1150 次の計画
「ムッキィィィッ! こっ、今度は何をしたザマスかっ? ホモだらけの仁平! 貴様何をしたザマスかぁぁぁっ!」
「何ってぇ~っ、ちょっとあんたの本拠地を破壊しただけよぉ~っ、あ、私のお城の近くに、これみよがしに建てていたアレじゃなくてぇ~っ、ほら、もっと大事なと・こ・ろっ」
「も……もしかしてあんな遠くの拠点を……ムッキィィィッ! どうしてその場所を知っているザマスかぁぁぁっ!」
「いやさっき教えてくれたじゃねぇか、そんなことも覚えていないのか? 馬鹿なのかこのクソババァは、やーいっ、バーカッ!」
「キィィィッ! それは別件で教えた情報だというのにっ、勝手に流用して攻撃に使うとは何事ザマスかぁぁあっ! 許さんザマス! この町ごと消し飛ぶザマス! カァァァァァァッ!」
「あらぁ~っ、ちょっとヤバめよねこれぇ~っ」
「一旦焼きますの、その後吹き飛ばして欲しいですわ、それっ!」
「ギョェェェッ! アヅイアヅイアヅイアヅイアヅイッ! キィィィッ! ザマス!」
「じゃあ~、私がこのバブリーな感じのダンス用扇子で扇いであげるわよぉ^っ」
「ギャァァァッ! 覚えておくザマス! いつか復讐してやるザマスからぁぁぁっ!」
「……燃えながら飛んで行ったな、まぁ大丈夫か、あのぐらいで死ぬようなキャラじゃないだろうから」
せっかく11匹に増殖したというのに、オリジナルがどこに居るのかモロバレの状態でキレ散らかしていたババァを、まずユリナが火魔法で燃やし、そして仁平が謎のカラフル扇子で扇いで吹き飛ばす。
その火魔法の温度は億℃を超え、扇がれた際に発生した風というよりも衝撃波は、仁平を中心としたかなりの範囲が完全に真空になってしまうほどの強烈なもの。
それをピンポイントで受けたババァ神はなにやら捨て台詞を残し、先程の攻撃によって破壊され尽くしたことであろう、遠くの拠点に向かって飛んで行った。
この場に残ったのは戦闘によって崩壊した町と無数の死体、それから大破後落下したババァ神の空飛ぶ玉座、そしてコピー品のババァ神が、何の命令も受けていない状態で10体立ち尽くしているのみ。
……と思ったらもうひとつ、ババァ神の忘れ物である『伝説の鏡』も残っているではないか。
このままだとまた謎の力で回収され、ババァ神の下へと戻ってしまうことになるな。
ひとまずこちらで回収して、もっと有効に活用してやる必要があるなこの鏡は……少なくとも薄汚いババァ神の分身を産出するような仕事は、この伝説の神界アイテムには似合わないのである……
「ちょっとマーサ、そっち持ってくれ、落とすなよ、鏡は繊細なんだからな」
「わかった、いくわよっ、せーのっ、よいしょっ」
「よいしょっ……うむ、後ろの建物だけは無事だからそこへ運び込もう、係員の天使は……チッ、ほとんど死んでんじゃねぇか、使えない連中だな全く」
「勇者よ、このあたりに散らばっている天使は後で可能な限り、使えそうな範囲で蘇生しておきますので、今はそちらの鏡を大事に運んで下さい」
「あぁ、あのババァは飛ばしたり浮遊させたりメチャクチャだったがな、そんなことしていたらいつか壊れるぞ、このサイズだし」
『……我を丁重に扱うとはなかなか見込みのある生物だな、何という種族か……サルの仲間、しかもかなり下等な種であるように見えるが……知能は極めて低いようだな』
「うるせぇクソ野朗、お前が機能面で有用だからこうして大事にしているわけであってだな、使い道がなくなたtらストレス発散用のサンドバッグにすんぞっ……っと、マーサ、ここに立てるぞ、良いか?」
「はいはいOKOK、よいしょよいしょっ……良い感じじゃないの」
ひとまず建物内へと運び込み、しかるべき場所に設置した姿身のような伝説の鏡……やはり俺達が持っている鏡とはかなり異なる、不思議な力を強く感じるものだ。
しかも鏡の分際で喋るとは、どこか魔界武器の残雪DXを彷彿とさせるようなアイテムであるが、そういえばあの馬鹿武器は魔界の拠点で大人しくしているのであろうか。
ここのところ戦いにも連れ出していないし、そもそもの装備者であるエリナにも会わせていないから、ストレスが溜まってわけのわからないことをしでかさないと良いのであるが。
と、それよりも今はこちらの鏡についてである、ババァ神がどうやってこれを手に入れたのか、またこの状態でゲットしたのか、それともゲットした鏡を自力で強化したのかはわからない。
だが少なくとも、幼女神の拠点において発見した資料の中に、このような魔法の鏡のものがあったのは記憶していて……そういえばそれと残雪DXの資料がセットであったな。
そろそろそのあたりに何か繋がりが見えてくるのではないかと、そうも思ってしまうところであるが、かなり面倒なことになりそうなので今のところはスルーだ。
ここではこの鏡、また俺達の持つもうひとつの鏡を用いて出来ることをやっていくべきところだ。
そしてまず最初にするべきは、ババァ神が残して飛んで行ったもうひとつのもの、こちらはゴミなのだがその処理である……
「おい、何というか……鏡よっ、外に出したあのコピー品の薄汚いババァだ、アレをどうにかしろ、さもないと叩き割るぞ」
『……なんと不快な生物なのだ貴様は……だが我自身もアレはさすがにキモすぎて消したいと思っていたところである、良かろう、至極無様な最後を遂げさせてやる』
「結局ちゃんと言うことは聞くのよね……あら、外から地獄の底みたいな悲鳴が聞こえて……あのババァの神様の分身が燃えているみたい、普通に苦しんだりするのね分身でも」
「良い気味だぜ全く、可能であれば本体にその苦痛だけでも届いていて欲しいところだがな、まぁ、今は奴もユリナの魔法で真っ黒こげだからアレか」
「ところで鏡さん、どうしてあなたは真実を移すことなく、単にその場の光景を映しているんですか? 私達の持っているコレとは何か違うんですか?」
『コレとは……先輩じゃないっすけっ、ちぃーっす! 先輩ちぃーっす! ご無沙汰っす先輩……うむ、どうやらまだ喋る機能が失われたままのようであるな、貴様等、先輩をさらにもう1段階進化させいっ』
「偉そうに、てか私達が持っていたのがこの姿身の前のモデルだったってことね、それで、機能の違いに関してはどうなの? そこの方が重要なんだからちゃんと答えなさい」
『機能面であるか、そうだな……』
そこから伝説の鏡による長い長い語りが始まった、どうしてこういう奴というのは、自分のことについて述べる際に大げさで、長ったらしい語りをするのかが謎である。
で、その内容を抜粋するなどしてまとめたところ、どうやらこの鏡と、それから先輩と呼ばれた、俺達の持つ『真実を映す鏡』は同時期に、神界の同じ場所で製造されたものなのだとのこと。
伝説の鏡が言うので、裏面に刻まれているシリアルナンバーを確かめたところ、俺達の鏡とコイツとでは、その数字が5しか違わなかった。
そしてその間に製造された、いわばこの先輩後輩の中間に位置する『2年生』のような鏡に関しては、長い時の中で失われたり、どこへしまわれたのかわからなくなっている可能性が高いのだという。
ちなみに、どちらの鏡もそのシリアルナンバーは『950番台』であったため、伝説だの何だのと言いつつも、当時においてはそこそこの数が製造された品であったということもわかったが、それについてはあまりにも不憫なので黙っておいた。
そのことがわかってからも伝説の鏡による語りはまだまだ続き、むしろそこでようやく序章が、自分達の製造に関する内容が終わったようで、やっとのことで本題に入るらしい……
『……そして我々はそれぞれに有用な機能を持って、オリジナリティ溢れる一点モノの鏡として神界の神々や、それ以下であっても成功を収めていて金がある生物の下へと送り込まれたのである』
「なるほど、それでこっちの鏡は真実を映し出す能力があって、あんたは……映したものを無限に量産する効果があったというわけね?」
『……その通りである、だがあの鬱陶しいババァめ、オーバーバー神といったか、我を手に入れるとすぐに、誰でもちょっとやって見たいなとは思うけどさすがにヤバいからやめていた金銭の複製に、もう最初からそのつもりであったのではないかという勢いで着手しよってからに、本当にクズであった』
「まぁ、そのつもりだったんだろう最初から、あのババァのことだからな、そんな悪事でも自分がやることによって一切罪を負わないことになると思い込んでいたんだろうよ」
『……奴め、その後も配下の天使を増やしたり工芸品を増やしたり、挙句飲んでいた酒を注ぐのが面倒だから精製し続けるようになどと無茶を言い出してな、そのときは明らかに酒税法違反だからということで神界税庁に通報したのであったが……なぜかダメであった』
「握り潰されたということですね、まさか税庁までもがオーバーバー神の手に落ちていたとは、これは由々しき事態です」
きっとあのババァ神のことだから、所得に関して何だかんだで毎年赤字の申告をして、ついでにウソの源泉徴収をでっち上げて逆に還付を受けるなどしていそうだ。
それでさらに別の税法にも違反して、酒を密造してそれを通報されたら権力で揉み消させて……もうやりたい方題どころの騒ぎではないな。
このままだとババァの財力は衰えるどころか、そろそろこの時期ゆえ謎の大量還付税で逆に潤って……いや、もしかしたらこれを使うという手もあるのではないか。
女神に聞いてみたところ、神界、というか全ての異世界における所得税の確定申告に係る期限は3月15日らしい。
そしてあのババァ神はどうせ、面倒だという理由でまだそれを済ませていないに決まっている。
となるとそこをチョイチョイと操作することによって、ババァ神に目玉が飛び出るような金額の神界マネーの納付を強要することが可能になるのだ。
もちろん昨年分の所得を今から税として吐き出させるわけであって、今回の作戦において壊滅した分の資産に関しても、それが昨年に利得した分であるとしたらそれなりに課税されてくる。
年が明けてから失われたものだとしても、それは昨年分には全く関係がないし、もう何も残っていないという言い訳は通用しないのだから、これを利用しない手はない。
少なくともこれからしばらくの間、まだまだババァ神の財産を刈り取りつつ、昨年の所得に関してはキッチリ納税させる作戦を取れば、より一層奴を追い詰めることが出来るし、最悪キャッシュフローが崩壊して色々と金の巡りが悪くなりそうだ……
「……って作戦なんだけど、どう?」
「まぁ、あのババァの味方になっちゃっている税庁をまず叩くところから始めないとだから、ちょっと難しいとは思うけど……上手くいったら気分爽快よね」
「ついでにこれまでの分もキッチリ、耳を揃えて払って貰わないとぉ~っ、儲けるだけ儲けておいて再分配に参加しないなんてぇ~っ、そんな奴はこの神界にいる資格がないと思うのよぉ~っ」
「……ちなみに、勇者様は確定申告どころか付加課税される税金も一切払っていません、踏み倒しの王です」
「ミラは余計なことを言うな、あと俺は凄く貧乏だから良いの、で、これに関してはどういう作戦でいこうか……」
『……その前に貴様等、先輩をより進化させて我と会話する機能を取り戻して頂くこと、それを先にやらなければならないと、そう忠告しておくぞ』
「んなこと言ってもな……困るよないきなりは」
「いいえ勇者よ、どうやらここも話が繋がりそうな気がしますよ」
「何だよ? ババァ神鬼追徴課税作戦と鏡の進化とどういう繋がりがあるんだよ?」
「これです、今ちょっとサボッ……情報収集のために見ていたのですが……なんと鏡の強化素材が官公庁オークションに出品されているのですっ、税庁からっ」
「都合良すぎだろこの展開よぉ……」
ババァ神を陥れるために、次はその息が掛かっている神界の税庁を叩こうとしたところで入った、伝説の鏡からの横槍というか無茶振り。
だがそれと目指している結果とを同時に達成することが出来てしまいそうな、そんな耳寄りな情報を女神が、作戦会議をブッサボりつつ発見したのである。
この官公庁オークションに出品されている鏡の強化アイテム、調べたところ、確かに俺達が最初から所持している『真実を映す鏡』の、次なる進化形態への移行に必須なものであるということがわかった。
となると、税庁を叩きつつ、その官公庁オークションでも上手いことをやって、確実にその強化アイテムをゲットしなくてはならないということ。
税庁叩きは武力で、オークションの方は真面目に正攻法で……となるとなかなか面倒臭そうな気がしてしまうな。
というかそもそも、税庁に対して武力行使をしている勢力が、官公庁主催のオークションだけ平和に、まるで俺達とそれらとの間に何もトラブルが生じていないかのように参加することなど不可能である。
ならばどちらかに、武力なのか真面目に平和的な解決方法なのか、どちらかに統一して動く必要があるということなのだが……もちろん俺達が採用するのは前者だ。
そもそもババァ神の息が掛かった公職の連中など、まともに対話してわかってくれるような奴等ではないし、普通に考えてブチ殺してしまうのが妥当なところ。
ならば官公庁オークションの方も、全てがそういう存在ではないにしろそういう奴が紛れコンd寝入る可能性が高いということで、無関係の者も含めて皆殺しにしてしまうだけの価値はあるし、巻き込まれた者に関しては特に気に掛けてやる必要もないであろう。
ということで早速作戦の方を決めていかなくてはならないな、モタモタしているとババァ神が、重い腰を上げて自らの申告作業に取り掛かり、不正に莫大な還付税を受け取って財力を回復してしまうであろうから……
「ということでだ、これからどうやって次の計画を実行に移すのかってことを考えなくちゃならないんだが……何だマリエル?」
「敵になるのはどういった存在の方なんでしょうか? 神様なのか天使さんなのか、それとも神界人間の方なのか それによって対応が変わってくるのではないかと」
「そうだな、おい女神、どういう奴が今回の敵、というかババァの息の掛かった税庁のキャラなんだ?」
「そうですね、えっと……はい、税庁を取り仕切っているのは神です、ゴリゴリのエリートで、それを鼻にかけてて凄く嫌われているタイプですね……官公庁オークションも実質その神の支配下にあるかと」
「なるほど、となるとそいつを殺して、俺達に協力している神か、それに準ずるポジションの神か、或いは完全に中立な奴に首を挿げ替えると、そういうことになるな」
「う~ん、殺せるかどうかが問題よねぇ~っ、確か、名前は忘れたけどそこそこの強さを誇る神だったような気がするしぃ~っ、もしかしたらこの私が最終形態を見せるような、そんな戦いになるかもしれないわよぉ~ん」
「やべぇな、てかそれ俺達に敵う相手じゃないだろ? 相当に危険な奴だぞ」
「搦め手でいくか、地道に修行してそれを上回るかしかないってことね……時間もないし、両立するかたちで計画を進めましょ」
「そうです、ちょっと強くなったら、もしかしたら全員でいったら勝てるかもです、私も頑張ります」
「ちょっ、カレンは頑張りすぎるなよ、修行の過程で何か色々と問題を起こしてえらいことになりそうだ、ジェシカ、ちょっと見てやってくれ」
「わかった、しかしそれでも修行自体はすぐにでも開始しなくてはならないな、どうする?」
「どうするって言っても……どうする?」
「勇者よ、でしたら私からひとつだけ提案があります」
「ん? 別に提案する分には構わんが、もしくだらない内容だったら却下したうえで尻を引っ叩くぞ、言ってみろ」
「はい、ここから目的地である税庁の庁舎がある町までは馬車でおよそ10日、普通に行ったらですがね」
「ほうほう、で?」
「そこを徒歩で、途中に出現する野生の敵や何やらを討伐しながら……えっ? ひぎゃぁぁぁっ! お尻痛いっ! 痛いっ! ごめんなさい何か悪かったのであれば謝りますからっ、ひぎぃぃぃっ!」
非常に面倒臭い修行方法を提案してきた女神には約束通り尻叩きの罰を与えつつ、しかし他に何かよい方法があるのかというと、特に存在しないということを皆で確認し合う。
少し癪ではあるが、ここは女神によるくだらない提案を採用する他ないのであろうと、そう結論付けて仁平にもお伺いを立ててみると、それで良いという意味のモーションで答えてくれた。
かなり面倒だが仕方ない、ここから馬車で10日、本来であれば徒歩でそれ以上の移動時間を要する道程を、敵を倒すなどの修行をしつつ、およそ5日程度で踏破することとしよう。
で、その間に留守にしてしまうこの場所の守りについてなのだが……これに関してはどうしようか検討が必要なところ。
もちろん放っておいて落とされてしまうわけにはいかないし、かといって今ここに居る俺達以外に、ここをババァ神の襲撃から守り抜くことが可能なキャラなど存在しない。
だが女神も仁平も、このことに関しては特に問題に思っていないようで、どうやら何か策を持っている様子である……
「仕方ありませんね、町もほとんど破壊されてしまいましたし、ここは『凄い結界』を使って誰も立ち入ることの出来ない聖域にしましょう」
「凄い結界? そんなもんあるなら先に使えよな、もう一度尻を引っ叩くぞお前は」
「許して下さい勇者よ、これを使うと色々と弊害が出たりもするので……誰か生き残りの天使を呼んで、この町エリアからの『人払い』を」
何をするのかはわからないが、とにかく女神の指示に従って、生き残っている天使神界人間を避難させる……一体何をするつもりなのだこの馬鹿は……




