1222 コチンコチンのチコン
「ひゃぁぁぁっ! やられたぁぁぁっ!」
「クッ、殺せ……いややっぱ殺さないでっ!」
「結局一撃も与えられなかったわ、憎き神に……」
「はいお終い、2人は気絶しちゃっているみたいだけど、とりあえず運んで……ちょっと臭そうね、先に洗った方が良いかしら?」
「洗うにしてもここじゃアレだろ、女神、次の町でこいつらを綺麗に出来そうか?」
「そうですね、まずは私達が泊まるべき最高級の宿を借りないとですが……確か隣町はちょっとアレな名前の神界人間が市長をしていたはずです、それに命じてどうにかさせましょう」
「おう、それまでは……まぁ、その辺に落ちているリヤカーでも拝借してこいつ等を運ぼうか」
何か事情がありそうな感じであった女性5人組の襲撃犯、美しいがゆえにブサイクな女神の不興を買ったとのことだが、詳しいことは聞いてみなくてはわからない。
ということでその退治済みの5人を、もちろん気絶している2人も含めて、その辺の誰かが忘れていったドロップアイテムのリヤカーに乗せ、次の町を目指す。
意識がある3人は地味に抵抗していたのだが、精霊様が何やら脅しを掛けたようで静かになった。
そして相当な期間風呂に入っていないらしく、地味に臭いのでどうにかして欲しいところだ。
次の町へ行ったとしても、この5人は他の魔界人間や、さらには天使などからも無視されてしまうという過酷な状況にあるのだが、どうやって洗うのかはそこで考えてみる他ない。
市長などが居るとはいえ、まさか神々の決定によってそうなったものを、神界人間如きが一時的に解除するなどということは出来ないであろうし、そこそこ難易度の高いミッションである。
まぁ、最悪の場合には適当に、その辺で素っ裸にさせて精霊様の水で丸洗いなどということも出来るが、その後の関係性を考えると、そこはきちんとした風呂でも用意しておいてやるのが望ましいであろう……
「そういえばさ、その次の町の市長? ってのは真っ当な奴なのか? やべぇ変質者だったらそれはそれで厄介だし、殺して町ごとこっちで操作した方が良いかもだぞ」
「大丈夫……だとは思います、確か神界人間にしては防御力が高く、『コチンコチンのチコン』などと呼ばれているおかしな男で……」
「名前にヤバみしか感じないんだが?」
「それはどう考えても変態の類だと思うわよ私は……」
「とにかく、行って話をしてみて、埒が明かないようでしたらそれはなかったこととして新たに別の方法を考えるべきでしょう」
「まぁ、そうなるわね普通に……っと、町らしきものが見えてきたわね」
名前からしてアレであるということが発覚してしまった次の町の神界人間のトップ。
もちろん名前がアレだからといって中身もそうとは限らないが、まぁ、得てしてそういうものであろうという雰囲気はある。
とにかく見えてきた町に、さらにスピードを上げて接近すると、世界のどこでもまるで同じではないかと思える光景、門番らしきおっさんが武器を持ち、町の入口のゲートの前に立っている姿が見えた。
やはりこの神界でもそのような警備をしなくてはならないほど、想像していたよりも危険な輩が居るということだ。
その門番に近付くと、最初はかなり警戒した様子で何やら構えを取っていたのだが……こちらに女神が居るということを察知したのか、超絶土下座でのお出迎えを始めたではないか。
地面に頭をめり込ませ、そのまま深く掘り下げるような仕草でこちらを迎え入れる門番の1人が、もうすぐすれ違うというところでガバッと起き上がる。
町の入口は一般の旅人などで混んでいるようで、女神を擁する俺達の集団は別の入口から中へ入って欲しいとのことであるが……まぁ、このまま突っ切るよりもその方が早そうだな……
「へへーっ! どうぞこちらへ女神様! まさかこの町に神がおいでになるとは……ところでお供の者共は……」
「えぇ、これらは私の配下で、下界から連れて来た下賤なる下等生物でしべぽっ!」
「調子乗ってんじゃないわよこの馬鹿!」
「精霊よ、さすがにこの神界で女神である私に手を出すなど……」
「黙りなさいっ! あんたの女神としての権限なんて、この私あってこそのものじゃないのっ! わかってんのそこのとこ?」
「精霊様、さすがに盛りすぎだぞその権限……てかめっちゃ見られてるから、目立つからやめろってもう」
門番である神界人間の目の前で、神界でも最上位の身分を持つ女神に対して横柄な態度を取り、普通に手まで出している精霊様。
それを見て周囲の連中は思ったことであろう、この『お付きの者共』はタダ者ではないのではないかと。
まぁ、実際にそうであるのだが、ここはひとつ、あまり目立たないようにしておきたいところでもある。
精霊様は後ろからガシッと掴んで女神に対する暴行をやめさせ、そのまま門番の指示に従って裏口的な通路から町へと入った。
謎のリヤカーに乗せられた汚らしい5人組、しかも『堕ちた』状態にされたことによって、本来はガン無視されるはずの連中を連れた女神様御一行。
精霊様には目立つなだの何だのと言ってしまったのだが、これでは普通にしていても目立つなという方が無理で……そもそも女神がこの町へやって来ていることが大々的に喧伝されてしまっているらしいな。
道を歩いていた神界人間は俺達が近付くと横に避けて、まるで王でも通るかのように履き物を脱ぎ、帽子を取って土下座している。
これが女神に対する敬意を示すものだということは十分にわかっているのだが、何となく、俺にもその一部が向けられているような気がして非常に愉快だ。
もっとも、土下座しながらチラチラと、やはり後ろのリヤカーを見たり、明らかに魔族であるということがわかってしまう悪魔3人娘を見たりしている者も多いようだが……
「……ユリナ、サリナ、それからエリナ、お前等はちょっとアレだな、後で帽子とか調達して角を隠した方が良いかもな」
「えぇ、間違いないですの、さっきから悪魔悪魔とやかましいですわ、聞こえているのに気付かないのか、或いはわざと聞こえるように言っているのか、いずれにせよ不快なことですわね」
「まぁ、そういう奴は顔を覚えておいて後で殺せば良いさ、それよりも……何だったか、チコチコチ……じゃねぇや、もう名前忘れたぞ」
「コチンコチンのチコンなる神界人間ですね、この先、まっすぐ行ったところに見える大きな建物に居るのではないかと思われます……それにこの騒ぎですから……」
「まぁ、間違いなく市長の耳には入るわね、きっと大慌てで出迎えの準備をしているんじゃないかしら?」
「そりゃそうだろうな、何といっても異世界から来た大勇者様であるこの俺様を出迎える重大なイベントなんだから」
「勇者様じゃなくて女神様を出迎えるのよ普通に……」
何だか俺の想像とは少し異なる準備がされているようだが、とにかく俺達が、この御一行様が出迎えられるということに変わりなはい。
相変わらず町の連中も平伏しているし、俺はもう神になった気持ちで、というかこの先本当になるであろう神に、実際になった際の予行演習としてこの町を楽しんでおこう。
仮にこの俺様を『大勇者神様』として、基本的に逆らう者は死刑、ムカつく顔を見せた者も死刑、ちょっと臭そうな奴も死刑など、そういった神になったら直ちにやるべき浄化政策についても、予行演習をすることが出来るとなお良い。
で、そんなことを考えているうちに、いつの間にか地面にはレッドカーペットが敷かれ、5人組を乗せていたリヤカーも、スッと出現した金の大八車に交換されて……果たしてそこは必要であったのかが疑問だ。
だがとにかくかなり高級な感じが出されたこの御一行様がそのまま進むと、庁舎らしき建物の前に1人の知らないおっさんが立っていて……かなり防御力が高そうな、カクカクした顔とボディーである。
相当に鍛えているらしいそのおっさんが、この町の市長であるコチンコチンのチコンとかいう者であるのはもう間違いない。
そしてパッと見では……動き易そうな甲冑のようなものを装備しているというのに、股間の部分だけはなぜか一切ガードしていないのが特徴だ。
きっとその部分だけカチンコチン、ではなくコチンコチンなのであって、もはや装備などで防御力を補う必要がないということなのであろう。
そんなおっさんがレッドカーペットの上で、かなりのオーバーアクションで土下座して、俺達を出迎えてくれたのであった……
「ようこそおいで下さいました女神様、はるばる隣の町から、私、この町の市長を拝命しておりますチコンと申します、この名前の由来はですね、ある部分がある条件下でコチンコチンになるという現象を任意発動することが出来るという特性を生かして、それを常にアクティブ状態に……」
「おいおっさん、キモい話は良いから早く案内しろ、ふざけんじゃねぇぞこの俺様をこんな場所に立たせたままで」
「……女神様、失礼仕りますが……喋るチンパンジーを下界からお持ちになったのですか?」
「えぇ、ちょっと異世界チンパンジーとやらに興味がありまして、それでいててててっ! 凄く凶暴な生物なんですっ! とにかく私達を中へっ!」
「ははっ! 承りましてございますっ! お供の者と……それから後ろの荷物は何にございましょうか? とにかくお運び致します」
「そうして下さい、荷物は丁重に扱うように、あと極上のスウィートに極上の料理とお酒を用意して下さい」
「へへーっ! 仰せのままにっ!」
女神の奴が俺様に対して失礼なことを言ったことに関しては、状況が状況だけに軽い罰を与える程度で許してやらざるを得なかった。
だが最初にこの俺様をチンパンジー扱いしやがったあのチコンとかいうキモ野郎、奴だけは最終的に始末してやらなくてはならない。
もっとも、その前にあの5人のことを解決し、もし知っているようであれば、『顔のキモい、しかも嫉妬深い女神』というのの情報も得ておきたいところである。
まぁ、その女神についてはこんな神界人間の市長如きに聞いてもたいした情報は得られないであろうし、どこかで極めて位の高い天使でも見つけて、それから聞き出すこととしよう。
建物の中へと通された俺達は、まず超広いVIP専用ルームのような所へ通され、まずは荷物を置いて身軽になった。
あとはあのチコンとかいうおっさんと面談して、預けてある5人に関してどうしていくべきか、というかどのような処理で『人間』に戻してやるのかということを考えなくてはならない……
※※※
「……なるほど、あの『5つの見えない荷物』は道中でドロップしていたものを拾得したということですな……ふむ、さすがは女神様、そのようなことが可能でしたか」
「まぁ、普通にガン無視しなければ良いだけですから、それよりも……少し汚れていたので綺麗にしておいて頂けないかと……いや、綺麗にしておくことを命じます」
「しっ、しかしそのようなことをすれば、直接綺麗にした者が『堕ちた馬鹿ガン無視法違反』となってしまいまして、この町では普通に死刑になって……」
「別に、それならば死刑になっても構わないような、そんなキャラを見繕ってやらせれば良いではないですか? 簡単なことです、タオルと石鹸とを渡して、それからお湯を沸かしてやるだけなのですよ……あ、もちろん囚人にやらせようなどとはせず、神界人間の中でもトップクラスの身分の者にやらせなさい、よろしいですね?」
「へへーっ! ではそのように致しますっ、準備と人選をさせますのでしばしお待ちをっ! あっ、ちょっと正座で足が痺れて……」
「早くなさい、でないとあなたの命はありませんよ」
「ひぃぃぃっ! 畏まりましたぁぁぁっ!」
防御力が高い、それゆえコチンコチンのチコンである……と思いたいところだが、どうやら正座耐性の方はまるでなかったらしい。
俺達がソファに腰掛けているのよりも頭を低くするため、床に直接正座させたのだが、そのまま足が痺れて、出て行くときには転倒したり何だりと忙しい様子である。
で、そんなコチンコチンのチコンが戻って来たときには、かなり疲れ果てた表情であって、なぜか負傷までしていたため、『誰を生贄にするか』の協議が難航していたのであろうと、そういった印象を受けた。
とはいえまぁ、その犠牲になった連中が処刑されるのを眺めていても話は前に進まないため、ここは無視して会議を再開することとしよう……
「……で、あの5人に関しては終わったらここへ連れて来るように頼んでおいて、それから……おいお前、ホモだらけの仁平とかいう神、じゃなかった女神を知っているか?」
「女神様、また何やらチンパンジ……」
「コチンコチンのチコンよ、あなたこのチ……この者に殺されても知りませんよ、凶暴だと言ったばかりです、それで、質問に答えないと暴れ出しますよ、どうしますか?」
「へへーっ! あ、それでその……ホモだらけの仁平神様でしょうか? それでしたらお名前と、それから肖像画ぐらいは拝見させて頂いたことがあるのですが……それが何か?」
「おう、お前は後で殺すから今のうちに聞いておきたいんだが、その仁平とかってのをリボ払い地獄に堕としたのはどこのどいつだ? というかどこの会社だ? 神界人間がやっている事業なんだろうそれは?」
「リボ払い地獄に……それはさすがに神界人間にはちょっと無理かと……いえ、もしも神を騙してそのような苛烈な地獄に堕としていたのだとしたら、その会社は末端まで全て酷い目に遭わされるでしょうな……」
「ふむ、結局どこのどいつがやったのかはわからんのか……まぁ仕方ない、それはこっちで必死こいて探すか、それと……何だっけか?」
「顔のキモい、しかもそれでいて嫉妬深い女神についてでしたよね? 何か知りませんか?」
「顔のキモい女神様……いえ、少し心当たりがあるのですが、さすがにキモいなどという条件があって、そこで神の名を挙げるのはちょっと……」
「さすがにそうなりますか、困りましたね……」
どうやらもうひとつの出来事に関しては何か知っているらしいコチンコチンのチコンであったが、その神の名を口にするところまでは憚ったようである。
知っていることは知っている、だがあまりにもヤバいので口に出すようなことはしない。
本来はそれが通常の対応であり、まともな奴であればそのようにするであろうといったところだ。
だが俺達勇者パーティーに対してのみ、そのようなやり方が一切通用することがないというのを、この馬鹿はまだ知らないのである。
殴る蹴るの暴行、本格的な拷問や、普通であれば死んでしまうところを回復魔法で無理矢理……などなど、バラエティに富んだ『吐かせ方』があるということを、すぐに教えてやらなくてはならない。
とはいえ、そこは女神からの説得によって、今は大丈夫だからそいつの名を言えと促すという方法もないことはないような状況。
このまま痛め付けてしまうと後々確実にやる拷問の効果が薄れてしまうであろうし、まずは『そういう目に遭うのがイヤなら』という角度から攻めていくこととしよう、もちろん女神を使ってだ……
「コチンコチンのチコンよ、そのようなことなど気にしているよりも、自らの身を案じた方が良いのではないですか?」
「いえ女神様、大変恐縮にございますが、これは我が身を案じての意味もありまして……」
「そうですか、ではこの者達に惨殺されると良いでしょう……ちなみに、極めて残酷な下界の存在ばかりですから、そう易々と死なせてくれたりはしないと思いますよ」
「おうよ、少なくとも1か月はもがき苦しむように調整してやるぜ、さて、早速ブチ殺していこうかっ」
「まずはそのコチンコチンの何かの強度テストから始めていきましょう、どうぞ勇者様」
「よっしゃっ! 大勇者様股間蹴り上げクラァァァッシュ!」
「ひょんげぇぇぇっ! ひょっ、ひょっ、ひょぉぉぉっ!」
「……ほう、かなり威力を絞ってはあったが、それでも大事なブツが完全にデストロイすると思ったんだがな、本当にそこそこの防御力を持っているらしいぞコイツは」
「ひょぉぉぉっ! ひょぉぉぉっ!」
唯一装備品で防御していない、つまり相当に自信があるはずの、その無防備なブツを思い切り蹴り上げてやると、確かにその自信の根拠が感じ取れた。
もちろんその程度でこの大勇者様の、全力の10億分の1程度の力を込めた蹴りを完全に防ぐことは出来ないし、キッチリ悶絶して床を転げまわるコチンコチンのチコン。
コレでどちらの立場が上なのかということと、それから逆らうなどすればどのような目に遭うのかということ、そのどちらもを教えることが出来たであろう。
だったの一撃で、特に恐怖感情を麻痺させることなくここまですることが可能なのは、この俺様の抜群の調整力の賜物で……と、それはどうでも良いようだ。
ひとまず汚いモノを蹴飛ばしてしまった靴を捨て、新しいものを注文してそれを待つ間に、ルビアがかなり遠くから、チコンに向かって回復魔法を送る。
これでもう一度仕切り直しとしよう、しかしこの先はこのチコンが、俺達の質問にスラスラと、知っていることの全てを喋り続ける時間となるであろう。
しばらくして起き上がった、全てのダメージにつき回復したチコン、コチンコチンのチコンが、慌てた様子で正座し直してこちらを向く。
俺達が聞きたいすべてのことに答えを出す準備が出来たようだ、これからコイツの脳味噌を引き摺り出してでも、まずは『キモ顔の女神』についての情報を得ていこう。
おそらくではあるが、それが元々追っていた、というかその所在へ向かっていたホモだらけの仁平とかいう神に、違った女神に近づくためのヒントをもたらすのであrぉうから……




