1141 整理して行動
「……なるほど、あの死人だらけの神界人間の村を拠点にして、それ以外にも『兵隊』を集めてわけのわからんことをしているんだなお前達は?」
「そうよっ、何だか知らないけどそれがオーバーバー神の利益になるみたいで、使い捨ての天使とか神界人間を1匹紹介するとお小遣いが貰えたりするの、あんた達もやってみる?」
「やらねぇよ馬鹿かっ! ってかどうして被害者の前でそんなことが言えるんだお前は? 見ろ、上位の神なのにリボ払い手数料で毎月カツカツの変質者が泣いてんぞっ!」
「うぅっ、ホントにもうお菓子のお城が維持困難になってぇ~っ、ホントにもう毎日のように督促状がぁ^っ……ということで許さないわよあんたぁぁぁっ!」
「ひぃぃぃっ! 近付かれると迫力が凄いし髭も凄いし……臭そうだから離れてっ! この変質者!」
「あらぁ~っ、反省が足りないようねぇ~、どうしてくれようかしらぁ~?」
「よせよせ喰うなよっ! 一応立派な証人……じゃなくて証神であって、その他物的証拠も大量に持ち合わせているキャラなんだからなっ!」
小さなボディーの幼女神を、お土産の寿司状態のまま丸呑みにしてしまおうという動きを見せた仁平であったが、さすがに本気ではなかったらしい。
態度がデカかった幼女神も、その脅しによってかなりビビった様子で大人しくなったことだし、これはこれで良かったものだと、調子に乗れば喰らわれるという現実を突き付けてやっただけでも良しとしよう。
ということで切り替えてそのまま証拠探しの家宅捜索をしていると、部屋からは様々な敵の関係書類が発掘される。
どれも『読んだら処分するように』という指示が書かれているようだが、幼女ゆえまともに読んでいないらしく、普通に机の中にあったり、最悪床に落ちていたりと適当な扱いだ。
それらを全てバッグに押し込んだうえで、後でこの幼女神自体も交えてそれが何なのかということを精査する作業を行おうということになり、一旦帰路に就く態勢に入った。
だが最後の最後でエリナが、何か絵が描かれた紙切れを見つけたようで……そこに描かれているのはどう見ても俺達の知っている人物、ではなく魔界武器ではないか……
「……これさ、どう見ても残雪DXだよな? 似たようなのがもう1枚あって……こっちは俺達が今持っている真実を映す鏡じゃないかっ、そうだ、そのことをすっかり忘れていたぜ」
「あっ、そうだったわね、この幼女の神様を鏡で映せば、元の大人の姿に戻るんじゃないかと……でもどうしてその絵が残雪DXちゃんの絵と一緒に?」
「それぞれ神界と魔界の重要アイテムですわよね? 何か繋がりがあるとかそういう……露骨に『面倒臭い』を表現した顔をしていますのご主人様は……」
強化中である真実を映す鏡の効果のほどはさておき、それと俺達の魔界武器、残雪DXの繋がりなどここから掘り下げていく気にもなれない。
もし関係があったとしても、それはおそらく『合体してどうのこうの』だとか『鏡の力を取り込んでより強力に』だとかであろう。
さらにそのために別の何かを収集しなくてはならないミッションまで強引に追加されて、ただでさえブラックな勇者業がさらに過酷なものへと変化してしまうのは目に見えている。
それゆえもうその件には触れたくないし、この絵のこともなかったことにしたいのであるが……そういうわけにもいかないのであろうなといったところ。
ひとまずそれを回収しつつ、詳しい話は後でということにしてもう一度馬車へと移動する。
またしてもぶつくさと文句を言い始めた幼女神は軽く脅かして静かにさせ、女神に転移ゲートを出させた……
「それでは戻りますが、あまりこの神々専用の力を使いすぎるわけにもいきませんので、しばらくはここへ戻って来ることが出来ませんよ、大丈夫ですね?」
「あぁ、もし何かあるんだったらこの近辺の『協力者』とかを見繕って、それに色々と頼んでしまえば良いだろうし、ここにはもう来なくても良い、それよりも……」
「それよりも、何でしょうか?」
「この幼女神、連れて帰ってどこへ閉じ込めておくんだ? 下手なことをしたらその辺の天使とかに命令して自分を逃がさせるだろうし、かといってずっと監視しているわけにもいかないし」
「それならば大丈夫です、ゴッド裁判所の私とホモだらけの仁平神が宿泊しているフロア、つまり神専用の高級エリアですね、そこにやらかしを演じた神々を一時的に拘留しておく場所がありますので」
「……そうか、そういえばお前もアレだったな、もし俺達が救助しに来なかった場合にはそこへ放り込まれていたんだよな今頃、この大勇者様に感謝すると良い」
「非常に恩着せがましいですね……まぁ良しとしましょう、それでは移動します」
感謝の言葉さえ口にすることが出来ないらしい非常識な女神の力で移動し、俺達は出発前の位置へと戻ったのであった。
町の様子には特に変化がなく、建物の方も、俺達が居ない間に『手土産』を持参したらしい神の使いが置いて行った小箱が、係員の天使に預けられていた程度である。
ちなみにその小箱は俺が持った瞬間に爆発を起こし、手渡した天使も吹っ飛ばされて壁にめり込み、もう足すからないであろう状態で腕をブラブラさせているのだが……まぁ、気にしないこととしよう。
そんなチンケなテロに付き合っているよりも、今はこの持ち帰った幼女神から話を聞くことの方が優先なのだ。
回収した資料などに基づいて、ババァ神一派の悪事をとことん掘り下げていくべきときなのである。
ひとまず最上階まで上がる前に、それぞれに割り振られている部屋に荷物など置いて、それから女神の部屋へと集合した。
今はまだ縛られた寿司状態で仁平にぶら下げられている幼女神であるが、その『拘留部屋』に放り込まれることに関しては特に嫌っている様子ではない。
まぁ、いくらそういう場所だからといっても、神々に対して一時的にそこにいて頂くようお願いするというような感じなのであろうから、特にこれといって不都合な生活を強いられることでもないということか。
で、女神の部屋を出て実際に移動したその『拘留部屋』であるが……見かけ上は他の高級部屋と見分けが付かないようなものだ。
神々専用の部屋が空いているのならば、俺達もそこに宿泊するように取り計らえよなどと、これまでは思っていたのであるが、なるほどそういうことであったかという気持ちになった……
「ふむ、ここから先は全部そういう部屋なのか?」
「そうだと思いますが、さっきその辺の天使に聞いたので、この部屋がそういう部屋であるということはわかっていますが……あ、内側からは開けられないようになっていますね」
「あら凄いわよこの部屋、ホントに神々の部屋と同じじゃないの、ちょっとムカつくから壁とか破壊しておきましょ」
「待て待て精霊様、そんなことをしたらその穴から幼女神が逃げるだろうに、ということでほら、今日からここがお前のスウィートルームだ、高級な風呂が付いていて良かったな」
「クッ、それでも屈辱には屈辱ね、てか私幼女なんだけど、お風呂とか誰がどうしてくれるの?」
「何だ? 自分だけじゃ頭も洗えないのか?」
「そういうことはちゃんとやるけど、沸かすとか何とか、そっちは誰かにやらせないと、労働はしない主義なのっ」
「贅沢言いやがって、じゃあ風呂に入らず臭いまま過ごしやがれ、会ったときには露骨に鼻とか抓んでやるからよ、イヤそうな顔してな」
「そうよぉ~っ、これからは反省してちゃんと自分のことは自分でっ、そういう生活をして貰うんだからぁ~っ……それよりもこの場で喰い殺される方が良いのかしらぁ~っ?」
「ひぃっ……わかった、やるから、ちゃんとやるからひとまず降ろして、てかこの食い込む縄もどうにかしてよっ」
見たところこの部屋には特殊な仕掛があって、神々の力をもって他の神の、つまり今の状況ではここに拘留される幼女神の力を封じることが出来るらしい。
早速ということで仁平に『神の力』を通して貰い、非常に都合良く、ピンポイントで幼女神のみの力を封じることに成功した。
ということで縄を解いて床に降ろしてやると、幼女神は方をグルグルと回してやれやれといった感じで溜め息をつく。
この行動に関してはもう幼女ではなくおばさん……むしろおっさんなのであるが、もちろん幼女なのは見た目だけであるということだから気にするべきではない。
で、次にやってみるべきこととして、幼女神を俺達が持っている鏡で映してみるということなのだが、そこそこに抵抗するため、取り押さえて無理矢理鏡に向かわせてみる。
……映し出されたのは幼女神……をそのまま大人の女性にしたかのような姿で、残念なことに伸びるのは身長だけらしい。
他はもうセラを彷彿とさせるようなフラットさを誇る、空気抵抗の少ないボディーの持ち主のようで、もしかしたらこのまま幼女の姿でも何も変わらないかも知れないといった印象。
だがその鏡に映った姿が、本体の方で実現されるというわけではなくて、まだまだこの鏡にはそこまでの力はないのだと、改めてそれを実感させられる。
ババァ神の悪事を最低でも3Dで、糾弾大会に詰め掛けるであろう多くの神々の前に映し出すというのには、まだまだこれから進化の方を頑張っていかなくてはならないのであろう……
「ちょっと! そろそろその鏡を退けなさいよねっ、現実を見たくないのよっ、そんな姿になったら働かなくちゃならないんだからっ」
「やかましい奴だな、いつかこの鏡をグレードアップして、直接この姿に変貌させてやるんだからな」
「しかもその大人の姿でお尻ペンペンの罰を受けることになるのよ、外で、神界人間とかにみられている前でね、恥ずかしい思いをしなさい」
「ひぃぃぃっ! それだけはやめてぇぇぇっ!」
屈辱的な罰を宣告してさらに脅迫し、何か重要なことを聞くでもなく幼女神を追い詰めることに成功した俺達。
そこからはまず、簡単に判断することが出来そうな押収資料を用いた尋問、というか即拷問に入っていくこととした。
まずは仁平がやられている『地獄送り』の嫌がらせについてなのだが、それに関してのスキームなどを深く掘り下げていこう。
出来ればこの場で解決してしまうところまで進めて、仁平を本来の上位神的な財力に引き戻してやりたいところである。
証拠書類としては……押収したマニュアルなどを使えば状況の把握が容易か、すぐに大量の資料の中から探し出して突きつけよう。
ガサガサと書類を漁っている中で、処理速度が比較的早かったサリナがそれに該当するもののひと束を見つけ出してこちらに渡す。
幼女神の前にそれをスッと出すと、一旦はフイッとそっぽを向いたのであるが、その向いた先で精霊様が鞭を手に取ったのを見てこちらに向き直した……
「……これだな、拠点となっているのがあの幽霊だらけ、ゾンビだらけの村だか町だかであるってところまではわかっている、だが大元のカードだよ、騙してリボ払いにさせたものの全てを、その事業所がどこにあるのかなども含めて言え」
「そんなの、自分で調べたら簡単にわかるじゃないの、もっとも、私は『お子様』だからそういうの持っていないし、ぜ~んぜん知らないけどっ」
「うむそうか、じゃあ女神、生意気な態度を取っている分と、それから情報を提供しない分のお仕置きを直ちに執行してやれ」
「えぇ、ではここへ来なさい幼女神よ、罰を与えます」
「ちょっとまっ、ひぃぃぃっ! グリグリしないで頭割れちゃうっ! わかったわよっ、全部その中から見つけるからちょっと待って!」
「あら助かるわぁ~っ、正直大量にありすぎるし、そういうの無頓着なまま無限に使ってたしでぇ~、もうどれがどれなのかわからなくてモノ自体もムカついたから消滅させたりしててぇ~っ」
「ほら、ムカついてわけわかんないぐらいの悪手を打ってしまった仁平がここに居るんだ、可及的速やかに全リストを作成しろ」
「わかったわよっ、え~っと、でもホントに何もわかんないままやっていたから、ひとまず専属の天使を呼ぶわね」
「好きにしろ、てかそいつも逮捕だっ、いつもみたいなハゲなら死刑だっ」
「言うこと聞いていただけだから勘弁してあげてよね……来なさい、私の側近天使よっ」
幼女神がそう口にすると、部屋の外にゲートが現れたらしく、そこから天使が召喚されたのであろう力の波動を感じた。
本来であればすぐに、真横に登場するはずの側近天使が、状況が状況ゆえ部屋の外に呼び出されたということなのであろう。
すぐに部屋のドアがノックされたため、入っても良いと女神が告げると、出現したのは女性の、側近というよりは幼女神の姉なのではないかという容姿の者であった。
だが背中には翼が生え、服装は純白で天使そのもので……金髪ではあるが目の色は左右で同じ、そしてキツそうな数学教師系の赤縁メガネを装備している。
その天使が部屋に入ってすぐにやったことは、まず女神と仁平と、この部屋に存在する幼女神以外のダブル神々に対する『お心付け』だ。
どうぞお納め下さいと、何やら木箱に入った酒なのか何なのかを上納しているのであったが、どうやら大勇者様であるこの俺様には何もないらしい。
その時点で大変な失礼を犯してしまっているこの天使なのであるが……まぁ、かなり恐そうなので特に指摘をするのはやめておくこととしよう……
「この度は我が神がとんでもないことを致しまして……いえ、犯罪行為実務の方は全て私主導で、配下の天使がやっていたのでありますが……」
「いいえ、あなたは神の命に忠実に従ったのみです、それに凄くまじめそうですから」
「……こう見えて私、パチンカスにございます、そちらに献上致しました品も、先程までサボって遊んでいた神界大球戯センターの景品にございまして」
「……そうなのですね、しかしその、悪事の方はやはりこの幼女神があなたに命じて無理矢理……ということなのでしょう?」
「いいえ、むしろノリノリでアドバイスとかもめっちゃしておりましたゆえ、どちらかというとガチで私が主導していた部分があります、ゆえに処罰されるべきは我が神ではなくこの私かと、そう存じております」
「おい幼女神、優しくて忠実な側近天使が、お前のために自らを犠牲にして罪をかぶろうとしているぞ、このままだとこの天使さん、鞭で打たれることになるぞ、それで良いのか?」
「良いのかって、そんなこと言われても困るわよっ」
「お前は人の心がないのかっ、神だからそんなもん持ち合わせていないってか? かわいそうだろう、この真面目そうな天使さんが酷い目に遭うのはっ!」
「あの、失礼致します、この私、こう見えてドMにございますゆえ、むしろ神の代わりにあらゆる罰をですね、受けさせて頂ければ逆にお金払います言い値で」
「・・・・・・・・・・」
思いのほか、というよりも見た目に反してガチクズであったらしい幼女神の側近天使であった。
ちなみに神界大球戯センターはババァ神経営の、実にボッタクリであると評判なホールらしい。
だがまぁ、本当に賢さは高いようなので、幼女であることを理由に何もしようとしない主に代わって、ババァ神から依頼された悪事を執り行っていたとしてもおかしくはない感じだ。
ひとまず天使さんにはその場に、幼女神の横に正座して貰い、このまま一緒に話を聞いていくこととしたのであるが……何かの禁断症状が出ているらしく、実に落ち着かない態度である。
どうやらパチンカスなだけでなく、アル中でヤニカスでしかもやべぇクスリにまで手を出しているタイプのようだな。
神界の法体系がどうなっているのかは未だに理解することさえ出来ていないのであるが、おそらくコイツがアウトなのであろうということは、少し眺めているだけで良くわかることだ。
ひとまず女神が部屋にあった備え置きの超高級な酒を持って来て、ショットグラス1杯分だけ天使さんに与えると……
「ぷっはぁ~っ、コレですよコレ! さて、貰ってしまった以上協力しないとなりませんね、えっと、まずは何からお話しましょうか?」
「最初にこのホモだらけの仁平神が、全部リボ払いにされて苦しんでいるカードをリストアップして下さい、そうすれば少なくともそのカードの発行元だけは叩くことが出来るようになりますので」
「わかりましたっ、ではえっと、ホモだらけの仁平神様を嵌めたカードの発行元は……コレとコレとコレとコレ、あとコレもコレもそうですね、それからこっちのコレと……」
「全部把握してやっていたのかよ、てか記憶力すげぇな」
「どう? 私の側近の天使って凄く優秀なのよっ、褒め称えなさいっ」
「お前が威張ってんじゃねぇよこの何もしない偽幼女めがっ」
「それで、早速このカードの発行元を全部叩き潰しに行くのね、殺して殺して殺しまくるわよっ」
「おうよ、地獄に叩き落してやろうぜ、リボ払いとかじゃなくてリアルのなっ」
「あの、他の情報提供はどうしましょう? それと、この情報を漏らしてしまった以上、私も我が神もオーバーバー神様の粛清対象になるんじゃないかと……私は構いませんが我が神が……」
「そうねぇ~っ、じゃあこの幼女神と天使ちゃん、一緒に連れて行くべきかしらねぇ~っ、ほら、ここに置いておいてもきっとあのババァの手先がちょっかい出してくるからぁ~っ」
「そうだな、他の敵がやっているように何か変な使い捨ての天使とか送り込んできて、俺達が居ない間にこの『裏切り者』を拉致ってしまうかもだ、ということでお前等も来いっ!」
「あいたっ、乱暴しないでよねっ」
「私はもっと雑に扱って下さい」
ひとまずこのおかしな幼女(偽)とおかしな変態天使を拘束し、リストに挙がったカードの発行元を、近い方から叩くために移動を始める。
また馬車に乗り込み、最も近いこの町の外れにある発行元を、まず最初に襲撃して皆殺しなどしてしまおう……




