1220 贈賄の効果は
「しかし女神、お前アレだな、よくよく考えてみればどうしてこんなに手早くその何だ、俺達が必要としていそうなブツを発見したなって感じだぞ」
「あら勇者よ、私がもっと苦戦するとか、失敗するとかお思いでしたか?」
「めっちゃ思ってたし、そもそも指定した期日までい帰って来ないで、忘れた頃にやって来て惚けてシバかれるところまでが基本だと思っていたぞ」
「いやそれどれだけ信用がないというのですか私……女神ですよ、この世界を統べる神界の」
「神だろうがカニだろうがお前はお前だ、信用ならんのは何も変わらないのであるっ!」
「・・・・・・・・・・」
仁平とやらにやっていることがバレてしまうという失態を犯しているというのに、さも作戦に成功したかのように振舞っていた女神。
そのまま調子に乗らせておくとどこまで舞い上がるのかわからないため、適当に『牽制』してストップを掛けておくこととした。
で、そんな女神を伴い、俺達勇者パーティーの12人と、それからなぜか『神界クリーチャー』として召喚されてしまった経緯を知るためにも、そして不死の力を用いて万が一の際の盾……と、それは本人には黙っておこう。
とにかく普段のパーティーメンバーに加えてエリナ、女神というかたちで構成されたメンバーをもって、俺達は初の神界突入を果たすのである。
特にドレスコードなどはないはずだし、武器も持参していて構わないはず……食糧などは向こうで、女神の拠点なのか家なのか、そこで調達すれば十分であろう……
「そんで、まずはどこに転移? するってんだよ、魔界と同じように神界にも町とか何とかがあるのか?」
「そうですね、町もありますが……ひとまずはほら、私が使っているあの部屋へと転移したいと思います」
「あの真っ暗な部屋か?」
「今はちゃんと諸々の料金を支払っているので明るいです」
「女神様、大変失礼ですけど食糧のストックはありますか? めっちゃ食べるんでウチのメンバーは」
「それもご安心下さい、もし足りなくなってもお付きの天使とかに買いに行かせますし、最悪通販で一撃ですから、ちょっと割高になりますけど」
「そうですか、ではこちらから何か持って行くことはしなくて良いですね、むしろ向こうで何かゲットしてこちらで売って……」
「この者から邪悪なオーラを感じるのですが……神界のセキュリティに引っ掛からないと良いですね」
「しょうがないミラね、ほら、ちょっとそういう考えを止めなさいってば」
神界から何かを、主にこの世界のクソ馬鹿モブ人族共にも価値がわかりそうなものにつき、『輸入』して転売しようと目論むミラであった。
だがそのような邪悪な考えを持っていると、神界ではセキュリティに引っ掛かるなどして大変らしい。
まぁ、それで痛い目に遭うのが本人だけなら良いのであるが、連帯責任になる可能性もないとは言えないのでやめて欲しい。
で、そんなミラに後ろから拳骨を喰らわせたセラが逆襲されて敗北しているのを眺めながら、俺達は荷物を持ち、庭に出て女神と一緒に転移するための行動に移った。
いつもは何だか良くわからない感じで顕現している女神であるが、今回は俺達も居るため、転移ゲートを作成してくれるとのことである。
そこを通れば女神の部屋、俺が最初にこの世界へやって来たときに目を覚まして、そしていい加減な説明を受けた後に排出されたあの部屋。
そのときは確か上空から落とされたような記憶があるのだが……まぁ、空の上の宇宙に神界があるということではなく、転移することで別の空間に移動しているだけなのであろう。
何やら指で空間を切るような仕草を見せている女神に対し、早くしろだの何だのと促し続け、その転移のためのゲートの完成を待つ。
しばらくしてそこそこ扉らしい形の、白く光る何かが俺達の屋敷の庭に生成されたのであるが……どうやら本当に扉になっているらしい……
「さて、行きますよ勇者パーティーの皆さん、このゲートは本当に、ガチのマジで神界に繋がっているものです、それゆえガチのマジで女神であるこの私に感謝しつつ通過するのですよ」
「うるせぇわボケ、で、このゲートは毎回ここに出現するのか?」
「毎回、というかもうここに出しっぱなしにしようかと考えています、いちいち移動の度に作成するのは面倒なので」
「……ちなみに聞いておくが……このゲート、もちろん権限とかそういうのがないと一切通れないとか、馬鹿には見えない素材で出来ているとかそういう特殊なモノなんだよな?」
「いいえ、何人も通行可能な、ごく一般的なゲートですが?」
「そんなもんここに置いてみろ、わけのわからん奴等がいきなり神界入りして暴れ出すぞ」
「特にこの勇者ハウスは侵入者とかそういう類のも多いし、反勇者派の邪教徒とかもやって来るから、相当問題になるんじゃないのそんなのが神界まで入り込んだりしたら?」
「あの、そのようなヤバい連中を庭に入って来る野生動物みたいに……わかりました、一応施錠しておきましょう」
「大丈夫なのかよそんな適当で……」
どこからともなく取り出した南京錠のようなもので、その光り輝くゲートを物理的に施錠するらしい女神であるが、そんなモノが役に立つとは到底思えない。
普段、この屋敷には全な非戦闘員であるアイリスだけでなくエリナも、つまりそこそこの力を持った悪魔も滞在しているのだが今回は違う。
いつもはエリナに見つかるのがヤバすぎて近寄ることさえ出来なかった泥棒だの、勇者を否定する馬鹿だの違法な宗教勧誘だの、そういった連中が入り放題になっているのだ。
もちろんアイリスにはそういうのが出現した際、『逃げる』のコマンドを選択するよう仕込んであるし、被害に遭うようなことはまずないと考えるが……屋敷としてはそうはならない。
既にこの段階で見えているのは、今まで庭木に隠れていたものの、明らかに新しい、塀の内側に殴り書きされたような侮辱の言葉。
それから不発だったと思しき爆発物も転がっていたし、庭の草が1ヵ所だけハゲになっているのは、そこだけ除草したというわけではないのであろう。
とにかくこの屋敷を、俺達の勇者ハウスを狙っている奴の数は夥しいものだから、そこにこんなゲートを放っておいたら……まぁ、困るのは女神だからもう俺は知らない……
「うん、じゃあ私が一番乗りしますね、ちょっと寒いですけど」
「おいリリィ、無理すんなよ……とはいえもう少し速く動けよ」
「コマ送りみたいになってんじゃないの、あとちょっと、ほら頑張ってリリィちゃん」
「勇者よ、どうしてこのドラゴンの者は……変温動物だからですか、なるほど、ですがご安心下さい、神界は非常に暖かいですから」
「ん? 神界には冬とかないのか?」
「そうですね、ちゃんとあるにはありますが、やはり非常に豊かですので、どこもかしこも適温に調整してあるのです、もちろんこの世界だけでなく、数多の異世界の魔法や技術を用いてですが」
「となると……エアコンとかもちゃんと設置されてんだよな? そこら中に」
「いえ、ちょっとそこまでショボい技術はあまり……あるにはありますが、どれも魔導のものばかりですかねここ最近は」
「進んでんだな神界ってのは……」
俺達が今居る世界は魔法が発展し、それによって日常生活も発展している感じであるが、肝心の科学技術とか、そういったものが進歩していく気配など一切ない。
そして俺がこの世界に召喚される前に居た、腐った掃き溜めのような世界であるが、そこには魔法がなく、その代わりそこそこの技術があったと記憶している。
だが当然『異世界』はこのふたつだけではなく、神界に数多存在する神が、それぞれいくつか管理しなくてはならないほどに存在しているのだ。
よってその中で、この世界より魔法が発達している世界や、俺が前に居た世界よりも科学技術が発達している世界というのはいくらでもある。
そういった世界のものも、便利でありさえすれば全て神界に導入されていることであろうから、俺や仲間達の理解が及ばない、とんでもなく凄い何かが女神の部屋で稼動していてもおかしくはない……
と、そんな話をしている間に、どうにか扉に手を掛けたリリィが、相変わらずスローモーションでそれを開かんとしている。
まだ真新しいというのに、無駄にギギギギッなどと古めかしい音を立てて開くその輝く扉。
向こう側に現れたのは……普通の、どう考えても俺達が暮らしている屋敷の方が広いであろう居室であった。
畳のようなものもキッチリ敷かれ、その下には布団が畳まれた状態で置いてあり、そして何よりも部屋の隅に、紐で束ねられた雑誌が大量に積み上げられ……なんと古臭い部屋なのであろうか……
「……なぁ女神、お前の部屋ってこんな感じだったのか?」
「最近はもう神界に戻っても寝るだけでしたから、前は物置にしていたこの部屋に布団だけ敷いて寝ることにしています、その方がほら、ここから外に布団を……」
「おぉっ! なかったはずの窓が現れましたっ……外に布団が干してありますね、誰ですかオネショしたのは?」
「・・・・・・・・・・」
そういえばそんな設定もあったなと、顔を赤くして何も答えず、黙って窓を消し去った女神を眺めてニヤニヤしておく。
で、そんな狭苦しい寝室はどうでも良いとして、まずは腹が減ったということで、リビング的な場所へ移動して食事を提供するようにと促す。
隣の部屋、というか物理的に繋がっているのかそうではないのか不明であるが、とにかくドアをひとつ隔てた先に、今度は洋風の、長いテーブルに燭台が並んだ高級感溢れる部屋があった。
なんと席は最初から人数分に調整されているようだ、女神の奴がお誕生日席的な場所に陣取ったのは気に食わないが、とにかくここで待っていれば食事が出てくるらしい。
これまでにも何度か口にした神界の食事、というか食材はかなり上等なものばかりであったし、これは期待して良いのでは……と、女神の奴、ポケットから何を取り出したというのだ……
「……何やってんのあんた? そんな細かいデバイスみたいなの取り出してどうすんの? 早く私達に豪華な食事を提供しなさいよ」
「いえ、それを今注文しているんです、え~っと、じゃあこの『500の異世界で修行したシェフによるジューシーハンバーグ&野菜ソテー専門店』に頼みましょう、すぐに持って来てくれます」
「おい女神、そういう名前の店は地雷なんじゃないか……っと、もう来たのか、速いな配達……」
「空間を接続して持って来ているはずですから……にしても調理時間が短いですね、どうも~っ、すぐに出ま~す」
さすがは神界だけあって、そういう出前系のシステムも完備されているらしいのだが、一応剣と魔法のファンタジー世界から来た仲間達なので、その目の前でスマホ的なものを弄るのはやめて頂きたいところ。
で、早速届いた高級な出前の、さも高級そうな箱をテーブルの上に置き、ご開帳の儀式を……と、なぜかカレンもマーサも、そしてようやく動き出したリリィまでもがムスッとしているではないか。
どうやら3人共、その豪華な箱から漂ってくる香りが気に食わないらしいのだが、やはりこれは地雷の店であったということなのであろう。
そうとは知らずに、ノリノリで初めて頼んだというその店の料理をご開帳する女神が……ポッと取った豪華な箱の豪華な蓋を持った状態で固まった……
「……あ、あっ……あ~っ……何なんでしょうかコレ?」
「スッカスカじゃねぇか、てかこのハンバーグは何で出来てんだよ?」
「お肉じゃないです、絶対にお肉でも、お魚でもないですよこんなの」
「いえ、一応肉は入っているみたいです、つなぎとしてですが……パン粉が8割といったところでしょうね、あとその僅かな肉も腐っています」
「ゴーストキッチンだったみたいだな、おい、注文し直せ、もちろんちゃんとしたところにな」
「……わかりました、でもその前にこのお店、どうやら神からの注文であることを知らなかったようですね、悪は成敗しておきましょう、ポチッと」
「そのデバイスだとワンタップで悪を始末出来るのか」
「えぇ、さっきの注文で住所は入力済みでしたので、きっと今頃同じ部屋に大量投入された『○○専門店』が一斉に大爆発していることでしょう」
「神界にも悪質な奴が居るんですね……」
ということでその次はまともなところでピザだのチキンだのを頼み、やはり神界のものは美味いということで全会一致となった。
食事を終え、適当に酒でも飲みつつ例の神、俺達がこれから会いに行かなくてはならない『ホモだらけの仁平』という『女神』に関しての話を始める。
その強さ、というか強大すぎて目も当てられない存在であるということは既に聞いているのだが、問題となるのはその先のこと。
どうやって戦わずに封印された装備品を、その仁平とかいう神……ではなく女神が封印しているものを貰い受けるのかについて、具体的な方法を検討しておくと良い、というかもっと詰めておくべきであったという話になったのだ。
奴が極めて原始的な『リボ払い地獄』に陥っているというのは確かな情報であって、そこを突けばどうにかこうにか……というのがここまでで決まっていること。
あとはどのようにして『そこを突く』のかというところなのだが……そもそも最初の段階でどういう感じの出会いになるのかというところから考えなくてはならなさそうだ……
「とにかくさ、そいつの所へ行ったらいきなり『勝負だっ!』とかなるのか、そうじゃないのかが知りたいところだな、どうなんだ女神おいっ!」
「そうですね……まずですが、あの方はかなりそういった勝負とか何とかが好きなタイプだと思います、筋肉も凄いですし、そもそもそういうタイプの神なのですから」
「確かに、圧倒的勝利の女神で筋肉をチラ見せして相手をビビらせて……みたいな感じの女神でもあるんだから、そりゃ好戦的に決まっているわよね」
「どうするよ最初から第二形態とか、はたまたいきなり最終形態でお出迎えとかだったら、通告してきた実力の100分の1、だっけか? それでも普通にえらいことになるぞ、息で吹き飛ばされてお終いだ」
「そしたら一旦吹っ飛ばされて、もう一度戻って来るしかないわね、いくらそういうキャラだからって、一度圧倒的にボコッた相手にまた勝負を仕掛けてくるなんてことはないでしょ、たぶんだけど」
「そうだと良いんだがな、まぁ、最初に攻撃されるのかされないのか、それに関しては運でしかないかもな……ちなみに女神、俺達がそいつのところへ行く際には、先に何か伝えたりとかするのか?」
「いいえ、連絡手段とかないようなのでそのまま行って、直接お会いするしかないと思いますよ」
「何でだよ? さすがにこれだけ発展している神界で、しかも神が連絡手段を持っていないなんてことはないだろうよ」
「それが……どうもリボ払い地獄だけでなくて、魔道通信料も支払っていなくて……一時期の私と大差ないぐらいに困窮しているようです」
「馬鹿なのかそいつは? そうやって聞くととても強いようには思えないんだが……まぁ、そういう奴の方がやべぇんだよな……」
さらにクズな情報が出てきたそのホモだらけの仁平とかいう神、ではなく女神であったが、それとその神の強さ事態は無関係だ。
クズでも馬鹿でもアホでも、戦闘センスだのそもそもの強さだのを持っていないということにはならないし、もっているからこそ『圧倒的勝利の女神』という称号を得ているのであろう。
しかしそうなってくるとまた突くべきポイントが増えたような気がするな、ライフラインの断絶は、発展している社会であればあるほどに苦しいことにちがいないから、それを解消してやるという条件でさらに守られている装備品等の獲得に近付くことが出来る。
だが念のため、それ以上にプラスになるようなモノ、つまり贈賄として機能するような価値のあるものを持参しておこう。
名前からして、そしてその聞いている特長からして、仁平という女神がオカマ系のきゃらであるということに間違いはない。
となるとオカマキャラが喜びそうなものを……普通にわからないし、筋肉とかであれば仁平なる神ももう十分にお持ちであろうから、また別のものになるのだが……
「なぁ、その神に賄賂……お土産を持って行くとしたら何が良いと思う? あ、でも第一形態だと頭がないんだっけか? 食い物はダメだなそれじゃあ」
「いいえ勇者様、表面上は食べ物にしておいた方が良いってどこかで聞いたことがあるわ、饅頭がベストで、しかも山吹色だとなお良いって」
「セラ、それお前モロに金銭のことだからな、饅頭の下に小判隠すとか、時代錯誤すぎてやっていけねぇぞこの神界じゃ」
「う~ん、じゃあどうする?」
「そうだな、金銭に関してはもうダイレクトに、『お心付け』として持って行くのが適当か……女神、用意しておけ……で、もうひとつ何かとなると……何だ?」
「何というか、『物』に関しては無頓着な気がするわよね、やっぱり……戦うこと、その強さこそが最大のお土産に……ならないかしら? 違う?」
『・・・・・・・・・・』
精霊様はどうも核心を突いてしまったらしい、それはその場に流れた空気感で、発現した本人もわかってしまったことであろう。
結局戦う以外に道はないのか、その神を満足させる程度の力を見せ付けない限り、俺達の願いが叶うことはないのであろうか。
もしそうであるとしたら少し考えなくてはならないし、考えたところで今の実力ではどうにかなるものとは思えない。
せめて全力の100分の1だという力を、1,000分の1まで下げて貰うことが出来れば……という話を会ったときに直接して見ることとしよう。
もちろん問答無用で攻撃されなければであって、ダメなら吹っ飛ばされて出直して、ということをせざるを得ないが……




