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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1198 屁

「ギャァァァッ! つっ、潰れ……ぶちゅっ」

「ひょっ、ひょぉぉぉっ……お助けを……ぶちゅっ」


「雑魚キャラが潰れ出したな、カレン、マーサ、大丈夫か? 他の皆もどうだ?」


「い、今のところ皆無事ですけど……凄い圧力ですね……ガス状の何かはっ?」


「わかりませんっ、でも監視者が操っていた魔界人間は……今倒れましたっ! きっとこちらの攻撃に気付いたんでしょう」


「そうか、だがこれなら逃げられなくて……耳が痛いぞマジで……」



 邸宅の周囲に張った空気の壁、それをギュッと圧縮するような感じで、いつも風に乗ってどこかへ逃げてしまうガス状の何かを追い詰める作戦。


 もちろんあらゆる攻撃に耐性があり、防御力も核攻撃程度ではそよ風にしか感じない俺達でさえも、耳が痛いだとか何だとか、かなりの気圧上昇を感じている状況であるから、通常の強さしか有していないキャラはひとたまりもない。


 ブチュッと体が潰れて中身を噴出し、無様に死亡していくのが見て取れるのだが……そのようなゴミに構っているような暇はなく、今はターゲット、こんなことまでして閉じ込める対象である、ガス状の監視者を探すことに尽力しなくてはならないのだ。


 かなり厳しい状況の中で周囲を見渡し、強い力を放つ何かが存在していないかどうかを念入りにチェックしていく。


 建物の中、外、屋根の上だの庭木の陰だの、あらゆる場所に目を遣るのだが、姿は当然としてオーラを感じることさえも出来ない。


 敵である『神の屁』は単なる屁ではなく、神が放った屁が意思を持ち、力を持ったトンデモなモノだということがわかっているというのに、肝心のその力を感じ取ることが出来ないとは……いや、それが出来ている奴がここに居るようだ……



『居ましたね、建物内、先程までチューチューしていたクリーチャーが居た広い部屋、天井付近に居る……というかありますっ!』


「そうか、だが俺達には見えないからな、絶対に目を離さないようにしておいてくれ、武器に目があるんだったらな」


『実は私ですね、武器の状態ではこのスコープが、下等生物で言う目の役割をですね……っと、そんなガン見している必要はなくなったようです、ちなみに私はGUNです』


「つまらないダジャレは良いから状況を説明してちょうだい、どうしてGUN見……じゃなかったガン見していなくて良くなったわけ?」


『この状況ですからその……かなり圧縮されてきたみたいでして……ほらそこ』


「……ホントだ、何か茶色いモヤモヤが浮かんで……天井裏へ逃げるつもりのようだな、動ける奴は一緒に来てくれっ、奴を追うぞっ!」


「待って勇者様、どうやらその必要もないみたい……この建物が気密性とか高すぎて、天井裏へ逃げられないみたいだわ、全く隙間がないのよきっと」


「どんな建物なんだよ? だがまぁ、それはそれで助かるぜ、おいそこの何だ、臭そうな野朗!」



 残雪DXが言うように、確かに建物の中、外からでも見えている広い部屋の天井付近を彷徨う何やら茶色いモヤモヤ。


 これが何なのかと言われれば、もう状況からして『凄く濃くなった屁』であるとしか言いようがないのであるが、それは確かに意思を持っているかのような動きを見せている。


 相変わらずオーラだとか魔力だとか、そういったものは一切感じられないのであるが、確かにそれがそこに存在しているということだけは認めるような状況。


 どうせ他に生存者は居ないわけであって、邪魔などが入ることは考えにくいのであるから、ここは直接接近してコンタクトを取ってみよう。


 敵なのであろうそのモヤモヤは、こちらが近付いて行く姿勢を見せると、さらに動きを加速させて逃げ惑っているようにも見える。


 もちろんその間にも圧縮は進み、濃くなっていたそれはさらに濃密な状態となって……このままいくととんでもなく汚い汁のようなものになってしまいそうだな。


 というか、現時点でも屁にしては濃厚すぎて、もしアレを僅かにでも吸い込んでしまえば、きっと鼻が曲がって捥げて粉砕して、もう二度と良い匂いを嗅ぐことなど出来なくなってしまうであろう。


 それは『アンモニアの瓶ダイレクト吸い』などという甘っちょろい次元のものではなく、死者が出てもおかしくない、いや通常の人間であれば確実に死亡するのであろう、恐怖の臭いなのだ。


 もし敵がここから逃げ出すことなど出来ないと悟り、自暴自棄になって、そして突撃攻撃を仕掛けてきたとしたら、その際にはマジで要注意となる。


 可能な限り鼻や目などをガードして、その強烈すぎる『刺激』から弱い部分を守るという行動を取らなくてはならない……



「……クッ、どんどん気圧が高まってんな、セラ、どうにかならんのかこれ?」


「ちょっと待ってね、もうちょっとの辛抱で……うん、いくわよっ! それっ!」


「……なるほど、この圧縮された中でさらに圧縮空気の檻を作って、その中に濃密なガス状のコイツを閉じ込めたってことだな」


「そういうこと、だからもうこの周囲の圧縮は解除しても構わないはずよ」


「待って、念のため『空気漏れ』がないか確認して、ついでに私の水で周囲をコーティングしておくわ、あ、せっかく寒いんだからカッチカチに凍らせておくのも良いわね」


「うむ、その方が何となく『神の屁』も不活化しそうだからな、すぐにやってくれ」



 もう限界だという顔でこちらを見ている仲間達も居る中、精霊様はセラから受け取った風魔法製の圧縮空気の檻を、自ら発生させた水、というかそれを寒さでカチコチに凍らせたものでコーティングしていく。


 そのバスケットボールのようなサイズになった圧縮空気の……というか凍った玉の中心には、先程までよりもさらにさらに濃密になった、もう完全に茶色の何かが蠢いているのが確認出来た。


 ウネウネと、まるで出口を探そうとしているようにも見えるその茶色い何か、透明度の高い純粋な氷の玉という性質も相俟って、かなり幻想的な雰囲気を醸し出している。


 だが、その正体は誰かの、この魔界のどこかに居る神の屁であって、おそらくはとんでもなく臭くて汚いゴミのようなものなのだ。


 で、その見てくれはともかく、コイツは果たしてどのような奴なのか、喋ることが出来るのか出来ないのかなどを調査していかなくてはならない……



「……おいこの野郎、今まで散々俺達のことを監視しやがって、聞こえてんのかこの屁こき野郎!」


『……屁こき野郎ではない、屁である、失礼に値するので訂正せよ』


「喋った! てか失礼もクソもあるかこの野郎!」


『クソではない屁である、訂正せよ』


「ムカつく屁だな、てかさ、お前現状でもう逃げ出すことが出来ない、このままブチ殺されるのを待つだけだってこと、わかってんのか?」


『屁である、我は神の屁、我はどのような狭い隙間でさえも、たとえケツ穴のように普段は閉じられた穴であっても、必ず通り抜けて見せる者だ、ゆえに我は屁である』


「汚いわねぇ、でもあんた、通り抜け出来ていないじゃないの? さっきからそうだし、これだけ頑張ってダメならもうダメってことよ、後でその密閉空間に消臭スプレーを直入してあげるから覚悟しておきなさい」


『屁である、神の屁は死なず、ただ拡散して薄くなるのみ、たとえ美しい花から抽出したフローラルな香りで誤魔化そうとも、屁は確かにそこにある、確かに鼻腔へと侵入しているのだ、ゆえにわれは屁である』


「そう考えるとクソ最悪じゃねぇか……」


『クソではない、屁である……』



 ショッキングな事実を突き付けられてしまったのであるが、このままそんな話をしていても前へ進むとか、事件が解決するようなことはまずないであろう。


 というか、神の屁の臭っさい話に付き合わされていたら、このままずっと『屁トーク』を続けさせられ、屁に関する知識が凄まじいことになってしまうのではなかろうか。


 その分大事な何かをこれでもかというぐらい失うのであろうことは明白であって、こんな奴と話などしていないで、すぐに本題に移るべきだというのが、今俺が感じていることだ。


 そして何よりも、今日はまだ食事をしなくてはならないのに、そんな汚らしい話をしてしまいたくはない。

 ということで話題を切り替え、脅し用の消臭スプレー(ロングノズル付き)を用意して、神の屁から重要な情報を引き出すフェーズに移行する……



「オラァァァッ! 誰に頼まれて俺達のこと監視していやがったんだっ? あぁんっ?」

「というか、あなた一体どなたのオナラなのでしょうか? むしろそれがわかれば、といったところなのですが……」


『屁である、本当は美少女の屁が良かったところでもある、だが我は神の屁、神が寝起き一発でこいた、ひと晩熟成されて神の力を得た、ゆえに屁である』


「だから誰のっ、どこのどいつの屁なんだよって話だっ! お前が屁なのはもう知ってんのっ! 臭っせぇのも当たり前なのっ! 『屁のこき手』を言えってんだボケがっ!」


『こき手ではない、屁はケツから出るモノであって、手から出るなどと言う話は聞かない、屁である、それは貴様の勘違いでもある』


「クソだなお前、まともに質問にも答えられねぇのかこのクズは」


『クソではない、屁である、クズではない、屁である』


「・・・・・・・・・・」



 話にならない、というのはきっとこういう状況のことをいうのであろう、そんな感じである。

 とにかくこのまま押し問答を続けていても、まともな答えが返ってくる望みは薄そうだ。


 それゆえ、誰か有識者の意見を聞いて、場合によっては一部を取り出して分析するなどもしてみて、この屁が誰の屁なのかということを判定していく必要がある。


 そしてこの判定が上手くいけば、つまり屁からそれが誰のものなのかを判断する技術がこの世界において確立されれば、それはもう、『急に臭っせぇ』ときに無駄な犯人探しをすることなど必要なくなるのではなかろうか。


 これは社会におけるブレイクスルーとなり得る、誰が屁をこいたのか、実際には疑われていた奴と違うのではないのかなどが正確に判明するのであれば、それはかなりのお役立ち技術ということに……まぁ、それはどうでも良い。


 とにかくこの屁を有識者、というか知り合いにそんな奴が居るわけもないため、ひとまずあの馬鹿な守護堕天使の所へ持って行くこととしよう……



 ※※※



「馬鹿共がぁぁぁっ! んなもん持って来んじゃねぇぇぇっ!」


「何でキレてんのかしらコイツ?」


「さぁな? ウ○コ漏れそうなところに屁の話をされてさらにキタとかじゃねぇのか?」


「あら、気持ちの悪い堕天使ねぇ……」


「そうじゃねぇよっ! そうじゃねぇだろ普通⁉ あのなっ、お前等誰に監視されてんのかもわかってねぇってのに、その監視している奴をっ、監視者をこんな所まで持って来てどうするつもりだってんだよっ?」


「……あぁ、言われてみればそうねぇ」


「言われなくてもわかれやそんなもんよぉぉぉっ!」


「そんで、マジでどうしてキレてんのこの馬鹿は?」


「主殿、今の時点で理解出来ないようであればきっと説明を受けても無駄だと思うぞ」


「ふ~ん、じゃあ良いや、あんま興味ねぇし」


「良くねぇぇぇっ! 何かあったらどうしてくれんじゃぁぁぁっ!」



 意味不明にキレ散らかしているのは馬鹿の守護堕天使、アレか、弱い犬ほど何とやらということなのであろうか、それとも単に頭が悪いだけなのであろうか。


 とにかく、俺達がここへ『神の屁』を持って来たことに関して、自分が俺達に協力していることを神々に報せるようなもので云々、というのがこの馬鹿の主張らしい。


 意味がわからないしどうでも良いのだが、とにかくやかましいのでそろそろ黙って頂きたいところ。

 精霊様もそう思ったらしく、騒ぎ散らしているところに水を使った一撃を……モロに吸い込んでむせている、本当に哀れな奴だ……



「うぇっほ、うぇっ、おぇぇぇっ……ふぅっ……とにかくだ、そんなモノをこんな所へ持って来てどうするつもりなんだ?」


「いえちょっと、何というか話にならないから、あんたなら通訳出来るかと思って……ほら、あんた強さ的には屁みたいなものでしょ? だから同じかなって」


「んなわけねぇだろ誰が屁だ、俺はこれでもエリアの守護堕天使なんだ、神の放った者とはいえ、屁如きと一緒に……ふむ、どうやらこの屁、俺と同じぐらい強いようだな……」


「やっぱそうなんじゃないの……」



 ここまでしっかりと見てはこなかったのだが、そこそこの強さ、というかこの最上級の堕天使と同等の力を有しているらしい『神の屁』。


 これはむしろゴミ堕天使の方がクズであると表現すべきか、それともこの神の屁が本当に凄くて、屁なのに最上級堕天使並みの力を持つ逸材だと褒め称えるべきか。


 まぁ、いずれにしてもこの両者、俺達と比べたらもう足元にも及ばないどころかダニ以下の存在であって、もし全力で戦った際には……まぁ、神の屁に関してはやはり『臭い攻撃』で酷い目に遭いそうではあるが……



「それで、同じレベル同士なんだからちょっと上手く話をしてみてちょうだい、もしかしたら親友になれるかも知れないわよ、ほら、あんた友達とか居なさそうだしちょうど良いじゃないの」


「何を言うか、我とて友達ぐらい……うむ、アレは単なる配下であったか……アイツは友達とは呼べんな、となるとあの……いや、アイツも友達とは……」


「あんたの友達判定はどうでも良いから、早くその変なガスの奴と話をしなさいっ」


「ほう、イヤだと言ったら?」


「殺すわよ普通に」


「なるほどそういうことか、では対話を始めることとしよう」


「ちょっとかわいそうになってきたんですがこの堕天使の方……」



 精霊様に殺されてしまうことにビビッているらしいゴミ堕天使、もちろん本当に殺されるのかといえば、有用な情報源である限りそうではないのだが、それは単に『殺されはしない』というだけである。


 逆らえば普通にボコボコにされるし、半殺しどころか若干死んで、そこからルビアの回復魔法でどうにか蘇生させるという、ギリギリの綱渡りのようなことを複数回繰り返されるのはもう明白だ。


 それをこの無駄に察しの良い馬鹿はわかっているのであるから、下手に逆らったりはせず、かつ自分のプライドを傷付けないようなやり方で事を進めているのであろう、本当に哀れな奴である。


 で、そんなゴミ堕天使は氷の玉となったそのガス状のもの、神の屁を封じ込めているそれを手に取って……かなり冷たかったらしい、普通に置いて対話を始めた……



「おいっ、聞こえているのかこのクソ野朗!」


『クソではない、屁である、謝罪して訂正せよ』


「おぉそうか、クソなどというものではなく屁であったか、これは失礼した、謝罪して訂正すると共に、そちらの出自を聞いておこう、やはり対等な関係で話し合う以上、お互いのことを知らなくてはならないからな……ちなみに俺はこのエリアの守護堕天使だ、我が神、死神様がイマイチ低能なので俺がそこそこ頑張っている次第である」


『……そうか、我は神の屁、神から放たれし究極のアッツいガス、我を放ったのはケツ穴の神、不浄かつアレな感じのもの全てを統治する偉大なる神也』


「……ケツ穴の神か……これは、何というかその……かなりの者が出てきたようだな」


「どうしてそんな異常な神が『かなりの者』なわけ? 普通に雑魚なんじゃないのそんなの?」


「そう思っていられるうちが華だ、ケツ穴の神は強い、なんと言ってもホネスケルトン神の右腕とケツ穴を兼務していると言われるような、至極の1柱であるからな」


「ホネスケルトンのケツ穴って……異常なのはわかったわよ……」



 またわけのわからない奴が登場してしまったと、そう思わざるを得ないような名称の神であった。

 というか、魔界に来て以来そのようなモノばかりのような気もするし、そもそもこの世界全体を通して『そういうの』が多すぎると感じるのは俺だけなのであろうか。


 だが出現してしまったものは、そしてそのケツ穴の神が当たり前ではあるが屁をこいてしまったことについては仕方のないことだ。


 ケツ穴なのに屁をこくなというのも無理があるし、ケツ穴があれば屁をこいて当然という、絶対に曲げることの出来ない自然の摂理があるのだ、そう、この世界の美女や美少女を除いて……



「それで、そのケツ穴の神ってのはどんな強さなんだ? いつも通り汚ったねぇ奴なのか?」


「黙れこのチンパンジー野朗……と言いたいところであるが特別に答えてやる、ウキウキと狂喜乱舞するが良い、ケツ穴の神はな、全てを搾り取る、絞ることだけに特化して、それで強さを発揮している神なのだ」


「絞り取るのはウ○コだけにしておけよな……って言っといてくれ今度会ったらで良いから」


「貴様、冗談では済まされぬぞ、我が神、つまり死神様が『命を刈り取る』ということを是としているのに対して、ケツ穴の神は『命を搾り取る』ということを是としているのだ、その搾り取り力は神の力を持つ校門括約筋が……」


「汚い話はやめなさい、とにかく、そのわけのわからない神を倒さなくちゃなのね、まぁいつものことだけど」


「しかもその神がホネスケルトンの右のケツの穴だっけか? どんだけケツ穴あんだよそいつ? とにかくそういうことで、倒せば俺達の冒険も一歩前に進むってことだ、もう殺るしかねぇだろうよ」


『……屁である、そのような心構えでは、我を放ち、そして低俗な魔界人間を用いてまで監視をしていたケツ穴の神を出し抜くことは出来ぬ、その程度では屁も出ぬわ』


「黙れクソ野朗、お前如きもう必要さえないゴミなんだよ、良いから黙っておけこのクズが」


『屁である、クソではない、屁である、ゴミではない、屁である、クスでもない、屁であるっ!』



 いちいちやかましい屁のバケモノはそのうち着火して燃やしてしまおう、で、俺達の次のターゲットは、その屁をこいたというケツ穴の神に決まったのであった……

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