1216 激戦
『フハハハハッ、である、貴様等にこの鉄壁の防御を、キングを守り抜く障壁を打ち崩すことが出来るのであるか、いや、決して出来ないのである』
「いいや出来るさ、根拠? 根拠は……俺達が正義だからだ」
『戯言を言うなである……そしてなぜ貴様フル○ンなのである?』
「正義だからだ、また逃げも隠れもしないという決意表明でもある」
『犯罪であるぞ貴様! そんな粗末なモノを、公衆の面前で披露して良いなどということはないのであるっ!』
「お前にだけは言われたくねぇよこの大蟯虫クリーチャー野朗が」
今回の敵、そのボスキャラだと思っていたケツ穴の神を内部から喰らってあっさりと退場させてしまった大蟯虫クリーチャーのキング的な奴。
ボディーは希少素材であるガンメタで覆われ、そして神を取り込んでいることから、神としての力も有しているというとんでもない状態だ。
この間戦った、似たような姿の神とは格が違う、大蟯虫クリーチャーのキングという要素があって、そこへさらに神をブレンドしたような、そんな異次元の強さを誇る強敵ということである。
喋り方がムカつくのも気になるのだが、まずは最初のターンで攻撃さえせずに構築した謎の防御壁のようなものを打ち崩す、それを考えなくてはならない。
見たところ透明、いやかなり白濁りしているようにも見えるが、とにかくある程度は透き通った、物理的な効果を発揮する感じの壁。
表面のテカりはおそらく、それがヌメヌメの何かであることを意味しているのだが、ヌメヌメなのかツルツルなのかに拘らず、間違いなくブチ抜くことの困難性が極めて高いものだ……
「……物理的には薄そうな壁ですね、どういう素材で、どういう魔法? が掛けられているのかを考えるのが近道のような、そんな気がしますよ」
「ミラ、お前復活していたのか? カンチョーされてダウンしてたんじゃないのか?」
「あの程度でしたらどうということはありません、ショックを受けてスタン状態になるだけで、そこまでダメージが入るわけではありませんからあの類の攻撃は」
「あぁ、そうなのね……で、あの壁のようなものの素材と言ったか……何なんだろうな? 触りたくはないが」
「退いてっ、風魔法と火魔法と、それから精霊様の水を喰らわせてみるわよ、そのときにどう反応するかで何かわかりそうかもだからっ」
「お姉ちゃん、良いけどあまり『何か』が飛び散ったりしそうな……もう撃ってるしっ、退散退散!」
「危ぶねぇなぁ、っと、ヒットはしたようだが……精霊様の水だけちょっと効いてるみたいだな、表面が洗い流されて……まぁ、ホントにちょっとだけで、全体を通してみればノーダメージみたいなものだがな……」
『フハハハッ、である、貴様等にはこの壁を打ち破り、我の本体に攻撃を届かせることさえ出来ないのである、諦めて帰るが良いのであるっ!』
そこそこの威力、もちろん後ろの庁舎がもしまだ健在であったとしたら、攻撃の余波でそれが倒壊する程度の威力を持った3人の攻撃であった。
だが大蟯虫クリーチャーのキング的なバケモノの前に張られたその障壁のようなものには、ほとんど効果が出ていない、直撃したというのにだ。
唯一『表面を洗い流す』ような、ほんの少しの効果が見受けられた精霊様の水に関しても、もし全力でやったとしたらもう少しダメージが入るのかどうかといったところ。
そのようなもの、今もそうなのであるがあっという間に修復されてしまうわけだし、洪水などが起こる余計な効果のことを考えると、それをやることのコスパはかなり低そうである。
よって定型的な攻撃ではどうしようもないということなのだが……ミラはまだ諦めていないらしい。
風魔法はそのまま弾かれ、火魔法の炎も、その湿り気によって無効化されてしまっているようであったところ、水だけがほんの少し効果を得たことを踏まえて、その障壁について考察している……
「う~ん、なるほど……勇者様、もしかしたらあの障壁、生物的な何かかも知れないです、生物、というか生物が作り出した何かとか、そういう感じだとは思いますが」
「生物が作り出した何か? 歯周病とかの菌が作るバイオフィルム的な……まぁ、そんなこと子の世界の人間に言ってもわからんか、とにかくまぁ、そういう感じのモノである可能性がなくはないと」
「えぇ、バイオフィルム……それだと思います語感的に、しかも体に悪い生物が出す何かで……消毒したうえで洗い流せばどうにかなるかもですよ」
「なるほど消毒か……炎系の汚物消毒じゃなくてってことだよな」
「そうですね、どちらかというと……ルビアちゃん、ちょっと良いですか?」
「あ、は~い」
後ろの方で間の抜けた返事をしたルビア、攻撃魔法は効かなくとも、人体を正常な状態に戻す効果を有している回復魔法であれば、というのがミラの考えらしい。
もちろんそれを直接障壁にぶつけてみても良いのであるが、その効果を、というか貫通力をより高めるために、残雪DXを用いるのはどうかと提案しておく。
するとすぐにエリナも前に呼び出され、残雪DXには最初の弾でルビアの回復魔法を撃ち出し、次弾で精霊様の水を凝縮したものを撃ち出すことが出来ないものかと聞いている。
……どうやらそれも可能であるようだ、まずルビアの回復魔法で敵の障壁であるバイオフィルム的な、あまり良くないモノを浄化してしまう。
そしてその弱ったところへ、精霊様の水を一気に撃ち込んで……強力な水圧でその『汚れ』である部分を全て押し流してしまうという作戦だ。
そういう歯磨きの仕方があってもおかしくはないような、まぁ、出来ればあの糸楊枝的なモノも使っておきたいところであるが、こういう薄汚い防御に対しては、この方法が効果を持っていそうだと言える。
すぐに準備がなされ、余裕綽々で笑い、口から屁をこいている大蟯虫クリーチャーのキング的なバケモノに対して、残雪DXが向けられた……
『……ほう、魔界武器、GUNを用いた一点突破を狙ってきたのであるか、だがそんなモノ無駄である、貴様等は屁も出ないほどに愚かである……ブフォッ……』
「屁こいてんじゃねぇか、しかも口とケツ穴が同一なのはアレか? ケツ穴の神から受け継いだ特性なのか?」
『我がボディーの秘密に関して教えるわけがないのである、貴様等がそれを知るのは、我が拡散した大量の大蟯虫クリーチャーによって苦しめられ、死を迎える直前である、そこで大々的に、我について発表してくれるのである』
「いやその発表とか要りませんよ、汚いんでこれで終わって下さい……発射!」
『フンッ、何をするかと思えばまた魔法を用いた攻撃である……なっ、何だこれはであるっ!? 我が体表面の薄汚い細菌、神の体内を蝕んでいた悪玉菌の群れが作り出したバイオフィルムが……分解されてっ、ぬわぁぁぁっ! であるぅぅぅっ!』
「そんなに雑菌だらけだったのかよ、ケツ穴の神の中身……」
汚いのではあろうと思っていたのだが、まさかそこまで、ケツ穴の神から取り込んだ雑菌の作り出すバイオフィルムで強靭な壁を作れてしまうほどであったとは。
だがミラの作戦が成功した今、その強靭な壁には穴が空き、どんどんと『清浄なもの』の浸食を受けて崩壊し続けている状態。
作り出した側の敵もそれは諦め、そのまま溶けるに任せることとしたようだが……さすがに『もったいないから取り込んでしまう』という馬鹿な行為には出ないか。
もしそうしてくれさえすれば、未だに残ったルビアの回復魔法の効果によって、敵の体内にあるとんでもない量の雑菌が浄化されて、その力を一部失うことが確定するというのに。
さすがは神の力を、その知能までもを完全に吸収しただけあって、そこらのクリーチャーなどとは頭の出来が違うらしいな。
だがその敵が防御壁を失った今は、こちらのチャンスであるという状況に一切変化はないのだ。
ここが攻め時、どれほどの力を持っていようとも、この状態であれば俺達の攻撃も通るのだから……
「エリナ! 通常の攻撃で良いからどんどんブッ放せ! 後ろからは魔法で援護を、俺達はカウンターに備えて防御陣を張るぞっ!」
『うぇ~いっ!』
『ギョェェェッ! であるっ! 貴様等何をするであるかっ! 次はこちらのターンなのである!』
「うるせぇ、誰がターン制バトルだなんて言ったんだよ? そんなことばっかり言っている奴は相当に知能が低くて……あ、ごめんエリナ」
「もう昔のことだから良いですっ、むしろターン制に拘ることがなくなった今の私の力を見て下さいっ!」
「残雪DXの力だけどなほとんど……」
「・・・・・・・・・・」
かつてはターン制に拘り、そのせいで俺達に敗北したエリナであったが、今はもうその頃のエリナではないらしい。
とにかく先頭に立ち、残雪DXで敵に本格的な攻撃を加えながら、その無限ではないかと思えるほどの力を削り始めた。
無論、その程度の連続攻撃で敵の全ての体力や魔力、その他の力を削り落とせるなどということはない。
むしろこのままだとかなりの時間が必要であって、そんなことをしている間にこちらの体力が尽きてしまう。
いや、その前に反撃を受けてとんでもないことになってしまいそうだ、既に今現在、敵は悲鳴を上げながらもどうにか攻撃の準備をしているのだから。
口から、でもあって一応ケツ穴でもあるその部位から、謎の白い球体が『ぬりゅんっ』と、そんな擬音でしか表現出来ないような感覚で飛び出した。
しかもひとつではなくふたつ、これはアレか……敵のボスキャラが仲間を呼んで、そのなんとも言えない感じの雑魚が参戦してくるタイプの技か……
『ぐげぇぇぇっ! であるっ! だが遂に完成したのである、先程より体内で練成していた我が配下がであるっ! 出でよである、大蟯虫クリーチャーライト! 大蟯虫クリーチャーゾンビであるっ!』
「ライトとゾンビ? ライトってのはもしかして通常の製品よりも体への悪影響がライトとか、そういうものなのか?」
『そんなはずはないのであるっ、その程度のこと、注意書きにも良く書かれていることなのである、ライトというのは……そろそろ孵化するようである……』
「わわっ、ちょっと、凄く気持ち悪いじゃないの……大蟯虫クリーチャーってのの丸くて膨らんだのと……腐って骨がはみ出したのが出現したわよ」
『そうなのであるっ! ライトは我が取り込んだ神の、その屁の成分を中に注入したものなのである、そしてゾンビはその屁の成分を噴霧し、腐らせてグッチャグチャにしたものなのであるっ! どちらも強いのであるっ!』
「クソめ、ゾンビの方はアレ、不死の類だな……ライトの方もガスで浮かびやがるぞ、刺激して破裂したら……」
『もちろん配下である通常の大蟯虫クリーチャーが撒き散らされるのであるっ!』
「……結構やべぇじゃん」
出現した2体の敵はどちらも強大な力を持ち、そして『やり辛い』タイプのものであった。
下手に手を出せば……というのが俺達にとってもっとも強大な敵であるし、戦いようがないタイプなのである。
しかしライトの方、つまり『神の屁』を充填されているらしい方の小さい大蟯虫クリーチャーは、そのまま放っておけば徐々に高度を上げていくことであろう。
そして気圧の低い上空にて破裂し、中に入っているのであろう大量の大蟯虫クリーチャー、またはその卵が拡散し、エリア全土に降り注ぐこととなる。
死神はもちろんそのことを察したらしく、だがどうすることも出来ずにテンパッているのだが……やかましいので精霊様がチョップを喰らわせ、一時的にその場で昏倒していて貰うこととした。
で、ゾンビの方もこれはまた、おそらく肉片などを飛ばして、それがさらに小さな大蟯虫クリーチャーになるとかそういうタイプのものなのであろうが……完全に消滅させない限りどうあっても死なないタイプでもあろう……
『フハハハッ、である、これは全て神の力である、我が喰らった神は命を落とせども、その機能ひとつたりとも死んではいないのであるっ!』
「いや毛根は最初からほぼ死滅してたみたいだけどな、お前もツルツルのハゲだし」
『それは最初からそういう存在なのであるっ! 余計なことを言っていないで、フル○ンである自分をまずどうにかするのである』
「黙れ、お前のような薄汚い存在よりも、フルチ○のままの正義の味方の方が10億倍マシだっての」
「いえ勇者様、実際のところどっこいどっこいだと思われますよ、普通に犯罪です」
「あぁそうなの? でも勇者様割で実質セーフだ、これからも俺はフル○ンでいこうかと思っている」
「寝ている間に切り落とさないとダメねこれは」
「おいマーサ、恐ろしいことを言うんじゃないよ」
「ねぇご主人様、それよりもあの浮かんでいるの、どうするんですか? このままだと届かなくなっちゃいますよそのうち」
「あっ、やべぇもうあんな高いところに、エリナ、残雪DXで撃ち落せるか?」
「まぁ、それは大丈夫ではありますが……でもこのまま撃ったら絶対に破裂しますよ、上空は風も強いですし、飛び出した中身がどうなることやら……と、それよりも勇者さん、ゾンビの方にその粗末なモノが狙われていますよ」
「ん? あぁっ、あぁぁぁっ! こっち来んじゃねぇよ気持ち悪りぃっ! 死ねっ、死ねやこのゴミ野朗! オラッ……あっ、小さいのが分裂しやがった」
『フハハハハッ! である、貴様等もうドツボである、そのまま大蟯虫クリーチャーゾンビに襲われつつ、上空にて大蟯虫クリーチャーライトが破裂し、この付近の空一体が大蟯虫クリーチャーに覆われるのを眺めているのであるっ!』
「クソッ、このままじゃ奴の思う壺じゃないか、どうにかして……いやどうにもならんけど」
キング本体と、それからボスのお供モンスターとして召喚された2体の大蟯虫クリーチャー。
そのどちらも、もちろん本体もどうすることも出来ずに、本当にただただ眺めているしかない俺達。
せめて大蟯虫クリーチャーゾンビの方だけでも、そうは思ったのだが、こちらにしてみても攻撃すると分裂するだけ。
まるでいつかの『物体』と戦っているようなのだが、こちらの方がキモくて危険で、しかも腐食したゾンビである分だけ臭いというのが厄介である。
上空の大蟯虫クリーチャーライトはもう、米粒のような大きさにしか見えず、そろそろ残雪DXの射程も外れてしまう。
死神の奴が気絶していることだし、もう『なかったこと』としてこのエリア全体を諦め、元々のエリアから……反対側でも目指してみようか。
などとも思ったが、どうせこのバケモノを放置しておいたらこの場に留まるわけもなく、真っ先に狙われるのはもう大蟯虫クリーチャーの汚染を受けている隣の、俺達が拠点としているエリアだ。
そしてもちろんのこと、このまま引っ掻き回しただけで作戦を終わりにし、その結果このエリア自体も終わりにしてしまった場合、死神から訴えられるのは俺達である。
魔界の訴訟がどのようになっているのかは知らないが、このまま法廷で争ったら明らかにこちらの不利であるから、それだけは避けておきたいところ。
では目の前のこのバケモノを、もちろんライトとゾンビも含めて討伐することが可能かというと……まぁ、無理だとは言わないが相当に頭を捻って、さらに体力と貴重な時間も消耗して戦わなくてはならないであろう……
「……あら~っ、そろそろ破裂するわねあの上の奴、風が強いからすぐにここに影響が出ることはないと思うけど、まぁ時間の問題になるわね」
「精霊様、そんなこと言ってないで取って来てくれよ、リリィが使えない今、空を飛んでアレを回収することが出来るのは精霊様だけなんだから」
「あら、他にも居そうなものだけど……まぁ、あんたには無理だから仕方ないわね、じゃあちょっと完全防備で……」
「どこに入ってたんだよその防護服は……」
自分で判断して最初から行けば良いものを、俺が声を掛けるまで黙っていた精霊様は、きっと面倒だから、そして上空の冷たい空気がイヤで、とにかく行きたくなかっただけなのであろう。
だがそんなことも言っていられないため、渋々の感じでどこからともなく取り出した防護服に着替え始めた精霊様。
その様子を見て反応したのは……なんとお供のゾンビではなく、大蟯虫クリーチャーのキング本体であった。
これはライトを回収されたくないという気持ちがかなり大きく、もちろん精霊様が空を目指そうと、ライトを回収しようとしていることに気が付いたためであろう。
ゾンビの方は俺を狙い、どうにかしてブツを捥ぎ取ろうと必死でその動きには気付いていないし、そもそも死なないというだけでそこまで強いわけではない。
となると、このままライトを回収して、そしてゾンビの方には極力触れないように、増殖されたりしないようにしていれば、実質相手はキング本体のみということにならないか。
だとすれば状況は振り出しに、いや敵はライトとゾンビの2体を弾き出した分だけ弱っているはずだから、実質ダメージを与えたのと同様と言える状況であろう……
「おい皆、ここから激戦になるとは思うが、全員付いてこられるか?」
「まぁ、勇者様が大丈夫なら大丈夫だと思うわよ、リリィちゃん以外は……」
「そうか、じゃあキモいゾンビの方は無視して、精霊様が戻ってから本体だけに集中して攻撃を仕掛けよう、それで削り切ることが出来ればこっちの勝ちだ」
「もし途中で『撒き散らす系の攻撃』をされたら?」
「死神には悪いがバッドエンドだ、このエリアは捨てて、もうなかったことにしてしまおう」
「……まぁ、それは仕方ない感じかしらね、とにかくやるしかないわ」
ここさえ乗り切れば、このエリアはもう俺達のモノになったも同然、だが強大な敵である目の前の大蟯虫クリーチャーを、如何にして討伐するかが問題である……




