1149 ダメ押し
「……ただいまっ、なかなか良い情報が手に入ったぞ、特にこの大量の天使軍団についての情報がな」
「あらそう、それで、ババァの神はどうしたの? 空飛ぶ玉座が落ちて来たときにはもう居なかったみたいだけど?」
「ちなみに勇者よ、他の神々の作戦進捗率は98.7%まで上昇していますので安心して下さい、あとは最後の神が帰りにコンビニ寄っててなかなか自宅に辿り着かないだけですから」
「何やってんだよ作戦中に……てかババァ神か、空飛ぶ玉座と一緒に落ちたんだと思うが、上空の天使とかがまだそのまま居るからな、きっと瓦礫の中にでも埋まっているんだろうよ」
「ならそのうちに出て来るわね、それか、どうにかして奇襲を仕掛けることが出来そうなタイミングを待っているとか」
「だとしたら近付かない限りずっとこのままだろうな……まぁ良いや、で、見てくれよこれ、ババァ神の拠点の座標値だってさ、ここにこの天使と神界人間の大集団を繰り出している『鏡』があったりもするらしいぞ」
「勇者よ、どうしてそのようなことを聞き出すことが出来たのでしょうか? もしかしてフェイクに騙されていません?」
「そんなことはないと思うがな、挑発したら勝手にベラベラと喋り出した感じだし、プライドがそうさせた感はあったぞ」
「なるほど、自分の力を誇示したいがために、その証拠としてこんな重要なものを……正気ではありませんね……」
瓦礫の中のどこかに埋まっているのであろうババァ神はまだ姿を現さないし、地上で繰り広げられている戦いのど真ん中に落ちたため、それの激しさによって現場の状況は上手く確認出来ない。
きっと一旦冷静になって作戦を立てているのであろうが、こちらもその間を利用してババァ神の本拠地を、この天使だの神界人間だのの軍団を消し去るための手段を考えることとしよう。
現在地の座標は仁平が知っていたため、ババァ神の拠点の座標と照合しておおよその距離を確認すると……大陸間弾道ミサイルでもギリで届くかどうか程度であった。
ちなみに、女神によると神界は完全な平面であって、ゴリゴリの天動説がリアル採用されている状態にあるらしいため、距離と方向を確認するのは比較的楽だ。
まぁ、それでこんなに温暖な気候がどこに行っても広がっているのかという納得を得たのであるが、そのことはまた今度感動しておくことにしよう。
今はまずババァ神の拠点への攻撃方法を考えるべきなのであるが、それに際して、回収すべきこの天使、神界人間軍団の根源である鏡とやら、これを傷付けるようなことだけはしたくない。
適当に攻撃を加えてしまえば、間違いなくそれもまとめて破壊されたり、今現在のババァ神のように瓦礫の中に失われてしまったりということになるのは明らか。
回収をしない限りはわかることも一切ないため、ここはそういった状況にならぬよう、細心の注意を払って攻撃をしていかなくてはならないのだが……
「う~ん、この距離だと私hの攻撃を飛ばしても……10m以上の誤差が出そうね、つまりどこを破壊するかわからないってことよ」
「それじゃあ困るんだよな、ババァ神の鏡は外に置いてあるんだろうが、それにヒットして壊してしまうようなことがあれば大問題だ」
「じゃあ、女神様の力とかで取りに行く?」
「それも考え得ることだが、もしかすると向こうでここ以上の大天使軍団に囲まれて、回収に凄い時間を要したり、最悪自爆されたりするかもだからな、これまた厄介だ」
「コッソリと忍び込むわけには……いきませんわよね、そもそもこの大集団を出すからには、鏡とやらは外にあるのが普通かと……困りましたわ」
なかなかに良い作戦が出ないため、一旦戦いながら考えるということで、空の敵に対処しつつ会議を継続する。
相変わらずこちら側の所持している鏡には映らない、完全にフェイクではあるものの実体を持って動いている天使が、やたらと押し寄せて来て鬱陶しい状況。
そんな中に、おそらくそろそろ戦線復帰を果たすのであろう、瓦礫の中で待っていてもこちらが全く攻撃してこなかったことに業を煮やしたババァ神が追加されてくるはず。
などと思ったら地上戦闘エリアの一角にて、何やら瓦礫が大量に吹き飛んで周囲に被害をもたらしたようなのだが……確実にババァ神の再登場だ。
かなりの怒りを体現しているのが、本来は目に見えないはずの神オーラを可視化した状態で纏っていることからもわかってしまうような姿。
先程までの金切り声はなく、かなり静かではあるのだが、その分ババァ神の放つオーラに触れてしまい、弾けるように吹き飛んでしまう天使や鏡で作った偽天使の断末魔が凄まじい……
「何だあのババァ、めっちゃキレてんじゃん、自分のせいでこうなっている癖に」
「困ったババァよねぇ~っ、ホントなら生かしておく価値はないと思うわよぉ~っ……っと、攻撃してくる様子はないわねぇ、どういうことなのかしらぁ~っ?」
「わからんが、微妙に警戒した方が良いかも知れないぞ、ほら、片手を天に掲げている辺りかなり怪しいからな、何か召喚するんじゃねぇのか?」
「ホントですね、ちょっと……あ、クリーチャーとかじゃなくてモノを召喚するようです、魔力の流れ的に」
サリナがそう言うのであればそうなのであろうと、皆納得しつつも警戒してババァ神の動きを見守っている。
もちろん地上で戦っている仲間達にも、ババァ神が新たに何かをしようとしている旨を伝えて、余計なことに巻き込まれないようにと注意を促しておくのを忘れない。
ここで再びババァ神に目を戻すと、どうやら異空間から何かを呼び出すのではなく、どこか遠い場所から持って来て使用しようという感じ。
力の流れ的に、方角は先程ババァが教えてくれた拠点の方、つまり天使やしんかい人間の群れが湧き出している場所のよう。
そこから何かを持って来るといえばひとつしかないように思えるな……この予想が当たれば、ここで思い悩んでいたことへの対処がひとつ、クリアになってくるかも知れない……
「キヒャヒャヒャヒャッ! この私を怒らせたことを後悔するザマス! そろそろ来るザマスよっ! つい最近手に入れた伝説の鏡がっ! 間もなくこの場所へやって来るザマス!」
「……やっぱりそのパターンのようだな、おい、あのババァ墓穴を掘りやがったぞ、ブツが飛来したのを確認して、そしたら一撃喰らわせてやろうぜ」
『うぇ~いっ』
「何を喜んでいるザマスかっ? 貴様等はこれでお終いザマス! 今、ここに到着した伝説の鏡をっ!」
「凄いっ、私達の持っているのは小さいのに、あっちは姿身じゃないの」
「どうやらほとんど同じものでもちょっと格が違うシロモノらしいな、てか何をするつもりだ?」
「わからないけどぉ~っ、これで拠点の方へは攻撃し放題ってことねぇ~っ、ちょっと準備をしておくわよぉ~っ」
「そっちは仁平に頼もう、俺達は……ババァがなにをしでかすのかに気を付けておこうか」
回転しながら、まるでブーメランかのように飛来した伝説の鏡とやらであったが、やはり俺達のモノよりもグレードが高い、進化を重ねたものであったようだ。
その鏡はババァ神の真横にやって来て停止し、フワフワと浮かびながらそのサポートをするかのような動きを始めた。
しかし良く見ればそこに映り込んでいるのはそのままの、すっぴんのバケモノではないババァ神の姿ではないか。
こちらの所持している真実を映すタイプの鏡とは、どうも根本的に違う性質のもののように感じるのだが、果たしてどうなのであろう……
「ヒャーッヒャッヒャッヒャ! 驚いたザマスか? だがここで謝ってももう遅いザマス! この伝説の鏡の力が私に勝利を与えるのザマス!」
「笑い方が安定しない奴だな、おいクソババァ、そんなもんに自分を映して何しようってんだ?」
「……そうザマスね……まずはこれを聞くザマス! 鏡よ、この場で最も美しいキャラは誰ザマスかっ?」
『……知らんが、少なくとも貴様でないことだけは確かだ』
「ギャハハハッ! 早速裏切られてんじゃねぇかっ!」
「ムッキィィィッ! このっ、物の分際で何を言うザマスかっ! 破壊されたいザマスかっ?」
『……貴様如きに我を打ち破ることは出来ぬ、我はこの神界における唯一無二の存在、全てを映し出し、そして映し出したそれを増殖させて具現化する効果を持つ伝説の鏡也』
「ムッキィィィッ! キィィィッ! キィィィッ!」
『……鏡面を引っ掻いても無駄である、貴様は神なれどクソ雑魚、その汚れ切った内面が我の奥に映し出されている、このゴミクズめが……で、何をして欲しいのか早く言うが良い、我は伝説の鏡也』
「何だか残雪DXの野朗バージョンみたいだな……きっと鬱陶しいぞアイツは……」
「まぁ、でもあのババァの神を素でムカつかせているのは少しだけ評価するわ……でも指示には従うみたいだけど」
やって来て早々、所有者であるババァ神に対して辛辣な物言いをし始める伝説の鏡とやらであったが、まず鏡の分際で喋るのがどうかしている。
だがそれに対して、その程度のことに触れてツッコミを入れるような経験の浅い奴はこの場には居らず、ひとまず物にまで馬鹿にされるババァ神を見て嘲笑っておく。
問題はこの後何が起こるのかということなのだが……どうやらババァ神は自分のその醜い姿を鏡に映し込み、それで何かするようだ。
気付けば無限にやって来ていた天使や神界人間などの軍団も、遥か彼方においては途絶えていることから、それを召喚していたのがこの鏡であるということは疑いの余地がない。
そしてそんな鏡がここへやって来て、そしてババァ神を映し込んですることといえば……もうひとつしかないであろう。
そんなことをしてはならないと、それをやってしまえば何が起こるのか、どんな気持ち悪い事態になるのか想像も付かないと、そう叫んで止めたくなるような最悪の行為。
ババァ神は躊躇なくそれを実行に移し、この町を、いやこの神界を恐怖で包み込もうとしているのだ……
「ねぇちょっと、やっぱりヤバいわよ、どう考えてもあの動きじゃ……」
「やめろこのクソババァ! それだけは絶対にやめろぉぉぉっ!」
「ヒャァァァッヒャッヒャッヒャ! いまさら何を言っても無駄ザマス! 出でよ我が分身共よ!」
『ムッキィィィッ! キィィィッ! キィィィィィッ!』
「あらやだ、10体も出てきたじゃないの……気色悪いとかそういう次元じゃないわねこれはもう……」
「あれはっ……主殿、撤退も視野に入れた方が良いかも知れないぞっ! さすがに不快すぎるっ、というか何が起こっているんだそっちではっ?」
「すまんな、とんでもないことになった、だが地上戦はそろそろ終わるし、一旦キリの良いところで順次こっちに合流してくれ、これはやべぇよマジで……」
ババァ神が増えた、ババァ神が1匹から11匹になった、最悪ババァ神だけでサッカーが出来てしまう、もちろん戦力も11匹分に増えた。
だがこれはそれで済む話ではない、ババァ神が入り乱れ、どれがオリジナルなのかわからなくなってしまったし、そもそも恐ろしいほどに気持ち悪いのだ。
ただでさえ不快極まりない顔面と内面とその存在感を有していたというのに、どうして11匹分のそれを相手にしなくてはならないのか。
しかもこの場で分身を全て打ち消すことが出来れば良いのだが、もし討伐してしまった中に分身ではない、つまりオリジナルのものが混入していた場合にはどうなってしまうのかという疑問も生じた。
オリジナルを殺してしまえば、それでババァ神自体を殺してしまったことになるのでは? そう考えると迂闊に手を出すことも叶わないのである。
コイツはこんな場所でブチ殺して、それで終わりにしてやって良い存在などではないのだ。
苦しんで苦しんで、苦しみ抜いた絶望の末に、公的な処刑というもっとも惨めな死に方をしなくてはならない存在なのである。
ババァ神の方も、こちらがこの場で自分を殺すようなことはしないということについて理解しているのかも知れないが、もしそうでなかったとしても厄介このうえない状態だ……
「敵の数が凄く減ってきたわよっ、あとは惹き付けて、最後にドーンッとやればこっちはお終いだと思うっ」
「わうっ、空に浮かんでいるのはもう全部居なくなりそうです、どうしますかっ?」
「カレンもマーサもこっちへ戻れ、ミラとジェシカも、マリエルも下がって良いぞ、問題なのは……どうやら本体だけのようだ、もうどうにもならないだろうがな」
「勇者よ、これは本当に潮時かも知れません、そろそろネタバレをしてしまった方が良いのでは?」
「……まぁ、そうなるだろうな、おいコラこのクソババァ! じゃないクソババァ共!」
「何ザマスか? あ、ちなみに今喋っているのがオリジナルとは限らないザマスよっ、アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!」
「気持ち悪いなマジで、ちなみにお前、どうして俺達がこんなことをしたのか知っているか?」
「こんなこととは何のことザマスか? いつも鬱陶しいけど資金提供だけは良くする、そこのゴミを捕まえて財産を破壊しようとしていることザマスか? それならば単純にっ、貴様等がクズだからザマス!」
「ほう……お前、俺達がやったのはコイツとコイツの財産だけだと思っているようだな、馬鹿な奴め」
「……何を言っているザマスか? 現に今そこにその神界人間が捕まっているじゃないザマスか?」
まだ今回の件についての報告を一切受けていない様子のババァ神、まぁ、連れて来ている部下が、単純に鏡から出しただけのフェイクにすぎないことから、その連中は何かを知るような立場にはなかったということか。
これはつまり、先程ようやく進捗率が100%に到達した俺達の作戦に関して、ここでネタバレをすることによって強大なインパクトをババァ神に与えることが可能だということ。
そして協力者がどこの神々で、何をしてそうなったのかということも、おそらく徹底的な調査をしない限りわからないということでもある。
もちろん協力者は証拠を残していないはずであるから、そんな調査などやるだけ無意味で時間の無駄になるに違いないし、やはりここでネタバレをしてババァ神を驚愕させるのが得策であろう。
そしてそのショックの最中、仁平が今しがた準備を完了させた『ババァ神拠点直接攻撃』の方も発動してやれば……もしかしたらこの場で発狂してしまうかも知れないな。
勢い余って憤死してしまわないよう配慮してやる必要はあるが、それでも精神的ダメージを極大にするため、いきなりの発表をかましていくこととしよう……
「え~っと、じゃあ女神、このババァの『資金源』となっている神界人間の金持ち共に関して、その現状をお教えしてやってくれ」
「わかりました、では聞きなさいオーバーバー神よ、あなたが資金提供を受けていた邪悪なる者共、その現在の総資産額は……余裕のゼロです、ちなみに負債はそのまま残してありますので、協力してあげて、頑張って完済するようにして下さいね、他の善良な神界人間等の迷惑になりますから」
「……どういうことザマスか? 確かにそこのも含めて、私に賛同して『協賛』している神界人間は覆いザマスが……もっ、もしかしてっ!」
「そうだ、そのもしかしてだよ、俺達にも『協賛』してくれる連中ってのが居てだな、もちろんここには居ないが、今日やったことは俺達と同じ、ターゲットが違っただけってことだな」
「じゃ、じゃあその……協賛者は今どうなっているザマスか? 何が、どうしてそんなことになって……え? は?」
「だからさ、協賛者は……まぁ資産はゼロとしてだな、どういう状況だ?」
「それは私の方から、先程全ての作戦が完了致しまして、そろそろ……あ、来たようですね」
『ちぃ~っす、お届け物で~っす……何かこの町凄くアレですね……まぁ良いや、サインかハンコをどうぞ、荷物の内容は……逆賊の首全セットっすね、はい、ありがとうございました~』
「ということで大きな木箱が届きました、オーバーバー神よ、これはあなたのものですのでどうぞっ!」
「なっ、ひょげぇぇぇっ! 首が……首がいくつも……これは西神界エリアの『ポン中神官』、こっちは中央の『聖なる臓器売買理事長』、こっちは……ムキッ……ムッキィィィィィッ! 何でこういうことをするザマスかっ? 悪いことだということがわからないザマスか普通にぃぃぃっ!」
「ご主人様、悪いのはあのおばあさん? おばさん? の神様じゃなかったんですか?」
「もちろんそうだぞリリィ、アイツは自分がするのは何でも、どんな悪事でも絶対正義で、他者がすることはどんな正当なことであっても自分の理念に反していれば悪だと、そう思い込んでいるかわいそうな馬鹿なんだ」
「へぇ~っ、頭悪いんですねっ」
「キィィィィッ! ヒギョォォォォッ! ヒョギャァァァッ!」
キレ散らかし、もはや何を言っているのかさえわからないよな奇声を発しているババァ神。
当然、俺達が捕らえた変態を除き、神界人間である全ての資金提供者の首がそこにあることは確認済みだ。
ちなみに女神が投げた箱を受け取ったババァ神ではなく、なぜか1匹だけ、後ろの方に居たババァ神が発狂していて、それ以外の個体はまだ何の反応もしない、薄ら笑いを浮かべたまま立っている状態である。
これでもうどのババァ神がオリジナルなのか、自分で主張してしまっているような状態となったのであるが、先に叩くのはそちらではない。
怒り狂って叫び散らしているババァ神の視界にあえて入るような場所に移動した仁平が、その頭上を通過するかたちで発射した1発の魔力弾。
町ひとつどころか星ひとつを灰燼に帰させる勢いのその魔力弾が向かって行った先は、当然ババァの本拠地の、先程ご丁寧に教えてくれた座標値である……そして遠くに巨大な爆発の光が見えた……




