1199 チャンスは
「全く、本気で不快かつ鬱陶しい奴等ばかりだなこの魔界ってのは、もう少しまともで有能で、倒し甲斐のある敵は居ないのかよ?」
「そういうのが居たら勇者様は普通に負けると思うわよ……」
「おいおい、さすがにそんな簡単に負けたりしねぇよ、なんてったって勇者様なんだからなこの俺様は、で、そのケツ穴の神ってのがこの神の屁を……てかさ、色々とおかしくないか?」
「何が? そのおかしな魔界の神様がこのガスのバケモノを放って、それでこのバケモノは神様の右腕と、それからその……あら?」
「そうなんだよ、コイツは神の右腕でかつケツ穴とか言っていただろう? じゃあケツ穴の神のケツ穴ということになって……ん? 汚い話はそろそろやめろってか、まぁしょうがねぇなもうすぐ食事時だし、この辺で良いにしておくこととしようか」
「えっ、メチャクチャ気になるのよちょっとその先……」
どうしてもケツ穴の話をしたいらしいセラは無視しておいて、とにかく新たな敵キャラが確定したということで、一旦休憩して食事とする。
ここまで誰も神の屁を嗅ぐことなく、ノーダメージで昼食を迎えることが出来たということは、捕獲作戦の完全な成功を意味していると言って良いであろう。
何だか違和感があったようなことに関しては、それよりも食事の方が遥かに大事であるということで考えるのを止め、ついでに不快要素のひとつでもあるゴミ堕天使を追い出して昼食の準備を始める。
神の屁についてはなるべく見えない場所へ、かつ氷の玉を破壊して逃げ出さないように監視が出来るという、絶妙な場所に安置しておいた。
俺達は見ていないのだが、そこは食事を摂らない、人間ではなく武器である残雪DXに見張らせておけば良い。
かなりのアホだが敵が逃げ出そうとしているか否かぐらいはわかるはずだし、もし逃げられれば自分がどんな罰を受けるのかということについても、きちんと理解するだけの能力は有しているはずだから……
「うむ、やはりこの魔界の人喰い鶏のぼんぢりはなかなか美味いな、あ、ケツ穴じゃなくて尻尾のとこの肉な」
「主殿、食事中にそういう話をするものではないぞ、少し弁えろ、いつも言っているようなことだがな」
「そんなこと言ってもしょうがないだろうよ、今回は敵が敵なんだから、そういう系の話になるのが必然であって、俺は一切悪くない、何か不都合があるとしたらそのケツ穴の神とかいう邪悪な存在がアウトなんだよ、わかるか?」
「まぁわからないでもないがな、しかし……どんな神が出てくるのかは気になるところだな、どういう攻撃をしてくるのか……は考えない方が良さそうだ、酷い想像しか出来ない……」
「搾り取るのが得意技なんだっけ? まぁ、いずれにせよろくなもんじゃないわね、見つけてもなるべく近付かないように、遠くから攻撃して殺さないと」
結局、食事中にも拘らず敵の話を、ケツ穴の神とかいう不快極まりない存在について言及しつつ、最後まで続けてしまったのは反省点なのかも知れない。
だがこれによって多少話は進み、次のターゲットはこのエリア全体ではなく、このエリアに居るのか居ないのか、それさえもわからないその魔界の神にすることとなった。
もちろん俺達の監視を始めている時点で、攻撃の意思があるということについて疑問はない。
あとは本体がどこに居て、何をしているのかというところから探っていく必要がありそうだ。
となるとさらなる情報が必要になってくるのであるが……その情報源として相応しいのは一体誰なのであろうかといったところ。
このエリアの守護堕天使であるゴミ野朗を使えば、もしかしたら何か調べてくれるかもという期待はある。
前に居たエリアには比較的言うことを聞いてくれる、一応は捕虜としている2人の堕天使が居る、あとは疫病をレジストする魔界の女神か。
それから魔界の中で繋がっているわけではないが、俺達が当初から関与している、この魔界侵攻の足掛かりを作る際にも協力させた魔界の神が居たな。
奴は神の中では相当に無能であって、領地を与えられているような連中とは一線を画す……もちろん下向きにだが、そんな程度の存在である。
だがその分だけフリーに動くことが出来るわけだし、結果として情報を美味く集めてくるかも知れない。
何よりも『一番どうなっても構わない』キャラであるから、やはり使うのはコレにした方が良いかも知れないな……
「……よしっ、一旦元のエリアどころか元の世界へ戻ろう、例の魔界の神と話して、というか命令して『ケツ穴の神』について調べさせるんだ」
「じゃあ勇者様、このエリアはどうするわけ? まだ攻めないってことかしら?」
「ひとまずこの大都市……まぁ、都市の中では小さいと言っていたか、ここを拠点にすることが出来たってところで、元々ちょっとだけのつもりだったにしては大成果だろう」
「それに、味方じゃないけどほら、あの守護堕天使を取り込んだわけだから、アイツをもっと脅してこの場所のキープをさせましょ、それからあのガスの奴も預けたりして」
「わかったわ、じゃあすぐにでもリターンして、それから王都に戻りましょ、ちょっとお土産も持って」
『うぇ~いっ!』
食事の片付けを終えたところで、帰らせていた馬鹿の守護堕天使をもう一度呼び出す。
すぐにやっては来るものの、着いて早々に何かと文句を言う、身分を弁えないリアルな馬鹿であった。
もちろん精霊様が前に出て、そのような態度だとすぐにでも処刑しなくてはならないと脅すと、ケツ穴の神でもないのにウ○コを漏らしそうになってビビリ倒す。
本当にこんなクズが守護堕天使なのかと、このエリアのボスである死神はどのような人事をしているのだと、そう疑問に思ってしまうのは仕方のないことであろうな。
で、そんなゴミ同然の馬鹿に対して、氷漬けの、本当にカッチカチに凍ったボール状のものを手渡し、俺達が元の世界に戻っている間中見張っているべきことを告げた。
もちろんそのままにしておいたら氷が溶け、中の風魔法で作った空気の檻も、魔力が揮発するなどしてすぐにダメになってしまう。
ということで必要になるのが、その内部のコアを守る、というか魔力を送り続ける強力な風魔法使いと、それから氷魔法使いなど。
それらは魔界人間のレベルを見る限り到底用意することが可能なものではなく、もし1人でも居たとしたら、それは堕天使にとっても脅威となり得る強キャラであって、その存在も有名になることであろうといったもの。
そのような奴の話はこのエリアにおいて、そして前のエリアでも聞いたことがない、魔界全体でもおそらくそうであろう。
こうなるともう、配下の堕天使の中から術者を用意するしかなくなるのだが……堕天使風情でそのような強者、果たして居るのかどうかといったところだ。
ちなみにであるが、これまではそのボール状のものが俺達の傍にあったため、セラや精霊様から自然に漏出している力で、十分にその形状を維持することが出来ていたものだ。
ではそのまま俺達が持っていれば良いのでは? などということをゴミ守護堕天使は言ってくるのだが、中に濃厚な神の屁(喋る、しかもウザい)を封じ込めたモノなど、持っていたくはないということをキッチリ理解していないらしい。
それを精霊様やユリナなどが丁寧に説明するが、自信がないというか、むしろ自分にその能力がないということを理解しているのであろう、馬鹿守護堕天使はなかなか首を縦に振らないのであった。
仕方ないので『攻撃する素振り』を見せたり、このような雑魚など一撃で葬り去ることが出来る力を無駄に披露したりして、脅迫紛いの方法でそれを受け入れさせる。
このデモンストレーションで庁舎の一部が破壊された、というかもう俺達がいる場所以外は瓦礫の山になってしまったため、それの修理に関しても戻るまでにやっておけと命じた……
「ぐぬぬぬっ、どうして俺がこんな目に……」
「最初から黙って引受ておけば、こういうことにはならかったと思うわよ、これからは私の命令があったら、何もいわずに従う姿勢を見せなさい、さもないと今度は腕をダブルで吹き飛ばすわよ」
「・・・・・・・・・・」
「さてと、厄介事も押し付けたわけですし、そろそろ戻りますの、えっと、こっちから隣のエリアへ行く際には、特に何かすることはなかったんでしたのね?」
「そうだったはず、あとあんた、次に私達が来るときにはあのボス、ティーチャーだか何だかとの戦いをカット出来るようにしておきなさい、もちろんちゃんと戦った風になるように調整してだけど」
「・・・・・・・・・・」
「黙ってちゃわかんないでしょっ!」
「……いや、そのだな、えっと」
「喋ってんじゃないわよっ! 黙って従えって言ったじゃないのっ!」
「えぇ……」
馬鹿に対する理不尽な叱責はともかくとして、これで帰還するための準備は整ったようだ。
あとは前のエリアで堕天使さんや堕天使ちゃんがしっかりやっているかを確認して、それから王都へ戻ることとしよう……
※※※
「……ということで俺達は一旦元の世界へ戻るから、お前等はキッチリとこのエリアの保守をして、あと堕天使(最下級)に頼りすぎることのないようにしておけ」
「えぇ、まぁ、はいそうします……」
「堕天使(最下級)あると便利なんだけどな実際……」
「おい駄天使ちゃん、マジでアレを使いすぎてみろ、このエリアがゴミだらけ、クソ野朗だらけになるんだぞ、どこかへ行ってしまったりしたら見つけ出して処分するのも面倒だからな」
「あ、それならちなみに……もう5匹ぐらい足りなくて……どこ行っちゃったのかな? クリーチャーに食べられたのかな? みたいな?」
「……皆はちょっと出発の準備をしておいてくれ、俺は堕天使ちゃんにお仕置きしてくる、来いっ、鞭打ち500回の刑だっ」
「ひっ、ひぃぃぃっ!」
仲間達には一応の準備をして貰い、それから俺は堕天使ちゃんに対する刑を執行しつつ、見届け人として隣に立たせた堕天使さんから、俺達が隣のエリアに行っていた間に関する報告を受ける。
まずは寄生虫関連についてなのだが、やはり対策が追いつかず、また徐々に被害が増え始めているらしいということだが、それはもう想定の範囲内だ。
だが大元となる何かは断ってあるような気がしているため、一時的にはこのようなかたちになっても、少しずつ対策が進み、だんだんと収束してくるのではないかと見ているということについて告げておく。
で、それ以外には特に変わったことはないということであったから、ここでちょうど終わった堕天使ちゃんのお仕置きを、最後に一発、オマケの一撃を加えるかたちで締め、二度と堕天使(最下級)をどこかへやってしまうことがないようにと、命じることもしておいた……
「いてて、これじゃあもうしばらく……ひぎぃぃぃっ、服が擦れるだけで痛いっ!」
「自業自得だろ、あ、ていうかアレだ、せっかく堕天使さんも堕天使ちゃんもいることだし、一応こっちのことも報告しておこう」
「えぇ、今度は何をやらかすつもりなのか、ちょっと気になるので聞いておこうと思います」
「言い方がアレだが……俺達さ、次はケツ穴の神だか何だかってのと戦うってのは言ったか? それに関する情報を集めたいから、もし良ければ、というか安全が確保出来そうならそっちでもちょっと調べておいてくれ」
「えぇ、まぁちょっと難しいかもですが立場的に……」
「それはわかっている、このエリアで今使っているのは女性キャラだけだからな、あまり無理をして危険な目に遭うのは避けるように、そういうのはアレだからな、その辺の死んでも惜しいと思わないようなゴミ野朗キャラにやらせるのが定石だかんな」
「わかりました、じゃあそれとなく疫病をレジストする女神様にも伝えておきます」
「頼んだ……っと、こっちの準備が終わったようだな、じゃあそういうことで、堕天使(最下級)だけは使いすぎんなよ~っ、と、あと残雪DXの保管も頼んだ」
『は~い』
こうして魔界第一のエリア、その最大の町を去った俺達は、用意されていた転移ゲートから元の世界、王都のボッタクリバーのとある部屋へと転移した。
ちょうど営業が始まっていた時間らしく、バーの事務所として使われている隣の部屋からは、支払が出来なさそうな客を詰める業務が行われている様子。
全てを搾り取られ、それで終わりになったはずの客であっても、あるときまたフラッと、ホームレス状態のまま店にやって来ることがあるらしい。
もちろん『入店』してしまえばそこでそれなりの料金が発生するわけであるから、それが支払えなければ、当然のように多額の借金を強いられることとなるのだ、ちなみに利息制限法などはガン無視である。
こんな場所でこんな犯罪紛いの、いや普通に犯罪である営業をすることが可能なのは俺達のおかげであるということを認識し、感謝して欲しいところなのだが……やはりというか何というか、普通に『転移ゲート使用料』を徴収されるようだ。
まぁ、どうせ全て国に払わせるのであって、俺達は一切負担していない王都民やその他の国内の連中が金を搾り取られるだけのことであって、そこまで痛いとは思えないのであるが……
「さてと、一旦屋敷へ戻って……そういえば今回は神界クリーチャーガチャの素材を持って来なかったな……勿体ないことをしたようなしていないようなって感じだな」
「もうそろそろクリーチャーガチャはいいにしますの、意味不明にエリナが召喚されてきた時点で、もしかしたら私達も同じような目に……なんてことが絶対にないとは限りませんのよ」
「なるほどな……そもそも俺だって女神の馬鹿がそれと同じ感じで召喚しやがってここに居るわけだし、もしかしたらそういうことがあって危険なのかも知れないな」
「まぁ、やるとしたらあっちのショボい方だけで、それで兵隊、というか使い捨ての駒を増やすことぐらいですかね」
「うむ、ではそっちはそんな感じということで……で、エリナ、屋敷へ帰ったら早速クリーチャーとしてではなくちょっと良い感じの悪魔さんとしてのお仕事だ、あの馬鹿な魔界の神を呼び出して、鼻の下を伸ばしているところをちょっと協力するよう仕向けてやってくれ」
「えぇ、まぁ結構キモいですけどそうします……」
ということで、寄り道などせずにまっすぐ屋敷へと向かった俺達、悪魔フェチであり、これまで遭遇した中で最もショボい魔界の神を呼び出し、今回の魔界での活動についてひと通りの報告をしておく。
ケツ穴の神についてはコイツも知っていたようで、なかなかの実力がどうのこうのと……口ぶりからして実際に会ったことはなさそうだな、単に知識としてだけその上位の神のことを知っているというモブキャラにすぎないのであろう。
本当に残念な奴だと思いながらも、何やら詳しそうではあるためそのまま話を聞くこととして、ひとまず座れと促し、長期戦の構えを取る。
出、そこから続いた話によると、どうやら本当にケツ穴の神はホネスケルトンとやらから信頼されている高位かつ有名な魔界の神であって、その実力は折り紙つきだという。
敵を『締め上げる』という点においては右に出るものがなく、また飛び道具の使い手としても魔界有数の力を持ち、『神の屁』だけを発する汚らしい馬鹿ではないとのことだ。
まぁ、その『飛び道具』とやらの中身については言及していないし、そもそもあまり言及すべきものではないとも思うのであるが……
「……で、今の俺達とそいつを比べてどうよ? 勝利可能性についてどう思うか、率直な意見を聞かせて欲しいんだが」
「そうだな……実力面では敗北することなどまずあり得ないであろうな、実力面ならば、の話ではあるがな……」
「というと? どういうことだ?」
「やはりそういう神である以上、特殊な攻撃が豊富で……その不潔さに耐えられるかどうか、そこが勝利のカギとなってくるであろうと分析しておく、以上だ」
「やっぱりそっちなのね、もうイヤよそんな敵ばっかりで……」
この世界の敵キャラ、特に強敵となればなるほどに、そのような感じの……トンデモな攻撃をしてくる奴が目立つという現状。
普通の奴、そのようなことをしなくても強いようなキャラが居ないのであろうかとも思うが、残念ながらそれに該当するのは俺達勇者パーティーや、あとは筋肉団などの特殊な連中のみ。
もう我慢して『そういうの』と戦わざるを得ないというのが、現状俺達がおかれている状況なのだ……
「え~っと、なにはともあれですね、私達はその、ちょっと口に出して良い難い魔界の神様と戦わなくちゃならないわけであって……何かないですかね?」
「何かとは一体?」
「弱点とか攻略法とか、こんな感じに戦うと凄く良いですよ、みたいなアドバイスですよ」
「そんなものがあれば誰もがその地位を狙い、誰かが下克上を果たしてその地位に成り代わっているところだ、甘えたことを抜かすんじゃないこの人族のガキめがっ!」
「えぇ、めっちゃ怒られたんですけど……勇者様……」
「ん? あぁ、殺して良いよこんな使えねぇ奴、前々からムカついていたんだがな、ここまで使えないとなると……何だよ?」
「……いや、可能性のひとつにすぎないのだがな、もしかするともしかして……新たな要素に可能性を見出すことが出来るやも知れないぞ」
「どういうことだ? ちょっと詳しく教えろっ」
「ろくでもない内容だったらガチで殺すわよ、良いわね?」
「まぁまぁ、この作戦は本当にもしかしてなんだが……」
魔界の神が語った『もしかすると』の作戦、それは俺達が散々苦しめられた、いや現時点でまだ苦しめれている敵を用いたものであった。
そんな作戦が果たして上手くいくのかどうかという点はさておき、やってみる価値がないとも言えない、そんな状況だ……




