を覚ますとまだ静かな空間がそこに広がっていた。
カレンはとっくに起きてどこかへ行ってしまったようだが、相変わらずルビアが寝息を立てている、コレはいつもの光景だ。
そして他の起きている仲間達の様子を見ると、何やら部屋に来ていた女神から説明を受けているようにも思えるのだが……とりあえず俺も起きて話を聞いてみることとしよう……
「あら、起きたのですか勇者よ、でしたらこちらへ」
「何だよ朝っぱらから? 敵について何かわかったことでもあるというのか?」
「そのことなのですが、やはり税庁のエリート神がこちらへ来る可能性が高いと、そういう感じの情報が入りましたので」
「……それ、誰情報?」
「神界の、というか神々にのみ伝えられるニュース速報のようなものです神界人間向けのものと違って捏造も偏向報道もないピュアでクリーンなメディアですね」
「で、そこがエリート神の動きについて発表したと?」
「そうなのです、やはり昨日の件はキッチリ神界中に知れ渡って、それでエリート神が私達に対する追討命令を、オーバーバー神から受けたということを主張しているようで、しばらく後にここへ来て、全力でこちらを潰すと豪語しているのです」
「なるほどな……で、対策の方は?」
「まだ特に決まっていませんが、ホモだらけの仁平が何か弱点を探そうとはしているようです、ただ……」
「ただ何だ?」
「エリート神に関してはその戦闘力に関する細かいデータがまるでないそうで、エリートゆえ強いということはわかっているのですが」
「ひた隠しにしていると、きっと俺達みたいなのに弱点を探られないようにしているんだろうな、厄介な奴だよ全く……」
とはいえ、そのエリート神を討伐し、そして魔法の鏡だの何だのの強化パーツも獲得し、主敵であるババァ神の勢力をさらに削ってやらなくてはならない。
そのためにはもう出来ることを何でもするし、多少メチャクチャであるとしても、勝つために様々な策を講じていこうと、そう誓った神界の朝であった……




