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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1158 支配

「うむっ、ハムにベーコンに干し野菜に……おいっ、もっとないのかこういうものが? まさかこの小さい倉庫にある分で全部ってわけじゃねぇよな?」


「そ、それで全部です、俺達が知っている限りでは全部で……あ、今ボスが来ましたんで、詳しい話はボスから直接聞いて下さいです、俺達は知らないんでホントに」


「ウソだったらブチ殺すし、マジだったとしても気分次第ではブチ殺すから覚悟しておけよ……で、ボスってのはどいつだ? そこのハゲか?」


「いいえ私ではございません、こっちのデブがここのボスです」


「どっちでも構わんが、本当に食糧はこれだけなんだろうな? 隠しているとしたら無駄だぞ、とっとと全部持って来やがれ」


「確かにそれで全部である、我はこの町の名士であって、オーバーバー神に協力したこれまでの実績を認められ、税率の改定後およそ1年程度だけ生きる権利をゲットしたのだ、今はその最後の1ヶ月程度である」


「……本当にそれでいいのかよお前?」



 明らかにバグッている神界人間の感覚、というか神界人間全てに同じことが言えるのではなく、ババァ神に付き従っている連中が少し通常とズレた感覚を持っているというのが正解なのかも知れない。


 とにかく全てを奪われ、そもそも奪われる前にも無駄であって何も権利を認められないような『捧げもの』をしていて、最後の最後でこの仕打ちである。


 それに満足していて、他の、何もかも全く許されずに収奪され尽くしてしまったこの町の神界人間よりも少しはマシであるといえばそれまでであるが、にしても何かがおかしいとは思わなかったのであろうか。


 まぁ、その程度の感覚しか有していないからババァ神に従っているのであろうし、そもそもこの神界において『人間』という存在は虫けら以下の『下等生物』なのだ。


 そういう扱いを受けることが当然だという教育を受けている可能性もあるし、自分達が何者であるのかという感覚において、もはや家畜程度の気持ちでいるのかも知れないと思うと、やはりそういうノリであってもおかしくはないものかと……異常であることには変わりないが。


 で、そんな搾取されっ放しのこの馬鹿が、どうしてデブ体型をキープすることが出来ているのかという点は気になるところであるが、それでも本当に食糧の方は隠されておらず、今目の前にあるだけが全てのようだ。


 保存のきく食糧ばかりではあるが、その分カラッカラに乾燥している者も多く、イマイチ味気ないものばかりであるのはどうしようもないこと。


 だがその分量が、まさか俺達全員で使用していけばおよそ1週間、いやガツガツと喰らっていたらそれも怪しい程度のものであることが問題である。


 さすがにもう少し量があると思ったのだが、とんだ見当違いで悪い方の結果を叩き付けられてしまったな。

 こうなったらこの町だけではなく、付近にある他の町でも略奪……ではなく調達をしなくてはならないであろう……



「……うむ、とりあえずここにある食糧は全部俺達が頂くから、そっちでリヤカーとか何とかも用意しろ、さもないと楽に死なせてやらんぞお前等……ってこの女神が言ってんだ、俺じゃねぇぞ神が言ってんだぞ」


「へへーっ、畏まりましたっ、では我々はこれで終わりにさせて頂きますっ、どうせこのまま生きていても、おそらく2,3日のうちにはこの町も崩壊することでしょうから」


「2,3日のうちに崩壊だと? 何があるってんだこの町に……まぁ、崩壊がどの程度のレベルを指し示しているのかわからんし、実質的にもうそうなっていると考え得る状況ではあると思うんだが」


「へぇ、実はですね、オーバーバー神様はこの町だけでなく、この近隣の町でも厳しい収奪を行っておりまして、それで隣の町がこっちよりも10倍はヤバいらしくてですね、その、狂った住民が徒党を組んで押し寄せてくるとの情報があるのです」


「徒党を組んでって、そんなことしてもこの町には何もないじゃない? 奪うものがないのに何をしに来るっていうの?」


「その、隣町での収奪が始まったのはこの町よりも少し早かったようでして、この町にはまだまだ残されているちょっとした雑草とか汚物とか、汚物に集る便所コオロギとか、そういったものまで食い尽くされてしまっているよようなのです」


「雑草まではわかるが汚物と便所コオロギはアウトだろ……」



 なかなかどうしようもない状況に陥っているらしいこの辺り一帯、これではどの町へ行っても時間の無駄で、食糧調達などろくに出来たものではないであろう。


 となると、今ある食糧分をキープしつつ、まっすぐにターゲットが居る税庁のある町へ向かうべきだということになる。


 さすがにそのメインの町では収奪が起こってはいないはずだし、食糧はそこでありったけ調達してしまえば良い。


 今の俺達の実力があれば今回のターゲットであるエリート神にも、仁平の力もプラスすることさえ出来れば勝利可能なようだし、ここはそうしておくのが得策だと俺は主張した。


 だがそうでない意見もあるようで、どうやらその論者はこの町を救う、この完全に終わり腐って、住民の中には『宝』を奪われて人間としての役割を終えた者も多い町を再生して味方に付けようと考えているらしい。


 そしてそういう考えをしているのが、パーティーメンバーのマリエルとジェシカだけでなく、女神や仁平も含む勢力になっているというのがまたアレなことだ。


 王女と貴族という、俺達の世界の人族の中でそういう政治系のことに口を出す身分にある2人と、そもそもの上位存在である神々の主張。


 それを無視して先へ進むわけにもいかず、またここでの戦いは追加の修行にもなるのではないかという意見も出たため、ひとまず考慮に入れたうえで話し合いをすることとした。


 いずれにせよ、問題になるのはきっと食糧と時間であって、それさえどうにかなってしまえばそれ以外に何か話し合うべきことはない。


 この場に居ても今ある以上には何も食えないこと、そして早くターゲットの所へ行って、この極悪ムーブメントを止めると同時にババァ神の影響力を少しでも削らなくてはならないところ。


 さらには俺達が狙っているのはターゲットのエリート神だけでなく、官公庁オークションに出されるのだという鏡に関するアイテムをゲットしなければならないというものもある、これも期日に間に合わない場合にはどうしようもなくなるのだ。


 果たしてどうやってそのふたつの問題を解決すべきなのかであるが……まぁ、誰かが良い考えを出してくれることに期待して、この場で食事しながら作戦会議を始めることとしよう……



「勇者よ、まず食料に関してなのですが、これはもう私達神々の責任でどうにかするしかないと、そう思ってもいるところです」


「そうねぇ~っ、さすがに道中がここまでエグいことになっているとは思わなかったしぃ~っ、2日、いえ1日あればこっちでそこそこのモノを調達してあげるわよぉ~っ」


「いや待て、あんたの言うそこそこのモノは本当にアレなモノである可能性が極めて高いからな、食料に関しては女神のセンスでどうにかして貰いたいと切に願っているところだ」


「わかりました、では私の方でどうにか……それと、ここで足踏みしていては税庁を攻め落とすのが遅くなってしまうという問題ですが、どうしましょうか?」


「それは簡単だと思います、税庁? とやらにまで、こっちがここで暴れているということを知らしめてあげれば、向こうも対応に追われてなかなか身動きが、みたいなことになるんじゃないですか?」


「エリナ、だったとしても私達がここに居ることを、このルートで攻め上っていることを教えてしまうことにもなりますの、危険といえば危険ですわよそのアピールは」


「でもどうかしら? もしかしたらこの騒ぎを聞きつけて、そのエリートの神? とやらが直接乗り込んで来て……ってなったらそこまで行かずに打ち滅ぼすチャンスにならないかしら? それか、側近が来てくれてそいつを殺すだけでもメリットがあるわよねこっちに?」


「まぁそうではあるが……となるとやるべきことはアレだな、あのゴッド裁判所を落としたときみたいな……この町の支配完了アピールか」


「となるとぉ~っ、まっ、旗はまだ余っているからそれでいけるわねぇ~っ、それで、この町の復興なんだけど……それにはやっぱり食糧が必要になるわよねぇ~っ」


「それと、やべぇクスリにやられた徴税官の復活もな、元市長の肉塊はもう無理だろうが、そっちはどうにかして味方、というか諸々やらせるスタッフにすることも可能だぞきっと」



 現に今、ここには記念すべき最初の被救出者である女徴税官が居るのだから、これと同じように正気に戻していけばそれで『スタッフ』が集まる。


 ということで現時点である食糧は運び出さずにこの場に残しておき、またこの敷地の元所有者である元町の名士の部下連中も、一旦こちらで召抱えて使用することとした。


 なお、元町の名士はデブだし役立たずだし、そもそもババァ神の信者であるからまるで要らない、家畜以下のゴミにくれてやるポストはないのだ。


 なのですぐに追放してしまっても良かったのであるが、それよりも罪を着せて処刑する方が有用だと思ったので、一旦その場で『謹慎』しているようにと命じておいた。


 さて、これで最初の組織作りはどうにかなったような気がしてきたわけであるが、肝心なのはこの町を俺達が支配しているという象徴になる建物だ。


 せっかくなのでこの場所を使用したいと思ったのであるが、やはり何も建っていない更地に何をしても威厳がないのである。


 となるとやはり元市長が居て、未だに『宝』を失ったままの徴税官のヘッドに滞在させているあの場所を使う他なさそうだな……



「よし、一旦複数の見張りだけ残して移動しよう、今ある貴重な食料を盗まれても敵わないからな」


「ご主人様、この生ハムの原木だけ持って行っても良いですか?」


「良いぞ、だが丸ごと齧り付くと塩分が多いからな、ちゃんと削って少しずつ食べるんだぞ」


「わかりましたーっ、よいしょっと」


「うむ、カレン殿も元気を取り戻したようで何よりだ、では……そこの兵とそこのハゲか、2名残していく感じでどうだ?」


「まぁ、良いんじゃないのか? じゃあお前等、つまみ食いしたら死刑、もし賊に押し入られて、その辺に落ちている小麦のひと粒でも奪われたら死刑だからな、あと水も消費すんなよ、お前等の命とか尊厳より水の1滴の方が大事だから……って神々がそう言ってんぞ」


『へへーっ! 畏まりましたっ! 命に代えてもこの場をお守り申し上げますっ!』


「黙りなさいやかましい、そういうものは行動をもって示すものですから、臭い口を開いている暇があったらさっさと動きなさい、この下等生物が」


『へへーっ!』


「だからうるせぇって言ってんだろ……」



 神の命であるということで、もうこんなことをして入れば余裕で餓死してしまうのではないかと、むしろ死ねといわれているに等しいような行動を普通に取り始める馬鹿共。


 神界において、この『神の命』遠いウノは非常に使い勝手が良く、何をするにしても利用していきたいと思うような魔法の言葉である。


 まぁ、それは神界だけでなく、魔界などにおいても同じことが言えるのだが、とにかくこれのお陰で物事がスムーズに進むのはあり難いこと。


 で、地下の食糧倉庫、というか元町の名士の隠れ家を出た俺達は、ボロボロの旧庁舎へ戻って作業を進めることとした……



 ※※※



「とりあえず旗は立てておきました、でも……ちょっと情けないですねこのボロイ建物だと……」


「うむ、大規模な修繕が必要になるところだが、今はそれに構っている暇じゃない、まずは俺達がこの町を制圧したということをアピールするために……どこかのメディアに投げ込みでもするか、取材に来させるんだ」


「でしたら私の家がある町にちょうど良い方々が居ますし、神界人間ではなく天使の組織なので信用も出来ます、そこに話を伝えておきましょう」


「そうしてくれ、じゃあ仁平にはここに構えて貰うこととして……町の生き残りとかに対してもアピールしていかなくちゃだな、どうする?」


「それはほら、徴税官を元に戻す作業をしつつ、この町を救ったのが私達で、もちろん神々を擁している正統性の高い勢力だって、そんなアピールをしていけば良いのよ、あと、凄く強いってこともね」


「おっと、徴税官のことを忘れていたぜ、じゃあすぐに出て、女性キャラ中心で救っていくこととしようか、ひとまず行くぞ」


『うぇ~いっ』



 やるべきことをすっかり忘れていたのであるが、精霊様の発言のお陰で思い出したためすぐに着手することが決まった。


 町へ繰り出し……いやこれが町であるというのは少し語弊がある程度のヤバさを見せ付けてくれるとんでもない場所だが、その中で住民を襲う徴税官を探し出していく。


 徴税官の中には案外女性キャラも多いらしく、邪悪で完全にラリッた顔をしていた連中も、解毒薬を1滴与えるだけで元の真面目な役人に戻っていくのが面白いし、人員の確保も捗って良い。


 で、そういった明らかに使えるキャラだけを助けて生きたいのは山々なのであるが、それでもその他の、本来は生かしておきたくもないような不快なビジュアルの奴も助けていかなくてはならないのが今回のミッションの辛いところ。


 徴税官のヘッドにはババァ神の悪事の証拠を世に知らしめる証拠物として生きていて貰わなくてはならないから、どうしても今回の件の、町を崩壊させたことの責任を取って処刑される役割の者が必要なのだ。


 それも1匹や2匹ではない、そこそこの数の徴税官が『悪』で『犯罪者』であるとして命を絶たれてこそ、これまで被害に遭ってきたこの町の連中の溜飲が下がるというもの。


 町の住民はここで助かったからといってすぐに食事にありつけたり、奪われた財産が原状回復するわけでもないため、その怒りは本当に大きいはずであるから……



「オラァァァッ! 税を出せぇぇぇっ! さもなくばトレジャーを寄越せぇぇぇっ!」


「はいはい、そこのおじさんもこの解毒薬をどうぞっ」


「税……あ、あれ? 俺はどうしてこのような悪辣なことを……まさかオーバーバー神様の部下の部下の部下の……みたいな偉い方に与えられたクスリのせいで……」


「それはお前が潜在的にそういう神界人間だったからだ、操られていたのは事実だが、酒を飲みすぎて本性が出たのと一緒だぞ、ということで死刑! それで良いな女神?」


「えぇ、まぁ私が判断すると死刑ではなくて、完全に堕ちた状態でこの神界においてガン無視され続けることになるので……神界人間のことは神界人間で決めると良いと思います」


「だってよ、お~い、被害者の皆さ~んっ、この腐ったおっさん徴税官を導処分するんだ~っ?」


『殺せぇぇぇっ!』

『そんな奴許してなるものかぁぁぁっ!』

『徴税官共は八つ裂きだぁぁぁっ!』


「……だってよ、ということでお前こっち来い、後でまとめて、イベント的に人を集めて盛大に処刑するから、楽しみにしておけよな」


「そっ、そんなっ、ただ操られていただけでそのようなっ、これまで真面目に生きてきたんだぞっ、そんなことがあって良いはずがないっ!」


「あって良いはずがないかどうかを決めるのはお前じゃねぇ、この俺様だ、わかったかこの実質死人めが、とっくの昔に逝った毛根が三途の川の向こうで手招きしてんぞ、とっとと逝ってやらないとだ」


「・・・・・・・・・・」



 その後もゴリ押しで『要らなさそう』な感じの、どの角度から見ても無能キャラであろうおっさん徴税官に罪を擦り付けていく。


 なかなか今回の件が自分のせいであるということを納得してくれる者は居ないのであるが、この大勇者様たる俺様がそうだと決め付けたのだから、そして神々がそれに対して特に口出しをしないのだから、それが真実であって正義であるということがなぜわからないのか。


 まぁ、そんな程度の知能しか有していないのが神界人間という連中で、しかも相手にして居るのはその中でも特に愚図で使えないハゲばかりなのだ。


 多少理解が得られない部分はあると思うが、それらが納得したかどうかに拘らず、俺達のやりたいようにやらせて貰うしかなさそうである……



「税をぉぉぉっ……あれ? あの、すみません私、かなりいけないことをしていまして……」


「いやいや、徴税官のお姉さんには罪などない、悪いのはババァ神と、それからお姉さんと同じように操られていたおっさんの徴税官だ」


「確かにそうですね、おっさん徴税官は基本的に無能な奴ばかりで、そのせいでこの町がどうにかなってしまったんです、彼等が悪いということが良くわかりました」


「よろしい、ところで俺達、というかここに居る女神と、それからホモだらけの仁平という神でこの地を治めることになったんだ、ぜひ協力して欲しい」


「わかりました、では参りましょうか、私の力をお貸しします」



 こうして徴税官を元に戻しつつ、その一部をスケープゴートにしつつ、俺達は町の中での影響力ウィッ気に高め、同時に反ババァ神のノリでそれらを団結させることに成功した。


 すぐに女神が呼んだ取材の連中がやって来て、俺達がこの町を制圧してかつそこの神界人間の支持を得ているということも報道され、これさえ広がればこの支配は確かなものとなる。


 あとはババァ神やそれに与する勢力の連中、特にこの町を陥れる直接的な原因となっていて、おそらくババァ神からこの辺り一帯を任されているのであろう、税庁の支配者のエリート神の反応を待ちたい。


 奴さえブチギレしてこちらに攻めて来てくれれば、それをどうこうしてしまうことによって、わざわざ税庁のある町まで行く必要もなく、目的の一部を達成することが出来るという寸法である……

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