1215 不浄の中から
「……来やがった、見えるぞ敵の姿がっ、警戒していないといきなり何をしてくるのかわからないからな、あと俺の後ろに隠れるのはやめろ、1列に並ぶな」
「だって、汚い系の攻撃とかしてきたらイヤじゃない、そういう場合には勇者様に守って貰うことになるんだから、先にこうやって隠れていても良いのよ」
「そのリスクについてはわからんでもないが、さすがにな……」
遂に姿を現すケツ穴の神、それが初手で薄汚い攻撃を放ってくる可能性を考慮して、まるで速い川の流れにでも耐えるかのように、俺を先頭にして1列に並ぶ勇者パーティーであった。
というか攻撃の要である残雪DXを装備したエリナぐらいはもっと前に出て欲しいところである。
普通に後衛と同じ、というかほぼ最後列のサリナの後ろ、一番後ろになるルビアのひとつ前に居るのは芳しくない。
だがそれを前列へ呼ぶよりも前に、先程庁舎の建物が爆発し、吹き飛んだ跡地の地面が再度爆発する……強大な力を持つその気持ち悪い神が、ようやくその姿を地上に現したのだ。
肖像画で見たのと同じハゲのおっさん、とても強いとは思えない容姿で、口だけは梅干を食べたときの酸っぱい感じの……まぁ、それは奴のケツ穴でもあるのだが。
とにかくゆっくりと浮かび上がり、生意気にも少し高い位置から俺達を見下ろすような、そんなポジションに陣取ったのであった……
『……我は神である、そしてこれよりこの地を獲る者である』
「へぇ、この死神からエリアを奪いに来たってわけね、それが訪問の目的だったと」
『左様である、そして我は神である、この地は我によって奪われ、我が主、ホネスケルトン神に献上されるものである』
「冗談じゃないわよっ! どうして」魔界の神同士でそんな奪い合いとかしなくちゃならないのっ?」
『貴殿は死神である、そしてホネスケルトン神による、派閥入りの誘いを断った罪人である、この地を統べる資格などないのである』
「結局そういうことなのかよ、だが残念だったな、このエリアを獲るのは俺様だ、俺達勇者パーティーご一行様だ、わかったかこの不潔野朗」
『不潔ではないケツ穴である、貴様、我が半身である神の屁に散々なことをしてくれた異世界人であるな、成敗するものとする』
「上等だよオラ、おいエリナ、後ろに隠れてないで前出ろ前!」
「ちょっとまだイヤですね、何してくるかわからないんでそのおかしな方が……」
「ビビッてんじゃねぇよここまできて……」
確かに恐怖するのもわからなくはない、あの口の部分に搭載された、口でもあってケツ穴でもある薄汚いパーツから、一体何が飛び出してくるのかさえわからない状況なのだ。
もちろん強大な力を持っているとはいえ、こちらが全員で攻撃すれば明らかに押し切ることが出来る程度の強さ。
つまりまともに戦えば勝つことが出来るということであるが、それでも『特殊攻撃』の中身が知れていない以上、迂闊に手を出すのは危険である。
で、そんな危険極まりないケツ穴の神が、どうやら先制攻撃を仕掛けてくるようで、その口であってケツ穴である何か……ではなく、両腕をまるで呪文を唱えるときのモーションのように、いや窓でも拭くかのように、こちらに掌を向けた状態でグルグルと回し始めたではないか。
確実に何かやってくる、そう感じた俺達は、無駄に1列に並んだまま身構えて、まず敵の攻撃を受けてみる感じの態勢に入った……
『……くあぁぁぁっ! まずは……まずは貴様の後ろ、その下界の人族であるグラマーな女から成敗してくれるものとするっ! せいっ!』
「私かっ? 何だ、何も……下かっ!? はうぅぅぅっ……こ、これは……」
「土属性の攻撃かっ? ジェシカが……カンチョー攻撃を喰らったのかっ?」
「そ……そのようだ……まさかこの私がこんな攻撃を……」
「そんなっ、ジェシカちゃんは『ケツ力』が高いからカンチョーは無効のはずなのに……まさか防御貫通攻撃!?」
『……その通りである、その者はカンチョー耐性100であったが、ケツ穴の神である我の、地面をフルに使ったカンチョーは防ぐことなど出来ないのである』
「クソッ、なんてこった、まさかそんな大技を初手で出してくるなんて」
ケツ穴の神の初撃、地面がドンッと、まるで急成長したタケノコのように突き出したその直上には、防御力が極めて高いジェシカのデカケツが存在していた。
一瞬早くその攻撃が何であるのかということに気付いたのか、それとも気付かなかったのかはわからないが、とにかくジェシカはその攻撃をまともに受ける。
本来であればここで、そのカンチョー攻撃を全て無効にして勝ち誇るところであったのだが、どういうわけかそれは100%の耐性を無視して貫通。
普段は絶対に喰らわないはずの攻撃を喰らい、俺に次いで2番目に居たジェシカはまるで生まれたての子鹿のように、プルプルと立っているのが精一杯の状態になってしまったのである。
いきなりコレは辛い、もしこの攻撃が続くとしたら、最終的に立っているのはおそらく狙われないであろう俺と、凄まじい反応スピードを持つカレンとマーサ、それから空を飛んで逃げられる精霊様ぐらいのものであろう。
もちろん最初から活動を停止しており、戦闘に参加する感じではないリリィは対象外として、残ったのが4人でかつ攻撃の要となる残雪DXと、その使い手のエリナがダウンするとなると……かなり厳しい状況になるな。
「……ジェシカは後ろへ下がってくれ、ミラ、マリエル、すまないがちょっと前へ」
「……わかりました、あの攻撃は私達が全て受け切りましょう、いきますよミラちゃん」
「そうですね、ここはひとつ犠牲になることで仲間を守ります……さぁ来なさいっ」
「いや、別にケツを突き出さんでも良いんだがな」
『……貴様等は馬鹿であるか? あのような攻撃、別に大技でもなければ何でもない、これ以上見せようとは思わなかったのであるが……そういうことであれば喰らうが良いっ! くぁぁぁっ! せいやぁぁぁっ!』
「はうぅぅぅっ!」
「きっくぅぅぅっ!」
「……本当に馬鹿なのかも知れないと、俺もそう思い始めたんだがどうだ?」
「クッ……そうかも知れませんね……あ、もう1回お願いします」
『・・・・・・・・・・』
ケツ穴の神を呆れさせることに成功した、攻撃を受け、合計で3人がダメージを負ったのはこちら側であるが、何となく精神面では勝っているような気がしなくもない状況だ。
とにかく敵の初撃である地面カンチョーと、それの追加攻撃はこれで終わり、ここからはこちらのターンになるのではないかといったところである。
攻撃を終え、何だかんだで消耗したエネルギーを補填するため、その口でありケツ穴である何かを稼動させ、空気中から力の源取り込もうとしているケツ穴の神。
その吸い込むような動作に反応したのはエリナ……というよりも残雪DXが主導したように見えたのだが、スッと飛び上がったエリナが攻撃の的をその口でありケツ穴である何かに絞る。
残雪DXに込められたのは例のブツ、大蟯虫クリーチャーの卵が充填された邪悪なるバレットだ。
それが発射され、まっすぐに敵のその部位へと向かって進み……当たり前のように吸い込まれた。
スポンッと、本当にそんな簡単で良いのかというほどに、完全なホールインワンが決まってしまった俺達による最初の攻撃。
ケツ穴の神は次の瞬間にはもう異変に気付いたようだが、だからといって何かをすることは出来ないらしい……とりあえずむせ出したか……
『ぶうぇっふぉっ! ぶぅぅぅっ……な、何をしたのであるか? 我は神、不浄なるケツ穴の神である、その神に対して何をしたのであるか?』
「うっせぇな、屁なんぞこいてんじゃねぇぞ……ってかそれ『神の屁』にはならんのか? ただこいただけで終わりなのか?」
『我は神である、屁であるそれを呼び出すためには、我が魂の一部をそれに載せてこく必要がある、よって屁ではない、普通のガスである』
「屁なんじゃねぇかよ普通のガスも、ケツ穴から出てんだからさ……で、俺達が何をしたのかだったっけか? 答えは教えない、そんなものは自分で確かめると良いさ、体調の変化などからな」
『……我は神である、ケツ穴の神である、そのケツ穴の神のケツ穴に何かをinsertした貴様等は悪である……死神も同様である』
「私、とんだとばっちりなんだけど?」
「お前も俺の後ろに隠れていたんだからアレだ、連帯責任だ、ちなみにホントの被害者はそこの魔界武器、残雪DXだろうよ」
『ちょっ、やっぱとんでもないモノ発射させたんじゃないですか? イヤですよ毒とか汚いモノとか、あと大蟯虫クリーチャーみたいなのとかっ!』
『……待てそこの武器である者よ……大蟯虫クリーチャーであるか? 大蟯虫クリーチャーが存在しているのであるかこの地には?』
「だからお前には教えないって言ってんだろ、そこで屁でもこいて黙っておけ、あ、ウ○コすんじゃねぇぞ汚ったねぇから」
『よもや貴様等、今のバレットの中には大蟯虫クリーチャーが……そのようなモノが入っていたのであるか? そうであるか?』
「……だったらどうなるってんだよ? もし大蟯虫クリーチャーがお前のケツ穴にinsertされたとしたら?」
『我はケツ穴の神である、だがその神のケツ穴でさえ死する恐るべき寄生虫、大蟯虫クリーチャー……我は死である、そしてこのエリアももはや死である、残るのはただただ大蟯虫クリーチャーのみで……うぐぅぅぅっ! はっ、腹にキタのである……ぬわぁぁぁっ! であるぅぅぅっ!』
「ねぇ、ちょっとヤバいんじゃないのこの反応? めっちゃ膨らんできてるし音も何か……ヤバいかも……」
大蟯虫クリーチャーに寄生された魔界人間と同様の苦しみ方をし始めたケツ穴の神、これは俺達の作戦が上手くいきすぎているということでもあるが、同時にそこまで上手くいくのはおかしいということでもある。
真っ先に反応したマーサが、俺の袖を掴んで引っ張りつつ不安を口にする……まぁ、ケツ穴の神の内部で暴れているのが、卵から孵った大蟯虫クリーチャーであることは明らかなのだが……その動きが通常ではないらしい。
当然のことながら、神から得られるパワーが異常なほどに高く、その中で成長する大蟯虫クリーチャーも、これまで通りのものではないであろうというのは想像出来る。
だがさすがにこの動きは……もはやケツ穴の神など優に超えた、どう考えても異常な力の持ち主が、そのここまで話を引っ張っておいてもう終わったどうしようもなくつまらない神の内部で蠢いているのだ……
「……おい、完全にケツ穴の神の強さを超えたぞ、しかもアレだけの数の卵が突っ込まれたはずなのに……動いているのは1匹だけだ」
「中で共食いし合って、それで最も強かった個体が生き残っているのね、まぁ強いどころの騒ぎじゃないけど」
『うぐぅぅぅっ……あぎゃぁぁぁっ……だ、誰かこの神である我を……殺し……である……』
「ちなみにお前はもう殺さなくても大丈夫だ、かなり萎んできているし、そのまま中のやべぇ大蟯虫クリーチャーに吸収されて死ね」
『・・・・・・・・・・』
もはや俺達の興味はこの薄汚い神などにはない、あったとしてもそれは、これから俺達が対峙することになる『やべぇ大蟯虫クリーチャー』の餌としての存在についてだ。
この不浄の神の中から、さらに不浄を極めたようなトンデモキャラが、その神自体を喰らって出現する。
そのことが確定している以上、もう残り少ないこんなケツ穴野郎の命ぐらい……それが今尽きたようだ。
抵抗力が失われ、そこからはもう急速に、あっという間に萎んでしまうケツ穴の神。
その代わりに、骨と皮だけになったそれの内部で蠢くミミズのようなボディーと、それから小さな人間の上半身のような部分。
通常の大蟯虫クリーチャーよりも、サイズに関しては少し小さいように思えるのだが、そのパワーに関してはもう何千倍何万倍、いや億単位で掛けなければこうはならないのではないかという次元のもの。
こんなとんでもないバケモノが大暴れでもしたら、この町どころかエリア全体に大蟯虫クリーチャーの卵が撒き散らされつつ、文明によって築かれた全てのものが破壊されてしまうことであろう。
残るのは原始生活に戻った僅かな生き残りと、それを蝕み続ける大蟯虫クリーチャーの大軍。
そのような未来がこの死神のエリアに訪れるのが、このままではほぼ確定してしまうような状況である……
「……出て来るわね、今日は敵を待ち構えるパターンが続くわ」
「おうよ、だが今度のはケツ穴の神なんかとは比べ物にならんぞ、あと形状は似ていると思うんだが、疫病の大流行をプロデュースする魔界の神とも比較しない方が良い」
「勝てるのかしらこんなのに? 残雪DXちゃんの攻撃が通るかどうか心配なぐらいだわ」
「わからんが、ちょっと頑張って貰うしかねぇよな……てかきめぇな、腹の皮をムシャムシャ喰って……喰い破ってきやがったぞ」
「うへぇ~っ、全部食べ尽くすつもりなのね、あまり見たくないわよこんなの……」
早くも退場してしまったケツ穴の神は、もう残された骨と皮までその中身である大蟯虫クリーチャーのやべぇのによって喰われてしまっている。
そして出て来たばかり、少し小さめのその大蟯虫クリーチャーは……どう見てもガンメタ素材のレアキャラだな。
しかも通常と異なる点として、どういうわけか人間の上半身の部分の、さらにその頭の部分にセットされている王冠がある。
もしやとは思うのだが、もしかしてももしかしなくても、コレはもうアレだ、大蟯虫クリーチャーのキングのような、そんな存在が誕生してしまったのではないかといったところだ……
「……ねぇっ、あんた何なのよ一体? 普通の大蟯虫クリーチャーってのじゃないでしょ?」
『……我は大蟯虫クリーチャーの王にして、神の力を得た究極の寄生虫である、ケツ穴の神の力は、この我が全て吸収し切ったのである……この鬱陶しい喋り方も無駄にコピーしてしまったのである』
「確かにウザいわね、で、普通のと比べて強いのはわかったけど……それ以外に違いがあるの?」
『我が配下となる大蟯虫クリーチャーの卵、それを飛ばしたり、生物に喰わせたりすることが出来るのは同じである……しかし、我が大蟯虫クリーチャーの卵は……余裕で空気感染するのである』
「おいやべぇぞ、皆マスクしておけ、俺達の抵抗力ならどうということはないかも知れんが、普通に空気感染するようなものを吸い込んでいるというだけで不快極まりないぞ」
「後ろの、救助した魔界人間にも配布しないとならないわね、てか逃げさせた方が良いかも、この町から」
「この町どころかこのエリアがお終いとか言っていたような気がするな、あのここまで引っ張っておいてとっとと退場したケツ穴野郎が……」
『否である、ケツ穴の神は退場していないのである、我が大蟯虫クリーチャーのキングにして、同時にケツ穴の神の遺志を継ぐものでもある』
「骨と皮まで貪っておいて良く言うぜ全く、とにかくもう喋るんじゃねぇよお前汚ったねぇから、大蟯虫クリーチャーを撒き散らすんじゃねぇっ!」
喋るだけで大蟯虫クリーチャーの卵を撒き散らしているのか、そうではなく神の屁のような、特殊な気体を放出してそれを撒き散らすのかはわからない。
だが様々なリスクが存在している以上、これ以上コイツに喋らせるわけにはいかないし、そもそもサッサと殺してしまわなくてはならないところ。
しかしその戦闘力は並大抵のものではなく、本当にこのまま、特におかしな攻撃をされなかったとしても、完全勝利を収めるのは至難の業である。
ケツ穴の神と違って弱点のようなものは見当たらないし、ここは長期戦の構えで、もちろんこの町ぐらいは消滅してしまうことを前提として、根性で戦っていくしかなさそうだ。
で、こちらが動かないということで、やはり敵の方から動き出して攻撃を仕掛けてくる様子なのだが……攻撃ではなくまず防御から構築していくらしいな……
『ハァァァッ! 我が前に防壁を、いかなる攻撃も通さぬ鉄壁の守りをっ!』
「……あら、この大蟯虫クリーチャーは自分を守るような行動を取るんですのね、これまでとはちょっと違いますことよ」
「まぁ、キングなわけだからなコイツは、他の一般、というか一兵卒とは自分の安全の重要性が違うんだろうよきっと」
『そのことに気が付いたのであるか、そうである、我は大蟯虫クリーチャーのキングである、我が身が大事なのである』
そう言いながら気持ちの悪いキングが構築した防御壁は、おそらく精霊様がいつも使うようなもののうち、最上級のものと比較しても遜色ない……いや、むしろぶつけ合ったら精霊様のが先に壊れるのではないかという次元のシロモノ。
もちろんこんなモノを押し付けられたり、これで囲まれた空間に閉じ込められ、中に大蟯虫クリーチャーの卵を放り込まれたりでもしたらひとたまりもない。
間違いなくそれを吸い込み、体調不良などを引き起こすであろうし、最悪の場合には1週間以上寝込むことになる可能性もないとは言えないのだ。
そしてそんな状況を、この町全体で作出されてしまった場合には……間違いなくこの町は終わり、大蟯虫クリーチャーだけの百万都市が構築されてしまうことであろう。
どうにかしてここで俺達が勝利し、町がなくなるのはともかく汚染されることだけは避けなくてはならない。
そしてもうひとつ、今回の作戦に大蟯虫クリーチャーを使おうなどというくだらない提案をしたのが誰であったか、それを思い出して、そいつに全責任を取らせる必要も出てきた。
余計なことさえしなければ、コレよりは遥かにマシであったケツ穴の神だけで、今回の戦いは終わっていたに違いないというのに……マジでブチ殺してやる、もちろんこの蟯虫野朗もだ……




