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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1206 密室

「……と、いうことがあったんだ、あのジジィは最終的に殺してしまおうと思う、もちろん事件が解決した後にな」


「しかし主殿、この温泉旅行の予定、というかここが外界と隔絶されている状態が解消するまでにもう時間がないぞ」


「そうよねぇ、2泊3日のうち、今が2泊目の夕食なわけだし、明日のチェックアウトの時間までに事件を解決しなくちゃならないのよ、証拠も一切ナシで……諦めた方が良くないかしらもう?」


「諦めるのはどうかと思う……なんて言いたいところだが、まぁアレだ、限界までやってダメならダメで、それ以外だったらラッキー、みたいな?」


「うむ、温泉に入るのと食事するの以外にやることはないのだから、気が向いたら手伝うこととしよう、それよりも……」



 ジェシカの提案で、せっかくなので明日の朝食はバイキング形式にして欲しいだとか、それをチェックアウトの時刻まで開けておいて欲しいだとかいう要請をすることが決まった。


 そしてそんな食べ物じみた話の方に興味がある仲間が多く、事件関連のことがその先で語られることはなかったのである。


 だがもちろんそれはパーティー全体を通しての話である、ここから先は本当に有志のキャラのみで、必ずや真相を究明する構えで物事に臨むこととしよう。


 で、そんな『有志』に含まれるメンバーは……俺と精霊様と、それから興味本位のマリエルぐらいのものであったか。


 これだとさすがに寂しいため、適当にあと2人かそこらを引き込んでおきたいと考えたところに、部屋の隅に転がしてあった荷物の中に、連れて来たは良いもののあまり使用していなかった魔王と副魔王が含まれていることを思い出した。


 この2人を引き込めば全部で5人だ、特に魔王の方は俺と同郷であるため、こういった探偵的な動きについては、一般的なものだとしてもかなりの教育を受けているはず。


 よって使える可能性が極めて高く、そしてもちろん全力で拒否し、もう一度温泉に入っておきたいだの何だのと言っているところを、強制的に引っ張り出しても良いキャラであるというメリットも存在するのだ……



「ということね、私達はもう一度『聞き込み調査』をしてくるから、たぶん女性グループはロビーに集まったままだと思うし」


「そういえば姿が見えなくなったベンチャーグループも、そろそろ腹を空かせて宿に帰還しているんじゃないのか? 話を聞くチャンスだぞ」


「私としてはもう少し、いえあと1回だけで良いから事件が起こってくれないかなと、そんな気持ちでいます、はい」


「じゃあ勇者様、あまり飲み過ぎないように戻って来るのよ、あと戻って来て騒がないでね、ミラとかリリィちゃんとか、もう寝ている時間になると思うから」


「おうよっ! じゃあそういうことで行くぞ探偵チーム!」


『うぇ~いっ!』



 セラは帰って来たときのことを心配していたし、どうせ俺や精霊様が、どこかで酒を喰らってそのままハイテンションで帰還するのであろうと考えていた様子。


 だが絶対にそうではない、あまり時間がない中で、俺達は少なくとも第二、第三の事件の犯人を発見しないとならないからだ。


 そのためには徹夜も辞さないし、最悪俺と精霊様とマリエルは寝て、魔王と副魔王に対して朝までの事件解決を命じ、その手柄だけ俺達のモノにするという手法もある。


 で、やはりロビーに居た女性グループの面々は、先程までと変わっていない様子で、ただ今は風呂上がりの格好でそこに集合していた……



「どうもどうも、で、あのあと何かあったか? 誰か怪しい奴を見たとかそういうのは?」


「特に何もなかったような……うん、モブB美さんが死んだこと以外には何も」


「そうかそうか、で、もう1人居ないモブA子さんってのには? あれから会ったりしていないの?」


「声を掛けたけど自室から出て来る様子はなくて、でも夕食のトレーが外に出ていたし、生きているのは間違いないかと」


「……ふ~ん、B美さんってのについてはあんなに忘れちゃったみたいな感じになっているのに、A子さんの方はちゃんと気に掛けているわけね」


「そのモブB美さんという方は非常にかわいそうな方ですね、殺されてしまうし」


「えぇ、良い人だったんじゃないかなと予想はしていますから、残念なことです、会ったことありませんが」


「いや会ったことぐらいはあるだろうよ普通に……てかさっきより酷くなってんな、モブB美さんの忘れられ方……」



 これが天然なのか何なのか、いやしかし天然であると考えて、つまり魔導の類ではないと思ってこうどうしなくてはならないところだ。


 で、その死んだはずのモブB美さんが怪しいということを、女性グループの他の連中には悟られないようにしなくてはならない……それと、部屋に引き籠ったまだというモブA子さんについても、少し怪しいような気がしなくもないな。


 などと考えていたところ、ロビーのすぐ横、宿の入り口の方がにわかに騒がしくなった……ベンチャーグループが帰還したのだ、血塗れで、しかも可愛い系であった女性キャラ2人とエリート君の3人だけ。


 そしてエリート君の方ももうボロボロで、これは何かあったなと、第四どころか第五第六の事件が発生しているなと、そんな予感だ。


 すぐに駆け寄り、特にけがをした様子はない女性2人に対し、何が起こったのかと聞いてみる……



「襲われたんですよっ! 皆でランニング? とか言って走らされているときに、前の方を走っていた方々が全員です、メッタ刺しにされてもうそのまま……」


「あんた達はどうして大丈夫だったわけ?」


「それは、体育会系のおっさん達が前を走って、その次はどうにか喰らい付いていた私達が、そんでもってかなり遅れてこのエリート君が走っていたからよ、襲われたのは前のおっさん組だけ」


「……エリート君何で死にかけてんのじゃあ?」


「普通に転んだらしいです、木の根っこに足引っ掛けて、倒れているところを私達が発見して、どうしようか迷ったけど一応救助しました」


「ただの馬鹿だったのかよ、まぁ良い、じゃあエリート君は後ろに居たと、前の奴等を襲撃したのは別の何かだと……うむ、このままじゃ死ぬな……マリエル、ルビアを引っ張って来てくれ、念のため治療させよう」



 ちなみに、襲撃を受けてあっという間にメッタ刺しを喰らったベンチャーグループのおっさん達は、そのまま犯人と一緒に谷底へ落下して行ったとのこと。


 しかも犯人は1人で、比較的屈強で王都の冒険者クラスのおっさんも含むような集団を、奇襲とはいえそこまでやってしまったのだ。


 普通に考えれば訓練を受けた人間であって、或いは人族ではなく魔族が関与しているのかも知れないといったところ。


 少なくともコケて膝とひじを擦り剥き、ついでに額もぶつけたことによってそこそこの出血をし、そのショックで死にかけている、モヤシ野郎のエリート君になせる業ではない……



「……これはもうわけがわからなくなってきましたね、第二の事件と第三の事件は繋がって……第一と今回のは何か関係があるんでしょうか?」


「そうだな、一応考えてみると……第一では部長とかいう奴、今回はベンチャーグループのおっさん全部……女性キャラには手を出していないようだな、まぁ、エリート君は自爆としてもだ」


「なるほどね、となると今回の一連の事件で女が狙われたのはモブB美さんだけ……やっぱりそこが怪しいわね……」



 すぐに呼び出されたルビアによって、どうにか一命を取り留めたエリート君、コイツには最終的な犯人の『代用品』だとか、あと普通にムカつくのでサンドバッグだとか、そういったものとして役立って頂かなくてはならない。


 それゆえ全力で治療させたのであるが、ルビアは既に酒を飲んだ状態で回復魔法を使っていたようで……というかもうベロベロではないか


 もちろんそのせいで少し失敗したらしい、怪我をしていた場所が過剰に回復、というか強化されていて、まるで鋼鉄のアーマーのような膝と肘が……あとデコも硬そうだ……



「えへへっ、ちょっと失敗しちゃいました、残念残念、えへへ~っ、お仕置きですか~っ?」


「当たり前だこのっ、お尻ペンペンを喰らえっ!」


「ひぃぃぃっ! きっくぅぅぅっ!」


「全くしょうがねぇ奴だな、他人が真面目に捜査をしているというのにこんな……」


「だって、言われていたよりもずっと酷い怪我だったんですもん、転んだだけなんて絶対に違いますよこの人」


「……そうなのか?」


「たぶん崖から落ちてますね~、でもなるべく致命傷を喰らわないように上手く落ちたみたいで、だからこのぐらいで済んだんです、普通ならグチャーンッてなってますよ~」


「ちょっと気になるわね、もしかしたら襲撃者はこのエリート君で……みたいなこともあるのかしら?」


「あぁ、ガチでコイツが犯人説が出てきたな……ベンチャーグループの2人、すまないがコイツは隔離しておく、犯人の可能性が浮上したからな」


「あ、どうぞどうぞ、貰っちゃってもどうぞ」

「殺して良いですよ普通に、その人、これで会社なくなったらただのムカつくガキですから」


「やっぱ嫌われてんな、相当にいけ好かない奴だったんだろうということは容易に想像が付くぞ……魔王、お前も気を付けろよ」


「……もう気を付けても変わらないわよ今更、面に出る機会もないし」


「それは残念だったわね、それで、あのエリートの人族はいつ目を覚ますのかしら? 拷問して情報を吐かせないと、犯人なんだから」



 既にエリート君が犯人であると決め付けてしまった俺達、そしてもう一方の事件ライン、つまり第二と第三の事件についてはモブB美さんということだから、これで2人の犯人が出たこととなる。


 あとはもう、この2人が他人のフリをして実は付き合っていただとか、犯罪仲間であって、共謀してベンチャーグループの会社を乗っ取ろうとしていたとか、そういった感じのストーリーを後付けしてしまおう。


 もっとも、モブB美さんが生きて発見され、拷問することに成功したり、エリート君がもっと詳細な、自分がベンチャーグループ関係の事件に関して単独犯であって、他の事件はまた別であると供述すれば話は別だが。


 で、しばらくは目を覚まさないであろうそのエリート君をずっと見ているわけにもいかず、この時間を利用してもう1人の怪しい奴、モブA子さんの部屋を覗いてみることとした……



「この人も部屋は2階なのね……っと、あったわ、食事のトレーが出したままになっているこの部屋に違いないわよ」


「待て……食器はもうカッピカピだかんな、つまり食事を出されてすぐに食べたってことだ、ちなみに中から物音は……しないな、このままノックしないで入ってみることとしよう」


「勇者様、それはさすがにアウトな行為なんじゃないでしょうか? 通報されても文句は言えませんよ」


「そうか、じゃあノックして、どうも勇者で~っす、生存確認に来ました~っ、開けますよ扉のカギぶっ壊して~っ」


『・・・・・・・・・・』


「……答えもしないようだな、てか中に誰か居るのか? お~いっ! 居ますかモブA子さーんっ!」


「ダメね、やっぱりもう強行突破しかないわよ、カギぐらいなら壊しても良いでしょ、ほらっ」



 ガンッと、一撃で部屋の扉のカギ、というかドアノブごと破壊してしまった精霊様、せっかくなのでその外れたドアノブの穴から、室内の様子を覗き込んでみる。


 中に人が居る様子はない、もちろんどこかにモブA子さんが居るはずなのだが……妙な臭いと、それから赤い水溜まりのようなものが部屋の中央に……それは血なのではなかろうか。


 それを見た瞬間、慌ててバンッと扉を開けてしまったことから、後ろに居た副魔王にぶつかって何やら後ろに飛ばされて……と、そんなことはもうどうでも良い。


 部屋の外に赤い液体が漏れていないというだけで、これまでの事件とほぼ同様の状態にある室内。

 床面積が広い部屋であったため、そして液体が染み込み易いカーペットを敷いてあったため、このような状態になったのか。


 いや、そのようなことはないであろう、中へ入ってみると確かにあったミンチ、いやそこまでではない、第一第二の事件と同程度の惨殺死体。


 その置き場所を見るに、どう考えてもそれら前の事件と同じ状況になっていなくてはならないところなのだ。

 つまり、この事件において初めて、犯人が何らかの方法で外へ血が漏れ、犯行が明るみに出ることを防止したということになるのだが……



「見て、タオルが死体の下に沢山あるわよ、間違いなくコレに吸わせて血が流れるのを隠したってことよね」


「そういうことか……しかしどうして? これまではモロにダラッダラの状態で立ち去っていただろうに、今回ばかりおかしいぞ」


「それは犯行を隠す時間があったのか、それとも今回だけ隠す必要があったのかってところ、どっちかよね」


「えっと、その前にこの、死体の方はモブA子さんで確定なんでしょうか? 顔がグッチャグチャにされていて判別のしようがありませんが」


「う~む、それも何だかわざとらしいな……だが服装で誰なのかわかるんじゃないのか? ちょっと副魔王……は飛ばされてどこかへ行ったのか……魔王、お前下行って女性グループの誰かを連れて来い」


「わ、わかったわ、すぐに行って来る……」


「お前、死体見てビビッてんじゃねぇよ魔王の癖に」


「うるさいわねっ! ちょっと今回のはグロすぎただけよっ! 誰だってそうでしょうに元々この世界の住人じゃなければっ!」


「まぁ、一理あるとは思うがそろそろ慣れろよ惨殺したいぐらいさ」



 この期に及んでキモい死体如きにビビる魔王は軟弱ものの馬鹿であろうが、まぁ、最初は俺もそうであったためこれ以上言及すると藪蛇になりそうだ。


 魔王を見送り、そのまましばらく待っていると、下からガヤガヤと声が聞こえたのとほぼ同時、リビーに居た女性グループが全員で事件現場へとやって来た。


 モブA子さんがこの部屋の中で死んでいて、そしてモブB美さんが既に死亡、または真犯人であって行方を眩ませているということを考えると、ここに集まって来ただけで女性グループは全員である。


 そして、もうひとつのグループであるベンチャーグループも、その人数が一気に減って3人となっていることを考えると、当初と比べて犯人の絞り込みも、また次に誰か殺された際のアリバイのチェックも非常に楽になったと言えよう。


 で、ひとまず大変気持ちの悪いものではあるが、どうか死体の方をチェックして欲しいと、そう依頼して全員を部屋の中へ入れてみる。


 途端にキモいだの何だのと、元々やかましかったのがさらにうるさくなったのだが……顔の潰れた死体を見て、そのうち1人が『モブA子さんで間違いない』と言い出した。


 同時に、他のグループ員も口々に、顔はわからないが髪型は合っているだとか、このような服を着ていたイメージがあるなどと、その死体がモブA子さんであるという主張をし出す。


 このぐらいであれば、もうこの死体の身元について確定してしまって良いであろうといったところか。

 まぁ、ここまで言われて違うということもないであろうし、そもそもここはモブA子さんが使っている部屋なのだ。


 問題はいつどうして、どこから入った犯人にこの人物が殺されたのかということなのであるが……それについては精霊様が何か疑問を感じているような感じである……



「……う~ん、この血の乾き方……これ、結構前に殺されているような気がするのよね」


「いや、しかしモブA子さんは外に置かれた食事を中で食べて、食器を外に出したんだろう? そのときまではまだ生きていたはずだぞ実際」


「そうなのよね、そうなると今日の夕方までは生きていて……その食事、誰か別の人が食べちゃったとかじゃないかしら?」


「あっ、となるとあの宿のジジィが食事をちょろまかして……」


「勇者様、さすがに宿のおじいさんがそれをするとは思えませんよ、それにほら、食器がここに置いてあるということは、事件現場まで片付けてしまうような方がそれをしたわけではないということを物語っていますよ」


「確かにな……まぁ、宿のジジィであれば特に美味い料理なんかもつまみ食いし放題なんだし、あえて客に出すモノに手を付けるようなことはないだろうな」


「でもそうなると誰がこんなことを……明らかに私の説明通りじゃなきゃおかしいのよ……」



 食事が運ばれて来た時点ではもうモブA子さんは死亡していた、そしてその食事は何者かがぺろりと平らげているという状況。


 つまり怪しいのは食事を運んだ何者かということになるし、その何者かは確かこの女性グループの中に居て……いや、誰も食事を運んだ記憶などないというのだが、では誰がどうやって……そうなると宿の従業員か。


 で、グループの中には1人、『モブA子さんの部屋へ声を掛けに行った』という者が居て、その者が『トレーが外に出ている』ということを確認したのであるが、そのときに返事がなかったというおkとは、室内は既にこの状態であった可能性が高い。


 そしてそこでは部屋を開けてみたりしていない、というかカギがないと開けることなど出来ないという状態であって、もちろんモブA子さんを殺害した犯人もそうしなくてはならないし、出る際には鍵を掛けなくてはならないということ。


 ちなみに窓の方もキッチリ閉まっていて、そこから脱出するのは困難だし、もちろん排気ダクトだの何だの、犯人が通りがちな場所についてはチェックし、誰も通っていないであろうと推定した。


 これはアレか、トリックを使った密室殺人ということになるのか、何者かがコッソリとモブA子さんを殺害し、現場を密室のまま残し、さらに運ばれて来た食事も当たり前のように食べたということだ。


 なかなかの芸当なのであるが、このようなことを目立たずにやってのけることが可能な人物となると……やはり、殺害されたことになっているモブB美さんであろうか……

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