1166 出迎えの準備
「うぃ~っ、何かやってんのかここで~っ? って、何だろう、どうしてエリナがそんな乗用型兵器みたいなのに乗っているんだろうか……説明してくれよな」
「勇者よこれは、魔界最強と豪語していたあの残雪DXなるGUNをベースにして、そこにオプションパーツをゴテゴテと装備させた結果このようなことになっているだけです」
「これは残雪DXだったのか、まるで面影がないな、というかもう固定砲台みたいになってんじゃねぇか、エリナ、ちょっとそこ代わってくれ、俺もちょっとそれ発射したい」
「えっと、勇者さんがですか? 別に構いませんけど、上手く行かなくても私に八つ当たりしないで下さいね」
「おうよ、今の俺にはこの八つ当たり専用機があるからな」
「ひぃぃぃっ! もうお許しをぉぉぉっ!」
「ちょっとちょっと、たぶんだけど勇者様には無理よ、それ、結構魔力使うから……まぁ結構どころじゃなくて、勇者様だと一瞬にして粉々になってハウスダストばりに漂っている何かになっちゃうと思うのよ」
「そんなにやべぇのかよコレ……あ、というかまだ完成じゃないんだな、さっきのほら、パラボラアンテナ……って言ってもわかんねぇか、杯みたいなのがセットされてねぇじゃないか」
「あぁ、アレはまだまだ使えないから、今のところはこの普通の筒みたいなのを付けておいたの、あの杯だと今の200倍の魔力が必要になりそうね」
「そんなにやべぇのかよあんなもんが……」
一部の仲間達が何やらしている部屋へやって来た俺であったが、そこで見たものはこれまでにない、かなりカッコイイとしか言いようのない兵器の類であった。
まさかざの残雪DXが、魔界の存在であるはずのあのGUNが、神界の装備品によってここまで化けるとは思いもしなかった。
今はコクピット、というか重機のオペレーターが乗り込むあの場所のような、ちょっとした防御の施された場所に乗り込んでいるエリナだが、それ以外のパーツを見れば本当に砲台の射手である。
もう今すぐにでもこれを発射して、ここから見える広場の連中を皆殺しにしてしまいたくもなるのだが、それをするにはどうも費用対効果が悪すぎる模様。
巨大兵器なのはわかるが、どうしてその程度のもので膨大な魔力を、エリナでも一発撃てば、残雪DXに魔力を吸われ尽くしたときのようになってしまうような消費をするというのか。
もしかしたらどこか、明らかに配線が間違っていたりするのでは? 或いは接触が悪く、その部分で大幅な無駄が生じてしまっているのでは? などと色々なことを考えても埒が明かないし、この件はもう、この場に居る連中に任せてしまうこととしよう。
俺は俺でやるべきことを独自に探して、少しでも敵の神を、主として税庁を支配しているというエリート神を迎え撃つ作戦を考えるのだ。
基本的にこの町へやって来た神々が誘導されるのは、女神達もそこから出てきた部屋の、大きな鏡の枠だけになっているような場所からである。
それを考慮して、実際に現物の前でどうしてやろうかと1人で考えていると……そうか、これを一旦外して逆さまにしてしまおう、などという閃きが訪れたのであった。
そうしてやれば神々が顕現するのはこちら側にではなく壁に向かってということになるのだから、もちろん空間を割いて転移してくることを考えるとどうだ。
普段はそのままスッとこちら側に降り立つところ、今回はどういうわけかいきなり『壁の中に居る』状態になるのではなかろうか。
もちろんその程度のことで神々がどうにかなってしまうようなことはないが、それでも『ウザい』とぐらいは思わせることが出来るはず。
先程仕掛けたしょうもないトラップにはミラが引っ掛かり、少しかわいそうなことになってしまったのであるが、今回はそのリスクがない分何をやっても大丈夫だ。
早速鏡のような枠を取り外して、裏側に向けてそのまま貼り付けて……ついでに誰も元に戻すことが出来ないよう、瞬間接着剤でガチガチに留めておくこととしよう。
ついでにテーブルの上に食事も用意しておいてやろう、だが食糧がもったいないので、料理は全て『たべられません』と書かれた乾燥剤等を良い感じに盛り付けておく。
あとはターゲットのエリート神になるのか、それとも先遣隊として別の神々が来るのかはわからないものの、とにかく何らかの敵がやって来るのを待って、それを小馬鹿にしたうえで攻撃を加え、滅ぼしてやるのみだ……
「ただいま~っ、てお前等まだそんなもん弄ってたのかよ、むしろそれさ、もうエリナが降りることとか出来なくないか?」
『そう思ったのなら出して下さい、ちょっと空気が薄くなってきて、気密性の保持とか何とかも考え物ですよこれは、せめて窓とか換気装置を付けて下さい』
「どうせ死ぬことなんかないんだから良いんですの、そのまま窒息しておけばどうかと思いますわ」
『酷いわよユリナ! ちょっと、ここ代わってよ誰か、息めっちゃ苦しくなってきたんですけど』
「アホなことやってんな相変わらず……と、精霊様も来ていたのか、向こうのくだらないショーにはもう飽きたのか?」
「もうどうでも良くなってきたわ、だから生存者が全部1ヵ所に集まるように仕向けておいて、この変な固定砲台みたいなので狙っていこうと思ったんだけど、こんなんじゃまだまだダメね、もっとこう、ほら、ガンガン撃っていける感じにしないと……ちょっとやってみようかしら試しに……」
『そんなことしたら私カッサカサになっちゃいますってば、ガンガンどころか1発も撃たないで下さいねっ、私、今この超兵器の胃袋の中身居るみたいな存在何ですから、お願いしますよっ』
「エリナ、それは残雪DXに言えよな、ちょっと力を吸うのを抑えろって……で、アイツどこに組み込まれてんだ? パッと見じゃもう何が何だかわからんぞこれは、お~いどこだ~っ?」
『ここです、私はここに居ますよ』
『ちなみにこっちにも居ます、あとそっちにも』
『ここにある私が本体です』
『いいえ、実はこっちの私の方が重要な機能を担っていてですね』
『全ての私の中で最強なのは私ですっ!』
「……って、バラッバラに分解されてんじゃねぇかぁぁぁっ! 大丈夫なのかよこれっ?」
「わかんないけど、一応設計図はちゃんと残しておいたから、きっと元に戻ると思うわ、右と左のパーツが違ったり上下逆だったりとかはするかもだけど」
「大問題だろそれ、GUN形態なら、もしそれで機能するなら最悪大丈夫かとも思うがよ、人間形態になったときにその間違いが反映されたらえらいことだぞ、悲しいバケモノの誕生だぞ、わかってんのかお前等?」
「まぁっ、う~んっ、そこまで考えていなかったわよぉ~っ、でもまぁ、過ぎたことはしょうがないわね過ぎたことはぁ~っ」
「この場で一番賢さが高い癖に適当極まりないなあんたは、とにかく、残雪DXはキッチリキッカリ元の戻すことが出来るようにしておけよ」
『うぇ~いっ』
少し目を離した隙にとんでもないことになってしまっていたようなのだが、とにかくこの場でそこまで作り込まなくても、残雪DXという戦力を一時的にこのような形にしなくても良いような気がしてしまう。
もちろんこの謎の巨大兵器が完成を見て、それが誰かの多大なる犠牲を伴わずに連発可能な状態になったとすれば、それはそれで凄まじい戦力となるのは明らか。
これは神をも殺す一撃を放つポテンシャルを秘めた、本当に強力な兵器となり得るものなのだから。
しかし、現時点ではまるで使える目途が立っていないということを考えると、この時間のない状況においてあまり注力すべきではないものであるということも確かであろう。
そんなことよりも今は敵の神を迎え撃つ作戦を、そしてそれを先んじてやっている俺に敬意を表するような、そんな行動を皆に求めたいところだ。
だがパラボラアンテナのような謎の装置をどうにかしてこの固定砲台に導入し、時間を掛けてでも完成を見たいという気持ちを有している仲間達に俺の思いが届くことはない。
どころか、まだ外の定食屋で食事をしている4人に関してはこちらに来るような気配もないし、本当にこれから神と戦うのか、そのつもりがあるのかを問わなくてはならない事態となっている……
「……おいセラ、セラ、ちょっとお前そんな所であくびしていないでこっちを手伝え、もう飽きてきたんだろうどうせよ」
「あら、バレちゃったみたいだから仕方ないわね、少しだけ勇者様の手伝いをしてくるわ、うん、どうせたいしたことやってないんだし、勇者様が1人でやっても進むような作業だもの、すぐに終わって戻って来るわ」
「仕事舐めんなこのボケェェェッ!」
「ヒギィィィッ! もっ、もっとぶって下さいっ! ひゃぁぁぁっ!」
「全く調子に乗りやがってからに、今日という今日はアレだぞ、ケツが張り裂けるまで引っ叩いてやるから覚悟しろよっ……で、そのまま行こうか、オラァァァッ!」
「いったぁぁぁっ! お仕置きありがとうございますっ! もっとお願いしますっ!」
わざと調子に乗ってお仕置きを受けようとするセラを肩に担いで、望み通りとんでもなく痛い目に遭わせつつ固定砲台の実験が行われている部屋を出る。
まぁ、出たからといって特にやることはないし、セラの言う通りこれまでもどうせたいしたことはやっていなかったのであるが、さすがにこのままではここが無防備すぎるではないかという意見が出そうなぐらいに無防備な場所だ。
で、そういえばそのまま『お散歩』しているままになっていた市長の娘に、この建物で一番安全な場所、何が起こってもそこだけは壊れないようなシェルターはどこかと尋ねてみた。
……どうやらそのような場所がしっかりと用意されている建物のようだな、万が一神の逆鱗に触れてしまい、それで町が滅ぼされる際に、要人だけを逃がしておくための特大シェルターが。
這い蹲りつつ、主従関係を理解していない馬鹿犬のようにリードを引っ張って前に進む市長の娘、どうやら相当にその場所へ行きたいらしく、発言は許していないものの顔は嬉しそうだ……
「ちょっと勇者様、どこ行こうってのよこの子? ちゃんと説明して逆にどこへ行くのか報告させておかないと、予想していたのとぜんっぜん違う場所に行っちゃうわよ、そしたら怒られるのはこの子なんだけど」
「ひぃぃぃっ! そっ、そんなっ! ちゃんとシェルターへ向かっていますっ!」
「貴様! 駄犬の分際で発言するとは何事かっ! 鞭を喰らえっ!」
「キャウゥゥゥッ! ごっ、ごめんなさいでしたっ!」
「それも人間の言葉だっ! 駄犬は謝罪せず、ただ鞭打たれて鳴くのみということを忘れたのかっ!」
「ヒギィィィッ! わっ、わんわんっ!」
「……で、ここからはしばらく発言を許すが、どこのどういうシェルターで、どのぐらいの人数を収容することが可能な施設に向かっているんだ俺達は?」
「あ、はい、この庁舎の隣の建物の地下から更に隣の建物の地下2階へ行って、それから戻って戻ってこの建物の反対側の隣の建物から出て、その出口の隣の階段からまた地下に潜ってこの建物に来て、一旦地上に出てからまたその地上に出た際にある部屋の30ある会談のうちの大当たりひとつを選んで降りると凄いシェルターがあります、それはもう完全防備で、提供して下さった神々曰く神界丸ごと崩壊して全員死んでもそれだけは残るとのことでした。で、収容人数はこの町の人口……元々の数ですが、それの10分の1だそうです、ただ大昔の戦で使われた際には収容可能人数の3倍程度の神界人間が集まってしまって、入り口で誰が入れるかのじゃんけんをしている間に敵が攻めて来て全員死んだとのことで……」
「ややこしいルートだな、だがそれだけ頑張ればその、町の人口の1割ってことは……まぁ助命対象者だけなら余裕で入りそうだな、もちろんお前もそこに含まれているから安心しろ……で、その強力なシェルターで神々と俺達との戦いをやり過ごすことが出来るってことか」
「でも勇者様、ホントにそのシェルター、表記通りのスペックがあるのよね?」
「うむ、正直かなり盛っている可能性があるんじゃないかと踏んでいる、完璧と豪語しておいて、実質その効果は8割程度であろうな」
「……つまり、避難民の2割は死ぬということなのですか? それはちょっと怖いのですが、2割って結構ヒットしますし、悪い方に関してだけですが」
「そういう単純な計算にはならねぇよ、まぁお前みたいな馬鹿犬にはその程度の知能がお似合いだし、扱い易いからちゃんと俺が助けてやる、安心してシェルターに隠れていろ」
「わかりましたっ! 本当にっ、本当にありがとうございますっ、このご恩は生涯忘れることなく……」
「おいっ、もう発言は許してねぇぞボケがっ!」
「ひぎゃぁぁぁっ! わっ、わんっ……わんわんっ……ひぃっ、ひょげぇぇぇっ!」
「なかなか調教が進んでいるわね、私も負けていられないわ」
「セラ、お前は何をしたい、じゃなくて何をされたいというのだ……」
馬鹿な発言をしているセラはともかく、そのまま四つん這いで這い蹲らせた市長の娘に従って先へ進み、かなり複雑なルートを通過して目的のシェルターとやらに到着する。
どうやらここへはまだ物資が、最初に重税で奪い尽くされた際から運び込まれることなどなかったようで、やけに広いわりにはその壁沿いに設置された棚には何もモノが置かれていない。
というか、掃除用具入れの中や壁に掛けられた雑巾まで持って行かれてしまったのか、便所もあったが便器は持って行かれたらしくただ穴が空いているだけ、それ以外も酷い有様である。
これが本来の重税を課せられてしまった町の、ババァ神の犠牲となり、その後の救済措置が一切なかった町の姿なのであろう。
俺達が支配した町もいずれ、もちろんこのまま税庁のエリート神を討伐することも、ババァ神を滅ぼすこともなければ、町全体がこのような姿になってしまうのだ……
「……まぁ、何もないけど空間自体は使えなくはないわね」
「あとはこの周りに精霊様の結界でも張っておけば、おそらく攻撃がクリーンヒットしたりとかってことがない限り大丈夫そうだな」
「じゃあどうする? すぐにこの場所へ広場の人達を案内する?」
「それと、無関係の奴も一度は呼び出して、まだ麻痺させてある労働用にキープした馬鹿共の運搬もさせないとだ」
「あ、さすがに野晒しはアウトね、まともに攻撃を喰らわなくてもきっと死ぬわ」
「どころか、最初にお互いの力の発露があって、それで消滅して存在していた事実までこの神界から消え去るだろうよそいつ等は」
「そうなっちゃったら逃げ得、というか死に得だものね、ちゃんと重労働で苦しませて、最後は殺してくれって懇願しながら飢えと変な伝染病で死ぬようにしていかないと」
「だな、おい市長の娘、お前しばらくの間だけ神界人間として過ごす時間を与えてやるからよ、ちょっと今言った内容ですべて30分以内に実行しろ、計画の遅れとかがあったら1秒ごとに尻を1,000回叩くからな」
「へへーっ! 畏まりましたでございますっ!」
これで外の連中も片付いた、もちろん生き残るべきでない、この場で確実に死んでおくべきであろう連中が、労働用の運搬をする際に紛れ込んだりして、卑劣にもシェルターに紛れ込むようなことがあるかも知れない。
いや、卑怯千万なこの町の神界人間であるから、もちろんそのような企てをする奴の方が多く、さらには元々町に残っていた連中だけでなく、直接隣町、俺達の町へ攻撃に行ったような『実行犯』もその中に混じってくるかも知れない。
だがそのようなことがあったとしても問題はない、住民票などを見ればすぐに誰がどいつで、どこのどの神界人間が助命されたのかなど容易にわかってしまうはず。
それをもって『卑怯者』の捜索をして、見つけ出した奴等は改めてその場で、いやもっと衆人環視の中で惨殺していけば良いのである。
と、30分の時間をやったのであるが、市長の娘は早くも最初の集団を誘導して施設へやって来たではないか。
数にしておよそ……少し狭い所にワラワラと動いているので数えられないが、目視する限りでは収容すべき人間のおよそ5分の1程度であろうか。
この分であれば本当に30分以内に、そしてギリギリではあろうが最初にやって来るべき神々の到達前に作業を終えることが出来るに違いない。
あとは市長の娘をさらに急がせて、逆に俺達はそのやって来る神をゆっくりと、リラックスしながら待っていればそれで良いということだ……
「さてと、そろそろ『お出迎え』のために神がお越しになるルームで待とうか」
「でもどうするの? 私達2人だけになっちゃうし、そのまま戦闘になったらそこそこヤバくないかしら?」
「……まぁ、それはそうだよな、じゃあどうする? あの固定砲台の部屋で待機するか?」
「それよりもさ、普通に4人が居る食堂とやらでご飯でも食べていたら良くないかしら? 敵の神様が来て、私達は何やっているのかって怒り出したらさ、まだご飯食べているからちょっと待って欲しい……みたいな?」
「それはそこそこに最高の侮辱だな、出入口を『壁の中』作戦にもしたし、そういう感じでネチネチと嫌がらせをしておくこととしようか」
「じゃあ、私は先に行っているから、勇者様はあの部屋でまだゴチャゴチャやっている皆を連れて来てちょうだい」
「おうよっ、すぐに行くからな」
ということで仲間達を誘い、エリナもどうにか固定砲台の中から救出して、バラされた状態で何やら文句を言っているらしい残雪DXは放置して外へ出る。
やって来た神々には乾燥剤でも食わせておいて、俺達は町にある食堂にて、神から与えられた贖罪をふんだんに使った神の料理を頂いておくこととしよう……




