1145 偽の交渉
「ふむふむ、この重機を買えばアレだな、その敵の屋敷とか城とか、どういうものに住んでいるのかに拘らず『丸ごと』拉致することが可能だな」
「押し入って通帳だの印鑑だのを探す手間も省けますね、全部奪って全部を人質にしてしまえば敵も手出しし辛くなるでしょうし」
「そうね、今回はやっつけることよりもむしろ、あのババァの神と睨み合い、膠着状態になる方が理想なわけだし、そういう感じで……高いわねこの重機中古でも……」
「あらぁ~っ、『ジャンク品』とかでも世界をいくつか買えちゃうぐらい高いじゃないのぉ~っ、さすがにそれを使うのは、使い捨てにするのはコスパ悪いわねぇ~っ」
「世界いくつか買えちゃう重機って何だよ? そもそも免許持ってんのお前等それの?」
中古で売られている変な巨大機械のようなものの絵を見つつ、それがどの程度の大きさなのかが計り知れないことにもまた驚いておく。
同じものがいくつか出品されているようで、キャッチコピーとして『大都市丸ごとの移動に!』だとか、『新しい世界を始めたい神様、今がチャンスです!』などといった文句が踊っている。
ほとんどが翌日発送で送料も負担してくれるらしいのだが、もしこんなものを購入して、それがいきなり届いたとして、こちらが何か大々的な作戦を立てていることがババァ神に筒抜けになってしまうであろう。
というかむしろ、届いたところで置く場所がなく、もちろん誰も起動させることさえ出来ず、誰かの手を借りている間に色々と手遅れになってしまう未来が予想出来る。
よってこのカタログからこの謎の巨大機械のようなものを購入して、という作戦はナシで、もっと別の現実的なやり方で、ショタンコンローリタとかいう神界人間の『全て』を奪い去るべきところだ。
で、さらに検討を進めたところ、敵の屋敷程度であればそんな巨大な装備を用意しなくとも、簡単に運搬することが出来るのではないかと、またあらぬ方向へ行ってしまっているようだ……
「だから、でぇ~っかいリヤカーを用意してそのうえにドンッて、そうすれば運べるんじゃないの?」
「マーサ、そんなモノ運んで来てどこに置くのかってことがまず解決していませんわよ」
「あ、そっか……じゃあえっと、ここの前の広場とかに置いたらどう?」
「日当たりが悪くなりそうです……」
「てかお前等、本当にその、何だ? 変なショタンコンローリタ? だかって奴の屋敷をそのまま運べると思っているのか? そんな簡単なことじゃないと思うぞ」
「そうですね、もしかしたら凄く立地が良くて、そこにないと価値が半減してしまうようなお屋敷かも知れませんし、そもそも強度がアレで持ち上げた瞬間にガラガラと……そういうことがないとも限りません」
「あ~、じゃあその人が住んでいる町ごと持って来て……ってなるとさっきの中古のやつじゃないの?」
「またそこに話が戻って来てしまいましたわね……」
敵を落とすところまでは出来よう、だがその後が、奪還されないために管理することが非常に難易度の高いミッションとなり得るのだ。
この場所から、つまりその『財産』がある場所から離れて管理をするということが、神界の中での移動を容易なものとするババァ神への対応をより難しくしている。
たとえショタンコンローリタという野朗を押さえたとしても、そんなものは単なる雑魚の神界人間であって、重要なのはそいつが持っている『財産』なのだ。
もちろんそれの管理を疎かにすれば、速攻でババァ神がやって来て奪還されてしまうことであろうし、もしそちら、つまり『財産』の方を現地で押さえていたとしても、今度はこの場所がヤバくなったりしてしまう。
それにそんなことをしていては本来の目的が達成出来ない、その他の神々が動いている間、ババァ神の目をこちらに向けておかなくてはならないのだから、中途半端なことをしてはいられないのだ。
敵のキャラを押さえるにしても、現地で『財産』の方を制圧するにしても、こことその場所とどちらかが疎かになり、あっという間に奪還され、そしてババァ神の目は別の場所へ向かう。
その際にこちらがショタンコンローリタとかいう奴の財産をキープしているということをアピールしたりしたらどうかという意見も出たが、まずここを取り戻して、改めて神界中を見渡した際にこちらの動きが浮き彫りになってしまうであろうという結論に達した。
卑劣なババァ神のことだし、まずは俺達のような『戦える敵』ではなく、弱小なる神々の方に矛先を向けることであろう。
そうなったらその攻撃を受けた神はその手勢が崩壊、自らも危うくなり、確実に対ババァ神の同盟からは姿を消すことになる。
そしてそれを見た他の神々も、大事にならないうちに、自分が神界における権力の主流になているババァ神派の敵として明確に認定されてしまう前に、俺達と手を切ろうと考えるのではないかといったところだ。
よってどうにかして、当初考えていた通りに『人物』と『財産』のダブル制圧をして、この場所さえも奪還させない、ショタンコンローリタやその仲間の力で、せっかく奪ったものの現状復帰をさせない、そしてババァ神の注目を集め、その攻撃を一手に引き受けることが必要となってくる……
「う~ん、何か良い方法が……破壊するわけにもいかないからな、それじゃ価値がなくなってそれでお終いだし、ババァ神もその破壊された財産を追っては来ないだろうし」
「でもご主人様、壊すともったいないのはわかりますけど、壊すぞーって脅したらどうなんですか? 壊されたくないからちょっと頑張ってどうにかしようと思うんじゃないかと……どうでしょうかね?」
「なるほどね、つまりルビアちゃんは敵、というかババァの神を脅して動きを止めて、ついでにこっちに釘付けにするような方法をと……どうにかやってみることが出来ないかしらね?」
「少しでも動けば町ごと吹き飛ばすぞってか? 完全に悪役の手口だが、悪いのは向こうだからな、そんな感じでいっても良いかも知れないぞ」
「勇者様、別に無関係の町ごとふっ飛ばさなくてとも……」
「それは後々ババァ神が勝手にやったことにするから大丈夫だ、勝てば正義で負ければ悪、たとえこっちがメチャクチャをした結果の悲劇であったとしても、勝ちさえすれば全ての責任について敵に押し付けることが可能だからな、その点は神界でも共通だろうよ」
などという話をしつつ、概ねルビアが言い出した作戦でどうにかしていくべきではないのかという話にまとまりつつある。
この作戦においてやるべきことはいくつかで、まずはターゲットであるショタンコンローリタとやらの身柄と財産の制圧、ここまでは当初の予定と同じだ。
そしてその後、屋敷やその他の物的な財産に仕掛けを施すなどして、本人ややって来たババァ神の手勢が何か余計なことをした瞬間、周囲の無関係な連中も巻き込んで破局的な事態になるよう調整しておく。
ババァ神が失って困るのはショタンコンローリタとやらの金だけなのであろうが、それでも周囲に影響が及びかねない、そこから吸い上げることが出来たであろう潜在的な利益が消滅するというのは、心理的なストッパーになる可能性を秘めている。
上手くやりさえすればババァ神は手を出せずにおたおたして、その間に協力者の神々が他の場所を、そことは別の『ババァ神賛助者』を叩いて、という寸法だ。
ということですぐに準備を始めるのであったが、その前にまずアプローチの仕方を考えていかなくてはならないところである……
「で、取っ掛かりはどうするのかしら? 幼女神で釣るっていっても、やり方が色々と考えられるわよね?」
「そこはぁ~っ、やっぱり『今なら幼女の神が手に入る!』みたいなキャンペーンで誘き出してぇ~、そこで脅して殴って屈服させてぇ~、みたいな?」
「ふむ、最初は警戒させない、というか誘引してそれで出て来たところをってパターンだな、正面突破派の俺達勇者パーティーにはあまりないやり方だし、陣頭指揮は仁平と女神に任せるよ」
「そうねぇ~、まずは悪事を働いたこの幼女神の身柄をこっちで押さえていてぇ~っ、ババァじゃなくてこっちに付けばみたいなぁ~?」
その辺りに関しては正直考えられる気がしなかったため、全てを仁平に投げて俺達は移動の準備を始めた。
もちろん女神などの転移ゲートを使えば一瞬であるから、移動といってもたいしたことではないのだが。
と、念のため幼女神の方を準備しておこう、ターゲットがどういう感じのロリコンなのかはわからないが、今現在のようにツンツンしたガキではなく、もっとおしとやかな感じのお子様らしい演技も仕込んでおくのだ。
その辺に転がしてあった幼女神をヒョイッと持ち上げ、これから『指導』に入ることを告げたうえで、側近天使も伴わせて一旦女神の部屋へと退いた……
※※※
「だからっ! もっとおしとやかな感じの所作を見せてみろっ、このっ!」
「いったぁぁぁっ! 叩かないでちょうだいっ! そんなのいきなり出来るわけないじゃないのっ!」
「勇者様、このお方にそういうのは無理なのではないかと、ここはひとつ、『何か一人称で妾とか言っちゃっている系』にシフトしてみましょう」
「何だか最終的にあらぬ方向に行ってしまいそうよね……」
幼女神に対する『教育』は失敗に終わりそうな予感だし、もうだれもこの作業が何かを成すとは思っていない状況である。
まぁ、ひとまずこちらの指示通りにやらなければ、今されているように尻を引っ叩かれて悲鳴を上げることとなるという現状をわからせただけでも上出来であろう。
で、そんなことをしている間に仁平と女神が準備を終えて、どうやら実際にそのショタンコンローリタとかいう変質者にコンタクトを試みるフェーズに入ったという報告を受けた。
女神は俺達によって強制され、『妾は女神様なのじゃ』などという発言をしている幼女神を見て吹いていたのだが、こちらは真面目にやっているのだということも少し考慮して欲しかったのだが……まぁ、きっと無理に違いない。
で、もう一度下の『秘匿会議室』に集合し、そこで神界の凄い技術を用いた通信をもって、ターゲットの屋敷なのか城なのか、とにかくそこに通信することを試みる……
「……繋がったようです、向こうも気付いたと思うので、こちらはあまりキレたりとかせずに、あくまでビジネス的なノリでいかなくてはなりません」
「わかった……っと、何か映ったな、スマートでダンディなじいさんがワイングラス持ってソファでくつろいでんぞ」
「相手が神々であることを理解していないのでしょうか、それとも……っと、音声も出ますね……」
『いやぁ~っ、どうもどうも、今日は何やら神様からビジネスのお話があると? 私も忙しいのでね、手短にお願いしたいのですが』
「どうもどうも、はいどうも、ショタンコンローリタ氏ですね? お初お目に掛かります」
『っと、神が直接語り掛けるのではなかったということか……むっ、君はどこかの下界の出身のようだが……良いね、凄く良い、というか後ろの方にも凄く良いのが何人も見えるのだが、君達、ウチで働いてみないかね?』
「いえいえ私如きもうそういう年齢じゃないですから、それよりも……今回はそちらの方のお話なんですよ実は」
『……ほう、では詳しく願おうか』
対応したのは印象的に食い付いてくるのが確実であるミラ、かつては俺達の世界の変質者、ロリ=コーン師との戦いでも……まぁ寝返ろうとはしていたがそこそこ役に立ったのだ。
で、そんなミラだけでなく、こちらにはリアルお子様であるリリィや、見た目的には完全にそちら側であるカレンにサリナなど、多くの『そういう系』が含まれていることをチラ見せしてアピールしておく。
壁に映ったスクリーンのような状態で、お互いに行き来は出来ない状態ではあるが、ショタンコンローリタとやらは身を乗り出してこちらの様子を見ているようだ。
これならもう思ったよりも早くに『釣り上げる』ことが出来るのかも知れないなと、そう感じながら『交渉』の推移を見守った……
「え~っと、それでですね、今回はなんと……いえ、ご存知なのかも知れませんが、あなた方オーバーバー神様に仕える方々の、その上位に位置する神をこちらで……一応敵側ですので捕縛しております」
『……それは知っているな、私はこう見えても情報通でね、神界人間イチの紳士キャラとして、神界において起こっている様々な時事を把握し、時に有識者としてコメントなども……それで、幼女神様のことなのであろう?』
「さすがはショタンコンローリタ様、そのことについて既にご存知のようですね、実はこちらに……どうぞ」
「どうぞって、こんな状態でぶら下げられてどうぞも何もないわよっ」
『おぉっ! これは本当に、本当に幼女神様が敗北して、敵の手に堕ちていたというのかっ! 完全に抵抗を封じられ、そのような無様な姿でぶら下げられているとはっ、これはもうこの光景を見ることが出来ただけでも感服! いや、もうちょっと見せてくれぬか? 出来ればちょっといじめて泣かせてみて欲しかったり……』
「いいえショタンコンローリタ様、それはあなた自身でやってみたらどうでしょうかということで、今日はそのお話をしようと……ご興味がおありですか?」
『なななななっ、なんとっ! それはっ、それはどういうことなのだっ? もっと詳しく話してくれっ、どんな交換条件でも良いから、1日で良いからその幼女神様を捕縛して好きなようにするそちらの仲間に加えてくれぇぇぇっ!』
興奮し、おそらく魔導か何かで作ってある画面を掴んでガタガタと揺らしてくるショタンコンローリタとやら。
画面がやたらと揺れるため、それをボーッと見ていたカレンが目を回してフラフラし出したため、俺は一旦立ち上がってそちrの対応をしておく。
その間も完全にバグッてしまったかのようなショタンコンローリタのデカい声が、通信先から轟いて……ミラはかなり冷静に対応しているようだな。
こちらが用意していた偽の交換条件は、その資産をこちらの管理下に置く代わりに幼女神を『あげる』というものであったが、どうもそこまでしなくとも勝手に全てを投げ打ってくれるらしいショタンコンローリタ。
たった1日だけこちらの仲間に加えて貰えれば、それこそこれまで(不正に)築き上げてきた財産をこちらに……ということさえも吝かではない様子。
まぁ、もちろんコイツが期待しているようなことは絶対に起こらないわけだし、期待していた分、全てを奪われてどん底に叩き落される際の落差がとんでもないことになるのもまた事実。
全てを、もちろんババァ神からの信頼というか何というか、とにかくそういったものまで含めた『財産』を失いつつ、結局幼女神も手に入らないまま、むしろ触れることさえ許されないまま、地獄行きの切符だけ咥えてその後の事態を見守る以外にすることがなくなってしまうのだから……
「……はいどうも、少し落ち着いて頂けますか? お気持ちはわかりますが、こちらとしても『ビジネス』になりますからね今回の件は」
『う、うむっ、では少し冷静に話を聞くこととしよう……それで、私は幼女神様に対して何をして良いというのだ? もちろんおさわりなどは……えっ、良いの? そんなの犯罪じゃん?』
「犯罪……というと、ショタンコンローリタ様はこれまで幼女神様以外のそういった属性の方にも、そういうことは一切していなかったということなのですか?」
『……そんなわけはあるまい、神界人間だとか、私でも簡単に支配出来てしまうような弱い天使だとか、そういった者に対してはもうやりたい放題! どれだけ拒否しようが金の暴力で押さえ込み、セクハラ三昧をやっているのだよ普段からっ! ハッハッハッハ!』
「最低ですね……いえ何でもありません、しかしそういうことでしたら今回、こちらに付いている神々の権限でですね、『そういうこと』ももちろん、未来永劫この幼女神様をお手許に置いて頂いてですね……少しばかり異常な話ですが、言っている意味が理解出来ますでしょうか?」
『……して、その対価は?』
「全て、本当に全てになります、こちらでそちらの全てを『お預かり』して、それを担保に幼女神様の『権利』を移転するというのは如何かと」
『よかろう、して、善は急げという言葉があるようにだな、可能な限り早く取引の方を済ませてしまいたいと思っているのだが、今すぐにというわけには参らんか?』
「そうですね……えぇ、ホモだらけの仁平神様が可能だと仰っておりますので……ただし、くれぐれも今回の件をババ……オーバーバー神様に悟られることのないよう、そこだけは確実にお願い致します」
『わかっておるわい、こんなことがバレたら私はお終いだ、財産だけブッコ抜かれて、抜け殻となったこの身はその辺のドブにでも捨てられかねないからな』
「そこまでわかっていらっしゃるのでしたら結構かと……では、後程ですね、ホモだらけの仁平神様から転移ゲートの『ご招待』があるかと存じますので」
『うむ、ではなるべく急ぐように願う、うひょひょひょひょっ……』
完全に騙された様子のショタンコンローリタであった、この後転移ゲートで本人をこちらへ、そしてこちらからは精霊様とユリナとエリナ、先程からせっせと国ひとつを吹き飛ばす勢いの大型魔導爆弾を作成している3人が交代で向こうへ。
そこでいくつものそれを仕掛け、もし何かあった場合には、つまりババァ神がこちらが押さえた財産の奪還に走った場合には、その恐るべき破壊兵器が全て起動するシステムを構築するのだ。
これでどう足掻いてもババァに勝ち目はなく、今の馬鹿の財産は失われるか俺達に簒奪されるかとなる。
そしてそれに対してブチ切れている間に、その他の『資金源』もどんどん潰されていくこととなるのだ……




