1123 キモい女神
「……んで、そのキモ顔の女神にして顔面がアレな、そして嫉妬深いとまできているゴミのような馬鹿は何者なんだ?」
「それはその……あっ、アレです、堕とされた者共がそろそろここへ来るはずですから、それに聞いたらどうかと……」
「ほう、つまりあなたはその堕とされたはずの者の存在を認めるということですね……つまり神界人間が勝手に取り決めたくだらない、低俗なルールの内において死刑に処されるべき存在であると?」
「そんなっ、そんなことはその……」
「お前が死ぬとか死なないとかはどうでも良いからさ、まずそのアレだ、ブサイクな顔の女神について知っていることを教えろよ」
「・・・・・・・・・・」
そこでまた黙ってしまったコチンコチンのチコンであったが、俺が立ち上がって攻撃の構えを取ると、すぐに焦って何やら語り出した。
どうやらそのキモい女神というのは、この町にも何度か訪れて化粧品などを買い漁った……金は払わなかったらしいが、とにかくあまり人気のない、しかも横柄な態度を取る女神なのだという。
もちろんのこと、先程倒してとっ捕まえた5人組も、その女神の犠牲者であるということは何となく、この町の誰もがわかってしまうことでもあるらしい。
で、そんな女神の拠点を聞いてみると、それは俺達が向かうホモだらけの仁平とかいう神が居る場所の、ごく近くの村なのだというが……
「とにかく、私めがあのド気持ち悪いし鬱陶しい女神に関して知っていることは話しました、しかし……これを当の女神様に伝えるというのはどうかナシで……」
「それはあなたの態度次第ですね、例えば、今現在のように口が臭い、おデコがテカッている、あと何か気持ち悪いなどの状態が続けば、今回喋った件を当の女神に伝えるまでもなく、この私自ら処断しなくてはならないでしょう、どうですか?」
「い、いええっと、その、あのですね……で、ではそれで引継ぎということで、この私めはこれで……女神様、失礼致します」
「本当に失礼かつ不快な神界人間ですね、あなたの顔などもう二度と見たくありませんので、サッサと立ち去ってしまいなさい、いつ処刑するのかは後々通達致します」
「ひっ、ひぃぃぃっ! そんなぁぁぁっ! イヤだぁぁぁっ!」
単に鬱陶しいというだけで死刑を宣告されてしまったコチンコチンのチコンであったが、ここで『堕ちた』状態にされていないところからも、女神が冗談でそれを言っているということに気付いた方が良い。
まぁ、もう逃げ出してしまったものは仕方ないし、どのみちこの大勇者様たる俺様の怒りを買っている以上、どうあっても生き延びることは出来ないので同じであるが。
で、そんなチコン野朗をブチ殺すのはまた後々として、それが言った通り、先程草原で捕縛した5人組の襲撃犯達が、綺麗に洗われた状態で、臭くなくなって連行されて来た。
それを並ばせ、前後に挟んで連れているのは……恐怖に引き攣った青い顔をしている、しかしそれでも普通に美女と呼べる2人の女性。
馬鹿なチコン野朗との言い争いや直接的な対決で敗北し、この任務に人員を裂くことを共用された者……からさらに強要された立場の低い者共なのであろう。
当然のことながら、『堕ちた』状態にあるこの5人の存在を認識して、洗ってやったり連行したりしている以上、それは神界人間の中で住剤を犯していることになる。
この2人も今回の任務が終了すれば、当たり前のように犯罪者として囚われて、そのままどこかで処刑されるという残酷な運命が……と、さすがにそれはかわいそうだな。
だいいち、俺達がやりたかったのはこの町の神界人間の中で威張り腐っている輩が無様に争い、そこで負けた者が、その本人がこういったことをさせられて非業の死を遂げるというもの。
それを下の者に押し付けて自分は助かろうとしている情けない上役が悪い、というか非常にムカついて仕方ないし、殺すならそちらにしなくてはならないであろうと、そう考えるところだが……
「……これはちょっとアレね、悪戯のつもりで命じたことが残念な結果を招いてしまったわね……ちょっと女神、なんとかなさいっ!」
「あ、はいはい、ではそこの2人にはこれを、この『免罪符』を発行しておきましょう」
「何だよその紙切れは? ご利益があるのか?」
「もちろんです、これは神界の神のみが発行することを許されている究極の紙切れでして、ホンモノの免罪符はこれだけなのです、他は全部インチキのニセモノか、或いは魔界などの神が発行するような、効果だけ同じにした邪悪なものばかりです」
「そうなんだな、じゃあ早く俺の分も出せよ」
「いけません、勇者よ、あなたに渡すと間違いなく悪事に利用することになりますから、決して発行することなど出来ませんし、誤ってしてしまった場合でもすぐに無効化されます」
「クソだなお前、まぁ良いや、夜道では背後に気を付けろよ」
「なんと恐ろしい……とりあえず、今は2枚だけ効力を発揮させますので、この2人から奪うようなことはしないようにお願いしますね」
俺からは見えないように、後ろを向いてその『免罪符』とやらにそれの効果を込める女神、その背中を蹴飛ばしてやりたいところだ。
だがこれはなかなか便利なアイテムだな、魔界で一度用いた、あの最終的には裏切ったため処分した守護堕天使も、似たようなものを出してくれて……あれもなかなか気分が良かった。
今後、どうにかして女神の、いやこの女神ではなく他の神界の神々によるものでも良いのだが、とにかく『免罪符』とやらをゲットして悪用したい。
とはいえ、そう簡単には手に入りそうもないため、ここは精霊様辺りと協力して騙し取るなど、搦め手を用いてゲットする手段を考えた方が良さそうだな。
で、あっという間に力を、その免罪符とやらの効力を込め終わった女神は、このままだと深海人間の中だけの、非常にくだらない取り決めによって処刑されてしまう2人にそれを手渡した……
「では、これであなた方は無罪となります、紐付きのカードケースに入れておきますので、常時首から提げて携帯しておくと良いでしょう」
「よかったわね、ひとまずそれを持って行けば殺される心配はないし、それから……復讐も可能なのかしら?」
「そうなります、ということであなた方、その免罪符を提示しつつ、この木刀を使って今回の件を命じた、いえ強要した者をボコボコにすると良いでしょう」
『ありがとうございます女神様! 必ずやあのクソ上司を仕留めさせて頂きますっ!』
「よろしい、では行きなさい」
その辺にあった木刀をそれぞれ女神から受け取り、急いで部屋を出て行く女性2人であった。
まさかその強要したクソ上司とやらも、2人が免罪符と武器を持って戻って来るとは思うまい。
どんな奴がそのクソ上司なのかは今のところわからないのだが、まぁ、明日ぐらいになればもう、そのボッコボコのグッチャグチャになった死体がどこで晒し者になっていることであろう。
で、その余計なことにかなり時間を使ってしまったのだが、ここでようやく本題に、とっ捕まえた5人組の襲撃犯への対応に移ろうと思う。
横一列に並んだ状態で立たされた5人組は、シャツとパンツのみという大変にエッチな格好で、当初であった際と同じく女神に向けて殺気を放っている。
だが、もう縛られているためそこまで派手な動きをすることも出来ないし、当然武装もしていないのだから攻撃らしきことは何も出来ない。
それに先程の戦いで、まともに戦ったところで絶対にダメージを与えることも、恐怖を感じさせることも叶わないということを悟っているのだ。
で、そんな5人組に対してこれから何をしようかといったところだが……まずリーダーとして、5人を代表して俺達と対話するべき者を選ばなくてはならない……
「……えっと、じゃあこのメンバーの中で一番威張り腐っていたのは誰だ? 1歩前に出ろ、或いはどいつがリーダーなのか示せ」
「フンッ、誰がそんなこと教えるわけ? 仲間を1人差し出して、それでで残りは助けて貰おうとするなんて思った?」
「そうかそうか教えないか……じゃあお前、最初に喋ったからリーダーということで、早く1歩前に出ろ」
「わ、わかったわよ、好きにしなさいっ!」
「うむ、じゃあ早速このトゲトゲが付いた最強の鞭で……違うってか?」
「勇者様、まずはまともに話を聞いてみない? いつもみたいにどうしようもない理由で襲撃してきた犯人ってわけじゃないし」
「そうですね、珍しくお姉ちゃんがまともなことを言いました、勇者様、この事件は闇が深いかもですよ、神も関与していますから、そのブサイクとかいう」
「あぁそうか、さっきのチコン野朗の情報提供じゃまだ不足だからな……ということでお仕置きは後だ、まず何がどうなって今の状態になったのか、そこから話して貰うこととしよう、良いな?」
「待ってよ、その鞭で叩かれたら死んじゃうんだけど普通に、そんなんだったら何も答えないでそのまま殺られる方を選ぶわよ」
「大丈夫だ、ちゃんと情報提供すればお尻ペンペンぐらいで勘弁してやる」
「わ、わかったわよ、それなら死にはしないし、酷い目に遭うよりもマシだわ」
ということでリーダーに抜擢したその1人に対して質問を投げ掛けるのだが、基本的には先程、もう逃げ出してしまったチコン野朗が言っていた内容と同じになるはずだ。
だが細かい部分はガチの被害者にしか分からないし、それからチコン野朗が答えることに恐怖し、あの場でどうしても口に出来なかったような詳細も、この連中からは聞き出せるはず。
あんな場所で襲撃を、しかも無関係だとわかっていて、単に同じ神界の神であるというだけの女神に対してやってのける連中だから、神への恐れとかそういったものはもうないのだから……
「それで、まずは何から聞こうか? その、アレだ、キモ女神の名前を教えてくれないか? そしたらウチの女神がピンとくるかも知れないからな」
「名前ね、名前はオーバーバー神とか言ったかしら?」
「オーバー婆さん? 単なるババァならすぐにブチ殺しに行こうぜ」
「勇者よ、オーバーバー神です、結構強い、というか陰湿で有名な女神ですね、なるほど、あの者がそうでしたか……」
「陰湿って、例えばどんなことをしてくるんだよ?」
「例えば……敵対者に対してはムチャクチャをしますね、普段から取り入っている神界上層部を動かして圧を掛けたり、神々のネットワークを悪用して『ネットリンチ』を仕掛けたりとか」
「最悪なババァだなまた……で、この5人はそのババァの嫌がらせを受けてこうなってしまったと、そうだな?」
「そうよ、私達は元々この町で、普通に暮らしていた神界人間なのに、それがあのときキモ女神ババァの来訪で……」
「まぁそういうこと以外にはないよな普通に考えて……」
この5人は以前にそのオーバー婆さんなる女神がこの町に降臨した際、どういうわけか発せられた『町で若くて美しいという感じで通っている女を5人集めよ』、という命令によって掻き集められ、そしてその場で……ということであったらしい。
また、その際にキモ女神であるそのババァは、次以降も来る度に同じことをしてやるゆえ、『生贄』となる女を用意しておくように、などと笑いながら、気色の悪い笑顔を見せながらそう言ったのだという。
なんとも性格の悪いババァなのだが、それを普通に受け入れてしまったこの町の市長、つまりコチンコチンのチコンも普通にクズだな。
また、そんなことをしているのが神であるということは、普段からそれに助言している天使などが居ないとおかしいのだが……その連中は何をしているというのだ一体?
そんな気持ちの悪い、そして陰湿な奴がやりたい方題をしているというのに、全く止めに入らないというのは……やはり、そのやっている奴が陰湿すぎて危険だからということか……
「……で、俺達はそのバーバー、じゃない何だ、オバーババァか……違うな、とにかくそいつを始末して、この辺りに地域に平和を取り戻すというサブミッションに挑むわけか」
「仁平とかいう神様の所へ行くのが遅くなってしまいそうですね、というか純粋にダルそうです」
「いいえ、そうでもないかも知れませんよ、オーバーバー神の拠点はホモだらけの仁平神の場所とかなり近いですから、もしかしたら現状で迷惑を被っているかも……というか仁平神が酷い目に遭っている原因は……」
「もしかしたらそのババァにやられているのかも……ってことか?」
「可能性はあります、先程あの鬱陶しい変質者が言っていたように、神をリボ払い地獄などという苛烈な地獄に堕とすことなど、神界人間程度の力では到底無理ですから」
「神の中にそれを先導して、それで利益を得ている者が居るかもってことですわね、そうなると話しが繋がりますことよ」
「なるほど、その線でいけば確かに……よしっ、じゃあ可能性として追ってみることとするか」
その後、5人組の襲撃犯をどこに捕えておくのかということを検討したのであるが、この町の誰もがそれを無視しなくてはならない状況にあるため、食事の世話等が難しい。
かといってここまで反抗的な連中を野放しにしておくわけにもいかないし、付いて来させればそれはそれで面倒臭そうだ。
エリナ辺りが残って1人で面倒を見るという手もあるのだが、まさか神界で悪魔が単独行動するわけにもいかないし、他の仲間が、というのもまたアレな感じである。
2日や3日程度であれば、風呂付の部屋を用意してある程度の食糧も放り込んでおき、しばらくそこで待てと命じれば良いのであるが……そうもいかなくなる可能性がないことはない。
まぁ、オーバーバーバー……何だか忘れたが、とにかくそのキモ顔の女神だけならともかく、そのままホモだらけの仁平とかいう奴とも対峙することになれば、それはここに戻るまでにかなりの時間を要するということ。
その場合にはおそらく1週間、長ければ2週間以上もここを離れなくてはならないような気がするから、もし風呂を用意しておいたとしても、今度は水が足りなくなって結局……ということになりかねない……
「困ったな、この状況はどうしたら良いやら……」
「そうだっ、さっきの2人を呼び戻したらどうかしら? あの2人なら何だっけ? 免罪符? とかいうのを貰っているわけだし、何しても良いんでしょ?」
「確かにそうですね、私の与えし免罪符は永久の効果を有していますから、あの神界人間でしたら適任かと思います」
「じゃあ早速呼び出し……どうやって呼ぶんだよ? もうどこかへ行ってしまったし、今頃狂気に任せて上司とやらに復讐してんじゃないのか?」
「それも大丈夫です、私が与えたアレは、神であるこの私に忠誠を誓わせるためのものでもありますので……えっと、あの2人用の呼び出しボタンは……ありました、これをポチるだけでもう超ダッシュでやって来ますよ」
「便利な世の中だな全く……」
女神がどこからともなく取り出した謎のボタンをポチると、すぐに注文を受けた2人が駆けつけた。
その間およそ10秒、なかなか素早いデリバリーなのであるが、一体どこから来たというのであろうか。
ただ、2人は先程受け取った木刀を持ったまま、そしてその木刀には血糊が、というか顔や手などにもベッタリと返り血を浴びた状態でやって来たのだ。
かなり満足気な顔をしている辺り、本来はその後確実に処刑されてしまうような超絶ミッションの遂行を強要した上司とやらを、好きなだけボコッてからここへ来たのであろうということが窺える。
で、その2人にはこれから俺達が出掛けている間中、5人組の襲撃犯達がまた汚らしくならないように管理しておいてくれと、そう頼んで了解を得た。
もちろん女神による命令というかたちを取っているので、逆らわれたりイヤそうな顔をされたりということはないのであるが……と、すぐに連れて行こうとしているのでストップを掛ける……
「ちょっと待ってくれ、ひとまずリーダーのお前、さっきはそこそこに生意気な態度だったな、行く前にこっちへ来いっ」
「……何をするつもりなの? 別に、本当はもう殺されているはずのところだし、何をされても……ひゃっ!?」
「お前のような奴はお仕置きだっ! お尻ペンペンの刑で許してやるといった以上、そこまでしかしないがなっ!」
「ひぃぃぃっ! 痛い痛いっ! マジで痛いっ、ごめんなさいもうしませんから許してぇぇぇっ!」
「まだまだっ! ちなみに戻った後、5人並べてまたお仕置きしてやるからなっ、覚悟しておけっ!」
『そんなぁぁぁっ! どうかお許しをぉぉぉっ!』
「黙れっ、よしっ、今日はこのぐらいで勘弁しておいてやる、連れて行けっ!」
『ひぃぃぃっ! お助けぇぇぇっ!』
女神の支配下に入った神界人間の2人によって、どこかへ連行されていく襲撃犯達。
この後もまだ何か聞くべきことがあるかも知れないので、ひとまず俺達が戻るまではどうにか逃げられないようにしておいて欲しい。
2人がそれをしっかりやってくれることに期待しつつ、俺達は準備を済ませ、そのキモい顔の女神、オーバーババァ……何だか違うような気がするが、とにかくその神を襲撃すべく拠点を目指す。
今いる町からはかなり遠いようだが、せっかく市長であるコチンコチンのチコンを掌握しているため、それに馬車でも出させよう。
こちらにウチの女神が居る以上拒否することは出来ないし、文句のひとつでも言えばまた股間を蹴り上げてやれば良いのだ。
庁舎の建物から外へ出て、そこでチコン野朗を呼び出してすぐに来させると、馬車を出すようにとの簡潔な命令のみをして再び待機に入る。
そういえば食事について考えていなかったな……まぁ、道中で町などもあるはずだから、そこで少し休憩しつつ何か食べることとしよう……




