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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1155 変なの

「……うぉっ、今ちょっと向こうの丘を越えた先に何か見えたぞ、町なんじゃねぇのか? てかそれ以外に考えられんぞ、良かったなカレン」


「もうお腹空きましたーっ、歩くのイヤなのでそこまでおんぶして下さい、よいしょっ」


「しょうがねぇなぁ……っと、本格的に見えてきたぞ、そこそこのサイズの町みたいじゃねぇか、どこが大きくないんだよ?」


「まぁ、神界人間の人口は10万もない程度ですし、天使も500前後しか滞在していない町ですから」


「それでも王都の半分程度はありますね……神界人間というのは畑で採れたりするのでしょうか……」


「そんな、どこぞの兵士じゃねぇんだから……まぁ、無限にコピーしていたクソババァは居たようだがな」



 魔界もそうであったが、やはり神界の方もそこに住む『普通の人間』の数が非常に多く、10万程度の町はもうかなり規模が小さいものであるようだ。


 俺達の世界では王都でも20万程度、もちろんそれ以外の町になればかなり人口が少ないところもあるし、村などになると200から300前後というところも多い、ほとんど少数民族である。


 その他の異世界ではどうなのかというところまではわからないが、少なくとも俺達が今居る世界が、他よりも『人間の繁栄』という意味でそこまで遅れているものだとは思わないのだが……


 で、神界に話を戻すと、これから向かう先の神界人間の人口がおよそ10万程度であるという小さな町、面積的には本当に小さいらしく、周囲をグルッと城壁のようなもので囲んであるのが見受けられる。


 城壁といっても申し訳程度のものであって、上部が平らになっていないのを見る限り、修理中か或いは建設途中で予算がなくなって放置されたかのような感じ。


 その様子を見る限りでは、そして接近してみて初めてわかったのだが、通常の町と違ってメインの入口を門番のような兵がみはっていないことからも、そこまで裕福な町ではないということがわかる……のだが、少し様子がおかしくはないか……



「……なぁ、今もう町の中が門越しに見えているんだが……ちょっとアレじゃね? すんごく疲弊している感じじゃね?」


「……そのように見えなくもありませんが、もしかしたらお祭りなどの後で皆疲れ切っているだけなのかも知れません、それにほら、崩れかけた建物なんかは山車を牽いた際にぶつかったりしてあの用意なったという可能性もありますから」


「とてもそんな風には見えないんだけど、というか敗戦後のボロボロ状態っていう方が近いんじゃないのかしらこれは?」


「よくわからないけどとにかく行ってみましょう、さすがにお肉ぐらいは残っているはずです」


「全部賞味期限が切れていそうだがな……と、ホントに何の確認もなく町へ入ることが出来るんだな……良いのかマジで?」


「というか、周りの方々はもうこちらを気にする余裕もない感じですね、目線は向けたりしていますが、ボロボロの布を纏って地べたに座り込むばかりで……地獄に来てしまったみたいですねまるで」



 もうこんなことを感じるのは何度目になるのかわからないのだが、本当に個々は美しく豊かな神界なのかといった印象を受けてしまうような町の光景。


 神界人間はそこそこの数入るのが見受けられるのだが、どいつもこいつもガリガリに痩せこけ、もはや立ち上がる気力すらない様子でへたり込んでいる奴も散見される状況。


 その感じからするに、飢饉のようなものがこの町全体を襲ったのではないかと、そう予想してしまいたくなるところなのだが……この町だけピンポイントで、というのがまずおかしいではないか。


 少なくとも神々の力で他の町や村、それこそ農業地帯や漁村などとも連携することが出来るわけだし、いきなり何の食糧もなくなってこのような状況になってしまうというのは異常なことだ。


 つまり何か別の理由があって、このような悲惨なことになっていると考えるのが妥当であって、同時に考えない限りこの先には進めない要素でもあるということ。


 どうするべきかと皆で固まって話をするのだが、上位の神の仁平でさえもこのことについてまるで知らない様子であるから、ひとまずこの町を管轄している市長や何やらに話を聞くべきだということに決まった。


 町の中心にはそのための庁舎があるはずで、そこへ行けば神界人間の市長なり、またそれを監督している天使なりに出会うことが出来るはず。


 ということで町の中心であろうという方角に向かって歩き出したところで、どうやらこの状況の直接的な原因らしきものが、向こうから姿を現すかたちでやって来たではないか……



『オラァァァッ! お前等ぁぁぁっ! 税を出せゴラァァァッ!』


『ひぃぃぃっ! もう勘弁してつかぁさいっ、出せるものは全部出したんでさぁっ!』


『うるせぇぇぇっ! まだあるだろぉが何でもぉぉぉっ! 税を出せぇぇぇっ! 税を出せぇぇぇっ!』


「……おい、何か知らんが徴税官みたいな神界人間がその辺の疲弊し切った神界人間をいじめてんぞ、良いのかあれ?」


「良いわけないわよねぇ~っ、普通に考えてアウトなのよねぇ~っ、ちょっと、まずはアレをブチ殺してから被害者達に事情を聞いてみる必要があるわよぉ~っ」


「勇者よ、あの徴税官らしき神界人間を……楽に死なせるのは惜しいですね、半殺しにしておいて下さい」


「うむ、ではえ~っと、個々から指先だけで衝撃波を……ツンッと」


『税をっ! 税を出せっ! 税……あんぎゃぁぁぁっ! 何か知らんが腕がっ、俺様の腕が徴税されちまったぁぁぁっ! ぎゃぁぁぁっ!』



 かなりパワーアップしてしまっているのは実感したが、それでもどうにかその力をコントロールして徴税官らしきおっさんの生かさず殺さず、ギリギリの状態で倒すことに成功した。


 このままだとさすがに死んでしまうということで、ルビアがその吹き飛んでしまった腕の断面の治療のみをして、徴税官のおっさんはそのままそこに転がしておく。


 どうせこの状態で逃げ出すことなど出来ないであろうし、もし万が一逃げ出したとしても追えばすむ話。

 もちろんその際もまだ殺さずに、後でどのような目に遭うのかということを丁寧に教えてやるに留めるつもりではあるが。


 で、気になるおはやられていた神界人間の方、ボロボロでガリガリの状態のまま、地面に転がって微妙に痙攣しているジジィなのだが……



「おうじいさん、大丈夫なのかお前?」


「ひっ、ひぃぃぃっ! もう出せるものはねぇでさぁっ! 勘弁してつかぁさい、勘弁してつかぁさいっ!」


「いや、俺達は徴税官じゃねぇから、それにほら、こっちには神々が付いてんだよ、とにかく事情を話してくれないか? この町全体に起こっていることと、今そこに転がした徴税官がどこから来て何をしているのかってことをな」


「へ、へぇ、そこの徴税官は税庁から送られてきた……らしいでさぁ、だがつい最近まで真面目で、強要することといったら『税の書道コンクール』で、子どもに『納税』とか意味わかってないのに書かせるぐれぇだった税庁が、いきなりこんな、こんな重税を課してくるなんて思いもしなかったんでさぁ」


「ほう、つまり最近その税庁がどうにかなって、それで……税率はどのぐらいなのかしら?」


「わがんねぇ、どんどん引き上げられて、気付いたら『15公マイナス5民』になっていたところまでは把握しているんでさぁ、でもその後はもうただひたすら奪われるのみで、もう何がなんだか……」


「マイナス5民って、生産性ゼロ以下じゃないですかその税……もう単なる略奪ですね」


「んまぁ~っ、間違いなくあのババァの仕業よねぇ~っ、見たところこの町は元々豊かで、農業的にもイケイケだったみたいな痕跡があるしぃ~、どうにかして全部奪いたかったのねぇ~っ」



 その辺に落ちていたポップな表現の、しかし今は踏み躙られて汚れ切ったパン屋の看板を拾い上げ、仁平はこの町が元々は豊かで、食糧にも溢れていたのであろうという予想をする。


 確かに見渡してみれば、肉屋だの八百屋だの、そして料理や酒を提供する店だのが立ち並んでいる、いや立ち並んでいたというのが正解か。


 とにかくそんな町の『富』を狙って、ババァ神は『徴税』という名目で全てを奪う作戦に出たのであろうが、それは非常に効率の悪いことでしかない。


 普通に、持続可能な形で少しずつ搾取していけば、それこそ未来永劫この町の豊かさの一部を自分のモノに出来たというのに、一切それをしていないのだ。


 今ある分のみを徹底的に奪い尽くし、そしてこの町を完全に崩壊させてしまったことによって、もう富が富として成長することはなくなってしまったのである。


 何らかの理由で肝臓の一部を切除しても、しばらくすると勝手に元の大きさに戻るのだという話を聞いたことがあるが、全摘出してしまえばそれはもう叶わない。


 そのことと同じようなことを、あの腐った性根のババァ神はこの町でやらかしてしまって……いや、欲深いゆえにそうしてしまったのではなく、あえてそのようにしたのかも知れないな。


 あのどうしようもないババァ神のことだから、この町が全てを失って崩壊し、神界人間が苦しんで死んでいくのが面白いからそうしたという可能性も十分にある。


 富の収奪であれば、ここがダメになってしまったとしてもまた別のターゲットに移れば良いだけの話であるから、ババァ神にとってこの町の崩壊は特に痛手ではない。


 むしろそのことを目的としているのではない、富の収奪だけを目指しているのではないということは、このような悲惨な状態になってしまった町でもなお、同じように『異常な徴税』が行われていることからもわかる……



「さて、事情はわかったわけで、それが誰の仕業であって何を目的としているのかってことまでは大体把握したわけだが……どうするよこの状況?」


「うぅっ、神様とその使いの方々、どうか、どうかこの徴税官共を全部止めて下せぇ、さもないと、さもないと町は本当に崩壊してしまいまさぁ」


「どういうことだ? というかもう普通に崩壊してんだよこの町、諦めて別の場所に引っ越したらどうだ?」


「それどころじゃないんでさぁ、もう獲られるものを獲られ尽くして、ケツの毛まで毟られて、最後は『宝』までも捥ぎ取られている町人が多いんでさぁ」


「宝……なるほど、それで股間を抑えた状態でそこから出血して死んでいる奴が多かったのか……『珍宝』を奪われてしまったんだな?」


「そ、そうなんでさぁ、それで、『宝』を奪っているのはこの町の、庁舎に陣取った徴税官のボスで……確か税庁のエリート神様の部下の部下の部下のそのまた部下の部下の部下ぐらいの強者だと言っていたんでさぁ」


「神の部下の部下の部下のそのまた部下の部下の部下……神界人間にしては異常な出世ですね、オーバーバー神の繋がりですから、何か不正をしてそこまで登り詰めたのは間違いありませんが」


「……それは偉いのか? 一番上が社長として、そこから順に下ってもほぼヒラにしか思えないんだが?」


「少なくともこの規模の町の市長よりは10段階ぐらい上になります、そもそも神界人間など、もし神が人間のラインだとしたら、玄関で飼っているやたらに巨大化した金魚救いの金魚とか、田んぼで捕まえたイモリとか、その程度の存在なのですから」


「金魚はまだしもイモリなのかよ……わかった、じゃあ早速そいつの所へ……せっかくだからこの馬鹿を使って案内させよう、おい観光ガイド、仕事が出来たからとっとと起きやがれ、この場で惨殺されたくなかったらなっ」


「ひっ、ひぃぃぃっ! 税がっ、税が襲ってくるぅぅぅっ! やめてくれぇぇぇっ! 追徴課税だけはやめてくれぇぇぇっ!」


「完全に壊れてんじゃねぇか……」



 サリナに見て貰ったところ、どうやらこの町税関にはやべぇクスリがふんだんに投与され、元々正気を失った状態であのようなことをしていたのだという。


 確かに、元々はこのようなことをしなかった、真面目な徴税官であった者をババァ神の悪事に引き込むためには、そのようにコントロールする仕掛けをしなくてはならないということだ。


 よってこの徴税官はこの場で処分してしまうこととしたのだが……おそらく他の、コイツと同じ身分の奴もこの状態なのであろう。


 一部は助けてやる必要があるキャラなのであろうから、ここから先は一旦徴税官について無視して先へ進み、それを元に戻す方法を発見するなどしてから、改めて対応に当たることとしよう。


 先に親玉の、その神の部下の部下の部下の……だという奴から始末していくことにするのだ……



 ※※※



「……これがこの町の庁舎……だった場所か、徴税した金で金ピカにでもしているんだと思っていたんだがな、そういうわけでもないらしい」


「きっと全部あのババァの神の所へ送ってしまったのね、規模は違うけど、前にやっつけた反社のオフィスとあまり変わらない感じだわ」


「ホントに、自分達は損してまでどうしてあんな神様に忠誠を誓うんでしょうか? 儲からないならやめれば良いのに」


「下の連中は馬鹿だからそうするのさ、捧げ続ければ何か見返りがあるんじゃないかと思ってな、まぁ、実際には馬鹿にされて搾取されているだけなんだが」


「しかし、オーバーバー神より上の、この神界を支配している神々はそうはいかないはずです、オーバーバー神からの資金流入が途絶えれば、簡単に掌を返すはずですのでご安心を」



 もうボロボロの廃墟にしか思えない状態になってしまっている町の庁舎、住民からだけでなく、こんな場所からもババァ神は搾取をしてしまっているのが明らかである。


 で、そこにはババァ神の部下の部下の……というかなり下に位置する神界人間が居て、それが権力を振るっているということなのだが、果たしてどこに居るのであろうか。


 ひとまず崩れてくるような心配はないし、もし崩れて下敷きになったとしても、用意に脱出することが出来る程度の質量であるから、トラップ等がないことだけ確認したら突入することとしよう。


 入口付近から内部まで、念のため敵キャラが配置されていないのかどうかというところまで入念に調べた結果、一切そういったものはないとの判断が下される。


 これはおそらくそういったものを設置する予算さえも、ババァ神への献上に割いてしまった結果そうなっているに違いない。


 それで居てそのババァ神の協力者をしているここのトップの深海人間が微妙に不憫に思えてもきたのであるが、これからブチ殺されることに関しては自業自得でしかないであろう。


 ついでに言うとそいつ以外の協力者に関しても、金銭的に余裕がある者を除けば全てこのような感じなのであろうから、どうしてそんなに容易く騙されてしまうのかということについても探求したら面白そうだ。


 で、そんなことを考えている間に突入が始まってしまっていたため、俺も後を追って建物の中へと入った。


 ボロボロになってしまっている壁や天井を見ながら、一部崩れかけたような、木の板も腐っているような階段を登り、どうやら元々は市長的な奴が使っていたらしい部屋の前へと辿り着く……



「コンコンッと……返答がないな、おーいっ、居んのかこのクソ野朗!」


「反応がないわね、中で死んでいたりするんじゃないかしら?」


「……う、何か動いているような気配はありますよ、居るには居るんだと思いますけど……人間っぽくないです」


「クリーチャーでも雇ってんのかあのクソババァ、とにかく入ろうぜ、オラァァァッ!」



 扉を蹴破り、改めて室内の様子を確認すると、そこには確かに何か生物……であったらしい肉の塊が鎮座していた。


 本当に挽肉を捏ねたような、だが一体型でバラバラにはなりそうもないそのブヨブヨした塊には、不気味に動く目のようなものもあってそれがこちらを見ている。


 それと目が合った瞬間、鳥肌が立つような不快さに襲われたのは俺だけではないはずで、入るときはノリノリであったマーサがシュッと逃げたのはその証拠であろう。


 とにかく気持ちの悪い何か、人間サイズの肉をそのまま捏ねて塊にしたのかとも思えるようなそれは……確かに生きている何かだ。


 こちらをジッと見つつ、何かを訴えかけるようなその肉塊に対して、接近した仁平がチョンッと指先を触れると、ブルブルッと震えるような反応を示したのであった……



「うぅ~ん、意思の疎通とかはちょっと無理かしらねぇ~っ、かといってこのまま殺しても特に得られるものはなさそうだしぃ~、どうするべきか少し考えましょぉ~っ」


「まずさ、コレが何なのかちょっと調べないと、元々神界人間だったわけ? その、さっき言っていた部下の部下の、みたいな奴が何かの理由でこうなっちゃったってこと?」


「まぁ、そう考えるのが妥当だとは思うんだが……かといってそうと断定するわけにもいかないし……マジで何が起こってんだよここで?」


「ツンツンッ……うっほぉっ、ブルブルなったっ! あ、この人下にちっちゃい手が付いてますよ、はい、そこにあった筆ペンをあげますね」


「どうしたリリィ? うむ……なるほど、完全な肉塊になっているものだと思ったが、そうでもなかったってことか……ペンの持ち方とかはちょっと人間のそれだよな……俺達が言っていることがわかるか?」



 直後にその肉塊の手らしき部位が動き、リリィから手渡されたその羽ペンで、床に直接、しかもプルプル震えながらではあったものの『わかる』という文字が書き込まれたことを認めた。


 どうやら知能の方はギリギリ保有したまま、神界人間だという元々の中身のまま、ビジュアルだけこのようなわけのわからない、変なバケモノに変えられてしまっている様子。


 そして、追加では特に何も聞いていないその状態で、その変なのが『長文可』と地面に書き込んだのを目にする。

 そういうことであれば、ここから地道に半分筆談のような感じで話を聞いていくこととしよう……

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