1144 12天使会議
「……ってことなんだ、居るんだろうあのババァ神に付いている、資金源になりそうな悪い一般企業やその他団体ってのが?」
「そりゃ沢山居るし、むしろそれで得しようとか、オーバーバー神を逆に騙して自分だけ儲けようとか、そういう奴等ばっかりなのよホントは」
「人徳……みたいなので集まっているわけではないというのは確かですわね、まぁ、ああいうタイプの取巻きだと、やっぱりお金目当てが基本ですの」
「となるとやっぱり金がなくなれば……もちろんババァ神側と、そっちの集っている馬鹿共側のどちらでもだな、きっと残った片方から関係を切ることになるだろうよ」
「ババァの方を潰すのは大変だからぁ~、そうなったら金持ち? の神界人間を叩く方が早いってことよねぇ~っ」
「その通り、で、明日から早速それを開始していくわけだが……もちろん情報がないと何も出来ないからな」
食事をしつつ、現時点において唯一の情報源である幼女神とその側近天使さんに話を聞かせ、自発的にそれに関係する情報を出すようにと促す。
だが押収した膨大な資料の中からそれを探し当てるのも困難であろうし、そもそもババァ神と直接の繋がりで資金提供をしていた連中を、幼女神などが紹介されているのかどうかもわからない。
何らかの大規模犯罪行為において関係を持っていれば、きっと資料は残っているのであろうが、それがババァ神に付いている全ての悪徳神界人間およびその団体のものとは到底思えないな。
そうなってくると、間違いなく追加の調査が必要となるわけで……まぁ、最悪の場合には『金持ち神界人間』のうち怪しくないと判断された者を除き、全面的に粛清していくのが早いのかも知れないが。
とにかく今の段階で入りそうな情報だけでも確保しておくべきであるから、係員に頼んで食事の片付けをさせ、すぐに作業に取り掛かることとしよう……
「それで、まずは近場の奴からだ、特にこの町でだな、明らかにあのババァ神に協力していたり、その配下でかつ資金提供者あるということが確定している神界人間は居ないか?」
「私に聞かれても知らないってば、まともに働いたことないんだし」
「そうか、じゃあ本当にそうなのかを確認するために、後程鞭でビシバシやってやろう……で、側近天使さんは?」
「私はその辺りの実務を結構やっていたのでそこそこ知っていますが……鞭でビシバシして頂いた後でないと答えられません」
「……ルビア、ちょっと三角木馬をふたつ用意してくれ」
「わかりました、ちょっと待って下さいね……バッグの中で引っ掛かって……」
「どうしてそんなモノがバッグに収まっているのかは触れないでおきましょう」
「きっ、きっくぅぅぅっ!」
「いやもう騎乗してんのかよ、で、満足したなら何か話せ、ほらっ」
「そっ……そうですね、えっと、この町にはふたつの神界人間系の団体があって、そこからオーバーバー神様に資金提供を、あと隣の町ではえっと……」
拷問を受けて大喜びしつつ、ペラペラと情報を吐き出していく側近天使さん、もちろんその主である幼女神はドン引きしているが、今はそちらをフォローしている暇ではない。
すぐに供述があった『神界人間系○○』の所在だの何だのをリストにまとめ、近い方から順に並べていく。
かなりの数があるようだが、所詮は雑魚の神界人間、もしそれを雇われて守っている者があったとしても、最大で下級天使か、或いは神界人間だけの傭兵団なのであろう。
つまりこれらを叩き潰すのは容易なことであって、その数と、それから途中でこちらの狙いがババァ神にバレて、その直接の襲撃を受ける可能性が高いということのみが問題となる。
もちろんのこと、ターゲットの規模的に今日の反社集団のような、その辺の連中を用いた作戦は難しいことであろう。
さすがに俺達が直接叩かなくてはならないし、ババァ神の襲撃がいつあるかわからないことを考えると、部隊をいくつかに分けてどうのこうのというわけにもいかない。
これは多少面倒であろうが、やはり近場から順に叩き潰していくのがベストな方法であって、それはすぐに始めた方が……良いどころの騒ぎではないな。
おそらくであるが、ババァ神はあの後肉体を再生し、俺達の行方を追っているはずであるから、こちらで制圧してしまったこの場所へ辿り着くのも時間の問題なのだ。
もっといくつものこういった場所をこちらの手に落とし、どこに居るのかわからない状態にしておけばまた違ったのであろうが、生憎現時点で俺達が固まっていそうな場所はここのみなのである……
「どうする? 朝までここに居たら確実に襲撃を受けると思うが、すぐに移動するか?」
「いいえ勇者よ、私達がここを留守にした場合、確実に奪還されてまた攻略のし直しになるかと」
「それもそうだな……じゃあここを守って全面戦争……ってのもまたアレだな」
「困ったわね、こうなるとやっぱり戦力を分けて……いえ、せっかく協力者である神の名前が判明しているわけだし、そろそろそっちを頼るべきかも」
「じゃあすぐに召集を……ってわけにもいかないだろうな、遣いの者を寄越すように言ってくれ」
「良いわよぉ~っ、そこで事情を説明して、神の場所ごとに『担当』を決めればそこそこ手早く片付くんじゃないかしらぁ~っ」
協力者の神々は神界のそこら中に居て、そして敵というかターゲットとなり得る連中も神界の中に点在している。
そして神々の持つ兵力があれば、その『神界人間の悪い奴等』に関しては、俺達と同等というほどではないはずだが、それなりに手早く、被害も少なく処理することが可能なはず。
もし神界人間の巨大組織と戦争になったとしても、そしてそこで味方に付いた神々が苦戦するようなことがあったとしても、そこは復活した仁平の財力を駆使してヘルプを入れれば良い。
場合によっては最初の段階で、苦戦しそうなところをピックアップして神界クリーチャーなどを派遣しておいても良いかも知れないな。
その辺りは一度協力してくれる神々の使者を集めて、その場で話し合って決定すべきなのであろうが……ババァ神の攻撃を受けることと、そしてそれによってこちらの動きが見られる可能性があることも考慮しなくてはならない。
おそらくドストレートに攻撃を仕掛けてきたり、親政とまではいかないもののそこそこの部隊を送り込んでくるのであろうババァ神である。
だが万が一、もしかするとあのババァ神も少しは頭が回る、或いは頭が回る味方を有しているなどの理由で、こちらの動きを静かに調査してくる可能性もなくはないのだ。
神々の使者を集めるのは良いが、やはりその『会合』については静かに、敵に気取られないように開催しなくてはならないであろう……
「はぁ~いっ、ひとまず味方に付いたのが確定している神々には『メッセージ』を送ったわよぉ~っ、リアルタイムで見られるはずだからぁ~っ、きっとすぐに準備してここに天使を送ってくると思うのぉ~っ」
「そうですね、きっとここにダイレクト転移させるのではなく、近くに転移させてからコッソリと移動して来る方法を取ると思いますので……おそらく早い神の遣いで1時間後にはやって来るかと」
「うむ、じゃあ会場の準備をさせないとなんだが……どうする?」
「見なさいよこの全館案内図、ここにほら、1階だけど、裁判所みたいな形状の大きい部屋があるわよ、しかも中の情報が漏れて報道されたりしないように、凄く神聖なガードで守られているって書いてあるの」
「なるほど、そういえばここは元々やらかした神々を裁く場所だったんだよな……じゃあそこにしようぜ、傍聴人を入れたり法定画家が来たり、あと公開で行われるわけじゃなければ情報が絶対に漏れることはないだろうからな」
「では主殿、その内容で会談の準備を始めておくぞ、客が来たらすぐに教えてくれ」
「わかった、じゃあこっちは……一応もてなしなどもしないとならないからな、どこか良い店で料理なんかもテイクアウトしておこう、今夕食を終えたばかりではあるが……」
「当然食べますよっ」
「ですよね……」
ということで直ちに準備を始め、およそ30分程度でそれが完了したことについて疑問はないような状態となった。
運び込んだテーブルには冷めても美味いとされる料理が並んでいるし、裁判所チックであった、というかモロに法廷であったその部屋は、すっかり会議室に変わってしまっている。
前にはホワイトボードも持ち込んでいるし、これはどこの高級天使が来ても恥ずかしくないような場所だ。
仁平に恥をかかせることもないということで、ひとまずあとは使者の登場をまつのみといったところ。
そう思ったところで、遂に最初の天使がやって来て……どうやら呼び出しに応じたのは12の神で、送り込まれるのは12の天使らしいな。
なかなかキリが良い数字だとは思うが、とにかくその数だけで可能な限り効率良く、かつ安全に敵を潰していくことを考えなくてはならない……
※※※
「どうもどうも、さぁこちらへどうぞ、神々がお待ちですので」
「これはご丁寧にどうも、どうも失礼致しますどうも」
「どうもどうも、どうもどうもどうも」
「……あいつ等、どうもどうもだけで会話が通じてんのが凄いな」
ひとまず見た目重視ということで、やって来る遣いの天使の誘導はミラ、マリエル、ジェシカに任せておいた。
その方が神界人間との見た目にギャップがないし、同じ見た目でもセラやルビアのようにとんでもない魔力が溢れ出していたり、精霊様のように態度がアレでかつ明らかに人間でない何かということもないためだ。
で、その3人がどうもどうもと迎えた天使諸君がこれで12になったため、全員揃ったということで会議場の扉を閉め、空間を完全に孤立させる。
これでもうババァ神の間者が紛れ込むこともないはずだし、もちろん天使の方はホンモノかどうか、途中で本来やって来るべきであった者が殺されて成り代わられていないかをチェック済み。
そしてこの空間の独立性にしても、単に情報を外に漏らさないというだけでなく、全くもって外部からの干渉を受けないような状態なのだというから心強い。
本来は裁判所の機能として、被告である神の従者がメチャクチャをしたり、侵入して裁判に異を唱えたりということを防止するためのものだと思うのだが……まぁ、最近ではババァ神の一派が、敵の神に対する裁判を都合良く進めるためのものとなっていたのであろう。
だが今回はその場所を俺達が、ババァ神の影響を完全にシャットアウトするためのものとして使用するのだから皮肉なことだ……
「え~っと、それでは第一回、神界オーバーバー神とその一派撲滅大協議会の開催に当たりまして、ホモだらけの仁平神様のお言葉を頂きたいと……よろしいでしょうか?」
「良いわよぉ~っ、良く集まってくれたわね、ババァの取り巻きによる監視の目もあるみたいで、今回はちょっと天使を派遣出来ない神々も居た中で、ここまで無事に辿り着いてくれたのを褒めて遣わすわよんっ……で、私達は確実に滅ぼさなくてはならないのぉ~っ、この神界を歪め、邪悪なる魔の空間と接続詞、そしてそのことによって私腹を肥やさんとするゴミをぉ~っ、だから協力してちょうだぁ~い!」
『ウォォォッ! ホモだらけの仁平神万歳!』
「……はいありがとうございました、え~っ、盛り上がっているところ申し訳ありませんが、私達の女神様のお言葉……要らないですか? 何か仰ることが……ないと、えっ、その、申し訳ございませんでした」
「マリエル、さすがにウチのを先に喋らせるべきだったと思うぞ、馬鹿だから仁平以上の演説が出来ないんだアイツは」
「ごめんなさい、次からは気を付けます」
「勇者よ、人族の王女よ、聞こえていますし、そろそろ私が泣いてしまうのでやめて下さい」
『・・・・・・・・・・』
こうして最初の作戦会議が始まった、まずは資料を全て提示し、それぞれが仕えている神がどの範囲の敵を、どのぐらいの数掃討することが可能なのかについて意見を出し合う。
なお、ここで資料に追加した『敵の予想兵力』に関しては、幼女神の側近天使さんの知識と、その敵の知名度などからの予測であって、決して正確にその力を表現しているわけではないということに注意が必要だ。
で、この状態、12の神々が直ちに、気合を入れて掃討に取り掛かったとしても、おそらくその半数も始末することが出来ないであろうというのが現在の予測。
ここからどうにか、主に仁平の保有する神界クリーチャーや天使など、戦力を貸し与えることによってどうなるのかといったところであるが……どうも天使達が気にしている部分はそこではないらしいな……
「……あの、ひとつよろしいでしょうか?」
「あ、はい何でしょうそこの……宣教師みたいな頭の天使様」
「はい、あっ、失礼致しました、私は『前向き思考の神』の従者であります、『ハゲてもかなりポジティブな天使』になります……それでですね、私共が気にかけているのは、やはり作戦の途中でオーバーバー神様の手の者からの襲撃を受けることでして」
「うむ、それはもう我慢して殺られるしかねぇんじゃないのか? 運が悪かったと思ってな」
「なんとネガティブなっ! あなた、そんなことを言っているようでは困りますっ、後々、実際にハゲになった際に相当なマイナス思考に陥りますよっ、確実にね」
「いやハゲになること前提なのかよ……しかし言っていることは一理あるな……はい、そっちの何か可愛いけど汚い天使さん、発言をどうぞ」
「どうも、私は神界のかなり外れにある『恵まれないけどそれを苦にしないで頑張る強い女神』の従者であります、『しばらく洗っていないような薄汚い天使』です……やはりですね、ここはオーバーバー神を、確実に惹き付けておくような何かが欲しいかと、そうしないと我が神が安全かつ確実に行動することも出来ませんし、攻撃を受けた際に直接ダメージを受けるのは私達天使です」
「そうねぇ~っ、どうにかならないかしらねぇ、あのババァの動きを……」
ここでかなりの行き詰まりを見せた12天使と俺達による会議、結局あのババァ神の動きを把握し、それに対応するような動きをしないと上手くいかない、というかこちらの被害が拡大するのだ。
逆にどうにかしてチョロチョロと動き回り、そこそこの力で攻撃してくるババァ神の動きをコントロールすることが出来れば、この作戦はかなり上手くいく可能性が高くなるということ。
そのための何かを探し当てることが出来れば、ということでそこからは黙々と、参加者全員で資料の読み込みを始めた。
もちろんここではあまり参加していない、特に会議に対して興味を示していない仲間達も一緒に……というところで、資料を見ていたマーサがケラケラと笑い出したではないか。
こちらは真面目にやっているというのに、そんな感じで皆の注目がマーサに集まったため、本人もそれを受けてギョッとしてしまったようだが……一応は資料の中で何か見つけたということらしいな……
「マーサ、ちょっとそれ見せてみろ、何でもないことだったらお仕置きするからな」
「うぅっ、ごめんって、だってその描いてある顔とか名前とか、『ショタンコンローリタ』って言うらしいんだけど、すっごく変態の金持ちなんだって」
「コイツは……仁平、すまないがこの気持ち悪いおっさんを見てくれ、どうも『幼児に興味がある』タイプみたいなんだが」
「あっらぁ~っ、それは金持ちとか権力者で、実は悪い奴ににありがちな趣味よねぇ~っ、しかもコイツ、ババァに対しての資金提供ランキングでかなりの上位に位置しているじゃないのぉ~っ」
「使えそうだな、皆聞いてくれ、今俺達が捕らえている幼女神を使って、このわけのわからん……何だっけ? ショタンコンローリタとかいう奴か、コイツを……拉致してここにババァ神をおびき寄せる、その間に担当の場所を叩いてくれないか?」
「ふ~む、我が神にこのことを確認して……うむ、即レスで任せたピョンって来ましたので、我々はそれが上手くいきさえすれば乗りましょう」
「こちらもそれで異論はありません、ポジティブにいけばきっとどうにかなるでしょうから」
もちろんその作戦に使われる幼女神と、その法定代理人のような役回りの側近天使にも確認を取り、協力するという約束を取り付けておく。
きっとそのショタンコンローリタという奴さえ押さえてしまえば、そしてそのことを喧伝し、ババァ神を釣り上げることが出来れば、かなりの時間的余裕を仲間達に与えることが可能なはず。
問題はそれを殺さずに押さえることが可能なのかということだが……まぁ、そこは本当にこちらの作戦次第となるであろう。
ひとまず今回の会議はこの辺りとして、各々拠点に戻って神に今回のことを報告していくこととなった。
無駄に名刺交換をしている天使に対してサッサと帰るよう促しつつ、目立たないようにという注意もしておく……
「ようやく全員帰りましたの、さて、ここからはこちらの作戦になりますわね」
「うむ、作戦といってもアレだな、釣竿の先に幼女神を吊るして敵をおびき寄せて、パッと捕まえて連行すればそれで済むことだ」
「でも勇者様、それだとその悪徳神界人間の財産はその場に残してしまうことになりますよ、それを使われたら意味がありませんし、最悪敵の神様もその財産だけ取って人間の方は棄てるかと、そう思いません?」
「なるほど、そうなるとそこのところも少しばかり考えるようにしなくてはならんな……」
おおよそは決まっているとはいえ、細かい部分までとなるとそうもいかないのが現状であるから、そのあたりに関して、決行の前にキッチリと話し合っていかなくてはならないことであろう……




