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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1205 無能な働き者

「こっ、これはっ、この状況はっ……掃除が大変ですじゃぁぁぁっ!」


「いやそういうことなのかよ、モブB美とかいう人の死体がとんでもねぇ状態とかじゃなくて、そういう理由で吐いてんのかよ」


「てか掃除を大変にしているのは自分じゃないですか? 頭悪いんですかこの人族のおじいさんは?」


「そんなこと言っても、もう1回吐くと……うっ、オロロロロッ!」


「汚いですわねぇ、ちょっと向こうへ行って欲しいですのキモいから……で、この部屋の中には何がありますの?」


「たぶんもっと汚ったねぇ何かだ、ジジィのゲロなんか霞む程度の……挽肉だ……」



 部屋の中にあったのは、これまでのふたつ、『まるでミンチのようにされていた』というような状態であった部長と宿の従業員、それよりもさらに凄まじいものであった。


 そこから、それがグチャグチャにされた場所から血が流れているのはわかったのだが、その『挽肉』はもう完全に血抜きされ、しかもご丁寧に1ヵ所に固められて存在している。


 質量は人間、人族の少し小さめの者と同じぐらいであろうか、いや、ここまで丹念に人挽肉にしたことがないため、実際にはどうなのかわからない。


 とにかく何かが、この部屋で殺害されて挽肉にされた、原形を留めないどころの騒ぎではないような、何か別のモノにされてしまったのであろうということだけは、もう追加の調査をすることなく確定して良いであろう。


 ひとまず地面に広がった血とジジィのゲロ、それから挽肉の一部を絶対に踏まないよう、細心の注意を払いつつ部屋の中に入ってみる。


 これは女性グループのうちの1人、影の薄い『モブB美さん』なのであろうか、いや、状況からしたらそうでないとおかしいし、それ以外には考えられない。


 精霊様が見た限りではその『モブB美さん』らしき人物の怨霊だの何だのはもう存在しておらず、ここにはただただ挽肉が存在しているのみということなのだが……もう少し詳しく見てみる必要がありそうだな……



「どうだ? 何かわかりそうなことはあるか? もちろん気持ち悪いとかそういうこと以外で」


「う~ん、ちょっと、これはおかしいんじゃないかと……」


「何だよサリナ? ゴミ箱に何か物的証拠でも捨ててあったのか? だとしたら杜撰すぎんぞ今回の犯人は」


「いえ、証拠かどうかわからないんですが、この大量のパックを見て下さい、全部挽肉なんですよ、誰かがどこかで買って来たっぽいんですが」


「しかも全部半額かよ、だが元値でも安いなこのスーパー、王都の肉屋とかボッタクリなんじゃねぇの?」


「いえ、これちゃんとした肉じゃないと思います、普段は食べないような、捨てちゃう系のものなんじゃないかと」


「そうなのか……で、どうしてこんな所に挽肉の……パックだけ? 中身はどうしたって言うんだよ?」


「もしかしてなんですが……この挽肉の中身がここに積み上げられている挽肉の中身なんじゃないかと、そう思うんですよね」


「そうかっ! すぐにこの挽肉を鑑識に回してくれっ!」


「ないわよそんなもの、ここ陸の孤島になった山奥の温泉宿なのよ」


「そうだったな……」



 明らかに怪しい、原形を留めていない『モブB美さん』のご遺体と思われたもの、それがゴミ箱に大量に捨てられていた安い挽肉のパックのせいで、実に怪しい肉の山となった。


 この挽肉が『モブB美さん肉』なのかそれとも別の、どこかの町で売っている激安のクズ挽肉なのか、それを知る術は……まず人肉なのかどうかを調べる必要があるな。


 まぁ、パックを見た限りではこの中に入っていたのであろう挽肉も、目玉が飛び出るような安さなのであって、通常では考えられないものだ。


 もしかしたらこれも、どこかの人殺しが肉屋に転職して殺害したターゲットの肉を……ということを考えるのはやめておこう。


 また、この肉の山を調べるといってもどこからどう調べて良いのかわからないことから、結局のところなにもわからない、素人には厳しいという判断になりそうな予感である。


 こんなときに名探偵の類が来ていればどうであったか、この挽肉の山だの、床に広がった血液らしき液体だの、あとジジィのゲロはどうか知らないのだが、とにかくペロッとしただけでそれが何であるのかわかってしまったことであろう。


 そんな便利な能力を有しているのは、この世界においてもごく一部の名探偵だけなのであろうし……と、そうでもなさそうな反応を宿のジジィがしているではないか……



「うむうむ、本来はペロペロするだけでわかるようなことを、今この場ではわからない、謎のままにしておくという事態になってしまいましたですじゃ、惜しい者を亡くしましたですじゃ」


「……どういうことかしらじいさん? 誰かその、何と言うか、ペロッとするだけでモノを鑑定することが出来るキャラが死んでしまったの?」


「それは昨夜、いや今朝になるのか、とにかく死んでしまったウチの従業員ですじゃ、なんと元名探偵!」


「そんな重要キャラだったのかよアイツ!」


「待って、となるとどう考えてもそれで殺されたんじゃないの、今回のコレ、『モブB美さん殺害事件』の証拠調べ、というか鑑定をさせないために、予めそういうことが可能なキャラを消して……みたいな?」


「どう考えてもそれだろうな、従業員の殺害は今回の、この第三の事件の前フリだったんだ!」


「えっと、じゃあ最初の部長は……」


「アレはたぶん自殺ね、或いは事故よ、だって関係なさそうだもの今回の事件とは」


「えぇ……」



 この第三の事件、そして宿の従業員が殺されてしまった第二の事件、それがいきなり繋がった……ような気がしなくもないという状況。


 だが最初、まだ事件が発生する前に『犠牲者ムーブ』を見せたベンチャーグループの部長が、いきなり殺害されていた第一の事件との繋がりが見えなかった。


 それゆえその事件に関しては、もう事故か自殺か、その程度のものということで解決してしまう感じの流れとなった。


 もちろんパッと見は殺害されていたわけだし、どう考えても事故や自殺によっては、完全にグッチャグチャという、まぁあのような状況にはならないのであるが、それは考慮すべきでない。


 事件の解決において肝心なのは真実が何かではない、大勇者様たるこの俺様や、いずれ神になると豪語している精霊様がどのように思ったのかということなのだ。


 俺達が黒といえば黒だし、白と言えば白だし、ピンクと言えばピンクなのである。

 もちろん、明らかに見た目が違うものでも、例えばウ○コに対してこれは屁だと言えば屁になるのだ。


 世界に対してそのような強い影響力をもっているこの俺達が、今回の『部長殺し』については事件ではないと、そう断定したのだから、もし異論があってもそれにしたがって貰うこととしよう……



「よしっ、じゃあこれで第一の事件は解決、第二の事件は第三の事件とセットで、同じ犯人だと考えて行動するのが良いかもだ、もう一度この件についてのアリバイとか何とか、探偵っぽい証拠の類を集めようぜ」


「え~っと、まずは第三の事件が発生した時間帯なんだけど……今日のお昼前だったわよね?」


「そうそうっ、上から悲鳴とか聞こえたの、だから何かあったんだって私がわかったの!」


「うむ、マーサが音を聞いた時間こそが犯行時刻ジャストだな、それから2階へ行って……そこで犯人が逃走したんだったな」


「窓から逃げ出したのよね、姿は見えなかったけど、もし見えたとしても真っ黒な人影にしかならないだろうってことで諦めたの」


「ふむふむ、なるほど、そういう感じの時間経過だったんですわね、となると……あら、今日朝から今まで、ずっと『ベンチャーグループ』が見当たりませんことよ……」


「それなら朝っぱらから意識高そうに朝礼みたいなことやってたぜ、全く、年明け早々鬱陶しいモノ見せやがって」


「終わった後はランニングだか何だかって言っていたような気がするわね、本当に気持ち悪い」


「そんなことまでしに来てたのかよあいつ等……ちっとも慰安旅行じゃないな、研修だぞブラックな……」



 姿が見えないベンチャーグループは、部長が殺害されたというのに翌朝から普通に、何事もなかったかのように意識が高そうな動きを見せているところ。


 きっと今も可能な限り遠くまでランニングをしに行き、どこか高い場所で、この辺り一帯を見渡せるような、そんな『何かに打ち勝ったような気にり得る場所』に陣取って昼食を摂っていることであろう。


 そのような連中は放っておいて、こちらはこちらで事件の解決を進めることとしよう。

 もしかするとベンチャーグループの中から、一時的に離脱した感を出して犯行をしに戻って……はさすがに考えすぎか。


 きっと奴等はあまり関係い、部長殺しも事故か自殺であったのだから、これから先はもう、この宿と殺人鬼と、それからその殺人鬼を含む女性グループだけの話なのだ。


 ひとまずまだロビーに居るのであろうその女性グループらと話をするため、俺達もその場所へ向かって……うむ、先程と顔ぶれは変わっていないらしいな……



「どうもどうも勇者です、さっきね、あの、申し訳ないけど『モブB美さん』の部屋ね、ちょっと見せて貰ったんだけどね、死んでたねたぶんアレ、挽肉にされて、ご愁傷様です」


「そうなんだ、せっかくの旅行なのにかわいそう」


「でもあの子、最初から挽肉だった気もしなくもなくない? 生まれつきさ」


「いやいや生まれつき挽肉って一体どんな状況だよっ!」


「いえ、顔とか良く覚えていなくて、どうしてそう思ったのかまではちょっと」


「どういうことなんだよマジで……」



 ここにきてもまだおかしなことを言っている女性グループの面々、だがサリナがここに居るというのに、何も反応しないということハ、幻術の類がはつどうしているわけではないということ。


 つまりこの連中はナチュラルにそうである、『モブB美さん』の顔を覚えていないということであるのだが、それもどうかといったところだ。


 とにかくこの件は通常の連続殺人事件ではない、そう思うことにつき妥当だと考えているのは俺だけではないはずで、むしろ誰もがそう感じるべきところなのだが……詳細は未だにわからないままである。


 まぁ、これ以上のことは伝えるのをやめておこう、むしろ現場を見た俺達が、あの挽肉の山を『モブB美さん』の成れの果てだと思っているということをアピールしておきたいところなのだ。


 そうすればこの女性グループの中に居る犯人は、あのゴミ箱に捨ててあった挽肉のパックについてはバレていないと、この宿の元名探偵である従業員を始末したから大丈夫だと、そう考え続けることであろう。


 で、実は俺達があの肉はどこかの町のスーパーで買った激安の挽肉(半額品)だということを知らずにいると思い込んで……まぁ、普通であればそこまで馬鹿ではないとは思うが。


 ただ、スーパーの挽肉でブチ殺されてそのような状態になった人間を演出しようとしている辺り、犯人の方も相当な馬鹿であると考えるべきであって、おそらく俺達の作戦がバレることはないであろう。


 ということで女性グループには引き続きそこに居るようにとの要請をして、俺達の方はもう一度自分達の部屋に戻って、推理の方を継続することとした……



「それで、挽肉の方は良いけど、あの大量の血みないなのはどうなのかしらね?」


「わからんが、挽肉のドリップなんじゃねぇのかもしかして?」


「あり得ますね、結構、どころか凄くお安いものでしたから、品質なんかもそれなりなんじゃないかと」


「いいえ、あんな感じにはならないものかと思われますわよ、ちょっと何というか、血糊感が凄くて、しかもいように新鮮で生々しくて」


「う~む、肉は単なる挽肉で『代用』するにしても、あの大量の血についてそれだと説明が付かないか……やっぱペロペロして判断出来る奴が居ないとキツいんだな推理ってのは……」


「そうなのよね、一流の名探偵にもなると、アイマスクしまたたひと口ペロッとしただけで、その口に入ったモノが最高級品なのか激安の品なのか当ててくるみたいな、そんな話も聞いたことあるもの」


「さすがは一流だな……」



 その探偵の一流だの二流だのはどうでも良いのだが、とにかく今の俺達にはその血液らしいがそうでもないかも知れないし、もし室内に残された挽肉がフェイクであったとしたら、それがそこにあるのはおかしいという代物、それが何なのかを鑑定することなど出来ない。


 もちろん、アイテムなどについては俺が最初に女神から貰った能力というか何というかでどうにかなるのだが、こういったモノについては適用されないようで、それがまた推理を難しくしている。


 で、そんな感じで自室での話し合いをした俺達であったが、これまで起こったことの音だとか、匂いだとかの鑑定については付いて来ていたマーサに任せていたところだ。


 それを今度はチェンジして、肉に対して大変思い入れのあるカレンにしてみたらどうなるのかと、そんな話が出てきたのだ。


 確かに、完全な草食で肉を一切口にしないマーサよりも、キツめの肉食で肉ばかり口にしているカレンの方が、挽肉にしてもそこから滴る血らしきものにしても、それが一体何のものなのかを判別する能力に長けているのではなかろうか。


 カレン自身はその辺でコロコロしていて、今回の事件にはあまり興味がなさそうで、単に次の食事のメニューが何なのかだけを気にしている様子。


 だが特に事件の捜査に参加したくないというわけではないそうで、声を掛けてみると、暇であるからいってやっても良いというニュアンスの、実に上から目線の回答を頂くことが出来たのであった……



「うん、じゃあ次はカレンちゃんにあの室内の挽肉と、それからゴミ箱に捨ててあったパックの臭いを確かめて貰うってことね」


「わうっ、美味しそうなお肉なんですか?」


「いやぜんっぜんやべぇから、そこは期待しないでおいてくれ」


「食べられそうにないお肉なんですね……」



 カレンには申し訳ないのであるが、あの謎の挽肉がたとえ人間のもの、モブB美さんの成れの果てでなかったとしても、さすがに食べさせることなど出来ない。


 そもそもこの温泉宿が陸の孤島となり、買い物が出来なくなってからもう1日以上経過しているのだ。

 そしてあの捨てられていたパックには『半額』の文字……余裕で消費期限をブッチギリしているはずである。


 で、そんなことはどうでも良いとして、ひとまずカレンを伴って事件現場に……どういうわけか事件現場が見つからないではないか。


 確かにこの辺りの部屋であったはずだというのに、もしかして亜空間の迷宮にでも迷い込んでしまったのか、そうも思ったのだが、2階の廊下には普通に宿のジジィと何人かの従業員が居た……



「やれやれ、やっと事件現場の清掃が終わりましたじゃ、挽肉みたいなのも血糊みたいなのも、あとわしのゲロも綺麗サッパリ、アルコール消毒まで完璧にしたもんじゃから、もうあの部屋に入って何かキモい目に遭うことはありませんじゃよ」


「事件現場片付けてんじゃねぇぇぇっ! 保存しろボケがぁぁぁっ!」


「そっ、そんなっ!? 真面目に客室を清掃してお客様に怒鳴られる日がくるとはっ……これは、これは古の伝説、モンスタークレーマーですじゃぁぁぁっ!」


「ちげぇよボケ、至極真っ当な批判だよこのクソジジィが」


「クッ、どうしてわしがそのようなことを言われなくてはなりませんじゃ……こうなったら他の事件現場も全部綺麗にっ、殺人事件の痕跡などなかったかのような状態になるまで清掃しますじゃぁぁぁっ!」


「やめろぉぉぉっ! それだけはやめろぉぉぉっ!」


「終わったわね、推理も、証拠も全て終わったわ」


「ご主人様、お肉はどこですか?」


「・・・・・・・・・・」



 とんでもないことをしでかしてくれた温泉宿のジジィ、ブチ殺してやりたいところであるが、それをするとまた殺人事件の数がひとつ増えてしまうだけだ。


 仕方ないのでこれまでの証拠については全てを諦め、また最初から、振り出しから捜査を進めていくこととしよう。


 思えばあのジジィは、温泉宿のトップであるババァに代わって様々なことをしているのであるが……俺達がここに来てから、つまり今回の事件に関してやらかしたことはとんでもなく酷いことばかりである。


 まず探偵を注文したはずが童貞を、しかもとんでもなくキモいのを200匹も取り寄せ、ついでに全部死なせてしまうというあり得ないミス。


 さらに今回、せっかくの事件現場を丹念に清掃し、貴重な物的証拠である『挽肉』やその他のものを全て片付けてしまったのだ。


 もちろんのこと、片付けられ、ゴミとされた挽肉は、今はもう温泉宿の裏にある焼却炉で灰になって……まぁ、証拠として使うことはもう出来ないであろうな。


 というか、これはもうあのジジィが犯人ということで良いのではないか? 探偵の発注ミスで事件の捜査を妨害し、さらに証拠隠滅とも取れる行為をしているのだから。


 だが現時点でそう決め付けてしまうには惜しすぎるということも少しはあるな、せっかく何か事件の核心に迫ることが出来そうな、そんな予感がしてきていたのだ。


 証拠調べについては完全に失敗してしまったのであるが、それは様々な予想の裏付けに使うためのものであって、推理そのものでは決してないのである。


 となれば、俺の勇者様としての最大のメリットである、ゴリ押ししてしまえばそれが真実になり得るというところを利用しない手はないのではないか。


 最終的にはそれを用いて犯人を決め付けることとして、その前にもっともらしい、誰もがそうであると疑わないような結論を導き出すのだ。


 そうすれば犯人……として指し示されたキャラも、諦めて犯行を自供するなり、もし真犯人ではないとしたら、テンパッて何も出来なくなってしまうはずであるから……

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