1163 高飛び込み
『町の皆さん聞いて下さいっ! この町は今攻撃を受けていますがっ、中央の広場はまだ安全ですっ! 動くことが出来る方はそこに集合して下さいっ! すぐに集合して下さいっ!』
「……おっ、結構遠くまで声が届いているみたいだな、そこら中で騒ぎになり始めたぞ、何も知らずに向かって来る馬鹿な奴等が」
「でもすぐには殺さないんですよね? 色々と使える神界人間の方も多いでしょうし、その選別もしなくてはなりません」
「それと、使えない奴もちょっとは残しておいて、撤退してきた敵の軍隊と戦わせて遊ぶんでしょ?」
「あぁ、それもやりたいんだがな、さっき言った通り、もしかしたら思っているよりも早くその、何だ? 敵のエリート神? がここへやって来るかも知れないんだ、それよりも先に仲間を呼び寄せることになるかもだぞ」
「あら、でもそうすると向こうが、私達の町がもぬけの殻になるわね、万が一そっちに行かれたらと思うと……まぁ、その場合はこっちを『私達の町』にすれば良いだけかしらね」
「もちろん協力者は予め逃がしておくから大丈夫だ、向こうの町にも、こっちの町と同様に死ぬべきじゃない奴が居るわけだからな」
そんな話をしている間にも続々と集まって来る、何も知らない町の住民共はガヤガヤと、本当に統率が取れていない感じで広場のそこかしこに塊を作っている。
ほとんどがこれでもう助かったのだと、侵略者から逃れてまた平和な暮らしに戻ることが出来るのだと信じ切っているような表情だ。
そんなはずはないし、現時点において子の町の住民である以上、絶対にこの後の幸せは訪れないというのに、本当に哀れで馬鹿な連中としか思えない。
で、そんな連中に対しては、こちらに協力する意思を表示したいわゆる『町の裏切り者』である市長の娘に呼び掛けさせ、ある程度秩序だった集団に分かれるようにと指示を出す。
まずは労働者として使えそうなグループ、そして奴隷として撃ったりしたら大層儲かりそうなグループ、そしてそれ以外、畑の肥料ぐらいにしかならないようなゴミ共のグループだ。
なお、予め麻痺させてあったり、最初の攻撃で気絶した町の指導者は別の場所に積み上げてあるため、それらと今来た降伏者のグループが混ざってしまうことはない。
しかしやはり残っていたのは神界人間ばかりで、市長の娘が言うように天使の連中は全部地下から逃げてしまっていたのか。
残念ではあるが、それでも町の制圧自体はこれで完了したということで、ここからはひたすらに残虐行為を執り行い、この町の人間に自分がどういう立場にあるのかということを思い知らせなくてはならない……
「よしっ、ひとまず振り分けはこんな感じで良いかな、それで、ここからはこの集まっている連中に恐怖を与えるための行動を取らなくちゃならないんだが……どうするか?」
「そういえば向こうに大きな挽肉器がありましたけど、それを使ったら面白いと思いませんか?」
「大きな挽肉器だぁ? そんなもん何のためにあるってんだよ、おい、お前市長の娘だろう、何か知っているんじゃないのかその挽肉器に関して」
「それは、それはこの町がかつて畜産で栄えていた頃の名残です、もう牛も豚も馬も山羊も羊も、それからなぜか養殖されていた豚野郎に至るまで全て税として徴収されてしまいましたが、それ以前はその挽肉器を祭りの度に持って来て、豚野郎を挽き殺したりとかしていましたね」
「畜肉じゃなくてそっちを挽肉にすんのかよ……まぁ良い、この町の連中はそんなことを善良な豚野郎に対してやっていたってことだからな、その報いを受けるという意味でも、今度は自分達が挽肉になる番だということをわかって貰わないとだな」
「そんなっ、いくら何でも町の人を挽肉にするなんて、その……どうしてもでしょうか?」
「大丈夫だ、お前とかその他ちゃんとしたビジュアルの奴にはそんなことはしない、挽かれて殺られるのはキモめのモブキャラばかりだぞ」
「それなら特に問題はないのですが……いえ、問題がないわけではなくてその、人道的に……」
「あんたみたいなのが人道を説いて恥ずかしくないわけ? 止められるかどうかは知らないけど、少なくとも口を出すことぐらいは出来る立場だったのに、それでいてこの町から私達が支配している町への侵攻作戦に異を唱えなかったんでしょ?」
「だって神々がそうしろと言ったことですから、さすがに私如きがそのような……ひぎぃぃぃっ! ごめんなさいっ! もうそういうこと言いませんから叩かないでぇぇぇっ!」
「全くしょうがない神界人間さんですね、ひとまず挽肉器は……この町の人達、これからその挽肉器にINする人達に運んで貰いましょう」
「しかも何をするのかは伝えずにってのが面白いわよね、ほらあんた、サッサと呼び掛けないとダメじゃない、それ以上ぶたれたらイヤでしょ?」
「ひぃぃぃっ! すっ、すぐにやらせますのでっ!」
市長の娘は何だかんだ言って結局自分の身も可愛いらしいということがわかってきたのだが、まぁ、これは当然のことである。
ここで自分的におかしいと思っていたことを、隣町に5,000の軍勢で攻め込むなどというくだらないことをしていた町の人間を庇うよりは、自分が痛い目に遭わないようにする方がより良いと判断してしまうところなのだ。
で、その市長の娘が自分達のことをどう思っているのかなどまるで知らない、本当に頭の悪い町の連中はその呼び掛けに応え、なぜか盛り上がり始めた。
どうやらその挽肉器を使って自分達のために祭を開催してくれると、誰かがそう言い出してそれが広まってしまったらしい。
もちろん完全な不正解ではないのであって、確かに『祭』自体は開催されることとなるのでその通りなのだが、その内容はこの馬鹿共が想像しているのとまるで異なるものなのだ。
騒いでいる連中の声を聞いていると、『豚肉を用意しなくては』だとか、『豚よりも牛100%のハンバーグが』というような内容の会話が聞こえてくる。
つまりこの馬鹿共は俺達が、その挽肉器を使ってソーセージだのハンバーグだの、その他諸々挽肉を使ったような料理を振舞ってくれると思い込んでいるのだ。
どうして、なぜ襲撃を仕掛け、町に火を放ったうえで非戦闘員を殺戮していた俺達が、降伏して集まって来たからといってそんな対象に料理を振舞うことになるというのか。
普通に考えておかしいのであるが、そもそも隣町に武力行使をしてどうのこうのと考えている連中は、もともと頭がおかしいのだから、おかしいとおかしいがマッチしてちょうど良くなり、わけのわからない理解の仕方をしてしまったのであろう。
そしてそんな馬鹿共によって、超巨大な挽肉器が広場に運ばれて……デカい、上にある肉の投入口が『10m×10m』という、本当にハンパではないサイズのものだ……
『わっせわっせ! 持って来たっすーっ!』
「ご、ご苦労様です、えっと、設置場所は……」
「そこの比較的高い建物の壁にピッタリくっつけるように設置させろ、そう、そこだ、上手く使えば面白いことになるからな」
「そうねぇ、じゃああそこの一団、何か運ぶのを手伝っているようないないような連中、最初にアレを使いましょ」
「だな、おい、ついでにあの連中を『飛び込み台』の後ろに行かせて待機させるんだ」
「飛び込み台……ですか?」
「そうだ、あの挽肉器をセットした建物、肉の投入口との高さの差は10mぐらいだろう? そこからだったらあの10m×10mの所へ上手く飛び込めるはずだ」
「飛び込むって、まさか……」
「うむ、挽肉器にダイブする際のフォームとかで芸術点を競うんだよ、優勝者には……まぁ、1回飛んだら死ぬんだけど、とにかく何か賞品を与えることとしよう」
「素晴らしい飛び込みで良い感じの挽肉になったら、もしかしたらお墓ぐらい建ててあげても良いかもね、木製か石ころの」
「そういえばリリィから貰った石ころがあるな、投げろって言われたけど、コイツを優勝者の墓石にしてやっても良いかもな」
「本当に卑劣極まりない方々だったんですね……いえ、何でもありません、すぐにショーを始めさせまず」
それから、当人にはこれからすることの内容を何も伝えない、単に『当選した』という言葉のみを与えて無駄に舞い上がらせ、建物の屋上に上らせた。
これから何が始まるのか、何を受け取ることが出来る抽選に『当選した』のか、ウキウキした実に気持ち悪い表情で屋上に姿を現したおっさんの群れ。
見ているだけでムカつくので、もしその場に俺が居たらすぐにでも叩き落としてやりたいところなのだが、それをしてしまえばもうそれでショーは終わってしまう。
なお、開始と同時にヤバい何かが始まったことを察知した町の連中が1匹も逃げ出したりしないよう、精霊様は広場の周囲にコッソリと結界を張っておいたらしい。
もうこれで誰も逃げ出すことなど出来ない、これから始まる大惨事に、とことんまで付き合わなくてはならない、そんな受忍義務がこの町の連中には存在するのだ……
※※※
『はいっ、それではこれより大会を開始しますっ! 実況はなぜか神界に居る悪魔のエリナですっ! 皆さん、本当に短い間になりますがよろしくお願い致しますっ!』
『ウォォォッ! 何か知らんけどウォォォッ!』
『姉ちゃん! これから何するってんだ? 教えてくれっ!』
『料理はまだかっ? まだ食材も切っていないのかっ?』
『はいはい、落ち着いて下さいって、え~っ、食材なんてモノはありませんよ、これからですね、皆さんにはかつて皆さんが挽き殺して遊んでいたという、豚野郎だか何だかの代わりになって貰いますっ!』
『……どういうことだぁぁぁっ⁉』
『おかしいだろそんなのっ?』
『話が違うぞぉぉぉっ!』
『いえ別にこちら何も言っていませんから、で、上の挽肉候補生も逃げないで下さーいっ! ちゃんと説明を聞いて、華々しい最期をお願いしまーっす!』
解説のエリナがどんどん話を進めていく間、地上ではふざけるなだとかいい加減に城などの大合唱が行われていた。
そして上の『選手』は既に状況を、これから自分達が何に使われるのかを知ってしまっているためビビり倒し、必死で這い蹲って逃げようと試みている。
もちろん屋上の出口は封鎖され、建物の縁のすぐ下に禍々しい金属の機構が、現世からの出口として待ち構えているのであった。
解説のエリナがルールの説明をしているというのに、それをまるで聞きもせず逃げ惑っているこのゴミのような連中には、これから続く熾烈な『予選』を突破することなど出来ないことであろう。
もっとも、予選で決勝進出者を決めたところで、その駒を進めた者は決勝開始時にはもう挽肉として、器械の出口付近にブリブリと溜まった薄汚い肉の中に混入してしまっているのだが……
『……ということでルール説明は以上ですっ! 皆さんっ、頑張ってアクロバティックな死に様を見せ付けて下さいっ! それでは予選第一組、1番の選手はスタート位置にどうぞっ!』
『予選第一組って何だぁぁぁっ?』
『もしかしてこんなことをまだ続けるつもりなのかっ?』
『ヤバいっ、もうお終いだっ、逃げろぉぉぉっ!』
『逃げられねぇんだっ、広場から出られねぇんだぁぁぁっ!』
『はいはい、阿鼻叫喚は実際に死ぬ寸前にして下さいね、今は選手を応援する時間ですよーっ……と、1番の選手がなかなかスタート位置に立ちませんね、緊張しているのでしょうか?』
精霊様が飛んで様子を見に行くと、封鎖された屋上の出口付近に集った状態の招集済み選手は半分が気絶してウ○コを漏らし、残りは誰が『1番の選手』になるのかという言い争いをしていたとのこと。
どいつもこいつも往生際が悪く、実に醜いゴミ野郎であるのだが、だからといって選手は選手なので、ここは一発気合を入れて、美しいフォームでの飛び込みを披露して頂かなくてはならない。
状況の報告後にもう一度飛び立った精霊様の判断で『1番の選手』を勝手に決定し、それを引き摺るようにして飛び込みのための場所に立たせる。
というか立たせるのだが……すぐにへたり込んでしまってダメなようだ、下では生存を許された連中がもう挽肉器のハンドルを回し、その機構がガチャガチャと音を立てて、選手の突入を待っている状態であるというのに……
「ひぃぃぃっ! かっ、勘弁してくれぇぇぇっ! どうしてこんなことをするんだっ? お前等には人の心がないのかっ?」
「ないわよ私は精霊だし、というか、この町の連中は何をされても自業自得なんじゃないの? ねぇ、それとも今から5,000の兵を戻して、詫びを入れるために集団自決でもさせる? どうする?」
「そそそそっ、そんなの俺だけの力じゃ無理でっ、だいいち、あのときはもうノリノリの空気感があって誰も隣町を攻めることに反対なんか出来なかったんだよっ! わかるだろうそういうノリって? なぁっ?」
「わからないわ、私だったら単独でもやめようって言うもの……まぁ、戦争とか人殺しは好きだから、もし反対の立場だったら止めずに最前線でブチかますけど」
「ほらっ、お前だってそうするんじゃないかっ! 同じだっ、今ここで殺されそうになっている俺とお前は同じだっ!」
「なわけないでしょ、私はキモくないし、あとあんた達に勝ったからこうしているわけ、あんた達は負けたからこうされているわけ」
「そんなのメチャクチャじゃねぇかっ! おかしいぞっ、勝ったら何をしても良いなんてそんなことっ!」
「勝ったら何をしても良いし、負けた方は何をされても言い返せないの、それが基本よ、わかったらサッサと行きなさいっ!」
「あっ、あぁぁぁっ! ごぎゃろぺばっ!」
「……尻もち付くみたいに落ちちゃったわね、0点よあんた」
最初の『選手』が精霊様によって突き落とされ、そしてまともな演技も出来ないままに器械に吸い込まれ、ゴキゴキとおかしな音を立てながら潰されていったことで、広場に集まっている『候補者』はかなりのパニックに陥った。
案の定逃げ出そうとして、精霊様の結界に阻まれながら必死でその先へ進もうと試みる者、もうある程度のところで諦め、自害しようとする者など様々である。
だがこちらはこちらで色々と進めなくてはならないので、2番、3番と続けざまに『選手』を飛び込ませていった。
とても口に出しては言えないような凄惨な光景が、本来は挽肉を吐き出すべき、美味そうな何かがそこから出るべき場所付近で観測されている。
もちろん近付く者は居ないし、殺されるべきでないとされて別に除けられている連中も、あまりの悲惨な光景に目を覆い、嗚咽している者も多く見受けられる状況。
少しは反省したであろうか、自分達だけが神々の力を借りて重税を逃れ、そしてそんなおかしな形であるにも拘らず、そこで得られた富を当たり前のものとして享受していたこと。
そしてそれだけに飽き足らず、せっかく俺達が支配した隣の町を襲い、その領土を奪い取って神々に、もちろんろくでもない存在に献上しようとしたことなどがこの連中の罪である。
というかそもそも、自分達の方がピンチであった過去においては、隣の町に残った僅かな食料……と呼べるようなものではないのだが、それさえも奪い尽くすために似たようなことを計画していたのだ。
これで死にたくないから許してくれだの、せめてもっと楽な方法で死なせて欲しいだの、どの口がそのような戯言を吐くのであろうか。
この挽肉器を使った『演技』による処刑など、この連中に対してはまだまだ生温く、もちろんこの程度のことで全部を始末してしまうこともない。
今しばらくは、精霊様がこの方法に飽きるまではまだ『選手』を招集し、華麗に飛び込む者を見つける作業を進めていくつもりではあるが……そろそろ面倒臭そうな顔をしているな、また別の、もっと残虐な方法を考えるタイミングかこれは……
「……う~ん、思ったよりも気合の入った神界人間は居なかったわね、全然演技しないし、もっとこう、クルクル回りながら最後は綺麗なフォームでサクッと挽かれて欲しかったのよね」
「無理だと思いますよ、この程度の方々の根性では死ぬに際してそのようなアツい気持ちを持った行動を取ることは」
「やっぱそうなのかしらね、じゃあまた別の……と、むしろ今日はペースダウンして、チョビチョビと処刑しながら明日を待ちましょ、そうすればもしかしたら追い返されたこっちの町の軍が戻って来るかも」
「うむ、敵の神々が、というか税庁のエリート神そのものがこの町へ来るかも知れないってことだもんな、ちょっと予定を早めて、仲間内で無理矢理戦わせる作戦を大規模にやるのもアリかも知れない……エリナ、すまないが向こうに連絡を取って事情を説明してやってくれ」
「わかりました、じゃあえっと……神様が来るかも知れないということで、そっちの戦いは一瞬で決着、というか『これはもう無理だし逃げるしかない』と思わせるような方法で……みたいな感じで良いですね?」
「わからん、そっちは任せた、俺達は……そうだ、おい市長の娘、神々がこの町に顕現するとしたらどこから出るんだ?」
「転移ゲートでしたらその、市長室の横の凄く豪華な部屋の、鏡の枠だけみたいな感じになった場所からです」
「おう、じゃあそこに案内しろ、ただ来させて対応するのも芸がないからな、この地を踏んだ瞬間に俺達がお出迎えしていることがわかるようにしておこうぜ」
「画鋲でも撒いておきましょ、それから最初に視界に入る場所にホンモノの鏡でも掛けておいて、下に『↑馬鹿』って書いておくの」
「あの、それは神々の逆鱗に触れてしまうのでは……」
「良いんだよ、どうせブチ殺すんだから」
それはどうかと、そう言いたげな市長の娘の襟首を掴んで引っ張り、俺達はまず悪戯をするために、神々がお越しになるという部屋へと向かったのであった……




