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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1204 第三のそれ

「え~、では皆さん、本日と明日、頑張って生き抜いて下さい、ここで殺されてしまっては、今年の仕事に穴を空けてしまうという、そんな思いでですね、この慰安旅行殺人事件を乗り切っていくとともに、殺されてしまった『部長』については、とっとと新しい奴を見つけるのでもう忘れてやって下さい、以上!」


『うぇ~いっ!』


「見ろよ、新年早々ベンチャーグループが朝礼みたいなことやってんぞ、馬鹿なんじゃねぇのか?」


「そもそも慰安旅行のつもりだったのねあの連中、殺人事件があること、決まっていたようなものなのに」


「本当に馬鹿なのね人族ってのは、で、あれから誰も殺されていないのかしら? 昨日の夜だけで2人、今は……他のグループが特に反応していないってことは大丈夫ってことね」


「ウチも全員居たからな、まさか魔王が逃げ出そうとして被害に、みたいなことも覚悟していたが、大人しく二日酔いやってたぞ部屋で」



 1泊が終わって2日目の朝、最初に立て続いた『部長』と『宿の従業員』の殺害で事件が幕を開けたものの、その後は特に何か起こった様子はない。


 もちろんこの中に犯人が居ることは確定したようなものであるため、事件は現在進行形で起こっていると考えるのが妥当ではあるが。


 で、朝食はまた部屋まで運んでくれるとのことであったため、時間だけお願いしてそのまま部屋へと戻る。

 昨日厨房で殺人事件が起こったのであるが、そこでまた調理をするのであろうかという疑問についてはあえて触れないこととした。


 どのみち明日までの辛抱、あと1泊して、そしてその間に何人かがブチ殺されて、最後には犯人が発表されて今回の件は幕引きとなるのだ。


 そこまでの間にとやかく言っても何も変わらないし、今はもう、ひたすらに我慢するしかなくて……そうだ、犯人として確定した奴に、ここで俺達が受けた苦痛をそのまま、いや50倍程度にして味わわせてやることとしよう。


 そうでもしないとムカつきが収まらないし、もちろん別に犯人が居たとしても、探偵を準備し損ねた宿のジジィは同罪、同じ目に遭わせてやることも忘れてはならない。


 まぁ、このままいけば俺達、というか俺様の推理通り、あの辞世の句を発見した、そしてなぜか酒を飲まずにパーリィに参加し、当たり前のように『酔った感』を出していたエリート君で決まりだ。


 エリートだからといって調子に乗った言動を……普段からしていたのかどうかはわからないのだが、とにかく何となくムカつくため、奴が犯人であって欲しいと俺は思う。


 もし違ったとしても、例えば犯人であることが確定した者が女の子キャラであれば、奴に肩代わりさせて罪を償わせるという方法もある。


 犯行の動機などはあることないことでっち上げれば酔いのだから、まぁ、良く考えれば俺に関しては実質『犯人決め放題、犯罪の証拠捏造し放題』であると言って良いであろうな……



「それで、今日はどうするわけ勇者様? 温泉に入るのは当たり前だけど、それ以外にやることがまるでないわよ、交通も遮断されちゃってどこへも行けないみたいだし」


「いやいやどこでもってほどじゃないだろうに、少なくとも近くに何か観光名所があって、そこまでぐらいは通じているんじゃないのか普通に?」


「精霊様が確認してきたところによると、この温泉宿を囲むようにして巨大な落石とか何とかがグルッとあって、あと謎の魔力障壁とかも宿のすぐ近くまで迫っているみたい、もちろん精霊様にも破れないようなやつが」


「……むしろその状況で明日には帰れるようになるというのが信じられないんだが……大丈夫だよなマジで?」


「ちなみに宿の食糧は明日で全部尽きてしまうらしいの、非常食もないし、もちろんどこにも食べ物なんて売ってないんだって」


「毎回のように道路寸断して殺人事件起こってんだからさ、そういうとこちゃんとしとこうよ特に食糧とかさ」


「私に言われても困るわよねそんなこと……で、ホントにどうするのこれから?」


「う~む、少し皆で考えようか」



 一旦部屋に集合し、もちろん魔王も副魔王も交えての作戦会議となった俺達勇者パーティーご一行様方。

 ルビアやジェシカなどはもう朝風呂と称して温泉に漬かりながらの参加となっているので目の保養にもなる。


 で、観光が不可能な状況に陥っていると考えた場合、温泉に入る以外にやること、というか出来ることがひとつしかないということに気が付く。


 そう、それは今回の一連の事件を引き起こした犯人を捜し、崖に追い詰めて自白させ、さらに気持ち悪い顔面の野朗であればその場でボッコボコにして屈辱を味わわせるということだ。


 俺達は誰一人として探偵ではないわけであるから、正確な推理をやってのけるということはかなり難しい。

 だがその場合にはどうにかしてあのエリート君が犯人になるよう、ストーリーを組み立てれば良いだけである。


 そのようなことは非常に簡単であるから、ここはひとつ、ダメ元で推理の方を、本当の犯人を見つけ出すということをやってみようではないかと、そういうことに決まったのであった……



「よしっ、じゃあ探偵セットには着替え終わったな? マーサ、パイプの咥え方がアレだ、それじゃ普通に火種が落ちるんだぞポロッて」


「え? そうなんだ……でもこれってどういう意味があるわけ?」


「探偵セットのことか?」


「違う、この咥えるやつ」


「普通にパイプだ、臭いおっさんが臭い煙を吸ったり吐いたりして公害を撒き散らすためのものだ、税金の塊をその火皿に入れて燃やすからな」


「臭そうね、あ、もしかして人族の王様の口が臭いのはそのせいねっ」


「それもあるがアイツは生まれつきだろうよ、いかにも臭そうなんだあの馬鹿は」


「そうなんだ……それで、この格好については? この帽子とかちょっとお耳アレなんですけどマジで」


「我慢しろ、その何か微妙な色のチェック柄ってのが大事なんだよ探偵には、その模様かどうかだけで探偵としての格がかなり変わってくるみたいだからな、格闘技の黒帯みたいなものだそれは」


「へぇ~っ、勉強になるわねぇ」


「主殿、確実に適当なことを抜かしているであろう、違うか?」


「バレちゃぁ仕方ねぇな、おい、とりあえずロビーへ行ってみようぜ、何か手懸かりがあるに違いない」


「それと、殺害現場はどっちも押さえておきたいポイントよね、そういう場所に落ちているのがキーアイテムになって、裁判でも異議なしの強い証拠になるのよ」


「ねぇ、黒帯って何? ねぇってば!」



 適当なことを吹き込まれつつも、それについてさらに気になったようで質問してくるマーサをガン無視して、俺達はまず温泉宿のロビーへと向かった。


 そこには1人で部屋に居たくない、女性グループの全員……いや、あまり印象に残らなかった何人かが足りないようだが、とにかく集まって今回の事件について話をしていたところのようだ。


 で、俺達は部屋に残った、つまり今回の事件に関してあまり興味のない仲間や、そもそも部屋から出すべきではない魔王、副魔王などを除いて、皆でその集団の話に割って入る。


 特に嫌がるようなこともなく、普通に俺達を迎え入れた女性グループの面々であったが、どうやらそこに居ない数名については、『特に心当たりもないし大丈夫だから』と、自分が第三の犠牲者になる可能性を考えていない、呑気な考えによって自室に篭っているようだ。


 もちろん今日の昼食時には誰かが様子を見に行き、温泉に入りに行こうなどと誘ったりするのであろうが、そのときに何か起こっていなければ良いのだが……



「それで、その部屋に残った何人か……2人なのか、とにかくそいつ等はアレなのか、犯人の可能性は一切ないのか? そこが気になるんだが」


「そうですねぇ……モブA子先輩はまぁ、暗い性格なんでわからないっす、モブB美さんは、まぁ、顔はイマイチだけど犯人じゃないっぽいです、あと、恨まれるような感じじゃないですね、殺したいほどに恨まれるような……」


「なるほど、となるとそのまま残しておいても大丈夫か……と、何だマーサ、まだ耳がキツいか? 探偵の帽子だけLLサイズに交換するか?」


「違うの、何か2階? で変な音がしているみたいだから、ちょっと様子を見に行った方が良いわよって」


「2階から変な音が? 例えばどんな風に変なんだ?」


「えっとね、『やめてっ、殺さないでっ、キャーッ』みたいなのとか、『ひぎぃぃぃっ』って、いつもお仕置きされた誰かが上げているみたいな声とかよ」


「……いやそれヤバくねぇか?」


「2階の部屋? もしかしてモブB美さんの部屋じゃ? ちょっとマジで様子を見に行った方が良いかもっ」


「2階の……どの部屋なんだか、全然わからんからマーサ、とにかく音のする方へ案内しろっ」


「はーい」



 事件には特に興味などないのであるが、興味本位ということで付いて来ていたマーサが、2階で生じたのであろう、あきらかな事件の音を聞きつけたのだという。


 間違いなく女性グループのうちロビーに集まっていない2人、さらに言えばその中の『モブB美さん』という、顔も名前も印象に残らないどこかの誰かがブチ殺された音だ。


 女性グループのそこに居ないもう1人、モブA子先輩とやらがどこに居るのか、もしかしたらそいつが犯人なのではないかという感もあるのだが、とにかく今は現場の方を確認しに行きたい。


 マーサに先導されてモブB美さんの部屋らしき場所の前に立つ俺達と……その部屋のドアの、下にある隙間から流れ出る大量の赤い液体。


 これはもう、ここまでの2件と同じ結末が、ドアの向こうで待ち構えて居るに違いない。

 だが唯一これまでと異なるのは、この第三の事件が発生したばかりであるということだ。


 カレンは部屋でゴロゴロしていてここには居ないため、マーサが代表してその赤い液体が流れ出る部屋に繋がるドアに耳を当てて……中に誰か居て、動いているということを確認したのだが……



「……ダメ、窓から出ちゃった音だったみたい、ホントにちょっとの差だけど失敗だったわね」


「チッ、犯人を目撃するチャンスだったのによ、もう少し早く来ていればな」


「でも勇者様、チラッと目撃することが出来たとしても、きっと『真っ黒な人影』程度のビジュアルにしかならないわよ、目だけしかわからないと思うの」


「確かにそれもあるな……と、それはもうどうでも良い、ひとまずこの部屋の中を覗いてみようか、凄惨な光景が広がっているとは思うけどな」


「あ、勇者様、ちょっと思うんですが良いですか?」


「どうしたミラ?」


「あまりにもキモい可能性があるので、中を確認するのはお昼を済ませた後にしませんか?」


「……うむ、そうしよう、じゃあここの処理、いや処理はダメだな、見張りは……宿のジジィかババァに任せてしまおうか、そのぐらいの働きはして貰わないとだろうに奴等には」


「それが良いと思います、どうせ真っ黒な人影である犯人は逃げてしまったんだし」


「まぁ、そうであれば現場を見るのがいつになっても変わりはしないな、問題はないだろうよ」


「凄く問題だらけだと思うんだけど……まぁ良いわ、私も犯人見れないんなら全然興味ないし、お昼の後にしましょ」



 こうして事件現場らしい場所をガン無視した俺達は、一旦部屋へ戻り、だがまだ昼食には早いということで、またロビーへ向かって女性グループらに状況を説明する。


 そこでわかったのは、どうやらこのグループの中で今回の被害者らしい『モブB美さん』という人物は居ても居なくてもわからないような、だがグループの中に名前だけはあるという感じの希薄な存在らしいということ。


 俺達が事件現場に一旦足を運んで、自分達の部屋に立ち寄った後にロビーへ戻った、それだけの短い時間で、グループの誰もがその『モブB美さん』に関する一連の事件について、すっかり忘れていてそういえばそうであったなと、そんな感じであったためそのことがわかったのだが……さすがに影が薄すぎやしないか。


 通常、一緒に温泉旅行へ来ているぐらいの仲であれば、友人として、または先輩後輩などとしての一般的な付き合いがあり、その相手が何者かに殺害された可能性が極めて高いという状況においては、心配したりうろたえたりするのが普通の反応である。


 だが今回このグループにはそのような『当たり前の反応』をする者が見受けられない、これは明らかにおかしくはないであろうか、というか異常極まりない様子だ。


 特に、このグループには1年前の事件の真犯人が含まれているということで、他とは少し異なる性質を有しているのだから要注意である。


 しかし、その『モブB美さん』に関してはこのグループの誰かの犯行であると考えて……『部長』と『かわいそうな宿の従業員』についてはどう考えるべきなのであろうか。


 そこにもこのグループの中に居るはずの真犯人が、何らかのかたちで関与している、それは少し行き過ぎた予想のような、そんな気がしなくもないのである……



「じゃあ俺達は一旦戻るから、今ここに居る人達はこのまま集まっていてくれ、その方が安全だし、モブB美さんとやらの二の舞にならずに済むからな」


「モブB美さんって、今日来てたっけあの人?」

「いやてかそいつとか知らんし」

「ほらアレ、顔面がキモい……キモかったよね?」


「……ねぇ、この反応って何かおかしくないかしら? サリナちゃんに見て貰った方が良いと思うのよコレ」


「そのようだな、もしかしたら今回の事件には、いや今回の事件にも『魔導』だの何だのが関わっているのかも知れない……まぁ、その場合には純粋な推理とかもう無駄でしかないんだがな」


「あまりそうなって欲しいとは思わないけど、これ、『魔導オチ』で片付けるって方向性も……ナシだとは思うけど……」


「精霊様、これ以上そのオチに言及した場合はわかっているな?」


「えぇ、気を付けることにするわよ」



 ここまで引っ張っておいて魔導オチ、それは結末として絶対にやってはいけないことであるし、そうであった場合にはこの温泉旅行の件が単なるゴミネタの消化にすぎなかったことを露見させてしまう。


 そうなるわけには絶対にいかないため、ここは何としてでも、本当のガチで真犯人を、もちろん真っ黒な人影ではない状態で拘束する、或いは殺害しなくてはならない。


 なお、それがどうしても無理な場合には、何度も出てこてはいるが本人の影がイマイチ薄いエリート君を真犯人にでっち上げ……というところはもう説明不要のようだ。


 とにかく『魔導』以外で、この事件についてのおかしなこと、納得いかない点を解決して、どうにかまともな説明を付けなくてはならないのだが……最終的には至極いい加減なものになるであろうと予想しておく……



「まぁ、ひとまずサリナは呼んで来て、この女性グループの面々が何かやられていないかとか、それをチェックさせた方が良いのは事実だな」


「えぇ、幻術で認識の阻害をされているかも知れないし、もしそうだとしたらこの女性グループの中に犯人が居て、それがベンチャーグループとか従業員の殺害にも、もちろん何らかのかたちでこれまでにも関与していたってことの可能性が高まるような気がしなくもないのよ」


「そこまではどうかって話だがな……まぁ良いや、おいサリナ、そんな所で転がっていないでちょっと来てくれ、魔法とか魔導関連で確認して欲しいことがあるんだ」


「どうしましたか? あ、まさか今起こっているくだらない事件の関係とかですか?」


「くだらないとか言うなよ、人が死んでんだぞ」


「いつものことじゃないですかそんなの、むしろまだ3人とかしか死んでない気がするんですよね今回」


「確かにそうだが……と、そうじゃなくて、ちょっと一緒に来て欲しいんだよ、ほらっ」


「待って下さい、そういうのはお昼ご飯を食べてからにしましょう、もう宿のスタッフの人族に頼んで、料理を持って来てって言ってしまいましたから」


「……あぁ、まぁそうか、そうだよな、そもそも事件現場の確認も後回しにしたんだし、魔導判定なんぞその後のまた後だからな、よしっ、昼食にしようか」


『うぇ~いっ!』



 こうして何やら様子がおかしかった女性グループのことも、もちろん宿のジジィに見張らせている第三の事件現場と思しき部屋も無視して、俺達はまず昼食を摂ることとした。


 本当に違和感ばかりの事件、違和感ばかりの温泉宿とその客なのだが……それでも『魔導オチ』を回避することが方向性として決まった以上、そこに何らかのトリックが存在し、それによって誰かが事件を起こしているはずなのだ。


 昼食は非常に簡単なものであったため、食べ終わった俺達は嫌がるサリナを無理矢理引き摺って、それに付いて来たユリナも伴って、まずは第三の事件現場、『モブB美』と呼ばれる影の薄い、どころか何らかの影響で誰もがその存在を忘れかけているキャラの部屋へと向かう。


 見張りを任せていた温泉宿のジジィが、その場からキッチリ、1歩も動くことなく立っていたということを入念に確認した後、サッサと退けと命じて扉の前から排除する。


 相変わらず床には赤い液体が、まるで雨後の水溜りのように広がっていて、それが明らかに誰かの、もちろん本人は死亡しているのであろう何者かの血液であることがわかっているのだが、果たして中身は……



「誰かこの扉を開けて……いや、ちょっとキツいなさすがに、せっかく食べたばかりの昼食をリバースするような光景かも知れないからな、おいジジィ、すまないがもう一度働いてくれ」


「へいへい、扉を開ければ良いですじゃね? この、マスターキーがあれば女性の宿泊客の部屋などチョイチョイっと」


「その発言はやべぇと思うんだが……で、どうだ?」


「これは……オエェェェっ! オロロロロロッ!」



 部屋の扉を開けたジジィの目には何が映ったのか、そこに何があったのか、まぁ、だいたいは想像が付くのだが、きっと最悪の何かなのであろう……

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